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創発シェアワスレクロス企画(仮)

1名無しさん@避難中:2011/11/03(木) 18:38:39 ID:wt6dJcvM0
誤爆で軽く話をしてたシェアワのクロス企画、ちょっと真剣にやってみたいな
と思ったんで思い切ってスレ立ててみました。

と言っても今のところなにかはっきりとしたビジョンがあるわけじゃありません!
ぜひ各スレ作者様方にも参加してもらって、一から練り上げていきたいと考えてるところです!
あ、もちろん「どのシェアでも作品は書いてないけどお祭りっぽい企画は好き」
っていう書き手さんもウェルカムですので!

とこんなノリでシェアワのお祭りがしたいなーと思ったんです。
ぜひみなさん、一緒にこの祭りを創ってくれませんか!?

202 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/12(月) 18:58:29 ID:gHKUdzv60
迫、遠賀先輩@仁科
ミナ@ケモスレ http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/361.html
はせや先生@ケモスレ http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/124.html

開放します。よろしゅう

203名無しさん@避難中:2011/12/12(月) 20:31:29 ID:B67/jigUO
ケモスレがちょっと増えたか。良かった。
あとみんつくあたりも稀少?

204名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 09:43:11 ID:Xus.f3qg0
投下ー

205タイトル未定 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:44:02 ID:Xus.f3qg0
西堂氷牙は地震の揺れで目を覚ました。
辺りは暗く、どうやらまだ夜中であるらしい。
頭上を見れば木の葉の隙間からいくつかの星が覗える。
木の葉? 星?
おかしい。野宿などした覚えは無い。
だが、詮索は後回しだ。
闇の中に、自分を取り囲むように光る目、目、目。
「なんや、新種のキメラか?」
寝起きの軽い運動とばかりに、氷牙は両手を真横に広げる。
一斉に飛び掛ってきた異形の者どもは、瞬く間に一体の例外も無く氷漬けにされた。
「さて、と。」
改めて、自分がなぜこんな所にいるのかを考えるために、土に腰を下ろそうとする。
が、それはまたしても遮られることになる。
木々の向こうから、今度は人間の声が聞こえてきたのだ。
「おい、こっちに逃げたぞ!」
数秒して武装した男たちが現れた。
彼らは氷牙と氷漬けの異形を見ると、あっけにとられたような顔をした。

氷牙は男たちに連れられて大きな門をくぐる。
その先には街があった。
中に足を踏み入れながらも、彼らは何か話し込んでいるようだ。
そのうちの一言が耳に飛び込んでくる。
「魔法をあんなレベルで扱えるなんて……。」
耳慣れない『魔法』という言葉。
確かに、現在世界中の人間が持つという特殊能力は様々に呼ばれている。
だが日本で『魔法』という呼称を使うとすれば……彼らはオカルトの集団か何かだろうか。

206 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:44:44 ID:Xus.f3qg0
とある建物の中に入り、氷牙は彼らが「隊長」と呼ぶ男の前に通された。
「“ここ”の武装隊をまとめている門谷だ。」
男が手を差し伸べる。
目を見る限り、危険は無さそうだ。
そう判断して氷牙は握手に応じる。
「S大学研究生・西堂。」
最低限の単語で自己紹介を済ませ、早々に二人は問答に入る。
「それにしても君はなんだってあの森にいたんだ?」
「さあな。俺にもさっぱり分からん。それどころか俺は“ここ”がどこかすら分からんのやが……。」
「“ここ”はイズミだ。」
「イズミ? イズミって大阪の和泉か?」
「その通りだ。」
氷牙は驚愕する。
「俺は確かに東京におったはずやねんけどなぁ。」
そう言ってから、武装隊の詰所らしき室内を見回し、独り言のようにつぶやいた。
「それにしても、大阪もいつの間にこんな物騒になったんや。」
その何気ない一言が、決定的な話の食い違いを明るみに出すきっかけとなる。
「いつって、異形が出てきてからだろう。」
「異形?」
「おいおい、東京にもいるだろう。異形だよ異形。20XX年、日本各地で地震によってできた裂け目から出てきた化け物どもだよ。」
自分の知らない“日本の歴史”を、門谷はさも当然のように語った。
氷牙の頭に、ある“とんでもない仮説”が上る。
その仮説を確かめるため、氷牙は声のトーンを落として尋ねる。
「なあ、ひとつ聞きたい。『チェンジリング・デイ』って知っとるか?」
氷牙の読み通り、門谷は怪訝な顔をして聞き返す。
「なんだ? それは。何かの記念日か?」
これで確定だ。氷牙の知る世界の住人なら、その日を知らない者はいるはずがないのだから。

氷牙は緊張で大きく息を吸い込んだ。
本人は確信しているとはいえ、こんな世迷い言を素直に信じる者はそうそういないだろう。
「俺はどうやら、別の世界から来たらしい。」
そして氷牙は自分の知る世界の全てを聞かせた。
隕石の落ちた日。二つの能力。それを手にした人類が変わったこと。変わらなかったこと。
門谷は決してその話を一笑に付したりはしなかった。
ただし鵜呑みにするということももちろん無かった。
「では見せてもらおうか、その能力とやらを。」
お安い御用だ。
氷牙は右の掌を仰向けにし、空気を凍らせた氷柱を作り出した。
「ふむ……“この世界”の人間が簡単にできる業でないのは確かだな……。」
門谷は思考を巡らせ、部屋の外から部下を一人呼び寄せた。
「もう一度やってみろ。」
氷柱が再び現れる。すると、部下の男が突然叫んだ。
「隊長! おかしいですよ! 魔素の流れが全く感じられません!」
門谷はそれには答えず、あごに手を当て、もう一度考える。
やがて、静かに口を開いた。
「分かった、信じよう。」

207 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:45:05 ID:Xus.f3qg0
翌朝、用意してもらった軍手をはめて、氷牙は門谷の部屋を訪れた。
「本当にもう行くのか? 一日くらいゆっくりしていってもいいだろうに。」
「『善は急げ』言うやろ?」
氷牙は門谷から「手掛かりが無いのならば」と平賀の研究区に行くことを勧められていた。
実を言うと、氷牙には手掛かりと言えるかもしれないものがひとつだけあった。
最近、能力研究者の比留間慎也がパラレルワールドについて調べているらしい。
しかしどうしろというのだ。
彼が本当に絡んでいるとして、決して会えないなら手掛かりは無いも一緒だ。
結局、この世界で今できることと言えば、門谷から勧められた通り研究区に行くことくらいだろう。
「ほんじゃま、おおきにな。」
「ああ、こちらこそ、昨夜は異形を退治してくれてありがとう。」

しかし、この時の氷牙に知る由は無かった。
和泉と研究区の間に“また別の世界”が広がっている、ということを。

208 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:45:34 ID:Xus.f3qg0
登場人物紹介

・西堂氷牙(さいどう ひょうが)@チェンジリング・デイ
鋭い目付きをしたツンツンヘアで細身の若者。
『東堂衛のキャンパスライフ』で敵役として登場。
いろいろあって現在は秘密研究組織ERDOの諜報員としてS大学で働いている。
現在の昼の能力は手で触れた相手を無差別に失神させる能力。
夜の能力はものを凍らせる能力。

・門谷義史(かどや よしふみ)@みんなで世界を創るスレ:異形世界
短い黒髪を刈り込んだ精悍な顔つきの壮年の男。
『白狐と青年』で登場した和泉の武装隊の隊長。
さばさばした人柄で部下からの信頼も篤いが、『甘味処繁盛記』では苦労人の一面も。

209 ◆KazZxBP5Rc:2011/12/13(火) 09:52:23 ID:Xus.f3qg0
投下終わり
最後の段落が思わせぶりなのに続きはまだ考えていないw

それとレス

>>156
気付いてなかったよごめんなさい
投下された通りで問題無いです
新しい設定は…「設定による」としか言えません
必要になった時に具体的に聞いていただければと

210名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 21:39:09 ID:kYgY1EQUO
投下マジ乙。我らは君のような戦士を待っていた!

氷牙と和泉は……関西繋がり?
にしてもいきなり異形狩りとは、さすがアイスファングさんやでぇ……。
能力と魔素の扱いはそんな感じってことで了解しておく。

えらい移動が大変そうなんだが。和泉や研究所や仁科が歩いていける距離にあるとか?
……いい加減地理的な設定どうにかしたほうがいいかもな。あまり離れすぎてるとクロスしづらいし。
……いや……個人レベルで飛ばされてるから案外大丈夫か?

俺もキャラ紹介とかシェアシェア大事典とかやりたいけど、考えてみればまだそんな書くことないか……。

211名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 21:44:00 ID:kYgY1EQUO
忘れてた。
かれんちゃん(夜)設定については、聞かなくても当面は大丈夫そう。な感じ。
しかし彼女を保護した後の衛は夜どんな生活してたんだろうかw
一晩中がじがじとか?

212名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 22:24:52 ID:Xus.f3qg0
>能力と魔素の扱い
そういえば話の流れで勝手に決めちゃったなw

      ヽ○ノ   まあいいか!
       /
      ノ)

>がじがじ
あんまり深く考えてなかったけど多分そんな感じw

213わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:29:53 ID:.2sqnXEg0
>>209
ううう!続き、続きを頼む!

わたくしめも書いてみました。
岬陽太くんをお借りします。まずは、第一話。

214月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:31:02 ID:.2sqnXEg0

 大根を片手にしていた岬陽太は、得体の知れない獣の力で押し倒されて唸った。坑う余地を与えず、少年を力でのめす。
薄暗い見知らぬ建物の中での死闘の末のこと。陽太の背後に木製の扉が行く手を阻み、襲い掛かる獣は扉諸共に少年を床に沈める。
激しい音があたりに響き、割れるガラスの音が耳をつんざき、体全体で受けた衝撃が陽太の人生でも最も過酷な闘いだと示す。
 勝手もわからぬ世界を彷徨っていた陽太に襲い掛かる魔の手。夜の闇に包まれ始めた時刻のことだった。
 扉と魔獣に挟まれ、両腕を脚で押さえつけられて、生暖かい息が陽太の頬にかかる。相手はまるで悪魔に操られたように
残忍であり、欲望に魂を乗っ取られたように陽太を逃がすことはしなかった。陽太の腕に獣の爪が食い込む。

 「レイディッシュよ、魔剣の誇りを忘れるな……」
 
 陽太の傍らに落ちた、一本の大根。彼はそれを『レイディッシュ』と呼ぶ。だが、よくよく見ればただの大根だ。
 床に叩き付けられ、ガラスの破片が細かく少年のてのひらを傷つけて、息の荒い四本足の野獣と対峙する。苦しい闘いだ。
それでも陽太はキズだらけの大根を剣のように持ち構え、得体の知れない敵に立ち向かった。大根は彼にとって武器だった。それさえも、
砕け散り、無に帰り、そして陽太の体力を奪い続ける。闇雲に振り回していてはいけない。相手は獣。容赦がない。
 はっはと、獣の息がかかるぐらいまでに陽太の顔に牙が近づくも、一瞬の隙を狙い陽太は脚で獣の腹を蹴り上げて獣からすり抜けた。

 陽太には相手が何者かなのかはすぐには理解は出来なかった。ただ、獣のような四本の脚で陽太に無慈悲にも襲い掛かり、
手足から伸びる鋭い爪が血に飢えていることだけは確認できた。陽太と同じ身の丈程ある猛獣は建物の中を彷徨いながら、
陽太を執拗に追い回す。陽太も応戦しようと、自ら召還した『魔剣・レイディッシュ』を上段の構えで迎え撃つ。
 陽太は夜の間、食材を見事なまでに再現させる能力を持っているのだ。大地開闢以来、神々が創造してきた森羅万象。
それを一瞬で否定した上に蹂躙する、まさに『厨ニ病』の塊のような能力を持った少年。

 神が苦難を与えるのならば、それに叛いてやろうではないか。
 太陽が全てを焼き尽くすのならば、月光で凍てつかせればよい。
 地面に濃い影を落とすのならば、闇で覆い尽くしてしまえばよい。

 岬陽太という少年を言い表すには、これほど十分すぎる言葉はない。

 「畜生!組織がおれをどうしようって言うんだ!!」

 人間の言葉を理解できない獣は細かいガラスの破片を踏みながら、扉に爪立てながら陽太を威嚇していた。
やがて窓からの月明かりで陽太は猛獣の全貌を知ることとなる。見たことも無い、残忍な冷たい血だけが体を廻る魔物。

 オオカミのような耳に牙、そして爪。悪魔にあるまじき豊かな尾。 
 全てが闇の建物の中で繰り広げられる。光りが差し込む隙さえない。
 突如二本足で立ち上がる魔犬が再び陽太にかぶさるように襲い掛かった。

 「こ、こいつ……。おのれ、白い魔犬!」

 陽太の言葉に歯向かうように魔犬は、歯向かうことの出来ない力で陽太の手にしたレイディッシュを一撃で跳ね飛ばした。

    #

 「なにするんですか!」

 日が傾き始めた往来の中、長いみどりの黒髪の少女・黒咲あかねは、メガネ男子の先輩。迫に声をあげた。
彼が折角手に入れた演劇のチケットを破り捨てようとしていたからだ。
 あかねの声でチケットは守れたもの、メガネ男子の顔は未だに険しい。

215月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:31:48 ID:.2sqnXEg0

 「久遠荵は、自由過ぎる」
 「過ぎません!」
 「過ぎると思う」

 あかねの言葉を押し込んで、あかね、荵の先輩である迫は厳しく言い放った。

 演劇部の仲間とともに舞台を見に行こうと、学園近くの駅で待ち合わせをしていた、演劇部員・黒咲あかねも
携帯電話をちらちらと気にして、未だ姿を現せない荵を部員たちと待ち続けていた。なのに、久遠荵が姿を現さない。
 「時間通りに来ないことは、自ら拒んだと看做す」と、あかねの先輩である迫は冷たく荵を引き離した。
 迫があかねたちを引き連れて改札口に向かおうとした瞬間に歩みを止め、あかねはほっと息をつく。

 「ちょっと待て。久遠からだ」

 とみに迫が自分の携帯電話を開く。あかねたちは迫の断片的な会話を聞いているうちに、荵からの電話だと理解した。
風邪ならば仕方がない。誰もが納得のいく理由だ。ただ、携帯電話を手にして荵から受け取ったメールを見た黒咲あかねだけは違った。

