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【シェアード】仁科学園校舎裏【スクールライフ】
428
:
サードアイ[1]
:2014/06/29(日) 21:43:58 ID:qPkswdB60
人は生まれながらに、ある程度「果たす役割」が決まっていると思っている。
大学に行くべき奴は大学に行き、そこで何かを見つけて、就職する。
オレはそうじゃないから、進学しないで就職する。
何も目的のない奴が「とりあえず」大学に行ったって、カネと時間の無駄だと思う。
いま、この時点で自分の役割を見いだせないなら、どこへ行っても見つからないし、何者にも成れない。
429
:
サードアイ[1]
:2014/06/29(日) 21:45:25 ID:qPkswdB60
オレに選べる選択肢は少ない。
目の問題があるからだ。
いつかは分からないけれど、今よりも視力が落ちることは確実で、そうなったら世の中の多くの仕事に就くことが出来なくなるだろう。
だから今のうちから、そうなっても出来る職を探しておく必要がある。
つまり、その職がオレの“役割“ってわけだ。
ってのも、言い訳かもしれない。
自分で選ぶってのが面倒、と言うのはある。逃れられない状況に自分を追い込むために、目のせいにしているのかも知れない。
……まあ、そんなことはどうでもいいけどな。
☆ ☆ ☆
430
:
サードアイ[1]
:2014/06/29(日) 21:46:57 ID:qPkswdB60
ドアがノックされた。控えめに、小さな音。iPodで音楽を聴いてたりしたら、絶対聴こえない。
続いて、おふくろの声。
「マサヤ」
「なに?」
ドアを開けずに、声だけで応じる。開けたところで一緒だからだ。
「母さん、ちょっと頭痛いから横になるけど……ミカミさんが肉じゃが作ってくれてるから、晩ご飯はそれ食べなさいね」
ミカミさんってのは、ウチのお手伝いさんだ。オレが小さい頃からこの家に勤めているから、ほとんど親戚みたいなもんだ。
「ああ」
オレは返事をして、おふくろの気配が遠のくのを待ってから、机の引き出しをそっと開け、“例のアレ”を取り出した。
☆ ☆ ☆
431
:
サードアイ[1]
:2014/06/29(日) 21:51:26 ID:qPkswdB60
走るバスの窓から道路を見下ろす。
夜8時を回った頃で、中途半端に田舎なこの街で、片側2車線の道路は走る車もまばらだ。
白のレクサスが、バスに並んだ。並走するかたちでしばらく進む。逆輸入車だろう、左ハンドルだ。
オレはいつもバスの後方左側に座るから、レクサスの右側、助手席がよく見える。
そう、よく見えるんだ。
助手席の女の、胸元の谷間が。
眺めているうち、女が視線を上げた。
――なんだ、キクタニか。
クラスの女子。おとなしめの優等生。
同じクラスの、数学がよくできるいけ好かない野郎と付き合ってたはずだ。
それが派手めなメイクと胸元の開いた服で、レクサスの助手席に収まっている。当然、運転手は別の男だ。
親や兄弟でないことはハッキリ分かる。それなら、あんな露出の多い服は着ない。
キクタニは、オレと目が合った瞬間、はっとした表情をして目を逸らした。
――ヨロシクやれよ。
オレはスポーツ新聞のエロ記事を読み耽るオヤジみたいな表情をしていただろう。
おもいっきり下品な笑顔を浮かべて、バスの中から手を振った。
キクタニは、もうオレの方を見なかった。
☆ ☆ ☆
432
:
サードアイ[1]
:2014/06/29(日) 21:53:43 ID:qPkswdB60
どうしてオレの目は、見なくてもいいものばっかり見ちまうんだろうな。
視力は良いほうじゃない、むしろ徐々に悪くなっている。
それでも、なぜか「そっちを見てみようか」と思うでもなしに目を向けた先に、見なくてもいいもの、見ちゃいけなかったものがある。
キモいものとかグロいものとか、クラスメイトの醜い一面とか。
もう、そういうのにも動じなくなった。何を見ようと何が起ころうと、驚かない。
所詮この世の中はクソッタレだ。こんな世の中、いつおさらばしたって構わない。
.
433
:
名無しさん@避難中
:2014/06/29(日) 21:54:24 ID:qPkswdB60
↑以上で
434
:
名無しさん@避難中
:2014/07/01(火) 21:49:54 ID:BItiR7s20
オラクル、ストップときて、アイとは。
あったあったこんな時期w
若さゆえの鬱屈・・・そういうものを描くのが抜群にうまいよね。
435
:
名無しさん@避難中
:2014/07/02(水) 22:51:44 ID:TSPlDdiU0
そろそろまとめwikiどうにかしようと思うんだけど
あれ?ワンオラクルってこれまで入ってなかったん?
割とマジで驚いたんだがw
いや俺も二回くらい更新した記憶があるはずなのにな。
避難所ばっかり見てたから・・・?それで新スレに移行してて・・・とか?
でも日付的に避難所より早いから、俺がまとめに手を出してなかった時期のか?
謎だけどなんか悪かった。
でさ、3スレ目
265 :荵にわんわん ◆TC02kfS2Q2 :2010/07/23(金) 18:42:56 ID:jbWOBdc0
の直後にワンオラクル一回目の投下があった。
「荵にわんわん」がまとめでは投下順「078」になっているから
267 : ◆BY8IRunOLE :2010/07/29(木) 20:30:05 ID:gJp5lFDs ←ワンオラクル一回目の投下
これが事実上「079」になるんだよね。
つーわけでアンケってわけじゃないけど一応独断じゃないよってポーズのために
・投下順でやり直すと現行からズレるんだけど、もうこの際だからきっちりやってズラしていい?
・シリーズごとにタグを付けてみてはとか、そういう案をチラ聞きしたけどどうだろう?
436
:
名無しさん@避難中
:2014/07/03(木) 06:38:15 ID:GSYke9g20
いいよん。でもまとめられてない物のログを持ってないし順番も把握し切れてないから俺ちょっと無理w
437
:
名無しさん@避難中
:2014/07/03(木) 18:17:38 ID:bLWlRPE60
そっちは俺がやるから大丈夫。
案があれば考えておいて!(?)
438
:
名無しさん@避難中
:2014/07/04(金) 23:45:17 ID:2oloz4p60
いかんな脳細胞死んでる・・・
このスレがなかったころ、最初期って避難所のどこで雑談してたんだっけ?
覚えてる人いない?
439
:
名無しさん@避難中
:2014/07/04(金) 23:58:59 ID:2oloz4p60
ごめん、避難所じゃなくて独立してたんだっけ?
もう全然覚えてないけど、そんなレスを発見。
これで「仁科学園名場面セレクション」の1は幻になってしまったってことか
誰か保存して・・・ないかな
440
:
名無しさん@避難中
:2014/07/05(土) 12:42:34 ID:/cR3w2d.0
まとめwikiのSSページだけ作るだけ作って投下順に追加。
投下順の順序を1レス目完全時系列に修正。
小ネタ集追加。
リンクとかは全然貼ってないし、順序変えた分今混線してる。
作者別・人物紹介もとりあえずは放置。
作者別はそんな手間じゃないからまた適当にやる。
あと絵は把握しきれん。申し訳ないけどこれも放置。
作者さんが「これまとめてよ」って用意してくれたら喜んでやるけど、
わりと途方もない作業っぽいので展望が開けるまでは動きたくないw
サードアイは今空白。完成したら呼んでおくれ。
ダブストもこれは一区切りしているのかちょっと判断つかんけど、投下があれば続きに追加するから安心してほしい。
ワンオラクルはどうも空白のページだけは既に作られていたらしくて、それでまとめられていると思ったみたい。終わりのタイミングがはっきりしなかったしな。
まあ収録できてよかったよかった。
ここまでモレがあったら指摘よろしく。
レスタイトル行を削除する過程でもしかしたら本文間違えて消しちゃってるかもしれんので
自分の作品だけでも確認しておいてくれな。
誤字脱字、改行、場面転換符の統一とかは例によってセルフなので作者様でどうぞ。
頼んでくれたら俺やるけど、たぶん自分でやった方が早いw
441
:
名無しさん@避難中
:2014/07/05(土) 13:10:30 ID:/cR3w2d.0
ここからが問題なんだけど
初見にも見やすくするとか
新規が入りやすくなるとかそういう方向でなんかないかな?
個人的には、作者別まとめページとか仕様がちょっと手間に感じるのでどうにかしたいところ。
442
:
名無しさん@避難中
:2014/07/05(土) 16:20:18 ID:3vmezeAA0
>>440
乙でした!
本編(作者順)ページでいちいち+ボタンクリックしないと作品一覧が出ないのが辛いので
そうじゃなくなるだけでもだいぶありがたいかなー
最上部に作者名リンクをずらっと並べてページ内リンクで各作者の作品一覧に飛べるようになると
個人的にとても見やすくなると思う
443
:
名無しさん@避難中
:2014/07/05(土) 20:31:23 ID:/cR3w2d.0
・作者別作品一覧の作成
これは俺も思ってた。
作品同士のリンクはどうしよう。
投下順リンクって意味あんのかな。
いやまあシェアだから全然違う人が一人のキャラを積み上げていくわけで
同じ作者のだけリンクさせても・・・というのは分かるが、ぶっちゃけ使うか?あれ
444
:
名無しさん@避難中
:2014/07/05(土) 20:54:23 ID:koqSOnG60
作者別でいいと思うよ。あんまりやると複雑すぎてあばばばばっばになる気がする。相関図くらいでいいかとw
445
:
名無しさん@避難中
:2014/07/06(日) 00:30:56 ID:ltq/e6sI0
俺ガラケーだから分からんのだが、スマホで使う分に不便はない?
相関図の強化もありだな。
大昔にもしたっけこんな話w
人物紹介の改変とか、紹介SSとか。
作者別リンク追加は暫定的に決定で。
投下順リンクは残すべきか、いっそ消すべきか。
関係の深い項目やSSにもリンク貼るってのもありかもしれない。
446
:
名無しさん@避難中
:2014/07/06(日) 14:52:13 ID:c2.8uGB.0
・作者別まとめ(実験版)追加
・作者別ページ追加
・トップページに新着5件のSSリンクを追加
作者別まとめのフォーマットはざっと案を出してみたので叩き台にしてくれ。
細かい字の大きさとかはどうとでもなるから後でいい。
リンク先に作者別ページがあることも念頭に置きつつ、どういう情報が欲しいかって話。
447
:
名無しさん@避難中
:2014/07/06(日) 18:12:33 ID:nDVVRX/E0
案2か9が好みだな
448
:
名無しさん@避難中
:2014/07/06(日) 22:53:14 ID:4fGHgheA0
>>435
wikiまとめありがとうございます。手間がかかるのに、申し訳ありません
当時は、あまりにもスレの雰囲気に合わなすぎる駄文なので収録しないでいただければと思っていましたが、
今となっては読んで下さっている方もいらっしゃるようなので、ありがたい限りです
感謝しております
↓
449
:
サードアイ[2]
:2014/07/06(日) 22:56:17 ID:4fGHgheA0
.
百円ショップで伊達メガネを見つけた。
コスプレに使うのか、時代遅れの円いレンズの銀縁メガネだ。
――とりあえず、これでもかけとくか。
視力は悪いけれど、眼鏡を作る気は無い。
ただのシャレだ。
オレはそれを買った。明日学校でどんな反応が来るか、楽しみだった。
「そう言えばさ」
話しかけられ、面倒なので顔は向けず返事だけする。
「ん」
「お前、兄弟とか居たっけ?」
「いねーよ。オレ一人っ子」
気まずそうに黙ったのが分かる。
別にいいのに。サイトウは気を回し過ぎるんだ。こういう時はさっさと水を向けて流すに限る。
「それがどうかした?」
「……」
「んだよ、聞き逃げかよ」
「……あのさ。たとえば、自分の考えが、相手を越しちゃってるって気づいちゃったら……どうするかな、って思って」
「……?」
意味が分かんねえ。こいつは時々、こういうふうだ。
「越しちゃってる、てのは、なんつうのかな、考えてる深さが違うっていうか……」
「……」
「悪い、ヘンな話しちゃったな」
「あるよ」
一旦は目を伏せたサイトウが、はっと顔を上げてオレを見る。
「お前が言ってるのとは違うかも知んねーけどさ。オヤジとかと言い合ってて、ふと
『ああ、コイツにはこれ以上言っても無駄だわ』 って思う瞬間がある」
「……」
「なんか、違ったか?」
「……」
「おい」
「……あっ、ゴメン。なんでもないんだ」
……変な奴。今更だけど。
450
:
サードアイ[2]
:2014/07/06(日) 22:59:33 ID:4fGHgheA0
.
サイトウは、変なことを脈絡なく聞いてくる奴だ。
兄弟か……。あいつのトコは、たしか妹がひとり。あいつは「上の立場」だ。
オレはいわゆる「上の立場」になったことはない。一生なることはない。
この、「長男だから」だの「一人っ子だから」だのの、レッテル貼りが大嫌いだ。
それで人を把握しようとする連中にはうんざりする。
だからオレは、敢えて「一人っ子」と自分から言うことにしてる。
一人っ子だからどうだって言うんだ。わがまま? 一人行動が好き? 競争心がない? リーダーシップに欠ける?
……んなの、兄弟が居ようが居まいが、身につけてる奴は身につけてるし、ダメな奴はダメなんだ。
血液型占いと同じで、根拠は無いのにみんな取り敢えず信じて話をしている。
サイトウは、どういうつもりでそんな質問をしたんだ?
