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【シェアード】仁科学園校舎裏【スクールライフ】

228ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:43:07 ID:PcnBtueQ0

夏休みに入った。
部活が無いなら夏期講習に行くかバイトをするか、どちらかをしろと鬼のような形相で母親から言われ、僕は夏期講習を選んだ。

部活が無いわけじゃない。僕だって一応、部活に所属してはいる。
潰れる寸前の『数学研究部』。
本気で研究とやらをやろうとするものは誰も居ない。実質、帰宅部同然のユルい部活。

見学に行ったとき、部室でカードゲームをしていたのが、入部を決めた理由だった。
もともと、テーブルトークRPGや麻雀をやってみたいと思っていたから。

けれど、2年になってから僕は一度も部室に行っていない。
カードゲームは相手がいないと出来ないのに、ゲームをしていた先輩たちはいつの間にか来なくなり、代わりに質の悪い連中が
出入りするようになった。
カツアゲされるくらいなら、さっさと帰ったほうがいい。

この夏は連中も来ないだろうが、先輩たちも来ないだろう。
というわけで、僕は予備校の夏期講習に通うことになるのだ。

今は2年生。受験なんて、すぐにやってきてしまうんだろうな。
出来ることなら考えたくもないのだけれど。

予備校には、いずれ通わなければならなくなる。
予備校に行かずに受かってやるぜ! と豪語して憚らない奴もいるが、たいてい某通信教育講座をせっせと提出していたりするので、
やっていることは大差ない。

大人しくそこへ通う自分に、なんとなくブロイラーのイメージが重なる。

会社の言いなりに鬱々と仕事をこなす人を揶揄して『社畜』というそうだ。
僕のような人間は、さしずめ『学畜』とでもいうのだろうか。


                         *

229ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:45:02 ID:PcnBtueQ0

予備校の雰囲気というのが、僕はけっこう苦手だ。

好きな人なんて居ないだろうが、熱心に勉強している連中のうちには、予備校を愛して止まないのではと思えるような連中がいる。
問題の解き方を、まるでゲームの攻略法を話すかのように得意気に講釈している。
スポーツの出来る奴が技を見せつけるのと同じように、彼らは自分の頭脳がどれだけ優れているかを見せつけているのだ。
それも、本人の自覚なしにやっていると僕は思っている。

運動のできる奴には、体育の時間、気まずい思いをする人間の気持ちは分からない。
勉強のできる奴には、テスト前の億劫な気持ちは、本質のところで理解出来ない。

僕みたいな、特に取り柄も無く、かつ目立った欠点もない人間の気持ちはどうなのだろう。
僕は、そのどちらとも深いところで共感していない。
ドラマや漫画だったら「その他大勢」で括られるタイプだ。

なんて薄っぺらい人生なんだ。
代わりはいくらでも居る。

僕の存在意義って、何なのだろう?
机の前で、はたと考えてしまう。

高校二年の夏休みの夜。僕は予備校の問題集を前に、ぼーっとしている。
いま、この時間もやがて「輝ける青春時代なんちゃら」となるのだろうか。
とてもそうは思えない。
テレビで見るような、スポーツ選手や芸能人らが語るような人生と僕のそれとは、まったく濃さが違うように思える。


                            *

230ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:47:57 ID:PcnBtueQ0

――くそ、暑いな。

夜になってから、一段と湿度が増した気がする。

コンビニに行ってくる、と言い残して家を出た。
途中までは言ったとおりコンビニに寄って、ミントタブレットとマンガ雑誌を買う。

その足で公園へ向かう。
幼い頃はブランコを漕ぐためか、雲梯を渡り切るか、はたまた砂場で超大作要塞を造るために訪れていた場所だ。

午後11時を回っている。
当然ながらこの時間、そんな野望を持った勇者は現れない。
代わりに居る可能性があるのは飲み過ぎたおっさんか、OLを口説くイケてないリーマンか、
今時シンナーもねえだろ! ってツッコミ待ちのヤンキーくらいだ。

それも、ごくたまーに居るくらいで、基本的には寂れた公園。
そしてそこは今夜も無人だった。



ベンチにかけると、ポケットからそれを取り出す。
タカハシから貰ったMarlboro menthol、通称『マルメン』のボックス。
百円ライターで火を点け、心持ちゆっくり吸い込む。


1年の文化祭の頃だった。
僕はタカハシとつるむようになっていて、クラスの出し物を作ったり、体育祭に向けて練習(よさこいを踊るのだ)したりした帰りには、
寄り道しながら二人でよくダベっていた。

夜の公園で、他愛もない話をしている時だったと思う。
タカハシは無造作にタバコを出して、火を点けた。
それは手慣れているようにも見えたし、僕に見せつけるようでもあった。
そして、
「どうよ? お前も」
といって差し出した。

罪悪感は無かった。見つかるかもしれない、という緊張も無かった。
僕はそれを受け取ると、それを咥え、タカハシを見た。

「ちょっと吸ったら口の中に溜めて、鼻でもう一回吸うんだよ」
ライターの火を差し出しながらいった。

咽るだろうと思ったけれど、案外すんなりと煙は入って、僕は拍子抜けした。
コツを確かめるためにもう2回吸ってみた。
タバコの匂いが口の中から鼻の裏側に抜ける感じがして、何とも奇妙だった。

「お、初体験にしちゃ上出来じゃん」
タカハシは嬉しそうに言い、自分も煙を吐き出した。

僕もなんとなく嬉しい感じがあったけれど、それは不良っぽいことをしてるからとか、そういうのとはちょっと違っていて、
タカハシと秘密を共有している為かもしれないけれど、結局のところその「嬉しい気持ち」の正体は分からなかった。


                          *

231ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:51:05 ID:PcnBtueQ0

僕は一体、何者に成れるんだろうか?
ふと、文字に起こすと恥ずかしくてとてもじゃないけど正視できないような問いが、頭の中に沸き起こる。

中学の、卒業が間近に迫った頃だった。
将来何になるか、という話題で話しあう授業があったのだ(今にして思えば、なんとベタでこっ恥ずかしい話題だったと思う)。
とりあえずでも、何か適当で無難な目標を出しておけばよかったのだが、僕はそう頭の回る中三じゃなかった。
だから馬鹿正直に言ってしまったのだ。

「ぼくは、自分が何になりたいかわからなくて、なやんでいます」

なんであんなことを言ってしまったのだろう。とくに「なやんでいます」あたりが悔しくて恥ずかしい。
案の定、「セイシュンだねー」などと冷やかされ、僕は顔が火照ってくるのを感じていた。
出来ることなら今すぐにでもあの時に戻って、僕自身を蹴り飛ばしたい気分だ。

けれど今、タバコをふかしながら僕が考えていることは、あの時とまったく変わっていない。
進路ひとつ決めかねて、高二の夏休みに突入してしまった。
勉強は、とりあえず予備校の問題集を予習して講義を聞いて答え合わせして、学校が始まれば適当に授業受けて試験受けて、成績が決まっていく。
流れ作業だ。
けれど、授業を取るにも選択授業なんかが入ってきて、自分の進路に合わせて選択する……

だーっ! 
なんだ、どこへ行っても進路、進路、進路! 
決められないって言ってるじゃんか!
猶予はないのか猶予は! 
そもそも、決めたら途中変更なしって、何この不親切設計なゲーム!

そうだ、ゲームだ。
受験も就職も、結局ゲームなんだ。
勝ち組がいて、必勝法とか攻略法があって、どうしても勝てない下手な奴もいる。

僕は、ゲームの仕組みを把握する前に負けてしまうタイプだ。
友達とゲーセンに行くと、大概そうなる。


赤い光が、向こうの路地を横切った。
パトカーが音を鳴らさず赤色灯だけ光らせて、住宅街をゆっくり回っていた。
ハイブリッド車は音がしないから、いきなり現れてドキッとさせられる。
僕は慌ててタバコを消し、箱をパンツの中に隠して、ミントタブレットをジャラッと口に流し込んだ。

平静を装って、パトカーが向かった方と反対側の入口から出る。
ミントが鼻に抜けて、わさびを食ったようなツーンとした刺激が目に刺さる。
涙目になりながら、僕は家へ帰った。

232名無しさん@避難中:2013/07/24(水) 22:52:01 ID:PcnBtueQ0
↑ここまでで 失礼しますた

233名無しさん@避難中:2013/07/27(土) 10:16:08 ID:54p3J/760
>>228-232
苦い青春ってやつですかね、青いなぁ…

234名無しさん@避難中:2013/07/27(土) 20:05:51 ID:gjLxBrIk0
仁科に足りないもの。それは…

メガネっ娘だ!


いたっけ?いないよね?ってか、下さい!!!

235ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:17:52 ID:S6irFZSo0

進路相談室へ行くには、南棟の3階へ上がり、西棟への渡り廊下を通るのがもっとも早い。
けれど僕は、1階へ降りて西棟へ入り、そこから上へ上がっていくルートを通ることにしていた。

西棟の2階には、音楽室と音楽準備室がある。
ナギサワがコントラバスを弾いている音を聴くため……というと、なんかヘンタイっぽいな。
けれど、人気のない西棟のなかで響くコントラバスの音色は、なんというか「寂しげなのだけれど、悪くない」感じで、
僕はそれを期待しているところはあった。


いつも思う。
こんなことをするくらいなら、声でも掛ければいい。いつぞやのバス停で遭った時みたいに。
僕は素知らぬ顔をして2階を通り過ぎる。
あ、つっかえたな。とか、良いメロディだな。などと、聴こえる音だけをもとに想像するだけだ。
それに何の意味があるのだろう? 