 (『ごめん、あかねちゃん!イヌを追いかけているうちに、迷子になりましたー。わおーん』って……)

 迫との通話直後に届いた、荵からのメールにあかねは頭を捻る。おまけについた、イヌの肉球の絵文字が理解に苦しむ。

 イヌを追いかけているうちに、迷子になってしまった。
 久遠荵はウソをついてはいない。
 ただ、それを信じてくれるかどうかは別のお話。

 「黒咲、準備はいいか?」
 「とてもいいですっ」
 「よし、行くぞ。返事は?」

   #

 「わんっ」

 学校らしき廊下をローファーで歩く。故意ではなく、いつの間にか、そうなっていただけ。ちょっとばかり不安なので、
声をあげて払拭する。小さな体をぱたぱたと、久遠荵は暗いリノリウムで敷かれたの廊下を光り射す方へと進む。
 とある教室に光りが灯っていたのだ。暗い建物のなか、それは非常に目立つ。荵は恐る恐る明るい教室へと、
未知なる扉を開くがイヌっこはおろか、人影さえも見当たらない結末。

 「誰かいますか。いないなら返事しろー」

 整然と並んだ机は荵を不安の底に沈める。どこにでもある風景なのに、荵にひしひしと伝わるアウェー感。
 ひんやりと脚もとを冷たい空気がなぞった。背中を震わせれば震わせせるほど落ち着かない。

216月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:32:31 ID:.2sqnXEg0

 いきなり。

 耳をつんざく音が荵を襲った。耳を塞ぎたくなるような鋭い音。同時に目を疑う瞬間を目の当たりにした。
 大根がガラス窓を突き破って飛んできたのだ。戻ることを忘れたブーメランのように、大根は回転しながらガラスの破片をまき散らし、
秩序正しく並んだ机にぶつかって墜落した。突然の出来事に荵は声を失い、しりもちついて、くまさんぱんつを露にするが、
幸い目撃者は誰もいない。白いぱんつに描かれたくまさんの貞操は守られたのだった。
 氷のようなガラスの破片が所々刺さった大根に気を取られていると、誰かが教室に押し入ってきたことに荵は肝を潰す。
 きゃん!と小さな声をあげて縮こまる荵は、生まれて初めて死ぬかもしれないという恐怖を感じた。

 「誰だ?組織か?」

 割と若い声。声変わりは恐らく迎えていないだろう。少年と青年の狭間を行き来する声だと、荵は察知する。
 荵は両手を恐る恐る開いて声の主の姿を見る。荵の目の前には短髪の少年が一人、息を切らせて、目を泳がせながら
立っているだけだった。

 「……誰だ。組織ならば、おれは受けて立つ」
 「そしき?」

 少年の言葉が荵には理解できない。

 「おれの能力を狙うのならば、おれの屍を越えて行かなければならない。それが神によって定められたものならば、
  おれはその定めを根底から叩き潰してやるぜ。なぜかって?決まってるさ。それが岬月下のジャスティスだから」

 荵は仁科学園高等部の演劇部員だ。古今東西、幾つもの戯曲を読んできたし、自分たちでも書き上げたりもした。
 だが、荵が今まで触れた中で『岬月下』と名乗る少年が口にした台詞は覚えがない。
 少年は床に転がっている大根を拾い上げると、冷静な顔をして大根に語りだした。

 「『魔剣・レイディッシュ』よ。闘いに敗れて、さぞ悔しいことだろう。だが、悲しみだけではない。
  こんな姿になろうと、お前の闘いの激しさを物語る勲章として永久に刻まれることだろう」
 「ねえ。なにしてるの?おおきな独り言?」

 月下と名乗った少年は大根を机に置いて寂しげに語った。

 「弔いだよ。喪に服すがいい」

 荵はやはり少年の言葉が理解できなかった。

 「さて。『組織』という言葉に疑問を抱いたということは、自分が組織の一員ではないという証明だということだ」
 「わたし、一応……『仁科学園』の生徒の『演劇部員』だけどねっ」
 「『仁科』か。おれの記憶にはない学校の名だ。おれの通う中学とは離れているのだろうな」
 「きみ、中学生?わたし、高校生だよっ。わおーん!うーっ」

 月下と名乗った少年は小さな先輩を前にして、二の句を継ぐことができなくなった。

217月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:33:12 ID:.2sqnXEg0

   #

 岬月下……、いや。彼の名は岬陽太という。ただ、彼自身は月下と名乗る。
 陽太は教壇の机に腰掛けて、自分の身にふりかかった出来事を荵に語りはじめた。
 よくよく見ると、陽太の足元もスニーカーというところから、何かのっぴきならない事情があったに違いないと荵は感じた。

 「白い魔犬を追っているんだ」
 「わおーん!?」
 「やつは雪のように白い毛並み、剣のように鋭い牙、豊かな稲穂のような尻尾。そして、創成、そして破壊の神から
  温かみのある血潮を奪われたかのような、非常に残忍な性質。そう……やつは、ただの獣だ。生きているだけの獣だ」
 「イヌなの?なんなの?」
 「ああ、確かに。やつは四本の脚で闇を切り裂き、静けさを食いちぎる。この校舎を今も徨いつづけていることだろう。
  おれの住む街にやつが現れたときから、歯車は狂いはじめた。いつもなら、おれの能力で簡単に撃破できるんだが、
  やつは違った。狡猾だ。すんのところで、おれの喉元を噛みちぎられるところだった。だが、天がおれに味方したんだろう。
  通りがかった車に撥ねられた鉄片が、やつの尻尾を目掛けて飛び込んだ。そして鮮血を花びらのように散らせたのさ」

 状況を思い浮かべた荵は肩を竦めながら、熱心な陽太の話に耳を傾け続けた。

 「しかし、信じられないことが起きたんだ。赤い血溜まりが刹那に色を失い、空に浮かぶ雲を映した。
  そこに穴が開いたように。白い魔犬はその穴に飛び込み、姿を眩ませたんだ……」
 「どういうこと?月下くんは、その……その」
 「ああ。おれはな……おれたちの世界から白い魔犬を追って来たんだ」

 荵は瞬時には理解出来なかった。
 自分がどこにいるのか。何が起こって、何が起きんとしているか。

 「わたしは……。あかねちゃんたちとの待ち合わせ場所に行く途中、おっきなイヌとすれ違って、
  追いかけているうちに。ここの廊下にいたんだよ。だから、靴も下履きのままだよ」
 「もしかして、知らず知らずに誰かを瞬時に移動させる能力を使っていたのかもしれないな」
 「能力?」
 「ないのか?持っていないのか?」

 首をかしげる荵は、ぷいっとくびを縦に振った。
 当たり前のように『能力』について尋ねる陽太のことが不思議でたまらなかったからだ。

 「迫先輩からは『お前は恋愛物を書き上げるスキルが足りない』って言われたし」
 「そういう能力か?」

 荵は教壇に上がると、黒板に背伸びをしながら自分の名前を書き、傍らにイヌの肉球を描いた。
 転校生さながら荵はぴょこんとお辞儀を陽太に改めて行った。

 「久遠……ネギ」
 「しのぶっ」
 「ネギ」
 「しのぶだってば!」
 「静かに!ネギ!やつが来た!」

 陽太は真面目な顔をして、荵の肩を叩く。

218月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:34:46 ID:.2sqnXEg0

 「涙を拭く覚悟をしろ。おれは行かなければならない」
 「きゅうん!……なに?」
 「ネギを危険な目にさらすことは、おれとして、男として許されることではない。必ず、生きてネギと再会することを誓う」

 陽太は荵の声を背後に、窓ガラスが割れた教室から駆け出して、闇の中に自らの姿を飲み込ませた。
 荵は黒板に書かれた自分の名前と肉球をちらと一瞥した。

 「わおーん!月下!戻ってきてよ!」

 教室に残っても仕方がない。
 だが、教室の外には白い魔犬がいるらしい。

 「魔犬でも、きっと話は通じるはずだよっ」

 イヌと聞いてじっとすることが出来ない荵は、ぴかぴかなローファーの足音を立てながら教室をあとにした。
 壁伝いに廊下を歩く。校内向けのポスターが手に触れる。メガネをかけたウサギの絵が描かれており、
 『今月は尻尾身嗜み月間です。きれいにね!風紀委員』という文字が月明かりで浮かんで並ぶ。
 「尻尾?なんで?」

 さらにポスターを慣れてきた目で眺めると『うがいてあらい!佳望学園保健室』という見慣れぬ名前が荵を引き止めた。

 階段の踊り場に白い尻尾が荵の目に入った。
 秋の稲穂のように豊かな尻尾。
 ゆらりと波打つ尻尾は意思を持った生き物のよう。仔犬のように固まった荵は、陽太の言葉を思い出しながら息を殺して尻尾を見守った。

 白い魔犬?
 それとも、新たなる……。

 油断はならぬ。

 決意を持って話し掛ける。イヌはともだち。裏切ることはない。

 「わおーん!」

 白い尻尾が視界から消えると同時に、荵の不安を掻き立てる。荵は目を力いっぱい閉じて、身を縮ませていた。

 「何の声?誰?」

 荵がゆっくりとまぶたを開けると、白いイヌが立って荵を見つめていた。

 イヌが立って?

 学生が着ているようなカーディガン。身の丈は平均的な高校生ぐらいか。真っ白な毛並みに包まれて、真っ白な髪を生やし、
不思議そうに鼻の先を荵の方を向けている、一人のイヌの少年。こつこつと階段を降り、荵の前で足を止めて話しかけてきた。

219月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:35:24 ID:.2sqnXEg0

 「ここの生徒じゃないよね。どうしてここに?」
 「……わう」
 「……」

 イヌの少年は話すことが苦手のようであり、それ以上話し掛けることはなかった。
 荵が口を開く。

 「白い魔犬だ。だよね、きみ」
 「……」
 「魔犬でも、話せばわかってくれるよね。だって」
 「ぼくは魔犬でも何でもないよ。ただのイヌだもの」

 頭を垂れていた荵は静かに笑った。

   #

 荵は不思議で堪らなかった。イヌと話が出来る。それだけで、恥ずかしくなり、顔が赤くなり、天に上るような夢心地。
薄暗い見知らぬ学校の階段に共に並んで腰掛けて、イヌと話が出来る幸せ。荵は何を話せばいいのか分からずにいると、
イヌの少年が気を遣ってか荵のことを尋ねた。頬を赤らめた荵は自分のこと、仲間のこと、今あったこと、能力のこと、
岬陽太のこと、そして白い魔犬のことをつらつらと話した。イヌの少年はじっと話を聞いていた。
 堰を切った河川のようにとどまることを知らず、水無月の雨のように止むことを知らず、荵はきゃんきゃんと話した。

 「うん。だいたい分かったよ。きみのこと」
 「怖がらないの?」
 「それ、ぼくが言う台詞だよ」

 荵は初めてこの世界にやって来てから笑った。
 
 「ぼくは犬上ヒカル。ここの高等部の生徒だよ」
 「わたしは久遠荵だよっ。ここの……って」
 「佳望学園って言うんだけど」
 「けもう」
 「そう、けもうがくえん」

 ヒカルは思い出したように立ち上がり、荵にあることを尋ねた。
 けして荵を悩ませるような質問ではなかった。

 「迷子を捜しているんだ。ぼくの同級生で、ウサギの女の子」
 「うーん。ここに来てからは月下くんとしか会ってないなあ」

 ヒカルの尻尾は垂れ下がるのを荵が見ると、何となく申し訳ないことをしてしまったと荵の見えない尻尾も垂れ下がった。
二人は並んで暗い廊下を歩くが、荵は今までと違って華やかな散歩道のように感じた。
 ヒカルが言うには図書館で船を漕いでいると、いつの間にか周りが暗くなり人影が消えていたという。そして、ヒカルを
起こしたのがウサギの少女なのだという。荵はヒカルの話を聞きながら歩いていると、先ほど通りかかった校内向けのポスターが
張られている通りに差し掛かった。ちらと、ポスターをもう一度見てみると、ウサギの少女の絵が描かれていることを思い出した。

220月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:35:54 ID:.2sqnXEg0

 「因幡、風紀委員長だから責任感あるんだけどね」

 荵が因幡という風紀委員長からのポスターを確認しようとしたが、すでにその場所を通り過ぎた後だった。

 「ねえ。気付かないの?ヒカルくん」
 「何を?」
 「わたしが下穿き履いていること」

 ヒカルは荵に諭されて、初めて荵がローファーを履いていることに気付いた。おかしなことが起きているから、
気が付かなかったと分かりやすい言い訳をすると、荵はにこっとヒカルの尻尾を叩いた。が、尻尾の動きが止まる。
 目線の先。ヒカルの目線の先を見るがいい。

 廊下の柱に小魚が突き刺さっていた。
 何匹も、何匹も、顔の方を柱に埋めて青白く光っていた。魚は奥へと続いて突き刺さっていることも確認できる。
荵は思わずヒカルの背後に隠れると、白い魔犬がこの近くにいるのではと、直感的に感じとった。
 荵はヒカルに気をつけるように忠告するが、ヒカルの興味は魚しかなかった。しかも、魚のあとを辿ってみると言うではないか。 

 「危ないよ」
 「捜さなきゃ。迷子を」

 何でもいいから手がかりが欲しい。
 幸せの青い鳥を探すように、ヒカルと荵は魚を辿りながらヒカルには見慣れた、荵には見慣れぬ校内を歩く。
柱から落ちた魚の音で荵が声をあげると、ヒカルは荵の口を手で塞いだ。温かい毛並みに包まれたヒカルの手は荵を落ち着かせる。

 ヒカルの真横を魚が風気って飛び、柱に勢いよく突き刺さった。
 目を丸くしたヒカル、そして思わずヒカルの背中に抱きつく荵。ぎゅうっとヒカルのカーディガンが伸びる。
 どうやら、少し開いた擦りガラスから魚は飛び出したらしい。それを覗き込むのは非常に危険だ。ヒカルはじっと固まる。

 「……」

 するとヒカルはいきなり魚が飛んできた教室の扉を開き、足元に落ちた魚を投げ返す。
 暗闇から聞こえてきた声は、荵には聞き覚えのある人物だった。

 「白い魔犬を味方につけるとは、ネギもやるな」
 「ち、違うよ!この子は」
 「獣人に身を変える能力。やつはそんなものを持っていてもおかしくない」
 「ヒ、ヒカルくんだって」
 「笑止千万とはこのことだ!ネギ!冗談はやめておけ。この校舎にはおれとネギ。そして白い魔犬しか居ないはずだぞ!」

