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短編UP専用スレッド

1嵐</b><font color=#FF0000>(MOUSOU1Q)</font><b>:2002/08/14(水) 02:14
ここは本スレが落ちつくまでの*一時的な*避難スレッドです。

「有閑倶楽部」の二次創作作品(パロディ作品)のうち、短編ものは
ここに載せてください。作品UPを心からお待ちしています。
長編UP、作品への感想・小ネタ雑談は、別スレがありますので
そちらに書くようお願いします。

関連スレッド、関連サイト、お約束詳細などが>2-5のあたりに
まとめてありますので ご覧くださいませ。

127大使の策略1:2009/03/10(火) 08:29:51
規制に巻き込まれたみたいで書き込みできないのでこちらに短編うpします。

美童メインで微かに美×悠


特に意味はなく、暇だからたまには美童の家で呑み明かそう、ということになり、連中は集まっていた。
何てことない、いつもの談笑が続く。
「ホント食べてばかりだなぁ」
目の前で散々料理とお酒を平らげた後、さらにケーキにがっつく友人を見て美童は胸焼けしそうになった。
「まあまあ、食べることだけが生き甲斐なんですから」
清四郎の言葉は全然フォローになってない。
それに合わせて野梨子がクスクスと笑っている。
「あんたも恋愛でもすれば、ちょっとは色気付くんじゃない?」
可憐はやれやれといった感じで、悠理の食べ散らかしたお皿を片付けている。
魅録もいつもの呆れ顔で、頷きながら煙草に火を付ける。
「なんだよ!!ほっといてくれよ」
悠理がムスッとした顔で言った。
頬を膨らませてむくれる姿は、可愛いといえば可愛い。
子供の様な、小動物の様な、何故か憎めない魅力がある。
女としての魅力は全く持ち合わせてないが。


そんな時、急に玄関から話し声が聞こえた。
「急にしばらく休暇が取れることになってね。真理子さんの顔が見たくなって飛んで帰って来てしまったよ」
どうやら美童の父であるヴィヨン氏が帰って来た様だ。
「あら?今日は美童のお友だちが遊びに来てるのよ」
美童の母、真理子が答える。
「そうか。では挨拶しておこう」


「やあ、ゆっくりしていってくれ」
ニコニコと愛想の良いヴィヨンに友人たちは軽くお辞儀をし、挨拶を返した。
「お邪魔してます」
「こんばんは」
「夜分にお邪魔してしまい申し訳ありませんわ」
「お久しぶりです。おじさま」
「美童のとーちゃん、久しぶり〜」
全員の挨拶が終わると、ヴィヨンは女性陣をチラリと見回した後、息子である美童の方を振り返った。
「で、このうち誰が美童の彼女なんだい?」
ずっこけそうになった。
「全部違うよ。彼女たちはただの友達」
溜め息を衝きながら否定すると、ヴィヨンはそうかそうかと3人を口説き始めた。
「素敵なお嬢さん方、今度私と一緒に食事でもいかがかな?」
流石は美童の父親だとばかりに、清四郎と魅録は微笑ましくこの状況を見守っている。
満更でもなさそうな可憐と、返答に困っている野梨子。
そして食事という単語に反応して嬉しそうに行く行くとはしゃぎ出す悠理。

128大使の策略2:2009/03/10(火) 08:30:39
「ちょ、ちょっとパパ、僕の友達に手出すのやめてよ」
美童は慌てて止めようと試みる。
何しろヴィヨンは、息子のお見舞いに来ようとした彼女でさえも簡単に落としてしまったことがある。
後に事実を知った哀れな息子は数日ショックを受けていた。
食欲しかない悠理と、たとえ友人の父親といっても男と二人で食事なんて行きそうにない野梨子は別として…。
(この中で一番パパの毒牙に掛かりそうなのは…やはり可憐だ)
直ぐ様、結論に至った美童は、可憐に絶対駄目だと念を押した。
野梨子は思った通り丁寧に断りを入れていた。
悠理は食べ物に釣られた様だが、まあ間違いが起こるわけないので大丈夫だろう。
「わーい!!じゃあ明日の夜7時ね」
既に約束してしまった様だ。
「あら、あたしは駄目で悠理はいいわけ?」
不服そうにする可憐。
「可憐はムードに流されやすいだろ。パパとデートなんて冗談じゃないよ。その点、悠理は女じゃないから安心だよ」
「何だとぉっ!?あたいはちゃんと女だっ!!」
聞いてたのか…。
反論する悠理の隣でヴィヨンが言う。
「いかんねえ。女性にそんな事を言っては」
普段の悠理を知らないから、そんな事が言えるのだろう。
「パパ、悠理は体力馬鹿の食欲魔神だよ」
確かに…と同意する皆を他所にヴィヨンは続ける。
「元気でいいことじゃないか。世の中色々な女性が居るからねぇ。美人で明るくて素敵だと思うがね。どんな女性にも良い部分があるのだから、そこを見つけ出して褒めることこそがモテる男の醍醐味なんだからね。美童もまだまだだな。そんな事じゃ次のバレンタインも杏樹に負けちゃうぞ。まあ、一番数が多いのは私だけどね…」
嬉しそうに自信たっぷり演説をするのが聞こえていたのか、うんざりするマダム真理子の姿があった。
「悠理は男友達みたいなもんだよ」
美童の訴えにも、ヴィヨンには届かない。





「悠理は今日もおじさまと御一緒ですの?」
野梨子が言った。
ここ最近、悠理はめっきり倶楽部に顔を出さない。
それもこれも父が毎日の様に美味しい食事デートに誘っているからだ。
何も起きないことが分かっているとはいえ、軽い不安にかられて来る。
「もう、いい加減にして欲しいよ〜。ママも溜め息ばかり衝いてるし…。杏樹は気にしてないみたいだけど」
美童は机に突っ伏した。