「気になってるなら、話しゃいいだろ」
タカハシは呆れ顔で言う。

「だから、そういうんじゃないんだって」

なにが“そういうのじゃない”だ。僕自身が一番よく分かってるはずだ。



夏休みに入り、僕には学校に行く理由がない。
当然、ナギサワのコントラバスも聴けない。
話のひとつもしておけば、来週に予定されている商店街の夏祭りに、一緒に行けたかもしれない……

「何が? 笑っちゃうよ」

自分で自分を嘲笑う。
そんなこと、僕にできるはずがない。だいいち、ナギサワにだって彼氏くらい居るかもしれないじゃないか。


夏祭り。
中学2年からは行かなくなった。
小学生の頃は友達と行っていた。中学に上がって最初の夏休み、友達がつかまらなかったので一人で行った。

中学に入って疎遠になった連中を見かけた。
髪を染めて派手な柄のシャツを着て、背の高い怖そうな上級生たちと、大きな声で笑いながら歩いていた。

近寄りがたい雰囲気だった。
向こうは僕に気づいていなかったようだったけれど、もし気づいていたとしても快い再会とはならなかっただろうと思った。

女の子たちは、まるで別人のように化粧をしていたし、とても大人びて見えた。
それほど見かけの変わらない娘も見かけたけれど、隣には別のクラスの男子がいた。
腕を絡ませて、楽しげに歩いている。


僕はその日以来、夏祭りには行かないことを決めた。少なくとも、一人では。




236ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:24:31 ID:S6irFZSo0

「タカハシ、夏祭り行く?」
電話で聞いてみる。答えは分かりきっている。

「はぁ? 何の冗談だよ」
「行かないんだな。僕も行かないから、どこか違ったところへ行こう」

アテがあるわけではなかった。人混みの嫌いなタカハシと、とにかく家に居たくなかった僕は、蒸し暑い夏の夜にとりあえず出かけたのだった。



湿度の高さが実感できる。濡れたラップが腕に貼り付くような感覚だ。

「どこに行くんだよ」
タカハシは原付をのったり走らせながら喚く。

古びたマンションの前で自転車を止めた。
大きいマンションだが、オートロックなどはついていない。ここの屋上へは、わりと簡単に出入りできるのを僕は知っていた。

小学校の頃の友達の一人が、ここに住んでいたので屋上へも上がったりしていたのだ。
もちろん、設備点検用のはしごを使うのだが、人目に触れず鍵も掛かっていなかったので、僕らは探検気分でよく上っていた。
今もその通りかどうかは分からず不安だったが、何年ぶりかの屋上へのはしごは、相変わらずだった。

「なんだよ、よく知ってんじゃんお前」
タカハシは意外にも乗り気ではしごを上った。



屋上へ出ると、風が吹き抜けていくらか涼しかった。
もやに覆われた朧月が輝いている。

占いをするのにはぴったりなシチュエーションだ。
僕は屋上フロアの真ん中に座り込むと、ウエストバッグからタロットを取り出した。




237ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:28:57 ID:S6irFZSo0

カードを切り、ときおり本を参照しながら、屋上のコンクリートのにカードを裏向きにして伏せていく。
うろついていたタカハシは僕の行動を見ても無言だった。立ったまま、並べられたカードを見ている。

『スリーカード』という、見たまんまなスプレッド。3枚のカードを横に並べ、それぞれ左から過去・現在・未来を暗示する。
スプレッドとは、カードの並べ方のことだ。本には、他に『ホース・シュー(馬蹄)』と『ケルト十字』が載せられていたが、難しそうなのでやめた。


伏せられた3枚のカードを前に、僕は深呼吸した。

まず一枚目。中央のカードをめくる。


【月】のカード。正位置なので、カードのままの意味だ。


「……」

黙っている僕を、タカハシが怪訝そうに見る。

朧月のもとで月のカードを引くとは、ちょっと出来過ぎな気もする。けれど、このカードの意味はあまり良くないと思った。

迷い、裏表、虚偽、欺き……
とらえどころ無く姿を変える月になぞらえたカードの意味は、そのようなものだ。


たしかに僕は今、迷っている。
進路のことが主だけれど、それだけじゃない。
自分の今の生活についての漠然とした不安とか、……よく分からないけど、たぶんナギサワのことも。


タロットカードは、ぴたりとそのことを言い当てているような気がした。
僕は少し怖ろしく思いながら、月のカードを見つめていた。

「それは月のカードか。今の状況にピッタリだな」
タカハシはたぶん、月の照らす屋上での僕等のことを言ったのだろうけど、僕はドキリとして思わず顔を見上げた。

タカハシの顔越しに、朧月が見える。
月というのは綺麗だけれど、なかなか本性を見せてくれないレアモンスターみたいなところもあるなと思った。

238ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:52:33 ID:S6irFZSo0

「何について占ってんの」
タカハシが尋ねる。僕は、「自分のこと」と短く答えた。
彼はそれ以上は聞かず、黙って見守っていた。


二枚目。一枚目の左側、『過去』を意味する位置だ。


【女教皇】の逆位置。


正位置ならば聡明、理知的なんかを意味するカードだ。逆位置ということは……
利己的、無理解……なんかの意味だったはずだ。

これは、どう解釈したらいいのだろう。
タロットには、ほかに【教皇】というカードもある。男性か女性かの違いは、カードの意味にも影響している。

僕のイメージでは、【教皇】はベテランの老教授。酸いも甘いも噛み分けた、知性の塊だ。
対し、【女教皇】のイメージは、デキる女性塾講師。綺麗で頭も良く、テキパキしているけれどちょっと冷たい印象で近寄りがたい。

逆位置はネガティブなイメージが表に出ている状態と僕は解釈している。
すると、ヒステリーや妬み、非情なんかの言葉が上がってくる。

妬みを受けた覚えはない。気づいていないだけかもしれないけれど、そもそも僕は、人に妬まれるほどの何かを持ったことはない。


――待てよ。

僕の周りが、じゃなくて、僕自身を指しているのだとしたら?

僕はどこかで人に冷たくしたり、近寄りがたいと思わせる態度をとっていたりしたのだろうか?
それが、今の状況の遠因になっているのだとしたら……。

思い当たるフシがないわけではない。
僕は誰ともぶつからないよう、自分で言うのもナンだけれど、人当たり良く接してきたつもりだ。
でも、その実、誰とも打ち解けられないと思ってもいた。
どうせ誰にも理解されないのだから、自分の意見なんか口に出さないほうがいい……僕は、そう思って過ごしてきたかもしれない。

その態度を、見えない壁を作っているように思う人間がいたとしても不思議じゃない。

でも、それって悪いことか? 誰にも迷惑をかけない、良い対処法じゃないのか?

239ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:58:02 ID:S6irFZSo0

あらためてカードを眺める。
3枚のカードのうち、右端だけが裏側に伏せられている。

この伏せたカードが、僕の将来を暗示するカードだ。

現状は、「迷い」。過去は、「非情、冷ややか」。

はっきり言って、良い要素が無い。
カードをめくるのが怖い。
これで、3枚目も良い意味に解釈できなかったら……


ああ、と呻くように再び顔を上げる。

月明かりに照らされた腕が、僕の鼻先にタバコを差し出した。
タカハシは既に煙を燻らせ、顔をしかめながらいたずらっぽく笑ってみせる。

僕はそれを無言で受け取り、唇に挟んだ。
タカハシがマッチを擦る。
ちょっと懐かしいような燐の匂いと、パッと目の前が明るくなった感じで、僕はいくらか勇気づけられた気がした。


火をもらって、僕は大きく煙を吸い込み、ゆっくりと吐く。
いくらか気分は落ち着いたかも知れない。


――よし。

意を決して、3枚目のカードをめくる。

240ワンオラクル[8]:2013/08/01(木) 00:20:42 ID:wufM1qxU0



【死神】の逆位置。




この期に及んで、死神とは。
どこまでも出来過ぎていると思った。


死神のカードは文字通り、死や終焉を意味するけれど、逆位置となると話が違ってくる。

再生やポジティブな意味でのリセット、しがらみを断ち切るような意味合いになる。
僕はホッとした。少なくとも、未来に希望が持てるカードが出たからだ。
そして、それは僕自身が願ってやまないものでもあった。

この鬱屈から逃れたい。余計なものを切り捨てて、新しい自分になりたい。
そういう願望を、このカードは示していた。


タロットは、怖い。
術者の心理を反映しすぎる。

自分で自分のことを占うのはやめようと思った。これでは心がもちそうにない。


すべて出揃った3枚のカードを眺めながら、僕は再びタバコを口に咥えた。
安っぽいメンソールの香りが鼻から抜ける。


僕もタカハシも、無言だった。二人でタバコをふかしながら、夏の夜の屋上で、月を眺めながら座っている。
奇妙な、たぶん今しか無い瞬間だと思った。

241名無しさん@避難中:2013/08/01(木) 00:22:09 ID:wufM1qxU0
↑以上で

242名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 04:28:18 ID:vuaZtvGc0
>>226
かわいい!ありがとう!
黒ニーソに白い靴ってエロいアイテムだよね。
後輩は衣装持ちなイメージだけど、こういうフォーマルっぽい?のがよく似合う気がする。いや俺の好みもあるけど!
あとこういうドヤ顔も似合う。

>>234
そういえばいなかった……ような……。
リアルの眼鏡率から考えればこれは異常なこと。一刻も早く是正されなくてはならない。
差し当たってさす迫先輩を女装させよう!

>ワンオラクル
おお、お久。
このハードボイルド小説みたいな?隙間風を感じさせない文章、雰囲気があってかなり嫌いじゃない。
青春にありがちな鬱屈さの中にも爽やかなものを感じる。
占いってのも自分の内面に斬りこんでいく面白いツールなんだなと思った。
関係ないけど今ちょうどペルソナ3に嵌ってたところだし幻影ヲ何とかってアニメやってるし、タロットキてるなこれ。



俺も投下しまっすー。
なんかワンオラクルさんの余韻の中でこんなの投下するのもアレなんだけど、時期的にヤバい。

243先輩、山で!海で!里で!:2013/08/03(土) 04:30:00 ID:vuaZtvGc0


「先輩、夏休みの予定を立てましょい!」
「しょい!?」

 一日を一年に置き換えるとすると昼休みは夏休みになるんじゃないかな?などと死ぬほどどうでもいいことを
薄らぼんやり考えていると、いつもの後輩が上級生を蹴散らす勢いで飛んできた。

「……ちょっと舌が回りすぎましたね。然るべき時のためにとディープな練習をしすぎたせいでしょうか」
「俺に近寄らないでくれるかな」

 そういう方向にオープンな女子って好みじゃない俺。

「もう補習すべきおバカさんたちの炙り出しも終わった七月半ばですよ! サマーヴェイケイションをとことん
楽しむためには綿密な計画を立てなくちゃ嘘です!」

 「…補習……」「……おバカさん……」「……サマーバケー……ヴェイケイション……」 流れ弾を食らって
ダメージを受ける補習者たちには一瞥もくれてやらず、後輩はぐいぐいこちらに身を乗り出してくる。

「先輩、可愛い閑花ちゃんといっしょに、ひと夏のときめきメモリアルをしこたまこさえましょうではありませ
んか! 山で! 海で! 里で!」
「里……」

 そっちは別に誤用というわけでもないはずなんだが、なぜか妖怪図鑑の出没場所の区分けみたいだと思ってし
まったのは、この後輩に対する俺の心証のあらわれなのだろうか。執念深さと情の深さは妖怪というより悪霊ぽ
いけど。
 とびきりタチの悪いやつね。

「夏休み、ねえ……」

 七月終盤から八月末日まで、仁科学園にも夏期休暇がある。しかし、日頃から学園の中で充実した高校生をや
っている俺にしてみれば、みんなほど心待ちにしているわけでもない。

「よし、俺は家で大学受験の勉強をしてよう」
「あはは。ありえませんねー」

 何がだよ。後輩ごときに一笑に付されると地味に傷つく。
 俺にとっては高校二年の夏休みとなるわけで、来年はバリバリの受験生だ。
 のんきに遊んでいる時間など……時間など……、まあそれはまだなきにしもあらずなのだが、この後輩を遠ざ
ける口実として受験勉強というのは悪くない。