 岬月下……もとい、岬陽太は小魚をダーツの矢のように構え、ヒカルの鼻先を狙っていた。
魚を投げ捨てると、手を高らかに上げて陽太は叫んだ。

 「叛神罰当(ゴッド・リベリオン)!いでよ、
魔剣!レイディッシュ!!!」

221月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:36:33 ID:.2sqnXEg0

 まばゆい光がヒカルと荵の目をつんざく。
 目がくらむ。
 薄々と目を開くと、陽太がポーズを決める姿が瞳に焼き付いた。

 呪文のように唱えた言葉、召還されたのは一本の大根。白く、まだ茎の葉も新鮮に見える。
 大根をヒカルに投げ与えると、ヒカルは大根の感触を確かめた。ずっしりとして重いそして、見た以上に硬く感じる。
陽太も同じく大根を手にして、勇者の剣のように誇り高く天を突いたが少しぐらついている。息も多少切れているようだ。

 「ふうぅ……。一晩で三本もレイディッシュを召還すれば、おれの体力もそれだけ削られているということだ。
  だがな、おれは神に叛いた男だ。万物創生以来、全ての理を敵に回してでもおれはおれなんだ」
 
 ヒカルは太い大根をゆっくりと見回していた。

 「白い魔犬『ホワィティスト』。お前とおれは今互角に戦える状態だ。ならば、魔剣・レイディッシュを使わせてやろう。
  一対一の差しでの勝負。力あるものは栄え、力なきものは斃れるだけ。わかり易いと思わないか?魔犬遣いよのネギ」
 「ぜんっぜんわかんない!」
 「来いよ!魔犬!その牙、レイディッシュの錆にしてやろう!」

 上段の構えで陽太が一歩向かう。ヒカルは本能的に身構えて、陽太の動きを読み取ろうとした。

 ヒカルの頭部を狙う陽太。脇ががら空きだ。ヒカルがそれを察知してレイディッシュを打ち込もうと跳ねると、
陽太のわき腹目掛けて大根を水平に振った。しかし、身の軽い陽太は両足のばねでヒカルの一撃をかわし、立ち位置が入れ替わる。
 今度は陽太の篭手ががら空きだ。すかさずレイディッシュを伸ばすヒカルだが、元来の気の優しさで力を緩めてしまった。
それを見透かしたのか、陽太は突きを試みる。危険な技だ。剣の心得を知らぬ陽太は野良犬殺法。振れば当たる、振れば当たるを
繰り返していた。ただ、精彩さに欠ける。無駄に体力を消耗しているのだ。

 「加速しろ!加速するんだ」

 陽太はレイディッシュに言い聞かせながら、両手で握り直すと勝算を見出だしたのか白い歯を見せた。
 幾度の闘いを乗り越えてきたはずだ。それを露にする気配さえもなく、陽太はステップワークを軽やかにヒカルに見せ付ける。
 ヒカルの尻尾が止まる。そして、ゆっくりと古時計の振り子のように揺れる。
 戦いを楽しんでいるのではなく、相手を警戒しているのだ。イヌと普通に会話さえ出来そうな荵は、もちろんヒカルの
心理状態を把握していた。

 「だめだよ。月下くんの誘いに乗っちゃ」
 「……」
 「ヒカルくん!」
 「……」

 荵は教室の壁を背にして、声を掛けることしか出来なかった。荵のその行動は陽太にとって願ったり叶ったり。
 なぜなら、荵の声でヒカルの集中力を奪うことが、この戦いにおいて陽太にとって有利に傾くからだ。

 陽太は声を絞り出しながら、荵を睨んで声をあげた。

 「魔犬遣いネギ……」


     つづく。

222わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:38:24 ID:.2sqnXEg0
次回、予想だにしない出来事が!
風雲急を告げるシャアクロススレ、一体どうなってしまうのか!!

近日投下します。よろしゅう。

223 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/13(火) 22:40:02 ID:.2sqnXEg0
ミスタイプぐらい許してね。

224名無しさん@避難中:2011/12/13(火) 23:08:17 ID:Xus.f3qg0
3倍速乙
ネギかわいい
陽太はやっぱり陽太だw

225名無しさん@避難中:2011/12/14(水) 17:59:20 ID:CVTWOmUAO
はっ、昨夜は何かの祝日かい?

投下乙。
大根の柔らかさとネギの甘味が絶妙なハーモニーを奏でる。
魔剣使いと魔犬使いとは、みんな色々考えるもんだな。
純粋に面白かった。キャラ勝ちも多少あるとは思うが文章うまいね。
妬ましいのでこれ以上は誉めない。

226名無しさん@避難中:2011/12/14(水) 18:05:57 ID:bvm9MFdk0
>魔剣使いと魔犬使い
なるほどw

227わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:36:31 ID:wnbWNPrE0
『月下の魔剣〜獣〜』の続きです。

228月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:37:08 ID:wnbWNPrE0

 陽太が踏み込む。

 椅子だ。

 右足で椅子を踏み台にして、小さな体を自らの力で上昇させると、また一段。

 今度は机。

 左足で机に足を掛けると、ヒカルより遥かに高い位置で体勢を構えることができる。
 ヒカルが構えてレイディッシュで頭部を守ろうとしたときには、既に陽太は重力を味方に付けてヒカルの眉間に照準を合わせ、
致命傷を負わせるぐらい、若しくは一生傷残るぐらいの一撃をヒカルに与えようとして飛び跳ねた。

 「月の光りに焼き尽くされるがよい!白い魔犬め!」
 「やめて!ばかっ」

 陽太とヒカルの間を阻む小さな影。
 ヒカルは目をつぶる。
 陽太はレイディッシュを垂直に振り下ろした……はずだった。
 手応えがない。

 ヒカルは大根を両手に身構えて、未だ二つの足で床を踏み締めていた。
 生きている。
 立っている。
 何故?

 陽太の背後で荒い息が聞こえる。
 荵だ。
 荵がヒカルの疑問を吹き飛ばした。

 荵は陽太のレイディッシュを奪い、肩で息を切っていた。
 ヒカルは小さな荵の姿を見て、尻尾を揺らすのを止めた。

 「どうして……。どうして、そんなことすんの!月下のばかっ」

 両手で持った大根を床と水平に、そして足の膝を垂直に上げて大根を下から膝で突き上げる。陽太が持っていたレイディッシュは、
脆くも荵によって真っ二つに折られてしまった。両手それぞれに、ただの大根と化したレイディッシュの亡きがらを持った荵は
瞳に涙を溜めていた。一人の少女の手によって誇り高き魔剣は、一介の野菜と変わり果てた。

 「ヒカルくんも……、月下も……」
 「わかった。ヒカルが魔犬でもなく、ネギが魔犬遣いでないことは分かった」

 握りこぶしを作った陽太は、背中を荵に見せながら二人の存在を認めた。
 陽太の背中は小さくとも、荵には大きく見えた。
 ヒカルは大根を側の机に置いて呟いた。

229月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:37:35 ID:wnbWNPrE0

 「それでも、魔犬は校舎を徨い続けている」

 その一言に陽太は揺り動かされたのか、ヒカルとの握手を求めた。
 共に剣を交わした、誰にも渡すことの出来ない二人だけの契りだった。
 荵は薄暗い中、シルエットとなった二人の姿を見て安心した。

 「ところでだ。今、何が起こっているのかは分からない。おれの世界、ヒカルの世界、ネギの世界。
  それぞれの世界からやって来て、カオス的に入り混じっている。それだけは分かっているんだが」
 「ぼくは図書館で寝ているうちに、この出来事に巻き込まれた。そして、迷子の因幡を捜さなきゃいけない」
 「わたしは街で大きなイヌを追いかけているうちに、いつの間にかに迷い込んだ感じだよ」

 三者三様、事情は違えど、何か逆らえない大きな力に巻き込まれたことは間違いない。
 外はまだまだ夜の底。日を見せる時間はまだ遠い。

 「おれはおれの世界に戻るには、あの禍々しき魔犬『ホワィティスト』を倒さねばならないんだ」

 異様に魔犬の首を狙う陽太、この世界に飛び込んできたきっかけを知れば、陽太の言葉の意味は理解できる。
 陽太が望むのは、魔犬の肉魂ではなく……血潮だ。魔犬から流れた血の海が、空間を捩曲げて入り口を創成した。
 それさえあれば、戻れるかもしれない。

 しかし、荵はそんなことを望んではいなかった。
 あかねをはじめ、演劇部員たちと再会を期すことではなく、忌まわしき魔犬と言えども、それが陽太たちを地の底に
突き落とす者だとしても。荵が飛び上がるぐらい親愛を示す生き物が、叩きのめされることがどうしても我慢がいかなかったのだ。

 「月下、ヒカルくん。わたしたちが元の世界に帰る方法って、他にないかなあ。だって、事実」
 「ぼくや荵さんがここに来たきっかけは、月下の言う『白い魔犬』の力を借りてないよね」
 
 荵はヒカルから『荵さん』と初めて呼ばれたことに、荵の下腹部が疼いた。

 「しかし、いちばん簡単で確実な方法はそれしか思い付かないぜ」

 堂々巡りの不毛な議論。
 陽太は机に転がったレイディッシュ、もとい大根を再び手にしてうろうろと教室の中を往復した。
 ヒカルは教室の明かりを付け、黒板に『月下』『荵さん』そして『魔犬』と横書きで白墨で文字で書いた。

230月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:38:01 ID:wnbWNPrE0

 「月下は魔犬を討ち取らなければならない。何故なら、魔犬の血液が月下の世界に戻るには必要だから」
 「ああ。ヒカルの言うとおりだな」
 「荵さんは魔犬を傷つけてはいけないと主張する」
 「わん!」
 「相手は話も通じない生き物。平和的な解決は望めない」

 大根でばんばんっと陽太は黒板を叩き、自分の主張を述べる。

 「おれに必要なのは、力。能力さえあれば、魔犬なんか」
 「その『能力』ってなに?」
 「説明するぜ。あのチェンジリング・デイ以来、おれたちは不思議な力をそれぞれ身につけたんだ。おれは日が出ている間は、
  『万物創造』……リ・イマジネーション。月が昇る間は『叛神罰当』……ゴッド・リベリオンを使うことが出来る」
 
 陽太はそれぞれの能力の名前を黒板に書くと、大根でばんばんっと文字を差しながら説明を始めた。

 「おれは神に叛く男だ。森羅万象を支配し、誰もが恐れ戦くありとあらゆる万能の神でさえ、おれは反逆ののろしをあげてみせる。
  そう。二つとも能力は違えど『ここに存在しないものを生み出す』こと自体が神へ叛くことなんだ」
 
 ヒカルと荵はとりあえず、自分たちには想像のできないことが起きているとだけ理解し、陽太の話に耳を傾けていた。
 大根で夜の能力・叛神罰当(ゴッド・リベリオン)の文字を指した。

 「おれが手に入れた能力で、このレイディッシュを相棒にすることが出来たんだ」
 「そうなんだ。今のところぼくは能力ってものを手にしているとは感じていない」
 
 荵もヒカルの言葉に合わせて首を縦に振った。

 「もしかしたら、気がつかないうちに犬上も能力を身に着けることになるかもしれない」
 「ばかな」

 陽太が『荵さん』と書かれた文字の左に『犬上』と名前を加えると、荵はどきっとして胸に手を当てた。

 「とにかく、犬上もネギも覚醒していないうちは誰かの能力に頼らざる得ないと思うぜ。兎角、この世界では
  常識が常識を超えることだってあり得るんだからな。さあ、どうする?」
 「……行動あるのみ、かな」

 ヒカルは即答した。

231月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:38:25 ID:wnbWNPrE0

   #

 三人は再び校舎を徘徊する。不安と期待を抱きながら、夜の学園を歩く。
 
 「あ……。どうしよう?月下、ヒカルくん」

 三人の行く先には分かれ道。
 階段を上って屋上へゆくコース、階段を降りて下の階へゆくコース。
 何者かに引き寄せられるように、陽太は迷わず屋上への階段を選んだ。理由を尋ねればこう答えるだろう。

 「出口に向かって逃げるのは、おれの哲学に反するからな!」

 一方、ヒカルは階段を下りようとしていた。荵は戸惑う。
 迷子を捜している。もう一度、校舎を巡って捜してみよう。

 陽太は陽太なりに、ヒカルはヒカルなりに理由を抱えていた。
 荵はどうする。
 
 「待っている人を巻き込んでまで、荵さんをこれ以上引き止める理由なんてないよ」
 「そのためにも、おれに力を分けて欲しいんだ。頼むぜ、ネギ」

 自分があかねたちと再会するために。
 どうして、イヌと戦わなければならないのか。
 なぜに、親愛なる友と鍔ぜり合いをしなければならないのか。
 そして。もしかして、荵が帰るための方法に、他の可能性が残っていないのだろうか。
 無知は罪なり……と、荵は呟いた。

 現実に起きているというのに、確証が得られないもどかしさが荵を苦しめる。
 まるで荵は、雪山のロッジにに取り残された遭難者だ。無駄に行動を取ると、望みもしない冷たい雪が自らの体を
傷つけることとなり、かと言って策を取らなければそれはそれで、このまま居残り続けても自分を苦しめ続けるのことから逃れなれない。

 「どうしよう……」

 荵が篭るロッジの扉を叩く者がいた。
 彼の名は。

 「例え……ぼくがぼくのままで白い魔犬だったとしても、荵さんが帰ることができるならば、月下に叩きのめされてもいいよ」
 「ヒカルくんっ」

 陽太は「ははっ」と、ヒカルの言葉を許した。

232月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:38:57 ID:wnbWNPrE0

 白いイヌの目の奥を信じた荵は、胸の底を焔立つ炎で焼いていた。
 荵はヒカルの今一度手首を握ると、岬陽太の後に続く決意を決めた。

 「ネギを必ずやネギの世界に帰してやるからな!」

 陽太はグーサインを荵の目の前で決めてみせた。

 「それじゃあ、ぼくは下に」
 「おれは上へ!」
 「月下、荵さんを……」

 ヒカルが階段を降りてゆく姿を焼き付けようと、いつまでもいつまでも荵はその場を離れなかった。

 「わおーん!!」

 暗い校内に、別れを惜しみ悔しがる声が響いた。

   # 

 荵と別れたヒカルは、誰かから糸を引かれるように迷いなく廊下を歩き、そしてくんくんと鼻を利かせていた。
壁の匂いがちょっとづつきになるらしい。不穏な湿った空気が流れているからだという。それ故、毛並みを気にする。
 行き着く先は職員棟にある保健室だった。まるで、初めからその部屋に行くことを決めていたように。
真っ暗な室内、ノックをして返事がないことを確認すると、扉を開けて足を入れる。電灯のスイッチを入れると、
部屋の異常性が改めて分かる。石鹸とシャンプーの香りが鼻をくすぐりそうな雰囲気だ。およそ学校の部屋とは思えない。