まあ、あいつは何考えてるかよく分かんねえ奴だから、とくに深い意味もないかも知れないけどな。
451
:
サードアイ[2]
:2014/07/06(日) 23:02:42 ID:4fGHgheA0
.
玄関を開けて、外にでる。
まだ2月だ、夜は冷え込む。机の引き出しから取り出した“例のアレ”――つまりタバコだ――に火を点けて、ゆっくり吸い込む。
たぶん、部屋で吸ってもおふくろは何も言わないだろう。オヤジはいい顔しないだろうが、それでもオレに強く言ってくることはない。
でもオレは部屋では吸わないことにしている。なぜかって? ニオイがつくのが嫌だから。
目が悪い代わりに、鼻はよく利く。クラスの女の、シャンプーの銘柄も生理のタイミングも、バッチリ分かる。
でも、だからどうだって言うんだ? 指摘したことは一度もない。無意味なことだから。
バスで目が合った翌日、学校でキクタニに会ったらあいつ、しれっとしてやがった。
にこやかに、「タカハシくん、おはよう」だと。
――おはようキクタニ、昨夜は何時に帰った? 制服持って行って、そのままレクサスでご登校?
もちろんそんなこと言うわけない、言ったところで無意味だ。
.
452
:
名無しさん@避難中
:2014/07/06(日) 23:08:04 ID:4fGHgheA0
↑ここまでで
453
:
名無しさん@避難中
:2014/07/07(月) 21:26:42 ID:IXKrkuZg0
こいつらタバコ大好きだなw
454
:
名無しさん@避難中
:2014/07/07(月) 22:13:04 ID:rlwCYMxw0
>>449
毎度、毎度…えぐる文章。そんな時代もあったよねと〜
時代っていうか、心理描写がすげー…その才能、ください!
>>426
からすまりんはレアキャラじゃないよ!!!
投下するなら、今しかねー!
七夕だねっ
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/835/karassuma01.jpg
455
:
名無しさん@避難中
:2014/07/08(火) 09:20:10 ID:6jvM8N4o0
どんだけ目立ちたいんだwwwww
456
:
名無しさん@避難中
:2014/07/10(木) 22:20:48 ID:eRMO9ixo0
懐のマッシブさw
457
:
サードアイ[3]
:2014/07/13(日) 21:43:38 ID:Z2YcY/eU0
.
黒板の文字はろくに見えねえし、真面目に板書を写す気などハナっから無い。話を(いちおう)聞きながら
教科書を(いちおう)眺め、自分で勝手にノートを作る。作るというか、メモるというか。
問題を板書されたら、後ろか隣のやつに見せてもらう。それでどうにかやってこれている。
この学校は、基本的にみんな真面目だ。不真面目なのもいるが、迷惑を被るまではいかない。
けれど、水面下での嫌がらせみてえなのは、どこにでも存在するようだ。まあつまり、バスケ部の連中だがな。
っても、一部だ。気の良いやつもいる。
次期部長のオガサワラは1年の時一緒のクラスだったこともあって、今でもオレによく話しかけてくる。
頭の回転が速いやつで、成績も良い。オレがバスケ部に戻る気が無いと知っていて、その話題は出さない。
部の一部のバカな連中に対する愚痴を言ってくる。オレはただ聞いているだけで、たまに皮肉を返すとあいつも喜んで乗ってくる。
オレを一方的に敵視しているのは、結局ベンチに甘んじるしか無い連中だ。誰がどの程度の実力なのかは、
1年の時にだいたい分かってる。オガサワラから聞いているから、後輩にポジションを奪われた話だって知っている。
それをオレにぶつけるな。テメーの失地はテメーで取り返せ、さもなくば別の場所を探せ。
小せえやつらだ。
.
458
:
サードアイ[3]
:2014/07/13(日) 22:05:18 ID:Z2YcY/eU0
中学の時のことがあったので、高校では部活には入らないことに決めていた。
だが1年の時、オレは見慣れないやつに声をかけられた。
「タカハシ マサヤ、だったよな。バスケ部、入るか?」
「はぁ?」
オレは見覚えがない。後から聞いた話だが、オガサワラはオレの中学と対戦していて、オレのことを覚えていたようだ。
「オレは入らねえよ」
「他に入る部を決めてるのか?」
「ああ。帰宅部に決めてる」
「そっか、もったいないな。じゃあ、こうしよう。頼む、お願いだからバスケ部に入ってくれ。幽霊部員でいいからさ」
オガサワラが、なんでそんなにオレを誘ったのか、未だに分からない。
オレは結局バスケ部に入り、1年足らずで辞めることになったし、そのことについてオガサワラはオレを責めない。
たまに、「無理言って済まなかったな」程度のことは言われるが、オレも気にしていないので、はっきり言ってどうでもいい。
☆ ☆ ☆
部活を辞めるだの何だのってのは、高校生にとっちゃ最大の悩みどころなのかもな。
もしかすると自分の高校生活すべてを左右するかも知れねえし、色恋と違って他人が面白がれる要素が無いもんな。
しかも、進路選択ほど深刻じゃない。世間的には“たかが部活”、けど当事者にとっちゃ“されど部活”だ。
バスケ部に入部してしばらくしたら、1年生がなんとなく2つのグループに分かれた。オレは特にグループの中心人物ってわけじゃなかったが、
1年の時から試合に出ていたのはオガサワラとオレくらいだった。
それが連中の気に入らないところだったのかもしれない。オレと親しくしていたやつらは2年になってからほとんどが辞め、もう一つのグループが
今も部に残っている。つまり、オレに敵対している連中というわけだ。
オレはさして悩まなかったが、辞めていくやつはみんな真剣に悩んでいた。部活を辞めても、その部活にいた連中は同じ学内にいるし、
どこでも会うわけだからな。
相談を受けるたび、オレは繰り返す。
――辞めるこたねえだろ。無視してりゃいいんだよ。
その答えも決まっている。
――お前はそうだろうけどな。あんなやつらと3年間一緒に部活したくねえし。
この世の中には、どーでもいいシガラミが多すぎやしねえか。それに縛られて、しなくてもいい苦労をしているやつも多すぎる。
――好きに生きたらいいじゃねえか。
計画性がないだの不真面目だの、そんなのは他人が勝手につけるレッテルでしか無い。
手前できっちり責任背負って生きていけば、それでいいんじゃねえの?
☆ ☆ ☆
459
:
サードアイ[3]
:2014/07/13(日) 22:09:43 ID:Z2YcY/eU0
.
帰り際、何の気なしに階段の向こうを見やる。
サイトウが、女子と歩いているのが見えた。あれはナギサワだな。
――へえ。やるじゃん。
ネタにしてやろうと思ったが、すぐ別のことが思い浮かんだ。
ナギサワは、どっちかといえば控えめの目立たない女子だ。表面上は。
多分だが、ヤクザと関わりがある家の娘っぽい。それも、かなり深い関係の。脅されているとか、そういう一方的な感じでもない。
オレが探偵みたいに探ったわけじゃない。たまたま見かけた、もとい“聞こえた”だけだ。
ナギサワが、若いチンピラをなじっているところ。それも、2回。チンピラの方は俯いて、恐縮しきっているふうだった。
フツーの女子高生がチンピラをなじれるわけがない。力関係は明らかにナギサワのほうが上だった。
サイトウのやつ、それを知ってるのか? まあ、知らないだろうな。
ナギサワは女子の間でも、学校の誰にも秘密にしていることだろう。
オレもそんなことを忠告する気もない。だって、そのほうが面白そうだもんな。
.
460
:
名無しさん@避難中
:2014/07/13(日) 22:16:52 ID:Z2YcY/eU0
↑ここまでで
461
:
名無しさん@避難中
:2014/07/13(日) 23:51:19 ID:cOWVKvc20
くずっぽい話になって来たなw
いいぞいいぞ!
462
:
サードアイ[4]
:2014/07/20(日) 21:25:51 ID:rm/MS4KU0
隠してある原付のところまで行くと、数人がたむろしていた。
見るからに頭の悪そうな連中だ。オレの原付に跨がり、ぎゃははは笑いながらダベっている。
オレはスマホのムービーをオンにして、ブレザーの胸の内ポケットに入れた。
連中はオレに気づき、これ見よがしに原付に跨ったままだ。
「それ、オレのなんだけど」
言ってみるが、連中、当然無視。まあ、予想範囲内。
制服に開けた穴から覗くカメラが全員をまんべんなく映すように、体の向きを巡らす。
「人のモノの上に乗っかって、サル山のボスってか。サルはサルらしく、マスかいて満足か?」
跨っていたやつがオレを睨み、鼻で嘲笑う。
「あのさぁ、タカハシくんよお」
しゃがんでいたやつも立ち上がり、オレを囲む。
――4人か。学校に行ってない“センパイ”らしきのもいるな。
「群れなきゃ何もできねえってのも、まさにサルだな。あっ、サルに失礼か」
こっちも嘲笑ってみせる。だって、こいつらバカ過ぎて嘲笑うしかない。
胸ぐらを掴まれ、頭突きが来る。
それも想定内。デコの一番硬い部分、サッカーでヘディングするところで受ける。
「…・・・痛ってえ。いきなり頭突きかよ」
大げさに言い、胸元をそいつの面に向ける。
――正当防衛、成立。
目の前の茶髪の膝を前蹴りし、すかさずみぞおちに拳を入れる。
「やんのか、コイツ」
取り巻きがオレを引っ掴んで――
.
463
:
サードアイ[4]
:2014/07/20(日) 21:31:56 ID:rm/MS4KU0
.
そこまで想像して、やめた。
――アホらし。厨房じゃあるまいし。
様子を見ていた近所の住人が、人を呼んだようだった。
連中は周りを気にしながら、オレに悪態をついて去っていった。
もちろん、オレの原付は倒されて足蹴にされ、あげくツバを吐きかけられた。
――まあ、いい。しょせん道具だし、戻ってきて今までどおり使えれば何の問題もない。
☆ ☆ ☆
――ちっ。面倒なことになったぜ。
よりによって、おふくろを病院に送っていく日だ。帰ったらタクシーを呼んで、同乗して病院まで行って……
うんざりする。どう誤魔化そうか。
中学の時だ。
インネンつけてきた奴を殴って、そいつの取り巻きに囲まれて、ボコボコにされた。
同じバスケ部のやつだった。そいつは、そのあと部を辞めて、ろくでもない連中とつるむようになっていた。
よく、“スポーツで健全な精神を!” 的な標語を見かけるが、よくもそんな嘘っぱちを堂々と言えるもんだと思う。
スポーツやってようが、下衆なやつはいるもんだ。逆に、文化系でもちゃんとしたのはいる。
そいつらは、“下衆な連中”だったわけだ。オレがSGになって、それまでSGだったそいつが控えに回った。
ただ、それだけのことだ。
それだけのことで、帰り道に待ち伏せされ、囲まれた。連中いわく、オレは「調子に乗っている」らしい。
だから何だ? オレもイラッときたので、殴り合いになった。と言っても、オレが殴れたのは初めの1発だけで、
あとはヤラれる一方だったんだけどな。
464
:
サードアイ[4]
:2014/07/20(日) 21:38:10 ID:rm/MS4KU0
汚れたワイシャツと鼻血が乾いた鼻の下を惨めに思いながら、「ただいま」と言って玄関を通過した。
おかえりなさい、いつものおふくろの声。その後すぐに、
「……マサヤ。どうしたの」
声が硬くこわばっていた。
「は? 何でも無えよ」
「嘘言いなさい!」
きつい口調で問い詰められた。
「血が出てるじゃない……!」
居間から出てきたおふくろの顔は、血の気が引いて真っ青だった。
あの時は、なんで分かったのか不思議だった。多分、血の匂いでバレたのだと思った。
すぐにミカミさんが飛んできて、オレの惨状を報告し、顔にマキロンを塗りたくられ、カットバンやらガーゼやらを
貼りまくられることになった。
その大げさなくらいの手当てを鬱陶しく思いながら、外での揉め事は極力避けようと心に決めたのだ。
当時はそんなふうに思っていたんだが、今考え直すと、おふくろが勘づいたのはきっと血の匂いだけじゃなかったんだろう。
オレの普段と違う声のトーンとか、そういうものをかなり敏感に感じ取る。
おふくろに嘘をつくのは至難の業だ。
だから、悩んだ。
さっきのこと、どうやっておふくろに感づかれないようにしたらいいんだ?
☆ ☆ ☆
.