129大使の策略3:2009/03/10(火) 08:31:24
(本当なら今頃デートの予定だったのに…)
流石の美童も、今はそんな心境になれない。
「でも、おじさまって素敵だものねえ。案外、悠理も禁断の恋に目覚めたりして…」
可憐も他人事だと思って無茶苦茶言ってくれる。
「ま、絶対ありえないだろうがな」
ハハッと笑いながら魅録が突っ込むと、それに清四郎も同意する。
「まあ、悠理ですからね」
有り得ないとは分かっていつつも、美童は憂鬱だった。
何しろ、あの悠理がラフな服装だと入れない店だからと言って、わざわざドレスなんか着てヴィヨンと会っているのだ。
それも、普段パーティーで着ている仮装ばりの派手なものではなく、上品でセンスの良いものを。
恐らく、ヴィヨンが悠理を丸め込んでプレゼントして着させているに違いない。
しかも、中身を知らなけれれば、整った顔立ちにスラリとしたモデルの様に長身でスレンダーな体型は、着飾ると結構いい女に見えないこともない。
それに、ヴィヨンはどんな女性でも大抵は口説き落としてしまう、息子たち以上のプレイボーイぶりだ。
それを証拠に美童が苦労して付き合う様になった彼女を、たったの一言で心変わりさせてしまった。
「そんなに心配ですの?」
苦悩する美童に、野梨子が少し困った様な表情を向けた。
「悠理のやつ、パパがプレゼントしたドレスとか大人しく着てるんだ。それに今までパパが本気出して落ちなかったコなんて見たことないし。自分の親と自分の友達が〜なんて筋書き僕だって嫌だよぉ!一回ご飯行くだけだと思ったら、もう今日で一週間連続だよ…。ママだって流石に疲れてるみたいだし、もし離婚なんて事になったら…」
溜め息ばかり衝く友人を見て、連中は顔を見合わせた。
やがて、清四郎が口を開く。
「仕方ありませんね。友人の家庭を壊すわけにもいきませんし。悠理とヴィヨン氏の仲が…というのは有り得ないと思いますが、念の為今晩あたり二人を待ち伏せて説得しましょう」





結局、みんな揃って後を付けることになった。
二人が店内に入って行くのを見届け、後に続こうとしたが、完全予約制とのことで諦め食事が終わるのを外で待つことにした。

130大使の策略4:2009/03/10(火) 08:32:01
ガラス張りのお洒落な店内は、遠目ではあるが、外からでも二人の様子が伺える。
顔ははっきりと見えないが、どうやら悠理はホワイトを基調としたドレスを着ている様だ。
髪はウイッグで、背中まで緩いカールが掛かっているせいか、いつものボーイッシュなイメージはまるで感じさせない。
「あれが…悠理ですか?」
「女は変わるってマジなんだなぁ」
「ま…まあ…、本物のレディに見えますわ」
「ホント…。こうして見ると別人みたいねえ」
驚きのあまり、皆の視線が悠理に向かって一直線になっている。
「感心してる場合じゃないよ!あぁ、パパったら悠理の頭撫でたりして何やってんのさ…」
(ママが本気で怒ったらどうするんだよ!!?僕だって身内の友人に手を出す様な節操無いことしたりしないぞ)
「あんのエロ親父〜っ!!!!」
これ程自分の父親と、グランマニエ家に流れるプレイボーイの血を喜びこそすれ呪ったことはない、と拳を握り締めた。
そして、もう我慢出来ないとばかりに美童は一人で店内へ踏み込んだ。


「すみませんが、当店は完全予約制でして―――」
「父と友人がこちらで食事中なのですが、急用で携帯も繋がらないので少しだけいいですか?」
店員が女性だったので、持ち前の美貌と得意の笑顔であっさりと中に入ることが出来た。
二人が居る席に向かって歩いて行くと、向こうも気付いたらしく、こちらを振り返る。
先に一声を発したのは悠理だった。
「あれっ?美童こんなとこで何してんの?もしかしてデートか!?ここの飯って美味いんだよな。おまえのとーちゃん美味い店いっぱい知ってんだよなあ。あたいここ気に入っちゃった」
嬉しそうに料理が運ばれて来るのを待っている。
「それは奇遇だ。良かったらダブルデートでもどうだね?」
ヴィヨンは悪びれもせずにさらりと言ってのける。
(全く人の気も知らないで…)
「それどころじゃないよっ!!パパが久しぶりの休暇に悠理とばっか遊んでるからママ本気で頭抱えてるよ。悠理も悠理だよ。大体、悠理ん家ならいつだってこんな店くらい連れて来て貰えるだろ!?なんでわざわざ僕のパパとデートなんかしてるんだよ!!?そんなガラでもないドレスなんか着ちゃってさぁ!!!」

131大使の策略5:2009/03/10(火) 08:32:35
美童は一気に捲し立てた。
が、ヴィヨンは全く動じない。
「これは私がプレゼントしたんだが…。どうだい?彼女とても綺麗だろう?」
今はそれどころじゃ…と思いつつ、悠理に視線を移した。
ここ最近、毎日の様にこういったドレス姿の彼女を見ることはあったが、間近で目にするのは初めてだった。
あれだけ日に当たって走り回っているのに、日焼けすらしていない健康的な白い肌。
切れ長の瞳に長い睫毛。
うっすら化粧が施されている。
甘過ぎずセクシー過ぎずの膝丈までの白いドレスは、中性的な美貌の彼女にとても似合う。
ウイッグによるロングヘアーも普段は見ることのない、女性らしさをかもし出している。
不覚にも見とれそうになった。
(いやいや、中身は悠理だ)
美童は気を取り直した。
父親であるヴィヨンには何を言っても無駄だと思ったので、悠理を説得することにする。
「悠理、食事なら僕がいくらでも付き合うから」
「ん〜、そうは言ってもなぁ、おっちゃんと約束しちゃったし、ご馳走まだ食ってないしなぁ。服も色々買って貰っちゃったし…」
悠理はどうしていいか分からず困っている。
そこにヴィヨンも割り込んでくる。
「そうだ。今日は彼女は私とデートしてるんだから」
「な、何言ってんのさ!?パパにはママが居るだろぉ!!」
「おまえだって人妻と付き合っているだろう」
(ぐっ…)
痛い所を突いてくる。
「と…とにかく悠理は僕の友達でパパの彼女たちと違っうんだから…」
「ほう、だったらママに伝えておいてくれ。前におまえが言っていただろう。彼女は女性ではなく同性の友人と何ら変わりないと。だから、私も可愛い息子の友人と男同士の付き合いをしているだけなので、安心してくれ―――とね」
(そんなこと言っても通用するわけないじゃないか。悠理を知りつくしてる僕等とはわけが違うんだ)
「パパ、確かに悠理はガサツだし口は悪いし喧嘩っ早いし力は強いし食べることばっかり考えてるけど、それでも一応は女の子なんだ。ママが怒るのも無理ないよ。それに…」
「それに何だい?」

