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【大正冒険奇譚TRPGその6】
77
:
倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho
:2013/09/02(月) 22:40:52
冬宇子は思う。
―――偽物でいい―――自分は、偽物で充分だ、と。
偽物であれば、何処かにあるかもしれない本物を傷つけずに、弄ぶことが出来る。
偽物なのだから、最初から無いも同然だ。無いものを失っても悲しむ必要なんかない。
それでいて、心の何処かで、想いのために生きる男と、想いを寄せられる女の姿に、憧れを感じてもいたのだ。
整理の付かぬ思いを抱えたまま、冬宇子は、闇に沈む街路を黙々と歩いた。
瓦屋根の民家が連なる王都の一角、
暗闇と静寂の中に、時折、徘徊する動死体の足音と呻き声だけが聞こえる。
軒下の影は黒々と濃く、その下を歩いていると、わだかまった夜の闇が圧し掛かってくるようにも思われた。
『軒下も三寸下がる、丑三つ時』――という言い回しがある。
家の軒先すら眠りこけて垂れて見える、不気味なほどに静まり返った真夜中の形容であろうか。
時刻は丁度そのあたりか。
あと一刻もすれば夜が明ける。
嘆願所じきじきの招集。遺跡保護の依頼を受けて、飛行機で日本を発ち、パオの打ち上げた花火を被弾して墜落。
この国に降り立ったのが夕刻。
清国に到着し、呪災に巻き込まれてから、まだ半日も経っていないというのが嘘のようだ。
夜を徹して歩きづめ。加えて三度の戦闘。
女給暮らしの不摂生、夜には強いが、さすがに疲労が溜まっていた。
無尽蔵の体力を誇るブルーと、半ば人外と化している頼光にとっては、造作ない運動なのかもしれないが。
>>54
冬宇子は、ふっと思い出したようにブルー・マーリンを見遣って、口を開いた。
「さっきは悪かったね……"人の上に立つような器じゃない"――なんて言っちまって。」
少々バツが悪そうな調子で、冬宇子は言う。
ツァイとの戦いの折、霊樹に侵食されつつある頼光を焚き付けるような激を飛ばしたブルーを、
『迷うことすら出来ない愚か者』、『何を畏れるべきかも知らぬ子供』、と手酷く罵っていたことを思い出したのだ。
『どんな力も意思さえあれば、己の手に握りこむことが出来る』という彼の持論の中にも、一部の真理はあり、
まるで間違いであるとは言い切れぬ。
けれど、頼光と同様に、自らの裡に宿る悍ましい存在を畏れている冬宇子にとって、
ブルーの言葉は、これまで挫折や葛藤を経験したことのない、無邪気な青年の口から出た
空論のようにしか思えなかったのである。
事実、彼もまた、完全には制御できていない不安定な力を抱えている。
「私の言った事、あんまり気にしないどくれ。
誰にだって虫の居所が悪い時ってのはあるもんだろ?苛々して、つい口から出ちまったんだよ。」
ブルーは、同じ目的のために清国を訪れた同業者、この異国の地においては貴重な協力者だ。
彼は、素直で純朴な好青年であり、捻くれた所がまるで無い。
少々思慮に欠ける部分はあるが、そこがまた扱い易い。人間としては、冬宇子も好感を持っている。
さらに、戦力としても一流で、戦闘力の乏しい冬宇子にとっては、この上なく頼もしい存在でもあった。
自分を翻弄する呪災の正体を暴きたい――という冬宇子の目的は、彼の存在を抜きにしては叶えられそうにない。
彼がどんな持論を抱えていようと、遺恨を残すような仲違いをしてしまうのは損だ。
そんな賢しい打算を企てる分別が、冬宇子にはあった。
「そう落ち込まれちゃ、こっちとしても気が咎めるよ。
確かに、あんたにゃ、冷静な判断力の要る『船長』なんて仕事は不向きかもしれないが、
別に、向かなきゃ成れないって訳でも、成れなきゃ命を取られるって訳でもないんだろ?」
短い間とはいえ、共に困難を潜り抜けてきた者への気安さで、つい遠慮の無い言葉が口をついて出る。
「ジンの言った事……覚えてるかい?
あんたにとって、一番大切なものを――考え方の筋道の、芯になるものを見つけろって。
……若いから、時間はたっぷりある――って、あの男は言ってたが、
一生の問題ならそれくらいの猶予はあるかもしれないが、そうもいかぬ問題もあるだろう?」
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