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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

129佐井 朝香 ◆GM.MgBPyvE:2020/07/07(火) 15:50:50
――朝香(ラミア)?

彼の声に、我に返る。
ここはまだ……ニューロンがひしめき合う「聖域」の中。
あたしの身体を後ろから抱きしめたままの菅さんが居る。回された彼の腕を、両手で強く握り返す。
あの日に別れて……そしてもう一度であったもう一人のあたし。

菅さんは「ヒト」との共存を願ってた。その訳がやっと解った気がする。
とっくにその願いは叶ってたんだわ。とっくにその遺伝子は、ヒトのそれと同居してた。
だから柏木さん、あたしの事を食べなかった。
あたしのヌクレオチドが彼自身の核に組み込まれていたから。あたしの姿かたちを、自己と認識していたから。

――始まるよ? 心の準備はいい?
――始まる? いったい何が始まるの?
――決まってるじゃないか。進化さ。君の到来を感知したからね? 云ったろ? 君自身がトリガーだって。

ニューロンの核が輝きを増していく。いったいいくつあるのかしら! まるでプラネタリウムで眺める星みたい!
紅い核は、やっぱり「眼」にしか見えなくて。大勢の「赤い眼」があたし達を見てて。
とても熱い。真夏の太陽よりも熱い視線。
そして始まったのは、普通なら絶対に有り得ない「ニューロンの体細胞分裂」。
そして……うわ……
核に空いた沢山の穴から続々と這い出した沢山の糸。DNAを翻訳したメッセンジャーRNAね? すごく綺麗。虹色に光ってる。
その糸に、達磨型のリボゾームが数珠つなぎにくっついていく。
……まるで毛糸でも紡ぐようにペプチドが合成されていく。
あのペプチドはたぶん酵素(エンザイム)。生体内で起こる反応系を動かすための触媒。
ただの人間の肉体を……ヴァンパイアのそれに置き換えるための。

気付けば、あの怖いミクログリア達も山のように増えてる。それは敵――ウイルスやバクテリアを完璧に捕獲するため。
だからなのね?
ヴァンパイアは決して病気にならない。感染症で死ぬ事もない。
それは免疫細胞の数がとてつもなく多いから。感度の良いその核が、撃退する武器(抗体)を、瞬時に生産できるから。

いつのまにか、菅さんの姿はない。広いドームの中に、ポツンと佇む1人の自分。
でも眼を閉じると……確かに感じる。あたしの中に彼が居る。あたしと彼は同じ記憶を共有するひとつの粒子。
そんな時。

――助けて下さい先生! 朝香先生!

あたしを呼ぶ声。大勢で、しかも四方八方から同時に。

――その声は麻生君!? どうしたの?
――酸素(O2)がない! ぜんぜん足りないんです!
――ごめんごめん! さっき外気の取り込み(外呼吸)を中止したの!
――なな……なんて事してくれるんです!? この大量に余った水素イオン、どう処理したらいいんです!?

内呼吸の仕組みを忘れたヒトが居るかもだから、一応説明しとくわね?
ミトコンドリアは、細胞質内の解糖系で得られたピルビン酸を使ってATPを産生する工場。
その時にどうしても産業廃棄物的に余っちゃうのが、二酸化炭素(CO2)と水素イオン(H+)。
二酸化炭素は呼気として捨てればいいけど、水素イオンは過剰に蓄積すれば、体内のPHを下げる――強酸に変えてしまう危険物。
だから酸素で中和して水に変える必要があるわけ。

――あはっ! そんなに慌てなくても大丈夫よ!
――何が大丈夫なんですか!? こっちは真剣に困ってるのに!
――君がサーヴァントになった時の事、覚えてる?
――突然……何です?
――いまこの状態はその時と同じだから。あの時あたし、貴方の血が酸素を全く運べないって……言ったの、覚えてるわね?
――……でしたっけ?
――それでも君は平気な顔して秋桜ちゃんを抱っこしてた。それはどうして?
――……さあ。サーヴァントがそういうものだから、じゃダメなんですか?
――ダメよ。「そういうもの」で済ませちゃったら進歩ってものが無いじゃない。


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