「せっかくの性春ですよ、一回こっきりの高校性活ですよっ、可愛い彼女もとい食わぬは恥の据え膳ちゃんもい
るんですよ!」
「せめてもといの前後、逆にしないか」

 何だか微妙にアクセントがおかしかったことには触れない。蛇のいる藪を突つく馬鹿はいない。

「お勉強なんてのは、特進クラスの瓶底メガネどもに任せておけばいいのです」
「なんであらゆる方向に毒吐いてんだ今日のお前は」
「お勉強なら誰でもできますが、私と遊べるのは先輩だけなんですからね?」
「可愛らしい台詞に見せ掛けてすごい自分本位だな!? 俺が勉強するの、俺自身のためだからな?」

 一蹴するも後輩はめげない。

244先輩、山で!海で!里で!:2013/08/03(土) 04:32:00 ID:vuaZtvGc0

「じゃあこうしましょう。ふたりっきりで合宿! お泊り! 山で! 海で! 里で! お城っぽい外装のホテ
ルで!」
「はは、お前とは絶対行かないわ」
「そ、それって、ホテルの話ですよね? 山と海と里ならごいっしょしていただけるんですよね……?」
「寄るなうっとーしい!」

 いきなりすがりつくような弱気の目になる後輩だったが、邪険に追い払うとけろりとした顔であっさりと定位
置に戻った。こういう切り替えの早さには感心する。

「でも我ながら合宿っていいアイディーアだと思うんですよね。先輩はお勉強、私は花嫁修業。お義父様お義母
様は夫婦水入らず新婚気分で先輩に息子と弟がいっぺんにできちゃうかも!
 ……はー。完壁です。関わった人みんなが幸せになる完壁な提案です。頭いいです」

 後輩は教室後ろの小黒板に飛びつき、カカカッとチョークで「もう完壁!!」と書き、これでもかと幾重にも円
で囲んで強調した。

「完璧の漢字間違ってるぞ。お前こそ補習に出て書き取りでもしたら?」
「んっふっふー。こう見えても私、書き取りは毎日お家でやってるんですよね」

 後輩はどこからともなく取り出した大学ノートで恥ずかしそうに口元を隠した。不自然な話の流れとコントみ
たいな準備のよさに、もうロクでもないというかおぞましい内容だと察しがつく。
 うんざりと顔を背ける俺に、後輩は頼みもしないのに手ずからページをめくって「ほらほら」とノートの中身
を見せつけてくる。
 そこには、黒鉛を塗りこめるように、同じ文字列がびっしりと書きこんであった。


先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたがし大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はたわしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩が机ふくの台ふき!!


 ……そんなこったろうと思ったよ。
 見たくもなかったが、よく見るとこれ、後輩自身の気持ちじゃなくて俺の気持ちの捏造じゃねぇか……。こん
な自己暗示掛けてて悲しくならないのだろうかこいつは……。

245先輩、山で!海で!里で!:2013/08/03(土) 04:32:46 ID:vuaZtvGc0
 ツッコミどころは満載だが、どれも意外性に乏しくツッコミ甲斐がない。……リアクション芸人でもあるまい
に、ツッコミ甲斐がないなんて評価基準は我ながらどうなんだという気もするが、まあそんなことはこの際どう
でもいいか。

「えへへ。これコピペ使ってないんですよ」

 呪いのノートの横から飛び出る後輩の褒めて欲しげな顔がわけもなくムカツク。

「手書きだからな。分かるよ」
「寂しくて眠れない時に、夜な夜なベッド(私のいい匂いがします)から這い出しては机(私のいい匂いがしま
す)の上で書きつけている私(いい匂いがします)のヤンデレ後輩ノート……」
「エタノールで拭けそんな机」

 ヤンデレなどと言ってはいるが、後輩のはしょせんファッションヤンデレであって特別の脅威には感じない。
いるんだよなぁ、自分で自分のことをヤンデレとか言っちゃう女。……いや、やっぱ聞いたことねぇなそんなヒ
ロイン。
 ……ちなみにこの病的なノートだが、後輩がネタのために一夜漬けで作成した小道具などではなく、ガチのブ
ツだったという嫌すぎる事実が判明するのは、これからおよそ一ヶ月後のことである。

「それはともかく……楽しみですね? 夏休み。合宿」
「合宿に行くとは言ってないからな。別の話題を挟んで撹乱しようとしても無駄だ」

 油断も隙もない後輩だが、俺もまた油断などしていないし隙も作らない。

「陸で! 海で! 空で!」
「自衛隊の広報みたいだな」

 ……空?
 聞こえなかったフリでゴリ押しする後輩をいなしながら、俺は教室の窓から注ぐ夏の陽射しを顔で受けた。
 ……あー。
 ……空、飛びてぇな……。



 おわり

246先輩、山で!海で!里で! ◆46YdzwwxxU:2013/08/03(土) 04:34:24 ID:vuaZtvGc0
以上。
コピペは本当に使いませんでした。

247名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 11:20:52 ID:kALCC4PA0
>>243-246
投下乙!
後輩ちゃん、熱い、暑苦しいwww
でも萌えw

248名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 19:21:09 ID:Nwp7jfHM0
>>243
相変わらず後輩ちゃんはかわいいなぁ! ネタ的にも合宿って良いね
部活陣で誰か書かないかしら |д゚)チラッ

>コピペは本当に

ホラーだww

249名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 22:46:45 ID:gFYGBTo60
ガチモノなんですかwww

250名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 04:39:41 ID:sinLUN/sO
暇だしワンオラクル復活したからタロットの21の大アルカナに仁科のキャラを当てはめてみる企画で雑談しようぜ。
当てはめるのは正位置逆位置の大雑把な意味。本人の属性(性格や部活等)でもいいし、実際の行動、今後するべき行動の示唆でもいい。
今回正と逆は表裏一体と考えて別々にはしない。(いや、俺本当はタロットよく知らないんだけど)


0【愚者】黒鉄懐 ※正:楽天・型破り・新しい発想・天才/逆:愚か・極端・自分勝手


ひとりめ。こいつは確定でいいだろw
そのまんま。
マイナスの意味の言葉も当然出てくるが、あくまでカードの解釈なので気にしないで欲しい。
全て当てはまるとも限らない。

251名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 18:11:43 ID:G5p9G0BA0
マイナス面もほぼそのままじゃねーかwww

252名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 19:20:46 ID:cM720Ijk0

1【魔術師】浅野士乃 ※正:始まり・個性・独創・技能の進歩/逆:創造性の欠如・トラブル・神経質・反抗的


ふたりめ。
かなり悩んだけど創作関係っぽい意味もあるし、士乃かなぁ……。
とりあえす個性的なトラブルメーカーなのは間違いない。そして今日も騒動が始まる。



2【女教皇】
※正:理知的・良識・優しさ・清純/逆:激情・無神経・わがまま・不安定


いきなり難しくなったw
神柚鈴絵、秋月京、黒咲あかね、黒鉄亜子、優陸地奈あたりが候補?

253名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 19:44:02 ID:cM720Ijk0

3【女帝】
※正:繁栄・母性・愛情・家庭的/逆:挫折・過保護・虚栄心・嫉妬・浪費

ようするにカーチャンっぽいカード。
神柚鈴絵、白壁やもりが候補だと思う。あと女帝といえば真田アリスのあだ名がそうでしたね。
先崎のおかん?そ、それは最後の手段!


4【皇帝】大型台 ※正:支配・安定・有能・行動力・勝利/逆:未熟・横暴・傲慢・独断的

うほっ。
いくつかてんで的外れな意味も混じっているが、男らしいイメージ的にはそんなに遠くない……はずだ。
横暴といえば嫉妬でカップル狩って回るほど横暴なこともあるまい。
ちょっと他のキャラは思いつかない(真田基次郎くらい? 先崎俊輔もちょっとカブっている気はする)が、台には別のアルカナも当てはまりそう。

254名無しさん@避難中:2013/08/10(土) 22:31:58 ID:5Sk0YtIA0
6【恋人】
※正:合一、恋愛、性愛、趣味への没頭、楽観、絆、試練の克服
 逆:誘惑、不道徳、失恋、空回り、無視

閑花「先輩!タロット占いです!閑花ちゃんと先輩との輝ける未来を確かめましょう!」

255名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 05:40:16 ID:TPvfFfe60
空回りクソフイタ

256名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 08:30:18 ID:TPvfFfe60

5【法王】
※正:教養・慈悲・慎重・協調性・全体への援助・目上の人物/逆:守旧性・躊躇・虚栄・お節介・鈍感

迫文彦、先崎俊輔が候補。個人的には迫先輩推し。


6【恋人】は飛ばして、


7【戦車】
※正:勝利・成功・克服・向上心・行動力/逆:暴走・自信過剰・強引・不注意・傍若無人

むずい。
大学生の彼女がいる那賀さんか、重量挙げ部かな。
大学生の彼女はひきょうだよな。

257名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 08:34:22 ID:TPvfFfe60
8【剛毅】ロニコ・ブラックマン ※正:勇気・力量の大きさ・意志・不撓不屈・信念・本能と理性の統合/逆:過信・見栄っ張り・派手・逆境・権力の乱用

せっかくの女性柄なのでロニコさんがいいんじゃないだろうか。
強い!絶対に強い!


9【隠者】霧崎 ※正:経験則・理論的・高尚な助言・秘匿・深慮/逆:閉鎖性・陰湿・消極的・偏屈・誤解・悲観的

これもイメージ優先。
【愚者】と関わりのあるカードらしいが、SSでも懐とよく絡んでいるのでなんか笑った。


10【運命】
※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆

これはSS内容から当てはめるしかないかな。ちょっと置いておこう。

258名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 22:10:56 ID:KnGCnBUg0
>>257
8【剛毅】
自分的には黒鉄亜子ちゃんのイメージでした。

ググると『ライオンを手懐ける女性』…はっ!ライオン…懐?
ちっこい体で実は空手の実力者だったりするし。ってね。

9【隠者】天月音菜 http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/74.html
  ※正:経験則・理論的・高尚な助言・秘匿・深慮/ 

 なんか、合うなあ。自分的には。
 SSにあまり登場にないから、もっと活躍させたいなっ。いいキャラなのに。
 ギター少女って、カッコいいやん。

 とんで。

17【星】黒咲あかね
  正:希望、ひらめき、願いが叶う
  逆:失望、無気力、高望み

  「あーちゃんなんて、知りません」
  過去を捨てて、未来を望む。でも、それは高望みだったりする。

 異論はい大いに受けます。ってか、突っ込んで(下さい)!

