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短編UP専用スレッド

1嵐</b><font color=#FF0000>(MOUSOU1Q)</font><b>:2002/08/14(水) 02:14
ここは本スレが落ちつくまでの*一時的な*避難スレッドです。

「有閑倶楽部」の二次創作作品(パロディ作品)のうち、短編ものは
ここに載せてください。作品UPを心からお待ちしています。
長編UP、作品への感想・小ネタ雑談は、別スレがありますので
そちらに書くようお願いします。

関連スレッド、関連サイト、お約束詳細などが>2-5のあたりに
まとめてありますので ご覧くださいませ。

2嵐</b><font color=#FF0000>(MOUSOU1Q)</font><b>:2002/08/14(水) 02:17
◎2ch難民板の本スレ「有閑倶楽部を妄想で語ろう・11」
 http://ex.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1028280796/

◎したらば・妄想同好会BBS「長編編UP専用スレッド」
 http://jbbs.shitaraba.com/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&amp;KEY=1029258864

◎したらば・妄想同好会BBS「作品への感想・小ネタ雑談スレッド」
 http://jbbs.shitaraba.com/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&amp;KEY=1029258880

◎したらば・妄想同好会BBS「裏話スレッド」
 http://jbbs.shitaraba.com/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&amp;KEY=1027901602
 作品の裏話や裏設定があれば、ここでコソーリ教えてください(w

◎したらば・妄想同好会BBS「誤字・脱字 修正受付スレッド」
 http://jbbs.shitaraba.com/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&amp;KEY=1027901461
 UPした作品に誤字・脱字があった場合、このスレに書いていただければ
 更新時に修正します(メールでの受け付けもOKです)。

◎したらば・妄想同好会BBS「本スレとしたらばの使い分け相談スレ」
 http://jbbs.shitaraba.com/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&amp;KEY=1028964597
 このスレッドの使い方に関する質問・意見・相談は、こちらにお願いします。

◎したらば・妄想同好会BBS「削除依頼スレッド」
 http://jbbs.shitaraba.com/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&amp;KEY=1027900756

◎関連サイト「有閑倶楽部 妄想同好会」
 http://freehost.kakiko.com/loveyuukan
 本スレなどで出た話をネタ別にまとめているところです。
 本スレの古いログも置いてあります。

3嵐</b><font color=#FF0000>(MOUSOU1Q)</font><b>:2002/08/14(水) 02:18
◆作品UPについてのお約束詳細

・原作者及び出版元とは一切関係ありません。

・名前欄になるべくカップリングを書いてください(ネタばれになる場合を除く)。

・何スレか使う場合は、名前欄にタイトルと通しナンバーを書いていただける
 と助かります。

・苦手な方もいるので、性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記を。

・作品の大量UPは大歓迎です!

・作品UPが重なってしまうのを気にされる人は、UP直前に更新ボタンを
 押して、他の作品がUP中でないか確かめるのがいいかと思います。

・作品UPが重なってしまった場合は、先に書き込まれた方を優先でお願いします。

4有閑名無しさん:2002/08/14(水) 02:43
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     サクヒン マダ?
   /■\    ./■\        /■\
  ( ´∀`)△ ( ´∀`)       (・∀・ ) マターリ マトウヨ
   /    つ  ⊃目⊂) ∬    ⊂  ⊂ )
  (人_つ_つ (_(_) 目△▲  (_(_つ
               ┗━━━┛

5有閑名無しさん:2002/08/14(水) 22:32
最初の作品が18禁ではまずいだろうと一日待ってみたんですが、
どなたもUPしないようなので、思いきってUPします。
(18禁が嫌いな方には、ごめんなさいです)

本スレ7にあった「魅×野 初めての…」さんのお話を読んでいたら、
暑さで沸騰した脳味噌がさらに沸いてしまい、続きを妄想し始めました。

女性に疎い現在の魅録ではなく、第1話のナンパ男・魅録のイメージで
書いてみます。
あのお話の魅録はよくナンパしていたようだから、あーんなことや
こーんなことも経験済みだろうということで、チョト鬼畜Ψ(`▼´)Ψ
入ってる魅録くんです(w

6R18 魅×野 初めての…(6):2002/08/14(水) 22:33
生徒会室で、久しぶりに魅録と二人きりになった。
この前のことを思い出すと、それだけで心臓が破裂しそうになる。
恥ずかしいから思い出さないようにしているのに、こうして同じ
場所に2人でいるから、どうしても思い出してしまう。
あの時の魅録は・・・

ハッと気がつくと、魅録がすぐ傍に立っていた。
「修理、終わったんですの?」
「ああ、あれで大丈夫だろ」
「お茶を淹れますわ」
立ち上がった私を、ふいに魅録が抱きすくめる。
「だめですわ。誰かに見られたら……」
「見せつけてやるだけさ」
さらに腕に力を入れる。

「なあ、しようぜ」
「え?」
「野梨子も思い出してたんだろ? この前のこと」
「私は……」
「誤魔化しても駄目だぜ。うっとりした目で遠くを見ていた」
見られていたなんて! 全身がカッと熱くなる。

言い訳する隙も与えず、唇を重ねてくる。
激しく巧みなキス。いつもこのキスでトロトロにされてしまう。
魅録の手がスカートの中に伸びる。だめ、今触られたら・・・

7R18 魅×野 初めての…(7):2002/08/14(水) 22:34
止めようとする私の手をかいくぐって、魅録の手がそこに触れた。
「湿ってるぜ。そんなに感じてるのか?」
普段は優しい魅録なのに、こういう時だけすごく意地悪になる。
「酷いですわ……」
そんな言葉も、どこ吹く風。
隣の椅子に悠然と腰掛け、私を強引に自分の上に座らせた。

足を広げてまたがるその姿勢が、死ぬほど恥ずかしい。
何かがあそこに当たる。もしかしてこれは・・・
魅録はそんな私をじっと見ていた。
視線に耐え切れず、自分からキスをする。絡まり合う舌と舌。
ああ、また濡れてくる・・・

制服のボタンを外され、固くなった乳首が夕日の中に浮かび上がる。
「野梨子は感じ易いなぁ」
「そんなことありませんわ」
「キスだけで、こんなに固くしてるじゃねえか」
そう言って、口に含む。舌が魔法のように動き、私を翻弄する。

「あぁ……ん……」
抑えようとしても声が漏れる。
反対側の胸は指で愛撫。メカを器用に修理したその指が、今度は
私の上を自在に這いまわる。
誰か来たらどうしよう・・・そんな焦燥感さえも快い刺激。
もう何も分からなくなってしまいそう。

8R18 魅×野 初めての…(8):2002/08/14(水) 22:34
「どうする? 学校だし、ここまでにしておくか?」
今になってそんなことを言い出す。なんて意地悪な。
でも、このまま放り出されたら私は・・・
「……してくださいな……」
「ん? 聞こえねえな」
充分聞こえてる筈なのに!

睨みつける私を面白そうに眺めながら、もう一度聞く。
「やめるか?」
言っている間も、指は乳首を攻め続けている。
「……続けて…くださいな……あんっ」
「じゃあ、鍵かけて来いよ。覗かれたら困るだろ?」

普段の魅録はこんな人じゃないのに!
それなのに、逆らう事はできない。悪魔の入った魅録にも、
たまらなく惹かれている私だから・・・

やっとの思いで入り口に辿りつき、鍵をかける。
頭がボーッとして、真直ぐ歩けているか自信がない。
戻ってきた私を抱きとめると、耳元で囁く。
「タイツだけ取って」
言葉通りにした私を見て、魅録は唇の端を上げてニヤッと笑った。
また何か企んでいる・・・?

9R18 魅×野 初めての…(9):2002/08/14(水) 22:35
ベルトを緩めジッパーを下げた後で、魅録は再び椅子に座り、
私をその上にまたがらせた。
さっきと同じポーズ。なのに、あそこの感覚が全然違う。
反り返ったそれが、ぐいぐい刺激してくるのだ。

身体をずらして逃げようとした私を、魅録は許してくれなかった。
腰を押さえるつけるように強く抱き、下から突き上げてくる。
下着ごしなのに、直接されているかのような錯覚に陥ってしまう。
それぐらい、魅録のそれは固くなっていた。
何度も突き上げてくる魅録。下着なんて簡単に突き破りそう。
いいえ、突き破って欲しい。そして・・・

「野梨子、欲しがってるのか?」
私の胸のうちなどお見通しだと言わんばかりに囁く魅録。
「……」
「いらないんなら、やめるぞ」
「…いり……ますわ……」
「どうして欲しいんだよ? ちゃんと言わないと、分からねえ」
そう言って、動きを止めた。

いや、止めないで。もっと、もっと!
「私…の……中に……」
「入れて欲しいのか?」
「……ええ……入れて…くださいな……」
魅録が入ってくる、そう考えただけで、身体が疼き出す。

10R18 魅×野 初めての…(10):2002/08/14(水) 22:35
「何をなさいますの?」
思わず声をあげてしまった。
魅録は下着を取った私を後ろ向きに立たせると、そのまま上半身を
テーブルの上に押し付け、スカートを捲り上げたのだ。

まるでお尻を突き出すようなポーズ。
こんなのは恥ずかし過ぎる。
でも、魅録の身体が上からのしかかっていて、簡単には動けない。
机に手を突っ張って身を起こそうとすると、熱いものがお尻に触れた。
魅録のそれは、二人を隔てる布地が無くなったのをいいことに、私の
お尻にピタリと照準を合わせていたのだ。

「ん? 待ちきれなくて、自分から来たのか?」
「ち、違いますわ!」
「そうかぁ!?」
逃れようとする努力をあざ笑うかのように、指が私を弄り出す。
溢れんばかりだったそこは、魅録の指を簡単に受け入れる。
「ここは正直だぜ。ホラ、こんなに欲しがってる」

机に突っ張った手から力が抜けてゆき、全神経がそこに集中する。
こぼれてしまう声。
「いや…ぁ……ん」
「いやなら、やめようか?」
「だめ……あ…もっと……」
「もっと?」
「もっと……好きに…あぁん!」

最初の波が訪れる。身体中に電流が走り、頭の中が真っ白になった。

11R18 魅×野 初めての…(11):2002/08/14(水) 22:36
波が一段落すると、息つく間もなく魅録が入ってきた。
固く逞しいそれが、私を一気に貫く。
「ああっ!」
この前よりも、さらに深い挿入。
初めてのポーズは、当たる角度まで違う。私の中の敏感な部分を、
これでもかと突いて来る。

「野梨子、いいぜ……たまらねぇ」
今日初めて聞く、魅録の上ずった声。
「魅録も…感じてますの?」
「ああ。おまえ、最高だ」
褒め言葉が心に染み入る。
魅録を好きになって良かった。本当に良かった。

そう思ったのもつかの間、魅録はまた意地悪なことを言い出す。
「野梨子も、もっと動けよ。欲しいんだろ?」
右手が前に回り、濡れそぼったそこを攻めて立てる。
「んっ……くっ」
耐えかねて身体を震わすと、魅録がさらに深く中へ。
だめ、そんなに刺激したら・・・

二度目の波が私を襲う。さっきよりさらに激しく熱い。
もう・・・このまま・・・

12R18 魅×野 初めての…(12):2002/08/14(水) 22:36
意識の戻った私の耳に、魅録の言葉が飛び込んできた。
「野梨子、すげえよ。乱れっぱなしじゃねえか」
「魅録が…苛めるんです……もの……」
これだけ言うのがやっとだった。息が荒い。
小寒い季節だというのに、身体が火のように燃えている。

「もう一度行くぞ」
奥へ奥へと攻めて来る。私の中が魅録で一杯になる。
身体が自然に動いてしまう。お尻を突き出し、魅録を迎えにいく。
顔を合わさないことで、こんなに大胆になれるなんて・・・
「み…ろくぅ……」
「野梨子っ……」

何度も何度も突かれ、強烈な快感が全身を襲う。
「あんっ…あぁっ…あっ! あっ!」
「野梨子! 野梨子っ!」
聞こえるのは魅録の声だけ。
大好きな声に包まれ、私は昇りつめてゆく・・・
三度目の波が・・・あぁ・・・   【終】


魅録にとって、野梨子は苛め甲斐のある相手だったと思います。
いや、私にとってもですが・・・(w

13有閑名無しさん:2002/08/14(水) 22:42
う〜ん、やっぱり「魅×野 初めての…」さんの
2人とは別人ですよね。
すみません、私の脳内魅録&野梨子ということで、
お許しください!(平謝り

14有閑名無しさん:2002/08/15(木) 23:23
いやん。ぽっ。
性格が変わっちゃう魅録がす・て・き!

15ルージュ・ノワール(1):2002/08/25(日) 08:07
剣菱邸のコンピュータルームに、不似合いな優しい音色が響く。
「清四郎?用事、もう終わった?」
自室の悠理からの内線である。
キーボードを叩く手を休めずに、清四郎はそれに答える。
「ああ、すみませんね。もうすぐ終わります。豊作さんが戻られたんですか?」
どうしても今週中にまとめたい論文のため、剣菱のハイスペックなPCを使わせて
もらっていたのだ。
厄介なデータ処理も、ここのマシンにかかれば一瞬だった。
「いや、そうじゃなくて。終わったんなら、あたいの部屋に来ないかなって思ってさ」
珍しく、遠慮がちな口調である。清四郎にはピンと来た。
今日のTV欄に、確かホラー映画のタイトルを見かけた気がする。
調子にのって観たはいいが、眠れなくなったに違いない。
「せっかくですけど、ここ1週間ほとんど眠っていないんですよ。さっき五代さんが
部屋を用意してくれましたから、今日はもう寝かせてもらいます」
やんわりと誘いを断った。時刻はもう1時を回っている。
「そんな事言わずにさぁ、頼むからぁ。ちょこっとだけ顔出してくれよお〜」
泣き出しそうな悠理の顔が浮かび、思わず苦笑する。
「仕方ありませんね。もう終わりましたから、少しだけそっちに寄りますよ」
「やたっ!清四郎ちゃん、愛してる〜」
冗談めかしたいつもの口調に安心感を滲ませて、悠理が電話を切った。

ああ見えて人一倍甘え上手な悠理にかかると、この始末だ。
もし悠理と付き合うことになったら、振り回されて大変だろうな。
ふとそんな事を考えてくすりと笑い、その一瞬だけ疲れが影をひそめた。
こめかみを指で押さえながらPCの電源を落とし、悠理の部屋へと向かった。

16ルージュ・ノワール(2):2002/08/25(日) 08:08
悠理の部屋は真夜中にも関わらず電気が煌々と燈り、大音量のロックが流れている。
本人は頭から布団をかぶって丸くなっていたが、清四郎に気づいてはね起きた。
飼い主の帰宅を喜ぶ子犬のようだ。

「・・・うるさいですね」少し眉をひそめ、音楽を止める。
「お疲れさん!・・・って、ほんとに疲れてるみたいだな」
珍しく乱れ気味の前髪を見て悠理が呟いた。
「疲れてますよ。眠くてたまらない」あくびをかみ殺しながら、悠理が寝ている
ベッドに腰かける。
「で、どんな映画だったんです?」
ぎくりとする悠理を見下ろす。「どうせホラー映画を観て恐くなったんでしょ」
「思い出させないでくれぇ・・・」両手で目をふさぎながら、少し身を震わせた。
「気の狂ったおっさんが斧持って追いかけてくるよう・・・」
『シャイニング』か。
「うう・・・忘れたい・・・」
やれやれ、と肩をすくめると、清四郎は悠理の体を布団の上からポンポンと叩いた。
「じゃぁ、忘れられるようにお話でもしてあげましょうか」
まるで子供をあやすようだ。
「どんな話?」食いついてくるとは思わなかった。
「そうですね・・・」眠気のせいか、少し悠理を苛めたくなった。
「ラフカディオ・ハーンの『狢』なんてどうですかね」

悠理がもう少し授業をきちんと聞いていれば、この時点で断っていただろう。
しかし悲しいかな、居眠り常習犯の悠理は清四郎の企みに気づかない。

「それ、どんなの?」横になって布団をかぶり、すっかりお話をねだる子供の態勢だ。
「昔話ですよ。ある男が、暗い夜道をほろ酔い加減で歩いていると・・・」
「ちょっと待て!それ、怖い話じゃないだろうな?」
「怖くなんかありませんよ」にっこり笑い、続きを語り始めた。

17ルージュ・ノワール(3):2002/08/25(日) 08:09
言うまでもなく、『狢』とは小泉八雲名義で書かれたラフカディオ・ハーンの著作
『怪談』の中で、最も有名なのっぺらぼうの話である。
さして怖い話でもないが、清四郎の巧みな語り口調によって悠理は2度も悲鳴を上げ、
すっかり布団の中に全身を埋めてしまった。

「清四郎の嘘つき!怖くないって言ったじゃないかぁ!!」すでに涙目になっている。
「こんな話、いまどき小学生でも怖がりませんよ」さらりと返す。
「さてと、ぼくももう限界ですよ・・・おやすみなさい」
あくびをしながら立ち去ろうとする。と、悠理がその服の裾を掴んで引っ張った。
「おいっ!行くなよ清四郎!自分だけ寝るなんてずるいぞぉ!!」
上目遣いに清四郎を見る。この表情は、頭を撫でていて欲しいときのそれだ。
わかってはいたが、もうどこにも体力がない。
「眠いんですよ・・・勘弁してください」
「もうちょっと!もうちょっとだけ一緒にいてくれよぉ!」ベッドに引き戻された。
柔らかな布団の上に腰掛けると、体が溶けてしまいそうになる。瞼が重くなった。
限界らしい。
「頼む、悠理・・・もう寝かせてくれ・・・」
呟くと、清四郎はそのまま悠理のベッドにもぐりこんだ。
「ちょっ・・清四郎!」
「恐いんでしょ?ここにいますから・・・少しだけ、寝かせて下さいよ・・・」
それだけ言うと、たちまち深い眠りへと落ちていった。

18ルージュ・ノワール(4):2002/08/25(日) 08:09
「なっ・・せっ・・おい・・・」顔を赤らめた悠理が清四郎を揺り起こそうとする。
が、反応はない。
よほど疲れていたのだろう、珍しく無防備に眠りこんでいる。
「もうっ・・・まったく、自分勝手なヤツだな!」
無理やり呼びつけた自分を棚に上げ、照れ隠しにぶつぶつと文句を言ってみる。
しかし、すぐに清四郎の安らかな寝顔に視線が吸い寄せられた。
(コイツ、寝顔が案外幼いな・・・)
髪が乱れているせいもあり、心地よさそうに眠る清四郎は確かにいつもより若く
見えた。邪気が無い。

じっと寝顔を見つめていると、ふいにその目がぱっちりと開いた。
「ひっ!」
「30分したら起こしてくれ」短くそう言うと、再び目を閉じ静かな寝息を立て始める。
「器用なヤツだな・・・」半ば呆れながら悠理はそう呟いた。
所在なく、ぼんやりと清四郎を見やる。

作業中に外したのか、いつもは上まできっちりと止められているシャツが大きく
はだけ、しなやかな筋肉のついた胸元がのぞく。
ふと、そこからたちのぼる微かな香りに気づいた。
・・・ん?
少し顔を近づけ、息を吸い込む。
この香り・・・。

19ルージュ・ノワール(5):2002/08/25(日) 08:10
息がかかるくらいに近寄らなければわからないほど、淡くつけられた香水。
普段は気づかない。だが、時おり清四郎のそばで、確かにこの香りを感じたことが
あった。
喜びの表現で抱きついたとき。靈に怯えて背後に隠れてしまったとき。優しく頭を
撫でてくれるとき。
今、初めてその香りの存在を意識した。

理知的でクールな清四郎とは正反対に、それはあくまで野性的で、肉食獣を思わせる。
危険を承知で身を投じてみたくなるような、情熱的で甘い香り。
それ自体は、安心感とはほど遠い。
だが、密着しなければわからないこの香りは、悠理にとっては清四郎のくれる安らぎ
そのものでもあった。
冷静沈着を絵に描いたような清四郎の中にも、この香りのような野性が潜んでいるの
だろうか。想像できない。

その香りをもっと感じたくて、悠理は清四郎のそばに滑り込んだ。
胸に顔を埋めてみる。心が、凪いでいく。
父親とも、兄とも違う安心感が、全身を満たしていった。

と、清四郎が寝返りを打ち、腕が悠理を抱え込む形になった。
どくん、と胸が鳴る。
しかし、包み込まれる感覚が思いもかけず心地よくて、悠理は目を閉じてしまう。
ちょっとだけ、このままでいたい。もうちょっとだけ・・・。

20ルージュ・ノワール(6):2002/08/25(日) 08:10
悠理が寝入ってしばらく後、清四郎はぱちりと目を開いた。
横になったまま時計に目をやると、眠りこんでからぴったり30分後。
体内時計の正確さに満足しつつ身を起こそうとした時、柔らかな感触に気づいた。
ちょうど、自分の胸に抱きかかえられる格好で、悠理が眠っている。
慌てて体を起こし、ふと悠理の寝顔に目を止める。
自分にぴったりと寄り添い、安らかな寝顔を見せている。
(すっかり安心しきってますね・・・まったく、子供みたいだ)思わず笑みをもらした。

自室へ戻ろうとしてそっと体を離した瞬間、悠理が少し身じろぎした。
「ん・・・」唇を軽く開く。「せー・・しろぉ・・・」
寝言に名を呼び、手が宙をさまよう。清四郎のシャツを掴むと、安心したように口元が
ほころんだ。

突然、清四郎の胸に、烈しい感情が湧き上がった。
目の前の存在を慈しみ守りたい。
同時に、滅茶苦茶に壊してしまいたい。
相反する強い感情の波に一瞬呑まれそうになり、慌てて思考のレベルを切り替える。
いつもこうだ。
自分の中に眠る獣が、悠理を前にすると牙をむきそうになる。
・・・いつまで、こうして持ちこたえていられるのだろう。
無防備な悠理を胸に抱いたまま思考の波をたゆたっているうちに、いつしか清四郎も
再び深い眠りの淵に辿りついてしまった。

21ルージュ・ノワール(6):2002/08/25(日) 08:10
「悠理!こら、起きろ!!」
険を含んだ声に、悠理は飛び起きた。
常ならばどんな大声を出されようと目を覚まさない悠理も、この声にだけは弱いらしい。
起きぬけで乱れ髪のままの清四郎が、ベッドから上半身だけ起こし、腕組みをして
こちらを睨んでいる。

「あ・・・う。おはよ、清四郎」
ぎろりと悠理を見る。「今、何時だと思う」
枕もとの、ゴジラの形をした時計に目をやる。
「はちじ・・・、です」
「30分で起こしてくれって言いましたよね?」氷のように冷たい声が悠理を貫く。
ゆうべ、あんなに安らぎを与えてくれた男と同一人物とはとても思えない。
「だって・・・」「だってじゃない!」いつもの口うるさい清四郎だ。
「どうするんですか!これじゃ二人とも遅刻ですよ!」跳ねるようにベッドから起き上がり、大股にドアへ向かった。「悠理もさっさと支度する!」
つむじ風のように出て行った清四郎をぼんやりと見送る。
あの香水の名前を聞いてみたかった。
だが、この分ではそれどころではなさそうだ。
(ちょっと寝坊したぐらいで、あんなに怒ることないじゃんか・・・)
ため息をつきながらのろのろと着替える。
(まったく身勝手な奴だな。・・・あのエゴイスト)
それがまさしく清四郎愛用の香水の名前であることを、悠理が知る日が来るのかどうか。
それはまた別の物語。
                 【オワリ】

22黒い炎(清四郎鬼畜編)1:2002/09/02(月) 15:19
その日野梨子はいつものように両親と夕食を取った後、入浴を済ませた。
湯上がりの体に品の良い浴衣をまとい、自分の部屋へ戻っていく。
野梨子の部屋は本宅から渡り廊下を歩いた離れにある。
部屋に入り扉を閉め、横にある電気のスイッチを押そうとした時
野梨子はふとベッドに人の気配を感じた。
「待ってましたよ。そろそろお風呂から上がってくる頃だと
思ってましたからね」
「・・・清四郎・・・?」
驚いた野梨子は慌てて電気のスイッチを入れた。
パッと一瞬にして室内が明るくなる。
部屋のすみのベッドに軽く腰掛ける幼馴染みの姿が野梨子の目に入った。
清四郎はいつものように穏やかな笑みを浮かべて野梨子を見ている。
しかしその微笑の中に僅かながら暗い影があるのを野梨子は見逃さなかった。
「ど・・・どうしてここにいるんですの?それに何のご用ですの?」
野梨子の声は僅かに震えていた。
清四郎は部屋の入り口で立ち尽くしている野梨子に近づく。
「何年野梨子の幼馴染みをやってると思ってるんですか。
この家のことは自分の家のように知り尽くしていますからね。
それより野梨子、今日はずいぶん魅録と会話が弾んでいたようですね」
「み、魅録のいとこでお茶を習いたいという方がいるので
そのことでお話していただけですわ」
目の前に立つ清四郎を見上げながら野梨子は答えた。
「ふーん、まあいいでしょう。そうそう野梨子、今日はまた使ってみたい
薬がありましてね」
暗い笑みを浮かべながら清四郎は野梨子の首筋に手をやった。
そんな清四郎にぞっとしながらも拒むことができない野梨子だった。