132大使の策略6:2009/03/10(火) 08:33:18
美童は一瞬、言おうとしたことを呑み込んだ。
が、躊躇いながらも再び口を開く。
「本当は友達思いで優しいし、めちゃめちゃ強いくせにすぐ泣くし、無邪気で可愛いとこもあるし…こんな格好してると思わず見とれそうになっちゃったし…」
段々口ごもって来るのが分かる。
ヴィヨンは美童に目を合わせると、しばらくの沈黙の後に微笑を浮かべ、ゆっくり席を立った。
「そうか―――。だったら代わりにおまえが彼女をエスコートしてあげなさい。私は帰って真理子さんのご機嫌を伺うとしよう」
「………え?」
さっきとは打って変わった父親の態度に美童は首をかしげる。
「いや…ね、おまえが彼女のことを女じゃないだの食欲しかないだの、女性に対して失礼なことばかり言うもんだからね。ちょっと久しぶりに説教してやりたくなったんだよ。だが、これでおまえも彼女が女性だということに気付いただろう。私は女性を女性とも思わない馬鹿息子を育てたつもりはないからね」
ヴィヨンは咳払いをすると、この場を立ち去ろうとした。
「あぁ、真理子さんのことだが―――、この一連の事情は最初から話してあるので心配はいらんよ。呆れてうんざりしてはいたがね。」
そう言い残すと、外に向かって歩き出した。
填められた…。
美童は唖然としながらも、空いた席に腰を下ろした。


「おや?君たちも一緒だったのかね?」
外に出ると、息子の友人たちが揃っていることに気付いた。
戸惑いながら、彼等はペコリと軽く御辞儀をする。
「あの二人はもう少し掛かりそうなんでな。タクシーを呼んでいるので、君たちも途中まで一緒に乗って行けばいい」
詳しい経緯は分からないが、皆はその好意に甘えることにした。
やがて、ポツリと言った。
「私と妻は元々友人でね、あまりに長いこと友人だったせいか、まさか彼女と結婚することになるとは昔は思ってなかった。運命の相手というのはいつ何処で出逢うのか分からない。出逢えないかも知れないし、既に出逢っているかのも知れない」
皆はただ、黙って耳を傾ける。

133大使の策略7:2009/03/10(火) 08:33:59
「しかし、あーだこーだと理由を付けて自ら視野を狭めてしまっては、せっかく出逢えたとしても、それに気付かず一生を終えてしまう。息子には心から愛せる女性と幸せになって欲しい。その相手が誰だかは分からないが、自分で幸せになる為の確率を下げてしまってはどうしようもない。私は―――真理子さんと出逢えてとても幸せだからね」
端から聞けば、歯の浮くような台紙に、思わず涙してしていたのは勿論可憐だった。
「おじさまは、やっぱり素敵だわ…。ああ、あたしも運命の恋がしたい…」


「パパとどんなこと喋ってたのさ?」
並べられた料理にせっせと手を付ける友人に言った。
「ん〜?どんなことって言ってもなぁ、最初におまえのことどう思うって聞かれて…」
(僕のこと?)
嫌な予感がする。
「で、悠理は何て?」
「えっと…女ったらしでナルシストで何かあったらすぐビービー泣き付いて来るし腕っぷしは弱いし…」
(一個も褒めてないじゃないか)
「でも、何だかんだいって優しいし、女にはマメだしテニスんときとか本気出したらすげーかっこいいし…後何だっけ?」
「…………」
「ん?あたい顔に何か付いてるか?」
マジマジ顔を見ていた様だ。
ハッと我に返る。
「え…、うん。食べかす付いてるよ…」
手元にあったおしぼりで拭いてやった。
どうかしている。
着飾っているとはいえ、悠理の中身までが一瞬、可愛いなんて思ってしまったことに。





翌日、いつもの様に生徒会室で連中は集まっていた。
全員揃うのは一週間ぶりだ。
バクバクとお菓子に貪りつく姿をチラッと見やる。
(―――やっぱり気のせいだよな)
自分の分だけではあきたらず、可憐のお菓子までに手を付けようとして、ピシャリと手を弾かれ、魅録に俺の分をやるからと呆れられながらパクつく姿は飼い慣らされた珍獣にしか見えない。
そんなことより、ここしばらくおざなりになっていた彼女たちにメールしておかなければと、携帯を手にとる。
その時、野梨子が言った。
「それにしても昨日の悠理のドレス姿には驚きましたわ。遠目でしたから、はっきりとは見えませんでしたけど…」
隣に居る清四郎も、うんうんと頷きながら続ける。
「まあ、顔は美人ですからね。外見だけならかなりいい線行くと思いますよ」
魅録は悠理の顔を見て呟く。

134大使の策略8:2009/03/10(火) 08:34:59
「まさかこいつがなぁ〜、う〜ん…」
信じられないものを見たかの様に、昨夜の記憶と見比べている。
可憐がこっちを振り向いた。
「そうだっ!!あんた間近で見たんでしょ!?写メとか撮ってないの!!?」
「そんなのないよ〜。悠理の写メなんか撮ってどうするんだよ?」
「あら?あんたのことだから、見直したよ、悠理。今日の君は目が眩む程の美しさだね…とか寒いこと言ったんじゃないの?」
それを聞いていた悠理が、気持ち悪いこと言うなとむせて咳き込みながら可憐を睨んだ。
他の皆も爆笑している。
美童は慌てて反論した。
「い、言うわけないだろぉ〜!!なんで僕が悠理なんかに…」
その瞬間、昨日の出来事がフラッシュバックした。
美しく着飾った彼女が、自分のことを語る。
自分でも忘れていた、自分のことを、そこが良い所だと、見つけ出してくれる彼女。
(参ったなあ…)


―――そして、恋人たちへのメールは送信されないまま、美童は携帯を閉じた。





END

135有閑名無しさん:2009/07/10(金) 18:23:08
美童×野梨子に急激に嵌ってしまいました。
設定やら細かいことは何もないワンシーンですがこっそりうpします。

136138(1/3)美童×野梨子:2009/07/10(金) 18:24:10


初夏の日差しが折り重なった木々から木漏れ出る。
昼下がりのオープンカフェは人もまばらで、静かな時間がゆっくりと流れていた。
不意に頬を撫ぜる爽やかな風が、向かい合う美童の髪を揺らす。
奇麗な色だと思う。自分とはまるで違う金色の髪。
彼もきっとその美しさを知っている。だから切ることはないのだろう。

「何?」
急に俯いて微笑んだ野梨子の顔を覗き込むように、美童が頬杖ついて首をかしげた。
「……いいえ。ちょっと思い出し笑い」

美童との時間はこんなティータイムによく似ている。
静かで、暖かで、穏やかな時間。
この世に何も悩むことなんてないんじゃないかとさえ思わせるほどだった。
仲間たちとのハラハラするような時間もとてもスリリングで楽しかったけれど、
やはり自分にはこの方が合っている。
年老いても、こうしてみんなで静かにお茶を楽しむような日々が訪れたらいいと、
そう思うのは野梨子の願いだったけれど、
美童はまるで自然にいつでもその時間を与えてくれる。