465
:
サードアイ[4]
:2014/07/20(日) 21:42:53 ID:rm/MS4KU0
病院の待合室というのは、退屈だ。
診察が終わるまでの間、オレはボーっと過ごすことになる。テレビはくだらないワイドショーを流しているし、
週刊誌を読もうって気にもならない。
もっとも、眼がおかしくなるから読みたくない。同じ理由で携帯ゲーム機のたぐいは持っていない。
一緒に診察を受けたらどうかと、最近特によく言われる。一度も応じたことはない。受けたってどうにもならない。
おふくろは定期的に診察を受けている。ほとんど失明している眼を診察することにどういう意味があるのか、オレには分からない。
遺伝的なものだと聞いている。オレもいずれそうなるだろう。だったら、診察したって無意味だ。
診察ブースからおふくろが出てきた。若い女性医師が寄り添っている。
「どうも、お世話になりました」
「お気をつけて」
女性医師はやわらかく笑いながら答えていた。
近づいていくオレに、先に反応するのはおふくろのほうだ。
「マサヤ、おまたせ」
女医もオレを見る。
「こんにちは!」
なかなかの美人だ。すらっとして背が高く、眼鏡がよく似合っている。
目の下の隈とストッキングの伝線がなけりゃ、最高だったのにな。
「こんちは」
軽く頭を下げると、おふくろの手を引いてさっさと退却した。
466
:
サードアイ[4]
:2014/07/20(日) 21:51:52 ID:rm/MS4KU0
帰りのタクシー車内で、おふくろがポツリと言った。
「ナツメ先生は、とっても良い先生なの。気づかいが濃やかだし、専門的な話も分かりやすいし」
「ふーん」
適当に流す。
言いたいことは分かってる。
「だからね、」
「オレ、受けねえよ。診察」
「何の意味があるんだよ。目が良くなるってんなら受けるけどさ。どうもならねえんだろ」
「どうもならないことはないわよ。悪くなるのを遅らせるのだって……」
「つまり、治らないってことだろ。だったら無駄じゃん」
「……あなたには、選べる将来を狭めて欲しくない。世の中には治らない病気の方が多いんだし、その中でも出来ることを見つけて、
充実した日々を生きている人だっているのよ」
「じゃあ、オレはそうじゃない方の人間だってことだよ。もうその話はしないでくれ」
――だから嫌なんだよ、この役目。
決まってこの話になる。病院じゃ本人確認とか言って、家族でないと付き添いとして認められない。
オヤジがやりゃあいいのに、おふくろがそれを拒む。お父さんは仕事があるんだから、だとよ。
仕事ってのは、そんなに大事なのか?
しょせん、食っていくための手段に過ぎねえじゃねえか。
だったらオレも言ってやるよ、「部活があるから」。
辞めたけどな。
.
467
:
名無しさん@避難中
:2014/07/20(日) 21:53:19 ID:rm/MS4KU0
↑以上で
468
:
名無しさん@避難中
:2014/07/21(月) 18:36:46 ID:RBowWzgg0
読み込む度に胸がえぐられるな 。
そんな時代もあったねと。
469
:
名無しさん@避難中
:2014/07/23(水) 21:41:39 ID:R6NhT1po0
世間では夏休み?
うそだろー?
まだ梅雨も明けてな・・・あれ?
470
:
名無しさん@避難中
:2014/07/24(木) 12:35:00 ID:ObiBpY/o0
和穂「そーらを自由に飛びたいな」
471
:
名無しさん@避難中
:2014/07/24(木) 12:52:44 ID:REJSvJYo0
懐「はい、ジャイアントスイング!!」
先崎「やめろ」
472
:
サードアイ[5]
:2014/07/26(土) 21:24:46 ID:g7CQSGPo0
図書館で調べ物がある、というサイトウと別れ、真っ直ぐ帰る気にもならなかったので、オレは放課後の校舎を
適当にぶらついてから帰ることにした。
生徒数の多いマンモス校だ。2年近く居ることになるが、いまだに行ったことのない場所が多い。
前を歩く女子生徒。ナギサワだ。
音楽準備室を開け、中に入っていく。
――? あいつ、帰宅部じゃなかったっけ。
長い廊下をのったり歩いていると、程なくコントラバスの音が聴こえ始めた。
この学校にはオーケストラ部もあったはずだが、それには入ってなかったと思う。
――勝手な自主練か?
ヤクザとの絡みといい、いろいろと謎な行動の多いやつだと思う。
音楽準備室を通り過ぎ、階段を降りる。
階段を登ってくる足音が聞こえた。
聞き覚えのある音だ。オレは足を止め、そっと引き返して廊下の曲がり角の陰に引っ込んだ。
しばらくして現れたのはサイトウだ。
図書館はこの棟には無い。あるのは音楽室と音楽準備室、その上の階に進路指導室と資料室だ。
サイトウはゆっくりと階段を登っていく。
473
:
サードアイ[5]
:2014/07/26(土) 21:29:27 ID:g7CQSGPo0
サイトウの“調べ物”は、図書館で調べるたぐいのもんじゃなかったってことだろう。
それが何かは分からないが、興味が無いからどうでもいい。
進路指導室、だと。バイト案内所にしたほうがよっぽどいい。
だいたい“進路指導”なんて、懇切丁寧にする必要性が分からねえ。レールから外れるやつは何やったって外れるし、
乗っかるやつはセンセの助けなしでも乗っかる。
――くっだらねえ。
この手のことを考えると胸糞悪くなるだけだから、さっさと学校を出た。
☆ ☆ ☆
冬の陽は早く落ちる。外ももう真っ暗だ。
きっちりマフラーを巻き込み、端を鼻まで引き上げて口を覆う。ハーフキャップのメットを頭に載せて、手袋を嵌める。
街路樹を嬲る風の音を聞くだけで寒さが増す。
――頼むぞ、かかれよ!
キックを踏む時、エンジンがちゃんとかかってくれるかちょっと不安になる。かかったとしても、その後ヘタれて
エンストする時があるから気が抜けない。
1速でゆっくり走らせ、大丈夫そうだと思ったら普通に車道に乗る。国道をのったり走りながら、ぼんやりと考えた。
474
:
サードアイ[5]
:2014/07/26(土) 21:32:46 ID:g7CQSGPo0
もうじき期末テスト、そして春休みだ。明ければ3年に上がる。世間一般で言う“受験生”に、おそらく大部分のやつがなるんだろう。
サイトウは悩んだ挙句、理系を選択したらしい。
その選択が正しかったかどうかなんて、誰にも分からない。サイトウ本人にも分からないだろう、死ぬときに答えが出るんじゃないか。
春休みに入る前に、卒業式がある。オレは2年だから関係ないはずだが、いちおう出席しなきゃならない。
無意味なセレモニー、あれで泣くやつの気が知れない。単に生活の環境が変わる、ただそれだけのことだ。
センパイに世話になった覚えもない。“卒業生に向けて” なんて、何の意味があるってんだ。
そういうのは個人的に寄せ書き(これも大嫌いだが)でもしてりゃいい。
卒業したら、ここの連中ともおさらばだ。嫌いなわけじゃないが、卒業してまで連絡を取り合うことはないと思う。
大学に受かったやつと落ちたやつ、専門に進んだやつとではお互い気まずいし、話だって合わないだろうしな。
そういうのを取り繕うのもまっぴらゴメンだ。オレは専門にいくか就職するかするから、大部分の連中と切れることになる。
新しい環境に行ったら、そこでやってくしか無い。いつまでも前の環境を懐かしんでも何にもならない。
浮かない程度に馴染んで、疲れない程度に付き合う。
それで十分だ。
.
475
:
名無しさん@避難中
:2014/07/26(土) 21:34:25 ID:g7CQSGPo0
↑以上で
季節およびスレの流れをガン無視ですみません。
476
:
名無しさん@避難中
:2014/07/31(木) 12:13:23 ID:wI6Pr6Cc0
タカハシはなかなか手強いな。
他のキャラと絡ませたときの化学反応が予想できないw
477
:
ダブルストップ[7]
:2014/08/03(日) 20:50:28 ID:XOoCJ1To0
人気のない音楽室でコントラバスを弾いていると、ふと思う。
――オケ部に入っていたらどうだったかな。
仲間がいなくて寂しい、というのは確かにある。
でも一方で、面倒事がなくて気楽だな、とも思う。
――気の合う人たちだけで部活ができればいいのに。
部活に関する悩みを聞かない日は無い。
高校生相手に部活に限定した占いをやったら、恋愛と同じくらい相談事が来ると思う。
中学生の頃は部活に入っているのが当たり前だったので、部活に所属していない今でも、放課後になると
何となく後ろめたい気持ちになる。
コントラバスの“自主練”は、そんな自分に対する言い訳かもしれない。
後輩に、「辞めたいんです」と相談されたことがある。
辞めるつもりの友人の、引き留め役になったこともある。
中学生にとって、部活を辞めるだの辞めないだのはけっこう大きな出来事だった。
この学校は、もっと自由だ。
部活に所属しなくても、何も言われない。「原則、全員何らかの部活動に所属すること」と決められていた中学校とは違う。
みんな思い思いに、自分の時間を使っている。
あまりに自由すぎて、何をするか迷ってしまう。
何かバイトをしようかな、と思うけれど、なかなか一歩が踏み出せない。
結局、コントラバスの練習か、図書室で本を読むか、まっすぐ帰るか。
この3パターンしかない。
世間では「女子高生」というとなにかと持ち上げられるような感じがあるけれど、わたしのように冴えない日々を
送っている女子高生だって実際に居るのだ。
みんながみんな奔放な生き方をしてるわけじゃない。
♪ ♪ ♪
.
478
:
ダブルストップ[7]
:2014/08/03(日) 20:53:55 ID:XOoCJ1To0
9月はまだまだ夏の真っ只中だ。緑道の木漏れ日の下を歩いていても、この暑さはどうにもしがたい。
「あーあ。なんかイイ事、ないかなあ」
並んで歩くニシトちゃんがぼやいた。
「先崎くんは?」
何の気なしに振ってみた話題だったけれど、ニシトちゃんがこっちを見て、淋しそうに笑った。
「ナギちゃん、鋭いなぁ。やっぱりダメだね、あの二人の間に入れる気がしないもの」
――あっ。言わなきゃ良かったかも。
先崎くんは後輩の女の子と仲が良い。傍から見てるとそれはとても親密で、誰も間に入れないというのは分かる。
「好きになっちゃダメな人ばっかり好きになっちゃうんだよねー。ナギちゃんは?」
「わたし? わたしは……そもそもあんまり、好きにならないから。それも寂しいけど」
「でも、辛い思いすることもないからね……こっちから追うより、向こうから来てくれたほうがラクかなぁ」
「そういうものかな……」
1年生のとき以来、わたしは告白されていないし、“いい雰囲気”になったことすら無い。
彼氏がいたら楽しいだろうな、と思うことはあっても、誰がいいとか具体的に考えられない。
「ねえねえ、ナギちゃんはどういうタイプが好みなの?」
「えっと……」
――タイプ? ちゃんと考えたことあったっけ。
ていうか、もし今、クラスの誰かに告白されたら……どうしよう? よく分からないまま、また断っちゃうのかな。
「サイトウくんとか、どう?」
「へっ?」
「またまたぁ。一緒に歩いてるとこ、見たんだよ〜」
ニシトちゃんは楽しそうに言う。
サイトウくんを、そういうふうに意識したことはなかったな。いい人だと思うけれど。
「タカハシはダメだからね、ナギちゃん! でもサイトウくんとタカハシくんってよくつるんでるよね」
そうだったっけ。
「ニシトちゃん、よく見てるね。全然気づかなかった」
「ナギちゃんが関心無さ過ぎなんだと思うんだけど……」
♪ ♪ ♪
.
479
:
ダブルストップ[7]
:2014/08/03(日) 20:57:12 ID:XOoCJ1To0
身の回りにいる男子をみて、「この人と付き合ったらどうなるだろう?」と考えてみることにした。
タツジさん。
「お嬢さん、おはよござっす! 日傘、だいじょぶッスか。いちおう、キャバのスケからぶんど……っ、借りてきたヤツが
あるんスけど。なんなら自分、差します。あ、日焼け止めも」
「放っといて下さい」
――ダメだ。まったく想像できない。
アキトさん。
「あらぁ、お嬢さま。今日も肌がキレイねぇ。夏の日差しはお肌の大敵よぉ。UVカットの防弾ガラスで、
バッチリ防御のア・タ・シのクルマなら安心よぉ。いろんな意味で」
「アキトさんのクルマには乗りません」
「ツレナイわねぇ」
――ダメダメ! アキトさんの車に乗ってたら、怖くて寿命が縮まる。
クラスの男子。
かっこいいヒトは、なんだか現実味がない。ジャニーズ系アイドルみたい。普通の男子でも、
なぜか “付き合う”イメージが湧かない。
――わたし、理想が高いのかな?
違うと思う。理想なんて求めてない。
もし仮にクラスの誰かと付き合ったとして、わたしはその子に気持ちが行かなくて、ただ一緒に行動するだけに
なるような気がする。それでも、いいのかな?
好きでもない人とキスなんてしたくない。手をつなぎたいとも思わない。
デートしてるうちに、そういう気分になっちゃうのかな。
流されてるみたいで、なんだか嫌だな。そういうの。
もう、わけわかんないよ。
.