259名無しさん@避難中:2013/08/12(月) 00:26:49 ID:OElrI83M0
【剛毅】黒鉄亜子がこんなに合うとは思わなかったw
ライオンの下りが素晴らしい。これ確定でいいかもなw

天月さんは登場回数が少なすぎてなんか……なwそういう意味でも【隠者】かw
候補に入れておこう。

【星】は【運命】【審判】【世界】と並ぶ悩みどころでなぁ・・・

260名無しさん@避難中:2013/08/12(月) 02:07:51 ID:L/WMEfho0
亜子ワロタw なんだあの兄妹はw

261名無しさん@避難中:2013/08/12(月) 13:33:20 ID:PPejW06c0

11【正義】カップルウォッチャーととろ ※正:公明正大・均衡・善意・決着・清算・正当性からの視点/逆:不正・偏向・不均衡・一方通行・不人情

暫定。
パッと見た時から「正義? ととろでいいんじゃない?」とか安直に考えていたが、
一度「あれ……実はこれあんまり合ってなくね?」と思ってしまうと悩ましいw
しかし他には先崎俊輔くらいしかいないか。生徒会長とか風紀委員とか出てこないからなぁ……


12【刑死者】先崎俊輔 ※正:試練・犠牲・努力・忍耐・魂の成長・自己犠牲/逆:徒労・痩せ我慢・状況の悪化・弱まる理性

これも暫定。
先崎はやたらそれっぽいのがあるから困る。


13【死神】ふーちゃん ※正:終末・破滅・死の予兆・改革・完全な停止・孤独/逆:再生・新展開・復活・立ち直る

あとは本家ワンオラクルのサイトウあたり……
って、SSで引いていたからって安直だな!安直の王様だな!

262名無しさん@避難中:2013/08/13(火) 05:54:45 ID:cOnm1Bc60
>>261
11【正義】カップルウォッチャーととろ

嵌ってるw
ととろ自身は「善意」だと信じて行動してるからなw それがかわいいわけで、かわいいは正義だ。

13【死神】… こんな子いた。
       『ヤンデル子ちゃん』西園寺聖子 http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/241.html
       初等部だそうで、ととろと対決しちゃってます。

終末とか破滅とか孤独とかヤンデル子ちゃんや!
で、これの逆ってポジティプなのが面白い。前向きな死神w
しかし、15【悪魔】でも合いそうだな…この子。

12【刑死者】先崎俊輔…なるほど、後輩ちゃんに吊るされるんですね。

>>527
10【運命】
※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆

遠賀先輩かな…。演劇部関連でしか出てこないけど、逆境の中のファイターって感じだ。

263名無しさん@避難中:2013/08/13(火) 09:57:18 ID:kOQNjp.g0
ととろは逆位置のほうが当たってる気がする。
偏向とかそのへんw

聖子ちゃんは物騒なイメージが合うからと俺も検討はしたんだけど、
「完全な停止」の【死神】を小学生に背負わせるのはちょっと酷かなと思ったw

264名無しさん@避難中:2013/08/13(火) 18:39:03 ID:kOQNjp.g0
14【節制】河内静奈 ※正:節度・献身・順応・感受性・中庸・倹約・調和/逆:浪費・不運・感情的・衝動的・仲間内や家庭の不和

イメージ偏重すぎ?
でも俺マジ好きなんすよ静奈ちゃんいやマジ好きなんすよ


15【悪魔】西園寺聖子 正:堕落・裏切り・打算的・野心・誘惑に弱い・利己主義・束縛/逆:回復・反省・覚醒・悪い状況からの脱却

基本白っぽい仁科では貴重なネガ持ち。しかも可愛い。


16【塔】大里巧 ※正:崩壊・災害・悲劇・不幸・喧嘩・改革/逆:瓦解・失敗・突然のアクシデント・誤解・一番大事な物が残る

正位置も逆位置もろくでもないw
背が高いやつを無理矢理起用してもいいけど。

265名無しさん@避難中:2013/08/14(水) 22:38:07 ID:zCdl2NIs0

17【星】黒咲あかね ※正:希望・理想・ひらめき・願いが叶う・発見/逆:失望・無気力・高望み・見通しがつかない

あの字ちゃんは【月】と迷ったけどこっちの方が合っている気がした。


18【月】サイトウ ※正:不安・幻惑・現実逃避・潜在する危険・嘘・裏切り/逆:夢想・徐々に好転・迷いが晴れる・過去からの脱却・漠然とした未来への希望

迷いながら答えを探していく感じが。
ところで下の名前何だっけ?


19【太陽】久遠荵 ※正:幸福・成功・誕生・祝福・無邪気・追い風/逆:不調・落胆・暗転・衰退・難航

陽性キャラの筆頭という気がするわんわん王。
笑顔は太陽!

266わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:19:38 ID:RygRYY8k0
>>265
わおーん!わんわん王だじぇ!
そして、タロットの権威も威厳も神聖さも台無しにしてみた。
ぴく渋とか参考にしたんですけどね…。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/544/shinobu_himawari_.jpg

>>258>>259
天月さんはもっと前に出るべきやん!
だからこそ、SS書いちゃう。以下、どーぞ。

267『チョlココロネと続かない夏』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:20:30 ID:RygRYY8k0

 評判のパン屋で最後に残った誉高きチョココロネが奪われて近森ととろは不機嫌になった。
 次の焼きたてが並ぶ時間はしばらくかかるし、悠長に待っているひまなどない。

 ほんの迷った隙だった。チョココロネ狙いだったととろ、隣に並んだ明太子パンについ気を取られ、「あ」と言う差で
アイツのトングに挟まれてしまった。奪ったアイツはぞんざいな扱いでトレーにチョココロネを滑らせる。学校帰りに極上の生地を
口一杯頬張りながら味わおうと考えていた矢先だった。ラスイチのチョココロネを買って帰る男子高校生の面倒くさそうにしている
素振りをととろは心底憎んだ。食べ物と恋の恨みはなんとやら。

 「激おこぷんぷん丸なんだから!くーっ」

 どうせならもっとうれしそうな顔をしろと奥歯を噛み締めるもの、敵はすでに店から姿を消して、パンの甘い香りだけが漂っていた。
こんなに悔しい思いをしたのはいつ振りだろうか、思い出すにも悲しくなる。長居は無用、ここに居残るのはどんな拷問よりも辛いから、
そそくさとととろは退出した。ドアのチャイムが物悲しく聞こえた。
 誰もが競って手に入れたがるものだからこそ非常に悔しい。なんだか今日一日が落ち込んでしまいそうだ。手を繋いだ男女が
ととろの肩をかすってすれ違った。

 「いいなっ。チョココロネは諦めるから、その幸せちょっとちょうだい!」

 うらやましいというより、幸福のおすそ分けをプリーズ。ととろは日頃、学内外問わずに幸せそうなカップルを端から観察し、
恋愛小説を読むようににまにまとのぞき見する趣味があった。誰が呼んだか『カップルウォッチャーととろ』なのだ。
 平常心を保つには幸せが必要だ。とろけるようなシュガーな気持ちにさせてくれ。ととろはスクールベストの裾をぎゅうっと握って、
上の空へと飛び立つ身支度を始めた。今日、何があった?今日も幸せそうな女子を見たんだ。

 「そうだ。今日も後輩ちゃん、ナイスファイトだったな」

 『後輩ちゃん』こと後鬼閑花、ととろより一つ下の高等部一年の恋する乙女だ。
 想い人の為にアグレッシブに、行き過ぎやり過ぎ閑花ちゃんにはまだまだ手緩いと、愛情表現豊かな女子だった。
 恋する後輩ちゃんと(勝手に)お相手の彼、先輩との一部始終がこれだ。


    ♪


 「先輩!問題です!頭のエクササイズです!またの名をブレイン体操です!コレが解けたらIQ200超えの天才児!」
 「なんかイヤな煽り文句だな」
 「あなたはバスの運転手です。はじめに二人お客さんが乗りました」
 「あれだろ」
 「次のバス停で一人乗りました」
 「使い古された問題だよな」
 「次のバス停で五人乗りました。次のバス停で三人乗って二人降りました。次のバス停で四人乗って五人降りました」
 「小学生のとき聞いたんだけどな」
 「さて、運転手さんの好きな人は誰でしょう!」
 「帰る」
 「5!4!2!1!ブッブー、時間切れ!先輩、残念でしたーっ!正解は閑花ちゃんでした……って、せんぱーい!」


    ♪


 「あれは効くなぁ。遠回しのふりをして実は真っ直ぐに射抜くテク。後輩ちゃんの健気さにわたしの胸が疼いちゃうよ」

 ちまちまと、そして恋愛『愛』溢れる表現でスマホに記録された『ととろの観察にっき』を読み返しながら、
ととろは後鬼閑花に、そして地球上の恋する人たちにささやかなるエールを送った。

 「世界中のカップルに幸多かれ!」

268『チョlココロネと続かない夏』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:20:53 ID:RygRYY8k0
 観察にっきの毎回最後に記す言葉だった。自分が書いたとはいえ、ととろはまたも胸が疼いていた。
 書いている途中はランナーズハイの如く名文だと自惚れながら、そして読み返すとこっ恥ずかしくなるような文章なのだが、
今のととろに理性的な突っ込みをしても暖簾に腕押しなのだ。

 「きっと後輩ちゃんはチョココロネのようなハートを持ってるんだ。チョココロネのように……ん?」

 チョココロネのことを思い出したか、ふと、ととろは足を止めた。いや、違う。チョココロネはチョココロネだが、
最後のチョココロネを奪っていった男子高校生をコンビニの店内で発見したのだ。
 レジに並ぶ彼は右手にコンビニおでん、左手に少年誌、そしてそれで隠すように黒いストッキングを持っていたのだ。
 ととろの勘がぴこんと働く。頭に生やしたリボンが向きを変えた。

 「チョココロネを手に入れた上にコンビニおでん。チョココロネはきっと誰かにあげる為に買ったんだ。
  おでんは熱々に限るから自分で食べるんだ。名探偵ととろの推理が今日も冴えます!」

 男子高校生はすっと少年誌の下に黒ストッキングをしのばせた。
 アンバランスな買い物に少年の顔は羞恥のせいでいくばくか赤く見える。

 「きっとお使いだね、黒ストは。自分で履くなら堂々と白昼に買うのは不自然だからね。自然に導かれる答は……」

 ぎゅうっとスクールベストの裾を握ると、瞳の奥が桃色に染まる。
 網膜にハートが浮かび上がり男子高校生の顔に重なった。
 アイツが摘んだおでんの卵はミラーボールのように輝き、しらたきはネオンサインのように彩る。
 木目の絵柄の器はジュークボックス。ナイスなナンバーで舌を揺すぶらせる。
 フィーバータイムで踊って踊りまくれ!ハニーナイト!
 夏はまだまだ続くんだから。

 「アイツから恋する女子の香りがする!」

 つまり……男子に黒ストを買わせるまでに気を許した女子がいる!
 カップルウォッチャー・ロックオン!!リミッター解除せよ!!

