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第8回電撃short3

69白昼幻想3/3:2003/05/05(月) 17:36
 恐ろしい考えだった。戦慄すべきことだった。もしかして、今までの幻影もそうだったのだろうか? 私は娘と妻の区別もつかなくなるほど、耄碌してしまっていたのだろうか? だから娘は、しきりに自分と暮らさないかと誘ったのだろうか?
 自分の手を見た。にわかに震えている。だがすぐに決断しなくてはいけないことを、私は知っていた。そうしなければ自分は忘れてしまうかもしれない。分からなくなってしまうかもしれない。だから今すぐ、問い質さなければならない。
「なぁ」
「ん?」
「……俺は……ぼけてるのか?」
 娘の身体は、瞬間硬直した。それで十分だった。私は自分を、老人ホームに入れてほしいと切り出した。それが最良だろう。娘に迷惑をかけたくはない。
 それからの私の行動は早く、友人のツテで老人ホーム入りを強引に決めてしまった。娘は話し合うことを望んだが、それは無意味だろう。それもすぐに、私は忘れてしまうだろうから。
 老人ホームには、もう完全に呆けてしまった人物や、幼児化してしまった者もいた。自分はよかったと思う。自らの意思でここに来られたのだから。
 今は、この老人ホームで暮らし、時々は娘や孫も来てくれる。それは時として妻の姿をしていたが、ここにいるのなら、それもまた楽しかった。
 周囲には、私と同じ枯れた老人が溢れ、皆まるで赤ん坊のようだった。ここには暖かい静寂があり、穏やかな死がすぐ傍に横たわっている。この狭いベッドで、妻や娘や孫が見守る中、緩慢に死んでいけたら、幸せだと思う。


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