480
:
名無しさん@避難中
:2014/08/03(日) 20:59:17 ID:XOoCJ1To0
↑以上
前のお話の投下漏れ分でした
ややこしくなってしまってすみません
481
:
名無しさん@避難中
:2014/08/05(火) 18:10:27 ID:T16VoGoI0
ナギちゃん、かわいいぜ。
482
:
わんこ
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/07(木) 21:39:10 ID:uHWZ51hI0
ナギちゃんをどうにかしてあげたい。
投下します。
山尾くん、お借りします。
483
:
『ろうそくもらい』
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/07(木) 21:39:52 ID:uHWZ51hI0
お菓子作りが好きだ。
筋道通して順序よく組み立てれば、必ず良い結果を残してくれるからだ。
まるで、聞き分けのよい理数系の大学生みたいだ。やつらは理屈を重んじる。だからこそ、対話していて心地よい。
分量、順序、時間。きちんとさえすればよいだけの話。テーブルのうえのクッキーを人つまみして、自分の腕前を確かめる。
部活動は一休み、誰もいない部室にて、しとしとと残る梅雨の忘れ形見を背中にして、放課後のひとときを貪る。
今日は七月七日。全国的に七夕。
お菓子をあげることも好きだ。
自分の成果が目に見えることは、一種の快感だ。
お菓子についてならば、誰にも負けない自身は山尾修にはあった。
山尾修はアーチェリー部だ。七月真夏の真っ盛りだけど、やはり腕前が気になるから。だが、雨ゆえに実射練習が出来ない。
梅雨も明けたばかりだし、雨天だから。仕方ないから、弓具の手入れを丹念に行っていたのだ。
「……今度、何作ろうかな」
繊細さと大胆さ、相反する能力を必要とするアーチェリーと、お菓子作りはこじつけのように似ている。「おいしい」の一言と、
矢が的中した瞬間に、清涼感溢れる快感が突き抜けるからかもしれない。
修は手についたクッキーかすをウェットティッシュでぬぐい去った。面倒な弓具の手入れも、波に乗れば苦でもないし。
矢をつがえる際、指に引っ掛けるタグにワセリンを塗りこんでゆく。手になじませて、よき相棒へと仕立て上げるためだ。
直接指に付ける道具だから、丁寧に丁寧に、恋人へ囁くように皮を柔らかくする。タグは優しく返事をしていた。
『ローソク出ーせー出ーせーよー 出ーさーないとー かっちゃくぞー おーまーけーにー噛み付くぞー』
何の呪いか、聞き慣れない童歌が部室の入り口から流れてきた。
一人、弓具の手入れをしていた山尾修は、不審にかられながらも引き続き手入れを続ける。
こんこんと扉を叩く乾いた音が修の耳に響くから、重い腰をやれやれとあげる。
できることなら面倒なことに巻き込まれたくはないもの、奇妙な次元に飲み込まれたままなのも、なんだか落ち着かないから、
ドアノブをがちゃりと回して招かざる来訪者を出迎える。
「黒猫?」
ちょこんと前足を揃えてつぶらな上目遣いを潤ませる一匹の黒猫。
首からぶら下げたiTunesと、背中に背負った、小型スピーカーが違和感を誘う。
そこから流れていた歌声は、修をの耳を奪った張本人だった。
誰に話しても一笑に伏されるのがいい落ちだ。猫がお菓子をねだりに来た。そんなおとぎ話許されるの、小学生までだよねー。
山尾修は高校二年、メルヘンのメの字も忘れた。
がたっと廊下の先で音がする。
人影に黒髪がふわりと柳のようになびく。
息を殺す声が現場に残る。
すらりとした夏の制服姿が、からっと晴れた八月の廊下にひまわりの花びら散らす……夢を見る。
彼女は黒猫の差し金・黒咲あかね一年生。
484
:
『ろうそくもらい』
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/07(木) 21:40:13 ID:uHWZ51hI0
「クッキー先輩ですよねっ」
「……」
「ろうそくの代わりに黒猫です」
確か、クッキーをあげたから、それ以来クッキー先輩と呼ばれている。
もちろん、そんな呼び方をしているのは黒咲あかねぐらいだ。
「『ろうそくもらい』ですよ。ご存知ですか」
「ろうそく貰うの?いいの?」
「北の大地の習わしですっ」
額に汗した修は黒猫を抱き抱えたあかねの二の腕を見つめていた。湿り気を帯びた猫は黒さを増して、黒曜石にも負けない輝きだ。
男子としては背の低い修だからか、女子としては背の高いあかねに対しては、自然と照れ隠しの目線となる。
ただ、修としては、自分が先輩だからか言い訳としては何かと好都合だった。
「北の大地の習わしって……黒咲さんって、もしかして北海道……」
「違いますっ。おばあちゃんちが長崎ですっ」
肌の白いあかねだったからと思いきや、それは、あてずっぽうの流れ矢だった。
アーチェリーで的をはずすとくやしいし、このときも何故か同じぐらいくやしい。だが、ここで顔に出すのはオトナ気ないなと
先輩はぐっと奥歯をかみ締めていた。
あかね曰く、ただの好奇心に掻き立てられてとのことだが、修も年上だ。あかねの企みに裏を見た。
なぜ、修のいるアーチェリー部を狙ってわざわざやって来たのか。
それは、一度、クッキーをあげたから。理由など、どんなものにだって存在する。
「ろうそくもらいは、小学校の低学年ぐらいの子供たちが、各家庭にお菓子をもらいに来る行事ですっ」
「へえ。ハロウィンみたいだね」
「毎年七夕になると、こどもたちが歌を歌いながら家庭に訪れてお菓子をもらうんですっ。
『お菓子をくれないと引っ掻くぞ、噛み付くぞ』って……こども……がです」
「七夕?」
頬を赤らめたあかねは、スカートの裾を握りしめた。
一方、修はあかねから引っ掻かれたり、噛み付かれている自分の姿を想像していた。
一般的に黒猫は人懐っこいらしい。人をひきつける魅力があるという。
あかねが連れてきた黒猫は校舎に迷い混んだ野良だという。
だから、役目を果たした野良猫と別れを告げた。もう、会わないかもしれない寂しさと、いつかきっと会えるという希望を胸に。
手洗い場で修とあかねは蛇口から溢れる水の音に心を留めた。
「……だって、わたしはコドモですよっ。みんなは『オトナっぽいねっ』とか、言ってくれるんだけど、全然ですっ」
「そんなことないよ……、黒咲さんは」
手を清める。
ざっざとぬれた手を振り切って、水を切るあかねの仕草に微かな色気を感じた修は、先輩らしい対応で黙していた。
「でも、やっぱり」
485
:
『ろうそくもらい』
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/07(木) 21:40:33 ID:uHWZ51hI0
#
わたしはかつて『あーちゃん』でした。
ファッション雑誌の中だけで、誰からも羨ましがれる『読モ』……読者モデルをしていました。
でも、あーちゃんなんて知りません。
みんなから担ぎ上げられて、ふらふらと迷いの森に投げ込まれた名もなきコドモですよ。
あるとき、はるか遠い北の大地から撮影の為に通っていた読モ仲間の『きー子』が嬉しそうに言いました。
そのころ中学生になったばかり。コドモだと主張しても通るし、コドモじゃないんだからと駄々こねても許されるあいまいな時期。
きー子は意気揚々として、わたしに自慢しました。
「あーちゃんさー。ろうそくもらいで、子供たちにお菓子あげるぐらいにお姉さんになったんだよねー」
「ろうそくもらい?」
「うん。小学校の低学年ぐらいの子たちが、おうちにお菓子をもらいに来る行事だよ。北海道だけなのかなー」
それ、わたしです。お菓子をもらいに行く方です。
わたし、全然コドモだし。
「やっぱ、あーちゃん……着こなしがオトナだぁ」
#
自覚はある。
自分はコドモだと思い込んでいても、誰もがみなそれを認めてくれない事実。
みどりの黒髪艶やかに、すらりと背の高いあかねが『背伸びして』子供ぶるよりか、心を許した黒猫に願いを託した方が良い。
外の雨音もすっかり止み、雲の切れ目からは天への架け橋が下りていた。希望への架け橋とも言うらしい。
「ほら。お菓子」
修があかねに手渡したクッキーは割れていた。
深々とお礼をしたあかねは、恥ずかしそうに顔を背けた。
あかねが口にしたクッキーはバターの味が程よく効き、自己主張の控えめな上品さがあった。
たった、お菓子を手に入れるだけに「ろうそくもらい」を口実に、黒猫連れてあかねはわざわざ修の元へやってきた。
背は低くとも、修は先輩だ。そんなこと、とっくに見破っている。
修はそれを思うと、背伸びとだだっこの挟間でもがくあかねが余計にコドモに見えてきたのだ。
「また、来ます」
振り返りざまのあかねの髪があまりにも完璧な曲線を描くので、ぎゅっと修は胸を締めつけられた。
背の高い後輩なんかに、惑わされるものかと意地を張る。
「いつでもおいでよ。ヒマだし」
「来ます」
あかねはこどもっぽく返答すると、黒猫を抱きかかえて顔を隠した。
「来月、七日も所によって七夕ですっ。仙台とか……」
………
夏休みの真っ只中、山尾修はアーチェリー部部室で弓具の手入れをしていた。
休みだけども腕前が気になるから。すると、廊下から聞き覚えのあるわらべ歌。
『ローソク出ーせー出ーせーよー 出ーさーないとー かっちゃくぞー おーまーけーにー噛み付くぞー』
今日は八月七日。所により七夕。
おしまい。
486
:
わんこ
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/07(木) 21:43:11 ID:uHWZ51hI0
あかね「クッキー先輩!これ、おいしいですっ」
修「え?鉄橋の音で聞こえない!!!」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/842/akane_yamao02.jpg
投下おしまい。
487
:
名無しさん@避難中
:2014/08/08(金) 00:04:33 ID:RMmw/7Ts0
乙です
488
:
わんこ
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/11(月) 19:06:24 ID:WZ16PzfM0
>>477
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/843/nisito_nagisawa01.jpg
さて、ここからは「ダブルストップ」番外編で。
お二人お借りします。
489
:
[
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/11(月) 19:06:57 ID:WZ16PzfM0
「ここのシュークリーム、美味しいんだよ」と、ニシトちゃんが幼な子にも似た輝きをした目で言うから、
わたしは寄り道というものをやってみた。二人並んで目当ての三瀬の前に立つと、わたしの心臓がごくりとつばを飲む音が聞こえてくる。
「ナギちゃんとこんなお店に行けるのって、うれしいな」
ニシトちゃんはきらきらと光る。
ニシトちゃんはけらけら笑う。
紅茶色のショートカットの髪型は、ニシトちゃんにおあつらえ。
古びた煉瓦造りの店は、見るからに時代に取り残された香りが漂っていた。
店の名は『茶々森堂』。
わたしたちが通う学校から程近い場所に店舗を構える喫茶店だ。ご近所なのに存在すら知らなかったわたしは、
まるで幸せの青い鳥を肩に乗せたまま、青い鳥を探しているようなものだ。
「先崎くんもよく来るらしいよ」
お互いに知った生徒の名を使ってこの店の知名度を教えてくれるニシトちゃんは、本当に外の世界のことをよく知っているし、
使いこなしていると思う。扉を開けると鉄の鐘が 鳴りわたしたちを歓迎してくれた。世界の隅っこに生きるわたしでさえも、
顔パスだけでまけてくれる常連客同等に愛想よく迎えてくれる。
ニシトちゃんのエスコートで陽射しのよい窓側の席に陣取ると、気分だけでも無邪気な英国貴族の娘になったつもり、
傍らにゴールデンレトリバーを携えて、ゆったりまったり机に肘をつきたくなる。
落ち着く。
ほんとうに。
わたしの住む世界がうそのよう。
店を囲む蔦が世俗から切り離してくれる。古城に幽閉されて助けを待つ姫君が、いっそずっとここにいてもいいかもと。
そんな気持ちを吐露しても、誰もが頚を縦に振ってくれそうな雰囲気だ。
わたしが何者だろうとも、コーヒーの香りが分け隔てなく平等に静かな時間に誘う。
「わたし、運動部でしょ?だから、体が糖分求めてるんだ」
「体動かすしね」
「そうだ。文化系の部活もかじっちゃおうかな?……うーん、漫画研究会とか」
「あるの?」
「知らない」
「なにそれ」
「あ!店員さーん。シュークリーム、ふたつ……、いや、みっつ!」
注文を取りに来たウェイトレスがねこのような目を丸くして、ニシトちゃんの願いを聞いていた。
大正浪漫というものか、袴にエプロンドレス、そして編み上げブーツ姿の彼女は、やけに乙女に見えるのは、
きっと、たぶん、わたしのせいだ。わたし自身の眼球がそう見ろと命令するのだ。間違っていないだろうか。
490
:
『ダブルストップ・あなざー』
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/11(月) 19:07:46 ID:WZ16PzfM0
「みっつ?」
「うん 。お土産用。ナギちゃんいる?」
「うーん。やめとく」
「お母さんには?」
「多分、食べないと思うよ」
わたしにはお土産を渡したくなるような素敵な人はいない。
右手に拳銃、左手に仁義、そして口にはシュークリーム。似合うハズがない。
ロンドン郊外の小さな煉瓦造りの喫茶店に、黒塗り高級車が乗り込んで、ずかずかとすね傷持った男たちがやってくる。
似合うワケがない。
『お嬢さん』
『お嬢さん』