23黒い炎(清四郎鬼畜編)2:2002/09/02(月) 15:24
湯上がりの体が、清四郎が触れた部分から急激に冷えていくのを感じた。
「清四郎…、怒ってますの?だって魅録のことは…」
消え入りそうな声で尋ねる野梨子を清四郎は無言で見つめている。

「野梨子、ちょっといいか」
今日の放課後、部室を出ようとした野梨子に声をかけてきたのは魅録だった。
「この間のことなんだけど、あいつ本格的にやってみたいって言うからさ」
「そうですの。それなら今度お会いしてみましょうか」
「そうだな。それじゃもう少し詰めた話を…って、お前清四郎待たせて
大丈夫か?」
清四郎と野梨子が付き合っているのはメンバー全員が知っている。
ひやかされたり皮肉を言われることもあったが、それでも全員が2人を祝福した。
その中でも特に魅録は、お互いを一番に想っていながらも
それに気づかず幼なじみの域から抜け出ない2人にやきもきしていたので、
喜びもひとしおだったし、それなりに2人の関係に気を使っていたのだ。
だから今も(いつも野梨子と下校する清四郎を待たせては悪いかな)と
魅録は思ったのだが
「いいですよ、野梨子。僕は先に帰ってますから」
背後からの声に魅録と野梨子が振り返る。
さっきまで読んでいた新聞をカバンにしまって、帰り支度をする清四郎がいた。
「え、でも…」
「いいから。でも帰りは気を付けるんですよ」
躊躇する野梨子の肩にポンと手を置く清四郎。
「悪いな、清四郎。なんなら俺が送って帰るから」
「じゃあ、頼みましたよ、魅録」
そう言って清四郎は魅録に微笑みながら部室を後にしたのだった。

24黒い炎(清四郎鬼畜編)3:2002/09/02(月) 15:32
あの時の清四郎は終始穏やかだった。
なのに今、目の前にいる清四郎は同じように微笑んでいながらも
目にあの時にはなかった暗い何かが潜んでいる。
「この薬なんですけどね。飲んでみてください」
清四郎が右のポケットから取り出したものは薄茶色の錠剤が2錠。
しかし飲めと言われて、素直にはいそうですかと飲むほど野梨子は
愚かではない。この状況で出してくるものなど、なおさらだ。
野梨子は首を横に振った。
「困りましたね」
くすりと笑って清四郎は最愛の人の頬をなでた。

清四郎が初めて野梨子を抱いたのはもちろん合意の上だった。
その後も数回肌を重ねたが、元来野梨子は古風な上そういった行為自体に
抵抗があり、まず自分から求めるということはなく行為に及んでも
常に消極的であった。
最初のうちは清四郎も愛しい野梨子を抱いているだけで満足していた。
野梨子の性格は十分すぎるほど分かっているし、野梨子に対して無理強いを
するなどもってのほかだと思っていた。
しかし時間が経つにつれ、人間というのはどこまで欲張りなのかと
思い知らされるようになる。
本当に自分で感じていてくれているのか。もっと感じてほしい。
もっともっと乱れさせてみたい、と。
そして野梨子を抱いていても、本当に自分のものなのか、
自分を思ってくれているのか不安になる。
野梨子が自分以外の男と一緒にいるのを見ると、どうしようもなくイライラする。
それが魅録であれ美童であれ、ほかの男なら尚更だ。
これが嫉妬だということを清四郎は分かっていたが、その感情を表に
出すことは清四郎の山より高いプライドが許さなかった。
だから今日、魅録と野梨子が一緒にいた時も余裕の態度を取った。
嫉妬心を悟られるなどとんでもないことだと思ったから。

25黒い炎(清四郎鬼畜編)4:2002/09/02(月) 15:38
野梨子への想いに気づくまで、自分がこんなに貪欲で嫉妬深いとは
思いもしなかった。
誰よりも愛しい何よりも大切な存在。
それゆえに自分が自分でなくなっていく。
だからその分のいらつきが全て野梨子に集中してしまう。
大切な大切な野梨子。自分をこんなに変えてしまった野梨子。
今、目の前の野梨子は精一杯の強がりで清四郎をにらみつけている。
怒った顔もきれいだなと思いながら、清四郎は手の平の薬2錠を
自分の口にほおり込んだ。
あっ、と野梨子が驚いた瞬間、清四郎の唇が野梨子の唇に重なった。
いきなりの激しいキス。野梨子は清四郎を引きはがそうとするが、
清四郎の力にかなうはずもない。唇をこじ開けられて、口内に舌が入り込む。
舌と一緒に錠剤が野梨子の口内に入ってきて、野梨子はいやいやと頭を振った。
しかし清四郎は野梨子の頭と腰をとらえて離さず、
より深くその柔らかい唇を貪った。
息もできない野梨子は口内にあふれかえる清四郎の唾液と一緒に
とうとう錠剤も飲み込んでしまった。

26黒い炎(清四郎鬼畜編)5:2002/09/13(金) 11:12
喉を通っていく固形物を吐き出そうと必死にもがく野梨子だったが
清四郎の腕が、唇が野梨子を捉えて離さない。
そもそも清四郎が薬を用いるのはこれが初めてではない。
今と似たような錠剤を飲まされたこともあれば、液状の何かを最も
恥ずかしいところに塗られたこともある。
そして必ずその後は体が燃えるように熱くなり、嫌なはずなのに
清四郎の前で狂態を見せてしまう。
だから今飲んでしまった錠剤がまた自分を自分でなくしてしまう
のではないかと野梨子は恐怖した。
「・・・・っ・・・はぁっ」
ようやく野梨子の唇から清四郎の唇が離れた。
長い口付けのために息ができなかった分を必死に取り戻そうと
早い呼吸を繰り返す野梨子だったが、清四郎は休む間を与えない。
野梨子の細い首筋に唇を這わせながら浴衣の上から柔らかな胸に触れる。

27黒い炎(清四郎鬼畜編)6:2002/09/13(金) 11:39
びくんと野梨子の体が反応した。
「や・・・やめて・・・」
野梨子が弱々しく訴えるが、清四郎は聞こえていないのか
あるいは聞いていないふりをしているのか、それに答えることなく
手の動きを強めていく。
布越しに清四郎の感触が伝わってくる。強弱をつけて胸を揉んでは
先端の突起を摘んだり押したりして野梨子を煽っていく。
「せ、清四郎・・・誰か来るかもっ・・・んっ・・・」
「野梨子は入浴後に勉強するのが日課でしょう?」
微笑みながら清四郎が言う。
ああ、この人は全部分かっているのだ。勉強中は誰も部屋に近づかない
ようにと家人に常に伝えていること。そして・・・
「それに野梨子の部屋は琴の練習のために防音がバッチリですからね。
 だから声を出しても大丈夫ですよ」
「そっ、そんな・・・」
「さっき言ったでしょう。この家のことは自分の家のように
 知り尽くしてるって。この部屋だって小さい時から何度も出入り
 してますからね」
そう言って清四郎は野梨子の唇を塞いだ。舌が入り込んできて口内を
くまなく犯す。
(逃れられない・・・)

・・・続くのか?もう何がなんだか・・・(w

28有閑名無しさん:2002/09/14(土) 01:13
夏が終ってしまうその前に(遅いか?)・・・。
>夏といえば。作者様
お化け屋敷内での清四郎と野梨子が気になって気になって×∞。(w
辛抱たまらずその時の二人を勝手に妄想してしまいました。スマソ!
二つのお話をリンクさせたかったので、所々文章を引用させて頂いておりますが
お許しを・・・。

29夏といえば。(勝手に清×野編・1):2002/09/14(土) 01:14
「ニセモノだって怖いもんは怖いんだよ!」
「所詮、紛い物ですもの。怖くなんかありませんわ」
悠理と野梨子は噛み付くような勢いで同時に叫んだ。
怖がる気持ちを全身で表す悠理と、それを悟られるのが嫌で必死に隠そうとする野梨子。
二人とも怖いと思っているのは同じなのに、どうしてこうも反応が対照的なのだろう?

その様子を興味深げに見つめていた清四郎は、ふと笑みを漏らす。
先程から強気な発言を繰り返している彼の幼馴染みは、両手を後ろで組み、
つんとした表情でそっぽを向いている。
この仕草をする時の彼女は大抵、心と逆の事を言っている時なのだという事を
清四郎は良く知っている。
(まったく……素直じゃないですね)
そこが可愛いんですが…と思いつつ隣を見ると、相変わらず怖い、嫌だとぎゃーぎゃー
喚いている悠理を見つめ、自分と同じような笑みを浮かべている魅録がいた。
視線に気付き、一瞬照れたような顔をした魅録は、片方の口の端をわずかに上げると
ニヤリと笑う。
(お互い苦労するな)
(まったくですね)
目で会話を交わし、ほくそえむ。
陰でそんな会話をされているとは思いもしない二人は、相変わらず無駄な論争を続けていた。

30夏といえば。(勝手に清×野編・2):2002/09/14(土) 01:16
ジャンケンにより自分達が一番手になった事を知ると、急に野梨子はそわそわし始めた。
「僕と一緒なら怖くないですよね、野梨子」
にっこり微笑んで清四郎が言うと、
「べっ、別に一緒じゃなくても大丈夫ですわよ」
あくまでも気丈に言ってのける。
しかしその一方で、白魚のような指はしっかりと清四郎の服の裾を掴んでいた。
少し笑うと、清四郎はその手を取って強く握る。
まるでそれが当たり前の事だとでもいうように。
一瞬、驚きの表情を浮かべた野梨子だったが、その顔から不思議と不安な影は薄れていた。

31夏といえば。(勝手に清×野編・3):2002/09/14(土) 01:19
入り口をくぐり抜けると、ひんやりとした空気が全身を包む。
お化け屋敷特有の、いかにもこれから恐ろしい事が起こるのだと思わせる何かが
辺り一面に立ち込め、入った者の気分を否応無しに盛り上げる。
(フム…この温度と湿度、時折聞こえる無気味な音に、なにやら怪しげな匂い。
これがまず入場者の気分を引き込むんですね。なかなか良く計算されています)
こんな時までついつい分析せずにはいられない自分を損な性分だと思いつつも、
ジャンルを問わない清四郎の探究心はとどまる事が無い。

「ねえ…、やっぱり清四郎も怖いんですの?」
興味津々の顔で辺りを見回している清四郎に、不安そうな顔で野梨子が尋ねた。
「えっ、どうしてです?」
「だって、さっきからずっと辺りをきょろきょろして……ひっ!!」
バサッと音がしたかと思うと、突然二人の目の前に得体の知れない何かが飛んできて、
すぐに姿を消す。
ごく単純な仕掛けだが、野梨子の気勢を削ぐには十分な効果をもたらしたようで、
なかなか次の足が前に出ようとしない。
「どうしました? 早く行かないと悠理達に追いつかれてしまいますよ」
「だって…」
涙目になっている野梨子を見て、清四郎は自分の好奇心にかまけるあまり、うっかり
怖がっている野梨子の事を失念していたのに気付いた。

32夏といえば。(勝手に清×野編・4):2002/09/14(土) 01:22
「すみません、野梨子! お化け屋敷なんて久しぶりだったので、つい興味ばかりが
先行してしまって…。勘弁して下さい」
慌てて謝ったものの、
「知ってますわよ、それが清四郎の性分ですもの。ほとんど病気みたいな物ですわよね」
忘れられていた事に腹を立てているのか、少し拗ねた顔で野梨子が答えた。
その表情につい口元がほころんでしまうが、じろっと睨まれて慌てて清四郎は真顔に戻る。
こうなってしまうと彼女の機嫌を取るのは少々難しい。
長い付き合いから清四郎はそれをよく知っていたが、折角の二人きりの貴重な時間を
こんな所で無駄に使ってしまうのは余りにも惜しい。
どうしたものか…と考えあぐねていると、どこからか男女の「ぎゃーーっ!!」という絶叫が響き、
その凄まじさに、びくっとした野梨子は思わず清四郎の方に身を寄せた。
その機を逃さず、
「ほら、後ろが詰まってしまいますからね。先に進みましょう」
清四郎が促すと、今の悲鳴で身がすくんでしまったのか、怒っていたのも忘れ
こっくりと野梨子は頷いた。

33有閑名無しさん:2002/09/14(土) 01:23
続きます・・・。
たいした萌えシーンも無いほのぼの話で恐縮ですが、暫しお付き合い下さいませ。
清四郎が野梨子にベタ惚れというシチュエーション、私も好きです。
そしてそれに野梨子が気付いていなかったりすると更に萌え・・・。
スマソ、野梨子マンセーなものですから。(w

34夏といえば。(勝手に清×野編・5):2002/09/18(水) 23:06
>>32の続き
何か仕掛けが働く度、ことごとく野梨子は小さな悲鳴を上げる。
つないでいた手はいつの間にか清四郎の腕にしっかりと回され、必死の形相で
しがみついてくる野梨子の身体からは、この上なく柔らかな感触が伝わってくる。
(ううむ…、どこの遊園地でもお化け屋敷の人気の高い理由が分かる気がしますね)
その感触をしみじみと味わいながら、清四郎は思う。
先程悠理が、「なんでわざわざ怖い思いしに入んなきゃいけないんだよお!」と、
涙ながらに叫んでいたが、こういう物が苦手な者にしてみたら、確かにこれは全く
理解不可能な遊びに違いない。
だが、お化け屋敷の人気は一向に衰える事を知らず、主催する側もいろいろと趣向を
凝らしては、あの手この手で驚かそう、怖がらせようとし、もはや夏の風物詩と言っても
過言ではない。
そしてこれほど男にとって役得を感じさせるアトラクションというのも、そう無いだろう。
遊園地をデートコースに選ぶカップルがいる限り、この手のアトラクションは、決して
廃れる事は無いのに違いない。

35夏といえば。(勝手に清×野編・6):2002/09/18(水) 23:08
そんな事を考えながら歩く清四郎に、少しばかり悪戯心が湧いた。
すっ…と野梨子の肩に手を回し、抱き寄せてみると、その事に気付いているのかいないのか
野梨子は清四郎の胸の辺りをしっかりと掴んだまま、ぴったりと身体を寄せてくる。
顔を覗き込むと、薄暗い中でも小さく唇が震えているのが分かり、思わず清四郎は
くすっと笑った。
「一体どうしたんです?あの蛇様にも怯まなかった野梨子が、人の作った紛い物のお化けを
そんなに怖がるなんて」
「あの時とは覚悟の仕方が違いますもの!命に関わる事でしたら開き直りもしますわよ!」
必死な様子で訴える、悲鳴にも近い切羽詰った声が、またしても清四郎の笑いを誘う。
覚悟を決めた時は他の誰よりも強いのに、こういう単純な事だと逆に怖がったりする様が
なんとも可愛い。
手に触れる華奢な肩からは野梨子の不安と脅えが直に伝わってきて、愛しさに、このまま
抱きしめてしまいたい衝動に駆られるが、いきなりそんな事をしたら典型的なお嬢様である
野梨子に驚かれてしまうだろう。
たとえそれが、絶対の信頼を勝ち得ていると自負している、自分であったとしても。
己の想いを、清四郎が持て余していた、その時――――

「あっ!今、出口の明かりがちらっと見えましたわ!」
ほっ…と息をつき身体を離した瞬間、まるでそれを狙っていたかの如く絶妙のタイミングで、
物陰からいきなり血だらけの人形が倒れ込んできた。
「きゃああああっ!!!!!」
完全にふいを突かれた野梨子は、つんざくような悲鳴を上げたかと思うと、清四郎の胸に
飛び込むようにして逃げ込んだ。

36夏といえば。(勝手に清×野編・7):2002/09/18(水) 23:10
(ふむ、出口が近い事を匂わせ、油断した瞬間に一番大きな仕掛けで驚かすとは…。
人間の心理を非常に上手く突いていますね。実に面白い。
こうなると、俄然自分でもお化け屋敷を作ってみたくなりますね。
入ってくる人間をじわじわ内側から追い詰めて、それこそ途中で全員が
リタイヤする程の、最高に怖い代物を…)
それは非常に興味深い研究内容ではあった。
恐怖に対する人間の心理を徹底的に突き詰め、その研究結果に倶楽部のメンバーの
知識と財力を結集すれば、おそらく清四郎が思い描くような、今までに無い規模の
とてつもなく恐ろしいホラーハウスが出来上がることだろう。
……しかし今はそれを考える時ではない。
なにしろ野梨子の方から抱きついてきてくれているのだから。
思いがけない幸運に、清四郎はお化け屋敷のバイトの面々に感謝したいくらいだった。

「もう!いやぁ!!」
半泣きになりながら、野梨子は必死の様子で清四郎にしがみついている。
その足はガクガクと震え、一人では立っている事もままならない。
それを支えるようにして腕を回し、抱き寄せると、小さな背中が小刻みに
震えているのが分かる。
腕の中にすっぽりと収まってしまう、華奢で柔らかな身体。
ふわりと香る髪の匂いに、背中に回した腕に知らず知らず力が入ってしまう。
(く…、場所がここでさえ無ければ…)
ここで無ければどうしていたのかは甚だ疑問だが、辛うじて清四郎はその心を抑える。
しかしそれは彼の理性をもってしても、非常に辛い作業だった。

続きます。

37有閑名無しさん:2002/09/18(水) 23:11
次で終わりです。もう少しだけお付き合い下さいませ。
感想レスありがとうございました。う、嬉しい・・・。
本当にここはいろいろな妄想パターンがあって楽しいですよね。
前に書いたのとチョト被りますが、私の脳内では、『本当は野梨子を幼馴染み以上に
思っているけど、その事に野梨子が全く気付いていないので、なかなか今の関係を
壊せずにいる清四郎』というパターンが一番多いかも。(w
とか言いつつ、ほのぼのとR物、どちらか一つだけ読ませてやろうと言われたら
迷わずRを取ると思いますが。(何か?)

38新連載のお知らせ:2002/09/20(金) 20:06
新しく連載をさせて頂きます。葉子(ようこ)と申します。内容は清×悠になると思います。
短編ということで、5回くらいで終わると思います!!。まだまだ未熟者ですが、宜しく
お願いします!!。

39イギリス大旅行大作戦(1):2002/09/20(金) 20:27
有閑倶楽部の部室。ここではある話し合いが設けられていた。
「あたいは、ブラジル!!。日本の裏側なんだい!!。」
「僕は、香港!!。彼女も居るし、花凋ちゃんにも会える♪。」
「あんたは女がいる所ならどこでもいいんでしょ!!。」
「そういう可憐はどうなんだよ。」
「魅録の言う通りですわ。」
「僕は、イギリスがいいですね。」
「イギリス行きに決定!!。」
「何でだよ〜。あたいの意見は〜!!。」
「日本の裏側ってことなんて誰でも知ってるだろ。」
「僕の意見は〜?。」
「女が居るからなんて理由にならない!!。」
「皆で口を揃えて言わなくたって…。」
「さっそく明日ですね。」
これが今回の事件の始まり。誰も知らない事件の…。

シリアス系の終わり方ですが、内容は爆笑珍道中系です!!。

40有閑名無しさん:2002/09/21(土) 04:47
夏といえば。(勝手に清×野編)の続きです。
視点が清四郎だったり野梨子になったりと、おかしい箇所が多々ありますが
ご容赦下さい。
それ以前に、もっとおかしな部分(キャラ チガイスギダゾゴルァ!とか)もありますが、
勘弁して下さい。(w

41夏といえば。(勝手に清×野編・8):2002/09/21(土) 04:48
>>36の続きです
もう少しこのままでいたいというのが正直な気持ちだったが、いつまでもここに
こうしている訳にもいかず、やがて残念そうな溜息を一つつくと、清四郎は野梨子の耳に
そっと唇を寄せ、囁いた。
「ほら、もう大丈夫ですよ、野梨子」
髪を撫でてやりながら言い聞かせるようにして宥めると、恐る恐る野梨子は顔を上げる。
だが、その目に見つめられた途端、逆に清四郎の方が、ぐっ…と言葉に詰まり、固まってしまった。

縋るように自分を見上げる、涙で潤んだ大きな瞳。
その持ち主は、まだ怖さが完全に抜け切らないのか、胸に顔を埋めると
甘えるように身をすり寄せてくる。
余りにも無防備で、どんな男の理性をも忽ち砕いてしまうような、無意識の媚態――。

駄目だ、限界だ―――――――

薄暗がりの中、何かが額に触れた気がして、そろそろと顔を上げた野梨子の唇に、
つっ…と唇を触れ合わせる。
それこそ触れたか触れないか分からない程に、軽く。
え…?と野梨子が思った時には、清四郎は既にその手を取り、歩き出していた。
(今、キスされたような…?でもまさか……)
混乱する野梨子とは裏腹に、清四郎はいつもの表情のまま、すたすたと歩いている。
「ぎゃーーーーーーっ!!」
後ろから悠理の悲鳴が聞こえた。
おそらく悠理も、あの血だらけの人形が倒れてくる所で、同じように引っ掛かったのに違いない。
そして今頃は魅録の胸にしがみついているのだろうか。思わず自分が清四郎にそうしてしまったように。
そこまで思って、野梨子は顔を赤らめた。
今更ながらその事を恥らいつつ、自分の手を引いて歩く清四郎を、ちらっと見上げる。
いつの間にか、怖さで震えていた事なんて、野梨子の頭の中から吹っ飛んでしまっていた。

42夏といえば。(勝手に清×野編・9):2002/09/21(土) 04:50
出口に辿り着くと、外の眩しさに目が眩む。
「どうせ子供騙しだろうと期待していなかったんですが、なかなか楽しめましたな」
やっと慣れてきた目で辺りを見回すと、すぐ隣に、にっこり笑って立っている清四郎がいた。
思わず胸がどきん、としたが、清四郎の様子はいつもと何ら変わりない。
(…私の気のせいだったのかしら……?)
指先で唇にそっと触れる。
確かにそんな気がしたのだが…と、もう一度隣を見上げると、ばっちり目があったと思った瞬間、
この意地悪な幼馴染みは口の端に意味深な笑みを浮かべ、ニヤリと笑った。

43夏といえば。(勝手に清×野編・10):2002/09/21(土) 04:51
やっぱり気のせいなんかじゃ無かった…!!
かあっと頬を赤らめた時、後ろから騒がしい声が聞こえ振り返ると、ちょうど4人まとめて
出口に姿を見せたところだった。
「おや、みんな一緒だったんですか?」
「悠理達に追いついちゃったのよ。だって美童ったらいきなり走り出すんだもの!」
「え〜、可憐の方が先だったよお!!」
ゼーゼーと息を切らしている美童と可憐に、どこか憮然とした面持ちの魅録。
そして心なしか、桜色の頬をしている悠理。
彼等の様子を見て、即座に状況を理解した清四郎は、ぶすっとしている魅録の肩を
ぽん、と叩くと、耳元で何事か囁いた。
途端に魅録が、コノヤロ…!と殴りかかるのを難なくかわし、笑っている。
「あいつら、何やってんだ?」
「さ、さあ…?知りませんわ」
悠理と同じように桜色の頬をした野梨子が、そっぽを向きながら答えた。

その日の帰り道でのこと。
「なぁ、魅録。あん時清四郎、何て言ったんだよ」
「別に。たいした事じゃねえよ」
咥えていたタバコをぽい、と放り投げ、忌々しげに足で踏み消す。
(くそ、清四郎の奴!折角のおいしい場面でしたのに残念でしたね、だとお!!
 まったく嫌味なヤローだぜ!それにしても…)
あいつの方はうまくやったみたいだな…と、前を歩く二人の距離が、いつもより
ずっと近い事に、いちはやく気付く魅録なのであった。
おわり

44有閑名無しさん:2002/09/21(土) 04:53
野梨子はこんなに臆病じゃないわ!と思った方、スマソ!(私もそう思います・・・)
普段は気丈な野梨子だけど、二人きりの時くらいは清四郎に甘えてホスィという
私の願望がもろに入ってしまいました。
夏といえば。作者様、思わず妄想に走ってしまうようなおいしいネタを、
どうもありがとうございました。
ポヤーと続きを考えながら妄想に耽っている間、とても楽しかったです。
それでは、更なるチャンスが一日も早く魅録に訪れる事を祈りつつ・・・。(w

