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【大正冒険奇譚TRPGその6】

26 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:04:11
>>22


容赦なく手の甲に突き立てられる鉄杭に、ツァイは苦悶の声を漏らす。

>「ツァイ・ジン―――!あんたって、本当に魅力的よ。
  あんたが、昔、気の強い恋人に見捨てられたのはね、きっと、あんたが煮え切らなかったせいさ。
  今だってそう。殺す気でいながら、私らが死ぬとは思ってない。あんたは迷ってる。
  だから真実を話せないんだ。」

「……見捨てられた……か……。もしそうだったら……どれだけ……良かった事だろうな……」

脳震盪と激痛によって白み、混濁する意識の中で、彼は小さく呟いた。
そして目を背けていたかった過去が、君の言葉を切欠に彼の心に蘇る。



――ツァイ・ジンはかつて、とある国で法務官を務めていた。
裁く対象は専ら軍法違反者と――叛逆罪や不敬罪を適用された国民だ。
彼が仕えた王はお世辞にも有能とは言えぬ男で、そのくせ矜持だけは一人前だった。
故にツァイの一族は――殆どの者は表立っては口に出来なかったが、国中の嫌われ者だった。

ツァイ自身も、その事には気付いていた。
暗愚な王に従い、国民を裁き続けるのは、決して正しい事ではない、とも。
なにより自分は人を裁くに相応しい人間ではない、と。
軍民、皆に嫌われながら生きていくのは、辛かった。

だが――だからと言って、どうすればいいのかまでは、分からなかった。
ツァイ一族はずっとそうやって生きてきたのだ。
他の生き方など、分かる筈がなかった。

『――アナタって、いっつも辛そうな顔をしてるわよね』

そしてそれが、彼が初めて彼女――王女から受けた言葉だった。

『……辛そう、ですか?』

『うん、仕事の後は特にね』

『……いえ、そんな事は』

『あーあー、別にお父さんにチクろうとか、そういう訳じゃないから。
 ただ……『自分は本当はこう思ってるんだ』って事ってさ。
 誰かに知ってもらえると、少し気が楽にならない?』

彼女はツァイの心中を見透かしていた。
その事は確かに彼女の言う通り、彼の心に僅かな穏やかさを齎してくれた。

それから彼は何度も彼女と会って、言葉を交わした。
そうしている間だけは、自分という存在が深く認められたようで、心地良かった。

――身分の違いと言うものをまるで考えてくれないせいで、
いつ王の目に留まって機嫌を損ねないかと、戦々恐々とはさせられたが。


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