『お嬢さん、ジュース買ってきましょうか』
『一人前になったら、自分で自分のタマ守れよ』
仁義に生きて、仁義に朽ちる。
戒律はただそれだけ。
そんなオトナに囲まれて、それがカタギではないと知ったときのこと。
少女ノ夢と相反する、硝煙と杯で出来た世界に包まれて生まれた自分のこと。
シュークリームだなんて。
お土産だなんて。
丁重にニシトちゃんの誘いを断ると、ニシトちゃんはにこにことシュークリームが届くのを待ちわびていた。
窓の陽射しのから避けようと店内に目を向けると、わたしたちと歳の近い女子二人がクリームソーダをそれぞれ口にしていた。
この店は、女子を女の子にしてくれる。白いブラウスとメロン色のソーダ水は人を甘い気持ちにしてくれる。こんなわたしでも、
この店の中だけでも女の子にしてくれるのだろうか。ニシトちゃんに聞くのはこっぱずかしいし、ましてや、クリームソーダの二人にもだ。
「どうしたの。ナギちゃん」
シュークリームの出番を待ちきれないニシトちゃんだ。にこにことわたしの浮気をそっと修正。
わたしは素直にクリームソーダの二人のことを話題にしてみた。
一人は腰まで伸ばした黒髪。クローバーの髪留めが大人っぽさと子供っぽさを綱渡り。
そして、一人は明るい色のボブショート。てっぺんからは跳ねたような髪の毛が目を引く。
「なんだろう。お芝居の話かなぁ」
「そうなの?ニシトちゃん」
机に広げたノートにメモを走り書きさせながら、二人は雑談のような話し合いをしているように見えた。
会話を楽しむよりかは、意見を交わし会うと言ったほうが近いかもしれない。
491
:
『ダブルストップ・あなざー』
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/11(月) 19:08:08 ID:WZ16PzfM0
「『出番』とか『儲け役』とか『ト書き』とか言ってるけど、なんだろうね」
「うーん。演劇部なのかな」
「あ、それ、するどい。さすがニシトちゃんだ」
確かに。ニシトちゃんの説を踏まえて二人の会話を盗み聞きしていると、ぽんぽんと膝を打ちまくりたくなる。
きっと彼女らは公演のための打ち合わせをしているのだろう。黒髪ロングの方から『シンデレラ』のワンフレーズが聞こえたことで、
わたしは全てに合点した。
「わたしも舞台に立ってみたいな。バレー部じゃなくって、演劇部とか」
「文化系?」
「実は演劇部も体育会系だったり」
ニシトちゃんは実に女の子だ。それに比べてわたしはステージのスポットライトから逃げ惑う名もなき通行人Aの人生を望む。
ただ、それを胸はって主張するようなことでもないし。ニシトちゃんのような思考が自然にできるのならば、
わたしの視界も色鮮やかに見えるんだろう。女子高生の図鑑があるのならば、きっとニシトちゃんは大きく載るんだろう。
ついでに言うなら、わたしは欄外の豆知識だ。
「ここで、王子さまが踵を返すっ」
「『日陰者の生きざまに惚れるお前さんのことだ。おれが殺し屋だってことはカタギの奴らにはばらすな』。
あかねちゃん、この台詞すごいぞっ」
やはり、彼女らとは違う。
リアリティの蚊帳の外にいるから。
襟を正した紙の上にだけ存在する外れ者に憧れを抱く。一滴でも父の血がわたしの中に流れているうちは、
彼女らの妄想に胸をときめかせることもきっとない。
「殺し屋さんかぁ。スーツが似合うんだろうな」
確かに。
ニシトちゃんの言うことは間違ってはないし。
演劇部の会話を聞いているうちに、ニシトちゃんは演目に興味を抱いていた。
「公演が始まったら、観に行こうよ」と胸高鳴らせるニシトちゃんだが、わたしはフィクションとリアル、双方ともおなかいっぱいだ。
彼女ら演劇部の虚構会議にお耳傾けているうちに、大振りのシュークリームがみっつどっかとわたしたちの目の前に現れた。
げんこつのようなシュークリームは、見ているだけでも迫力がある。ねこ目のウェイトレスは表情を崩すことなく軽い会釈を
わたしたちにしてくれた。
ニシトちゃんがシュークリームを持つと、とても幸せそうに見える。
「クリームを注入する穴があるでしょ?ちっちゃい穴。そこから食べると、きれいに食べられるんだよ」
ぱくりと小さな穴を塞ぐように似合うんだろうなニシトちゃんがシュークリームに食らいつく間、
わたしは再び演劇部の二人をチラ見してみた。黒髪ロングの方は、電話片手に誰かと連絡を取っていた。彼女らは彼女らで忙しい。
断片的だが、黒髪ロングのセリフをかじり聞き、電話の相手を想像してみた。
「できましたっ。原作っ。初めて尽くしでごめんなさいっ」
「わたしたちが書いた脚本……面白がって頂きまして……」
「それが絵になって、セリフがふきだしから紙面を飛び出し、ページを捲る高揚感を煽る作品に仕上げて……」
わかった。
漫画研究会だ。
漫画の原作を演劇部に依頼している……という、推理。
ニシトちゃんの「なーんだ」という言葉に安堵を覚え、わたしはシュークリームにかぶりついた。
煉瓦の館でひっそりと、そして、端っこに潜む幸せをかみ締めながら。
おしまい。
492
:
わんこ
◆TC02kfS2Q2
:2014/08/11(月) 19:09:11 ID:WZ16PzfM0
おまけ。初めて迫先輩を描いたような。
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/844/sasusako01.jpg
おしまいです。
493
:
名無しさん@避難中
:2014/08/15(金) 01:32:32 ID:v.Id1rbU0
>>474
ひねくれすぎだろこやつw
しかしその皮肉げなところには半端に共感できてしまうから困る。
みんな一回くらいは麻疹に掛かったみたいにそんなことを考えるよね。
>>480
おおおなんか少女漫画っぽいぞ!
生っぽい!(?)
ニシトちゃん俺にください!
>>486
・夏と鉄製の構造物ってなんでこんなに合うんだろうね?
・あーちゃんなんて知りませんって台詞に漂ってた子供っぽさの正体に触れた感じがする。
しかしクッキー先輩w
>>492
・こんな二人、街で見たことある!ほんとにこんな感じだった!
・この二人のこういうやり取りもいいな。
実はワンオラクルの人とわんこ氏って相性いいというかよく似てると思う。
小道具で一気に空気作っちゃうとことか内面への踏みこみ方とかそういうの。
・イタズラっぽいあの字もスイカバーも可愛すぎんよー
でも尻尾はねえだろこいつ風紀委員に通報したw
494
:
名無しさん@避難中
:2014/08/15(金) 01:33:21 ID:v.Id1rbU0
投下しなきゃ!
495
:
先輩とモホロビチッチ不連続面(前編)
◆46YdzwwxxU
:2014/08/15(金) 01:37:58 ID:v.Id1rbU0
投下しなきゃ!
496
:
先輩とモホロビチッチ不連続面(前編)
◆46YdzwwxxU
:2014/08/15(金) 01:39:59 ID:v.Id1rbU0
「先輩、スイカ割りしましょう!」
「……ここで?」
「おおっとスイカ割りと聞いちゃ、黙っちゃいられねえぜ!」
夕方のくせに白昼としか視えない光の強さに目を細めながら学園の正面玄関をくぐったところ、いつもの後輩
といつもの後輩ではない後輩たちが、スイカをモーニングスターのようにブン回しながら襲来した。危なっ。
「スイカって地球に似ていると思いません? 緑の大地、群青の海、赤い溶岩、そして蠢くうざい種! すごい
ですねガイア理論ですね宇宙の神秘を感じますね。……破壊しましょう! そしてモホロビチッチ不連続面まで
食べつくしちゃいましょう!」
「お!? 何その偏差値高そうな台詞っ!!」
「地球に喩えた意味あった?」
一人でも手に負えないのに、今日なんか同じくらいやかましい久遠荵と二人掛かりである。嫌がらせか。
「ばうわう、ザッキー先輩!」
「……よう、久遠」
何それ知らない。わんわん王国の公用語ですか? 久遠は相変わらず仔犬みたいな落ち着きのなさ、もとい元
気のよさで駆け回っている。
「こんにちは、先崎先輩」
「こんにちは」
「私もがんばってウォラメロ、割っちゃいます」
「発音!!」
……念のため確認しておくが、ウォラメロとはウォーターメロン=スイカのことである。
烏揚羽蝶のような黒髪の黒咲あかねに会釈を返す。久遠と同じ演劇部で、よくつるんでいる子である。初めは
綺麗な長い髪のせいで深窓の令嬢めいた印象だったが、実際に会話してみるとこれがけっこう一筋縄ではいかな
い感じだった。
「先輩先輩、あかねちゃんの髪に見惚れている場合じゃないですよ。長いのがお好きなら伸ばしますし。そんな
ことよりスイカですよ」
後輩がようよう抱えたスイカを平手でベシベシ叩く。なんか味が落ちそうなのでやめてもらいたい。
497
:
先輩とモホロビチッチ不連続面(前編)
◆46YdzwwxxU
:2014/08/15(金) 01:43:00 ID:v.Id1rbU0
「ていうか……」
俺は今更だがバカみたいな大玉スイカを見て慄然とした。
「でっか!? ……絶対ぬるくなってて不味いし、割ってもこんな食えないだろ」
「調理実習室の冷蔵庫借りました」
「私が貸しました」
突然の声に振り返ると、白壁やもり教諭が音もなく背後に立っていた。この夏で一番怖かった。白壁教諭は胸
を張って続けた。
「何故なら、冷たくないスイカはスイカでないからです」
「白壁先生っ、ピントのズレた言い訳ありがとうございます!」
「それに、スイカ割るってあちこちで宣伝してきたから、きっと処理係も集まります」
もはや割ることにしか興味がなさそうな白壁教諭は、とても家庭科教諭とは思えなかった。
どうせなら「スイカは夏の水分補給にいいんですよ」とかそういう解説をして欲しい。
「ところで西瓜割りって漢字で書くとなんかエロい……」
「わう?」
「よく分からんが何だかすごく久遠の教育に悪い感じだから黙っとけ」
「ひどいです! 私はどうでもいいとおっしゃるのですかっ!?」
「お前がエロ言ったんだろ!」
後輩がむくれて頬を膨らませた。
「いつもそう……。カマトトぶっている女ばかり天然とか純粋とか持て囃される……ぶぅ……」
「最低限、お下劣な頭の中身をお外に出力しない努力をしてから言えよ?」
「そこまでっ! 夫婦喧嘩はわんこも食わないっ」
「誰が夫婦だ不吉なこと言うな!」
「さっすが荵ちゃん分かってる!」
後輩の周囲は今日も混沌としていた。……巻き込まれて毎回その一部になってしまっている俺はもう何も言え
ない。フェードアウトする方法を教えてくれる親切な人か、身代わりになってくれる親切な人か、俺に優しくし
てくれる親切な人を熱烈希望だ。
「ご婚約おめでとう」
たぶん親切な人ではない黒鉄懐が、目尻の嘘の涙を拭いながら肩を叩いてきた。金ぴかの頭髪が第二の太陽と
化し、体感温度をじりじり上げてくる。何て奴だ。
「あの小さかったシュンが……変わり果てた姿になって……」
「そこは立派にしておけ」
だいたい黒鉄は俺の幼少期など知るまい。会ったのは今年になってからだ。
498
:
先輩とモホロビチッチ不連続面(前編)
◆46YdzwwxxU
:2014/08/15(金) 01:44:02 ID:v.Id1rbU0
後輩が何とも言い難い顔をして、「あっ」と思いついたように久遠を追って脱兎と駆け出した。黒鉄のような
派手なタイプは苦手らしく、あまり近づきたがらない。
「押忍です先輩、兄がいつもお世話になっております。……ほら、行くよ、兄貴っ!」
妹さんの黒鉄亜子が慌ただしくやって来て、慌ただしくお辞儀して、慌ただしく兄貴の耳を引っ張ろうとして
背が足りず摘み損ね、慌ただしく兄貴の手首を掴んで去っていった。「えっ、ちょ、スイカがオレに食べられた
がってんだけど……?」「ちょっと離れるだけ。兄貴が先輩といると……はかどりすぎるのよ」「何が?」「魅
紗が」「ああ……」
理解しがたい会話をしながら遠ざかっていく黒鉄兄妹をボケーっと見送る。
いつの間にか、正面玄関前の人工密度がえらいことになっていた。見知った顔、見知らぬ顔、みんなそんなに
スイカが好きなのか、暇で仕方がないのか。あれよあれよと参加することになっている俺に言われたくはないだ
ろうケド。
「相変わらず、サキザキの周囲は混沌としてるね」
黒鉄兄妹と入れ替わりに声を掛けて来たのは、隣のクラスのサイトウだった。聞き捨てならないことを言う。
どう見ても核になっているのは俺ではなく後輩だと思うが。
「スイカを割るって聞いて。せっかくだからご相伴にあずかろうかと」
「スイカ好きなのか」
「夏っぽいから」
……サイトウの考えることはよく分からん。俺が言うのも何だが、社交的に見えて、教室の隅からクラスを見
渡してフッと笑っているような斜に構えた感じもあり、妙に子供っぽいところもあるのだ。
昆虫のサナギの中でそれまで幼虫だったものは一度全てドロドロに溶けてから再構成されるというが、人間も
同じで、高校生くらいの年齢ではまだ完全に固まりきっていないのかもしれない。肉体も精神も毎日のように更
新され、あるいはその日の気分で見える世界が変わりさえする。
サイトウを見ていると、何となくそんなことを考える。そういう奴である。
「あーっ、サイトウ先輩じゃんっ!」
サイトウを発見して飛んできたのは小柄な鷲ヶ谷和穂。フリーダムイーグルというお察しなあだ名で知る人ぞ
知る騒動屋だった。
「今日もトロッコ持ってる!? また占ってよボクのこと!」
「タロットだろ」
「芥川カナ?」「そうに違いないのだわ!」「“鼻”……一体何の暗喩なんだ……?」「決まってますよそん
なの!」 ……歴史研究会だったかの面子と大型魅紗の濃ゆい意味深トークをBGMに、鷲ヶ谷は過干渉の父親
を見るような目で俺を見た。背が低いので見下しの角度を作るために必死に仰け反っているのがいっそ微笑まし
い。
「センザキ先輩ちょー細かい……。そんなんじゃモテないよ?」
「いいのっ! 先輩には私がいます!」
