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第8回電撃short3

282/3:2003/05/02(金) 20:28
 年の離れた弟を、僕は疎ましく思っていたかもしれない。跳ね回ったり喚くその姿を、
鬱陶しく思っていた。かといって小さな弟にそれをぶつける訳にも行かず、僕は鬱憤を
溜めていって、弟もそれを感じていたかもしれない。弟は僕を怖がっていたんじゃないか?
嫌っていたんじゃないのか?
 僕は溜め息をついた。せっかくの旅なのに、僕は弟の事ばかり考えている。
 その日のうちに広島まで来て、宮島まで足を伸ばした。当然、厳島神社に行くためだ。
 安芸の宮島は風光明媚なところだった。島全体が豊かな自然に覆われ、何か神秘的な力
が宿っているようだった。
 閉門される間際になって厳島神社に入ったのだけれど、海に浮かぶその神社は、見事と
しか言いようがなかった。海上の鳥居は傾きつつある日もあって、それは美しかった。
 それでも今の僕はそちらに緩慢な視線を投げるだけで、神社という生と死の境界を思わ
せる地に、更に弟を思い出している。
 賽銭を入れ鈴を鳴らし、目を閉じ手を合わせる。平日の夕方のここは静かで、耳を澄ま
すと平家の亡霊でも現れそうだった。
 海辺まで寄って、彼方を眺める。波音の中に、平曲が聞こえてきそうだ。あの世とこの
世の領域が曖昧になっているのかもしれない。
 このまま眺めていたら、幼い安徳帝が壇ノ浦から帰ってくるかもしれないと思った。何
も知らずに死んだ安徳帝。弟も何も知らなかった。突然死んだ。安徳帝と一緒に弟もやっ
てきて、僕を連れに来るだろうか?
「どうかしたんかいね?」
 突然の声に、僕は肩を震わせ振り返る。見ると、小柄な老人が立っていた。
「あんた、暗い顔しとるよ」
「え?」


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