45イギリス大旅行大作戦(2):2002/09/21(土) 08:16
イギリスについた六人。大事件の始まりは意外にも明るく…。
「イギリスのアイスクリームって美味いんだよな〜!!。」
「あら、ジュエリーの方も素敵よ〜。」
「カッケー車!!。」
「女の子も可愛い!!。」
「はしゃいでいる所悪いんですけど、背後に何かの気配がするんですけどね。」
「私も。気味が悪いですわ。」
「悠理の顔が青白いわよ!!。」
「悠理、何か見えるんですの?。」
「悠理、大丈夫か!!。」
(この時は清四郎と悠理はすでに付き合っているのです。)
そのとき、事件が起こった…。
「マオタイのユウカンクラブナンテダイキライソフトクリーム」
「あ〜!!。マオタイ!!。」

46イギリス大旅行大作戦(3):2002/09/22(日) 09:35
そこに居たのは、またまた脱獄してきたマオタイ。
「マオタイの後ろになんか見える〜。」
「悠理、何が見えるんですか?。」
「足のないおばちゃん〜。」
「清四郎、危ないのかもよ?悠理だけ連れてホテルに行きなさい。」
「可憐、有難う。そうしますよ。」
ホテルに着いた二人。
「なんじゃこれ〜!!」
「驚きましたね。」
その部屋は、イギリスに来ると美童も使うというスイートルーム。
「可憐はこんな気配りを。」
「ダブルベットじゃないか〜〜。」
「しかもキングサイズ。まあ、付き合っているし、いいじゃないですか。」
清四郎は、そう言いながら悠理の額にキスを落とす。
「まあ、それもいいかな?」
清四郎は、悠理の唇にキスをした。
「恋人だけっていうのもいいでしょう。」
この素敵な一日が、一本の電話から終わってしまおうとは。誰も予想できなかった…。

47イギリス大旅行大作戦(4):2002/09/22(日) 10:21
PM9:00
「pipipipi!!pipipipi!!」
「清四郎、電話だじょ。」
「悠理が出ればいいじゃないですか。」
「わかったじょ。 もしもし?」
「悠理?悠理なの?」
「可憐か。どうかしたのか。」
「助けてーー!!!!」
「待って!!そこはどこだ?」
「ピーピーピーピー」
「切れた…。可憐たちが危ない!!」
「悠理、一体どうしたんですか?」
「pipipipi!!pipipipi!!」
「今度は僕が出たほうがいいですね。もしもし?」
「フロントからです。すぐに部屋の外へ出てください!!」
「どうかなさったんですか?」
「いいから早く!!」
「わかりました。何か起こったんですか?落ち着いて話して下さい。」
「ピーピーピーピー」
「悠理、荷物はまとめてありますね。」
「どうかしたのか?。」
「何か起こったようですよ。」
「荷物はまとめてある。さあ、出よう。」
「待った!!その格好じゃ駄目ですよ!!」
「なんでだよ!!あっ!!」
悠理は、上半身にバスローブをかけてあるだけの格好をしていたのだ。いつの間に、
清四郎は着替えたのであろうか。
「着替えは終わりましたか?急いで出ますよ!!」
清四郎がドアを開けようとした瞬間!!
「バーーーーーーーン!!!!!!!!!!!」
ドアを閉めようとしたが、もうときすでに遅し。
「久しぶりある。清四郎、悠理!!お前達の仲間は、わしらのアジトに居る。」
「バカなこと言うな!!そんなの…」
悠理と清四郎は、睡眠薬を食事の中に入れられていたのだ。一人の従業員も、マオタイ達
の仲間だったのだ。眠くて、ヤクザ達の中に倒れこんでしまった清四郎と悠理。その後に
入った電話の内容も知らず…。

48黒い炎(清四郎鬼畜編)7:2002/09/24(火) 17:17
観念したように抵抗をやめ清四郎にもたれかかる野梨子。
そんな野梨子の重みを全身で受け止めながらも清四郎は浴衣の上からの
愛撫を怠らない。
片方の手で胸をまさぐり、もう片方の手はすらりと伸びた脚に向かう。
そんなもどかしい愛撫に野梨子はモゾモゾと体をくねらす。
(ああ・・・何だかもう私・・・)
浴衣の上からでなく直接触れてほしい、と思っている。
でもそんなこと口が裂けても言いたくない。
「どうしました?息が荒くなってますよ」
そう言って清四郎はもう一度野梨子に深い口づけをした。
口づけながらも相変わらず愛撫は浴衣の上からで
どうしようもないもどかしさを感じながら野梨子は清四郎の背中を叩いた。
わざと直に触れないのだと、自分を煽っているのだと分かったから。
こんな自分はいやだと思いながらも、もう一方で清四郎の愛撫を求めて
やまない自分がいる。
さっきの薬・・・こんな風に思うのはさっきの薬のせいに違いない。
だからこんなにも体が熱いのだ。
そう思った時、清四郎の手が下腹部に伸びてきて
下着の上から大事な部分に触れてきた。
「やっ…!」
野梨子は必死に身をよじる。
「少し触れただけなのにずいぶん濡れてますね。下着の上からでも
 分かりますよ…」
その言葉にかあっと赤らむ野梨子。
「せっ、清四郎が妙な薬を飲またから…」
野梨子は精一杯の強がりで清四郎をにらむ。
「薬…?ああ、さっきの。これのことですか?」
清四郎は野梨子を抱きしめたままズボンの後ろポケットから
小さな小ビンを取り出した。
「!!」

49黒い炎(清四郎鬼畜編)8:2002/09/24(火) 17:22
野梨子はその小ビンについているラベルに目を見張った。

     『マルチビタミン』

「野梨子はビタミン剤を飲むとこんなになってしまうんですか?」
くすりと笑って清四郎はビンをポケットにしまった。
「そ…そんな…」
あれが本当にビタミン剤だとすれば、自分はどうしてこんなことにに
なってしまっているのか。
困惑する野梨子に追い討ちをかけるように
「もう薬の力を借りなくても野梨子の体は十分敏感になったって
 ことですかね」
清四郎が耳元で囁く。
その吐息にさえびくんと体が反応してしまう。
何度も体を重ねて、薬も何度か使われた結果
こんな体になってしまったのだろうか。
だまされたことよりも羞恥心の方が勝って
野梨子の大きな瞳から大粒の涙がぽろぽろ流れた。
「ああ、ちょっと意地悪しすぎましたね」
清四郎はそう言って野梨子の頬を伝う涙を唇で吸い取った。

50黒い炎(ぼやき):2002/09/24(火) 17:25
す・・・すみません・・・
小ネタのつもりだったのに延々と長くなってしまって・・・
しかもこれってR指定ですか?まだギリギリかなあ・・・
清×野の皆様を萌えさせるエロは書けないと思うので
この先どうしようかなあと思案中です(w
本当は私もかわいい清×野が一番なんですけどね。

51イギリス大旅行大作戦(5):2002/09/25(水) 18:16
「清四郎、悠理、大丈夫?」
「あなたは?」
甘い匂いがする。懐かしいいようなトーンの高い声。
「花凋だ!!」
「私のお兄さん、まじめに働いてたね。でも、その会社にマオタイが来て、お兄さん
脅迫したね。でも、それは、あの時のお兄さんにはできることじゃなかったね。私、
その代わりにここに居るね。でも、いつかはヤクザに襲われるね。私の護身術、
効かないね…」
「花凋、泣かないで。それで、魅録たちはどこに?」
「そうだった!!一緒に来て下さい!!可憐と野梨子の命が危ないです!!」
「ドーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「可憐!!魅録!!野梨子!!美童!!」

52イギリス大旅行大作戦(6):2002/09/25(水) 18:29
「あら、清四郎に悠理じゃない!!」
「可憐、野梨子、魅録、美童お前ら何やってんだよ!!」
「ああ、マオタイ達をやっつけようと思ってね。爆発させてきた。」
「人がどれだけ心配したと思ってんだよ!!」
「それはこっちの台詞よ!!」
「とにかく、もうすぐ驚いたマオタイが出てくると思うから。ばれないように、裏口
からそっと出るんだ!!」
「もう遅いある。」
「マオタイ!!」
「花凋、お前組織裏切ったあるね。組織裏切った奴、殺されるあるね。」
「そんなの、嫌!!私、まだ死にたくない!!お兄さんの仇、打ってない!!打つまで
死ねない!!」
マオタイは油断している。すると、
「バキッ!!!!!」
「何するあるか!!!!!」
「花凋の仇だよ!!花凋もやって!!あたいが認める!!」
「…」
「花凋、どうしたんだよ?」
「暴力では解決したくないよ。マオタイ、私の話を聞いて。私は、お兄さん、いや兄さん
の仇を討ちたくってここに来た。でも、暴力で解決なんてして欲しくない!!」

53イギリス大旅行大作戦(7):2002/10/08(火) 18:52
「花凋…」
「護身術と暴力は違うね。もし、悠理達のが、戦争でもなく暴力でもないのならば、
正々堂々戦って見せるよ!」
「あったりまえじゃん!ケンカだよ!」
「その言葉を聞いて安心したよ。」
「じゃあ、やりますか!」
「兄さんの仇!幸せを奪った仇!楽しみを奪った仇!世界中の仇!」
七人の言葉が一つになったとき、悠理と花凋がマオタイを蹴り上げた。そのとき、
「花凋!」
「兄さん!会えてよかった!本当に…」
「マオタイが泣いてるよ。」
「もう、やめたある!悪徳商法なんて、やめたある!悪かったある!」
「警視総監の松竹梅時宗だ!神妙にお縄を頂戴しろ!」


翌日、そこには取調べを受け終わった有閑メンバー、花凋の姿があった。
「兄さんは居ないけど…」
「仕方ないですわ。病院なんですから。」
「じゃあ、あたい達は帰るけど、何かあったら連絡してくれよな。」
「日本にも遊びにきてくださいね。」
「待っていますわ!」
「宝石だって見せてあげられるし!」
「バイクだって見に来てくれよな!」
「僕とデートしようね!」
「あんたはしつこい!」
「じゃあ、元気で!」
「また、会おう!さよなら!」

悠理達の爆笑珍道中の旅は、終わりを告げた。


と、ここでおしまいです。読者の皆さん、お疲れ様でした!新連載の予告をさせて
頂きます。長編なのですが、内容はこんな恋愛ってあり?という物です。宜しくお
願い致します!

54有閑名無しさん:2002/10/25(金) 23:21
清四郎の倶楽部外のお相手、というのを小ネタ編で見つけて、つい、妄想してしまいました。
酔いに任せて初めてかいてみました。お目汚しですみません。お酒ってコワイ。

テストでいい点が取れたらご褒美に何が欲しい?と、問うたら
「じゃあ、“ニナ”が欲しい」
ニナを求めたのは野梨子の家とは逆隣になる越乃家の一人娘 美月(みつき)。
聖プレジデント・中等部の2学年になった。
「は?ニナ?ニナ・リッチのフレグランスですか?香水はまだ早いんじゃない?」と
普段の口振とは違う清四郎が答える。
清四郎は時々美月の数学と、化学を見てやっている。
年下の美月。
清四郎は今でも、絹とレースのおくるみに包まれて安らかに眠る美月を覚えている。
覚束ない足取りで泣きべそをかきながら、自分の後を追ってきた―尤も、ワザと泣かせていた事もあるが―時、幼稚舎の制服を初めて来た時も、ピアノの先生に誉められたと
報告してきた時も。清四郎はいつも嬉しく、誇らしかった。
年長の者なら当たり前に出来る事に、目を輝かせ、賛美の言葉を送ってくる。
自分が意図しない処に尊敬を抱き、年上の余裕でからかえば予想外の反応をする。
幼馴染の野梨子とは違う感覚の存在。
「妹がいたらこんな風ですかね。」そう思っていた。 ところが、どうだ。
(香水・・・ですか。もう、大人びたい年頃なんでしょうかね。) 
少々不機嫌な美月の横顔を見ながら、お兄さんぶった清四郎は思う。
(あぁ、髪がずいぶん伸びましたね。もうすぐ腰まで届きそうだ。)
ふと、ある事が清四郎の頭をよぎる。

5554続き:2002/10/25(金) 23:23
二年程前、野梨子の日本舞踊の舞台に招待され、二人で観に行った時のことだ。
「清四郎と野梨子ちゃんは、お付き合いをしているの?」と、唐突に訊いてきた。
「野梨子とは幼馴染だよ。あまりませた事を言うんじゃありません。」
そんな事に興味を持つ年頃になりましたか。内心苦笑しながら窘めるように答えた。
美月は舞台に目を向けたまま次の質問をする。
「清四郎はどういう人がタイプなの?」
「そうですね。千寿婦人は美しい方だと思いますよ。」美月にも見識のある貴婦人の
名前を適当に挙げた。
「ふうん・・・。千寿様・・・かぁ。」そう呟いたきり、舞台の上で、恋情に捕われ、火を放つ女となった野梨子をじっと見つめ続けていた。

ただ、何の気なしに口にした人。千寿婦人。
そうだ、その人は美しい黒髪を持ち、夫から今も贈られている“ニナ”をいつも
纏っていた。
まさか、まさか。偶然ですよ。鎌首を擡げた疑問を払拭しようとする。しかし・・・。

5655続き:2002/10/25(金) 23:31
妹の様だと僕は勝手に思っていた。
美月は?僕を兄だと思って慕っていたのだろうか?
目の前で、俯き加減に数式を解いているのは―誰だ?美月ではないのか?
髪を掻き揚げる、こんな仕草を美月はいつからするようになった?
時折見える白い項が、甘い香りを燻らせた気がして、清四郎は軽い眩暈を覚えた。

                            〜〜〜END〜〜〜

ん〜難しいですね。越乃も千寿も、一応お酒の名前です。サマになってないですが。
野梨子の演目は八百屋お七ですが、日本舞踊の踊るかはしりません。
全くいいかげんで・・・すみません。
清四郎が炉利とかではないです。存在の変化を書くことに挑戦したかったのですが。
ご気分を害された方が殆どだと思います。申し訳御座いません。

57有閑名無しさん:2002/11/03(日) 21:36
野梨子いじめうpします。
嫌な方はスルーでよろしくお願いします。
ちなみに清×悠はいってます。

その日の放課後、野梨子は職員室にいた。
別に悠理のように怒られる為ではない。
怒られるのなら、まず校長室だ。
いや、そういう事でなく、古典の教師に下級生の為の資料作りを手伝わされていたのだった。
延々古文をよみ、資料化していく。
その作業は例え、才女の野梨子であっても辛いものである事には違いなかった。
しかも窓際での作業は、暖かな日差しを運び眠気を誘う。
(こんなとき、清四郎がいてくれたらもっと作業もはかどりますのに・・)
ペンを置き、眠気を取る為小さく伸びをしてそんなことを思った。
幼馴染の清四郎は、野梨子よりもこういう作業が得意である。
あの嫌味な性格も、元はといえばそういう性質の賜物なのである。
悠理には最初から頭が良かったかのように言われていたが、野理子は清四郎がみんなの知らないところで色々努力しているのを幼いころから見ていた。
みんなの知らない清四郎を知っている、そんな優越感にも似た感情がいつのまにか独占欲というものに形を変えていった。
自分の知らない清四郎があってはならない。
清四郎の事なら自分が一番良く知っている。
幼馴染は野梨子にとって特別な存在になっていった。

58野梨子いじめ(2):2002/11/03(日) 21:37
「白鹿さん、ごめんなさいね。あなた一人にこんな作業を手伝わせてしまって」
まるで野梨子の思考を読んだかのように、教師が申し訳なさそうな顔をしている。
「とんでもありませんわ。私なんかでお役に立てるのでしたら、いつでもお手伝いさせていただきます」
野梨子はにっこり微笑んだ。
その笑みに、教師もほっとしたような顔をする。
「菊正宗君もいてくれたら、もっと助かったのですけど。見当たらなくって・・」
(やっぱり先生も、清四郎を当てにしてますのね)
その事がなんだか誇らしい。
「清四郎・・申し訳ありません、菊正宗君なら生徒会室だと思いますけど」
どうせ、みんなでこの職員室の向いにあたる校舎の一室で駄弁っているに違いない。
呼んできますわね、そう言おうと口を開きかけた。
「それが、いなかったのよ」
教師のその一言で、言葉を飲みこむ。
「え?」
「生徒会室、私もさっき覗いたのですけど、誰もいなかったのよ」
残念そうな教師にも、野梨子の思考は別のところにあった。
(いない・・?今朝は誰も用事があるとは言ってなかったですわよね・・・)
もちろん、急に用事ができることもあるだろう。
だが、全員となると・・。
少なくとも清四郎だけはいるはずだと思っていた。
何故ならば、野梨子が資料整理を手伝うことは昼休みに話して知っていたはずなのだから。
話したとき、実は野梨子には僅かに期待があった。
清四郎が手伝うと言ってくれるのではないかと。
だが、清四郎は「大変ですね。頑張ってください」
そう言っただけだった。
少なからずショックは受けたものの、頼まれてもいない自分がでしゃばることはない、そう彼が思った所為だと納得させた。
それでも、せめて待っていてくれているものだと思っていた。

59野梨子いじめ(3):2002/11/03(日) 21:37
「少し休憩しましょう。お茶でも入れてきますわね」
野梨子の無言を疲れた為ととったのか、教師が席を立った。
(帰ってしまったのかしら・・・)
向いの生徒会室に目をやる。
すると、誰かの影が映った。
ひとり・・・ふたり・・・。
「なんだ、やっぱり誰かいるんですわ」
(たまたま先生が言ったときに誰もいなかったか、居留守を使ったのか、そんなところですわね)
ふふっと笑う。
しかし、もう一度生徒会室に目をやったとき、その顔から笑みが消えた。

「せい・・し・・ろう・・・?」
野梨子の目に映った、その光景は清四郎と悠理の抱き合う姿だった。
ただ抱き合っていたわけではない。
顔が重なっている。
窓際だというのに、そんなこと全く関係ないと思っているのか、それとも自分たちを見ている者などいないとでも思っているのか。
二人は徐々に、互いの体を貪っていく。
清四郎の手は悠理のスカートの中へと滑っていった。
「清四郎・・・・」
野梨子は信じられない光景に、手で口を塞ぎ大きく目を見開いたまま動けなくなってしまった。
まさか、野梨子に見られているとは思っていない二人はさらに行為をエスカレートさせていく。
清四郎は大きく反らされた悠理の首筋に唇を這わせ、その細い脚の片方を自分の腰に巻きつかせている。
手はその脚の隙間に入りこんでいた。
(ち、違う!あれは清四郎じゃないわ!!)
だが、目を逸らす事ができなかった。

60野梨子いじめ(4):2002/11/03(日) 21:38
突然悠理が体を離し、なにかを言った。
悠理の言葉に清四郎がこちらを見た。
咄嗟に隠れる所を探す。
だが向こうからは見えていなかったのか、その顔に変化は見られない。
悠理に何事かを言い、また行為を再開させた。
それでも、まだ悠理はなにか言ったようだ。
清四郎から体を離し、窓に両手をつけて外を覗き込んでいる。
やはり、誰かに見られていないか気になったのであろう。
そんな悠理を後ろから抱きしめ、キスを交わすと、窓際から姿を消した。

野梨子は自分の身体が小刻みに震えているのがわかった。
吐き気もする。
(清四郎と悠理が・・・・)

―――お茶を運んできた教師の声が聞こえた気がした。

61野梨子いじめ書きです:2002/11/03(日) 21:40
野梨子ファンの皆さんごめんなさい。
清×悠ファンの皆さんごめんなさい。
なんとなく頭に浮かんだのでうpしてみました。
お目汚し、スマソ

62有閑名無しさん:2002/11/03(日) 23:22
>61
えっ!?まさかこれで終わり!?
続き激しく激しく激しーーーーくきぼんぬ。

63野梨子いじめ(5):2002/11/04(月) 13:22
遠くで誰かの声がする・・・。
泣いている・・?
誰・・・。あぁ、悠理ですわね・・・。
どうしましたのかしら?どうして、泣いているのかしら・・・・。
また、清四郎がなにか言ったんですわね。
本当に・・。

視界が徐々に明るくなっていった。
体が重い。
ぼんやりとした白い景色に、突然見慣れた顔が割りこんだ。
「野梨子!!気が付いたんだな!!良かったぁ〜!!」
眼に涙をいっぱい溜めた悠理が首筋に抱きつく。
「ゆ・・うり・・?」
「驚きましたよ。突然職員室の方から悲鳴が聞こえて、何事かと思って行ってみれば野梨子が急に倒れたと言うし・・・。3時間も眠ってたんですよ。体調、悪かったんですか?」
(・・・職員室)
「なかなか目が覚めないからどうしようかと思ったんだぞ」
そんな悠理の声は野梨子には届いていなかった。

64野梨子いじめ(6):2002/11/04(月) 13:23
悠理を引き剥がす清四郎の言葉に、自分が気を失っていた事を知った。
(ここは・・・保健室?生徒会室ではないんですのね・・・)
なんとなく可笑しい。
だが、却ってその方が良かった。
全てをはっきりと思い出したのだ。
「―――出ていっていただけますかしら」
「え?」
嬉しそうに涙を拭っていた悠理の手が止まる。
「野梨子?」
清四郎が不思議そうな顔で近づこうとした。
「近寄らないで下さいな。汚らわしい!!」
その言葉に動きが固まる。
野梨子は体を起こし、キッと正面を見据えた。
そして、ゆっくりとベッド脇の二人へと、顔を向けた。

「出ていってください、と言ったんです。あなた達の顔を見ていたくないんですの」
「どういうことだよ・・・」
顔色が変わっていく悠理を、軽蔑した様に小さく口元だけで笑って見せた。
「恥知らずにも、程がありますわね。そう言う事ですわ。わかったらさっさと出ていってくださいな。汚らわしい」
本当に汚いものを見るような目つきで言い放った。
「―――わかりました。行きましょう、悠理」
悠理の肩を抱き促す。
動けなくなっていた悠理は、先ほどの野梨子と同じように小刻みに震えていた。
野梨子は二人から顔を逸らした。
ドアが閉まる音が聞こえたとき、頬に、冷たいものを感じた。
片腕で体を抱き、もう片方で口を塞ぐ。
そうしていないと、自分がどうにかなってしまう気がした。
瞳からは止めど無く、涙が零れる。
自分でもどうして泣いているのかわからなかった。

65野梨子いじめ(7):2002/11/04(月) 13:24
「野梨子」
カッと眼を見開き、声のした方に恐る恐る顔を向ける。
そこには、悲しげな顔をする短髪の男がいた。
「大丈夫か、野梨子」
ゆっくりと近づいてくる。
その男、魅録を見つめたまま体が動かない。
見られてた・・・。聞かれていた・・・。
「気付いてなかったんだな。俺もいたこと・・」
「どうして・・・」
魅録が私服である事に気付いた。
「呼び出されたんだよ、二人に。野梨子が突然倒れたってな・・。後の二人は連絡がつかないってさ。・・・大丈夫か?」
見られていたのだ。
あの二人を軽蔑した事を。拒絶した事を。
見られていた・・・・。

不意に体がものすごい力に拘束された。
視界が暗くなる。
「何があったのかは聞かないさ。だけど、そんなお前は見ていたくない。だから、せめて思いっきり泣けよ」
ぶっきらぼうに言う魅録の顔は見えなかった。
だが、体の震えが止まった事はわかった。

66野梨子いじめ(8):2002/11/04(月) 13:24
「落ちついたか?」
激しく泣いていた野梨子の呼吸が穏やかになった。
体を少し離すと、泣き疲れたのか半ば放心状態になっている。
もう一度抱き、その小さな頭を胸に押し当てた。
「・・・ごめんなさい、魅録。シャツが随分濡れてしまいましたわ」
「気にすんな」
「・・・私の事、軽蔑したんじゃありません?二人にあんな事を言って」
野梨子の体がまた震え始めた。
魅録はさらに抱く腕に力を込める。
「しないさ。それなりの理由があるんだろ?ま、ちょっと驚いたけどな」
魅録が子供をあやす様に背中を軽く叩いた。
心が凪いでいく。
「それに」
「え?」
「二人が出ていった後、お前が泣いたのは、自分でもわかってたんじゃないのか。あいつらにヒドイ事を言ってしまったって。それを後悔したからなんだろ?あいつらが何をしたのかわかんないけどさ、いつか許してやれよ。あいつらめちゃくちゃ心配してたんだからな」
「そう、ですわね」