 「すっごい見たい!すっごい見たいよ、アイツの桃色っぷり!アイツの彼女さんナイスファイトだよ!」

 はあはあっ……。
 息遣い激しく、チョココロネなどどうでもよく、会計を済ませたアイツがおでんを頬張りながらととろとすれ違う。
 太もも疼き、抑えきれない興奮ゆえ、不注意にもととろはアイツの肩にぶつかった。

 「ご、ごめん」

 男子高校生は卵をぷっと吐き出して、面倒くさそうにととろに謝ったが、ととろ本人は申し訳なさそうな顔の裏に
ニヤリと笑みを浮かべていた。

 「カップルウォッチャーは突然なのよ。相手はオトナっぽい子だね。アイツに幸あれっ」


     #

269『チョlココロネと続かない夏』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:25:40 ID:RygRYY8k0

 「天月、文句言うなよ。一つしか残ってなかったんだ」
 「一つで十分さ。恋の味にも似ている」
 「なんだよ、それ」
 「恋は一度だけ。美しい言葉と思わないか、向田」

 学校屋上で交わされる会話は聞き流すに限るが、天月音菜に限っては心に止めておいた方がいい。
向田誠一郎は前者のスタンスだったが、最近は徐々に後者に移っている気がしてきた。

 澄み切った青空を背景に向田が買ってきたチョココロネをリスのようにちびちびとくわえ味わっている天月音菜は
見た目だけは名前のとおりオトナだ。制服の上から分かる位素晴らしいスタイル、冷ややかな目と泣きぼくろ、
そして左目を隠す髪はアンニュイな雰囲気を醸し出す。ただ、チョココロネの食べ方といい、向田以外の者には
あまり関わろうとしないことに加え、夏服に黒ストッキングという出で立ちにより、自他ともに認める変人の立ち位置を取る
やや残念なる美人だった。

 「お使いご苦労。ふふ、恥ずかしかっただろ?替えのストッキングが切れていたんだ」
 「こんなもん無駄買いさせて。俺は単行本派なんだ」
 「向田。リアルタイムで物語を追うスリルと、まだ出会わぬ新たなる漫画家との邂逅もたまにはいいぞ。
  ところで、アニメ界にはびこる『日常もの』の作品が流行る三つの理由を発見したんだが……」
 「それっ、天月、黙せっ」

 フリスビーのように買ってきたばかりの黒ストッキングを天月音菜に投げた向田は一緒に買った少年誌をぱらりとめくった。

 屋上はよく風が通る。学内において体全体で風を感じることが出来る場所はここぐらいだろう。天月音菜は白い雲に導かれたのか、
それとも青い空気に吸い込まれたか、いつも学校の屋上にいる。下界を眺める気分は根拠のない力を得た気になる。

 チョココロネを食べ終えた天月音菜は考えた。夏はいつまで続くんだろうと。四季折々の変化が五感で味わえる屋上、
変わり者だと囁かれるけど、ここにくればふっと風に流される。ちょっと変わってたって、わたしはオトナだし。

 「夏が続くといいな」
 「は?天月、何言ってんだ?」
 「夏クールのアニメが秀作でな、嬉しい寝不足なんだ。暖色寒色を見事に組み合わせ、目の覚めるような色使いが心地良……」

 チョココロネを食べてるうちは静かだったのに、これ以上ほって置くと天月音菜のアニメ語りは止まらない。
 チョココロネが一つしか手に入らなかったことを向田は後悔した。

 
     #
 

 その日の空が紅く染まる頃、公園のブランコで近森ととろはむふむふと頬を赤らめていた。
 コンビニおでんのちくわをくわえ、ふーふーと笛のように吹いていた。
 しかし、おでんにはまだまだ暑い。美味しく頂けるのはツクツクボウシが鳴き止む頃かなぁ、とやかましい公園の立ち木を見上げた。

 「絶対突き止めてやんからねー」

 まだ見ぬ魚は大きいはず。一度釣りかけた魚をみすみす逃したくないし、出来ればご賞味させて頂きたいし。
ととろは名前さえ知らぬ天月音菜に仄かな憧れを乗せて太ももを疼かせた。

 「夏は続かないけど、恋の美味しい秋がもうすぐ来るよっ」



   おしまい。

いくぜっ!天月さん。
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/545/amatsuki_otona.jpg

残念美人、かわいいよ!
失礼しました。以下、タロット雑談どうぞ。投下おしまい!

270名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 15:05:29 ID:6WlrIFTc0
>>266-269
乙乙!何気ない日常がいいですね
恋の美味しい秋にも期待w

271名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 21:05:00 ID:r12Cfk920
>>269
うおっまぶしっ! 太陽かとおもったらわんわん王陛下のご尊顔であった。
ひまわり超似合うなコイツ……。


チョココロネみたいなハート……ツイストしているってことかー!
おでんのディスコって超シュールだなw何だその発想w

復活! 天月音菜復活! そういやオタクだったねぇ。
ギターとキタローヘアーのほうの印象が強かった。イラストまさに。ていうかこんな巨乳だったのかッ。
天月さんの作者さん……帰ってこないかな……

わんこ氏の文章、コミカルでコケチッチュで、そのくせ情緒があって好き。ムードに流されて結婚して!とか言いそうになる。
世界で一番愛してるわ! 今すぐ私と結婚して!

272名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 21:09:06 ID:r12Cfk920
それでこっちも


10【運命】鷲ヶ谷和穂 ※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆

本人の思いがけない出来事による変化、みたいな意味なので
ことりあそびくんにとっては彼女が【運命】と言ってもいいんじゃないだろうか(苦しい)
ひょ、表情もころころ変わるし!


20【審判】遠賀 ※正:再生・復活・再会・覚醒・仲直り・最終的な決断/逆:執着・挫折・離別・沈滞・悲観的・再起不能

これがむずい。
何度でも蘇る松戸白秋かなぁとも思ったけど、あんまり合わない気がした。
「決断、将来の目標の確立、過去の清算などによって、前向きな気持ちで生活できる」とか何とか。
単に元通りになるってだけでもないみたい。


21【世界】小鳥遊雄一郎 ※正:成功・完成・統合・幸福・目的達成・運命の出会い/逆:挫折・低迷・失敗・未完成

いやちょっと待って欲しい。みんな俺がテキトーに決めたと思っているだろうが、
彼をこのアルカナに選んだのには理由があるんだ!
彼は……帰国子女なんだ……。


ということで暫定だけどまとめてみた(↓)。
いろいろままならない事情で、完全に全員のイメージ通りというわけにもいかなかったかもしれない。
と思ったが不思議と腹は立たなかった。

273名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 21:17:46 ID:r12Cfk920

0【愚者】黒鉄懐     ※正:楽天・型破り・新しい発想・天才/逆:愚か・極端・自分勝手
1【魔術師】浅野士乃  ※正:始まり・個性・独創・技能の進歩/逆:創造性の欠如・トラブル・神経質・反抗的
2【女教皇】神柚鈴絵  ※正:理知的・良識・優しさ・清純/逆:激情・無神経・わがまま・不安定
3【女帝】真田アリス  ※正:繁栄・母性・愛情・家庭的/逆:挫折・過保護・虚栄心・嫉妬・浪費
4【皇帝】大型台     ※正:支配・安定・有能・行動力・勝利/逆:未熟・横暴・傲慢・独断的
5【法王】迫文彦     ※正:教養・慈悲・慎重・協調性・全体への援助・目上の人物/逆:守旧性・躊躇・虚栄・お節介・鈍感
6【恋人】後鬼閑花   ※正:合一・恋愛・性愛・趣味への没頭・楽観・絆・試練の克服/逆:誘惑・不道徳・失恋・空回り・無視
7【戦車】重利挙     ※正:勝利・成功・克服・向上心・行動力/逆:暴走・自信過剰・強引・不注意・傍若無人
8【剛毅】黒鉄亜子   ※正:勇気・力量の大きさ・意志・不撓不屈・信念・本能と理性の統合/逆:過信・見栄っ張り・派手・逆境・権力の乱用
9【隠者】天月音菜   ※正:経験則・理論的・高尚な助言・秘匿・深慮/逆:閉鎖性・陰湿・消極的・偏屈・誤解・悲観的
10【運命】鷲ヶ谷和穂  ※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆
11【正義】カップルウォッチャーととろ ※正:公明正大・均衡・善意・決着・清算・正当性からの視点/逆:不正・偏向・不均衡・一方通行・不人情
12【刑死者】先崎俊輔  ※正:試練・犠牲・努力・忍耐・魂の成長・自己犠牲/逆:徒労・痩せ我慢・状況の悪化・弱まる理性
13【死神】ふーちゃん  ※正:終末・破滅・死の予兆・改革・完全な停止・孤独/逆:再生・新展開・復活・立ち直る
14【節制】河内静奈   ※正:節度・献身・順応・感受性・中庸・倹約・調和/逆:浪費・不運・感情的・衝動的・仲間内や家庭の不和
15【悪魔】西園寺聖子  ※正:堕落・裏切り・打算的・野心・誘惑に弱い・利己主義・束縛/逆:回復・反省・覚醒・悪い状況からの脱却
16【塔】大里巧      ※正:崩壊・災害・悲劇・不幸・喧嘩・改革/逆:瓦解・失敗・突然のアクシデント・誤解・一番大事な物が残る
17【星】黒咲あかね   ※正:希望・理想・ひらめき・願いが叶う・発見/逆:失望・無気力・高望み・見通しがつかない
18【月】サイトウ     ※正:不安・幻惑・現実逃避・潜在する危険・嘘・裏切り/逆:夢想・徐々に好転・迷いが晴れる・過去からの脱却・漠然とした未来への希望
19【太陽】久遠荵     ※正:幸福・成功・誕生・祝福・無邪気・追い風/逆:不調・落胆・暗転・衰退・難航
20【審判】遠賀      ※正:再生・復活・再会・覚醒・仲直り・最終的な決断/逆:執着・挫折・離別・沈滞・悲観的・再起不能
21【世界】小鳥遊雄一郎 ※正:成功・完成・統合・幸福・目的達成・運命の出会い/逆:挫折・低迷・失敗・未完成


異論は認める

274名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 22:49:54 ID:YNmnq4uU0
本スレ>>51
ごめんちごめんち。最近(どうせ書きこめないから)本スレ行ってなくてさ。気づかなかったってわけ。

さっそくさす迫先輩を女装させるとは……。しかもうれしいセミロンガー。
わんこ氏は話を聞いていないようで聞いていて作品にしてくるからこわいのだ。
さす迫先輩は自分の中ではなぜかそこそこ長身のイメージが定着していたが別にそんなことはなかった。

>肉は腐りかけ〜
この言い回しの残念っぷりときたらw

平和なSSなごむー。


さて。
創発五周年だからSS書こうと思ったけど、むりでした。
代わりに小ネタ集置いてきます。

275名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 23:27:57 ID:YNmnq4uU0

 仁科学園小ネタ集「ネーミング」



●1 後鬼閑花対先崎俊輔
「先輩は昔は名無しも同然だったのに、先輩キャラがたくさんになってきて紛らわしいからって名前ついたんで
すよね」
「メタ発言やめろ。ここでそんなんしてるのお前だけだぞ」
「でも安心してください。どんなになっても私の先輩は先輩だけです。そして私の将来の苗字も先崎以外ありえ
ないです。先崎閑花ちゃん爆誕のお知らせ」
「お前それハンドルネームにして購買コムのレビューでやりたい放題やるのそろそろやめろよ」


●2 近森ととろ対大型台
「大型台? あの木工やる部屋?にあるんじゃない?」


●3 霧崎対黒鉄懐
「黒の一字のわりに、髪は金色なのだな」
「またまたぁ。霧崎様にしては抜けてるなぁ。黒が懐かしいって書いてるでしょ?」
「染髪代で懐の金を失うということじゃないのか」
「国テツ(かねへんに矢)ネタかよ」


●4 松戸白秋対迫文彦
「さす迫くん。君の名前、いいね。実にいい。しんにょうに乗った機動力のある白。これは――やはり――白衣
ということでいいのかな?」
「いえ……?」


●5 鷲ヶ谷和穂対迫文彦
「♪迫るー先輩ーさすがのげーきーだんっ」


●6 大型台対先崎俊輔対後鬼閑花
「先輩が先崎、後輩が後鬼。こいつは出来すぎだな」
(お前らにだけは言われたくない!)