「えー…ヤダな。何? 何を思い出したんだよぅ…」
二人の、いや仲間たちとの思い出の中には、彼にとっては情けない部分も多い。
野梨子の笑みに嘲りを感じたのだろうか。美童は子供のように口を尖らせた。
「ふふっ。そんな心配するようなことじゃありませんのよ。たとえば───」
美童がナルシスティックな恋をしたこと、光源氏を夢見たこと、
裸同然の格好で雪山を逃げ回ったこと、お化けに怯えて腰を抜かしたこと……
野梨子が淡々と続けていくごとに、美童は見えないハンマーで押しつぶされたように
頭を垂れていった。

「───なんてことは思い出して笑っていませんから、ご心配なく」
「…全部覚えているし…」

湯気のおさまったティーカップ。水面を縁取る金色の輪に目を落として、
野梨子はにっこり微笑んだ。
「えぇ何ひとつ忘れませんことよ。全て大切な思い出ですもの」

137137(2/3)美童×野梨子:2009/07/10(金) 18:25:29

「記憶力がいいのも考えものだね」
「あらどうして?」
「……僕の情けない姿も、ちゃんと記憶しているんだから」
少しは忘れてくれてもいいのに。いや忘れたふりぐらいしてくれてもいい。

「おかしなことを言うのね、美童」
また笑っている。野梨子のくすくす笑いにむっと唇を尖らせた。
「どんな姿でも、大切な思い出ですのよ。それに…思い出は現在に繋がっているんですもの」
ただひとつでも消せない。消したくはない。
今、ここにこうして二人でいる。その過程はどの瞬間でさえ無駄なものがなかった。
「野梨子…」
やっと意味が分かって美童はまた優美に頬杖をつく。
立ち直りが早いところも、野梨子が気に入っている彼の性格のひとつだ。

「本当に全部覚えている?」
「えぇ」
「じゃあ…昨夜のことも?」
ティーカップに口をつけた野梨子の手がぴくりと止まる。
形勢逆転かな?と、美童の足が楽しげにテーブルの下で上下に揺れた。

「……137…」
「うん?」

聞き返しても、野梨子は再び謎の数字を告げただけだった。
昨夜のデートは…
待ち合わせに少しばかり遅れたのは美童の方だったけれど、まさか137分も遅れちゃいない。
秒に直したら2分ちょっと?だったのだろうか。
かねてから気になっていた映画を観た。137分?確かに2時間ちょっとの映画だった。
いくつか思いつくままに美童が答えを出しても、野梨子は首を横に振るだけ。

「私たちしか分からない数ですのよ」
二人のデートの数……にしては、数が多過ぎる。美童は腕を組んで考え込んだ。
それにしても中途半端な数だ。
しばらくは難解なクイズに考えこむ恋人を眺めていた野梨子も、
傾き出した陽の光に気付いてカップを置いた。

「ヒントを間違えましたわ。美童が答えられないのなら、私しか知らない数でしたわ」
「うーん…降参。137って何のこと?」
椅子の背が引かれ野梨子はすっくと立ち上がる。
「私だけの、思い出の数字。ですから内緒ですわ」

138137(3/3)美童×野梨子:2009/07/10(金) 18:26:07



食事を終えた帰り道、野梨子の家の前に車を止める。
辺りはまだ薄紫に夕暮れの色を残していて、もう随分と夏が近いことがわかった。

「とても楽しかったです。ありがとう、美童」
いくらデートを重ねても、きちんと礼を言うこの距離は変わらない。
「いいえ、どういたしまして。お姫様」
軽口ではない、本当に美童は野梨子をお姫様のように扱っている。
互いに成年となった今でも、同じ夜を過ごしたことはなかった。
それでも、顔を上げた野梨子がじっと見上げているのは、恋人である僅かな証。

「……」
こうして、別れ際に口づけを交わすのもだいぶ慣れてくれた。
美童にとっては挨拶とも変わらないキスだと、
彼の文化を受け入れる…ぐらいのつもりかもしれない。
確かに重ね合う程度の軽いキスでしかないけれど、夕暮れの路上で野梨子が許してくれる
限界だろうと美童は推し量っていた。

千のキスをプレゼントしたい───それが美童の口説き文句だった。
それでもこの恋が連鎖しないのならば、諦めてもいいと美童は言った。
野梨子は驚いてはいたけれど、拒絶することはなかった。
それがたとえ、彼女が何よりも大事にしている”友情”という形だったとしても、
受け入れてくれた時の微笑みが今も忘れられない。

「……」

離れた野梨子の唇が、声を出すことなく僅かに動いた。
138…。そう囁いた、気がした。
「それじゃあまた」
「あ……。待って、野梨子」
きょとんと見上げた瞳は日本人形のようにあどけないのに、
その唇はもう年相応に、女の魔力を秘めている。

「……キリが悪いから、あと2回してもいい?」
ピンポーンと正解を知らせるように野梨子の人差し指が上がる。
千回にはまだまだ遠い道のりだけれど、二人は140回目のキスをした。

END

139Knight (1/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:18:50

開催終了間際の美術館は平日だったせいか思いの外空いていた。
何百もの時を経て、大事に守られてきた絵画が並ぶ。
薄明かりの中でも画家のタッチまでも伝わる名作でさえ、今の美童には上の空だ。
真剣な面持ちでひとつひとつを眺めていく野梨子の表情ばかりにみとれて、
一枚で千の物語を語る名画さえ頭に入ってこない。

「ん?」

毛足の長い絨毯を進んでいた野梨子の足が止まる。
知的な視線は一転して子供のような無邪気さでまんまるに見開かれた。
「んん? どうしたの、野梨子」
つられて美童の目も見開く。
すると、腕を絡ませていた野梨子の手が美童の袖をつんつんと引き、
絵画にばかり向けられていた瞳が美童を見上げた。

「この騎士、美童にそっくり」
「え?」

雄々しく剣を振るい──おそらくは苦戦を強いられているだろう騎士の姿。
青銅の甲冑、兜からは乱れた金色の髪が躍動的に流れ落ちた横顔。
振り返ったその背には、守るべき者への配慮と死守する意志が感じられる。
「絵になる男だからね」
ふざけて絵画の騎士のポージングを真似ると、野梨子の赤い唇が更に歪んだ。