優しい魅録は決して悪く言わない。
だから、その言葉に肯いておこう。
本当は、違う事を知っているけど。
魅録の言葉で、気がついた。涙が止まらなかった理由に。
いつのまにか清四郎を自分だけのものだと勝手に思いこんでいた。
それを違うとつきつけられたあの光景。
知らない清四郎がいた。
大事な清四郎を取られた。
大切なモノを汚された。
裏切られた。
だがそれは、結局は自分の独り善がりだったのだ。
そう思うと涙が溢れた。
十年以上の想いはそう簡単に割り切れるものではない。
だけど、これ以上惨めになりたくなかった。
気持ちの整理がついたら二人に謝ろう。
野梨子は魅録の腕の中で、漸くそう思えた。

67野梨子いじめ書きです:2002/11/04(月) 13:26
>62さんのお言葉に甘えて、続き書いてみました。
とりあえず終りです。
さらにお目汚しで申し訳ないです。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

68有閑名無しさん:2003/10/17(金) 20:42
「特別室で」をうpさせて下さい。
清四郎×悠理が基本で、清四郎と魅録のみのストーリーになると思います。
お嫌いな方、興味のない方はスルーお願いします。

深夜、菊正宗病院の特別室に二つ並んだベッドで魅録と悠理が静かに眠っていた。
バタン!
「悠理!魅録!」
その静寂を破るようにドアが大きな音をして開かれ、二人を呼ぶ声が響いた。
「ん〜誰だよ、うっせぇなぁ。んあ〜清四郎かぁ?」
目を覚ましたのは魅録だけだった。
「すみません。慌てていたもので。それより魅録、大丈夫ですか?
 悠理は?悠理も大丈夫なんですか?」
二つのベッドの間にあった椅子に座りながら
清四郎は心配そうに目を覚まさない悠理の様子を窺う。
「ああ。なんか俺ら頭打って脳震盪起こしたらしいんだけど
 別に何ともないし、俺も悠理も大丈夫だぜ。
 ただ大事を取って一晩だけ入院させられたんだ。」
眠たそうに欠伸を噛み殺しながら起き上がろうとする魅録を清四郎が制する。
「魅録、寝ていて下さい。頭を打ったのなら安静が一番です。
 それにもう深夜ですしね。って僕が起こしてしまったんですが。」
薬のせいで眠たいだけで他は本当に元気な魅録だったが
申し訳なさそうに言う清四郎を立ててベッドに横になる。
「いや。夜中なのに悪いな。心配掛けちまったみたいで。」
「親父から救急車で運ばれて来た中に二人がいたって聞いた時は
 心臓が止まるかと思いましたよ。
 ライブ中に将棋倒しが起こった、と聞きましたが?」
「そうなんだよ。せっかく最高に盛り上がってた時にだぜ。」
「それは残念でしたね。でも本当に大した事なくて良かったですよ。
 今まだICUで治療中の方もいるみたいですから。」
「そうか。みんな無事だといいな。」
「ええ、そうですね。」

続きます。

69特別室で(2):2003/10/17(金) 20:47
そう言って珍しく静かに眠る悠理に視線を落とした清四郎は
以前から気になって仕方がなかった事を無意識のうちに言葉にしていた。
「やっぱり魅録と悠理は付き合っているのですか?」
その台詞に魅録は当然のごとく、言った本人の清四郎までが驚いた顔をした。

ここまで読んで下さった方ありがとうございます。
続きはまた今度うpしますのでヨロシク。

70特別室で(3):2003/10/18(土) 15:21
>69続きをうpさせて頂きます。

「はぁ?!何言ってんだよ!そんなわけねぇだろ。悠理とはただのダチだぜ。」
「本当ですか?しかし、いつも二人で一緒にライブだツーリングだと
 行ってるじゃないですか?」
自分でも何を言っているのかわからないまま清四郎は続けた。
「そ〜れ〜は〜ただ単に趣味が同じってだけだろうが。」
「趣味が同じとは価値観が同じ、とも言えますよね?
 普通そういう相手に惹かれるものでしょう?」
もはや清四郎は暴走する自分を止められない。
「あのな〜、どうやったら悠理が女だと思えるんだ?
 悪いけど男友達としか思えないぜ。」
「そうですかね?
 倶楽部の均衡のため無理に女として思わないようにしているとか?」
尚もしつこい清四郎に魅録はウンザリしてきた。
「おい、清四郎。いい加減にしてくれよ。」

71特別室で(4):2003/10/18(土) 15:28
「それに大体何故二人して同じ部屋なんです?!
 普通は男女別々の部屋の筈でしょう?!」
ついに魅録がキレた。
「あ〜もう!そんな事知るか!
 お前の親父さんと姉さんが俺達を同じ部屋にしたんだよ!
 “空いている特別室は一部屋しかないから仕方ない。
  魅録くんと悠理ちゃんだし別に一緒の部屋でも構わないだろう”ってな!
 俺達がまだ頭ボォーーーっとしてる間に勝手に決められてたんだよ!
 文句があるなら、お前の親父さん達に言ってくれ!
 清四郎!お前さっきから変だぜ!もう帰って寝ろ!俺も寝る!」
魅録は一気に捲くし立てると清四郎に背を向けるようにして布団を頭まで被った。

72特別室で(5):2003/10/18(土) 15:47
(清四郎の奴、一体どうしたっていうんだよ?わけわかんねぇ。
 そんなに俺と悠理の事が気になるってのか?
 俺達はマジで昔からダチってだけだぜ。それなのに・・・。
 あれ?まさか清四郎、悠理の事を?!ウソだろぉ?!
 ・・・いや、さっきのはどう考えても嫉妬だよな。
 それにアイツいつも何だかんだと悠理の事かまってるもんな。
 そういえば、こないだ可憐と美童が興味津々で話してたっけ。
 清四郎が悠理に対してだけ時々妙に優しい顔する時があるって。
 さっきだって、どう考えても俺の心配より悠理の心配してたような・・・。
 じゃやっぱり清四郎って悠理に惚れてんのか?!・・・おいおい、マジかよぉ〜?!)
魅録が考えれば考えるほど思い当たる事は多かった。

73特別室で(6):2003/10/18(土) 16:01
清四郎は魅録に怒鳴られて我に返った。
「魅録、すみません。こんな事言うつもりは無かったんです。
 本当に今日の僕は変ですよね。魅録の言う通りです。
 ゆっくり眠って下さい。騒がせてすみませんでした。おやすみなさい。」
「ああ。もういいよ。清四郎も帰って寝ろよ。おやすみ。」
(こいつ、もしかして自分の気持ちに気付いてないのか?
 ・・・って事は当然悠理の気持ちにも気付いてないんだろうな。
 くっくっくっおもしれ〜!!!(笑)
 おい清四郎、俺は悠理がお前に惚れてるなって前から気付いてんだよ。
 伊達に長い間ダチしてねぇっつうの。
 最も悠理も自分の気持ちにゃ気付いてないみたいだがな。
 さてさて、このお二人さん、これからどうしてやろうか・・・)
楽しい(悪)事を考えている内に、魅録は眠りに落ちていった。

まだ続きます。
読んで下さった方ありがとうございます。
あと3レスほどで終わる予定です。

74特別室で(7):2003/10/20(月) 19:44
続きをうpします。

清四郎はというと、いまだ先ほどの自分自身に戸惑っていた。
(本当に一体僕は突然どうしたというんだ?・・・突然?
 いや、違う。・・・僕は前から気になっていたんだ。・・・でも何故?)
いくら考えても今の清四郎にはまだ答えは見付かりそうになかった。
清四郎は考えを振り払うように2、3度頭を振ってから悠理を見た。
(よく眠っていますね。
 薬のせいだと解っていても、こんなに静かに眠る悠理なんて悠理じゃないみたいですよ。
 本当に大丈夫なんでしょうか。頭を打って脳震盪だなんて。
 いつかの予知夢再び、なんて嫌ですよ、悠理。)
清四郎が悠理のフワフワの髪をそっと撫でると、悠理がフッと笑ったように見えた。
思わず清四郎も微笑み返していた。

75特別室で(8):2003/10/20(月) 19:49
夜明け頃、魅録は寝返った拍子にふと目が覚めた。
椅子に座ったまま悠理のベッドにうつ伏せるようにして
眠っている清四郎が見えたからだ。
(あ?清四郎?なんで清四郎が?
 ・・・ああ、そういや夜中に来たっけ・・・)
覚めきっていないボンヤリした頭で昨夜の事を思い出す。
(なに、じゃあ、あいつ結局あれからずっとここに居たのか?!
 そんなに悠理の事が心配ってかぁ?!)
魅録は呆れたように清四郎を眺めた。

76特別室で(9):2003/10/20(月) 19:53
(くっくっく・・・(笑)
 こいつらって案外似た者同士だったんだな。
 自分自身の恋愛事にゃメチャクチャ鈍感なとこが。
 ったく、困った奴らだぜ。
 そうだなぁ。あれこれ世話してやるのも楽しそうだが。
 まぁ、しばらくは高みの見物でもさせて貰うとするか。
 これほど楽しくて面白そうなノンフィクションなんか
 他では絶対見られそうにないからな。)
そう毒づきながらも、穏やかに眠る清四郎と悠理を優しく見守る魅録だった。

終わりです。
読んで頂いて本当にありがとうございました。

77万作ランド(とりかえばや異聞):2003/11/04(火) 18:25
新作うpします。
魅×悠、でバカ話です。
お眼汚しスマソ!!

78万作ランド(とりかえばや異聞):2003/11/05(水) 01:40
「お前・・それで本当にパーティ出るのか?」
「うん・・・変か?」
「いや〜変じゃないけど・・・一応フォーマルって言われただろ?」
「いいよ〜別にあたいは何時もこうだもん」
「まぁ〜おまえらしいけどな・・」
「だろ〜〜♪」
そう言うと後ろから優しく悠理を抱き締める魅録。
すると、その状態のまま魅録を見上げる悠理。

79万作ランド(とりかえばや異聞)、2:2003/11/05(水) 01:49
(オイ・・・その角度は無防備過ぎるぜ・・・悠理)
何時もとは違って、薄く化粧している悠理。
(お前〜本当に自分が物凄い美人って事・・・解かってないのな・・・
そんなんだから、俺にもこんな無防備な姿見せやがって・・・・・)
「わぅ・・・ん・・・・魅録・・・ダメ・・・」
誰も見てねぇ〜よ・・そんな抵抗すんなよ。
「いてっ・・」「ばか!!」
あ〜あ〜怒らせちまったか・・・。
俺の腕から抜け出した悠理は後ろも見ないで皆の元へ駆け出してしまう。
「いて〜ぇ・・」
俺は、噛み付かれた唇をそっと擦る。
悠理は俺と付き合うようになってからも、こう云う事には結構キツイ
特に、人前でいちゃつくのは苦手な様だ・・。
まぁ〜そんな所も可愛いだけどな・・・・。

80有閑名無しさん:2004/07/01(木) 23:34
新作短編うpします。
カポーは清×可ですので、嫌いな方、興味のない方はスルーお願いします。

81公然の秘密 (1):2004/07/01(木) 23:37
 可憐は最近、露出の多い服を着なくなった。
 以前は冬でも、コートの下に胸の谷間が見えるニットスーツだの
左右に大きくスリットの入ったロングドレスだの着ていたのだが、
今ではそういった服は皆クローゼットの奥に鎮座している。
 これまでの男達の中には『挑発的な服を着ないで欲しい』いう男も
いたのだが、可憐は一度たりとも従うことなく思うままの服を身に
纏い続けていた。
 ところが、である。
 初めて肌を重ねるに至った清四郎は、可憐に有無を言わさず、可憐に
そのファッションを変えさせた。
 しかも性質が悪いことに、清四郎はそれが自分のせいだとは未だ
気付いていない。
 勘のいい美童などは面白がって、こういうフィールドに鈍感な清四郎に
知恵を授けてやるつもりはないと言い切っている。
 今日も剣菱グループのパーティーがあるのだが、お気に入りの、背中が
開いたドレスは着られない。
 仕方なく可憐は、おととい野梨子と出かけた時に買った、首の詰まった
ベビーブルーのワンピースを手にとった。

82公然の秘密 (2):2004/07/01(木) 23:40
 「可憐、今日もおとなしめのヤツだね」
 すでに盛況を呈している会場に入ってきた可憐に、バーバリーの
ダークスーツを着こなした美童が声をかけてきた。
 「他の連中は?」
 可憐は美童のからかいを無視して、姿の見えない後の4人について聞く。
 「悠理はあっち、魅録はほらそこにいるだろ。で、野梨子が何か
わけのわかんないおばさんにつかまっててさ、で清四郎は豊作さん達と
駄弁ってる」
 そこまで言って、美童は正面雛壇横の男数人のグループを指差した。
 確かに、その中に清四郎がいる。
 恐らくそこで政治や経済について言葉を交わし、知的好奇心を満たして
いるのだろう。
 可憐はその様子に近づきがたい雰囲気を感じ、とりあえずは側に行かない
ことにした。
 さて、誰のところに行こうかと考え始める。
 すぐ側にいる美童を、真っ先にリストから外す。
 パーティー会場での美童は、常に獲物を狙う狩人と化す。
 可憐が知ってるだけでもどこかの国の外交官夫人と某女子大の大学院生を
掛け持ちしているはずなのだが、いざ狩猟場に来るとそんなことは関係ない
らしい。
 不意に、美童の視線がある1点で留まった。
 可憐は目ざとくそれに気付き、美童を見上げる。
 美童は悪びれもせず可憐に微笑み、優雅な身のこなしで可憐の元から
去っていった。

83公然の秘密 (3):2004/07/01(木) 23:43
 結局、邪魔して逆にありがたがられそうな野梨子のところに
行くことにした。
 野梨子のところまで少し距離があり、ひとの塊をふたつほど
潜り抜けなければならないが、野梨子の表情にはわかる者には
わかる不快感が表われていた。
 「ちょっと遠いけど、まあ、仕方ないか…」
 可憐はひとりごちて、まず目の前の人の塊の中に入って行った。
 何とも言えない臭気が鼻をついてくる。
 食べ物の匂い、飲み物の匂い、オーデコロンの匂い、化粧品の匂い、
人の体臭。
 全てが法則性のないまま混沌と交じり合い、マイナスの結果を
生み出している。
 このままこの中に埋もれていたら、余りの不快感に倒れてしまい
そうだった。
 可憐は最短距離を取ることを諦め、とりあえず塊から脱出した。
 立ち止まって、息を吸い込んでみる。
 一息ついてもう一度歩き始めようとした時に、左肩に何かが軽く触れた。
 後ろに振り向く。
 「探しましたよ、可憐」
 清四郎がすぐ側に立っていた。
 「随分遅かったですね。何かあったんですか?」
 清四郎は耳元で囁いた後、大胆にも可憐の耳朶にキスをした。
 あっという間に可憐の腰に腕を回し、それまで向かっていた反対の
方向に可憐をリードしながら歩いていく。
 涼しい顔をして、時折可憐の表情を伺いながらするりするりと人ごみを
通り抜けていく。
 その歩調の早さに、可憐はただひたすら清四郎に合わせざるを得ない。
 気が付いた時には、自分が今しがた入ってきたばかりの入り口にたどり
着いていた。
 「待って、清四郎。あたしはまだ来たばかりよ。悠理とも魅録とも野梨子とも、
ろくに顔を合わせてもないわ」
 可憐は清四郎を見上げて不満をぶちまけた。
 だが清四郎は、少し困った表情で可憐に言った。
 「すみませんね。でも僕も待ちくたびれたんですよ。あいつらはあいつらで
ちゃんと楽しむでしょうから、もう行きませんか?」

84公然の秘密 (4):2004/07/01(木) 23:45
 「おい美童、清四郎は?」
 女の子達の相手をするのに疲れてひとりでいた美童に、魅録が
近づいてきて声をかけた。
 今日の魅録は偶然知り合いを見つけて散々喋っていたのだが、
少し前にその人物が会場から引き上げてしまったので急に暇に
なってしまっていた。
 「いないよ。もう、大分前からね」
 美童はさして感情をこめずにさらりと答えた。
 「そっか、可憐も見かけないし。…そういうわけなんだな」
 魅録は今一度周囲を見渡し、もうひとりいないことを確かめて
ニヤリと笑みを浮かべた。
 合わせて美童も笑みを浮かべる。
 その手の知識と経験に事欠かないふたりは、余分な言葉を交わす
必要がなかった。

85有閑名無しさん:2004/07/01(木) 23:47
これで終わりです。お付き合いくださった方、ありがとうございました。

86 野×清(野梨子の誘惑):2004/08/12(木) 16:16
清四郎と野梨子・・なんだかんだで付き合って半月がたとうとしていた。
あの夜、ふたりは初めて体を重ねた。そして二人はその行為を幾度か繰り返した。
野梨子とその行為が出来る・・あの白い肌、赤い唇、漆黒の黒髪・・そのすべてが
じぶんのものであると思うとおもわず顔がほころんでくる清四郎であったが、
最近なにか物足りないような気がしてならなかった。
『はぁ・・・』
心の中で深いため息をつくと、倶楽部の五人がしらぁ〜っと清四郎のほうをみていた。
「あいつ最近ず〜っとこの調子だよなぁ」
「あたいなんか顔見られるたびにため息つかれてんだぞ!!」
「なにか嫌なことでもあったんじゃないの?僕なんか今日もデートでさぁv毎日
 がたのしくてしかたがないんだよねぇ〜」
へーへーといつものことでみんなは呆れ顔。そんな中可憐ははっと気がついた。
「もしかすると・・・」
可憐は野梨子と清四郎の顔を見比べた。
『ははぁ〜んそういうことね・・・野梨子みたいなお嬢ちゃんがそんなことするはず
 ないしねぇ・・清四郎も大変だわね』
可憐は野梨子を見てにやにやしていると、野梨子は「?」な顔をして、可憐を見ていた。
『清四郎を元気ずけるためにも、この恋愛の女王可憐様が協力してあげますか!』
可憐は今後の予定に胸をふくらませていた。
「じゃあ、私そろそろ帰りますわね。」
「それでは僕も一緒にかえりますよ。」
・・・バタン 二人が帰ったあと、可憐は残った三人にさっき考えた計画を話した。

「・・・だと思うから・・そして・・・きっと清四郎は・・」
「ギヤァーーー!いいのかぁ!それって犯罪じゃぁ・・」
「おれらに犯罪とか関係ねーだろ?どんだけ罪犯してんだと思ってるんだよ」
「野梨子にやぁ悪いけど、清四郎のためだもんねーv」
多分、いつも馬鹿にされている悠里は清四郎をからかいたかっただけだと、
他の三人は思った。
「まぁ、何が何でも作戦結構よ!魅録、準備よろしくねんv」
「わかったよ・・・めんどくせーけど。」

そして、可憐さんの計画が実行される日になった。

ーーー初めてかきました!楽しんでいただければ光栄です。続きます。

87野×清(野梨子の誘惑)(2):2004/08/12(木) 17:48
『名付けて!野梨子の誘惑大作戦!!』
「げっ」と三人は思って可憐を凝視した。
『だってさぁ〜あれは絶対欲求不満よぉ。多分あの二人はもうやっちゃったと思うわ。
 だけど、清四郎ったらまだ心のどこかで遠慮してるとおもうのよ!!
 清四郎からこないんだったら野梨子からくればいいじゃない♪
 そしたら清四郎もおもいどうりのプレーができるわよぉv』
これを聞いた三人はこんなことをすぐ思いつく可憐の頭の回転のよさに感心した。
『でもよ可憐。野梨子がじぶんから誘うなんてするかぁ?』
『するんじゃなくてさ・せ・る・の!』
『でもどうやって・・・』
可憐は魅録の前に、ずいっと液体の入った小ビンをみせつけた。
『こ・れ・よv』
美童はその液体の正体にきずいたらしく、わなわな震えていた。
『可憐・・・それもしかしてぇ・・・』
『そっv媚薬よんv』
『げぇーーーーーー』一同声をそろえて言った。
『まさか可憐・・それ使って野梨子を・・・』
『あったりィ!!』
あきれてみな声もでなくなっていた。
『じゃぁ、みんなはあたしのいうとおりに動いてくれればいいからネv』


・・・・そして現在にいたる・・・
「野梨子〜あそびにきたわよぉ〜!」
「まぁ、可憐!ちょうどいいところにきてくださいましたわ。今、父様と母様が
 清四郎の両親とお食事にいってて退屈でしたの。どうぞあがって。」
「あら、だったら清四郎も暇してるんじゃないの?誘ったら?」
「そうですわね・・・・あら、なぜか電話がつながりませんわ。私、清四郎の家
 まで迎えにいきますね。」
「じゃあ、中でまってるわねvv」
そして、野梨子の姿が見えなくなったことを確かめてから、魅録・悠里・美童は
一階にカメラを、二階にテレビをセットした。
「ひひひっv楽しみだなー清四郎ちゃんがあたふたすんの!」
「こら悠里!まじめにやれって!清四郎にばれたら殺されるぞっ。」

ーーー果たして可憐さんの計画は成功するのでしょうか?