●7 黒咲あかね対黒鉄亜子
「あーちゃんなんて知りません。あなた誰ですか」
「え!?」


●8 黒咲あかね対真田ウェルチ
「アーチェリーなんて知りません」
「いきなりどした?」

276名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 23:29:45 ID:YNmnq4uU0

●9 小鳥遊雄一郎
「よくタカとワシでコンビ扱いされるけど……俺ってどっちかというと、小鳥じゃないのか?」


●10 先崎俊輔の母対先崎俊輔
『しゅんくんおじゃがかってきておじゃが』
『どっちのじゃがいも?』
『はくしゃくじゃないほう』
「大手柄でも立てたか男爵」


●11 カップルウォッチャーととろ対ザザビーちゃん
『ザビビッ。実は影より密やかに仁科のマスコットキャラの座を狙っているザビ』
「ザビエルちゃんってあたしにしか見えないじゃん」
『ザザビーだっつーの!』
「サザビーじゃなかった?」
 ※ザザビーです。


●12 黒鉄懐対白壁やもり
「先生……」
「なに懐くん」
「俺、ガキのころ、やもり飼ってたんだ。こんくらいの水槽に砂利と水草入れて、“サラマンダー”ってかっこ
いい名前も付けて、毎日世話してた。サラマンダーはよく食べ、よく泳ぎ、よく石の下に隠れた。俺たちはいつ
もいっしょだった。心が通じ合っていたんだ。だけどあの日、夏の最後の、花火大会の日だよ、サラマンダーは
死んだ。突然だったよ。俺はショックでさ、泣いた。
 でも俺、思ったんだ。サラマンダーは死んだけど、俺の前からいなくなったけどっ、絆は残っているんだって
さ! 俺はその絆を勇気に、これからも生きていく。
 俺は……先生を見る度に、その決意を思い出す……!
「懐くん……」
「……俺の言いたかったのはそれだけだ。もしかしたら、ずっと、誰かに聞いて欲しいって思っていたのかもし
れない」
「それたぶん、いもりです」


●13 鷲ヶ谷和穂対上原梢対久遠荵
「さて、ここに奇しくも仁科合法ロリ三人娘が集まったわけだけど」
「いや……まだ違法じゃない?」
「わんわん! そもロリじゃないよ! 小型犬なだけだよ!」
「犬でもないでしょ」


●14 中型那賀対小型省対真田基次郎
「真田姉妹が真田先生の娘? どこからそんなデマが。あのな、金髪ってのは父親側から遺伝するんだぞ。真田
先生なんてどう見ても外国人じゃないだろ」
「金髪はともかく、真田先生って中央アフリカから来たんじゃないんスか? アンゴラとかあのへん」
「ゴリラの生息地は今関係ないだろ!」
「お前ら……いい度胸だな」


●15 鷲ヶ谷和穂対小鳥遊雄一郎対カップルウォッチャーととろ対後鬼閑花対先崎俊輔
「ボクがワシ、雄一郎がタカでしょ。そうそう、こないだミミズクの人も見掛けたんだよ」
「え。誰?」
「カップルウォッチャーととろ! 理科室を爆破しながらも、今日も学園のカップルを救った!」
 ……あいつか。
「ミミズクなのか? あの耳」
「元ネタ的にはね」
「元ネタとかいうなよ」
「ほら、先輩! あいつですあいつ! 私以外にもメタ発言している子!」
「いいよもうどうでも……」



 おしまい

277名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 23:38:11 ID:YNmnq4uU0
以上。
名前ネタってちょっとデリケートな気もするけど、
あまり気にしないでくれると助かる。
五周年おめでと、創作発表板! 人増えろ! 規制解けろ!

278名無しさん@避難中:2013/08/27(火) 00:15:22 ID:klDyaeYY0
くそじわじわ来るw

279わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:24:44 ID:rm5Ky7n.0
わおー。5周年おめでとうごじゃいます!

合法ロリ三人娘w これは跳ねるw
あかねとウェルチのからみって、なんかよさそう。百合とかじゃなくって(そうでもいいけど)!

>>248
>ネタ的にも合宿って良いね
>部活陣で誰か書かないかしら |д゚)チラッ

書いたよ!合宿ネタ。
あと、板設立5周年企画のテーマの『ホラー』も…。

280『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:26:22 ID:rm5Ky7n.0

 「よっしゃ!わおー!絵皿できたよ!」

 初めてだから不格好なのは承知だ。いきなり上手いヤツなどいない。
 へりの曲がった絵皿の前で久遠荵はいっぱつ遠吠えをかましてみた。その傍らで出来の悪い妹を愛でるように荵を眺める
少女がニコニコと微笑んでいた。彼女は荵からして一つ上の浅野士乃。南国の訛りの効いた温かみのある労いの言葉をかける。
 イヌの絵が描かれた未完成の絵皿は輝きの魔法をかけられるのを待つだけだった。

 「上出来、上出来。あとは焼くだけやねや」

  侘び寂びだらけにつくされる焼き物の世界も彼女らのて手に掛かれば、華やかなティータイムへと返信する不思議。
 泥だらけの手を洗面器の水で洗いながら荵は「わんっ」と鼻を鳴らした。

 「わたし、上手いですか?」
 「焼いてみないと分からんけど、わたしのモンより上手に作ったら『めっ』やけんよ」

 焼き物なら腕に覚えあり、どの子よりもいい仕事してみせる、とこの分野には譲れないものがあったが、荵の初々しい作品に
自分が焼き物の世界に足を踏み込んだ頃を思い出していたのだ。

 浅野士乃は創作部の二年生だ。部員各々思い思いのものを創作するとあう自由な方針をもつこの部。
 夏休みだからと浅野士乃は荵を誘って合宿を開いた。

 「士乃先輩と一緒にお泊りだなんて尻尾がばりばりだっ」
 「一応、合宿ってことで生徒会に届けておるけど、『高知家』に来たつもりで楽しんでくれや。もうすぐしたら、
  葎たちも来ると思うで」
 「わお!葎っちゃん先生!」

 学校の一室を借りて泊まり込む。表向きは部員相互の向上心だの切磋琢磨だの漢字を並べ立てるような目的だが、
言うまでもなくお泊り会だ。夜の帳が降りた学園はいやがうえにも創作意欲を掻き立てる。

 がちゃがちゃしたオモチャ箱のような部屋の中、焼き物に水鉄砲にポエムのようなもじられる綴られた大学ノートがあたりに
散らかっているけど、整然と並ぶよりかは安心感が漂うのが創作部の不思議であった。荵もまたそんな空気に飲み込まれる。

 制服姿の士乃も暗くなってから眺める教室が銀河の中を行き交う列車の一車両ではないのかと眩んできた。
 ガタゴトと黒潮を車窓に走る鈍行列車、士乃の故郷の土佐の国の暖かな風がほんのりと流れてきた……気がした。

 ふと。荵が悪戯っ子の顔をする。

 「士乃先輩。これ、何ですか」

 荵の指差す花瓶は個性的な姿で佇んでいた。芸術か、前衛か、アチャラカか。見るものをみな惑わせる作品だった。
 ただ、色つやはよく、まるで地中深くに人の目に晒されること無く眠っていた鉱物の輝きにもにた光を放ち、琥珀にも似た色合いで
平坦な蛍光灯の明かりで健気にも自分の価値を荵に主張をしていた。荵がつんと指で表面をさすると心地よい音が響き、ある種、
楽器とも受けとれるような一品と言っても過言ではなかった。しかし、士乃は淀んだ目でその花瓶を朦朧と見つめる。

 「それ、失敗……やけに」
 「やけに?」
 「チャレンジしてみたの。光の当て方で机に落ちる影が人じゃったり、熊じゃったり……ちゅう計算じゃったが、上手くいかねかった」
 「わたしはイヌに見えます!……かな。わおっ!ボーダーコリーみたいです!」
 「みんなは褒めてくれるけど、納得いかんきす。一思いにばりーんちいきたいけど、裾を引っ張る手がね」

281『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:26:46 ID:rm5Ky7n.0
 花瓶から目を逸らす士乃はダメな子を諌める姉の顔をしていた。
 それでも花瓶は士乃の顔を曲面にぼんやりと反射させていた。

 「割れなかったんですか」
 「割れんかったんじゃ。でも、なんかね」
 「じゃ、わたし割りますっ」

 士乃が瞬きをする間より素早く荵は花瓶を引ったくり机の上に飛び乗った。王者が雄叫びをあげる佇まい、
両手で頭上に持ち上げた花瓶に部屋の明かりが重なった。夜の校舎の窓を雲一つない星空に現れた流星群が染める。

   #

 時、同じ頃。
 同じく学内で合宿を行うものがもう一人いた。

 夜の学校はちょっとしたファンタジー。
 昼間の明かりと夜空の影のコントラストに初めて気づくちょっとしたイリュージョン。
 だから、合宿場所に開いた小さな教室を選んだ。

 「我ながらナイスアイデア。こんなこと思いつくのって、わたしぐらい?かな?」

 ケモ耳のようなリボンが頭に二つぴょんと跳ねる、自画自賛で満足げな女子が天を仰ぎ見ていた。
 彼女の名は近森ととろ。ちょっとキュートで、ちょっと世話焼きで、ちょっと変わった二年生だった。

 照明を消した教室の中で、ととろは授業中には見られない夏の星座を机を椅子がわりにして眺めていた。
 織り姫彦星がいちゃいちゃと瞬いてるのを遥か彼方からのぞき見する。七夕過ぎても想いは繋がっていると、
魚肉ソーセージを口にととろは胸を熱くする。口の中にじんわりと肉の味が広がる。
 