正直にいえば──そんなに似ていないように思えた。
傍から見れば長身の美童と小柄で凛とした野梨子が並べば、
異種混合な姫と騎士に見えなくもないだろう。
実際、彼らを知らず街角で見かけた好奇な視線からは、
そんなこそこそ話が聞こえたことだってある。
けれどそれは、上辺だけのこと。
自分が”騎士”と呼ぶに相応しいタイプだとは、美童自身思っていない。

140Knight (2/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:19:29

女の子は甘いお菓子みたいなものだ。
甘い時間を過ごすのもいい、色とりどりの愛らしい姿を眺めるのもいい。
蕩かしてしまうのも堪らなくいい…けれど、野梨子はそんなに甘くはない。
一切の無駄を削り落としたような清廉な魂。
どんな努力も惜しまないけれど、それはもう野梨子の身の一部になっているから、
きっと本人は日々精進している意識すらないのだろう。
少しでも鍛錬を怠れば、少しでも気を抜いてしまえば、脆く崩れてしまいそうな、
妙に気の張った心を、積み上げた知性でもって余裕の表情に変えようとしている。

理知的なようで、少女のようで。
それはそのまま野梨子の見た目にも表れていた。
たまにぎゅっと抱きしめて”大丈夫だよ”と肩の力を抜かせたくなる。
もっといえば、その危うい気高さを蕩かしてしまいたくもなる。

だけど野梨子はそんな、甘いお菓子じゃないのだから、
美童は優しく目を細めて、野梨子に優しく微笑みかけることしかできない。

「素敵な絵画展でしたわね。また大英博物館へ行きたくなりました」
「いいねー。今度、ピカデリーサーカスの方で友達がショップを開店するんだ。
 お祝いがてら博物館巡りなんてどう?」
野梨子は否とも応とも取れぬ、曖昧な笑顔で微笑み返す。
日本での生活に慣れた美童にとっても、こういうアルカイックスマイルは少々苦手だ。
こうしてデートを重ねられる程度には時間を共にできても、
野梨子には野梨子の家の務めがある。
悠理たちのように「よし、行こう! 今すぐに」と自家用ジェットを飛ばせるわけもない。
曖昧な笑顔からは思いやりが伝わるけれど、どこか残酷だ。

二人の間には何の約束もない。形がない。
将来の話をしないのは、いつしか二人にとって暗黙の了解となっていた。

141Knight (3/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:19:56

「本当に…そっくり」
帰り口の物販コーナーで、展示物のポートレートを眺めて野梨子はくすくすと笑う。
さっきの騎士の絵だった。本当に気に入ったらしい。

「……そんなに似てないよ」
「そうかしら? うふふ。ねえみんなに見せたらきっと似てるって言うと思うけれど」
棚から一枚引き出した指ごと、そっと元に押し込める。
「美童?」
「……僕は騎士なんかじゃないよ」
妙に沈んだ声でそう呟くと、らしくなく不意に背を向けてしまった。

「美童?」
ポートレート購入を諦めて、後を追いかける野梨子の声を背に感じながら、
美童は自分自身でも何故こんなに眉を潜めているのか分からなかった。

──アジア人は、この北欧的な上辺の姿に妙な物語を着せたがる。
それはこの国で女の子をひっかける時には非常に便利なものだった。
少女に与えられた絵本、物語教育には本当に感謝したいと思ったことだってある。
けれどそれは、友人としても自分をよく知る野梨子には馴染まない話だった。

──ほんの数日の遠出、親御さんの通訳ならば世界を巡る野梨子にとって、
たかがイギリスへの旅行ぐらい、この美術館に出かけるのとも変わらないこと。
そんな小さなの約束さえ答えてくれないのだろうか。

──騎士が自分に似ていたからって、だから何なの。
それを仲間たちに見せて、ひと笑いのネタにでもしたら暇が紛れるとでも言うのだろうか。
もう自分たちは(一部を除いて)暇をもてあました有閑倶楽部ではないのに。

142Knight (4/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:20:26

(そんなことじゃ…ないんだ)

いくつかの可能性を考えながら、美童はひとつひとつを消去していける。
分からないテスト問題が出た時、消去法を教えてくれたのは野梨子だった。
すぐに気が散る美童には、ひとつひとつ整理する方法は随分と役立ったことを覚えている。

(あぁ…そんなことはどうだっていいんだ。僕がこんな気分になったのは…)

ジャケットの裾がぐんっと後ろに引かれる。
「美童っ」
いつも穏やかな野梨子にしては大きめな声だった。
もうとっくに美術館から離れていて、外の並木道で美童がハッとして足を止めた。

「……おかしなことを言ったのなら…ごめんなさい」
「あ…いや。僕こそごめん」
「……でも」
女の”でも”は何よりも恐ろしい。まして野梨子ならばその威力は計り知れなかった。

「何が気に入らなかったのか、言ってくれないと分かりませんわ」
「あ…あー…いや。気に入らなかったわけじゃないんだよ」
恨みがましく見上げる大きな瞳に敵うわけがない。
まして、そんなふうに冷笑して目の座った笑顔を向けられたら、白旗なんていくらでもあげる。

「あら。何も気にさわることもなく、さっさと一人で去ってしまう美童なんて、
 私は知りませんけれど?」
「…悪かったってば。怒らないでよー…」
「怒っているのはあなたでしょう?」

143Knight (5/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:20:50

美童の両手を取り、真っ直ぐに向かい合わせる。
”さぁおっしゃって”と言わんばかりにじっと見上げる目つきには、もう怒りの色はない。
ただじっと美童を見詰めて、逃さない。美童の方も逃げないからだ。
衝突はしないけれど、置き去りにもしない。見逃してはくれない。

「……くだらない話だよ」
「……」
「自分でも、よく…分からないんだ」
曖昧な言葉で、甘えて逃がしてくれるほど野梨子は甘くはない。
”分かるところからおっしゃればいいのよ”と無言で伝えてくる。

「うーん…。ははっ、野梨子がおかしなこと言うからさぁ…」
「私…が?」
「そうだよ。僕があんな勇敢な騎士とは似ても似つかないこと、野梨子もよく知ってるじゃない」

野梨子は生真面目にうーんと思い浮かべていた。
「……僕は清四郎や魅録とは違うしさ」
思いもよらない言葉が口をついて出て、美童自身がぎょっとした。
これでは歪んだ嫉妬だ。あまりにも子供っぽい。

「それは…」
「わー! 今のなし、本当によく分からないんだ。それで変なことを…」
「武闘派ではない。ということかしら?」
野梨子は美童の失言を揶揄するでもなく、真剣に聞き返した。
「うっ…まぁ、そういうこと。でもある…かな。どうかな?」
「……それはおかしな話ですわね」

