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【長編SS】鬼子SSスレ@創作こそ至上【短編SS】

1ヤイカガシ:2020/03/17(火) 04:07:20 ID:soZACVY.0
1 : 名無しさん@避難中 sage 2019/12/30(月) 18:53:51
                 ,,,,,A__A、
               r彡リリリリリリリミハ、
              /:::::::::::::ハ::::::::::::::::,ミ!`了
           [ンリリリリHノ ミテ〒テテヲ ノ    ここは創作発表板です!
      _rrrr、_ノlリリリ=   =リハ川} マ    オリジナル・二次創作問わず
      「::/ ゙̄"ヽ::::i!川人''┌┐''ノリミ川!!J    様々なジャンルの作品を好きな方法で自由に創作し、
     |:/ 注  r-、!リl州>ニ-イ彡ハ川|     発表して評価・感想を貰う創作者のための場所です!
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関連スレ【飄々と】萌えキャラ『日本鬼子』製作33 【萌え】
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あとはよしなに

23黒幕 ◆1WsTPNJ.62:2020/05/22(金) 12:08:28 ID:ildeaj/M0
『鬼子外伝 -ショウキ- 序章』


空から、鬼が降ってきた。

幼い少年の目にはそう見えた。いや、その様に感じたのは彼だけである。
実際には少年の方が空に舞い、地に叩き落されたのだ。

全身を打つ衝撃とともに、少年は自分が地に伏している状況を理解する。
鬼に投げられた……しかも指一本で(正確には人差し指の爪であるが)、である。
少年が渾身の力を込めた一撃を受けても毛ほどの変化を見せなかった鬼は、次の瞬間に目にも留まらぬ速さで垂直に手を振り上げる。少年はまるでムシケラでも追いやるかの如く払い飛ばされた。鬼の小さな爪が自分の襟をひっかけ、そのまま宙を飛んだのだと少年が理解したのはかなり後になってからだった。

少年は小学五年生としては平均的な体躯であるが、それでも体重は30㎏以上はある。
それが垂直に3メートルほど空中を舞い、そのわずか一秒後には錐揉みをする様に地面に情熱的な口づけをする羽目になった。
口の中に広がる地面の土の香りに咽せると、少年は自分が右手に持っていたはずの剣を見て思わず驚きの声を上げる。

「バカ…な!?」

先ほど確かに鬼に突き刺したと思った木剣は、柄の部分を残して砂の様に砕けていたのだ。
少年が持っていた剣はただの木剣ではない。破邪の力を宿した聖なる剣なのである。
わずか一寸(30cm)程の刀身しかない短剣であるが、この木剣には「七星剣」などという大層な名前を与えられていた。一族の伝承では少年の先祖が仙境にて、桃の精から譲り受けた聖なるものだと伝えられている。その逸話の真偽はともかく、代々の継承者が神水で清め、何年にも渡って退魔の剣として鍛え上げてきたものには違いなかった。

事実確かにこの剣は、小さな鬼ならばその刀身に触れるだけで消滅させることができた。桃の木を削り出してこれまで何度も少年の身を護ってきたのだ。
幼さの残るこの少年に大人たちが危険を伴う退魔の仕事が任せたのも、この剣の存在が大きい。

少年だけでなく、少年と共に鬼と対峙していた少女も押し殺すような低い声で呟く。

「疫鬼が食い散らかされてると思ったら……とんでもない妖(バケモノ)が現れたわね。」

いくら相手が鬼とはいえ、その姿は自分たちよりもわずかに年上。見かけは中高生くらいのあどけない姿の女子である。体格的にそこまで二人に圧倒的な力の差があるとは思えない。
しかし、見た目以上に二人の間には驚異的な膂力の差があった。

(これが異能の力か……。)

彼らも妖魔の類と戦った経験がないわけではなかった。

少年の名は「茅原将魔」、少女の名は「茅乃芽魔希」といった。二人とも代々「邪気」を祓う退魔師「茅原」の家系に連なる人間である。

魔を力で祓う「茅原家」と、それを守護する分家の「茅乃芽家」は200年の長きに渡り、この街を護ってきた。二人もまた、幼少の頃より山中で一族の修業を行い、疫病を流行らせる「疫鬼」の退魔師として人知れず祓い浄めてきたという自負もあった。

しかし、所詮は子供である。幼い彼らが祓ってきたのはまだまだ下級の鬼たちばかり。ドッヂボールくらいの大きさの、自我を持たない瘴気の塊の様な鬼たちがほとんどであった。

24黒幕 ◆1WsTPNJ.62:2020/05/22(金) 12:11:56 ID:ildeaj/M0

人に仇なす鬼にも様々ある。悪心や病を撒き散らす存在の「疫鬼」、人の心に憑りつき操る「心の鬼」、そしてこれは自らの意思を持ち、人の姿に化身して顕現することができる高位の「鬼」が存在する。

彼らが初めて目にした本当の鬼。

その時、鬼は将魔に対して視線を向けた。
危ない、そう直感した魔希はとっさに駆け出し、鬼と将魔の間に立ち、庇う様に両手を広げる。

「将魔!立ちなさい!」
「魔希ちゃん……逃げて……。」
「逃げる?本家の無能を置いておめおめと逃げ帰ったら、ワタシは一族の笑いものだわ。」

くっ……と力を振り絞り、なんとか立ち上がる将魔。

「仲間である鬼ですら喰らい、糧にする様な凶悪な鬼よ。コイツは何としてもここで食い止める。」
「でもコイツ、ひいじいちゃんが言ってた日の本一の妖(バケモノ)かもしれない。」
「なら尚のこと、ワタシたちにできる限りのことをするわ!」

そういうと魔希は、背負っていた道具箱から一枚の祈祷札を出した。その札には黒い衣装を身にまとった恐ろしい形相の鬼神が描かれている。
それを見て将魔は驚く。その札を使うということは、今まで二人が一度も成功させたことのない秘呪をここで使うという意味だからだ。今の将魔たちには一人で扱うことができない高度な術式が要求されるが、確かにこの秘呪ならばこの鬼に対抗できるかも知れない。意を決した将魔は呼吸を整え、声を上げた。

「九字を切る!」

そう叫ぶや否や、将魔は九字の呪文を唱え刀印を結んだ。将魔の指先が四縦五横を切った時、魔希も「ヨシッ!」と頷き二人で声を合わせて不動明王の真言を唱えはじめる。

「「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・カーン」」

二人が唱え始めた真言を耳にし、鬼は明らかに動揺した様に見えた。

「「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・センダンマカロシャダ・ソハタヤ・ウンタラタ・カンマン」」 

真言が進むにつれ、共に二人の身体が発光しはじめた。そして、まばゆくもあたたかい光の球が二人の全身を包み込む。

「「日輪の化身、不動明王の名において命じる。顕現せよ。鍾馗(ショウキ)!」」

二人の叫び声と同時に光の球はまばゆい閃光と共に弾け飛び、辺り一面を照らした。

そしてその光が治まった後。そこに二人の姿はなく、少年でも少女でもない一人の鬼神が立っていた。

閉じた瞳を静かに見開き、ひと呼吸おいたあとにこう叫ぶ。

「「鬼より強いショウキさまだ!覚悟しろ!」」

将魔と魔希が魔を祓い、二人の心を併せた祈りが天に届いた時。悪疫と邪気を退ける神「ショウキ」が現世に降臨した。


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