88野×清(野梨子の誘惑)(2):2004/08/13(金) 09:20
「可憐〜!清四郎も呼んできましたわよ・・・あら・・可憐てばもういませんわ。
 靴もないですし・・・」
「じゃぁ、二人でおしゃべりでもしていますか?」
「そうですわね!たまには二人っきりで話すのもいいですわ。」
そうして野梨子は清四郎を招きいれた。
「お茶かなにかいれますわね。」
「おかまいなく」
パタパタと台所にむかうと、テーブルの上にペットボトルとメモが残されていた。
そこには『可憐さんの送りものよv今すぐこれを飲めば胸がせいちょうするわ!』
と丸っこいかわいい字がかかれてあった。
「くすくす、可憐ったら。」
そんなこと信じてない野梨子だったが、これを渡すためにわざわざきてくれたと思い、
ペットボトルを手にしてみた。
『・・きれい』
淡いピンク色の液体がゆらゆらと色っぽく揺れている。
『・・・それじゃぁ、少々いただきますわ。』
一口飲むと、やわらかな甘さが口いっぱいに広がる。そして、少し鼻につんときたような
感じがした。
『・・・おいしいですわぁ・・きっとこれはお酒かなにかですわね。』
酒が得意でない野梨子だったが、この不思議な味に魅了されて少しと決めてたはずが、
ごくごく飲んでしまった。ーー気がついたら半分以下までしかなくなっている。
「野梨子」
反射的にドキッとしてしまった。
「あんまり遅いので何をしているのかと思いましたよ」
「あっ・・あらすみません。すぐ用意しますからもう少し待っててくださいな。」
そして野梨子はお茶の用意をたんたんと済ませると、清四郎のもとに運んでいった。
『ちょと飲みすぎてしまいましたけど・・大丈夫ですわよね・・』
「そうそう野梨子。赤川次郎の新作見ましたか?」
「え・・ええっ。もちろん見ましたわ。」
「僕はあの少女のシーンが・・・」

ーーーそして約一時間が過ぎたーー
「かーれーんっっ!あいつらずっと同じ話題で話してるよぉ!何にも変化なんて
 おこんないじゃ〜んっっ!嘘つきぃ〜っ」
「うっさいわよ悠里!・・・でもおかしいわねぇ・・飲んだ量が少なければ少ないほど
 早く効き目がでるんだけどねぇ・・。てか、美童。あんたちゃんと酒にいれたわよね?」
「ちゃ〜んと全部いれたよv女性が飲みやすいように甘い酎ハイにv」
「可憐・・・ちなみにそれ飲み過ぎるとどうなるんだ・・?」
魅録がわなわなして可憐に聞いた。
「・・・様子が変わるまでの時間は長くなるけど、ほとんど人格の変わった野梨子に
 なると思うわ・・・量が多いと、そのまま元にもどらなかったりして・・」
四人の血の気がサーっとひいた。
「美童〜〜!なんで甘いのいれたんだよぉ〜!ガバガバ飲んじゃうだろぉ〜」
「ヒヤァーーーごめんなさぁぃ!」

ーーー続きます

89有閑名無しさん:2004/09/04(土) 01:13
短編をUPさせていただきます。
カプは魅×悠(しか出てきません)で、しかも思い切り季節感無視しています。
苦手な方、嫌な方はスルーの方向でお願いします。

90冬の二人(1):2004/09/04(土) 01:16


どこか普段とは違う街中に、いきなり強い風が吹き荒れた。

「うわぁ、顔が冷たい〜!」
隣を歩く悠理が、天を仰ぐようにして叫ぶ。
それから両手を口元へ持っていき、白い息を吐きかけ、温める仕草をする。
ピンクのコートのポケットに両手を突っ込み、身を震わせた悠理に、魅録が訊ねた。
「どうしたんだよ、手袋」
「あ? ああ。出て来るとき忘れた……みたい」
困惑した顔で答えた悠理の目の前に、黒い皮の手袋が差し出された。魅録は自分の手に
はめていたもう一方の手袋も抜き取り、悠理に渡す。
「それで我慢しろよ」
「え。でも、それじゃ魅録の手が冷たいじゃんか」
魅録は黙って軽く微笑むと、黒いロングコートのポケットに両手を入れた。
「――サンキュ」
照れたような表情で悠理は言い、受け取った手袋を軽く握りしめると、華奢な手に着け始める。
男物だから少し大きめだが、充分すぎるほど温かい。

そのまま二人は、人もまばらな通りを歩いていたが、悠理の視線がある一点で止まった。
魅録の腕を引き、生き生きとした口調で訴える。
「なあ、魅録。あれにしよ! あれならもっとあったまるぞ!」
悠理の指差す先を見て、魅録は納得しつつ、思わず笑った。すぐ先にあるコンビニの駐車場には、
“中華まん”の幟がはためいていた。

91冬の二人(2):2004/09/04(土) 01:18

 ―――――――――――――――――――――――――――― 


その数十分後。
曇天の空模様ゆえか、帰省ラッシュゆえか、閑静な住宅街にあるこの公園には、入り口に
立つ二人以外、人影はなかった。
正月三が日独特の、奇妙に静かな――寂寥感すら感じさせる空気だけがある。

小銭の落ちる音がし、自動販売機の押しボタンが一斉に灯った。黒い手袋をはめた指が、
迷わずその中の一つを押す。
次の瞬間、悠理の選んだ紅茶の缶が、派手な落下音と共に、取出し口に姿を見せた。
「やったー。あたいもこれが飲みたかったんだ」
悠理はそれを手に取ると、隣で公園内を見渡していた魅録の頬に軽く当てる。

「こら。人で遊ぶなっての」
「へへっ」
悪戯っぽく笑いながら身を引く彼女に、彼は少しだけ眉を顰めてみせる。
その拍子に、彼女が大事そうに抱えた紙袋が目に入った。
「ほら。早く食わないと冷めちまうぞ。――そこでいいか?」
笑みを含んだ声で魅録は言い、ブランコの脇にある二人掛けのベンチを指差す。
「あ、そうだな。そーしよっ」
満面の笑顔で答えた悠理を目で促すと、魅録は公園の中へ入っていった。

92冬の二人(3):2004/09/04(土) 01:21
全身を包み込むような厳しい寒さの中、悠理はベンチに腰掛けると、魅録との間に置いた
紙袋を開けた。
大サイズの袋には、数種類の中華まんが、積み重なるようにして入っている。
「これが肉まん、まっ白いのがあんまんで、黄色いのがカレーまん、あとはカスタード、
チーズウインナー、ピザまん……」
見事なまでの手際の良さで種類を分けながら、悠理が訊く。
「魅録ー。どれ食いたい?」
先ほど買った小さなコーヒーの缶を手に、魅録は、苦笑混じりに答えた。
「俺はこれでいい。まだそんな入んねーよ」
コンビニにあった、全ての種類を二つずつ。二人で食べるにもいささか多めの数だが、
彼女にとっては一人分といっても過言ではない。
いつもなら手放しで喜ぶところだが、この日の悠理は少し違っていた。
「ふーん。じゃあ、あたいが全部食っちゃうからな」
どこか不満そうに口を尖らせて、事もなげに言う。
魅録が、あっと気付いた時には、悠理は手袋をはめたままの手で肉まんを取り出し、勢いよく
齧り付いていた。

――ひとつぐらい、取っておいてくれとでも言えばよかったかな。
などと考えながら、冷たい風を避けるかのように、彼は顔を上げた。
ベンチの横にある冬枯れた木の枝が伸び、曇色の空にアクセントをつけている。

93冬の二人(4):2004/09/04(土) 01:21

――魅録と悠理が“男友達”の枠を越えてから、一ヶ月ほどが経つ。
少女漫画のような劇的な展開もなく、ごく自然にそうなった、としか言いようがない。
二人の気持ちの持ち様は、多少変わったようでもあり、さほど変わらない気もするが、
傍から見た限りでは、二人の間柄はそれまでと同じ――ように見えるらしい。
実質、全くと言っていいほど変わってはいないのだが。


「どうだ? あったまるだろ」
「ん。うまいっ」
嬉しそうな表情を満足げに見ながら、魅録も缶コーヒーを口にする。
喉を流れていく程よい熱さが、僅かばかり凍えを感じていた体に染みていく。


――むろん、今までと同じような毎日の中で、今までとは違うこと、それまでは感じなかった
気持ちに気付いたりもする。こんな風に、心地良い熱で少しずつ温まっていくように、互いの
心も変わっているのだろう。
一緒にいるだけでも楽しいし、悠理が喜ぶならそれで満足だし、何も焦ることはない。
少なくとも、魅録はそう思っている。

とはいえ、こうして他愛ない時間を過ごしていると、さすがの魅録も奇妙なもどかしさを
感じる時がある。
(自称)恋多き友人たちの、歯がゆさと心配の入り混じった言葉にそそのかされるわけでは
ないが、それらしい変化が欲しい、とも思う。しかし――

94冬の二人(5):2004/09/04(土) 01:23
次々と中華まんを頬張り、紅茶を飲む悠理を横目に考え続けていると、魅録の眼差しに
気付いた悠理が、戸惑ったような顔をした。
「いや、その――俺もひとつもらおうかな」
慌てて言い繕い、数個残っていた内のひとつを手に取り、口にした。
「あっ、それ――」
驚いたような声音で悠理が止めると同時に、いきなり滑らかな口当たりと甘さが、彼を襲った。
苦痛に近い感覚と動揺を抑えながら、とりあえず呑みこむ。
「それ、カスタードって言おーと思ったんだけどさ……」
僅かに残ったコーヒーを、一気飲みする魅録を上目遣いで見ながら、悠理が申し訳なさそうに言った。
自分が食した物を確認すると、厚めの皮の中に、カスタードクリームがぎっしりつまっている。
「どーしたんだよ。甘いのだめじゃなかったっけか?」
黄色いのはカレーまん、ピザとかは焼印がついてるし、と不思議そうな顔で悠理は続ける。
「平気だって。俺が選んだんだから」
「でも――」
なおも言いかけたが、ふと思いついたらしく、別の言葉を継いだ。
「じゃあたい、コーヒー買ってくる。ブラックでいいよな?」
そうすれば、口の中がさっぱりすると思ったのだろう。
別に誰が、何が悪いわけでもないし、魅録も遠慮しようと思ったが、結局、悠理の申し出に
甘えることにした。

95冬の二人(6):2004/09/04(土) 01:25
自動販売機に向かい、小動物のように駆けて行く悠理を見送りながら、魅録は少しずつ中華まんを
齧る。程なくして、小さな黒い缶を手に、悠理が戻ってきた。
「やっぱ、あたいこれ食べたい。もーらいっ」
すかさず魅録の手から、食べかけのカスタードまんを取ると、買ってきた缶コーヒーを差し出した。
「あ、このやろ」
苦笑いを浮かべながらも、彼女なりの気遣いに内心感謝し、手を伸ばしたが、
「――熱っ!」
素手で掴んだ瞬間、思わず叫び、缶を手放した。
あまり買い手がおらず、自販機の中で温まりすぎていたのか。最も苦いと思われるブラックの
コーヒー缶は、極度の熱を帯びていた。
宙を舞った缶をとっさに受け取り、それで魅録の手袋を借りたままだった、と気付いた悠理は、
魅録の手を両手で包み、平謝りに謝っている。
「大丈夫だよ、ほら」
魅録は笑いながら、手を広げて見せた。悠理がじっと覗き込み、
「ほんとにか? よかったー」
安心したように、大きく息をつく。
そんな悠理に対して、魅録は確かに、素直な嬉しさと――以前とは全く違う、胸に染み入る
ような愛おしさを覚えていた。

火傷するほどでもないが、そのまま持つには、まだ時間がかかりそうだ。
魅録がコートのポケットを探り、ハンカチを取り出そうとすると、隣に腰掛け、カスタードまんを
食べていた悠理が、「そうだ」と指を鳴らした。
手袋をしていたから、今ひとつ良い音はしなかったが。
「これならいいよな?」
悠理はそう言いながら、曇り空から顔を覗かせた太陽のような、明るい笑顔を魅録に向けた。

96冬の二人(7):2004/09/04(土) 01:27
――数分後。
悠理が右手でピザまんを持ちながら、手袋をはめたままの左手で、紅茶を飲んでいる。
そして、熱そうに缶コーヒーを飲む魅録の右手には、悠理から戻ってきた自分の手袋が
はめられていた。


―――――――――――――――――――――――――――― 


3本の空き缶が小さく放物線を描き、缶専用のくず籠へと放り込まれる。
魅録は中華まんの紙袋をくしゃくしゃにすると、別のゴミ箱に捨て、公園の外へと向かう。
「なあ、魅録。もう返すってば」
子犬のように後をついて行く悠理が、訴えるように言う。
「何が?」
「手袋。ずーっとしてるし、今んとこあったかいからさ」
再び、魅録から借りた手袋をはめた両手を、顔の前にかざすようにする。魅録は振り向かずに
足を止める。
「いいからしてろって。俺がいいって言ってんだから」
「だーかーら……」
なおも言い募ろうとした悠理の言葉が、不意に途切れた。ポケットに入れられていた魅録の
左手が伸び、悠理の右手を握りしめた。
彼女の頬に、微かに赤みが差す。思わず魅録を見つめる悠理に、
「俺はこれで充分だからさ」
口元に笑みを刻み、鋭い目許にこの上なく優しい色を浮かべながら答えると、魅録は再び
歩き出す。
悠理も足を速め、隣に並ぶと、魅録を見上げるようにして、ふわりと微笑んだ。

97冬の二人:2004/09/04(土) 01:29
これで終わりです。改行が一部変な上に、UPに時間がかかって
申し訳ありません。
お付き合いいただいた方、スルーして下さった方、ありがとうございました。

98乙女の落書き(1):2004/10/04(月) 10:24
えー・・馬鹿げてます。清四郎+野梨子です。

野梨子が数学の問題を教えて欲しい、と言って菊正宗宅を訪れたのはつい先ほどの事。
もともと飲み込みのいい彼女であったから、ヒントを与えればすいすいと理解していく。
「数学の先生より解りやすい教え方ですわ」
嬉しいことを言ってくれる幼馴染に顔がほころびそうになったが、
持ち前の理性を発揮してポーカーフェイスを貫いた。
「清四郎、どうもありがとう」
野梨子は嬉しそうに微笑んで自宅の隣家へと帰って行った。
ふと見ると、ノートが置かれていた。
(これは、野梨子の……忘れていったんですね)
案外そそっかしいと、笑いながらパラパラとノートをめくった。
几帳面にわかりやすく工夫し、達筆で書かれた野梨子らしいノートだ。
ふと、ノートの隅に何か書かれているのを発見した。授業とは関係がないようだ。
(野梨子でも、落書きなんかするんですね)
そこにはこう書かれていた。

『菊正宗 野梨子』

99乙女の落書き(2):2004/10/04(月) 10:25
胸が高鳴った。何だろう、これは。
何故こんなことを書いたのだろう。
————私と清四郎が結婚したら、菊正宗 野梨子になるんですわね。
などと、考えたのだろうか。
「フム……」清四郎は困惑した。
野梨子とは幼馴染であり、家族も同然。
特に女性と意識していなかっただけに、困惑は深い。
もし野梨子が自分を男として見ているならば……。
いつまでもお互い子供のままではいられない、ということか。
そうなると、自分もきちんと考えなければいけない。
いきなり清四郎は居住まいを正した。
しかし、名前を書いただけでは野梨子の気持ちが今ひとつわからない。
どこかに『清四郎に会いたい』(毎日会っているが)とか、
『清四郎・ラブ』とか書いてあれば決定的なのだが。
他に落書きはないものかと更にノートをめくった。

あった。

100乙女の落書き(3):2004/10/04(月) 10:28
『松竹梅 野梨子』

清四郎は眉間に皺を寄せた。
……両天秤、ですか?
わからない。揺れる乙女心にはよくある事なのかもしれない。
が、一体どっちなんだと更にノートをめくる。

またあった。
清四郎は嫌になった。

『野梨子 グランマニエ』

野梨子。一体何を考えているんですか。
なんなんですか、これは。
美童までもですか。
幾らなんでも気が多すぎませんか。
呆れ気味にノートをめくった。
衝撃が走った。

『黄桜 野梨子』

可憐と結婚して、どうするんです!
髪をくしゃくしゃ掻き毟った。
自棄になってノートをめくった。

『剣菱 野梨子』

ああ、そうでしょうとも。
そう来ると思いました。そう来なくちゃですよね。
もうどうでもいい。いいが、この落書きの意味は一体
なんだったんだ。
回答を求め、震える手でノートをめくった。

『やっぱり白鹿が一番』

「野梨子……」
乙女心はさっぱり解らない。
清四郎は深い溜息とともに、ノートを閉じた。

おわり
下らないモノをすいません・・。
逝ってきます・・・。

101Sadistic purity(清×野):2005/07/16(土) 21:56:06
短編投下します。
本スレではここんとこ清×野比率が高いので
こっちにしておきます。
3レスです。

102Sadistic purity(清×野)1:2005/07/16(土) 21:56:56
ふと、隣を歩く少女を見下ろしてみた。
自分の肩ほどもない小柄な彼女。
肩の高さで切りそろえられた髪は、あらゆる者の視線から彼女の首筋を隠す。

そのとき、風が吹いた。



項の白さに目を奪われてしばし足をとどめた。
「清四郎?」
突然足を止めた男に、少女は怪訝そうに振り返った。
黒い瞳同士がぶつかる。
息が詰まる。

「ねえ、野梨子。まだ、いけませんか?」

少女は表情を変えない。
幼稚舎の頃から着続けているその制服のデザインが変わらぬように、表情を
変えない。

ただ、首をかしげる。
「なんのことですの?」
薄い笑みさえ浮かべて。

103Sadistic purity(清×野)2:2005/07/16(土) 21:57:33
汝穢れなき微笑みを浮かべたもう。
たとえて言うなら、聖母像のごとき笑みを。

婚約者がいながら、父親のない子供を身ごもった聖母のごとき微笑を。

だから、男は嘆息する。
「なんでもありませんよ。ただ‥‥‥」
「ただ?」

貴女を汚したいと、思っただけです。

ようやくただの幼馴染から一歩を踏み出したばかり。
焦るまい。焦るまい。

他の男に恋をした彼女は、生まれ変わった。
だが、その白さは変わらぬままだった。

───私は貴方を愛していますわ。清四郎。今はまだ恋ではありませんけれど。

兄妹のように育った二人なれば、それが恋に変わる日が来るのかはわから
なかった。
それでも一歩踏み出すことに同意したのも彼女。
男の欲情を無意識にかわすのが、まだ彼女は彼に恋をしていないからなのは
わかっている。
焦るまい。焦るまい。

104Sadistic purity(清×野)3:2005/07/16(土) 21:58:35
「僕は幸福な男だと、思っただけです。」

その言葉に少女は目を見張った。
「あら、あなたのセリフとも思えませんわね。清四郎。」
「美童の爪の垢をいただいたんですよ。」
「嘘おっしゃい。」
ころころ、と声を立てて少女は苦笑した。

そのまま振り向いて歩き出す少女に男は軽い失望を覚える。
これで彼女の頬や耳がほんの少しでも赤みを帯びていたら自分はそのまま彼女を
離さぬのに。
まだ、彼女は彼に恋をしていない。

その手や肩に触れようと手を伸ばすことも許されず、ただ隣に並ぶ権利を
許されただけ。
男は一つ嘆息すると、その権利を享受すべく足を前に出した。

いつか、汚してみせる。



終わりです。
ありがちなネタですいません。

105有閑名無しさん:2005/08/07(日) 05:45:26
短編ですが2回ほどに分けてUpさせていただきます。
CPは魅録→悠理。嫌いな方はスルーしてください。

106白孔雀(1):2005/08/07(日) 05:51:49
「知り合いから変わった花、もらったんだけどさ。今夜見に来ねーか?」
「花ぁ!?」
ソフトクリームを手にした悠理が、隣を歩く魅録を見上げ、声高に叫んだ。

記録的な猛暑が続く、ある夏の日曜日。
歩行者天国で賑わう街中でも、その声は充分すぎるほど耳目をひいた。
彼の頬が微かに赤くなったのは、強い日差しや、一斉に向けられた視線のせいだけではない。気恥ずかしさと怯む心を押さえつけるように小さくため息をつくと、彼女の方に向き直った。
流行の洋服で彩られた雑踏の中、二人はその場で話し続ける。

「花って、桜とか向日葵とかの、あの花だよな?」
無心な表情で発せられた問いに、半ば脱力した心持ちで答える。
「当たり前だろーが」
「で、今夜花見をするから、魅録んちまで来いってこと?」
「……? ……まあ、ある意味花見……だよな」
今度は魅録が怪訝な顔をした。何か違うような気もしたが、ぱっと輝いた悠理の表情を見て思い直す。
細かいことはどうでもいい。こいつが喜んで来てくれるんなら。

「いや、俺だって、そんな興味あるとは言えないけどさ。せっかくもらったもんだし、たまにはこういうのもどうかって思っただけだよ。それとも、何かもう予定あんのか?」
「そりゃまあ……別にないけど」
「だろ? じゃあ、決まりな」
いつも暇してるって決めつけんなよなー、という抗議を笑顔でいなすと、魅録は再び歩き出した。溶けかけたソフトクリームを口にした悠理が後を追う。

107白孔雀(2):2005/08/07(日) 05:53:15
「にしてもさ、何だってそう急なんだよ。明日とかじゃだめなのか?」
まだ納得がいかぬ顔の悠理に、魅録は片目を瞑って答えた。
「それが、今日しか見れないんだよな」
主に真夏の一夜、数時間だけ咲く花。彼の脳裏に、赤い顎をもたげた白い蕾が浮かぶ。
「どんな花なんだよ?」
ようやく花への興味を惹かれたらしい声音に、軽い悪戯心を誘われる。彼は少し考えた後、謎をかけるようにその名前を口にした。

++++++++++++++++++++++++++++++++

その数時間後。
落ち着いた門構えを持つ、和風建築の邸宅に相応しい濡れ縁には、真剣な面持ちでノートパソコンを操作する魅録の姿があった。
慣れた手付きでマウスをクリックし、検索したHPに次々と目を通していく。

雲ひとつなく均一に広がる青色から、鮮やかな茜色へ。空は、ゆっくりとその姿を変え始めていた。時折吹く涼風が、昼間の焼けつくような暑さを徐々にやわらげていく。

彼が小さく息をつき、空を仰いだ刹那、隣で眠っていたはずの男山が数回吠えた。次いで門が開き、涼しげな声が響く。
「おーい、魅録。来たぞー……うわっ!」
見ると尻尾を振って飛びつく男山を、悠理が嬉しそうに抱き止めていた。
「男山! おまえも元気そうじゃん」
「ついさっきまで、暑くてへばってたんだけどな。久しぶりで嬉しいんだよ」
その声に気付いた悠理が、子犬を思わせる風情で駆け寄ってきた。
白い半袖のパーカーとショートパンツ、薄紅色のノースリーブという夏らしい服装。
屈託のない笑顔を魅録は一瞬眩しそうに見たが、パソコンを閉じ、視線を上げた時には、既にいつもの彼だった。

108白孔雀(3):2005/08/07(日) 05:54:07
「またえらく早かったな」
「うん。ちょっと寄りたいとこもあったし。で、どれなんだよ?」
彼の示す先には、高さ1.5メートルほどの、大きな深緑の葉を広げた植物の鉢があった。
葉の尖った部分から伸びた赤い茎の先には、白い蕾がひとつだけついている。 日本では“月下美人”の名で知られる花で、クジャクサボテンの一種だ。

「へえ。これが月下美人ってやつかぁ」
悠理も身を屈め、興味津々といった眼差しを向けていたが、満開になるのは遅くても夜中頃だろう、という言葉に、少なからぬ不満の声をあげた。
しかしすぐに悪戯っぽい笑みを口元に刻むと、魅録の腕を掴み、引きずるようにして歩き出した。
「なっ、何だよ?」
「やっぱ買ってきて正解だったなー」
戸惑った表情の魅録をよそに、悠理は縁側に腰掛ける。持っていたコンビニのビニール袋を傍らに置くと、嬉々とした様子で中身を並べ始めた。

トランプ、様々な種類のパンと菓子、ペットボトルのジュースに数個のアイス。 車の雑誌の最新号は「これはおまえの」という言葉とともに、魅録に手渡された。
「おっ、サンキュ。……でも、夕飯はうちで食うんだよな?」
「うん! だから決まってんだろ。これはあたいとおまえの――」
“おやつ”だろ。魅録は心の中で続ける。
“花見”と聞いた途端、悠理の頭にはそれが真っ先に思い浮かんだようだ。
別に特別な反応を期待していたわけではないが、それにしても……。

これはあたいのお菓子、今日はポーカーで勝負……等々色気とは程遠い内容を楽しげに話し続ける悠理を前に、魅録は相鎚を打ちつづけた。

109白孔雀(4):2005/08/07(日) 05:55:20
夜空に星が瞬き、辺りが闇に包まれた頃、松竹梅家の縁側に何度目かの絶叫が響いた。
扇形に広げられたトランプのカードを、スタンドの明かりが照らしている。傍らには食べかけの菓子や、ペットボトルの飲み物、パンが無造作に広げられていた。
夕食からまださほど経っていないはずだが、かなり量が減っている。

「勝負あり。今度も俺の勝ちな」
魅録は余裕で微笑みながら、眼前のカードを指差す。
「ちっきしょー……何でだよぉ」
片膝を立てて座った格好のまま、悠理が不満げに呟いた。無邪気な反応と表情が、可笑しくも可愛らしい。
「何ならあのサングラスとトランプ、持ってくるか? 飛良泉の事件で使ったやつ」
気心の知れたからかい口調で訊ねる。だがそれが、火に油を注ぐ形となった。

「おっ、おまえまで人をばかにすんな! あたいにだってそんくらいの意地はあるぞ! こーなったら死んでも自分の力で勝ってやる!」
頬を紅潮させて怒る悠理を横目で見ながら、魅録は思う。
(それがもっと別の時に出ればいいんだが。本当、良くも悪くも変わらない奴だよな)
そんな彼の心中に呼応したかのように、美童の声が耳元で甦った。

(人であれ何であれ、長い年月の間、全く変わらないなんてことあり得ないと思うけど)

口にした後で、相手が相手だということに思い至ったのか、彼の表情にも不安の色がありありと浮かんでいたが。
その情景を思い出しながらカードを切り続ける魅録に、悠理が言った。
「何、一人で笑ってんだよ。あんま人のことなめてると、ぜーったい痛い目に遭うぞ」
「そうじゃないって。でもま、期待してるよ」
軽くあしらわれたと取ったのか、悠理がむっとした顔で、配られたカードを見つめる。つられて視線を落としながら、魅録は再び自らの思いに引き込まれていた。

(続く)

110その時はじめて:2006/02/05(日) 22:20:19
短編投下させて頂きます。微妙に魅録×悠理です。
お好みに合わない場合は華麗にスルーでお願いします。

_______________

「あ、ここでいい。停めてよ」

突然、何かを振り払うかのように助手席の彼女が言った。
規則正しく街灯が並ぶ通りで車が急に停まり、軽い反動が二人の上体を前後に揺らした。運転席の彼が怪訝そうに訊ねる。
「何だよ。どうせなら家の前まで送るのに」
「いーよ。ちょっと歩きたい気分だし」
彼女はシートベルトを外し、ドアを開けると、軽い身のこなしで道路に降り立った。程よい暖かさの車内とはうって変わり、冷え冷えとした空気が頬を刺す。思わず身震いし、同色のファーで縁どられた白いフードをかぶった。
助手席側の窓が開き、運転席から身を乗りだした彼が声をかけてくる。
「もう夜中過ぎだぞ。今、わりと物騒だし、変な奴にでも出っくわしたらどうするんだよ」
「平気だって、そんくらい」
「……まあ、確かにお前なら大丈夫だろうけど」
こともなげな彼女の言葉に彼もあっさり答えた。彼女の並外れた腕っぷしと気性の強さを十分すぎるほど承知しているからだろう。それでも、
「じゃ、おやすみ」
「悠理」
既に歩き出していた彼女を軽く引きとめる。
「ちょっと待ってろ」
そう言い残すとすぐ側にあった駐車場に車を停め、漆黒のロングコートのボタンを掛けながら、足早に戻ってきた。
「送ってくよ。やっぱ気になるし」
思いがけない言葉に彼女は少し戸惑った様子を見せたが、すぐに満面の笑顔で答えた。
「サンキュ。魅録ちゃん、愛してる!」
「お前の場合、下手すると相手が病院送りになりかねないからな」
からかうような笑みと言葉に、彼女は気分を害した顔をする。