144Knight (6/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:23:03

興味を持ったのか、野梨子はひとつひとつ整理していくように考え込んでいる。
どこか上の空な隙をみて掴まれていた両手を離すと、
差し出された美童の腕に、無意識に手を添え、歩き出す。

「このご時勢、甲冑を着て決闘する機会などまずありませんわ」
「え?」
「騎士の役目も、時代とともに変わっていくものではないのかしら」
たとえばこうして、ぼんやりしている野梨子を当たり前のようにエスコートしてくれる。
まとまらぬ考え、バラバラな言葉を辛抱強く聞いていてくれる。
聞き上手な彼に、導かれるように…包み込まれるように好き勝手な話もできる。
たとえ黙り込んだとしても、気まずくはならない空気をその笑顔で作ってくれる。

「それはそうだろうけど…。でもさ」
「だから、私はおかしくなんてありませんわよ。美童は騎士に似ています」
それが恋人に対しての思いやりなのか、野梨子らしい慈愛なのか、分からない。
けれどはっきりと言い切る野梨子の口調がおかしくて、美童は肩を上下した。

「古風な話だけどさ。やっぱりあの時代だって現代だって、大切な人を身を挺してでも
 守りたいって思ったりするもんだよ」
「そうなんですの? まあ…そうなんでしょうね」
「野梨子だって子供の頃からずっと守られてきたじゃない? 僕よりもずっと優秀な
 騎士殿に、さ」
「清四郎のこと?」
「他にいるかい?」

何かと比べるなんて、美童らしくもない言葉を、野梨子は興味深く考え込む。
「……優秀過ぎるほどですわ」

145Knight (7/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:24:46

ため息まじりに吐き捨てたその言葉には、疎ましいほどの呆れと、
同じくらいの親愛を感じさせる。ある面では同族嫌悪のようにもみえた。
たとえそれが男女のそれではなかったとしても、美童は笑い飛ばすしかない。
「いつもそうさ、最後に頼るのは清四郎だろう? まー僕だってそうするけどね。
 あいつらがついてると心強いし、安心だろうしね…」
「またおかしなことを…。ねえ美童、私はこうしている方がずっと安堵してますのよ?」

野梨子の頬がひじに当たる。
ジャケットの袖越しでもわかるその柔らかさに、美童はらしくなくどきりと胸が跳ねた。
照れ隠しに首を横に振る。

「もしここで怖ーいお兄さんに囲まれたって、僕は守りきれないかもよ?」
「美童は非暴力主義ですものね。うふふ」
「そんな男といて安堵するって?」
「えぇ。美童ならばきっと、囲まれるようなことにはならないでしょう?」
「え?」
「危険を寄せ付けたりしない。勝ち気に食ってかかったりもしない」

それは彼の優れた処世術。コミュニケーション能力は外交官の父譲りだろうか。
いや、彼は人が好きなのだ。人間に興味を持っている。
……大抵は、1:9の男女比での興味だろうけれど。
人に対して敬意を持って接しているから、いつもこんなに優しい。

「臆病な土下座騎士だね」
「うふふ。どんな方法でも、結果は結果でしてよ」
野梨子の言葉に嘘はない。偽りの気遣いで微笑めるほど、器用じゃないことは
美童が一番よく知っている。

「──でも。危険な男の方が魅力的じゃない?」
いくらその笑顔が大好きでも。そうそう安心していられるのも男のプライドが許さない。
流し目でちらり野梨子を見詰めると、
「危険じゃなくても、美童は魅力的ですわよ」
あっさりと野梨子は返した。完敗だった。

END

146ビタースィートチョコレート(魅×野)1:2012/02/14(火) 09:23:32
バレンタインに関連した魅×野の短い話をUPさせていただきます。
直接登場しませんが、背景に、清→野があります。
不快に思われる方はスルーしてください。



「目が覚めまして?夜遊びも度が過ぎると身体に毒ですわよ?」
生徒会室のソファでうたた寝していた魅録は目覚めるなり、野梨子のそんな声に迎えられた。
「…うん?」
まだ暮れきってはいない時刻の生徒会室。
少し寝ぼけた感じであたりを見回した魅録は野梨子以外の4人がいないことに気付く。
「…皆は?」
「帰りましたわ。そうですわね…もう1時間にはなるかしら。」
「…って、清四郎は?」
野梨子といえば清四郎。
有閑といいつつそれぞれ多忙である他の人間がいないことは奇異とするに値しない。
しかし、彼女の幼馴染がいないことは充分に訝しく思う出来事ではあった。
「帰りましたわよ?」
当の野梨子はしごく平然と答える。
「…えーと…」
じゃあ、野梨子はどうやって帰るんだよと魅録が聞こうとするほどに
清四郎と野梨子が一緒に帰るという光景は、ありふれた日常なのだった。

147ビタースィートチョコレート(魅×野)2:2012/02/14(火) 09:25:00
魅録が尋ねる前に、野梨子が口を開いた。
「先に帰ってもらいましたの。私、今日は大事な用があったものですから」
頭の中を疑問符だらけにしながら、魅録が何も言葉にはできないでいるうちに
野梨子は、そんなことには気にもとめずに言葉を紡いでいった。
「今日はバレンタインデーでしょう?私、魅録に差し上げなくてはなりませんでしたから。」
あぁ、なるほど、と思わず合点しそうになるほどその声色は自然だったのだけれど
聞かされた当の魅録は、何に驚くといってこれほど驚いたこともないというほどの声をあげた。
「…あぁ、そうか…って、え?えぇ??」
魅録がまじまじと見つめたさきの野梨子は、顔色ひとつ変わっていない。
まるで、天気の話でもしているかのように悠然と茶まで飲んでいたりする。
もういちど、魅録が何か言いかけてやはり言葉にならず
「え?、ええーっ?」
と言うと、少しおかしそうに頬を緩めて野梨子が言う。
「そんなにおかしいこと言いましたかしら?」
「だって、お前、その、あれだよ、え?ええっ?」
「バレンタインデーがどういう日かご存じ?魅録」
ご存じも何も、女が好きな男にチョコレートを渡す日だと思っているから、こんなに動揺しているのではないか。
とはいえ、野梨子の態度はとても好きな男に告白めいたことをしているような風情ではない。
うっすらとでも頬を染めたりとかそういう気配はまるでない。
そ、そうか。そうだよな。
義理というものもあれば、友というものもある。
バレンタインデーのチョコにはそれらの名がつくこともあるのだ。