「何をっ! 犬の引き取り手を探させたら、わたしの右に出る者はないっ」
クソッ何だこいつら。俺をボケの波状攻撃で殺す気か? “フリーダムイーグル”鷲ヶ谷和穂、“後輩”後鬼
閑花、“わんわん王”久遠荵。女三人寄ればというやつで、若さを失いつつある俺では長期戦では分が悪い。
499
:
先輩とモホロビチッチ不連続面(前編)
◆46YdzwwxxU
:2014/08/15(金) 01:44:59 ID:v.Id1rbU0
箸休めではないが、距離感が一定でまだ落ち着いて話せるサイトウに逃げる。
「しかし、サイトウはタロットカードなんてやってたんだな」
意外と言う意味ではなく、身近では初めて会った。あまつさえカードセットを学校に持ってくるまでする人は
かなりの珍種という気がする。
「あそびだけどね」
「ほう。俺は卓上同好会部長の加藤だが、タロットカードなら我々の活動内容とも合わないことないな」
「同じく副部長の田中。サイトウくん、卓上同好会に入らないか? 我々は君のような戦士を待っていた!」
「今なら即レギュラーだぜ!?」
俺とサイトウの会話は弾む前にシャボン玉のように弾けて消えた。春からずっと新入会員を募集していたらし
い卓上同好会の上級生がどこからともなく現れ、馴れ馴れしくサイトウに絡んでいく。
「入ってくれるんなら俺たちの分のスイカもあげるぜ!?」
「俺はあげないぜ? 田中のはあげるぜ?」
「俺が勝負で加藤から巻き上げていれば同じだぜ?」
「……こういう卓上的な発想も身に付くから将来的にもお役立ちだし、今なら即レギュラーだし、これもう入ら
なきゃ嘘だぜ?」
この人たち三年なのに良いのかなぁ受験とか……と思うが、口には出さない。俺だって突っ込み先を選ぶくら
いできるのだ。いやほんとに。
「ちょっと勧誘なら後にしてよっ! サイトウ先輩はボクと先約があるんだっ!」
「まあ、そういうことなんで」
鷲ヶ谷が両腕を猛禽類の翼のように広げ、怪鳥音を発して卓上同好会を威嚇。サイトウもやかましい先輩より
はやかましくも可愛い後輩のほうがマシと思ったか乗っかる。「ぐわっやられた!」「やはり卓の上でなければ
力が出ないか」 ノリのいい二人が体をくねらせながら退場。こわい。
「並べるからちょっと待って」
サイトウが準備万端用意していたマットの上にタロットカードを展開。タロット業界ではスプレッドというの
だったか。
「今日こそ【世界】のカード当てるんだっ」
……そういうゲーム的な物ではまったくなかったと思うが、まあ鷲ヶ谷楽しそうだからどうでもいいや。わざ
わざまた顰蹙を買いにいくこともないだろう。
何となく、よく鷲ヶ谷と一緒にいる小鳥遊雄一郎を探す。鷲ヶ谷の隣だとまず鷲ヶ谷がやたら目立つし背の高
低差がちょっと面白いためかすぐ分かるのだが、単品ではウォーリーと化す。
500
:
先輩とモホロビチッチ不連続面(前編)
◆46YdzwwxxU
:2014/08/15(金) 01:45:56 ID:v.Id1rbU0
少々厳つい顔をしたウォーリーは、花壇のそばで二年の近森さんと歓談中だった。近森さんの瞳は好奇心に爛
らんと輝いている。
「どうなのどうなの?」
「別にどうも……」
「お似合いだと思うけどなぁ! どっちも鳥類だしね!」
これはあれか、鷲ヶ谷との関係について質問責めにされてるのか。俺のクラスメイトでもある近森ととろさん
は、好いた惚れた切った張ったの恋愛沙汰に目がないのだ。……たまーにああやって焚き付けたりもする。
「私と先輩もお似合いだと思います。どっちも人類ですしね」
「どんな台詞でも手当たり次第に拾ってテキトーに改変して使うお前の執念と応用力はある意味すごいと思う」
俺の顔を見上げてはにかんでみせる後輩を躱す。
相手が俺でなければ通用することもあっただろうにな。つくづく残念な子ではある。
『いよよーしッ! そろそろスイカ割り大会、始めますよ! 司会はワタクシッ、報道部部員、B72でお送り
しますっ!!』
校庭から重量挙げ部の筋肉愛好家たちの手で神輿のように運ばれてきた朝礼台。その上で、マイクを握った女
子が拳を突き上げる。
『アタッカーになりたい人は、ちゃんと名前書いたかな? 読める字でお願いね!』
形式としては、参加希望者が名前を書いたくじを、司会者がボックスから引き、その順番でスイカにアタック
を掛けていく。
この実際にスイカを割るという行為に挑む者を“アタッカー”と呼ぶ。
アタッカーはアイマスクで目隠しをした上で、先端を地に突いた木製バットの尻に額を当てたまま十周以上回
転する。そうして方向感覚を狂わせた後、規定位置からスタート。距離にして十五メートルほどだろうか。
アタッカーに対する支援及び妨害は自由参加。何人掛かりでも構わない。日頃の行い、人望が物を言う競技か
もしれない。ただし、認められる手段は声掛けのみとされていた。
『つーまーりー! アタッカーのカラダに触ったり、スイカをずらしたり、スイカを包丁で切り分け始めたり、
スイカをドーム状の鉄板で覆ったり、バットをスポーツチャンバラのやつにすり替えたり、まきびしをばらまい
たり、バナナの皮を敷き詰めたりしては、ぜーったいにっ、いけません! 過去いました』
「違反者は、スイカにありつけないどころか、パワーオブザゴリラなお仕置きを受けてもらうからな!!」
白壁やもり教諭がせいいっぱいの威厳を絞り出して注意し、真田基次郎教諭が不敵に笑いながら拳を鳴らす。
マイクを使わないのにさすがの大声だ。あれで美術教師というのだから世の中分からない。
『さぁて!! さぁてさぁて!! スイカ割り大会、栄えある第一の刺客を発表しますよ――!?』
司会者報道部B72のアオリと、軽音部のドラムロールが、場のテンションを最高潮に持っていく。地を揺る
がすような歓声の中、誰かがごくりと唾を呑む。
たかだかスイカ割りにえらい騒ぎだと正直自分の中のつまらない部分が思うが、よくよく考えるとこんなイベ
ントはもう一生のうちでもそうそうあるものではないかもしれない。
――夏っぽいから
そう答えたサイトウは、あるいは俺よりもよほどまともな感性をしているのかもしれなかった。
ちょっと気になりだしたじゃないか。
この二度とはないかもしれない青春のひと時、その口火を切るのが一体誰なのか――
つづく
501
:
名無しさん@避難中
:2014/08/15(金) 01:47:46 ID:v.Id1rbU0
投下終わり。
例によって広く浅いクロス。
アタッカーのリクエスト募集中です。
502
:
名無しさん@避難中
:2014/08/16(土) 00:54:31 ID:uDiq3IwU0
くうう…すいか割り。
503
:
名無しさん@避難中
:2014/08/17(日) 20:08:39 ID:DmSpGkBI0
夏らしくていいね! これは・・・「つづく」んだよね!? 楽しみ!
504
:
名無しさん@避難中
:2014/08/19(火) 08:00:35 ID:vIn2YjJ20
荵率いる「小動物チーム」
アゲル率いる「パワーリフターチーム」
水玉パンツ率いる「お姉さんチーム」
か。
505
:
名無しさん@避難中
:2014/08/19(火) 23:02:20 ID:UWstTHVM0
懐と先輩だとはかどるのかー(意味深
506
:
名無しさん@避難中
:2014/08/28(木) 22:33:30 ID:Ispnd.460
雑談スレでここを紹介されたものの・・・私みたいなのが参戦して良いのだろうか?
あと、仁科学園の設定を調べるためにwikiを確認してたら、『格闘茶道部』ってのがある・・・ことのみ設定されている以外は特に記載が無いけど、
元々は何きっかけでの誕生だったのかしら?
もし私が『格闘茶道部』に関する設定をいじってもOKなら、そこを間借りしたい。
507
:
名無しさん@避難中
:2014/08/28(木) 22:40:49 ID:Dpy0ya.60
ようこそ!
格闘の人卒業しちゃったし、
別に部活のひとつやふたつ新設したっていいんだよ?
508
:
名無しさん@避難中
:2014/08/28(木) 23:13:37 ID:Ispnd.460
なるほど、前いた人が残していった設定なのね > 格闘茶道部
現状として薄ぼんやりとした設定のみの状態ですが、どこぞの「物語は存在しない」とバイオリン職人に評されたピンクの人みたく世界を破壊しないよう、
とりあえず自分なりの『格闘茶道部』設定で書いてみようかと思います。
実際、『茶道部』ではなく『格闘茶道部』という名称のほうが今考えている設定とすり合わせやすいので、この偶然の出会いに感謝!だったりです。
ただ、完成するかは・・・?(無責任発言)
509
:
名無しさん@避難中
:2014/09/01(月) 20:12:39 ID:xHg4Jcfc0
, - 、
ヽ/ 'A`)ノ ダレモ イナイ・・・
{ / トウカ スルナラ イマノウチ・・・
ヽj
510
:
記憶の中の茶道部()
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 20:16:54 ID:xHg4Jcfc0
初めて、仁科学園の方に投下させていただきます。
稚拙ではありますが、お目汚しによろしかったらどうぞ。
--------------------------------------------------------------
511
:
記憶の中の茶道部(第一話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 20:19:08 ID:xHg4Jcfc0
しまった・・・途中で送信してしまった・・・
すみません、ここからスタートです・・・
-------------------------------------------------------------
そう遠くない未来、20XX年。
地球が核の炎に包まれることも暴力だけが支配する荒廃した世界になることも無く、ただただ平和な時間が平等かつ均等に流れていた。
「……ふぅ、それじゃあ今日の稽古はここまでね。」
太陽光線によって橙色に染まる、仁科学園の体育館。
その中では、先生と数人の中等部生徒で構成される剣道部の練習が今終了しようとしていた。
「礼!」
「「「ありがとうございました!!」」」
響き渡る生徒たちの若々しい声。
そして、挨拶が終わると生徒たちは着替えのために体育館を急ぎ足で退散するのであった……が、例外が居た。
「……あれ?先生、どうしたんですか??何か……ものすごぉくアンニュイな顔してますけども……。」
先生のもとへ駆け寄る一人の生徒。
一方の先生は、まるで放心したかのように体育館の天井を寂しく……ただ一点のみを見つめていた。
「……先生?」
「何と言うかね……長年お世話になった体育館が壊されるんだなぁ……って思うと……うん……ね?」
「仕方ないですよ、老朽化してますし……それに、現行の法律的にはグレーゾーンな建築扱いなんですから……あ。
そういえば、先生はこの学園の卒業生で、かつ剣道部の副主将だったんでしたっけ?だったら……アンニュイになりますよね、
思い入れとかありますでしょうに。」
話しかける生徒。
だが、『ある単語』が先生の耳に入った途端、その表情は少し曇った様相を呈した。
「……いいえ、私は……何て言ったら良いのかな……?」
喉に何かが引っかかったかのような受け答えをし始める先生。
その様子に生徒は困惑していると、先生は突然こう切り出した。
「……ちょっとだけ、私の昔話に付き合ってくれる?」
「……はい?」
「とりあえず、まずは制服に着替えてきなさい。それと……話が長くなりそうだから、あなたの家まで送りがてら車の中で話すわ。」
「え……あ……はい……じゃあ、着替えてきます。」
そう言って、生徒はそそくさと体育館を後にするのであった。
512
:
記憶の中の茶道部(第一話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 20:25:25 ID:xHg4Jcfc0
太陽が沈み、夜の闇に包まれた道路をまっすぐ進む一台の車。
運転席には先生、その隣りの助手席には先程の生徒が座り、生徒の住む街へと向かうのであった。
「……ところで、先生?わざわざ、私を車に呼んでまで話したい昔話って何ですか?」
生徒が切り出す。
一方の先生は夜の闇で表情が判別しにくい状況になっていたものの、声質については何らかの物悲しさを語っていた。
「あなた、あの体育館の端にある『茶室』のことって知ってる?」
「茶室?……ああ!今は使ってない、何故か体育館の端にポツネンとある……。」
「私と剣道部の歴史を話すにおいて、あの茶室がどうしても必要なのよ。」
「茶室……剣道……先生……すいません、話の文脈が全然繋がらないんですが。」
「あれは、私が仁科学園中等部の一年生として所属していた頃の話だわ……。」
こうして、先生……いや、天江ルナは自身がかつて経験した不思議な物語をゆっくりと語りだすのであった。
豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃……からはかなり先の未来、つまり天江ルナが仁科学園中等部の一年生としていた頃の20XX年。
琵琶湖の南に『金目教』という怪しい宗教が流行っていたかどうかは知らないが、
とりあえず平和な時間が全ての人に対して平等かつ均等に流れており、もちろん彼女も平和な時間の恩恵を受けていた……が、
今思えば『あの出来事』をきっかけに彼女を流れる時間は狂い始めたのかもしれない。
「……ここ……だよな?」
あの日、左手には竹刀、右手にチラシ、そして右肩には道着と防具が入った袋をかけた出で立ちで、ルナは体育館の前に立っていた。
「『剣道部員求む』……か。村の剣道大会で優勝経験のある私にとっては願ったり叶ったりの部員募集ね!……とは言うものの?」