 「来ないで!わたしと関わらないで!」

 保健室のベッドの上、床に脱ぎ散らかしたピンクのカーディガン。緩んだ胸元のリボンとボタンからは、白い毛並みがちら見え。
 メモが書かれた付箋がモニタに貼られたPCが陣取り、主を失った事務机には、学生カバンとサブバック代わりの紙袋が
幅を利かせていた。毛布に恥ずかしげに被さり、ウサギの耳が飛び出ていた。伺うように、メガネ越しの目がヒカルの方を覗き見る。
ボブショートの髪は毛布に絡み、お年頃の女の子だというのに乱雑さを隠せなかった。

 「犬上、来ないで」
 「……」
 「もう、誰も泣かしたくないから!」

 イヌに追い詰められた(と、思い込んでいる)ウサギの怯え方は異常だった。
 おもむろに近付くヒカルに、ウサギは手元の枕を投げつけた。
 ヒカルの腰に当たり、跳ね返った枕が事務机の上の学生カバンに当たり、ウサギのパスケースがぶらりと垂れた。

 『イナバ リオ』

 定期券に書かれた名前の娘は、膝を抱えてベッドに転がっていた。

   #

  つづく。

233わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/15(木) 19:42:24 ID:wnbWNPrE0
岬陽太。
久遠荵。
犬上ヒカル。
そして、因幡リオ。

彼らは一歩一歩、希望の光に向かって歩き始めていった。

しかし、次回シェアクロススレ『月下の魔剣〜獣〜』最終回……彼らに最悪の事態が襲い掛かる!
一体、どうなってしまうのか!!!

近日、投下します。

234名無しさん@避難中:2011/12/16(金) 01:46:22 ID:gRbRsjMw0
乙です!
いろいろなキャラが出て来とる
リオに何があったのだろうか
何かあったとして、それはここに書ける内容のことだったのだろうか……!

235名無しさん@避難中:2011/12/16(金) 23:01:02 ID:JRHIM1H.0
>それはここに書ける内容のことだったのだろうか……!
って…

こ、こけー!!
にわとりが来るぞ!

236名無しさん@避難中:2011/12/18(日) 07:16:13 ID:W9HqdsN2O
気付いたらなんかすごいクロス来てたw
なんだこれなんだこれ大変なことになってるぞw

237わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:57:15 ID:WRR7xxPQ0
『月下の魔剣〜獣〜』 最終章。

投下します。

238月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:57:49 ID:WRR7xxPQ0

 「なんかさ、校舎の屋上に行くと校庭に向かって叫びたくなるよな」

 校舎の屋上へと出た陽太と荵は、星空が一つも出ていない夜を悲しむ間もなく、まだ出会わぬ白い魔犬・ホワイティストとの
戦いに備えていた。もっとも、荵の方は消極的なのだが、陽太より年上なのを気にしてか、顔には簡単に表さない。

 陽太は意気揚々と屋上の柵に駆け寄って、真っ暗な校庭を見下ろした。学園は丘の上に建てられて、校門から延びる下り坂は
眼下に広がる市街地へと続く。元の街の賑わいはこの世界には及ぶことはなく、まだまだ眠るには早い時間だというのに
しんと静まり返っている。陽太は目を輝かせながら、生憎の曇天の元でポーズを決めてみせた。

 「おれは、おれの名は岬月下! 神に、この世の理に叛く男! 今日おれがここで死ぬことが、神の定めた理ならば!
  叛いてやるさ! その理にも!」

「白い魔犬を追ってここまでやって来たのだ。なのにアイツは姿を現さない。陽太の後を追う荵も、多少は不安にかられていた。
空は月や星を覆うように雲が広がって、陽太はそれを不吉な兆しと忌み嫌った。それを払拭するかのように声を高らかにあげていた。
 陽太の気が済むならそれでいいと、荵はそっと背後で見守る。まるで、手のかかる弟の姉のように。

 「ねえ。月下」
 「……」
 「ここには、その……ホワイティスト?は、いないと思うよ」
 「何故」
 「多分」
 「何故」
 「分からない」
 
 荵は魔犬を傷付けずにいられる方法がないか、果たして陽太に付いて行って正解だったのかと、自問自答をくりかえしていた。
しかし、何の解決にもならないことを荵をさらに苦しめた。出来ることなら、誰もが納得する方法で、大好きな友人や尊敬する先輩の
元へ帰りたい。しかし、誰かを犠牲にしなければ得る物はないという、世の理を否定するには、荵はまだま小さ過ぎる人間だった。

 「月下。わたし、下の階に行ってくるね」
 「おう。出来ることなら、白い魔犬をおびき出してくれよな」

 やめてよ。願い下げだよ。
 荵はぷいとそっぽを向くと、屋上に繋がる扉を開き階段を音を鳴らして下りていった。

 (やっぱり、ヒカルくんとこ……行こう、かな?)

 荵は屋上に戻ってくるつもりはさらさらなかった。他に方法はある、はず。

 一方、屋上に残った陽太はどっかとあぐらをかいて白い魔犬のお出ましを待った。来る当てのない待ち合わせほどつらいものはない。
しかし、闘いに臨む勇猛果敢なつわものには、その時間が長ければ長いほど闘志が燃えるという。
 次第に雲が厚くなり、コンクリートから湿気た匂いが立ち込めてくるのが分かる。

 ぽつり。

 一滴のしずくが陽太の頬に。また、ぽつり。
 しずくが当たる間隔が狭まってくる。

239月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:58:22 ID:WRR7xxPQ0

 「雨か」

 陽太が掌を広げて空を仰ぎ見た瞬間、有刺鉄線に囲まれた屋上のタンクの上に異質な獣を発見した。四本足を踏みしめ、
たわわな尻尾を揺らし、そして切り裂くことだけしかしらない牙をむき出しにして、眼下の陽太を見下ろしていた。

 神に叛いた男・陽太。

 白い魔犬・ホワイティスト。

 「来たな、待ってたぜ……。叛神罰当(ゴッド・リベリオン)!いでよ、魔剣!レイディッシュ!!!」

 剣先……大根の先が、きらりと光った。ように見えた。

 陽太の意思が伝わったかのように、ホワイティストはタンクを踏みしめて有刺鉄線を大きく跳躍し、陽太の前に飛び降りてきた。
魔犬は尻尾を振りながら体勢を低くして屈み、陽太のレイディッシュを宣戦布告として受け取った。

 挑発するように陽太はレイディッシュをホワイティストの目の前で丸く剣先を回す。
 唸り声を上げながら、ホワイティストは首をレイディッシュの先に合わせるように動かしている。
 相手の誘いに乗ってはいけない。心理戦を征する者が、闘いを征する。 果して、両者がそんなことを考えいるかは分からないが、
無駄に体力を消耗するだけの行き当たりは避けたい。陽太がずずと摺り足で、徐々に後退していくと、ホワイティストも一歩一歩、
牙を陽太に見せ付けながらにじり寄ってきていた。

 「とあっ!」

 大きく振りかぶってホワイティストの眉間を狙い、渾身なるレイディッシュの一撃を与えようと、陽太は一歩手前に飛び込んだ。
しかし、振りかぶった分ホワイティストに隙を見せてしまい、逃がすチャンスを余計に与えてしまった。身を低く屈み込み、
陽太の脇をすり抜けて行くホワイティスト。陽太が踵を反したときには、禍々しい猛獣の毒牙が陽太の脚をかみ砕こうとしていた。
そうはさせじと、右足を軸に一瞬の隙をついてコンパスのごとく回転した陽太は足を力一杯上げて、ホワイティストの顎を蹴り飛ばす。
残虐なる猛獣と言えども、顎は急所だ。頭蓋骨を伝わって脳を大きく揺さぶらされた魔犬は足をぐらつかせる。
 のけ反りながらホワイティストは自らの体をコンクリートの床に打ち付けた。勝算を見出だした陽太は、足の感触にわなわなと
武者震いを隠しきれなかった。獣の慟哭が夜に響き渡る。その声に怯えたのか、月は消え去り不穏な雲で学園を包み込んでいた。
 コンクリートの匂いが両者の鼻をつく。

 「お前、大したことねーな!尻尾を丸めて地獄に堕ちるさまが似合っているぜ」

 屈辱の極みを味わったホワイティストにとっては、陽太のセリフは新たなる一撃のための源となる。
 陽太の言葉を魔犬が理解しているかは分からない。
 魔犬の動向を察知したかは分からないが、陽太は左手を高く上げ叫ぶ。

240月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:58:52 ID:WRR7xxPQ0

 「サイレント・シールド!」

 陽太の手に現れたのは、顔ほどある甲殻類。

 蟹だ。

 固い殻に包まれた蟹は、陽太を守る頼もしい盾となった。

 蟹だ。

 だが、頼もしい盾だ。

 蟹。だ。

 体勢を立て直したホワイティストは陽太の喉元を狙い飛び掛かるが、サイレント・シールドに阻まれて返り討ちに遭う。
固く、そして細かい刺を持つサイレント・シールドは、ホワイティストの鼻先を傷付けて鮮血で滲ませていた。
白く気高い毛並みが赤く染まる。また一度ホワイティストは陽太への執拗な攻撃を試みるが、海の幸を味方に付けた
陽太の守りに傷付き、山の幸の攻めで無駄に体力を削ぎ落とされてゆくだけだった。

 陽太は頬にひやりと冷たい一滴を感じ続けていた。
 一滴が二滴、三滴と続き、束となって両者に降り注ぐ。
 激しくコンクリートの屋上に打ち付けられる雨音が、ホワイティストの気配を洗い流してしまった。

   #

 廊下でたたずんでいた荵は、窓に打ち付けられる雨に驚いた。
 あまりにも急で、激しかったからだ。

 「嫌な予感……」

 野性的な第六感が荵を苦しめる。

   #

 読めない。
 相手の動きが読めない。

 音。

 姿。

 気配。

 全てを雨が流してしまった。
 陽太が『神に叛く男』を名乗るなら、神は『彼に叛く』存在なのであろう。

241月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 16:59:27 ID:WRR7xxPQ0

 陽太の体力を奪い続ける雨は、ますます激しさを重ね、足元を狂わせている。
 ぴたると衣類が体に纏わり付くのも、陽太を苦しめる要因となり、戦局を悪化させていく。

 「ぐはぁ!!」

 予想だにしない脚への一撃。ホワイティストの爪がかすり、陽太のズボンに一筋の亀裂を走らせる。
 同時に陽太の脚から滲み出る血が若き剣士を動揺させた。

 相手は戦いのイニシアチブを奪い取ったと感じたのか、降りしきる雨の中なのにも関わらず、陽太の脚を鋭い爪で襲い続けた。
シールドで脚を守ろうと屈み込むと、無防備な頭部をさらしてしまう。ここに忌まわしき猛獣の爪が食い込むと、命の保証はないだろう。
やがて脚への攻撃に耐え兼ねた陽太は膝を折り、前のめりに崩れ落ちる体勢に成り果てていた。
 うなじに突き刺さる雨が、陽太の剣士たる誇りをずたずたに切り裂いていった。

 「まだ、この命、くれてやるもんか!」

 陽太の叫びと共に猛獣が上から被さり襲いかかる。サイレント・シールドで守りを固めるも、強大な力で割られてしぶきと化し、
恐るべき獣の力をまざまざと見せ付けられてしまった。水びだしのコンクリートへ大の字になって仰向ける陽太に危機が襲う。
 一刀の元にホワイティストを斬り捨てようと、レイディッシュを渾身の力で振り上げる。いけない。腕で振りかざそうとしている。
刀は腰で振るもの。腕だけの力ではどんな名刀だって、鈍らな無銘な刀に成り下がってしまう。それがレイディッシュでさえでも。
 雨に濡れた獣の生暖かい匂いが陽太を狂わせていた。

 哀れな魔剣は魔犬の腕で跳ね飛ばされて、振りしきる雨の中、冷たいしずくとともに校舎の下へと落ちてゆく。

 万事休す。矢尽き、刀折れる。
 全ての神が、岬陽太を見放したと言うのか。
 それとも全ての悪魔の契約が、岬陽太の血を肉を求める内容だと言うのか。

 「こ、これ以上……レイディッシュを召還すると、おれのHPが……」

 神に叛く陽太でさえ質量保存、自然の摂理には歯向かえない。今度、レイディッシュを召還すれば二の足で
大地を踏みしめることさえままならぬことは、陽太には分かりきっていた。しかし……神をも恐れぬ男。それが岬陽太。
 
 ありったけの力で魔犬の腹を蹴り上げると、苦渋の顔面を魔犬は見せていた。いまこそ、チャンス。道は切り開かれた。
小さな体で四つの脚をリスのようにすり抜けると、膝をついて脚を振るわせながら立ち上がり、前のめりのまま叫んだ。
もはや、闘うためだけの本能が陽太を動かしていたと言っても過言ではない。雨もまた陽太の力を奪い続ける。

 「叛神罰当(ゴッド・リベリオン)。い……いでよ、魔剣!レ、レイディッ……シュ」

 陽太の手には再びレイディッシュは現れたが、もはや陽太の力はそれまでだった。
 薄れゆく意識の中、陽太は魔犬を目の前にして水溜りの中へと崩れ落ちた。

   #

 雨がやむ気配はない。ガラス窓に手を当てて、雨が吸い付く様子を見ているだけ。
 荵の頭に屋上に残した陽太のことが過ぎった。こんな雨の中、来るはずのない魔物を待ち続けているバカモノなど居るはずがない。
きっと校舎の何処かに戻っているのだろう。ひんやりと体の体温が奪われ、雨も見飽きた頃。雨粒と一緒に空から立派な大根が一本
降ってくるのを荵は目撃した。
 光景は異様であるが、白い大根が闇を舞う姿は妙に美しかった。