――ばかやろー。ほんのちょっとだけど、嬉しかったんだぞ。

111その時はじめて・2 魅×悠:2006/02/05(日) 22:23:41

反射的に思った後、微かな違和感を覚えた。
嬉しいって、何がだ?
そのまま考え込む彼女の額を大きな手が軽く小突いた。
視線を上げると、優しい色を浮かべた切れ長の眼が自分を見ている。
冷たかった頬がほのかに熱くなるのを感じながら、視線を逸らす。
「心配しなくたって、ちゃんと手加減してやるっての。寒いから、早いとこ行こっ」
いささか荒っぽい口調で言い放ち、憤然と歩き出した。


______________________


都会では珍しいくらい澄んだ星空の中で、僅かに欠けた月が澄んだ光を放っている。
その明かりが照らす閑静な住宅街に二つの足音だけが響いていた。
一つはゆっくりと規則正しく、もう一つは小走りに足音高く。
数日前の雪が凍ったまま残る道路を彼女が駆けて行く。
「あんまりはしゃぐなよ。転んで怪我でもしたら、大変だからさ」
「わかってる」
背後からの言葉に彼女は足を止め、笑って答える。彼が追いつくと今度は歩調を合わせて歩き出す。

やがて昼夜を問わず、遠目でもわかる程の大邸宅が見えてきた。日本有数の財閥の一人娘である、彼女の家だ。
――結構歩いた上に、自分の家まではまだ距離があるはずなのに、やけに短い。
車を降りる前の何かが欠けているような思いに再びとらわれながら、上部に瓦屋根を模した高い塀沿いに歩き続ける。
門の前に着くと、彼女は白いハーフコートの裾を翻し普段と変わらぬ声で言った。
「ありがと。悪かったな。こんなとこまで」
「どうってことねーよ」
少しぶっきらぼうな声音と微かな笑み。彼女は唇の端をひきしめ俯いた後、会話を繋ぐように訊ねた。

112その時はじめて・3 魅×悠:2006/02/05(日) 22:25:30

「――で。今、何時?」
「あ?」
彼の左腕が軽く挙がり、視線が伏せられる。
「もうすぐ三時半。今からだとあんま寝る時間ねーかもな」
「なら泊まってく?」
取り出した煙草を咥え、火を点けようとしていた彼の手が止まった。
――硬い金属音をさせ、ライターの蓋を閉じると、そのままポケットに戻す。
「いや、いい。着替えに帰らなきゃいけないのは同じだからな」
奇妙な間の後、彼女が多少ぎこちなく拗ねたように呟いた。
「なーんだ。せっかくあったかいコーヒーか食いもんでも出そうと思ったのに」
「気持ちだけもらっとくよ。じゃあな、おやすみ」
彼は彼女の頭をぽんぽんと叩くと、踵を返しかける。

「あ、みろ――」
「?」
首を傾げた彼に慌てて左手を振った。
「い、いや。っと――おやすみっ」
「ああ」
コートのポケットに両手を突っ込み、颯爽と歩く後ろ姿を見送っていた彼女の胸中が、もどかしさで波立った。
それは、言おうとした途端忘れてしまったことを思い出せない時の焦燥感に近かったかもしれない。
何かを伝えたいのにどうしても言葉が見つからない。
声にならない声が視線の強さで伝わったのか、彼が振り返った。

113その時はじめて・4 魅×悠:2006/02/05(日) 22:27:32

「……何だよ」
「何って……見送ってんだけど」
確かにその通りだ。口にしてはじめて気付く。
彼が語気を強めて言う。
「早く家入れよ。風邪ひくぞ。それに明日は一時間目から英語の小テストだし。遅刻やサボリじゃまずいだろ」
「げっ。そーだった」
「そうだよ。じゃまた学校でな」
彼女のうんざりした表情に笑いを誘われながらも、彼は軽く手を挙げ歩を進めた。
しかし、纏わりついたままの何かはどうしても離れない。
(――やっぱ違う)
あたしが言いたいのは、今思ってるのは、こんな事じゃなくって――

「魅録!」
驚いた彼の顔を見た瞬間、無意識に叫んでいた。
「あたしが送ってく! 車まで遠いだろ?」

________________


「……何?」
呆れ顔で問い返された。
変なこと言ったよなと思いながら、同じ言葉を繰り返す。
彼はじっと眉をよせて考え込んだ後、ため息まじりに答えた。
「……あのなぁ。お前に守ってもらわなくたって、俺なら十分大丈夫だって」
それを受けた彼女もむきになって言い返す。
「今は危ないって言ったのは、魅録だぞ。だから送ってくんだってば」
「あほ。それじゃ俺がここまで来た意味ないだろ。いいから早く寝ろって」
「やだ! おまえだってさっき、あたしなら大丈夫って言ったじゃんか!」
「なっ……そういう、人の揚げ足取るようなこと言うか? 何でそうお前は――」
「だってさ」
つられて声高になる彼の言葉をさらに強い声で遮る。
「何か、もうちょっと一緒にいたい気分なんだよ」

114その時はじめて・5 魅×悠:2006/02/05(日) 22:29:22

声になった途端、息苦しささえ感じさせた胸のさざ波がすっと凪いだ。
――ああ、これだ。
何処か非現実的な感覚の中でそう思いながら、彼女は小さく息をつく。
ふと気が付くと、彼がまじろぎもせずに自分を見つめていた。
まるで、彼女の心の奥底まで見通したいと言わんばかりの眼で。
訳がわからぬまま、怒りに似た鋭ささえ帯びた眼光に引き付けられたかのように、思わず見つめ返す。

不意に強烈な胸苦しさが込み上げ、彼女の頬に熱が集まった。
隠していた悪戯や嘘がばれた時のような居心地の悪さに似たものを覚え、動揺する。
(な、何であたしがこんな焦んなきゃいけないんだ? そんなにおかしなことでもないはずなのに)
そう、いつも言ってるようなことと同じ、なのに何で――

「…………」
そんな彼女の内面を知ってか知らずか、彼がふっと視線を外した。
薄桃色の髪を困惑したような仕草で乱しながら、口を開く。
そして、手の焼ける妹をあやすかのような言い方で呟いた。
「――好きにしろよ」

――微妙な緊張は解けた。
胸の中にまだ残るざわめきと照れくささをかき消すような大声で、彼女は弾かれたように反応する。
「お、おう! 行こーぜ、魅録!」
「行こうって、おま……」
帰るのは俺なのに何か偉そうだなーとぼやく彼の声に、彼女は悪戯っぽい笑顔を向け、勢いよく走り出す。
真冬の寒烈な空気が風になり、まだ赤いままの彼女の頬を強く撫でた。

<END>

終りです。有難うございました。

115彼女は仮面をかなぐり捨て 1:2006/12/25(月) 14:41:45
魅×可です。クリスマスネタ。

 魅録は眉を顰めて、慌てて吐き出す。
(最後の一本だったのに)
 苛立ち紛れにマルボロの空箱を指先で弄ぶ。指先で器用にパカパカと
開閉させながら、リズムをとった。
 何やってるんだか。
 物思いから覚めると、途端に寒さが忍び寄ってくる。身を切るような
冬のドライブにも耐えうるダウンジャケットではあったが、剥き出しに
なった耳の痛みまでは防いでくれない。分厚いゴム底のブーツでさえも
靴の中で指を擦り合わせる必要があるほどだった。
 ちょっと繁華街にでも出ればイルミネーションの星で瞬いているだろうに、
このあたり一体は静かな黒で大覆われている。空を仰ぎみても月はまだ
若く頼りなげで、星は雲に隠されていた。正当とは言えない手段で母校に
忍び込んでから二時間が立とうとしているが、閑静な住宅街のど真ん中
に立つこの広大な学び舎は、どこまでも静謐だった。
 ちらりと腕時計に目を走らせる。針の進みが体感以上に早い。もうすぐ
日付は変わろうとしている。
(――可憐)
 待ち人の名を呟くと、拍子にこの一年が脳裏に過ぎった。大晦日のカウント
ダウン、元旦の初詣、受験、バレンタイン、卒業式、お互いの誕生日。
 若い娘らしく、彼女は他愛無くイベントに拘り、魅録はその期待に十分
こたえてきたのだと自認してきた。賢くてスマートな恋をする彼女も存外
可愛らしいところがあるものだと、苦笑するような気持ちで。
 昨年のクリスマスに彼女から告白されてちょうど一年になる。早いもの
だと魅録は思った。――そう早すぎる。
 友人として過ごしてきた高校時代と比べ、この一年のなんと希薄なことか。
分かり合えぬ隙間を会う回数で埋め合わせようとした。
 肺から絞りだすように深く息をついた。吐き出された空気は白く濁り、
夜に溶けていく。

116彼女は仮面をかなぐり捨て 2:2006/12/25(月) 14:42:42
 それにしても懐かしい。
 魅録は今自分がもたれかかっているモミの木を見上げた。親友のひとりで
ある剣菱悠理の父親が去年学園へ寄贈したものだ。人の手が入らぬ鬱蒼
とした欧州の森にこそ相応しい威風堂々のこの木を運ぶのに、万作は手段を
選ばなかった。つまり、それにかかる人手もお金も時間も、という意味で。
 親子の思いつきで多くの人間が振り回されたものであるが、その結果できた
クリスマスツリーは圧巻の一言だった。いやクリスマスツリーなんぞという
可愛らしい代物ではない。目を見張るほどのネオンと贅を尽くしたオーナ
メントは、日本はおろか世界各国から取材が来た。何しろ百貨店の外商が
このツリーのため御用聞きをしたほどの凝りようだったのである。
 煌々ときらめくクリスマスツリーを大勢の生徒が口を開いて眺めていたが、
日付が変わる前にはひとりふたりと帰っていった。巨額を費やしたツリーも
いいけれど、誰もが友人や家族、そして一部の幸運な者は恋人と夕食を取る
ことを選んだのだ。
 クリスマス当日になり、残ったのは魅録と可憐だけであった。可憐への
特別な感情が恋であるのか、あるいはただ美しい女性に対する憧れなのか
図りかねていた魅録は、少し恐れるような心持で可憐と相対していた。
 可憐のことをどう思うのかと問われたならば、とんでもなく魅力的な
女の子と言わざるを得ない。しかし自分の恋と彼女の恋が同じものである
とは到底思えなかった。
 ふたりきりになれば思いを告げられることなどとうに承知していた。
 それを避け続けていた魅録はあまりに男らしくなく、何より彼らしく
なかった。友情の中に恋愛を持ち込むつもりがなかったのだ。

117彼女は仮面をかなぐり捨て 3:2006/12/25(月) 14:43:06
「情けないのは変わりない、か」
 たった一年前のことを大昔のように思いを馳せて、魅録は溜息をつく。
 約束の24時まであともう少し。
 引導を渡されるのなら、最後ぐらい潔く受け入れるべきなのだろうか。
 手の中のマルボロの箱はすっかり潰れてしまった。
「Man Always Remembers Love Because Of Romance Only か」
 昔の恋人にでも聞いたのだろうか。ある日いつものように煙草を吸って
いた魅録に、可憐が少し得意げに口にしたのだ。問えば、マルボロの語源
なのだという。
 英文にちょっと無理があるし、俗説だろうと思っていたら、案の定
話を聞いていた清四郎がしれっと割り込んできて言った。
「メキシコ戦争時の英雄、マールボロ将軍からきたという説の方が信憑性
は高いですよ。ほら、この紋章部分を見てください」
 とんとんと指で箱をつっついている清四郎は少し楽しそうだった。
「よーく見れば『veni vidi vici』と書いてある。かの有名なカエサル
の言葉『来た・見た・勝った』ですよ。恋の名を銘にしたにしては、
ちょっと勇ましすぎる紋章でしょう」
 清四郎とは対照的に、可憐の機嫌は下降線を辿っていた。
 絶対、清四郎は何もかも承知のうえで可憐にちょっかいをかけてたに
違いなかった。というのも少し前に女性経験について可憐に揶揄われて
いる清四郎を魅録は目撃していたのだ。
 清四郎と可憐の関係というのは不思議なものだと常々魅録は思ってい
たのだが、その一件はその思いをより確かなものにした。
 清四郎と可憐はもちろん男女の域を超えた親友なのだが、同時に、
ただ同級なだけの異性と同じだけの距離もまた持ち合わせていた。遠慮
など欠片もないように応酬される言葉と言葉の間に、ごく普通のの礼儀
正しさが存在していた。それは。

118彼女は仮面をかなぐり捨て 4:2006/12/25(月) 14:44:03
(嫉妬だったんだろうな……。俺なりの)
 自分自身の感情に疎い方ではない。あのときの魅録は分かっていて蓋
をしたのだ。おりしも可憐とぎくしゃくしはじめた頃のことだったので。
 Man Always Remembers Love Because Of Romance Only。
 清四郎の言うとおり、どうせ女を口説くときに生まれた与太話だろう。
 無理やり訳すとすればロマンスのために……いや、真実の愛のために
恋をする、か?
 どちらにせよ身勝手には変わらないな、と魅録は自嘲した。まるで自分
だ。無償の愛ではありえない。



 しんとした世界で、時計の針がコチリと鳴った。
 見なくても分かる。
「メリークリスマス、だ」
 呟きは上滑りした。安いだけのプライドで落涙を防ぐべく、魅録は空を
見上げる。ドラマのように奇跡めいた力で雪が降ってくることはない。
 星のない黒い空に薄い月が浮かんでいるだけだ。
 それでも聖夜には違いなかった。
 しばらくそうした後、魅録は帰ろうとした。大切な呼び出しに遅刻
してくるような女ではない。24日の日付が変わる前に、と言って
誘った。ここに現れないというのなら、それが彼女の答えだったのだろう。
 今年はなんの飾りつけもされていないモミの木からきびすを返した
魅録はしかし、ぎくりと強張った。

119彼女は仮面をかなぐり捨て 5:2006/12/25(月) 14:45:11
「ずるいのね」
 いつの間にそこにいたのか、校舎の脇に可憐が立っていた。
 ああ寒そうだな。
 彼女の言葉の意味を斟酌するよりも先に、魅録はそんなことを考えた。
 上品なオフホワイトのコートは彼女によく似合ってはいたけれど、
この寒波の日に相応しい装いだとは思えなかった。ゆっくり近づいて
くる彼女の頬は厳しい寒さのせいか色づいている。白と黒の世界の中、
着色映画のようにそこだけが薔薇色に染まっている。
 一年前の今日、同じような光景があった。
『魅録』
 伏せた目元に重たそうな睫が影をつくっている。わななきを抑える
ように、口元が硬い。
『あたしと付き合って』
 今にも壊れそうに儚い所作でありながら、絢爛豪華なクリスマスツリー
から放たれるイルミネーションに掻き消されることなく可憐は立っていた。
あのとき魅録はあたかも銀幕女優を見るように、可憐に見蕩れたのだった。
彼女が意図したものであろうとあるまいと、言葉通り彼は引きずられる
ように恋をしたのだ。今と違って、そのときの彼は何をすればいいのか
はっきりと「理解して」いた。可憐の想いに答えるべくその華奢な肩口に
手を伸ばし、抱きしめたのだ。
 つい過去に飛ぶ魅録の心を引き戻したのは、可憐の言葉だった。
「本当に、ずるい」
 気がつけば、彼女の瞳はしっかり見開き、魅録自身を射抜いていた。揺れ
ていた彼をあっというまに溶かしてしまったあの玻璃細工のような繊細な
輝きではなかった。無論、自分たちの隣に聳え立つのもただただ大きいだけ
のモミの木だ。

120彼女は仮面をかなぐり捨て 6:2006/12/25(月) 14:45:49

「あたしが来なければ、あんたは勝手にひとりで泣いて、勝手に恋を終わら
せることができるのね」
 言われて、頬に熱いものが流れているのにようやく気づいた。気づいた
途端、猛烈な羞恥心が魅録を襲う。
「お前がそれを望んでいるかと思ったから」
 慌てて口にした言葉のあまりに言い訳めいた響きに、自分自身の台詞で
あるにもかかわらず魅録はうんざりとした。確かに、なんていう独りよがりだ。
 可憐も同じことを思ったに違いなかったが、あえて彼女は指摘しなかった。
 変わりに違うことを言う。
「あんたに好いてほしくって、持てる全てをつぎ込んでの手練手管。
でも、ね。一度も好きだって言ってくれなかったね」
 言葉の最後は呟くように消えた。
 鈍器でがつんと頭を殴られたような思いだった。
 気づいていなかった。いや、それでは嘘になる。それを口にすべき場面
など何度もあったにもかかわらず、照れくささのあまりいつも一歩引いて
いた。だがそのたった二文字の単語を告げないということが可憐にとって
どういうことなのか、真面目に考えたことがなかった。
 絶句する魅録の前で、可憐はとうとう俯いた。――揺るがないまなざし
が虚勢だってことは分かっていたのに。いざ目を逸らされると魅録は
ますます近寄れなくなる。
 もはや中途半端に手は出せない。その美しさにとらわれ、戯れに手折って
しまった。愛するのではなく、ただ俺は可憐を愛でていただけだ。

121彼女は仮面をかなぐり捨て 7:2006/12/25(月) 14:46:20
 同じ場所、同じ時間。けれど武装しない可憐はまったくの丸腰だった
し、魅録自身はどうしたらいいのかまるで分からず立ち尽くすという有様
だった。失われようとする恋にあまりにそれらは無力で。
 闇の中、まるでそこだけ雪が降ったかのように可憐のコートがふんわり
と白く浮かび上がっている。マルボロを持たぬ方の手を伸ばして頤(おとがい)
を持ち上げると、零れ落ちた髪から夜の匂いがした。
 言葉が出ないことを誤魔化すような口付けだったが、去年の抱擁よりは
まだしも誠実だったかもしれない。
 煙草の味がする口付けを解いてもなお至近距離で見詰め合う。無言のまま
の魅録に可憐は笑い顔をつくった。
「あたし、お人形さんじゃないわ」
「マドンナでもないし」
「その辺にいるただ綺麗な女の子でもないのよ」
 ふと魅録は、清四郎と可憐の間にある奇妙な礼儀正しさについて思い出
していた。そしてまさしく、自分たちの間にも同じものが存在することに、
今はじめて思い至ったのだった。
「あたしはあんたの親友よ。そしてあんたの恋人になりたい女なのよ」
 可憐は今、俺の前で、俺だけの前で、何かを――そう、彼女にとって大切
だった何かをかなぐり捨てたのだ。
 魅録ははっきりとそう悟った。
(そこまでしてもらえる程の男か、俺は!)
 魅録は一歩後退した。手から空箱が零れ落ちる。

122彼女は仮面をかなぐり捨て 8:2006/12/25(月) 14:46:50

 ロマンスのために――陳腐な俗称をもつ銘の記された箱を踏みつけ、可憐
は魅録が下がった分より大きく足を踏み入れた。
 去年であれば、計算されつくした恋の招きに魅録は応じるだけで良かった。
それを可能とするほどに可憐は美しかった。逆に言えば美しくさえあれば
良く、美しくなくてはならなかった。
 しかし今の可憐は。
 可憐はふたたび魅録をじっと見つめている。色素の薄い瞳は、ただまっすぐ
に彼に届いている。
 モミの木の枝がさわさわと揺れる。夜の気配は深く、しじまそのものだった
空気がつかの間ざわめいた。
 相変わらず細い月の光は弱い。
 可憐だけが浮かんでいる。紅潮していた頬が今は青褪め、涙で髪を張りつ
かせていた。

 ――すとん、と。

 魅録は音にならぬ音を聞いたような気がした。
 思い出したかのように、長時間冷気に晒された耳朶が痛み始めた。足の指も
じんじんと痺れ、洟が詰まってきた。
 ゆっくりと時間が戻ってくる。



 それは恋に落ちた音であることを、魅録は知っていた。



終わり

123撫子の秘め事:2007/10/22(月) 03:54:38
難民の本スレに短編投下中の者です。
連投規制にひっかかってしまったため、
http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1181123268/n652-661
の続きを、こちらをお借りしてUPさせていただきます。

レズ有り、R18有りですので、苦手な方はスルーよろしくお願いします。

124撫子の秘め事*10*:2007/10/22(月) 03:56:14
「ですから出版前に、我々が検閲することにします。それに合格したら許可と
いうことで」
「へっ?」
「言っておきますが、生徒会役員全員で検閲しますよ」
 うげ。
 検閲を通るような代物で予約者が満足するとは思えなかったが、僕はまず
今日の命を惜しむことにした。予約者には後日、もっと巧妙にバレない形で
埋め合わせする手段を考えよう。
「わかりました。では部員に伝えて書き直しさせます」
「くれぐれも、次はバレないようにしようなどと、変なことは考えないで頂き
たいですな」
 見抜かれてる……。
「では、このファイルは不要ですね。削除させていただきますよ」
 そう言って会長は、部室の僕のPCに向かい操作している。
「バックアップは?」
 僕は素直にUSBメモリを差し出す。
「他にはありませんね?」
 無いはずが無いだろう。自宅にもちゃんと保管してあるが、そんなことを
言うほど馬鹿ではない。
「これだけです」
「ふむ。ま、そういうことにしておきましょうか」
 そう言って彼は立ち去って行った。
 今回のことは、漫研と写真部にも注意しておいてやらないと、ヤバイかもし
れない。
 しかし、今回読まれたファイルが僕の書いていた「撫子の秘め事」で良かっ
た。もしも女子部員が執筆中の「生徒会長の事情」が読まれていたらと考える
と、想像しただけで……、いや想像だけでもしたくない。
 学内のPCからデータは削除して、リムーバブルファイルの管理にも注意する
ように促さないと。

125撫子の秘め事*11*:2007/10/22(月) 03:57:27
 そこで僕は、はたと気付いた。
 彼は立ち去る時、USBメモリを制服の内ポケットにしまっていた。
 すぐに破棄するつもりのものを、そんな場所にしまうだろうか。
 彼の性格なら、僕の目の前で破壊してもおかしくないのに。
 ……彼もやはり、健康な男子高校生だということなんだろうか。それなら
懐柔の方法があるかもしれない。
 早速部員に召集をかけて今回の顛末を報告し、対策を練ることにしよう。


Fin.

