したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

第8回電撃short3

68白昼幻想2/3:2003/05/05(月) 17:35
 それを振り切ろうと悶々とするうち、深い眠りに落ちて行った。
 翌日起きると、もう日は高く昇っていた。珍しく寝過ごしたようだ。昨夜、妙な考えに捕らわれてしまったせいだろう。
 寝覚めにお茶を淹れようと台所に行くと、流しに誰かが立っていた。目を細めて見ると、それは妻だった。私はほっとした。
「……おはよう」
 妻は振り返ると、昔と同じに柔らかく微笑んだ。
「遅かったのね。ちょっと待ってて頂戴。お茶を淹れるから」
 しばらく、妻の背中を見詰めていた。間違いなく妻だった。よかった。妻はまだ、私の傍にいてくれる。
 テーブルの前に湯呑みが置かれ、それを手に取る。妻は流しに戻り料理を再開し、私はそれを静かに眺めつつ、お茶に口をつけた。
 唐突に、違和感を覚えた。
 おかしい。妻ならこんな温度にお茶を淹れるはずがない。これでは熱すぎる。妻はいつでも、最適な温度でお茶を淹れてくれた。
 訝しく思い湯飲みを覗き込み、眉を顰めて妻の背中に目を向けた。
「な……」
 愕然とした。奈落の底に叩き落されたようだった。
 そこに立っていたのは、娘だった。
「どうしたの、お父さん」
 振り返った娘に、私は答えることができなかった。何なんだこれは。娘を妻と見間違えるほどに、妻は私にとって大きな存在で、そこまで自分は、独りを寂しく思っていたのだろうか――いや違う。そうじゃない。そういうことではない。今、初めて実感した。
 自分は、ぼけているんじゃないのか?


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板