 「げ、月下のばかー?」

 荵は雨に濡れる覚悟を決めた。

   #

242月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:00:07 ID:WRR7xxPQ0

 息を切らせた荵が屋上に着いたときには、あんなに激しかった雨は収まりかけていた。荵の目に飛び込んだのは、
大根を握ったまま冷たいコンクリートに伏していた若き戦士の姿だ。そして、その目前には両足をそろえて、まるで主人の帰りを待つ
忠犬のような、ホワイティストの姿があった。血に飢えた猛獣の印象さえない。滲んだ鼻の傷はすでに癒えていた。

 荵は陽太のレイディッシュを奪い、愛すべき魔犬・ホワイティストと対峙した。
 
 争いたくはない。
 傷つけたくはない。
 でも。帰りたい。

 揺れ動く荵の気持ちを抑えてくれたのは、魔犬の傷だった。
 尻尾が傷ついている。深い。鋭利な何かで切られたような傷跡。赤い血がぽたぽたと流れる姿は、荵には耐え難い。
しかし一方、陽太がレイディッシュで与えた傷ではないものだと確信した。陽太はまだ、魔犬に手をかけていない、と。
 流れた血の筋を辿ると屋上のタンクの方へと繋がっていた。魔犬がタンクから飛び降りるとき、尻尾を有刺鉄線に引っ掛けたらしい。
荵は全てを理解し、戦う意思を放棄する意味で、大根を冷たいコンクリートへ投げ捨てた。

 「大丈夫。わたしがついているから」

 言葉を理解せぬホワイティスト。荵が何を語っても、通じぬだろう。
 だが、荵はホワイティストと会話が出来る気がした。何故なら……荵はこう語るからだ。

 「地上で生きる全てのイヌは、もっと幸せになるべきだと思うんだ」

 ホワイティストはまるで荵の言葉が分かっているかのように、黙って耳を傾けていた。
荵がホワイティストに近寄っても、荵を攻めることは一切なかった。まるで、昔からの親友のように大切な鼻の先を荵に差し出す。
傷ついていた鼻だ。それでも無防備にホワイティストは荵に鼻を委ねた。そっと触れると、湿った毛並みが荵の手を濡らしていた。

 「だから……。もっと生きて。もっと幸せになって」

 尻尾の傷がうずきく。

 「たいせつな、ともだち」

 真っ白な毛並みに顔を埋めた荵。涙こぼしても、毛並みで濡れたからといい訳しても構わないだろう。

 「逃げて。お願い」

 果たして、通じたのだろうか。それは分からない。

 「……」
 
 長い沈黙が続く。雨はとっくに止んでいるのに、雨音が消えたことさえ荵は気付かなかった。いきなり荵の頬から、
ホワイティストの冷たい感触が消える。大きな後姿、引きずる尻尾、流れる血潮。荵はその姿をじっと見守った。
 荵が誘うままに白い魔犬は、屋上から空を征するように飛び降り、地上に舞い降りると校門へと走り、彼方へと姿を消してしまった。

 「さよなら。白い魔犬」

 魔犬が消えたあとをいつまでもいつまでも荵は見つめていた。

 そうだ。岬陽太はどうなった。荵はいまだ伏したままの少年の元に駆けつけて呟いた。

 「あ。雨……止んでる」

    #

 彼女を知っている者が見れば明らかに普段のリオとは違うと伺える。
 窓ガラスを叩く雨音に驚いて、ベッドから転げ落ちる姿は見せないはずだ。冷静さを失った風紀委員長など、
この世に必要ない。リオはそれでもなりふり構わず乱れて、身を縮こまらせていた。ヒカルはどうしていいか分からなかった。

 「あいつらが来る!」

 リオはそれしか叫ばない。枕をいきなり持ち上げて、ヒカル……ではなく、ヒカルとは反対側の窓ガラスに向けて投げつけた。
窓ガラス軽くあしらうように、枕を床に跳ね飛ばす。

 「だから、犬上!逃げて!」

 窓ガラスが割れた。爆発するような音とともに。小規模ながら、床に散らばるガラスの破片が衝撃を物語っていた。
リオはスカートを翻し、ニーソックスの脚を露にしながらベッドの上を転がった。部屋の中でも雨音が大きく聞こえてくる。

243月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:00:40 ID:WRR7xxPQ0

    #

 「もう。月下はホント世話の焼ける!」

 陽太はずぶ濡れのコンクリートに伏したまま、動くことがなかったもの息はある。ちょっと気を失っているだけだった。
頬も赤くはれ上がった陽太の顔は精悍に見えるのが非常に悔しい。荵はそっと陽太の髪を撫でた。

 「月下のバカー」  

 荵は気を失って倒れている陽太に魔剣を握らせて、自分も陽太のように、何者かに打ちのめされたかのごとく、
自らの体をコンクリートの床に伏せた。制服が濡れる。冷たい。しばらくすると、陽太が息を吹き返す。

 「ネギ……、居たのか?」
 「うーん。痛かったよおお」
 
 荵は陽太の声を聞くとおもむろに立ち上がり、わざとらしく打ってもいない頭を抱えてみせた。
 濡れたスカートを叩いて、瞬きをしながら荵は周りを見回すと、起き上がった陽太を見つけ(たふりをし)た。
芝居を打って駆け寄る。
 
 「ネギ、生きているか?無事か……?あれ、アイツは?姿を現せよ、白い魔犬!!」

 荵の演技が始まる。
 演劇部仕込みの、粗引きながらの訴えるもののある演技。

 「魔犬は……消えたの」 
 「消えた?だと……」
 「どうしてわたしたちは闘わなきゃいけないの?どうしてわたしたちは斃れなきゃいけないの?ねえ!月下!答えてよ!
  月下は……、月下はわたしの盾になって、あの忌まわしき血に飢えた魔犬の犠牲になったの……」 
 「……」
 「わたしが屋上に戻ってきたとき、魔犬の牙がわたしに向かってきた。無意識にとった行動なのか、月下は『畜生め!』って
  叫んでいた。獣が乗り移ってきたように、月下は野生の本能をむき出しにして魔獣に一撃を与えようとしていたの」
 「おれがヤツを倒した……のか」
 「そう。全身全霊の力で月下は魔剣で猛獣の急所を捉えたの。同時に猛獣の魔の手がわたしと月下にかかった。
  わたしは跳ね飛ばされた。でも、月下は力の限り大地を踏み締めているのが、薄れゆく意識の中に見えたんだよ。
  最期のときを迎えた巨大な獣は何者かに連れ去られたようにか消え去って、月下はこの地に倒れた。わたし、見たの」

 涙ながら陽太の体を揺すると、荵に持たされた大根を手にしたまま陽太は膝付いて立ち上がった。
 瞬きをして、手にした大根を確かめると自分にまだ息があることの喜びを陽太は噛み締めていた。顔がほころぶ。
陽太が振り返ると、陽太の上着の裾を小さな年上の少女がそっと掴んでいるのを見た。年上の少女は頬を陽太のこめかみに寄せる。

 「月下ー!月下のバカー!!死んじゃったかと思ったよ!」

 少女独特の甘い香りを陽太に振りまくと、たじろぐ陽太は隙を見せることを拒んだ。
 彼は、誇り高き『魔剣遣い』。神をも恐れぬ反逆の勇士。

 「ネギ、心配するな。あのとき神が、おれの耳元で『死ね』って囁いたのさ」

 堰を切ったように泣き出した荵は陽太の胸を拳でぽんぽんっと叩いた。
 そして、荵は
 
 (ホント、世話の焼けるヤツだっ)

 と、陽太のわき腹をつねった。

244月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:01:08 ID:WRR7xxPQ0

 雨に濡れた屋上に取り残されたのは、陽太、荵、そして魔犬が残した血溜まりだった。いや、血溜まりではない……。
赤く染まった血生臭い汚れた海ではなく、透明に透き通った山奥に守られた神秘の泉のよう。
 陽太が不思議に思い覗き込むと、部屋のような景色が見えた。後ろから荵がこっそり伺うと、見覚えのある景色だとすぐに分かった。
イヌのぬいぐるみ、イヌの布団カバー、イヌのカレンダーにイヌのリュック。

 「わたしの部屋だ」
 「やったな、ネギ!魔犬はおれたちに素晴らしい贈り物を残してくれたぞ」
 「え?」
 「この空間を使え。ここから、ネギの世界に帰るんだ」

 一筋の希望の光とともに、雨を降らせていた曇が途切れ、月の光が差してきた。
 帰るなら、これを逃す以外はない。荵は迷う。みなを残して一人だけ、ここから消えてしまっていいのか。
 世の人は『裏切り者』と言い放ち、蔑みの対象へとおとしめるのではないのか。荵に表情を見せぬよう、陽太はくるりと踵を返した。

 「おれはネギの泣くところなんか見たくねえからな」
 「泣かないよっ」
 「じゃあ、素直に帰れ」

 後ろ姿の陽太の表情すら伺えないが、荵は陽太の気持ちがびしびしと伝わってくる気がした。
 小さな拳を握り締め、小さな肩を揺らし、涙越えて行かねばならぬ。荵は演劇部員だ。どんな役でも演じてみせる自信は
素人ながら誰よりもある。ならば、オーダーだ。監督、脚本家さん。わたしの役柄を教えてくださいな。

 『明るくこの場をさよならする久遠荵』。オーダーはこれだ。
 たった一人きりの観客は、魔剣遣い・岬月下。

 「さよなら!またね」

 荵は自分の部屋が写った水溜まりに単身飛び込む。荵が最後に見た陽太の顔は、戦いを終えたときのものだった。
それは精悍な勇者に相応しいものだった。
 
 岬陽太は別れの印に残された水溜りに魔剣・レイディッシュを投げ入れた。

   #

 温かな布団の中。愛らしいイヌのぬいぐるみに囲まれて、荵は目を開けた。

 「大根?」

245月下の魔剣〜獣〜 ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:01:39 ID:WRR7xxPQ0

 すべて夢ではなかった。口を閉ざしたままの大根は、雄弁に荵へと語る。荵は自分の部屋で布団に潜り込んでいた。
枕元にいたのは、岬陽太でもなく、犬上ヒカルでもなく、同じ演劇部の少女だった。名は黒咲あかね、荵と同じ制服に身を包む。
 あの世界とは、なんら関係もないごく普通の毎日。真っ白な巨大なイヌも、ここには姿さえない。

 「久遠。あまり大した風邪じゃなくてよかった……と、迫先輩に伝えとくね」
 「あかねちゃんだ。どうして」
 「迫先輩が行ってこいって……。そうそう。大根の薄切りを蜂蜜に浸して、染み出た液をお湯で割って飲むとのどにいいよね」
 
 荵は自分で迫には「風邪のため」と電話、そしてあかねには「イヌを追いかけていた」とメールをしていたことを思い出した。
心配していたあかねは荵の顔を見ると、ほっと一息ついてベッド脇に置いていたイヌのぬいぐるみの頭を撫でた。
 目から上だけを布団から覗かせる荵は、あかねをじっと見つめていた。確かに、荵が知っている黒咲あかねだ。

 「お芝居、素晴らしかったよ。迫先輩もこんな素敵なステージのチケットを手に入れてくれて感謝だね」

 あかねが立ち上がり、黒ストッキングのすらりとした脚が荵の目前に伸びる。あかねは両腕でコートを抱えたまま、
その日演劇部のみんなで観覧した演劇の一部を再現してみせた。荵へのお土産のように。

 「一人の王子、剣の達人であり、孤高の人。彼は何故、自分は戦わなければならないのかと、葛藤に苦しみながら
  戦乱の世を生きる。そして出会った、とある国の王女。初めての恋。止められない王女への想い。しかし……。
  王女は魔獣。王女として世を忍ぶ仮の姿の魔獣。王からの命令で魔獣を倒さなければならなくなったのね」

 荵の口からは言葉はない。
 あかねの話を興味津々と聞いているからではない。王子と誰かが重なって見えるからだ。
 土産話をあかねは続ける。

 「王の命令は絶対。謀反者は磔。魔獣死すべし。だが、魔獣は王子が初めて誰かを大切にしたくなった人。
  すごく良かったよ。迫先輩なんかお芝居が終わった後、たまらずに楽屋へ走ってたし。久遠に見せたかったなあ」 

 あかねは荵の部屋を舞台のように立ち振る舞い、華やかなライト輝く演劇を荵に見せているように見えた。

 「寒くなるからね。お互い気をつけようね、風邪には」

 再び荵の枕元に戻り腰掛けたあかねは、白い頬を紅くして、ふわりとみどりの黒髪を揺らしていた。

 「大したことなくて、よかった」
 「よくないよ!わおー!!」

 荵があかねに噛み付いたのは初めてのこと。

 「みんな……、みんなどこ行ったの!どこ行ったんだよお!」
 「演劇見に行くって言ってたじゃない。久遠は風邪だったし……」
 「違う、違うよ!月下にヒカルくんに……」

 あかねは荵の口から出る名前に聞き覚えはなかった。

 外からイヌの鳴き声が聞こえてきた。反射的に荵は布団から制服姿でローファーのまま、自分の部屋の窓に飛び付いて、
イヌの声の方へ振り向いた。イヌのぬいぐるみに寄り添うように、大根一本がベッドに。

 「月下!」

 また、会うことのない少年の名前を荵は叫ぶ。
 会うことのない……か、どうか。それは神にも分からない。
 ただ、神に叛く者が現れば、また別の話。

 外は降り落ちてきそうなぐらい美しい満天の星空だった。


   月下の魔剣〜獣〜   

    おしまい。

246わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/12/23(金) 17:03:42 ID:WRR7xxPQ0
以上、陽太くんをお借りしました。
近いうちに、続きを……。の、はずだっ。

これで、投下おしまいです。

247名無しさん@避難中:2011/12/23(金) 23:05:34 ID:72qN0G/2O
うわ陽太ダサいけどかっけえw
やっぱこいつ良いキャラだ
投下乙。楽しませてもらいました

248Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:20:30 ID:i..T/6oU0
投下乙。
熱さとおバカさが融合しているっ!? だとぉ……?
余韻もあっていいラストだ。
どうでもいいがニーソックスだの黒タイツだの……まったく困ったお嬢さんたちだ。

あ、>>179->>182 の続きを投下する。やっぱり区切りがつかないまま

249Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:21:33 ID:i..T/6oU0




 ※


(どうりゃいいんだ……これ……) 

 俺と蜘蛛との運動能力に絶対的な格差が存在するという前提を考えると、まともな鬼ごっこでは勝てない。
 頭の中で仁科学園のマップを開く。
 俺の現在位置は、校門校舎間を結ぶ煉瓦敷きの大通り。その南門の付近、やや西寄りの地点だ。
 南門は校舎から最も遠い。
 この大通りには、出会いと別れに花を添える桜の並木がある。さらにその外側は、ちょっとした人工林を挟ん
で、西には広大な第一グラウンド、東にはここから近い順に第二グラウンドとテニスなどの競技専用コートと屋
内外のプール施設が敷き詰められている。
 一番近いのは第一グラウンドの北にある体育館だろうが、とうに施錠されているだろう。……籠城戦は立て籠
りの態勢を整える前に食い殺されるのがおちか。
 迎撃はもちろん選択肢にも入らない。

(となると)

 ――俺がそれに反応できなかったのは、愚にもつかない思考にかまけていたからではない。
 目など離した覚えなどないのに、気づいた時には既に、蜘蛛の姿が俺の視界から、消え――

「ッ!!」

 あれこれ小賢しく考えていた自分が馬鹿に思えるほどに、その時俺が取った行動は、まったく動物的な脊髄反
射によるものだった。
 手にした合成革の学生鞄を、鋭い長槍のような何かが串刺しにしていた! 今思えばそれは、自覚できない瞬
間を生きるもうひとりの俺が、食人鬼への生け贄として差し出したものだったのだろう。
 死の長槍の正体が蜘蛛の“爪先”であったことを脳が理解する。交通事故にひやりとするのとは訳が違う。俺
に向けられた明確な害意を察知して、全身の皮膚が粟立つ。

 ――蜘蛛の怪物が、ついに俺に牙を剥いたのだ!