126撫子の秘め事:2007/10/22(月) 04:02:21
以上、4レス(このレスを含む)お借りしました。
ありがとうございました。

ありがちなオチですが、「くだらねー」と笑っていただければ幸いです。
文芸部長の妄想、という形を取っていますので、野梨子のキャラ設定が
必要以上に弱気な大和撫子風になっていますが、このあたりも
笑ってご容赦いただければ助かります。

127大使の策略1:2009/03/10(火) 08:29:51
規制に巻き込まれたみたいで書き込みできないのでこちらに短編うpします。

美童メインで微かに美×悠


特に意味はなく、暇だからたまには美童の家で呑み明かそう、ということになり、連中は集まっていた。
何てことない、いつもの談笑が続く。
「ホント食べてばかりだなぁ」
目の前で散々料理とお酒を平らげた後、さらにケーキにがっつく友人を見て美童は胸焼けしそうになった。
「まあまあ、食べることだけが生き甲斐なんですから」
清四郎の言葉は全然フォローになってない。
それに合わせて野梨子がクスクスと笑っている。
「あんたも恋愛でもすれば、ちょっとは色気付くんじゃない?」
可憐はやれやれといった感じで、悠理の食べ散らかしたお皿を片付けている。
魅録もいつもの呆れ顔で、頷きながら煙草に火を付ける。
「なんだよ!!ほっといてくれよ」
悠理がムスッとした顔で言った。
頬を膨らませてむくれる姿は、可愛いといえば可愛い。
子供の様な、小動物の様な、何故か憎めない魅力がある。
女としての魅力は全く持ち合わせてないが。


そんな時、急に玄関から話し声が聞こえた。
「急にしばらく休暇が取れることになってね。真理子さんの顔が見たくなって飛んで帰って来てしまったよ」
どうやら美童の父であるヴィヨン氏が帰って来た様だ。
「あら?今日は美童のお友だちが遊びに来てるのよ」
美童の母、真理子が答える。
「そうか。では挨拶しておこう」


「やあ、ゆっくりしていってくれ」
ニコニコと愛想の良いヴィヨンに友人たちは軽くお辞儀をし、挨拶を返した。
「お邪魔してます」
「こんばんは」
「夜分にお邪魔してしまい申し訳ありませんわ」
「お久しぶりです。おじさま」
「美童のとーちゃん、久しぶり〜」
全員の挨拶が終わると、ヴィヨンは女性陣をチラリと見回した後、息子である美童の方を振り返った。
「で、このうち誰が美童の彼女なんだい?」
ずっこけそうになった。
「全部違うよ。彼女たちはただの友達」
溜め息を衝きながら否定すると、ヴィヨンはそうかそうかと3人を口説き始めた。
「素敵なお嬢さん方、今度私と一緒に食事でもいかがかな?」
流石は美童の父親だとばかりに、清四郎と魅録は微笑ましくこの状況を見守っている。
満更でもなさそうな可憐と、返答に困っている野梨子。
そして食事という単語に反応して嬉しそうに行く行くとはしゃぎ出す悠理。

128大使の策略2:2009/03/10(火) 08:30:39
「ちょ、ちょっとパパ、僕の友達に手出すのやめてよ」
美童は慌てて止めようと試みる。
何しろヴィヨンは、息子のお見舞いに来ようとした彼女でさえも簡単に落としてしまったことがある。
後に事実を知った哀れな息子は数日ショックを受けていた。
食欲しかない悠理と、たとえ友人の父親といっても男と二人で食事なんて行きそうにない野梨子は別として…。
(この中で一番パパの毒牙に掛かりそうなのは…やはり可憐だ)
直ぐ様、結論に至った美童は、可憐に絶対駄目だと念を押した。
野梨子は思った通り丁寧に断りを入れていた。
悠理は食べ物に釣られた様だが、まあ間違いが起こるわけないので大丈夫だろう。
「わーい!!じゃあ明日の夜7時ね」
既に約束してしまった様だ。
「あら、あたしは駄目で悠理はいいわけ?」
不服そうにする可憐。
「可憐はムードに流されやすいだろ。パパとデートなんて冗談じゃないよ。その点、悠理は女じゃないから安心だよ」
「何だとぉっ!?あたいはちゃんと女だっ!!」
聞いてたのか…。
反論する悠理の隣でヴィヨンが言う。
「いかんねえ。女性にそんな事を言っては」
普段の悠理を知らないから、そんな事が言えるのだろう。
「パパ、悠理は体力馬鹿の食欲魔神だよ」
確かに…と同意する皆を他所にヴィヨンは続ける。
「元気でいいことじゃないか。世の中色々な女性が居るからねぇ。美人で明るくて素敵だと思うがね。どんな女性にも良い部分があるのだから、そこを見つけ出して褒めることこそがモテる男の醍醐味なんだからね。美童もまだまだだな。そんな事じゃ次のバレンタインも杏樹に負けちゃうぞ。まあ、一番数が多いのは私だけどね…」
嬉しそうに自信たっぷり演説をするのが聞こえていたのか、うんざりするマダム真理子の姿があった。
「悠理は男友達みたいなもんだよ」
美童の訴えにも、ヴィヨンには届かない。





「悠理は今日もおじさまと御一緒ですの?」
野梨子が言った。
ここ最近、悠理はめっきり倶楽部に顔を出さない。
それもこれも父が毎日の様に美味しい食事デートに誘っているからだ。
何も起きないことが分かっているとはいえ、軽い不安にかられて来る。
「もう、いい加減にして欲しいよ〜。ママも溜め息ばかり衝いてるし…。杏樹は気にしてないみたいだけど」
美童は机に突っ伏した。

129大使の策略3:2009/03/10(火) 08:31:24
(本当なら今頃デートの予定だったのに…)
流石の美童も、今はそんな心境になれない。
「でも、おじさまって素敵だものねえ。案外、悠理も禁断の恋に目覚めたりして…」
可憐も他人事だと思って無茶苦茶言ってくれる。
「ま、絶対ありえないだろうがな」
ハハッと笑いながら魅録が突っ込むと、それに清四郎も同意する。
「まあ、悠理ですからね」
有り得ないとは分かっていつつも、美童は憂鬱だった。
何しろ、あの悠理がラフな服装だと入れない店だからと言って、わざわざドレスなんか着てヴィヨンと会っているのだ。
それも、普段パーティーで着ている仮装ばりの派手なものではなく、上品でセンスの良いものを。
恐らく、ヴィヨンが悠理を丸め込んでプレゼントして着させているに違いない。
しかも、中身を知らなけれれば、整った顔立ちにスラリとしたモデルの様に長身でスレンダーな体型は、着飾ると結構いい女に見えないこともない。
それに、ヴィヨンはどんな女性でも大抵は口説き落としてしまう、息子たち以上のプレイボーイぶりだ。
それを証拠に美童が苦労して付き合う様になった彼女を、たったの一言で心変わりさせてしまった。
「そんなに心配ですの?」
苦悩する美童に、野梨子が少し困った様な表情を向けた。
「悠理のやつ、パパがプレゼントしたドレスとか大人しく着てるんだ。それに今までパパが本気出して落ちなかったコなんて見たことないし。自分の親と自分の友達が〜なんて筋書き僕だって嫌だよぉ!一回ご飯行くだけだと思ったら、もう今日で一週間連続だよ…。ママだって流石に疲れてるみたいだし、もし離婚なんて事になったら…」
溜め息ばかり衝く友人を見て、連中は顔を見合わせた。
やがて、清四郎が口を開く。
「仕方ありませんね。友人の家庭を壊すわけにもいきませんし。悠理とヴィヨン氏の仲が…というのは有り得ないと思いますが、念の為今晩あたり二人を待ち伏せて説得しましょう」





結局、みんな揃って後を付けることになった。
二人が店内に入って行くのを見届け、後に続こうとしたが、完全予約制とのことで諦め食事が終わるのを外で待つことにした。

130大使の策略4:2009/03/10(火) 08:32:01
ガラス張りのお洒落な店内は、遠目ではあるが、外からでも二人の様子が伺える。
顔ははっきりと見えないが、どうやら悠理はホワイトを基調としたドレスを着ている様だ。
髪はウイッグで、背中まで緩いカールが掛かっているせいか、いつものボーイッシュなイメージはまるで感じさせない。
「あれが…悠理ですか?」
「女は変わるってマジなんだなぁ」
「ま…まあ…、本物のレディに見えますわ」
「ホント…。こうして見ると別人みたいねえ」
驚きのあまり、皆の視線が悠理に向かって一直線になっている。
「感心してる場合じゃないよ!あぁ、パパったら悠理の頭撫でたりして何やってんのさ…」
(ママが本気で怒ったらどうするんだよ!!?僕だって身内の友人に手を出す様な節操無いことしたりしないぞ)
「あんのエロ親父〜っ!!!!」
これ程自分の父親と、グランマニエ家に流れるプレイボーイの血を喜びこそすれ呪ったことはない、と拳を握り締めた。
そして、もう我慢出来ないとばかりに美童は一人で店内へ踏み込んだ。


「すみませんが、当店は完全予約制でして―――」
「父と友人がこちらで食事中なのですが、急用で携帯も繋がらないので少しだけいいですか?」
店員が女性だったので、持ち前の美貌と得意の笑顔であっさりと中に入ることが出来た。
二人が居る席に向かって歩いて行くと、向こうも気付いたらしく、こちらを振り返る。
先に一声を発したのは悠理だった。
「あれっ?美童こんなとこで何してんの?もしかしてデートか!?ここの飯って美味いんだよな。おまえのとーちゃん美味い店いっぱい知ってんだよなあ。あたいここ気に入っちゃった」
嬉しそうに料理が運ばれて来るのを待っている。
「それは奇遇だ。良かったらダブルデートでもどうだね?」
ヴィヨンは悪びれもせずにさらりと言ってのける。
(全く人の気も知らないで…)
「それどころじゃないよっ!!パパが久しぶりの休暇に悠理とばっか遊んでるからママ本気で頭抱えてるよ。悠理も悠理だよ。大体、悠理ん家ならいつだってこんな店くらい連れて来て貰えるだろ!?なんでわざわざ僕のパパとデートなんかしてるんだよ!!?そんなガラでもないドレスなんか着ちゃってさぁ!!!」

131大使の策略5:2009/03/10(火) 08:32:35
美童は一気に捲し立てた。
が、ヴィヨンは全く動じない。
「これは私がプレゼントしたんだが…。どうだい?彼女とても綺麗だろう?」
今はそれどころじゃ…と思いつつ、悠理に視線を移した。
ここ最近、毎日の様にこういったドレス姿の彼女を見ることはあったが、間近で目にするのは初めてだった。
あれだけ日に当たって走り回っているのに、日焼けすらしていない健康的な白い肌。
切れ長の瞳に長い睫毛。
うっすら化粧が施されている。
甘過ぎずセクシー過ぎずの膝丈までの白いドレスは、中性的な美貌の彼女にとても似合う。
ウイッグによるロングヘアーも普段は見ることのない、女性らしさをかもし出している。
不覚にも見とれそうになった。
(いやいや、中身は悠理だ)
美童は気を取り直した。
父親であるヴィヨンには何を言っても無駄だと思ったので、悠理を説得することにする。
「悠理、食事なら僕がいくらでも付き合うから」
「ん〜、そうは言ってもなぁ、おっちゃんと約束しちゃったし、ご馳走まだ食ってないしなぁ。服も色々買って貰っちゃったし…」
悠理はどうしていいか分からず困っている。
そこにヴィヨンも割り込んでくる。
「そうだ。今日は彼女は私とデートしてるんだから」
「な、何言ってんのさ!?パパにはママが居るだろぉ!!」
「おまえだって人妻と付き合っているだろう」
(ぐっ…)
痛い所を突いてくる。
「と…とにかく悠理は僕の友達でパパの彼女たちと違っうんだから…」
「ほう、だったらママに伝えておいてくれ。前におまえが言っていただろう。彼女は女性ではなく同性の友人と何ら変わりないと。だから、私も可愛い息子の友人と男同士の付き合いをしているだけなので、安心してくれ―――とね」
(そんなこと言っても通用するわけないじゃないか。悠理を知りつくしてる僕等とはわけが違うんだ)
「パパ、確かに悠理はガサツだし口は悪いし喧嘩っ早いし力は強いし食べることばっかり考えてるけど、それでも一応は女の子なんだ。ママが怒るのも無理ないよ。それに…」
「それに何だい?」

132大使の策略6:2009/03/10(火) 08:33:18
美童は一瞬、言おうとしたことを呑み込んだ。
が、躊躇いながらも再び口を開く。
「本当は友達思いで優しいし、めちゃめちゃ強いくせにすぐ泣くし、無邪気で可愛いとこもあるし…こんな格好してると思わず見とれそうになっちゃったし…」
段々口ごもって来るのが分かる。
ヴィヨンは美童に目を合わせると、しばらくの沈黙の後に微笑を浮かべ、ゆっくり席を立った。
「そうか―――。だったら代わりにおまえが彼女をエスコートしてあげなさい。私は帰って真理子さんのご機嫌を伺うとしよう」
「………え?」
さっきとは打って変わった父親の態度に美童は首をかしげる。
「いや…ね、おまえが彼女のことを女じゃないだの食欲しかないだの、女性に対して失礼なことばかり言うもんだからね。ちょっと久しぶりに説教してやりたくなったんだよ。だが、これでおまえも彼女が女性だということに気付いただろう。私は女性を女性とも思わない馬鹿息子を育てたつもりはないからね」
ヴィヨンは咳払いをすると、この場を立ち去ろうとした。
「あぁ、真理子さんのことだが―――、この一連の事情は最初から話してあるので心配はいらんよ。呆れてうんざりしてはいたがね。」
そう言い残すと、外に向かって歩き出した。
填められた…。
美童は唖然としながらも、空いた席に腰を下ろした。


「おや?君たちも一緒だったのかね?」
外に出ると、息子の友人たちが揃っていることに気付いた。
戸惑いながら、彼等はペコリと軽く御辞儀をする。
「あの二人はもう少し掛かりそうなんでな。タクシーを呼んでいるので、君たちも途中まで一緒に乗って行けばいい」
詳しい経緯は分からないが、皆はその好意に甘えることにした。
やがて、ポツリと言った。
「私と妻は元々友人でね、あまりに長いこと友人だったせいか、まさか彼女と結婚することになるとは昔は思ってなかった。運命の相手というのはいつ何処で出逢うのか分からない。出逢えないかも知れないし、既に出逢っているかのも知れない」
皆はただ、黙って耳を傾ける。

133大使の策略7:2009/03/10(火) 08:33:59
「しかし、あーだこーだと理由を付けて自ら視野を狭めてしまっては、せっかく出逢えたとしても、それに気付かず一生を終えてしまう。息子には心から愛せる女性と幸せになって欲しい。その相手が誰だかは分からないが、自分で幸せになる為の確率を下げてしまってはどうしようもない。私は―――真理子さんと出逢えてとても幸せだからね」
端から聞けば、歯の浮くような台紙に、思わず涙してしていたのは勿論可憐だった。
「おじさまは、やっぱり素敵だわ…。ああ、あたしも運命の恋がしたい…」


「パパとどんなこと喋ってたのさ?」
並べられた料理にせっせと手を付ける友人に言った。
「ん〜?どんなことって言ってもなぁ、最初におまえのことどう思うって聞かれて…」
(僕のこと?)
嫌な予感がする。
「で、悠理は何て?」
「えっと…女ったらしでナルシストで何かあったらすぐビービー泣き付いて来るし腕っぷしは弱いし…」
(一個も褒めてないじゃないか)
「でも、何だかんだいって優しいし、女にはマメだしテニスんときとか本気出したらすげーかっこいいし…後何だっけ?」
「…………」
「ん?あたい顔に何か付いてるか?」
マジマジ顔を見ていた様だ。
ハッと我に返る。
「え…、うん。食べかす付いてるよ…」
手元にあったおしぼりで拭いてやった。
どうかしている。
着飾っているとはいえ、悠理の中身までが一瞬、可愛いなんて思ってしまったことに。





翌日、いつもの様に生徒会室で連中は集まっていた。
全員揃うのは一週間ぶりだ。
バクバクとお菓子に貪りつく姿をチラッと見やる。
(―――やっぱり気のせいだよな)
自分の分だけではあきたらず、可憐のお菓子までに手を付けようとして、ピシャリと手を弾かれ、魅録に俺の分をやるからと呆れられながらパクつく姿は飼い慣らされた珍獣にしか見えない。
そんなことより、ここしばらくおざなりになっていた彼女たちにメールしておかなければと、携帯を手にとる。
その時、野梨子が言った。
「それにしても昨日の悠理のドレス姿には驚きましたわ。遠目でしたから、はっきりとは見えませんでしたけど…」
隣に居る清四郎も、うんうんと頷きながら続ける。
「まあ、顔は美人ですからね。外見だけならかなりいい線行くと思いますよ」
魅録は悠理の顔を見て呟く。

134大使の策略8:2009/03/10(火) 08:34:59
「まさかこいつがなぁ〜、う〜ん…」
信じられないものを見たかの様に、昨夜の記憶と見比べている。
可憐がこっちを振り向いた。
「そうだっ!!あんた間近で見たんでしょ!?写メとか撮ってないの!!?」
「そんなのないよ〜。悠理の写メなんか撮ってどうするんだよ?」
「あら?あんたのことだから、見直したよ、悠理。今日の君は目が眩む程の美しさだね…とか寒いこと言ったんじゃないの?」
それを聞いていた悠理が、気持ち悪いこと言うなとむせて咳き込みながら可憐を睨んだ。
他の皆も爆笑している。
美童は慌てて反論した。
「い、言うわけないだろぉ〜!!なんで僕が悠理なんかに…」
その瞬間、昨日の出来事がフラッシュバックした。
美しく着飾った彼女が、自分のことを語る。
自分でも忘れていた、自分のことを、そこが良い所だと、見つけ出してくれる彼女。
(参ったなあ…)


―――そして、恋人たちへのメールは送信されないまま、美童は携帯を閉じた。





END

135有閑名無しさん:2009/07/10(金) 18:23:08
美童×野梨子に急激に嵌ってしまいました。
設定やら細かいことは何もないワンシーンですがこっそりうpします。

136138(1/3)美童×野梨子:2009/07/10(金) 18:24:10


初夏の日差しが折り重なった木々から木漏れ出る。
昼下がりのオープンカフェは人もまばらで、静かな時間がゆっくりと流れていた。
不意に頬を撫ぜる爽やかな風が、向かい合う美童の髪を揺らす。
奇麗な色だと思う。自分とはまるで違う金色の髪。
彼もきっとその美しさを知っている。だから切ることはないのだろう。

「何?」
急に俯いて微笑んだ野梨子の顔を覗き込むように、美童が頬杖ついて首をかしげた。
「……いいえ。ちょっと思い出し笑い」

美童との時間はこんなティータイムによく似ている。
静かで、暖かで、穏やかな時間。
この世に何も悩むことなんてないんじゃないかとさえ思わせるほどだった。
仲間たちとのハラハラするような時間もとてもスリリングで楽しかったけれど、
やはり自分にはこの方が合っている。
年老いても、こうしてみんなで静かにお茶を楽しむような日々が訪れたらいいと、
そう思うのは野梨子の願いだったけれど、
美童はまるで自然にいつでもその時間を与えてくれる。

「えー…ヤダな。何? 何を思い出したんだよぅ…」
二人の、いや仲間たちとの思い出の中には、彼にとっては情けない部分も多い。
野梨子の笑みに嘲りを感じたのだろうか。美童は子供のように口を尖らせた。
「ふふっ。そんな心配するようなことじゃありませんのよ。たとえば───」
美童がナルシスティックな恋をしたこと、光源氏を夢見たこと、
裸同然の格好で雪山を逃げ回ったこと、お化けに怯えて腰を抜かしたこと……
野梨子が淡々と続けていくごとに、美童は見えないハンマーで押しつぶされたように
頭を垂れていった。

「───なんてことは思い出して笑っていませんから、ご心配なく」
「…全部覚えているし…」

湯気のおさまったティーカップ。水面を縁取る金色の輪に目を落として、
野梨子はにっこり微笑んだ。
「えぇ何ひとつ忘れませんことよ。全て大切な思い出ですもの」

137137(2/3)美童×野梨子:2009/07/10(金) 18:25:29

「記憶力がいいのも考えものだね」
「あらどうして?」
「……僕の情けない姿も、ちゃんと記憶しているんだから」
少しは忘れてくれてもいいのに。いや忘れたふりぐらいしてくれてもいい。

「おかしなことを言うのね、美童」
また笑っている。野梨子のくすくす笑いにむっと唇を尖らせた。
「どんな姿でも、大切な思い出ですのよ。それに…思い出は現在に繋がっているんですもの」
ただひとつでも消せない。消したくはない。
今、ここにこうして二人でいる。その過程はどの瞬間でさえ無駄なものがなかった。
「野梨子…」
やっと意味が分かって美童はまた優美に頬杖をつく。
立ち直りが早いところも、野梨子が気に入っている彼の性格のひとつだ。

「本当に全部覚えている?」
「えぇ」
「じゃあ…昨夜のことも?」
ティーカップに口をつけた野梨子の手がぴくりと止まる。
形勢逆転かな?と、美童の足が楽しげにテーブルの下で上下に揺れた。

「……137…」
「うん?」

聞き返しても、野梨子は再び謎の数字を告げただけだった。
昨夜のデートは…
待ち合わせに少しばかり遅れたのは美童の方だったけれど、まさか137分も遅れちゃいない。
秒に直したら2分ちょっと?だったのだろうか。
かねてから気になっていた映画を観た。137分?確かに2時間ちょっとの映画だった。
いくつか思いつくままに美童が答えを出しても、野梨子は首を横に振るだけ。

「私たちしか分からない数ですのよ」
二人のデートの数……にしては、数が多過ぎる。美童は腕を組んで考え込んだ。
それにしても中途半端な数だ。
しばらくは難解なクイズに考えこむ恋人を眺めていた野梨子も、
傾き出した陽の光に気付いてカップを置いた。

「ヒントを間違えましたわ。美童が答えられないのなら、私しか知らない数でしたわ」
「うーん…降参。137って何のこと?」
椅子の背が引かれ野梨子はすっくと立ち上がる。
「私だけの、思い出の数字。ですから内緒ですわ」

138137(3/3)美童×野梨子:2009/07/10(金) 18:26:07



食事を終えた帰り道、野梨子の家の前に車を止める。
辺りはまだ薄紫に夕暮れの色を残していて、もう随分と夏が近いことがわかった。

「とても楽しかったです。ありがとう、美童」
いくらデートを重ねても、きちんと礼を言うこの距離は変わらない。
「いいえ、どういたしまして。お姫様」
軽口ではない、本当に美童は野梨子をお姫様のように扱っている。
互いに成年となった今でも、同じ夜を過ごしたことはなかった。
それでも、顔を上げた野梨子がじっと見上げているのは、恋人である僅かな証。

「……」
こうして、別れ際に口づけを交わすのもだいぶ慣れてくれた。
美童にとっては挨拶とも変わらないキスだと、
彼の文化を受け入れる…ぐらいのつもりかもしれない。
確かに重ね合う程度の軽いキスでしかないけれど、夕暮れの路上で野梨子が許してくれる
限界だろうと美童は推し量っていた。

千のキスをプレゼントしたい───それが美童の口説き文句だった。
それでもこの恋が連鎖しないのならば、諦めてもいいと美童は言った。
野梨子は驚いてはいたけれど、拒絶することはなかった。
それがたとえ、彼女が何よりも大事にしている”友情”という形だったとしても、
受け入れてくれた時の微笑みが今も忘れられない。

「……」

離れた野梨子の唇が、声を出すことなく僅かに動いた。
138…。そう囁いた、気がした。
「それじゃあまた」
「あ……。待って、野梨子」
きょとんと見上げた瞳は日本人形のようにあどけないのに、
その唇はもう年相応に、女の魔力を秘めている。

「……キリが悪いから、あと2回してもいい?」
ピンポーンと正解を知らせるように野梨子の人差し指が上がる。
千回にはまだまだ遠い道のりだけれど、二人は140回目のキスをした。

END

139Knight (1/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:18:50

開催終了間際の美術館は平日だったせいか思いの外空いていた。
何百もの時を経て、大事に守られてきた絵画が並ぶ。
薄明かりの中でも画家のタッチまでも伝わる名作でさえ、今の美童には上の空だ。
真剣な面持ちでひとつひとつを眺めていく野梨子の表情ばかりにみとれて、
一枚で千の物語を語る名画さえ頭に入ってこない。

「ん?」

毛足の長い絨毯を進んでいた野梨子の足が止まる。
知的な視線は一転して子供のような無邪気さでまんまるに見開かれた。
「んん? どうしたの、野梨子」
つられて美童の目も見開く。
すると、腕を絡ませていた野梨子の手が美童の袖をつんつんと引き、
絵画にばかり向けられていた瞳が美童を見上げた。

「この騎士、美童にそっくり」
「え?」

雄々しく剣を振るい──おそらくは苦戦を強いられているだろう騎士の姿。
青銅の甲冑、兜からは乱れた金色の髪が躍動的に流れ落ちた横顔。
振り返ったその背には、守るべき者への配慮と死守する意志が感じられる。
「絵になる男だからね」
ふざけて絵画の騎士のポージングを真似ると、野梨子の赤い唇が更に歪んだ。

正直にいえば──そんなに似ていないように思えた。
傍から見れば長身の美童と小柄で凛とした野梨子が並べば、
異種混合な姫と騎士に見えなくもないだろう。
実際、彼らを知らず街角で見かけた好奇な視線からは、
そんなこそこそ話が聞こえたことだってある。
けれどそれは、上辺だけのこと。
自分が”騎士”と呼ぶに相応しいタイプだとは、美童自身思っていない。

140Knight (2/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:19:29

女の子は甘いお菓子みたいなものだ。
甘い時間を過ごすのもいい、色とりどりの愛らしい姿を眺めるのもいい。
蕩かしてしまうのも堪らなくいい…けれど、野梨子はそんなに甘くはない。
一切の無駄を削り落としたような清廉な魂。
どんな努力も惜しまないけれど、それはもう野梨子の身の一部になっているから、
きっと本人は日々精進している意識すらないのだろう。
少しでも鍛錬を怠れば、少しでも気を抜いてしまえば、脆く崩れてしまいそうな、
妙に気の張った心を、積み上げた知性でもって余裕の表情に変えようとしている。

理知的なようで、少女のようで。
それはそのまま野梨子の見た目にも表れていた。
たまにぎゅっと抱きしめて”大丈夫だよ”と肩の力を抜かせたくなる。
もっといえば、その危うい気高さを蕩かしてしまいたくもなる。