 人様のリア充っぷりを垣間見て幸せを少しだけつまみ食い。
 人呼んで『カップルウォッチャーととろ』。
 初めての夏、初めての夜、そして初めての朝を教室で過ごす戻れないミルキィウェイ。
 『ととろの一人合宿』が一筋の流れ星ともに幕を切った。

 「この夏もよいカップルに出会えますよーに!」

 よくいえば趣のある、悪くいえばポンコツな小さな部屋。おそらくかつては事務に使われていたのだろう、分厚い書籍が
ずらりと棚に並び、白熱電灯が不安定に室内を燈す。レトロ感漂う古ぼけた部屋にノートパソコンを持ち込んで、
今日ののぞき見成果をまとめあげる。日々の積み重ねこそ財産だ。形、時代は違えども、ノーパソに本棚と志は同じだ。

 「後輩ちゃん、オオカミだなっ。がお!肉食系のオンナノコはどう転んでも乙女なのだっ」

 彼女が手塩にかけて育てた後輩ちゃん。
 後輩ちゃんが笑えばととろも笑う。
 後輩ちゃんが傷つけばととろも傷つく。

 真剣に、全力に、ときには恋のから回り。それでも絶対後悔はしない。そんな姿を拝見させて頂くだけで、近森ととろは眼福です!
 今日はオオカミらしく恋する相手を惑わせてみた。触れるか触れないかのすれすれの想い。オオカミは虎視眈々とチャンスを狙う。

 「先輩!この学校……出るんですって!何がって?ほら!夏の風物詩ですよ!がおー!!」
 「いざとなったら、閑花ちゃん、先輩をお守りします!閑花ちゃんは先輩のガーディアンになります!」
 「犬が出るんですよ……、学園を守る魔犬が。このご時世にそんなオカルト、え?古いですか!?」
 「でも……閑花ちゃんがピンチになったら、先輩……のこと信じてます!よ?」

 どう聞いてもウソっぱちの作り話だ。だが、後輩ちゃんはめげない子。
 恋する相手の先輩があきれようとも突っ込もうともオオカミの尻尾を振りちぎる。
 そんな一方通行の恋心が傍から見ているととろには琴線に触れるどころか、エレキよろしく歯で爆音を鳴らし続けて、
ととろの桃色のハートに銀に鍍金された矢がざきざきと刺さりまくりであった。

282『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:27:13 ID:rm5Ky7n.0
 「後輩ちゃんが先輩を守るところ・・・…ちょっと、見てみたいしー。出るかな?ってか、出てください!」
 
 上手くいけば喝采、下手すれば慰めてあげてね……と、リアルな恋愛ドラマを特等席で鑑賞していたととろ、この感動を残し、そして
辛いときには思い出し、明日への糧えと支えとエナジーチャージをするのであった。

 「合宿っていいなっ」

 この際、突っ込むことは控えておこう。意図する意図しないはさておき、すべてのボケに突っ込むことは正解でもない。
 一番ベターはチョイスは一緒にととろと幸せを分かち合うということである、今夜は。

 学園の窓を彩る流星群がやって来た。お星様が恋人たちの幸せを願うのに、ととろもちょっと便乗してみた。
 きっと、いいことあるかもね……と。

 気分が乗るとキーボードを打つ手も雄弁。調子に乗って後輩ちゃんのナイスファイトを書き記していたときのこと。
 ふっと周りが暗くなる。月が雲間に隠れたか?いや、違う。頭上の電灯が消えている。周りは闇、照り付ける太陽を失った海原のよう、
すがるすべは一叟の小船だけ。白熱電灯が天寿を全うし、真っ暗闇のなかととろは我を失った。

 「ちょ、ちょっと!今晩真っ暗な中で過ごすの?」

 とにかく代わりの電球をと考え無しに立ち上がる。やみくもに足を一歩出すと、ノーパソの電源コードに引っ掛かる。
 ぷちと憐れノーパソもデータを抱えたまま断ち切れて、完全完璧にブラックアウト。

 「あれ!やばい!やばい!」

 涙目浮かべるととろに追い打ちをかけるように、上の階から陶器のようなものが割れる音が響き渡った。
 耳をつんざくような鋭利な音はととろの平常心をざんざんと切り裂いた。こんなに人を恐怖のどん底へと陥れる音響があるものかと
ととろは目に涙を溜めながら疾風の如く部屋から飛び出していった。手にしていた魚肉ソーセージは宙を切り、床へと転がった。

 「きゃああああああ!!!!!」

 日中に貯めた幸せインジケータも見るに堪えないぐらいのマイナスレベルに振り切ったのは言うまでもないお話だった。

    #

 「流れ星だよっ。希望の一筋ですっ。きっと士乃先輩ならば涙滲む過去を振り切って、光溢れる未来を掴むことが出来ますっ」

 夜を切り裂く流星のように荵が投げ付けられた花瓶が一つ、作業用の土間で粉みじんになって砕けていた。

 その瞬間、静寂なる夜と荵との間につんざくような陶器が割れる音が響き渡ったことを士乃は目の当たりにしていた。
 お星様になった花瓶の破片をつまみ上げ、創造主である士乃は「これでよかった……かねや」と呟いた。

 全知全能の神などおらぬ、作り主は皆血が通う人間だ。
 だから目の前の残骸を認めれば良いではないか。

 「やきね……」

 小さく頷いた士乃は破片を机にことりと置くとちかちかと灯る蛍光灯を見上げた。

 「わたし、やるけんよ」

 創作の神が舞い降りた。
 何故に。
 それは士乃が人間だからだ。
 人間だからこそ、神を憑依させねばならぬ。
 何も力を持たぬ人間だからこそ、神の力を借りなければならぬ。

 その神が舞い降りた。
 もくもくと沸き立つ創作意欲、きらきらと輝く瞳、わなわなと武者震いする脚、そしてまだ見ぬ新たなる作品への想い。

 くるりと士乃は一回転するとふわりとスカートがめくれ上がった。

 「わお」

 荵は一人で戦いに挑む土佐のジャンヌダルクの姿を夜の教室に見た。

 士乃が新たな作品のイメージを膨らませ始めたので、おいてけぼりの荵はお手洗いに出掛けた。
 グレーのリノリウム敷き詰められた蒸し暑い廊下さえも、合宿気分でレッドカーペットにさえ見えてくる。
 両脇には手を振る観客、止まないフラッシュの嵐、ありもしないものだけど荵には見えてくる。
 ただ、へたりこんで仔犬のように震える近森ととろの姿は荵にははっきりと見えた。

283『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:29:18 ID:rm5Ky7n.0
 「わんっ」

 こぶしを天高く突き上げて荵が小さく吠える。

 「きゃああああ!野犬だ!」

 ととろの断末魔のような叫び声に荵の方が驚いて、すとんと尻餅をついていた。
 上靴を片方残して振り返ることなくととろは荵から逃げ去ったり、荵はくんくんとととろの上靴を拾って嗅いでいた。

 「こいつは事件のにおいがするなっ!わおーん!!」

    #

 士乃が残る創作部の合宿部屋に他の部員がやって来た。士乃の同級生でもある金城葎だった。

 「しーのー……あれ?いるのいないの?」
 「……」
 「はっ。士乃らしいや」

 ジャージ姿にハーフパンツという女子としてはあまり色気のない出で立ちで、新たな自作のおもちゃの水鉄砲を抱えた葎は
まるで無邪気な男子中学生のようだ。葎に気付かない士乃の手元を盗み見すると、焼き物で出来たペンダントを発見した。

 「しーのーっ」
 「わあ!びっくりしちゅう!」
 「何?そのペンダント、作ったの?」

 葎の問いかけに士乃は小さく頷いた。
 さっきまで花瓶だった焼き物がささやかなペンダントになったのだ。
 破片は磨かれ、色つや美しく、星屑にも負けない輝きだった。
 
 不死鳥だ
 フェニックスだ。

 不死鳥は自分の死期を悟ると自らの体を祭壇の火で焼くという。焼き尽くされた体は灰となり、煙となるが……新たな命を宿して
再び輝きを戻すと言う。そう。花瓶は姿を変えて、不死鳥の如く蘇ったのだ。

 「創作が上手くいくように!のおまじないやき」

 ジャージを脱いで『金城』のゼッケンを付けた体操着姿の少女に士乃はペンダントを贈った。
 葎はちょっと二人きりとはいえ恥ずかしくなり、士乃にかるーく肘鉄をお見舞いした。


    おしまい。




 と、終わるのはまだ早い。

   #

 どたどたと廊下を駆け抜ける一筋の風。
 彼女の頭のケモミミリボンさえも付いてゆくのがやっとだった。
 そう。近森ととろは恐怖の余り、誰も居ない(はずと、ととろは思い込んでる)校内を全力疾走をしていた。

 「戻りたくないけど!戻らないと魔犬が来るよ!!」

 真っ暗な部屋にもんどり打って駆け込むととろ、外よりはましだ……合宿なんかするんじゃなかったと後悔の念。
足元が暗いから部屋から、飛び出すときに放り投げた魚肉ソーセージをぐにゅっと踏んづけてまたも金切り声を上げる。
片方の上履き履いていないもんだから、ダイレクトに肉感が靴下を通じてととろを襲った。なんともいえない心地悪い踏み心地だ。

 「わおーん!わお!」
 「ひゃああああ!でたぁぁ!!魔犬だぁぁ!!」

 荵の声が廊下にこだました。事件だ事件だと一人で心躍らせて、夜中の学校をお散歩さんぽ。
 しかし、ととろにはもはや野犬の叫びにしか聴こえなかった。後輩ちゃんの作り話はととろの願い通り真実となった。

 「わおーん!」
 「後輩ちゃーん!!」



   おしまい。

284わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:29:32 ID:rm5Ky7n.0
ホラーでした。
そして、タロット企画。

>>252
> 1【魔術師】浅野士乃 ※正:始まり・個性・独創・技能の進歩/逆:創造性の欠如・トラブル・神経質・反抗的
>ふたりめ。
>かなり悩んだけど創作関係っぽい意味もあるし、士乃かなぁ……。
>とりあえす個性的なトラブルメーカーなのは間違いない。そして今日も騒動が始まる。

士乃「魔法をかけるきね!」 
葎 「方言魔法少女って、新しい……のかな。しかも土佐弁」

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/547/shino_magi_.jpg

285名無しさん@避難中:2013/09/04(水) 11:15:21 ID:2i559F.w0
>>280->>283
その魚肉ソーセージ言い値で買おう(真顔)。

ホラーかこれwww
なごなごしてしまった。

葱すけはどこにでも現れて誰とでも仲良くなるな。そのくせ自己主張も忘れない、狡猾な子!
「じゃ、わたし割りますっ」じゃねーよw確かに破棄して気持ちをリセットするのはよくやるけど。
学園の魔犬……魔犬使い……うっ頭が……

高知家って何だ?と思ってたらちょうど下に広告が出ていて笑った。旬のネタにも敏感なわんこ氏だから!