 驚愕と戦慄で凍結していた思考が、ようやく言語化を果たす。
 鞄を捨てて脚のひと振りをどうにか受け流し、俺は我が身を翻して地を蹴る。全身の動きに火事場の馬鹿力が
乗り、今よりもっと前へと懸命に俺自身を押し続ける。
 だが、これから逃げ延びるのに、人類の二本足はあまりに遅すぎた。
 視界の右端。全力疾走しているはずの俺の背後から、さながら死に神の大鎌のように、するすると一条の鈍色
の槍状が伸びてゆく。

 ――これは、蜘蛛の、前肢だ――!!

 理解した瞬間に“俺の体が浮いていた”。大地から引き剥がされ、体重が行き場を失う感覚。
 混乱。
 前後不覚からどうにか我に返り、状況判断に掛かる。横から薙ぎ倒されたのだとしか思えない。咄嗟に腕を挟
んで胴を庇ったが、そのひ弱な防御ごと巨大質量に吹き飛ばされ、煉瓦敷きの通りの上にどうと倒れた。

250Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:22:19 ID:i..T/6oU0
 激痛のあまり絶叫もできない。

「……ちっ……」

 ……くしょうっ!
 俺は悪態を吐きながら、我が身のコンディションをざっとスキャン。重傷と言えるレベルの外傷は負っていな
い。ド素人のわざではあったが、どうにか受け身が間に合った。擦過傷だか摩擦熱だかで肌が焼けついている。
 自分の呼吸音が尋常ではなかった。瞼が重い。意識が朦朧とし掛かっている。とんでもなく危険な兆候。

(これは、だいぶ、まずそうだ)

 絶体絶命の状況を、敢えて柔らかく表現してみる。これで少しは気休めにな……らねーよ!
 この巨大な蜘蛛のバケモノから逃げ切れる未来のビジョンが、ひとつも頭に浮かんで来ない。
 何せ二〇メートルあった隔たりを一瞬にして無に帰し、走る俺の正面に回りこみやがったのだ。一体、どうい
う速さをしていやがる!
 昆虫のノミが人間大になれば東京タワーを跳び越えられるという喩え話があるが、現実には百歩譲ってサイズ
を大きくできたとしてもその時には当然体重も跳ね上がってしまうため、飛距離が伸びることはない。だが、こ
いつの身体能力は、まさにそういう仮想の巨大昆虫のそれだ。
 先刻の一撃でやられなかっただけでも、もう俺が強運としか言いようがない。
 半ば無意識に、うつ伏せの腹を引き摺り、一歩でもこの処刑場から遠ざかろうとする。まるでぶきっちょな爬
虫類にでもなったかのようだな。自分を俯瞰しているもうひとりの自分が喩えて自嘲するが、そんなことしてい
る場合か。
 そんなすっとろい逃亡をまさか見過ごしてくれるはずもなく、蜘蛛は俺の腹の下に尖った爪先をすうと差し入
れ、ぞんざいに引っ繰り返した。
 カブトムシとの戦いの敗者さながらに、あっけなく横転する。

「ぐ……うっ!?」

 これが肉体的にはともかく、精神的には手痛かった。絶望がひたひたと現実味を帯びてくる。みっともない声
を恥じる余裕すらない。
 仰向けに地に伏せたところで、目の前に蜘蛛の貌。いっそさっさと殺してくれと懇願したくなる。
 信号機の畸形のような四つの単眼には、むしろ無邪気な子どものそれを思わせる残虐性が浮かぶ。
 きちきちと打ち鳴らされる一対の毒牙は、象牙のように大きい。そういえば、クモの食事の作法は、“毒で動
けなくした獲物に消化液を注入し、体外で溶かしたものを吸う”というものだ。この怪物は、それにしてはやけ
に大袈裟な“口腔”を持っているようにも見えるが。

(何だこいつ。ライオンでも丸呑みにできそうじゃないか)

 ……こんな時に抱く感想としては、我ながら何ともノンキにすぎた。夏休みの自由研究で昆虫を観察する小学
生かお前は。……俺か。セルフツッコミがむなしい。

251Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:23:15 ID:i..T/6oU0
 蜘蛛は俺に兇相を突きつけたきり、獲物の恐怖や抵抗を愉しみに待つように沈黙した。しかしもちろん、この
まま五体満足で帰す気などないに決まっている。ネコやカラスが小動物をいたぶって遊ぶようなものだ。

 ――“遊ぶ”?

 そこでふと違和感を覚えた。
 どうやら俺は、とんでもない思い違いをしてるのではないか?
 
 ――“遊ぶ”。考えてみればおかしな話だ。“昆虫やクモは遊戯などしない”

 昆虫などは、ある意味では機械じみてさえいる、よほどシステマティックな生き物だ。本能という形に最適化
されたルーチンは融通が利かないが単純明快で合理的だ。
 もしも、この蜘蛛が本能のみで動く怪物であるならば、俺は勝機を見出だすこともできず、第一撃によってき
っちり殺されているはずだ。
 けれど、俺はまだ死んでいない。麻痺毒の枷を嵌められるでもなく、全力疾走すら可能な体のままで生かされ
ている。何故なら、それがこの蜘蛛の遊びだから。
 そこに希望の光を見出す。
 そう、こいつは“クモ”ではないのだ。クモに姿がよく似ているだけの、サディスティックなモンスターにす
ぎない。
 狂博士の檻から解き放たれた生物兵器であるにせよ、封印を破って里に下りた妖怪変化であるにせよ。これの
正体が、“遊び”に興じるような精神を持つ者であるならば、

 ――あるいはそこに付けこむこともできる!

 深呼吸ひとつで、俺は歯車を組み換える。
 蜘蛛が退屈そうに俺を爪先で小突く。このモラトリアムも、どうやらそう長くはない。
 まあどんな目が出るにせよ、このまま賽も振らずにジリ貧になるよりはましだ。ここは、地獄に垂らされたひ
と筋の蜘蛛の糸を手繰るとしよう。




 ※


 同時刻。
 私立仁科学園体育館に設えられた大武道場は剣道場の一角。
 そこは静謐なる空間だった。あるいは大気の中にぴんと張った一本の弦を想う者もいる。無闇に口を利くこと
の躊躇われる厳粛な空気は、この場で修練を積み重ねた少年剣士たちの魂が染みついたものか。
 蒸し暑いという正常な皮膚感覚すら、ここでは緊張のための空寒さの前に制圧されるだろう。

「ここは」

 ぽつりと誰かが発した声が、鋼の線を弾いたように大きな広がりを持って響き渡る。たとえば、青竹を手斧で
割った小気味の良さを伴っていた。

252Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:24:09 ID:i..T/6oU0
 誰か。今は竹刀を打ちこむ者もなくなって久しい時間帯であるはずだ。
 誰だ。ここは扉の施錠を教諭によって確かめられた密室であるはずだ。
 無人のはずの仁科学園体育館大武道場に姿を見せた何者かは、精悍な眼差しにひと掴みばかりの困惑を散らし
て呟く。

「ここは……どこだ?」

 青年。
 まだ若さの盛りだが、立ち姿には一種達観の境地にあるような落ち着きも窺える。年の頃は二〇代の半ばと見
えた。少なくとも高校生ではない。
 着古しのジーンズに縫製のしっかりしたTシャツ。飾らない服装の上からでも、その体が鍛え上げられている
ことが分かった。アスリート、軍人、そういう人種を思わせる。
 右手に携えるのは、金属製の棒。およそ七尺に及ぶ長さは、青年の身の丈を上回る。滑らかな痩身には叉も装
飾もない。鋼色が纏う“物質としての確かさ”がその最大の特徴と言えるか。

 ――ここはどこだ? 何があった?

 青年は今一度、我が身が陥った、わけのわからない事態について考察を試みる。
 最後の記憶は夜明け前。ひと仕事を終えて仮眠を執ろうと、自室の床に横たわったところだったはずだ。何か
と身の回りの世話を焼こうとする白狩衣の娘を遠ざけて、何の気兼ねなく体を休めるつもりだった。

(そこへ、不意に耳のそばで雑音がして跳ね起きた。蠅の羽音に似た微振動)

 思い出すだけでも不快になる。あれは何だったのだろう。“そういう音を発するもの”に、心当たりがないで
はない。たとえば、手の金属の棒が粉砕すべき異形のものどものうちの数種であるとか。

(しかし、あれは異形じゃなかった。
 もっと大きなスケールで、根源的な変化があった感じだ。……存外、“またぞろ世界のいくつかでも重なり合
った”か?)

 いわゆる“一般人”には理解しかねることを当然のように心のうちに並べてから、青年はのんびりと歩き出し
た。足の先が向かうのは体育館の出入り口だ。錠前はもちろん内側から開けられる。
 右肩には重さの頼もしい金属の棒。左手には運よくそばに転がっていた履き物の左右。それが、異世界にやっ
て来た彼の荷物の全てだった。

(ここにいても仕方がない。外に出て状況確認といこう)

 うまくすれば仲間と合流できるかもしれない。
 磨き上げられた板張りの床を、窓から射しこんだ月光が舐めてゆく。




 ※


 蜘蛛の小突く力を利用して立ち上がる。
 意表を突き、しかし下手に刺激しないように自然な流れに乗る。俺だって、伊達にどこかの変態少女の不意打
ちハグやちゃっかりキスを躱し続けてきたわけじゃない(伊達とかそういう問題じゃないけど……)。

253Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:26:00 ID:i..T/6oU0
 蜘蛛は出方を窺うように、無機質な目で俺を見ている。……もうクモの視力がどうのこうのなんてことは忘れ
よう。希望的観測としても虫のいい話だ。
 
(逃げ場はひとつ)

 人工林以外、有り得ない。
 あそこは“林”を名乗るには東西の奥行きが薄いが、木々の間隔がやや狭い。俺なら走ってでも通れるが、目
測した限りあの蜘蛛は体を横にしたって確実に閊(つか)える。もし蜘蛛が、樹木を粉砕してでも獲物を追うな
どというクモらしからぬ発想に至ったとしても、時間稼ぎにはなるだろう。
 俺は蜘蛛から目を離さず、摺り足でするすると滑って位置を調整。このまま一動作で人工林に跳びこめるまで
距離を削ることができればいいのだが――
 そんな祈りも空しく、蜘蛛の姿がまた掻き消える。

(くそがっ!)

 摺り足を止め、俺は目的地に向けて死に物狂いで走った。
 蜘蛛は俺の逃走経路を読んで割りこんでいた。もはや瞬間移動というべき速さ。
 頭蓋骨を一撃で噛み砕くであろう牙が、ぐいとこれ見よがしに突き出される。ヘビに睨まれたカエルならここ
で全てを諦めるだろう。本能と本能の歯車は噛み合う。
 だが!

 ――それがただの“威し”であると見抜く

 だから俺は制動ではなく、最加速を掛ける。
 蜘蛛が立ち塞がるなら、背中を蹴って跳び越える。体構造上では背中は蜘蛛の爪牙が及び難いはずではあるが、
その反応速度と敏捷性を考えれば勝算などあるわけもない。ここは博打に出るしかない。遊びと遊びの歯車もま
た噛み合うのだと信じて走る。
 スニーカーで固めた俺の右足が、蜘蛛の首あたりに着地。

 ――踏破――!!

 蜘蛛の背中は異様に硬く、反動で足首に痛みすら覚えた。――知ったことか!

(ここだ!)