だけど野梨子はそんな、甘いお菓子じゃないのだから、
美童は優しく目を細めて、野梨子に優しく微笑みかけることしかできない。

「素敵な絵画展でしたわね。また大英博物館へ行きたくなりました」
「いいねー。今度、ピカデリーサーカスの方で友達がショップを開店するんだ。
 お祝いがてら博物館巡りなんてどう?」
野梨子は否とも応とも取れぬ、曖昧な笑顔で微笑み返す。
日本での生活に慣れた美童にとっても、こういうアルカイックスマイルは少々苦手だ。
こうしてデートを重ねられる程度には時間を共にできても、
野梨子には野梨子の家の務めがある。
悠理たちのように「よし、行こう! 今すぐに」と自家用ジェットを飛ばせるわけもない。
曖昧な笑顔からは思いやりが伝わるけれど、どこか残酷だ。

二人の間には何の約束もない。形がない。
将来の話をしないのは、いつしか二人にとって暗黙の了解となっていた。

141Knight (3/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:19:56

「本当に…そっくり」
帰り口の物販コーナーで、展示物のポートレートを眺めて野梨子はくすくすと笑う。
さっきの騎士の絵だった。本当に気に入ったらしい。

「……そんなに似てないよ」
「そうかしら? うふふ。ねえみんなに見せたらきっと似てるって言うと思うけれど」
棚から一枚引き出した指ごと、そっと元に押し込める。
「美童?」
「……僕は騎士なんかじゃないよ」
妙に沈んだ声でそう呟くと、らしくなく不意に背を向けてしまった。

「美童?」
ポートレート購入を諦めて、後を追いかける野梨子の声を背に感じながら、
美童は自分自身でも何故こんなに眉を潜めているのか分からなかった。

──アジア人は、この北欧的な上辺の姿に妙な物語を着せたがる。
それはこの国で女の子をひっかける時には非常に便利なものだった。
少女に与えられた絵本、物語教育には本当に感謝したいと思ったことだってある。
けれどそれは、友人としても自分をよく知る野梨子には馴染まない話だった。

──ほんの数日の遠出、親御さんの通訳ならば世界を巡る野梨子にとって、
たかがイギリスへの旅行ぐらい、この美術館に出かけるのとも変わらないこと。
そんな小さなの約束さえ答えてくれないのだろうか。

──騎士が自分に似ていたからって、だから何なの。
それを仲間たちに見せて、ひと笑いのネタにでもしたら暇が紛れるとでも言うのだろうか。
もう自分たちは(一部を除いて)暇をもてあました有閑倶楽部ではないのに。

142Knight (4/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:20:26

(そんなことじゃ…ないんだ)

いくつかの可能性を考えながら、美童はひとつひとつを消去していける。
分からないテスト問題が出た時、消去法を教えてくれたのは野梨子だった。
すぐに気が散る美童には、ひとつひとつ整理する方法は随分と役立ったことを覚えている。

(あぁ…そんなことはどうだっていいんだ。僕がこんな気分になったのは…)

ジャケットの裾がぐんっと後ろに引かれる。
「美童っ」
いつも穏やかな野梨子にしては大きめな声だった。
もうとっくに美術館から離れていて、外の並木道で美童がハッとして足を止めた。

「……おかしなことを言ったのなら…ごめんなさい」
「あ…いや。僕こそごめん」
「……でも」
女の”でも”は何よりも恐ろしい。まして野梨子ならばその威力は計り知れなかった。

「何が気に入らなかったのか、言ってくれないと分かりませんわ」
「あ…あー…いや。気に入らなかったわけじゃないんだよ」
恨みがましく見上げる大きな瞳に敵うわけがない。
まして、そんなふうに冷笑して目の座った笑顔を向けられたら、白旗なんていくらでもあげる。

「あら。何も気にさわることもなく、さっさと一人で去ってしまう美童なんて、
 私は知りませんけれど?」
「…悪かったってば。怒らないでよー…」
「怒っているのはあなたでしょう?」

143Knight (5/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:20:50

美童の両手を取り、真っ直ぐに向かい合わせる。
”さぁおっしゃって”と言わんばかりにじっと見上げる目つきには、もう怒りの色はない。
ただじっと美童を見詰めて、逃さない。美童の方も逃げないからだ。
衝突はしないけれど、置き去りにもしない。見逃してはくれない。

「……くだらない話だよ」
「……」
「自分でも、よく…分からないんだ」
曖昧な言葉で、甘えて逃がしてくれるほど野梨子は甘くはない。
”分かるところからおっしゃればいいのよ”と無言で伝えてくる。

「うーん…。ははっ、野梨子がおかしなこと言うからさぁ…」
「私…が?」
「そうだよ。僕があんな勇敢な騎士とは似ても似つかないこと、野梨子もよく知ってるじゃない」

野梨子は生真面目にうーんと思い浮かべていた。
「……僕は清四郎や魅録とは違うしさ」
思いもよらない言葉が口をついて出て、美童自身がぎょっとした。
これでは歪んだ嫉妬だ。あまりにも子供っぽい。

「それは…」
「わー! 今のなし、本当によく分からないんだ。それで変なことを…」
「武闘派ではない。ということかしら?」
野梨子は美童の失言を揶揄するでもなく、真剣に聞き返した。
「うっ…まぁ、そういうこと。でもある…かな。どうかな?」
「……それはおかしな話ですわね」

144Knight (6/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:23:03

興味を持ったのか、野梨子はひとつひとつ整理していくように考え込んでいる。
どこか上の空な隙をみて掴まれていた両手を離すと、
差し出された美童の腕に、無意識に手を添え、歩き出す。

「このご時勢、甲冑を着て決闘する機会などまずありませんわ」
「え?」
「騎士の役目も、時代とともに変わっていくものではないのかしら」
たとえばこうして、ぼんやりしている野梨子を当たり前のようにエスコートしてくれる。
まとまらぬ考え、バラバラな言葉を辛抱強く聞いていてくれる。
聞き上手な彼に、導かれるように…包み込まれるように好き勝手な話もできる。
たとえ黙り込んだとしても、気まずくはならない空気をその笑顔で作ってくれる。

「それはそうだろうけど…。でもさ」
「だから、私はおかしくなんてありませんわよ。美童は騎士に似ています」
それが恋人に対しての思いやりなのか、野梨子らしい慈愛なのか、分からない。
けれどはっきりと言い切る野梨子の口調がおかしくて、美童は肩を上下した。

「古風な話だけどさ。やっぱりあの時代だって現代だって、大切な人を身を挺してでも
 守りたいって思ったりするもんだよ」
「そうなんですの? まあ…そうなんでしょうね」
「野梨子だって子供の頃からずっと守られてきたじゃない? 僕よりもずっと優秀な
 騎士殿に、さ」
「清四郎のこと?」
「他にいるかい?」

何かと比べるなんて、美童らしくもない言葉を、野梨子は興味深く考え込む。
「……優秀過ぎるほどですわ」

145Knight (7/7)美童×野梨子:2009/07/17(金) 02:24:46

ため息まじりに吐き捨てたその言葉には、疎ましいほどの呆れと、
同じくらいの親愛を感じさせる。ある面では同族嫌悪のようにもみえた。
たとえそれが男女のそれではなかったとしても、美童は笑い飛ばすしかない。
「いつもそうさ、最後に頼るのは清四郎だろう? まー僕だってそうするけどね。
 あいつらがついてると心強いし、安心だろうしね…」
「またおかしなことを…。ねえ美童、私はこうしている方がずっと安堵してますのよ?」

野梨子の頬がひじに当たる。
ジャケットの袖越しでもわかるその柔らかさに、美童はらしくなくどきりと胸が跳ねた。
照れ隠しに首を横に振る。

「もしここで怖ーいお兄さんに囲まれたって、僕は守りきれないかもよ?」
「美童は非暴力主義ですものね。うふふ」
「そんな男といて安堵するって?」
「えぇ。美童ならばきっと、囲まれるようなことにはならないでしょう?」
「え?」
「危険を寄せ付けたりしない。勝ち気に食ってかかったりもしない」

それは彼の優れた処世術。コミュニケーション能力は外交官の父譲りだろうか。
いや、彼は人が好きなのだ。人間に興味を持っている。
……大抵は、1:9の男女比での興味だろうけれど。
人に対して敬意を持って接しているから、いつもこんなに優しい。

「臆病な土下座騎士だね」
「うふふ。どんな方法でも、結果は結果でしてよ」
野梨子の言葉に嘘はない。偽りの気遣いで微笑めるほど、器用じゃないことは
美童が一番よく知っている。

「──でも。危険な男の方が魅力的じゃない?」
いくらその笑顔が大好きでも。そうそう安心していられるのも男のプライドが許さない。
流し目でちらり野梨子を見詰めると、
「危険じゃなくても、美童は魅力的ですわよ」
あっさりと野梨子は返した。完敗だった。

END

146ビタースィートチョコレート(魅×野)1:2012/02/14(火) 09:23:32
バレンタインに関連した魅×野の短い話をUPさせていただきます。
直接登場しませんが、背景に、清→野があります。
不快に思われる方はスルーしてください。



「目が覚めまして?夜遊びも度が過ぎると身体に毒ですわよ?」
生徒会室のソファでうたた寝していた魅録は目覚めるなり、野梨子のそんな声に迎えられた。
「…うん?」
まだ暮れきってはいない時刻の生徒会室。
少し寝ぼけた感じであたりを見回した魅録は野梨子以外の4人がいないことに気付く。
「…皆は?」
「帰りましたわ。そうですわね…もう1時間にはなるかしら。」
「…って、清四郎は?」
野梨子といえば清四郎。
有閑といいつつそれぞれ多忙である他の人間がいないことは奇異とするに値しない。
しかし、彼女の幼馴染がいないことは充分に訝しく思う出来事ではあった。
「帰りましたわよ?」
当の野梨子はしごく平然と答える。
「…えーと…」
じゃあ、野梨子はどうやって帰るんだよと魅録が聞こうとするほどに
清四郎と野梨子が一緒に帰るという光景は、ありふれた日常なのだった。

147ビタースィートチョコレート(魅×野)2:2012/02/14(火) 09:25:00
魅録が尋ねる前に、野梨子が口を開いた。
「先に帰ってもらいましたの。私、今日は大事な用があったものですから」
頭の中を疑問符だらけにしながら、魅録が何も言葉にはできないでいるうちに
野梨子は、そんなことには気にもとめずに言葉を紡いでいった。
「今日はバレンタインデーでしょう?私、魅録に差し上げなくてはなりませんでしたから。」
あぁ、なるほど、と思わず合点しそうになるほどその声色は自然だったのだけれど
聞かされた当の魅録は、何に驚くといってこれほど驚いたこともないというほどの声をあげた。
「…あぁ、そうか…って、え?えぇ??」
魅録がまじまじと見つめたさきの野梨子は、顔色ひとつ変わっていない。
まるで、天気の話でもしているかのように悠然と茶まで飲んでいたりする。
もういちど、魅録が何か言いかけてやはり言葉にならず
「え?、ええーっ?」
と言うと、少しおかしそうに頬を緩めて野梨子が言う。
「そんなにおかしいこと言いましたかしら?」
「だって、お前、その、あれだよ、え?ええっ?」
「バレンタインデーがどういう日かご存じ?魅録」
ご存じも何も、女が好きな男にチョコレートを渡す日だと思っているから、こんなに動揺しているのではないか。
とはいえ、野梨子の態度はとても好きな男に告白めいたことをしているような風情ではない。
うっすらとでも頬を染めたりとかそういう気配はまるでない。
そ、そうか。そうだよな。
義理というものもあれば、友というものもある。
バレンタインデーのチョコにはそれらの名がつくこともあるのだ。

148ビタースィートチョコレート(魅×野)3:2012/02/14(火) 09:26:04
そんなことを、ぐるぐる頭で考えては、勝手に顔を赤くしたりしている魅録に
「好きな殿方に女性から愛を告白する日ですわ」
野梨子の言葉がふりかかる。
またもや、魅録は混乱する。
「こ、告白ってお前…えっと、その…」
魅録とて、美童や悠理ほどではないが、今日はチョコをたくさん貰った。
今もそこのテーブルの上に山と積んである。
告白めいたことをされるという経験も一度や二度ではない。
しかし、今目の前にいるのは野梨子なのである。
動揺しないやつがいたらお目にかかりたい、と思って
魅録はちらと清四郎の顔を思い浮かべてしまった。
あいつだったら平然としてるかもな。
慌てる魅録を前に野梨子は相も変わらず平然としている。
「受け取ってくださいます?」
「えっと…その清四郎はこのこと知ってるの?」
地雷を踏んだらしい。
野梨子のこめかみがぴくりと動いた。
「…清四郎がこのことに関係ありますの?」
「だって、清四郎は…」
その後に何と続けていいのやら、魅録はまた言葉に詰まった。
野梨子と清四郎のことは何と言葉にしてよいのやら、とても魅録にはわからない
「何度も申し上げているように私と清四郎はただの幼馴染です」
きっぱりと言い切る野梨子に魅録は思わず大声をあげた。
「清四郎はそうは思ってねぇよ!」
言いきったあと部屋が急にしん、としたように思えた。
自分が口にした言葉が真実であることを魅録は知っていた。
野梨子だって知らぬはずはないだろう。

149ビタースィートチョコレート(魅×野)4:2012/02/14(火) 09:27:22
長い沈黙に耐えかねて、魅録が口ほ開こうとしたそれよりほんの一瞬はやく
野梨子が
「…わかりましたわ。それが魅録の答えですのね。お時間とらせてすみませんでした。」
それだけ言うと、鞄を手に部屋を出て行こうとした。
思わずその手首を魅録が掴む。
「何をなさるの?離して下さいな!」
あぁ、この声。
魅録は初めて野梨子に会った時のことを思った。
そうだ、あの時。
あの時、自分は恋に落ちたのだ。
そうとは気付いていなかったけれど。
あれから何度も思い出しては、その度に気持ちを閉じ込めたのではなかったか。
野梨子の隣にいる完璧な男と自分を比べては、そうしてきたのだ。
何と言う意気地なしか、と魅録は自分を思い掴んだ手に力をこめた。
「悪い…離すつもりはない。」
そうだ、野梨子の気持ちを知ってしまって離せるわけがないではないか。
そこまで覚悟が決まってようやく魅録は気付く。
あぁ、そうか野梨子も「覚悟」をしたのだ。
誰を傷つけたとしても、気持ちに嘘はつけないのだ。
野梨子の頬にはじめて色がさす。大きな瞳が潤む。
魅録は思わずひき寄せて、自分の腕の中に野梨子の華奢な身体をおさめた。
「…チョコくれよ。」
少し声を震わせて野梨子が
「…嫌です。魅録みたいな意地悪言う人なんか…」
少し天の邪鬼で、でも真直ぐで、気が強くて、負けず嫌いの野梨子。
ぎゅ、っと腕に力を込めて魅録が言う。
「もう言わない。俺が悪かった。だから…」
魅録の腕の中で野梨子が耳まで赤くして、小さく頷く。
魅録はゆっくりと背をかがめて、野梨子の唇に自分の唇を近づけていく。
そうしてそのまま唇を重ねようとして止まり、ゆっくりと言ったのだった。
好きだ、と。

150ビタースィートチョコレート(魅×野)おまけ:2012/02/14(火) 09:28:36
二人仲良く生徒会室に鍵をかけてから、魅録が言う。
「あ、そういえばチョコ」
「はい、どうぞ。」
「でも、オレ甘いのニガテなんだよなー」
「大丈夫ですわ。ちゃんとお砂糖なしのチョコだってありますのよ?」
そう言えば前に可憐が生徒会室で言っていたような気がする。
「そっか」
無論、どんなに甘くとも食べるつもりではいた魅録ではあったが
俄然元気よく、リボンをほどき包装紙をはずす。
いささか行儀悪くはあるが、歩きながら箱を開け、その一粒を口へ放り込む。
「…!お、おまえこれって…」
「そういうチョコがあるって言っただけですわ。このチョコが甘くないなんて言ってませんもの。」
魅録は舌の上の甘さに四苦八苦しながら、ようやくそれを飲み込む。
そして腹をかかえて笑いだし、野梨子を再び抱きしめた。


以上です。ありがとうございました。

152ヲタな野梨子:2013/06/07(金) 08:18:15
野×魅の小ネタです
画像は不快に思われる方もいらっしゃると思いますので要注意。とても雑です(汗)





野梨子は魅録からペンタブレットというものをもらった
思ってもみなかった魅録からのプレゼントに嬉しくなり白鹿青洲の娘である野梨子は
さっそくペンタブレットを使いこんな絵を描き一人で萌えていた

http://viploader.net/anime/src/vlanime091395.jpg

「わたくし、ペンネームでこっそり同人出そうかしら。」

153冬の海辺:2013/11/28(木) 07:48:08
魅野です。


「う〜寒い!野梨子、こっちにこいよ」
魅録はそういうと野梨子を抱きしめた。
(んぎゃ!魅、魅録の肩が・・た、たばこの匂いが・・!)

http://bbs.2ch2.net/freedom_uploader/?m=img&amp;q=../freedom_uploader/img/1250687464/0502.png

154冬の海辺:2013/11/28(木) 08:14:48
↑上の画像、携帯では見れなかったので再度貼りなおします。

http://uploda.cc/img/img52967c12cee75.png

155宝石を拾った日(魅野):2013/12/12(木) 23:07:47
━━初めて出会ったとき、かなり失礼なことをしてしまった。
きちんと謝ったのだろうか・・頭に血が上ってしまってあまり覚えてない。
その道を通るたびにあの人がいないか探す自分がいた。
でもたぶん・・私とは違う世界の人



━━あの路上で会った聖プレジデントのお嬢様。
やっぱり悠理と違うなあ・・

お嬢なんて面倒くさいと思ったけど、あのおかっぱは割と面白かったな
顔真っ赤にしてうろたえる姿、もう一遍見てみたいぜ


http://kie.nu/1xAm

156有閑名無しさん:2014/02/08(土) 15:04:15
雑談用スレが500でレスストップになってしまったのでひとレス借ります

499さん
私もその番組見ました。以前もどこかのチャンネルでスウェーデン特集やってて
イケメン大国だってやってたな、美童、大好きだよ

う…ん…本スレで美魅やったらマズいしどうしよう…

157有閑名無しさん:2014/02/09(日) 10:37:44
お借りします

>>156
美魅ぜひ拝見したいですよ。本スレで妄想話NGってことはないのでは?
私は規制中なので感想をレス出来る所が、、、TT
美女とヒモwwの活躍見たーい!
かっこい美童もヘナチョコ美童も大好物です。

158有閑名無しさん:2014/02/13(木) 23:20:12
美女とヒモのドタバタ張り込みは妄想できるんだけど
肝心な事件をどうしたらよいものか難しい
ちょっと出てきた女落としのスケさんというの
あれ、「紳士は美少年がお好き」で出て来たコマシ専門のやっちゃんがモデル
勝手に緑川助五郎という名前付けてますw

159有閑名無しさん:2014/02/19(水) 23:49:56
事件ムズいっ
事件の鍵を握る女(容疑者?)が高級クラブ勤めで美童がクラブに潜入捜査までは妄想出来るけど肝心の事件が思いつかないw
私は倶楽部のメンバーの日常風景みたいの妄想するのが好きなんですが
全員を動かせる文章力がないからなぁ…w

160有閑名無しさん:2014/02/21(金) 13:27:22
事件が難しいよね
第二話「松竹梅魅録の失敗」も80%ぐらい出来たんだけどやはり事件が…

美童が高級クラブに潜入もいいね。
これは美女とヒモじゃないんだけれど、指名手配中の保険金殺人容疑者(女性)が
ホストクラブに現れるとのタレこみがあり美童と魅録がホストになって潜入したが
二人でNo1ホストの数倍稼いでしまった「時給20万の刑事」というのも考えたんだけど
事件なんてどうでも良い話になってしまいそう…w

いろんなネタが浮かぶ度に美童に鍛えられ魅録がどんどんエロくなって行くよ…w
やっぱり文章よりお絵描きの方が得意かも…(泣

161有閑名無しさん:2014/03/10(月) 23:46:28
ここ用に短編作ってるんだけど話がオチなくて止まってしまったTT
本スレのフィギュア清四郎面白かった。
聖プレジデントの夏服はフィギュア衣装っぽいねw
魅録と悠理はスピードスケートのレーサースーツが似合いすぎるw

162有閑名無しさん:2014/03/11(火) 13:46:56
>>161
迷惑でなかったらお手伝いするよ

163有閑名無しさん:2014/03/13(木) 00:24:16
>>161
オチも難しいよね
頑張れ!何とかなるよ(偉そうでごめん)
他の人の作品やネタを読むの大好きなんだ

ネタ拾えるかと刑事ドラマのDVD借りてきたんだけど
ドラマでも事件そのものはどうでもいい感じでオチも無理矢理だったりする
でもやっぱり事件は難しいw

清四郎のビールマンは勢いで描いてしまったけれど自分でもお気に入りかも
魅録のセクシーポーズはちょっとやり過ぎたかな
セクシー魅録がツボってセクシーポーズって具体的にどんなんだろうと
画像検索したら一番最初に出て来たのがあのポーズで魅録にやらせてしまったw
エロいのかセクシーなのか分からないシリーズもこっちに来ようかな
自分の技量じゃ本スレは敷居が高いもん

164有閑名無しさん:2014/03/24(月) 23:59:52
なんか本スレ荒らされてる
最近賑やかになったし、色々な話し読めて楽しみにしてたのに。
これでまた過疎ったら悲しいなぁ…
私は気にしないで今書いてる話しオチついたらうpするけどw
ホントに筆が遅くて情けないw
本スレで長編書いてる作家さん本当に尊敬する。

165有閑名無しさん:2014/03/29(土) 12:51:18
セクシー刑事です
魅録がSっぽくなってしまいましたw

http://fast-uploader.com/file/6951620443617/

166有閑名無しさん:2014/03/29(土) 13:00:08
すいません、間違って削除してしまいました
リンクはこちらです
http://fast-uploader.com/file/6951621134771/

167有閑名無しさん:2014/03/29(土) 14:44:07
連投すいません
いろいろ騒がしいので有閑倶楽部アニメでも見て楽しめてもらえたらとエンコしました
アナログからのエンコなので香港の後半、音声がズレてます。
こっそりとアップロードなのでパスワードかけてあります

パスワード OTOKOYAMA

犬猫まるごとHowMuch
http://fast-uploader.com/file/6951626644237/
香港から愛をこめて
http://fast-uploader.com/file/6951627009334/

168有閑名無しさん:2014/03/29(土) 21:43:05
>>166
やべー捕まったw連行される時は両手に花でウキウキするねw

>>167
見られないorz
犬猫はVHS買ったなー懐かしい。多分実家にまだあるはず。有閑倶楽部イメージアルバムも持ってたw
若者はLPなんて知らないだろうなあw

169有閑名無しさん:2014/03/29(土) 22:57:54
>>168
右上のダウンロードをクリックしてファイルを任意の場所へ保存すれば良いみたいです
MP4はメディアプレイヤーに対応しているのでそれで見れると思います

LP同様にドーナツ盤なんてのも若者は知らないんだろうなあ
ターンプレイヤーを自力で修理したのでたまにアナログを楽しんでます

170有閑名無しさん:2014/03/30(日) 19:30:45
>>169
無事保存できました!ありがとうございます。
とにかく懐かしくて嬉しかったなあ
一条先生はもう新作描いてくれないのかなぁ番外編的なモノでもいいからお願いしたいよ。
有閑倶楽部誕生35周年記念でやってほしい。

自分で修理って魅録っぽいw私は機械弱いからTT
炊飯器のスイッチが入らなかった時は魅録を呼び出したかったよw
清四郎と魅録は家に居てくれると色々と助かりそうw

171有閑名無しさん:2014/04/10(木) 08:22:56
グーで10発は殴ってやりたくなるほどムカつく
ナルシスト魅録1

http://fast-uploader.com/file/6952641246809/

172有閑名無しさん:2014/04/10(木) 10:34:58
わらったw
実際魅録、いい男だと思うけどねw

173有閑名無しさん:2014/04/10(木) 11:20:52
ここで聞いていい?
感想スレッドって、新しく建てても良いのかな?
嵐さんの代わりに。

174有閑名無しさん:2014/04/10(木) 11:29:27
>>171
ナルシー魅録w
千秋さんに見られてケチョンケチョンに笑い飛ばされてほしーわw

175有閑名無しさん:2014/04/10(木) 12:40:54
>>173
良いと思うよ

176有閑名無しさん:2014/04/12(土) 08:40:25
避難スレッドがあったのでそちらに移動します


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