部員募集のチラシを再確認した後、チラシを左手に持ち替えて、体育館の戸をゆっくりと開けるルナ。
しかし、時間的にはどこも部活動を行っている時間にもかかわらず、体育館の中は静寂を保っていた。
「『剣道部 水曜夕方と土曜午後より体育館で絶賛練習中』……って、全く人の気配が無いんですけど。」
チラシにツッコミを入れるルナ。
とりあえず、教職員に確認を取ろうと体育館を後にしようとした…その時であった。
513
:
記憶の中の茶道部(第一話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 20:31:54 ID:xHg4Jcfc0
突然現われる人の気配。
いきなりの出来事に対し、彼女は『気配』をまるで『殺気』のように感じ取ってしまい、
おもわずチラシを投げ捨てて竹刀を構えてしまう。
「誰?!」
誰も居ないはずの体育館に響き渡るルナの大声。
しかし、その『気配』は彼女の問いかけに一切答えることは無かった……が、
自身がどこに存在しているかについては強いプレッシャーで彼女に伝えていた。
「……!あそこか。」
プレッシャーが発せられている方向を見るルナ。
その目線の先には、体育館には似つかわしく無い『茶室』が映し出されていた。
「茶室……?しかも、運動部が使う体育館の中に何で……うん??」
ただでさえ疑問符が浮かぶ状況に、ルナは茶室に掲げられていた看板を見てさらに困惑する。
看板に書かれていた言葉……それは『格闘茶道部』という聞きなれない物であった。
「か……格闘ぅ?」
「そう、ここは格闘茶道部。」
大声をあげるルナへ突然耳に入ってくる女性の声。
その声の主は明らかに、この茶室に存在していた。
「誰だっ?!」
「誰だと言われても……とりあえず、茶室に入ったらいかがですか?」
丁寧にルナへ返答する謎の声。
一方のルナは理解不能な状況に竹刀を構え続けていたが、状況を打破出来る訳でも無かったため、
竹刀を下ろして茶室の中へと踏み入れるのであった。
彼女の目に飛び込む光景……まだ香りのする若い畳、『格闘茶道部』と書かれた掛け軸と小さな生け花、
鉄製の茶釜、そして……仁科学園の制服を着た『一人の女性』であった。
「あなたは……?」
ルナが問いかける。
一方の女性は手元にあった抹茶を一口飲んで呼吸を整えたのち、彼女の問いかけに答えるのだった。
「私は中等部三年、御地憑イッサ。ここ『格闘茶道部』の部長にして、ただ一人の部員ですわ。」
「……その、『格闘茶道部』って何ですか?ただの茶道部とは違うんですか??」
ルナの問いかけに、イッサは再び抹茶を一口飲み、そして呼吸を整えて返答する。
「本当は茶道部にしたかったのですが、敷地の関係で文化系部活動の場所が確保出来なくて……
ただ、運動部扱いなら体育館の一部が借りられるとのことでして『格闘茶道部』と相成った……訳ですわ。」
「何それ……ところで、剣道部の方を知りませんか?私、天江ルナという中等部一年の者で、剣道部への入部希望なんですが?」
三度問いかけるルナ。
すると、イッサは残りの抹茶をゆっくりと飲み干し、ルナに対して一つの提案をするのであった。
514
:
記憶の中の茶道部(第一話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 20:40:36 ID:xHg4Jcfc0
「剣道部希望……ですか?」
「ええ。こう見えても私、地元の柄玉村で行われた剣道大会で小学五年・六年と二年連続制覇したことあるくらい強い方なんですよ!」
「へぇ……じゃあ、せっかくだから私と手合わせしてみません?」
「え……良いですけど、大丈夫なんですか?茶道部の方……ですよね??」
「心配ありませんわ。私も多少は剣道をかじっている方ですし……それと、ちょっとした賭けをしません?」
「……賭け?」
「私が勝ったら……天江ルナさん、あなたはこの格闘茶道部に入部する。もし、あなたが勝ったら……そうね、その時はその時で考えましょう。」
その言葉にルナは苛立ちを覚えた。
理由は簡単である……いくら剣道をかじったことがあるとは言え、所詮相手は茶道部。
そんな相手が、まるで自分の方が強いかの様に言う言動に『怒り』以外、何を得られようか。
こうして、ルナとイッサによる剣道の試合が始まった……のだが、ここでもルナの苛立ちはイッサの行動によって増すのだった。
「あの……何ですか、その格好は?」
道着に身を包み、そして防具で完全武装した状態で竹刀を構えるルナ。
一方のイッサは竹刀を構えるものの、頭に面を被る以外は先程の制服姿のままであった。
「ごめんなさい、防具が見つからなくて……でも、私は十分これで戦えるわ。」
『これでも十分戦える』……イッサの余裕宣言ともとれる言葉とふざけた格好にハラワタが煮えるほどの怒りを覚えるルナ。
だが、イッサはルナの心に灯った怒りの炎に更なる油を注ぎこむのだった。
「……あ、言い忘れてたわ。試合時間は十秒……諸事情で十秒ほどしかあなたとお付き合い出来ないのよ。
でも、十秒で決着がつかなかったらあなたの勝ちで良いから……ね?」
「……ふ……ざ……け……る……なぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
怒りを爆発させ、力任せに竹刀を握りながら突撃するルナ。
もし、彼女が平静さを保っていたなら防具の無い『胴』は狙わず、『面』を狙うはずであっただろう。
しかし、怒りによって我を忘れていたルナは逆に『胴』を狙い、ふざけた態度をとるイッサを叩きのめすことしか考えられなかったのであった。
「胴っ!……?!」
体育館を次元ごと斬る勢いで水平に振られる竹刀。
だが、彼女の手には一切手ごたえが無く、そして正面にあったはずのイッサの姿も煙のように消えていた。
「ふふっ、どこを狙ってますの?」
突如、後ろから聞こえてくるイッサの声。
「そこかっ!……?!?!」
一方のルナもすぐさま反応して竹刀を振るうが、やはりイッサの姿は無かった。
「どういうこと……???」
「こ・お・い・う・こ・と。」
イッサの言葉と同時に聞こえてくる、右手を上下にスナップさせるような音。
その音の方向をルナが見ると、そこには試合場の印である白線の端に立つイッサの姿……と認識した直後、
彼女の体は人間技とは到底思えない超高速でルナの目前まで移動するのであった。
515
:
記憶の中の茶道部(第一話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 20:46:59 ID:xHg4Jcfc0
「スリー!」
イッサの一撃によって宙に飛ぶルナの竹刀。
「ツー!!」
間髪入れず、彼女の防具へと叩きこまれる『胴』の一閃。
「ワン!!!」
トドメの一撃と言わんばかりに炸裂する、頭部への『面』の一撃。
「……タァイム、アウト。」
試合時間十秒ジャスト、試合内容は完全にイッサの完勝……いや、ルナの完全敗北であった。
「そんな……茶道部に……負けた……。」
邪悪な存在が産まれそうな勢いで絶望するルナ。
一方、面を脱いだイッサは先程までののほほんとした雰囲気から真面目な様相へと姿を変え、彼女に語りかけるのであった。
「……あなた、私のことを『どうせ、茶道部だから余裕だろう』、『ふざけた態度を取ってる奴に負けるはずが無い』って思ってたでしょう?」
「……!」
「図星のようね。それがあなたの敗因……私の戦い方の基本は『敵の精神を揺さぶる』……
こんなふざけた格好で戦ったのも、私が余裕そうな言動をとったのもこのため……あと、このスナップ音もね。
でも、それ以前にあなたの基礎体力と私の基礎体力とではかなり差があったみたいだけど。」
淡々と、そして冷酷に言い放つイッサ。
一方のルナは言い返す言葉が無かった。
「さて……約束よ。剣道部への入部は諦めて我が『格闘茶道部』へ入部しなさい。」
そう言って、どこからか入部届けをペラリと取り出すイッサ。
その時、ルナの頭に一つの疑問が浮かんだ。
「……一つだけ……質問して良いですか?」
「あら、何?」
「イッサさんは、どうしてこんなに剣道が強いんですか?」
「言ったじゃない。『多少は剣道をかじってる』って。」
「いやいや……かじるだけでそこまで強くは……。」
「う〜ん……じゃあ、まず入部届けにサインして。そうしたら、ちゃんとした理由を教えてあ・げ・る!」
「え……。」
「どうする?」
「……。」
「どうする?」
「……。」
「ど・お・す・る?」
「……?」
「君ならどうする?」
「……分かりましたよっ!!!」
ヤケクソになり、汚い字で入部届けを殴り書くルナ。
「やった!これであなたは、今日から格闘茶道部の副部長就任よ!!」
「……で?!あなたが強い理由は?!?!」
ルナが息を荒らげて質問したその時だった。
「『部長』!ランニング終わりました!!」
ルナの後ろから聞こえてくる、数名の学生の声。
声の方向を見ると、そこにはルナが探していた『剣道部員』の姿があった。
「『部長』……?この人は格闘茶道部の人じゃ??」
ルナが剣道部員の一人に問いかける。
「何言ってるんだ、君は!御地憑先輩は確かに、そこの格闘茶道部の部長でもあるけど、メインは我が仁科学園剣道部の部長だぞ!!」
「……はぁああああ?!」
驚くルナを後目に、別の部員も口を開く。
「しかも、剣道の腕は日本一……いや、世界一だ!現に、二年前のパリ……あと、昨年のオーストラリアはブリスベンで行われた国際剣道大会で、
全て試合時間十秒の一本勝ちをするという驚異の記録を立てた方なんだぞ!!」
「そういうことなの、ごめんね。」
謝る素ぶりを見せるイッサ。
一方のルナは放心するのみであった。
「ところで……部長、この子は何なんですか?」
「ええ、私に勝負を挑んできてね……体力的なものに関しては合格ラインだけど、精神的なものに関しては鍛える必要があってね……
とりあえず、格闘茶道部のほうで預かることにしたって訳。」
「……さいですか。」
「そんなこんなで……よろしく頼むわよ、天江ルナ副部長!」
そう言って、ルナの肩を叩くイッサ。
しかし、彼女の意識が回復するまでにそれ相当の時間を要したことは言うまでも無かった……。
つづく
-------------------------------------------------------------
以上です。
お目汚し、失礼しました。
516
:
名無しさん@避難中
:2014/09/01(月) 22:17:12 ID:0qz79bnA0
あ、熱い!
つ、続きを !
517
:
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/01(月) 22:59:15 ID:xHg4Jcfc0
>>516
さっそくありがとうございます。
続きに関しましては現在未着手ですが、可能な限り書いていく予定(3人目の格闘茶道部部員登場予定)ですので、
御迷惑でなければ今後もお付き合いお願いします。
518
:
名無しさん@避難中
:2014/09/02(火) 23:40:08 ID:PtNTzYGw0
投下乙。
世界観フェイントで何事かと思ったw
仮面ライダーファイズみたいな戦闘しやがって!
しかしそこまでして格闘茶道部を存続させる部長の目的とは一体・・・?
519
:
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/03(水) 00:55:35 ID:3nKy7RgM0
>>518
ありがとうございます。
一応、『格闘茶道部存続理由』については自分なりに決めてはいますが・・・まあ、そこまで辿り着くかどうか・・・
(少なくとも、あと4話ぐらいは必要になる計算状況なので)
ついでなので、自分で小ネタの解説。
プロローグの始まりは『北斗の拳』のナレーション、本編の始まりは『仮面の忍者 赤影』のナレーション、
イッサの格好は『内村プロデュース』の剣道回練習における内村P、戦闘スタイルはご指摘のように『仮面ライダー555』のアクセルフォーム、
最後の方のルナとイッサの掛け合いは『電子戦隊デンジマン』のエンディング・・・ってな感じだったりです。
520
:
名無しさん@避難中
:2014/09/07(日) 19:11:37 ID:b6fLzGZA0
ルナのような真面目女子キャラは貴重だな。
521
:
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 21:59:39 ID:fHZ4Bbrc0
, - 、
ヽ/ 'A` )ノ トウカ シヨウ・・・
{ / ソソマエ ニ ヘンシン ダ・・・
ヽj
>>520
格闘茶道部における御地憑イッサと本日登場の粟手トリスがボケキャラなので、必然的にツッコミポジとなった次第です。
ちなみに、個人的には『アイドルマスター』・・・と言うより『ぷちます!』の秋月律子的な感じで書いてます。
522
:
記憶の中の茶道部(第二話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 22:04:14 ID:fHZ4Bbrc0
今から五十年近く前……地球は怪獣や侵略者の脅威に晒されていた。
人々の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く光の国から彼らはやって来た……『ウルトラ兄弟』と呼ばれる、頼もしいヒーローたちが!
……しかし、それはテレビの中……もしくは他次元における地球でのお話し。
この次元の地球には、ウルトラの父によって派遣された若き勇者が来ることも、アスカ・シンの声に導かれたウルトラセブンの息子が来ることも、
そして未来ある若者を宿主に選んだ未来のウルトラ戦士が来ることも無かった。
無論、地底世界に住むウルトラ戦士も……である。
では、来たのは誰か?
ペギラか?ケロニアか??アイロス星人を追って来たクラタ隊長か???