 並ぶ木々のうち、おあつらえ向きの株に目を付け、爪先から蜘蛛の首に全体重を射ち出す。
 樹木と樹木の狭間。それが生還への門だ。
 制服を削るようにしてすり抜ける。
 前転して落下の衝撃を殺し、ひと足先に成功を確信。
 数瞬遅れで二本の樹木に巨大蜘蛛が激突していた。
 繊維の破砕される轟音に胆が冷える。あるいはそれが蜘蛛の渾身の突進であるならば、強引に木をへし折って
突破できたであろうことは疑いようがない。
 だが、“遊び”の体当たりではわずかに足りなかった。
 力強い樹幹に弾かれて、蜘蛛はそこを一発で抜けられなかった。
 一度足を止めざる得なかった。

 ――“一度”。そう、一度で充分

 さて。
 ここで突進の運動エネルギーの全てを消費してしまったクモはどうするか?
 後退して再び体当たりするか、怪力でこじ開けて押し通るか。……どちらもスペックの上ではやってのけそう
ではある。というかやってのけるだろう。
 しかし、どちらにせよ、俺はその時間に第二の“門”を潜り抜ければよい。

「どうせ遊ぶなら、もっと真剣にやろうじゃないか。――なぁ?」

 背後に投げ掛けた格好つけの台詞は、息も絶え絶えであまり決まっていなかった。

254Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:27:33 ID:i..T/6oU0

 ――木を舐めてはいけない

 樹木は、セルロースとリグニンによる鉄筋コンクリートにも喩えられる、極めて頑丈な構造体だ。たとえば街
路樹の根本に自動車で突っこんでも、倒壊させることは容易ではない。
 それに一口に“木”といっても、重さや堅さといった木質から、展開していく根の形状まで、それらはまった
く多様性に富んだ生き物だ。もし「以前は倒せたから」という怪物なりの学習があっても、種類を見極めずに舐
めて掛かると思わぬ苦闘を強いられることもある。
 ……まぁ、結果論でうまくいったから、こうして余裕ぶって解説なんぞできているわけなんだが。
 余計な考えもそこそこに、俺は人工林を駆け抜ける。

(――閑かだ。いや、あの後輩ではなく)

 どうやら、蜘蛛は追って来ていない。何せあれだけの巨体だ、密集した木々の間を通り抜けようとしていれば
物音がないはずがないからだ。まだ、俺を狩り出すことに血眼になってまではいないらしい。
 林間の暗がりにまぎれ、俺はひと息吐く。夜の世界でも一層黒々とした木陰に腰を下ろした。血流が、耳の奥
をごんごんと叩いていた。
 実のところ、そこまで長距離を移動したわけではない。昼間ならそろそろ進行方向に体育館が見えてくるあた
りだろうか。
 このまま蜘蛛が諦めてくれればそれでよし。俺の逃走ルートを予測して迂回するかもしれないが、お生憎だっ
たな、俺はもうしばらくここを動く気はない。
 位置を特定されて一帯の木々ごと薙ぎ倒されでもしたら打つ手がないが、俺はその前に学園と官憲に通報すれ
ばいい。錯乱した演技で「イノシシのような強暴な獣に襲われた」とでも言い張れば、警察官も拳銃の一挺くら
いは携行して来てくれるだろう。

(拳銃)

 あの戦車じみた怪物を殺すには、あまりに頼りない武器にも思える。
 震える手で携帯電話をばちりと開く。今はこれが命綱だ。
 光源のディスプレイを直視しないように注意しながら、まず【電話帳】から【私立仁科学園高等部】を呼び出
す。知らずに出歩いた教職員が、翌朝死体となって発見されるなんて事態は避けたい。まずはそちらの安全を確
保するべきだろう。日頃からあちこちで信用を売っておいたから、いきなり狼少年扱いはされないはずだ。

(それにしても、いよいよ大事になってきたものだ)

 嘆息しながら、俺は携帯電話を耳に当てる。

 ――コール音がない

「何っ」

 慌ててアンテナのようなアイコンに注目。
 電波障害? ――馬鹿な、ここは僻地のトンネルでも何でもないぞ!
 藁にすがる思いで一一〇番に掛ける。……やはり繋がらない。

「まじか」

 愕然とする。
 悠長に電波の回復を待つか? しかし俺がこのまま一夜を明かすようなことになれば、何も知らずに登校して
きた誰かが食い殺されるかもしれない。そんなのは、俺はごめんだ。
 ならば、さらに人工林の中を北上して校舎内に入るか、もしくは西門を抜けるか。いっそ南下してもいいが、
心理的にはもうイヤだ。……どちらにせよ、蜘蛛の居場所が分からないのだから同じっちゃ同じだけど。

(…………)

 悩ましい。
 悩ましいが、こんなのもはや答えはひとつしかない。
 俺は蜘蛛の見えない影に怯えながら、気持ち北北西に針路を取った。




 ※

255Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2011/12/26(月) 00:31:04 ID:i..T/6oU0
今回はここまで。
まだ全然クロスって感じじゃないな。がんばる。

「坂上匠@異形世界」を借ります。
主人公格とヒロインは引っぺがすのが俺のジャスティス。

256名無しさん@避難中:2011/12/26(月) 19:07:38 ID:Xg5WfOj20
乙!
先輩の いい漢っぷりで後輩の好感度が大変な事にw
最近幸せそうな展開になった匠はクズハをどう思ってる頃からの参戦じゃろう

257名無しさん@避難中:2012/01/01(日) 04:27:31 ID:pjlty6cI0
>>246
やっぱり荵かわいい
いきなりの最終回と思ったら続きがあるだと…!

>>255
匠キター
さてどうなるか

258名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 18:52:52 ID:qa8hsIukO
質問。
チェンジリングの隕石って隕石群だったのか?
ひとつの巨大なやつが空中で割れたのか? だとすればざっとどれくらいの大きさと見積ればいい。
探したけどよく分からなかった。

259名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:38:51 ID:K1ZTSsX.0
チェリジの合い言葉は「こまけぇこたぁいいんだよ」だから一塊も隕石群もあった気がするw

260名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:42:30 ID:qrug6SEE0
複数だよ
イントロダクション見ればわかる

261名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:43:11 ID:qa8hsIukO
分かった。ありがとう。大雑把でいいなら楽でいい。

262名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:52:47 ID:qa8hsIukO
>>260
イントロ読んだ初発の解釈では、ひとつだと思ったんだがw

263名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 19:56:45 ID:qrug6SEE0
遠くにあるから一つに見える → あれ?近づいてきたけどやっぱりいっぱいあるんじゃね?

って流れ

264名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 20:54:04 ID:qa8hsIukO
俺の勝手なイメージでは空中で割れたことになったんだ。
最後まで“隕石”としか書いてないしな。
書いた人の意図は知らないが、複数でも意味は通るなと思ったから聞いてみただけだよ。

265名無しさん@避難中:2012/01/10(火) 21:12:44 ID:qrug6SEE0
ああ、そういうことか
>>258の3行目の前半よく読んでなかった
まあどっちにしろ落ちたときは複数だから…

結論:こまけぇこたぁいいんだよw

266名無しさん@避難中:2012/01/15(日) 00:22:32 ID:8p3AQGsI0
ええい、小ネタ一つでもいい!
貴様ら投下せんかね!

267名無しさん@避難中:2012/01/15(日) 23:56:47 ID:Oo6.L8Bc0
つ「言い出しっぺの法則」

268Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:37:11 ID:1MEgqYN.0
投下します
>>249->>254の続き。

269Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:38:14 ID:1MEgqYN.0




 ※


 ――時刻は、午前零時を回ったところ。“もう目覚める時間だよ”。
 ――時針は、七と八のちょうど真ん中。“まだお休みの時間だよ”。




 ※


 わたしの生活のリズムは、“能力”の影響を強く受けている。ふつうのひととは、少し違う。
 まず、日の出から日の入りの一時間ほど前まで。日中、わたしはまだしも人間らしくいられる。もうひとりの
わたしは眠っている。
 夕方。わたしは強烈な眠気に襲われ、そのまま日付が変わるころまで完全に意識を失ってしまう。もうひとり
のわたしは、まだ休んで力を蓄えている段階だ。
 午前零時から日の出まで。わたしともうひとりのわたしが目覚める。ただし、わたしの肉体は“能力”によっ
て狂暴な化け物に変貌していて、精神も目を覚ましたもうひとりのわたしに乗っ取られている。
 もうひとりのわたし。
 それは“蜘蛛”。
 それは“怪物”。
 チェンジリング・デイと呼ばれる日、地球に降り注いだ隕石がわたしにもたらした異能のひとつ。わたしの意
思などお構いなしに、天体運動の影響によって確実に発動する、人知及ばぬ捕食者への変身能力。
 なまなかな戦闘系能力者をも一蹴する剛力と強靭さ。その性は獰猛凶悪で、知能も人類並。
 人間など、獲物か玩具としか思っていない。わたしの世界で一番大切だったひとたちをさもうまそうに食い殺
し、わたしの世界で一番大切なひとにすら囓りつく。
 どうすることもできない。わたしには。夕方までに一夜の孤独を探し、誰も傷つけないことを祈り、あとは太
陽を待ちわびるだけ。だった。“無敵”の能力で、一晩中、もうひとりのわたしの爪と牙を引き受けてくれるあ
のひとと出会うまでは、そうして各地を転々と渡り歩いていた。

(衛さん……)

 そして今、また、そばにあのひとはいない。はぐれてしまった。久し振りのひとりぼっち。誰かを傷つけてし
まうという恐怖に震える。
 陽射しを焦がれる夜は、長すぎる。

(今は、何時だろう?)

 そんなことばかり考える。この高校の近くに飛んだ(飛ばされた?)のが、変身して数分後、午前〇時一〇分
前後だったはずだ。
 それから、運悪く遭遇した高校生のお兄さんにもうひとりのわたしが襲い掛かって、そのひとはどうにか逃げ
てくれたのだけれど、……潰れた時間としては二時間くらいは経っているだろうか。一時間半、せめて一時間。
 夏の日の出を朝の五時くらいとして……あと四時間も?

270Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:39:06 ID:1MEgqYN.0
 もうひとりのわたしは、高校生のお兄さんが逃げていった木々の奥をじぃっと見ていた。

 ――“そうでなくては、面白くない”

 それは人語ではなかったけれど、感情の波でもうひとりのわたしが昂揚していることがわかった。
 このところ“歯応えのありすぎる”能力者をしゃぶってばかりだったから、いい声で鳴いてくれてお腹に溜ま
りそうな獲物を見つけてご満悦なのだろう。おまけに無駄な抵抗までして楽しませてくれる。

(そういえば、あのお兄さん)

 チェンジリング・デイ以降、まだ覚醒しないひとも稀にはいるけれど、“人類総能力者”の時代。
 立ち向かってこなかったことから見るに、あの高校生のお兄さんの能力は、恐らく戦いに応用できるようなも
のではないのだろう。……わたしにわからないだけで地味に発動していたのかもしれないが、とにかく戦おうな
どと考えず逃げてくれたのは本当に幸いだったと思う。なまじ戦う能力があると、かえって危険な目に遭わせて
しまう。
 もっとも、反則級の能力者ならば、もうひとりのわたしの暴虐も止められるかもしれないが。
 それこそ。

 ――衛りに徹する限りにおいて、我が身に害をなす一切を跳ねのけるという無敵であるとか。
 ――細胞の活性化により無限の身体能力と回復能力を得るという路地裏の女騎士であるとか。

 しかしそんな規格外の能力者は、この時代においても決して多くはない。そもそも宇宙からの贈り物は、戦闘
向きのものばかりでもない。

(どうか)

 今のわたしには祈ることしかできない。
 あれ以上の怪我なく逃げのびてくれるなら何でもよかった。強力な能力者が来てくれるとか、頑丈な建物に滑
りこんでくれるとか、日の出を迎えるとか、もうひとりのわたしが気まぐれに興味を失うとか。
 もうひとりのわたしは、やはり蜘蛛のような八つ足を蠢かせて移動を始めていた。きっとあのお兄さんを見つ
け、嬲り殺しにするために。




 ※


 まだ目がちかちかしていた。うっかり携帯電話なぞ直視してしまったからだ。頭でっかちにいろいろ考えるは
いいが、肝心な時に詰めが甘いから困る。
 獣ならざる我が身、落葉の層を踏み締めて歩くのに、まったくの無音とはいかない。まして、推定される蜘蛛
の聴覚感度を考えれば。
 それでも俺は気持ちだけでもと深く静かに潜行する。

(人工林の中を北上し、西門から抜ける。狩人に回りこまれていれば速やかに引き返す。定期的に電波状況を確
認し、回復していれば即時通報を図る)

 ごく常識的な行動指針のはずだ。

271Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:40:23 ID:1MEgqYN.0
 一歩……また一歩……と道路掃除夫ベッポみたいに進むうち、むやみに巨大な体育館に突き当たった。せいぜ
い数分。それほど時間が掛かるものでもない。
 人工林の端と体育館との間には、やはり煉瓦敷きの歩道が伸びている。正面の大通りよりわずかに細いが、こ
れも東西の門に通じるのでそれなりに幅はある。これを横断するわけではないとはいえ、見晴らしが利くという
のは俺にとって面白い要素ではない。
 藪陰から視線を水平移動。
 心音のペースがまた速くなっている。

(蜘蛛は今、どこにいるのだろう)

 鬼ごっこで一番怖いのは、鬼を見失った時だ。小学生の頃に読んだシートン動物記のオオツノヒツジ“クラッ
グ”の話でもそう書いてあったはずだ。……もっとも、さっきのようないきなりの接近遭遇の場合、追跡者の位
置の把握なんかにまごまごしていたら、今頃は閻魔大王のむさい髭面を拝みながら自分の罪を数える羽目になっ
ていただろうが。
 ……見渡した限りはいなさそうだが、この位置からでは死角が多すぎてまったく安心できない。
 なんか漫画的なパワーを持つ武術の達人ならば殺気を察知して索敵できるかもしれないが、ただの模範的なだ
けの高校生にムチャ言うなよ。
 生まれながらの捕食者に本気で息を潜められては、はっきり言ってお手上げだ。
 悩むだけ時間の無駄なので、俺は人工林の中を動き回り、限界まで死角を削っておく。
 ……やはり、いない。と思う。そう信じたい。
 まさにブッシュに隠れている側の俺のほうがアンブッシュを警戒しているというのが少し可笑しい。……いや、
どうでもいいな。
 決断する。

(やはりここは速やかに西門をくぐろう)

 ……言うまでもないが、別に学園の敷地内を出たからといって、そこで蜘蛛がすっぱりと諦めてくれるわけで
はない。もし見つかれば、どこまでも追い掛けられて美味しくいただかれるだろう。
 だから、最終的な目的地は“交番”だ。そこに着くまでは油断できない。
 俺は呼吸を細くしながら、するりと樹木たちの砦を抜け出した。靴裏を押し返す地面の硬さ、剥き出しの腕を
撫でてゆく空気の流れ、冷ややかな月光。
 西門をひどく遠くに感じる。
 それでも取り敢えずの安全圏を離れてしまえば、このまま行くしかない。ゲートを越えて、たとえ“ほら吹き
男”と謗られようとも、あの恐るべき怪物の危険を知らせなくてはならない。夜明け前よりも早く、出歩いた誰
かが襲われないうちに。
 閉ざされた鉄のフェンスの形がはっきりと見える。
 あと少し、もうすぐ、この先、あれを乗り越えて……!