148ビタースィートチョコレート(魅×野)3:2012/02/14(火) 09:26:04
そんなことを、ぐるぐる頭で考えては、勝手に顔を赤くしたりしている魅録に
「好きな殿方に女性から愛を告白する日ですわ」
野梨子の言葉がふりかかる。
またもや、魅録は混乱する。
「こ、告白ってお前…えっと、その…」
魅録とて、美童や悠理ほどではないが、今日はチョコをたくさん貰った。
今もそこのテーブルの上に山と積んである。
告白めいたことをされるという経験も一度や二度ではない。
しかし、今目の前にいるのは野梨子なのである。
動揺しないやつがいたらお目にかかりたい、と思って
魅録はちらと清四郎の顔を思い浮かべてしまった。
あいつだったら平然としてるかもな。
慌てる魅録を前に野梨子は相も変わらず平然としている。
「受け取ってくださいます?」
「えっと…その清四郎はこのこと知ってるの?」
地雷を踏んだらしい。
野梨子のこめかみがぴくりと動いた。
「…清四郎がこのことに関係ありますの?」
「だって、清四郎は…」
その後に何と続けていいのやら、魅録はまた言葉に詰まった。
野梨子と清四郎のことは何と言葉にしてよいのやら、とても魅録にはわからない
「何度も申し上げているように私と清四郎はただの幼馴染です」
きっぱりと言い切る野梨子に魅録は思わず大声をあげた。
「清四郎はそうは思ってねぇよ!」
言いきったあと部屋が急にしん、としたように思えた。
自分が口にした言葉が真実であることを魅録は知っていた。
野梨子だって知らぬはずはないだろう。

149ビタースィートチョコレート(魅×野)4:2012/02/14(火) 09:27:22
長い沈黙に耐えかねて、魅録が口ほ開こうとしたそれよりほんの一瞬はやく
野梨子が
「…わかりましたわ。それが魅録の答えですのね。お時間とらせてすみませんでした。」
それだけ言うと、鞄を手に部屋を出て行こうとした。
思わずその手首を魅録が掴む。
「何をなさるの?離して下さいな!」
あぁ、この声。
魅録は初めて野梨子に会った時のことを思った。
そうだ、あの時。
あの時、自分は恋に落ちたのだ。
そうとは気付いていなかったけれど。
あれから何度も思い出しては、その度に気持ちを閉じ込めたのではなかったか。
野梨子の隣にいる完璧な男と自分を比べては、そうしてきたのだ。
何と言う意気地なしか、と魅録は自分を思い掴んだ手に力をこめた。
「悪い…離すつもりはない。」
そうだ、野梨子の気持ちを知ってしまって離せるわけがないではないか。
そこまで覚悟が決まってようやく魅録は気付く。
あぁ、そうか野梨子も「覚悟」をしたのだ。
誰を傷つけたとしても、気持ちに嘘はつけないのだ。
野梨子の頬にはじめて色がさす。大きな瞳が潤む。
魅録は思わずひき寄せて、自分の腕の中に野梨子の華奢な身体をおさめた。
「…チョコくれよ。」
少し声を震わせて野梨子が
「…嫌です。魅録みたいな意地悪言う人なんか…」
少し天の邪鬼で、でも真直ぐで、気が強くて、負けず嫌いの野梨子。
ぎゅ、っと腕に力を込めて魅録が言う。
「もう言わない。俺が悪かった。だから…」
魅録の腕の中で野梨子が耳まで赤くして、小さく頷く。
魅録はゆっくりと背をかがめて、野梨子の唇に自分の唇を近づけていく。
そうしてそのまま唇を重ねようとして止まり、ゆっくりと言ったのだった。
好きだ、と。

150ビタースィートチョコレート(魅×野)おまけ:2012/02/14(火) 09:28:36
二人仲良く生徒会室に鍵をかけてから、魅録が言う。
「あ、そういえばチョコ」
「はい、どうぞ。」
「でも、オレ甘いのニガテなんだよなー」
「大丈夫ですわ。ちゃんとお砂糖なしのチョコだってありますのよ?」
そう言えば前に可憐が生徒会室で言っていたような気がする。
「そっか」
無論、どんなに甘くとも食べるつもりではいた魅録ではあったが
俄然元気よく、リボンをほどき包装紙をはずす。
いささか行儀悪くはあるが、歩きながら箱を開け、その一粒を口へ放り込む。
「…!お、おまえこれって…」
「そういうチョコがあるって言っただけですわ。このチョコが甘くないなんて言ってませんもの。」
魅録は舌の上の甘さに四苦八苦しながら、ようやくそれを飲み込む。
そして腹をかかえて笑いだし、野梨子を再び抱きしめた。


以上です。ありがとうございました。

152ヲタな野梨子:2013/06/07(金) 08:18:15
野×魅の小ネタです
画像は不快に思われる方もいらっしゃると思いますので要注意。とても雑です(汗)





野梨子は魅録からペンタブレットというものをもらった
思ってもみなかった魅録からのプレゼントに嬉しくなり白鹿青洲の娘である野梨子は
さっそくペンタブレットを使いこんな絵を描き一人で萌えていた

http://viploader.net/anime/src/vlanime091395.jpg

「わたくし、ペンネームでこっそり同人出そうかしら。」

153冬の海辺:2013/11/28(木) 07:48:08
魅野です。


「う〜寒い!野梨子、こっちにこいよ」
魅録はそういうと野梨子を抱きしめた。
(んぎゃ!魅、魅録の肩が・・た、たばこの匂いが・・!)

http://bbs.2ch2.net/freedom_uploader/?m=img&amp;q=../freedom_uploader/img/1250687464/0502.png

154冬の海辺:2013/11/28(木) 08:14:48
↑上の画像、携帯では見れなかったので再度貼りなおします。

http://uploda.cc/img/img52967c12cee75.png

155宝石を拾った日(魅野):2013/12/12(木) 23:07:47
━━初めて出会ったとき、かなり失礼なことをしてしまった。
きちんと謝ったのだろうか・・頭に血が上ってしまってあまり覚えてない。
その道を通るたびにあの人がいないか探す自分がいた。
でもたぶん・・私とは違う世界の人



━━あの路上で会った聖プレジデントのお嬢様。
やっぱり悠理と違うなあ・・

お嬢なんて面倒くさいと思ったけど、あのおかっぱは割と面白かったな
顔真っ赤にしてうろたえる姿、もう一遍見てみたいぜ


http://kie.nu/1xAm

156有閑名無しさん:2014/02/08(土) 15:04:15
雑談用スレが500でレスストップになってしまったのでひとレス借ります

499さん
私もその番組見ました。以前もどこかのチャンネルでスウェーデン特集やってて
イケメン大国だってやってたな、美童、大好きだよ

う…ん…本スレで美魅やったらマズいしどうしよう…

157有閑名無しさん:2014/02/09(日) 10:37:44
お借りします

>>156
美魅ぜひ拝見したいですよ。本スレで妄想話NGってことはないのでは?
私は規制中なので感想をレス出来る所が、、、TT
美女とヒモwwの活躍見たーい!
かっこい美童もヘナチョコ美童も大好物です。

