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【ネタのメモ帳】文章置き場
16
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2010/10/03(日) 21:04:37
雨は降り続いている。
湿気に満ちた空気が窓ガラスに触れて結露し、広い窓の所々を白く濁らせていた。
ショートカットの女は暫しひとみの顔をしげしげと眺めていたが、
ひとつ小さな吐息を漏らすと、沈黙の間を取り戻すかの如き勢いで喋り始めた。
>「うそ?存じない?存じないの?そうね。存じないわよね…。よく見たら貴女は鈴木幸子じゃないもの。
>鈴木幸子はもっと気弱で大人しい感じだったし…。ほんと、人騒がせな顔ね…」
>「あ…でもこれで繋がるわ。ちょっとした怪談みたいなものなんだけど」
佐藤ひとみは女から免許証を受け取り、無言でPCに向かう。
この口さがない女――有沢由香子の名前をキーで叩きながら、耳だけで彼女の話を聞いていた。
有沢はひとみの対応などお構いなしでリズミカルに言葉を吐き出し続けている。
彼女曰くの――"ちょっとした怪談話"――を。
――パワハラ、セクハラの挙句部下の女を自殺に追い込んだ男が、女の霊に取り憑かれて死んだ――
概要はベタな幽霊の復讐譚。
特筆すべきは、死んだ女がひとみによく似ていて、
しかも男の見た『幽霊』が、佐藤ひとみ自身だったのではないか…という疑惑だ。
幽霊なんてものは不幸で貧乏臭そうな顔と相場が決まっている。そんなモノに間違われるなんて不愉快もいい所だ。
それを本人目の前にズケズケと話す無遠慮な態度も気に触る。
いつしかひとみの顔から愛想笑いが消えていた。…が、それは不愉快さの為だけではなかった。
……思い当たるフシが全く無い訳ではない。
九頭の"ゲーム終了"から二週間くらい経った頃だろうか。
カフェ・ドルトプラチナに通い詰めている時期があった。―――正に最悪の時期だった。
あの頃ひとみは、頭痛、不眠、眩暈、吐き気等、不定愁訴の症状に悩まされていた。
不定愁訴の主要原因はストレスだが、自分至上主義のひとみは、そもそもストレスを溜めるほど何かを我慢することがない。
考えられる原因といえば精神世界で右目に負った傷くらいだった。(と言っても自身でつけた傷だが)
佐藤ひとみたる者が合コンに行く気にもならず、毎日職場と住まいの往復。
軽く時間を潰そうと思っても、ひとみには用も無いのに呼び出せる程度の友人というものがいなかった。
することの無いひとみは連日ドルト・プラチナの窓際の席を陣取って閉店間際まで時間を潰していた。
あの時の自分なら、あるいは幽霊のように見えたかも知れない―――
知らない男…それも最低レベルの下衆男がどこで死のうと生きようと知ったことではなかったが、
女の話に触発されて、当時の暗鬱たる気分が蘇ってくる。
激しさを増した雨音が図書館内に響き渡る。
曇った窓ガラスの水滴が、なめくじの這うようなスピードで筋をつけながら落ちていく。
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