 ――勝ち誇ったような四つの単眼が、西門前で俺を待ち受けていた。

272Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:42:00 ID:1MEgqYN.0

「な……!?」

 蜘蛛だった。
 やはり、どこかに隠れていたというのか? アシが速すぎるために、どこにいてどういうルートで出現したの
かまるで見当もつかないというか見当なんてつけている場合か!
 無拍子の速さで、蜘蛛の巨大な口腔が、トンネルのように俺を呑みこもうとする。人類はこれを躱せない。反
応して左右に身を振ったとしても、抜け目なく伸ばされた前肢によって口の中へと掻きこまれるだろう。

 ――逃げ場は、ない!

 そうして俺は、頭から闇に丸齧りに――




 ※


 ――絶望の闇を薙ぎ払い
 ――それを打ち砕く光がある!

 死をさとった俺の前で、ふたつの金属が激突していた。その瞬間を視たわけではない。ただ、クラッシュ音と
でもいうべきものがあった。

「そこの君、無事か!?」

 呼び掛ける声。
 俺には、一瞬、それが人の声だと分からなかった。どうやら、それだけ自分が直面した“死”というものに衝
撃を受けていたらしい。しっかりしろ、そんなことは後でもできる!
 そこでようやく、九死に一生を得たと自覚できた。
 助かったのだ。絶対に死んだと思ったものが。

 ――蜘蛛の思考発動からの転瞬、俺の眼前に割りこみを掛け、怪物の爪牙を捌いた者がいる!

 俺を絶体絶命の窮地から救ってくれた何者か。今も俺を守って蜘蛛と相対する男だ。
 後姿のシルエットは細身のくせに、やけに幅広に思える背中だった。シャツ一枚を通してもわかる鋼の体は一
見して、マウンテンゴリラが百年を生きて変化したと噂されるうちの美術教諭や、仁科最強候補の一角たる重量
挙げ部の筋肉たちのようでもあるが、しかし纏う何かが決定的に違っている。まるで、御伽噺の戦士のような。

(誰だ?)

 まるで見覚えのない青年だった。知る限り、仁科の体育教諭ではない。
 力強い手には、長大な“金属の棒”を握りこんでいた。まさか、あれで蜘蛛を薙ぎ払ったのか?
 棒。あるいは杖、棍、柱……。それもどうやら俺の見慣れているような、バレーボールや棒高跳びで立てる体
育用具の鉄棒などではない。

 ――あれは、敵と戦うためだけに生まれた、正真正銘の“打擲武器”だ!

 予期せぬ乱入者に、さしもの蜘蛛も跳び退く。

「“異形”――いや、《魔素》を感じない。やはり異世界……!」

 いぎょう?
 青年の唇から零れた耳慣れぬ単語を俺の耳が拾う。“異形”。それが、この蜘蛛の、人知及ばぬ怪物の名前な
のか?

 ――突然の天変地異。“異形”というらしい蜘蛛の怪物。金属の棒を携えて戦う謎の青年。
 ――いったいこの街に何が起こっているというのだろう?




 ※

273Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/01/29(日) 06:43:18 ID:1MEgqYN.0
今回はここまでなのよ。

ではな!

274名無しさん@避難中:2012/01/29(日) 08:09:43 ID:F7GtRLpw0
キター
しかし朝まで長いのう

275名無しさん@避難中:2012/01/29(日) 09:54:31 ID:1FKU9ndA0
合流きたー!
長い夜は終わるか
そして常識人先輩の明日はどっちだ!

276名無しさん@避難中:2012/03/04(日) 21:10:04 ID:tCD2hHkoO
お前らしっかりしろ!!

277名無しさん@避難中:2012/06/19(火) 11:09:33 ID:0HtgL9Pw0
(^^)

278名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:55:56 ID:KBsK8x.M0
とうかー

279名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:57:25 ID:KBsK8x.M0

 唐突に発生した、視聴覚に訴えかけてくるような異常現象が終わったことに気付いた神柚鈴絵は
家が管理している丘の上の神社、柚鈴天神社の境内にある狛犬の台座に手をついて立ち上がった。
「……ん」
 目と耳にあるノイズの残滓を頭を振って払う。
 先程の減少は一体何だったのだろうか? 
めまいと似たような感覚であったと思わないでもないが、それとはまったく違う事態であることは確かだった。
 空を見る。
 そこにはいつも通り、日が落ちきったばかりの少し明るさを残した空が広がっている。
「星もまだほとんどでていませんね」
 異常現象に見舞われた時、空には幾つもの光が瞬いて、
シャッターを開きっぱなしにして夜空を写した写真のように夜空を光の線で切り取っていた。
「幻覚……?」
 そんなことは無いだろうと心の中で反論しつつ、
鈴絵はじゃあさっきの現象はなんだったのだろうと考える。
 遅くまで残っている人はまだいるだろう学園の方を見てみれば、先程の現象が皆にも訪れたのかどうかが分かるかもしれない。
 校舎の電気が付いたり、生徒たちが校庭で騒いでいたりすると分かりやすくていいと思いながら、
鈴絵は学園の様子を確かめるために、神社の入り口にあたる石段へと足を向けて
――今まさに鈴絵が行こうとしていた位置に一人の女性がいることに気付いた。

280名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:57:59 ID:KBsK8x.M0
****


 四角い形の建物を幾つも配置して形成されている施設を見下ろしていたキッコは、不意に金色の瞳を空に転じた。
 宵の口の空は穏やかな姿を晒しているのみで、特別な変化が起きる様子はかけらも見受けられない。
 キッコは諦めたように視線を落とし、腕を組んで考える。
 気が付いたら自分がこれまでいた場所とは違う場所に移動していた。
 今自分がいる場所はどうやら結界の内部や幻によって認識させられている空間というわけではないようだと、
高台にあるらしいその場から見渡せる景色を注意深く見てそんな事を思う。
「それこそ、どこかの街にでもそのまま飛ばされた、といった感じだろうかの」
 それも、おそらくは自分たちがいた、異形と呼ばれる生物が闊歩している世界とは全く別な世界にだ。
「不本意にこのようなところに飛ばされるのは気に入らんの、さて、元の場所に戻るにはどうしたらよいかの」
 武装や血の臭いがしない空気を改めて呼吸し、キッコはこれからどうしたものかと考えようとして、
「あの、先程の……雷かオーロラのようなもの、凄かった……ですよね?」
 背後から声をかけられた。
 狛犬に手をついて膝をついていた人間のものだろう。
 振り向くと、白と赤の巫女服を着た少女がキッコのもつ夜に光る金瞳に驚いたのか、一瞬目を瞠った。
 しかし彼女は気を取り直すようにキッコの方へと足を進めると、言葉を重ねてきた。
「下の学園に残ってる人たちも、今のを見て驚いていたりしますか?」
 下にある施設は学園らしい。かなり大きな教育施設であるようだ。
 どうやらこの少女は別の土地に飛ばされた、という自覚は無いようだ。この世界の者なのか、
あるいは周囲の土地ごとまとめて飛ばされてきた者なのだろうと予想していると、
少女は言葉に応じないキッコに不審を抱いたのか、鳥居の数歩前で足を止めた。
「そういえば、こんな時間にうちの神社に何か御用でもありましたか? 
私は神柚鈴絵といいます。見ての通り、この神社の巫女をしています。
お守りなど要りようならすぐにお持ちしますよ?」

281名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:58:31 ID:KBsK8x.M0

****

 ついつい声をかけてしまったが、相手は金髪に金瞳、かなり高確率で外国人ではないかという予測に鈴絵は至っていた。
 だとしたら日本語が通じていないかもしれない。そう思い、とりあえず言葉をかけてみる。
このまま言葉をかけ続けていれば、言葉が通じないならば通じないなりに何らかの反応がそのうち返ってくるだろうと思ったのだ。
 金髪の女は、鈴絵に向けて笑みを浮かべた。
「いや、そういう用事でこの場にいるわけではないのだ」
 日本語は通じていたようだ。そのことに鈴絵がホッとしていると、金髪の女の方が鈴絵へと近付いた。
 そのまますれ違う。
 その時女の顔が鈴絵に近付き、においをかぐ音が耳に聞こえた。
「うむ、血も魔素も感じんの。これ程近付いても無反応となれば、おそらくは問答無用の敵意もなかろう」
「え?」
 聞こえてきた言葉に疑問の声を上げる。
 女は喉の奥を鳴らすように笑いながら、本殿へ歩いて行く。その動きを目で追っていると、女は名乗りをあげた。
「我はな、キッコという。正体は――」
 そう言う女の腰のあたりに見慣れないものがあった。
 金色の毛に包まれた尻尾だ。
「え?」
 騙し絵のように唐突に現れたアクセサリーに鈴絵が驚きの声を上げると、キッコと名乗った女は鈴絵へと振り向いた。
 その頭部には髪と同じ、金毛の耳が生えていた。
 先端の毛だけ白いそれを見ていまいちコメントできずに硬直している鈴絵を見て、キッコは楽しそうに喉を鳴らした。
 喉がクッ、と鳴るのに合わせるように、彼女の全身から淡い光が散った。
 次の瞬間には女の姿は消え、彼女がいた位置には巨大な狐がいた。
 立っている状態で顔の位置が鈴絵より少し上にある程の大きさの狐だ。
自分が知っている狐のカテゴリーから外れている大きさの狐を見て、鈴絵の頭の中に空白が生まれた。

282名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:59:02 ID:KBsK8x.M0
 狐はその空白をつくように鈴絵に近付いた。獣の顔に妙に人間くさい感情をのぞかせて、狐は大きな口を開いた。
「我は、どうやら迷ってしまったようでな、できれば元いた場所に戻りたいのだの」
 キッコと名乗った女と同じ声だった。
 狐は続ける。
「ここがお前が元いた場所であるかどうかはまだ分からぬが、
少なくともこの周囲の施設については知識があるように見える。のう、我にいろいろと教えてはくれぬかの?」
 大きな顔が眼と鼻の先にまで近付き、金の瞳が鈴絵を正面から捉えた。
 その異形を目の前にしながら、鈴絵は以前聞いたことを思い出していた。
 それは神社を挙げて捜索をしても未だ見つからない、
彼女の先輩にあたる人物が中等部の頃に見たという、五本の角をもつ全身真っ赤な鬼のことだ。
 鬼のような存在が実在するのならば、化け狐だって世の中にはいるのだろう。
 そういうふうに自分の中で大狐の存在を納得した鈴絵は、少し戸惑いながら、しかし狐に対してしっかりとうなずいた。
「はいわかりました。とりあえず私から話を聞きたいんですよね」
「うむ、然り然り」
 頼みが通ったことか、それともほかの何かが気に入ったのか、
うれしそうな狐の声に鈴絵はあきれ気味な微笑を浮かべて、では、と言って顔前に一本指を立てた。
「元の人の姿に戻ってください。その状態ですと私は話がしづらいです」
 狐は首をかしげた。
「だめかの?」
「だめです」
「わざわざ演出とか考えたのにのう……」
 そんなことを言いながら、狐はキッコと名乗った人の姿に戻った。

283名無しさん@避難中:2012/08/16(木) 01:59:51 ID:KBsK8x.M0
にぎやかし
タイトルは「結縁」とかそんな感じで

キャラは

キッコ@みんつく異形世界
神柚鈴絵@仁科

を拝借
飛ばされた世界。建物の形はともかく、人までは全員が移って来てるわけじゃないと思ってる

284名無しさん@避難中:2012/08/17(金) 05:57:45 ID:dmFbBcLYO
投下乙!
鈴絵先輩は巫女やってるからな。
いきなり正体を明かすとかさすがキッコさま太っ腹!
このままでは柚鈴天神社が稲荷になってしまいそうだ……!
ぜひ続きも 。

285名無しさん@避難中:2012/08/18(土) 23:36:08 ID:QoAkXFiw0
また動き出してくれればいいな!

286名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 14:19:04 ID:myIi3PMQ0
キッコさんマジ妖狐。堅実な思考をお持ちだ。演出とかしちゃってるけどw

仁科世界もよく見るとたまにオカルトなとこあるよな。
それでも反応がちゃんと一般人なのが異常事態に慣れっこな他の世界のキャラと対比になってていいなと。

>世界
アイスファングさんの時も思ったが、もうそのへんはフレキシブル設定でw
別に食い違っててもいいしな。

287名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 19:50:04 ID:Rw11KjzMO
自分が使うと他で使われなくなりそうで悩むよな。
でも使うけど。

288名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 20:17:05 ID:AH0LEQeg0
全世界がバラバラにくっついているかもしれない系だったっけ?

そろそろ満をじしてこの騒動の犯人が現れてもいい気がするぜ

289名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 21:08:17 ID:Rw11KjzMO
>>56が基本だけど、あんまり気にしない方向で。

まだ話が動きだしてもないのに黒幕は早いだろw

290名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:14:44 ID:AH0LEQeg0
キッコさんそのまま神様に収まってしまわないかとドキドキする

>>289
だがしかしこのスレもできて長い
誰かが大きな目標を臭わせてもそれはそれでいいと思うのだ

291名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:33:04 ID:Rw11KjzMO
まあ確かにラスボスが一話から登場してはならないって法はないな
チェンジリングやみんつくにはそれっぽい大物もいないではないか?

292名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:39:02 ID:mkN8VUYIO
それでもハルトさんなら
ハルトシュラーさんならやってくれるはず!

293名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:41:11 ID:Rw11KjzMO
彼女はシェアのキャラなのか?w

294名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:43:10 ID:tbQH5bGg0
閣下スレとかキャラスレの進行の仕方はシェアワっぽいとは思うw

295名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:45:13 ID:mkN8VUYIO
ノリノリで悪役やっとくれそうで
あまり血みどろな展開にはならなさそうだからなんとなくww

296名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:46:14 ID:AjDsc/1M0
閣下は出していいもんなのかwww

297名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:48:23 ID:Rw11KjzMO
あのへんのキャラは強烈すぎるし身内ネタが豊富すぎて、出すとなると相当な弊害がありそうだがw

お祭り企画だからやる人がいるなら止めないけど。

298名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:55:07 ID:mkN8VUYIO
まあ俺はハルトシュラーは名前とロリババアってことくらいしかしらんがな!
あと魔王

299名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:07:03 ID:iXtBuWZ.0
企画の趣旨から外れなければ別にいいんじゃね

300名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:23:16 ID:AjDsc/1M0
逆転の発想。「なんかエライ事になってるシェアスレ連中を観察する創発キャラの連中」

301名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:36:25 ID:Rw11KjzMO
悪くない


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