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第8回電撃short3

67白昼幻想1/3:2003/05/05(月) 17:35
 長年連れ添い、自分によく尽くしてくれた妻が死に、私は一人で暮らすようになった。
 一人で暮らすとは言っても、娘がしょっちゅうやってきて、色々と世話を焼いてくれたから、生活には何の問題もなかった。やってきた娘は、最近物忘れのひどい私を心配し、たびたび一緒に暮らすことを提案したが、断っていた。娘婿の存在が気になったからだ。別に彼を嫌っているわけではなかったが、この年になって、他人と暮らす気にはなれなかった。
 しかし妻の死は、予想以上に重く私にのしかかってきた。一人には慣れたが、ぼんやりすることが多くなったようだった。何やらやる気が起きず、いつでも体中を倦怠感が包んでいた。
 そんな中ある時、昼間、縁側で独りぼんやりしていると、妻の幻影を見た。
 妻の幻影はお茶を淹れ、笑い、自分の肩を叩いてくれた。孫が中学に入学するなどということも話してくれた。嬉しかった。私も妻を隣に寛ぎ、かつてのように会話を交わした。
 それからしばしば、妻の幻影は私の前に現れた。
 幸せだった。幻影でも何でも、今でも妻は、傍にいてくれる。今までと何も変わっていないように感じた。
 そんな、白昼夢のような、えらく現実感のある幻想の中、私は生きていた。
 しかし妻の幻影は、夜にはほとんど現れなかった。
 夜になると、私は一人だった。
 寝床で独りじっとしていると、耳の奥でキーンと音が鳴っているのが聞こえてきた。僅かでも動けば布団のざわめきが部屋中に響き、静寂は強調された。天井は高く、真っ暗だった。目を閉じれば闇は更に深まった。周囲に気配はなかった。
 ふいに、切なくなった。
 妻が本当は死んでいることを思い出したからだ。そして妻が自分の中でどれだけ大きな存在だったかを、改めて知った。寂しいと思った。夜に押し潰されてしまいそうだった。


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