158有閑名無しさん:2014/02/13(木) 23:20:12
美女とヒモのドタバタ張り込みは妄想できるんだけど
肝心な事件をどうしたらよいものか難しい
ちょっと出てきた女落としのスケさんというの
あれ、「紳士は美少年がお好き」で出て来たコマシ専門のやっちゃんがモデル
勝手に緑川助五郎という名前付けてますw

159有閑名無しさん:2014/02/19(水) 23:49:56
事件ムズいっ
事件の鍵を握る女(容疑者?)が高級クラブ勤めで美童がクラブに潜入捜査までは妄想出来るけど肝心の事件が思いつかないw
私は倶楽部のメンバーの日常風景みたいの妄想するのが好きなんですが
全員を動かせる文章力がないからなぁ…w

160有閑名無しさん:2014/02/21(金) 13:27:22
事件が難しいよね
第二話「松竹梅魅録の失敗」も80%ぐらい出来たんだけどやはり事件が…

美童が高級クラブに潜入もいいね。
これは美女とヒモじゃないんだけれど、指名手配中の保険金殺人容疑者(女性)が
ホストクラブに現れるとのタレこみがあり美童と魅録がホストになって潜入したが
二人でNo1ホストの数倍稼いでしまった「時給20万の刑事」というのも考えたんだけど
事件なんてどうでも良い話になってしまいそう…w

いろんなネタが浮かぶ度に美童に鍛えられ魅録がどんどんエロくなって行くよ…w
やっぱり文章よりお絵描きの方が得意かも…(泣

161有閑名無しさん:2014/03/10(月) 23:46:28
ここ用に短編作ってるんだけど話がオチなくて止まってしまったTT
本スレのフィギュア清四郎面白かった。
聖プレジデントの夏服はフィギュア衣装っぽいねw
魅録と悠理はスピードスケートのレーサースーツが似合いすぎるw

162有閑名無しさん:2014/03/11(火) 13:46:56
>>161
迷惑でなかったらお手伝いするよ

163有閑名無しさん:2014/03/13(木) 00:24:16
>>161
オチも難しいよね
頑張れ!何とかなるよ(偉そうでごめん)
他の人の作品やネタを読むの大好きなんだ

ネタ拾えるかと刑事ドラマのDVD借りてきたんだけど
ドラマでも事件そのものはどうでもいい感じでオチも無理矢理だったりする
でもやっぱり事件は難しいw

清四郎のビールマンは勢いで描いてしまったけれど自分でもお気に入りかも
魅録のセクシーポーズはちょっとやり過ぎたかな
セクシー魅録がツボってセクシーポーズって具体的にどんなんだろうと
画像検索したら一番最初に出て来たのがあのポーズで魅録にやらせてしまったw
エロいのかセクシーなのか分からないシリーズもこっちに来ようかな
自分の技量じゃ本スレは敷居が高いもん

164有閑名無しさん:2014/03/24(月) 23:59:52
なんか本スレ荒らされてる
最近賑やかになったし、色々な話し読めて楽しみにしてたのに。
これでまた過疎ったら悲しいなぁ…
私は気にしないで今書いてる話しオチついたらうpするけどw
ホントに筆が遅くて情けないw
本スレで長編書いてる作家さん本当に尊敬する。

165有閑名無しさん:2014/03/29(土) 12:51:18
セクシー刑事です
魅録がSっぽくなってしまいましたw

http://fast-uploader.com/file/6951620443617/

166有閑名無しさん:2014/03/29(土) 13:00:08
すいません、間違って削除してしまいました
リンクはこちらです
http://fast-uploader.com/file/6951621134771/

167有閑名無しさん:2014/03/29(土) 14:44:07
連投すいません
いろいろ騒がしいので有閑倶楽部アニメでも見て楽しめてもらえたらとエンコしました
アナログからのエンコなので香港の後半、音声がズレてます。
こっそりとアップロードなのでパスワードかけてあります

パスワード OTOKOYAMA

犬猫まるごとHowMuch
http://fast-uploader.com/file/6951626644237/
香港から愛をこめて
http://fast-uploader.com/file/6951627009334/

168有閑名無しさん:2014/03/29(土) 21:43:05
>>166
やべー捕まったw連行される時は両手に花でウキウキするねw

>>167
見られないorz
犬猫はVHS買ったなー懐かしい。多分実家にまだあるはず。有閑倶楽部イメージアルバムも持ってたw
若者はLPなんて知らないだろうなあw

169有閑名無しさん:2014/03/29(土) 22:57:54
>>168
右上のダウンロードをクリックしてファイルを任意の場所へ保存すれば良いみたいです
MP4はメディアプレイヤーに対応しているのでそれで見れると思います

LP同様にドーナツ盤なんてのも若者は知らないんだろうなあ
ターンプレイヤーを自力で修理したのでたまにアナログを楽しんでます

170有閑名無しさん:2014/03/30(日) 19:30:45
>>169
無事保存できました!ありがとうございます。
とにかく懐かしくて嬉しかったなあ
一条先生はもう新作描いてくれないのかなぁ番外編的なモノでもいいからお願いしたいよ。
有閑倶楽部誕生35周年記念でやってほしい。

自分で修理って魅録っぽいw私は機械弱いからTT
炊飯器のスイッチが入らなかった時は魅録を呼び出したかったよw
清四郎と魅録は家に居てくれると色々と助かりそうw

171有閑名無しさん:2014/04/10(木) 08:22:56
グーで10発は殴ってやりたくなるほどムカつく
ナルシスト魅録1

http://fast-uploader.com/file/6952641246809/

172有閑名無しさん:2014/04/10(木) 10:34:58
わらったw
実際魅録、いい男だと思うけどねw

173有閑名無しさん:2014/04/10(木) 11:20:52
ここで聞いていい?
感想スレッドって、新しく建てても良いのかな?
嵐さんの代わりに。

174有閑名無しさん:2014/04/10(木) 11:29:27
>>171
ナルシー魅録w
千秋さんに見られてケチョンケチョンに笑い飛ばされてほしーわw

175有閑名無しさん:2014/04/10(木) 12:40:54
>>173
良いと思うよ

176有閑名無しさん:2014/04/12(土) 08:40:25
避難スレッドがあったのでそちらに移動します


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