その答えは……。
その日、夜にもかかわらず、天江家の庭では竹刀を強く振る音と竹刀を振っていた天江ルナの大声が交互に発せられていた。
「どりやぁ!とぅあっ!!セイヤーっ!!!うぉおおおお!!!!……ふぃ。」
三十分近く続けていた素振りに疲れを覚え、竹刀を下ろすルナ。
その直後、庭へと通じる大きな掃き出し窓がガラガラと音を立てて開き、そこから一人の男が顔を出すのであった。
「ルナ、食事の用意が出来たけど……タイミング的に大丈夫か?」
その男……ルナの父である天江ライトが話しかける。
「あ、うん。シャワー浴びたら、すぐに食べるよ。」
「それにしても……最近どうしたんだ?前々から庭で素振りをしてはいたが、何と言うか……全ての怒りをここにぶつけているような?」
「……そりゃね……怒りもね……溜まりますよ……!セイッハァアアアアッ!!」
突然、宙に向かって竹刀を一閃するルナ。
その足元には、竹刀であるにもかかわらず、まるで真剣で斬ったかのように縦に真っ二つとなったスズメバチの姿があった。
「お見事。」
「……シャワー浴びてきます。」
「ところで、ルナ?例の……『超次元茶道部』だっけ、あれはどうなったんだ??」
「お父さん……『超次元』じゃなくて『格闘』。それじゃあ、まるで宇宙刑事の戦闘母艦じゃない。」
ツナサラダと中華風ツナステーキを食べつつ、天江親子はマニアックな会話を続ける。
「ごめんごめん……で、その格闘茶道部はどうなんだ?そりゃ、剣道部に入れなかったのは不本意だろうけど……
でも、その剣道チャンピオンの人の近くに居れば、おのずと技を盗め……。」
会話に花を咲かせようとするライト。
しかし、ルナの表情は複雑であった。
523
:
記憶の中の茶道部(第二話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 22:09:55 ID:fHZ4Bbrc0
「あのね、お父さん……私がいつもしてる素振りの量を、最近二倍にした理由って分かる?あの女ねぇ……
やることが適っ!当っ!!過ぎるのよっ!!!」
大声をあげるルナ。
「ひぇっ?!」
その声に、ライトはただただ怯えるしか無かった。
「聞いてよ、お父さん!この間もね……。」
それは数日前の出来事であった。
体育館の中に響き渡る、竹刀と竹刀がぶつかり合う音。
そして、汗ばんだ素足と床が合わさることで発生するキュッキュッという音……
それは、まさに剣道部の在るべき光景だった。
しかし……本来、その場に加わるべきであったルナは、茶室のフスマを挟んだ環境でその音を聞かざるを得ない状況と化していた。
理由はただ一つ……彼女は今、『格闘茶道部』の副部長として、知識の無いまま部長である御地憑イッサの点てた抹茶を
受け取らなくてはならない環境に居たからであった。
「さぁ……お茶をどうぞ。」
「……はい、頂きます。」
不満な気持ちを抱きつつも、とりあえず自分の知っている範囲の知識でイッサから茶碗を受け取るルナ。
そして、慎重な動作で茶碗を回した後、茶碗を口元へと傾ける。
「えぇっと……結構な、お……お手前で……。」
『苦み』以外の特徴に関して何も言えず、再び自分が知っている範囲の知識で返答するルナ。
一方のイッサはニコリと笑いながら彼女をジッと見る。
「あらあら……ところで、お茶菓子は召し上がらないのですか?」
「……あの……そのこと何ですけど……。」
「はい?」
困惑するルナと満面の笑みを続けるイッサ。
そんな混沌した環境を茶室に作り出していた要因となっていたのは『電雷!なぁぷりん』と大きく描かれたラベルの貼ってある
『プリン』であった。
「お茶菓子って……このプリンですか?」
困惑した表情のまま、ルナがイッサに質問する。
「そうよ?この間、学園近くのスーパーに行ったら安売りしててね……しかも、私プリンって大好きなのよ。
せっかくだから、この格闘茶道部で!って思ってね。」
「……あの……安売りしてたのは分かりますけど……。」
そう言いながら、さらに困惑した表情を見せるルナ。
その表情に気付いたのか、今度はイッサがルナへ問いかける。
「今度は何?」
「……お皿とか無いんですか……それ以前に……スプーンは?」
プリンを容器から落とす皿が無い……プリンを食べるのに必要なスプーンが無い……
この二つの要因が彼女の困惑にさらに拍車をかけるのだった。
524
:
記憶の中の茶道部(第二話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 22:16:18 ID:fHZ4Bbrc0
「ごめんなさいね。格闘茶道部設立に当たって、茶室やら茶釜やら手配したら小物の手配に気が回らなくて……。」
「……あの……どうやって食せと?」
「どうしましょう……ちょっとマナー違反だけど、口の上でプッチンして食べて……ね?」
「……はぁ?!」
「ね?」
「……。」
「ね?」
「……。」
「ね?」
「……。」
イッサの、たった一文字の圧力に対し、ルナはただただ屈服するしかなかった。
「……分かりましたよ。」
そう言ってプリンの容器を持ち上げ、底部にあるピンを倒してプリンを口に放り込むルナ。
とりあえず、口に残った抹茶の苦みをプリンの甘みで消すためにプリンを口の中で転がすルナであった……が、この直後にイッサは一言呟いた。
「……あら?このプリン……消費期限が一週間前だわ。」
この直後、『黄色いしぶき』が茶室入り口のフスマに飛び散ったのは言うまでも無い。
「うわぁ……そりゃ災難だったなぁ。」
話を聞き、悲しそうな表情を見せるライト。
一方のルナは、『思い出し笑い』ならぬ『思い出し怒り』をしつつ、茶碗に残った飯を勢いよくかっ込むのであった。
「ホント……モグモグ……嫌になる……モグモグ……わよ……モグモグ……おかわりっ!!」
「おいおい……怒りながら飯食うのは良いが、調子に乗ると太るぞ。」
「……!ハッ、いかんいかん。」
「まぁ……とりあえず、半分にしとくか?」
「いや、要らなくなってきちゃった……ごめんなさいね。」
そう言って、コップに入った麦茶を飲み、一息つくルナ。
「私……どうしたら良いんだろう……。」
ルナの口から洩れる呟き。
しかし、呟いたからと言って何かが状況が一変する訳でも無かったため、
彼女は台所の奥に置かれた『写真立て』をただただ見つめるしか出来ずにいたのであった。
「お母さん……。」
それから一週間後……。
かなりの時間が経過したにもかかわらず消えることの無かった憂鬱な気持ちを抱えたまま、
ルナは仁科学園中等部一年の教室に居た。
昼休みを迎えた今、周りの生徒は昼食や談笑を楽しんでいる。
しかし、ルナには何かを『楽しむ』気力など存在していなかった。
今、彼女に出来る最大限の行動……それは机に突っ伏して寝ることで、現実が逃れる……
まさに、それは彼女のみしか存在しない『閉鎖空間』形成への過程であった。
525
:
記憶の中の茶道部(第二話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 22:23:07 ID:fHZ4Bbrc0
そんな時、ルナの閉鎖空間へと突入を試みる一人の女子生徒が居た。
「どうしたんよぉ、ルナちゃん?」
「……その声……ヒビキさんか。」
顔を突っ伏したまま返答するルナ。
一方の女子生徒=粟手ヒビキは心配そうにルナへと話し続ける。
「ルナちゃん、元気無いねぇ。部活決まったんじゃないの?」
「決まったは決まったけど……。」
「だったら、元気ゲンキ!私なんて、和太鼓やりたかったけど部活動に無くて……
最終的に学園近くの公民館でやってるサークルに入ることになったんだし。」
「相変わらず好きねぇ……太鼓。」
「そうとも!太鼓とゴーヤーは私のフェイバリットさね!!……ところで、何部?」
「それが……その……。」
机に突っ伏すの止め、気まずそうにルナが顔を上げたその時であった。
「……おーい!ヒビキちゃ〜ん!!」
入り口のほうから聞こえてくる小さな声。
その方向を二人が振り向くと、そこには中学生とは思えないほど小さな女子生徒が一生懸命に飛びながらその存在をアピールしていた。
「……誰?」
「ルナちゃん、ちょっと待ってて……どしたの?」
入り口に向かいつつ、小さな女子生徒に対応するヒビキ。
そして、女子生徒と二言三言の会話をすると、彼女は自身の机から一冊の本を取り出し、女子生徒へと渡すのだった。
どうやら、その女子生徒はヒビキから英和辞書を借りたかったようであった。
「……あ、跳ねながら帰ってった……何だろう、あのミニウサギ的なぷち感……。」
入り口での光景を見て、おもわずつぶやくルナ。
一方のヒビキは、一仕事終えた様相で再びルナの前に現われる。
「ヒビキさん、何かあったの?」
「いやね、英語の辞書忘れたらしくて。いやはや、そそっかしいなぁ……。」
「……あ、ところで誰なの?あの、ミニウサギ的な生徒は??」
ルナが問いかけたその時だった。
「ちょっと失礼。」
ルナとヒビキの間を割り込むように聞こえてくる声。
その声に方向を二人が見ると、そこにはルナにとって『会いたくない人物』が居た……無論、それは御地憑イッサのことである。
「部長?!」
「……ルナちゃん、この方は?」
ヒビキの問いかけにルナが答えようとする……が、再び二人の間をイッサの声が割り込む。
「副部長、部活動のことで問題が発生しましたわ。今すぐ、家庭科室に来てください。」
そう言って、そそくさと去るイッサ。
一方のルナたちは、イッサの一方的な行動にただただ黙るしかなかった。
「……ルナちゃん……とりあえず行くのがベストだべな。」
「……んだ。」
526
:
記憶の中の茶道部(第二話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 22:30:42 ID:fHZ4Bbrc0
それから数分後、ルナの姿はイッサと共に家庭科室の中にあった……が、
何故自身が家庭科室に呼ばれた理由に関しては依然として不明だったため、ルナはイッサに問いかけるのであった。
「あの……部長?要件は何なんでしょうか??」
「大変なことが起きました……。」
「……はい?」
「……以前、スーパーで大量購入したプリン……その消費期限が全て切れてしまい、
我が格闘茶道部におけるお茶菓子の在庫が無くなってしまいました。」
「……。」
逃げ出したくなる衝動に駆られるルナ。
彼女の心の中はトップギアからクラッチを踏みつつ二速、三速へとギアチェンジしつつ……であったが、
それを無視してイッサは話を続ける。
「そこで、副部長……何か作ってください。」
「……は?」
「材料に関しましては、家庭科室に残っている物を使って良いと許可は貰いました。さぁ……作りなさい!
Allez cuisine(アレ・キュイジーヌ)!!」
「……いやいやいや……ちょっとストップ。」
怒りを通り越し、呆れ顔になるルナ。
「大事な昼休みの最中、呼び出されたと思えば……しかも、私……料理に関しては苦手では無いですけど、
だからと言って得意でも無いですし……。」
「……そうですか。ならば……最終兵器しかありませんね。」
「???」
「副部長、裸になりなさい。」
「……?!?!?!?!?!な……何で、そんなに話が飛躍するのよ!!!!!!」
イッサのいきなりな発言に、おもわずタメ口で返答するルナ。
「副部長……こうなったら、あなたが裸になるしかありません。この日本には『女体盛り』という伝統文化があります。
アレ的な感じで……まあ、問答無用で私にお茶菓子として食べられて下さい。」
「何をふざけ……?!?!?!?!?!?!?!」
再び言い返すルナ…であったが、目に飛び込んだイッサの様相におもわず黙ってしまった。
宙を揉みしだくかのようになめらかに動くイッサの両手、血走るイッサの両目、興奮によって紅潮するイッサの両頬、
そしてその両頬を伝うかのようにして口からあふれ出るヨダレ……。
ルナの目の前に居たのは『格闘茶道部の部長』ではなく『若い女性を喰らう物の怪』としか言いようが無かった。
527
:
記憶の中の茶道部(第二話)
◆n2NZhSPBXU
:2014/09/10(水) 22:37:15 ID:fHZ4Bbrc0
同時刻、仁科学園内の廊下を走る一人の生徒の姿があった。
それは、先程ルナが教室で見かけた『ミニウサギのような生徒』であり、彼女の目的地は家庭科室であった。
「あっちゃっちゃぁ……ヒビキちゃんに辞書借りたのは良いけれど、まさか家庭科室に肝心のプリントを忘れるとは……。」
英和辞書を小脇に抱えつつ、小さい体を一生懸命に揺らしながら家庭科室の前へとやって来る生徒。
そして、力を込めて彼女にとっては重めの扉を開けると、広がった隙間から見えてきたのは……『修羅場』だった。
『……そうですか。ならば……最終兵器しかありませんね。』
『???』
『副部長、裸になりなさい。』
『……?!?!?!?!?!な……何で、そんなに話が飛躍するのよ!!!!!!』
『副部長……こうなったら、あなたが裸になるしかありません。この日本には「女体盛り」という伝統文化があります。
アレ的な感じで……まあ、問答無用で私にお茶菓子として食べられて下さい。』
『何をふざけ……?!?!?!?!?!?!?!』
「……?!」
突然の出来事にパニックになるものの、何を思ったのか瞬時に自身の気配を消し、
家庭科室で行われている光景に対して釘付けになる生徒。
「……凄い……これが『百合』ってやつかぁ……。」
何か間違っている気のする知識を展開する生徒であったが……彼女がこの光景に集中し過ぎたあまり、
彼女は小脇に抱えていた英和辞書を落としてしまうのであった。
廊下のタイルとぶつかることで発生する、バサリという紙の束の音。
その音は生徒の耳だけでなく家庭科室に居たルナとイッサの耳にも届き、
家庭科室で展開していた修羅場の矛先は彼女にも向けられた。
「あ……あ……。」
二人に気付かれたことに気付き、恐怖で動けなくなる生徒。
一方の物の怪……もとい、イッサはルナを押し倒そうとする行為を中止すると、無言で生徒のもとへと歩み寄る。
「私……私……。」
次第に涙目になる生徒。
しかし、そんな彼女に構うこと無く彼女のもとへと辿りついたイッサは、彼女の体をヒョイと持ち上げ、
そして彼女を家庭科室の机の上に座らせてこう問いかけた。
「あなた……お茶菓子は作れます?」
「あ……あの……はい。」
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