ととろマジぼっち充。「一人でする合宿なんてなぁ合宿とは言わねぇんじゃねぇか?」
にしてもととろって後輩大好きすぎだよね。


>>279
跳ねる!?
ウェルチを最後に見たのはいつだったか……と思いをはせてみたら、漫画に出ていたので結構最近だった。
俺も一回あかねで何か書いてみたいんだけど、あの字ちゃんはあの字ちゃんで掴みどころのないところあるからなぁ……
個人的にハイテンションで強引に押し切れない分わんわん王より難しい。
もっと大量にネタが降って来るのを待つことにしよう。


>>284
ぎゅ、牛丼が燃えている!?
この得意気なツラがいかにも魔術師っぽい。
土佐弁の魔法少女……ああ、高知にはいざなぎ流残ってるしな。……。それ魔法少女違うです。
しかし士乃が魔法なんて覚えたら何かの弾みで学園が吹っ飛びそうだなw

286名無しさん@避難中:2013/09/06(金) 12:48:14 ID:ElhSQ0PMO
ちびっこばかり集めたい。
鷲とか犬とか後輩とか梢とか千鶴とか亜子とか。
そこにぽつんと先輩だけを投入。

287名無しさん@避難中:2013/09/06(金) 23:52:54 ID:XpSPbn7I0
いいなあそれ!

288名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 00:05:55 ID:UgFCE4NI0
先輩がKAROUSHIしてしまう!
KAROUSHIよDENGAKUは世界の共通語だ!

289名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 06:48:48 ID:xv4BzBwY0
だが奴のことだから華麗に捌ききるんだぜ、きっと……

290名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 11:21:15 ID:o0vBuR2MO
葱……ボケ
後輩……ボケ
鷲……ボケ
亜子……ツッコミ
千鶴……ツッコミ
梢……ツッコミ

何気に先輩抜きでも完璧な謎の均衡w
しかし後輩亜子千鶴ってちびっこのくくりで良いのか?w
体格設定はあんまり覚えてない俺

291ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:07:30 ID:HyRzu4dk0

――また、いる。

 気配で分かる。分かり易すぎる。
 後を、ぴったりとついてきている。
だんだんと慣れてきてはいるけれど、やっぱり気持ちが悪い。

“つけられている”という感覚。

――いい加減にしてほしい。今日こそ、言おう。

 心に固く決めて、電車に乗る。


 電車の車内は、中途半端に混んでいた。
シートに掛けている人と人の間に、座れそうで座れない程度の隙間が目立つ。

――少し詰めれば、もっと座れるのに……。

そう思っても、しょうが無い。そこに尻をねじ込むほどオバサンでもない。
けれど、車内には杖をついたお爺さんや子供を抱えた若いお母さんだっている。

――どうして、想像力を働かせないんだろう?

詰めてスペースを作れば、彼らが座れる場所ができる。

 一方で、別の可能性を考える。

――赤の他人にぴったりくっつくことは不審がられるから? 個人領域を侵されるようで嫌だから?

 分からないでもない。
何もないところで、やたら近づいてくる人はいる。電車に立って乗っていると、なおさらだ。

――でも、今は違うよね……。

 シートに座ってまで痴漢を仕掛けてくるヤツには、いまだ遭ったことが無い。
自分が無いだけで、他の子はあるのかもしれないけれど。

292ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:09:54 ID:HyRzu4dk0

 発車間際のベルが鳴っているところへ、若い男が閉まりかけのドアを押さえて割り込んできた。

 白いスーツに、黒い柄シャツ。胸元が大きく開いているところへ、金のネックレスが覗いている。

――まったく、もう・・・品がない。

 ため息を吐き、男の方を見ないようにしてつり革を握る。

 前に座っている同年代の男の子。足を大きく広げ、その間に大きなバッグ――きっと運動部だ――を置いて、たっぷり二人分を確保してスマートフォンを弄っている。

――その“長い足”を踏んづけてやろうか。

 思っても、そんな度胸はない。黙ってつり革を握っている。
無言の抗議、そんなものは彼らにとって何の意味もない。周りが見えていないから。
下手に注意などしようものなら大変だ、難癖つけられてこちらが危ない目に遭いかねない。

 だから、大人たちも誰も何も言わない。
迷惑はお構いなしに、大きな顔で振る舞う人間の天下だ。

「兄ちゃん、そこ詰めてもらっていいかい」
ドスの利いた声が、間近で聞こえた。

 さっきの男だ。剃ってしまって殆ど無い眉を逆への字にして、睨みつけている。
車内にさっと緊張が走る。

――ああ、起こってほしくない事態が起きてしまった。

もう、諦めの気持ちだった。

 前に座っていた少年は、気まずそうに、けれどのろのろと足を狭める。
男が――もう、こう言ったほうが早い――チンピラが、足元の大きなバッグを軽く蹴る。

「でかい荷物やなあ」

――もうダメだ。

 この後、どうするか懸命に考える。
出来たスペースに、チンピラが座る。

 ちょうど駅に着いた。
降りる駅ではないけれど、降りて別の車両に乗り直す。

少なくとも、最悪の事態は逃れた。

――でも……

いろいろ面倒な思いを抱え込んで、家路についた。



♪ ♪ ♪

293ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:12:52 ID:HyRzu4dk0

「お母さん、今日も居たんだよ。どうにかできないの」

 帰宅してすぐにぶちまけた。
母はきょとんとしていたけれど、すぐに、ああ、と笑って台所へ戻った。
台所へついていき、制服のまま、新聞紙の上の唐揚げの小さいのを摘む。

「こら、手を洗いなさい。それから着替えて」

揚げ物をしている母は、菜箸を片手にこっちを睨む。

「唐揚げかぁ。太っちゃうな」

 そう言いながら、自分の部屋へ向かった。
 母の唐揚げは、からっと揚がっていてジューシーで、生姜の香りが効いていて、つまり、すっごく美味しい。
いつも、つい食べ過ぎてしまう。



♪ ♪ ♪



 弓を弦に当てて、ゆっくりと引く。
チューニング・メーターの針が中央をさまよう。

 チューニングだけはしっかりやれ、と言われた。それからメトロノーム。
コツガイ先輩は、自分のパートはサックスのくせに他の楽器も詳しくて、「こういう感じに吹くんだ」と言ってはトランペットやフルートを
吹いてみせた。管楽器だけでなく、ピアノやチェロ、ドラムまで叩けた。

 それが、部の女の子と仲良くなるためだと教えてくれたのは、別の女性の先輩だった。

「コツガイ先輩には注意した方がいいよ」

そう言って教えてくれたのだ。

 たしかにノリが軽くてチャラい感じではあった。
けれど、音楽に対してはとても真剣で、うまく言えないけれど、先輩は “自分の表現” を常に追求しているような印象を持っていた。

294ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:17:19 ID:HyRzu4dk0

 コツガイ先輩が、実際にそういうちょっかいを出してくることはなかった。
自分が “そういう魅力” に欠けていたのかもしれないけれど。自分にとっては、ただ真摯に音楽のことを教えてくれる先輩だった。

コントラバスの大きさを持て余しているところに、弓とチューニング・メーターを買うこと、いつもメトロノームを鳴らすことを
熱心に教えてくれたのは、コツガイ先輩だった。

「ナギサワさん、頼むから、オレを助けると思って、メトロノームとロングトーン、やってくれ。ベースがしっかりすれば、絶対いい演奏になるんだ」

 コツガイ先輩の目は、血走るくらい真剣だった。自分より年下の、音楽もろくに分かっていない女の子に対して、頭を下げている。
当惑して、とりあえず言われた練習はしっかりやることを約束した。それは実際、続けるに苦ではないものだった。

 チューニングを合わせ、メトロノームを鳴らしてロングトーン。ゆっくり弓を引いて、左手のかたちを確かめながら。
それからスケール、クロマチック……。
 基礎練習は、嫌いじゃない。単純作業のようでいて、突き詰めると工夫の余地がいくらでもある。

「ベースがしっかりしたピッチ(音程)とリズムで弾いてくれりゃ、あとはどうにでもなる。ベースって、文字通り『土台』なんだよな」

 コツガイ先輩が言ったセリフを思い出した。それを聞きながらわたしは、

――先輩、間違ってます。「文字通り」だと綴りが違います。

と思いながら、でも言わなかったのだけれど。



♪ ♪ ♪

295名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 21:18:06 ID:HyRzu4dk0
↑すみません、以上で

296名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 21:44:12 ID:ffDuqHiA0
おつん

297名無しさん@避難中:2013/09/08(日) 16:22:26 ID:lYPTGCY.O
つ、続きを!

298ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:38:07 ID:EnO3M.CE0

中学校を卒業した後、それまで住んでいた土地から逃れるように、ここに引っ越してきた。
新しい学校で、わたしの目標はただひとつ。極力、人目につかないこと。

カタギの暮らしをさせてやってくれ――と言ったのが本当かどうか、知らない。
けれど父は生前、ときどきそんなことを言っていたらしい。


父はいわゆるやくざ者で、田舎の小さいながらも一家の親分だったらしい。けれど歳の離れた嫁――つまりわたしの母だ――には、
その筋の世界から遠ざけるようにしていた。
……というのが本当かどうか知らない。お葬式の席で聞いた話なのだ。

けれど、ちっともそんなことはなかった。
小学校の頃から、運動会には学校の周りに黒塗りのベンツ(じゃないかもしれないけど、わたしには車はすべて同じに見える)が停まって、
授業参観日にはなぜか母に若いスーツの男が数人、付き従っていた。


小学校の4年生くらいから、自分の家は普通じゃないんだと悟った。
他の友だちと同じような家ではない。
クラスの友達に
「まいちゃんのお父さん、おしごと何してるの?」
と聞かれて、答えられなかった。

何をしているのか、わたしも知らなかったから。


♪ ♪ ♪

299ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:41:18 ID:EnO3M.CE0

「タツジさん」

駅に向かう途中の、人気のない通りで立ち止まり、声をかける。
返事はない。
振り返ると、電柱の陰に白いスーツのジャケットがはみ出ている。
隠れてもいない。だるまさんがころんだじゃあるまいし。
引き返し、電柱の影のスーツを引っ張る。

「あ、あぁお嬢さん。これはこれは、お早うございます」

たった今気がついた、というふうを、学芸会レベルの白々しい演技で装い、引き攣った笑顔を浮かべて応える。
しどろもどろになりながら目が泳いでいる。

「タツジさん、なんでつけてくるの」

30過ぎたばかりの、粋がっているくせに童顔で憎めないチンピラは、目を逸らして言う。
「つけてたなんて、そんな。オレはたまたま朝の散歩をしてただけで。あ、お嬢さん傘、持ってますか? 今日は午後から」
「この前も、わたしをつけて電車に乗ってきてたよね」
途中で遮って、詰め寄る。

「しかもインネンまでつけちゃって。どうしてそういうことするの」
ようやく彼がわたしを見た。困った顔だが、不満気な表情がありありだ。
「インネンったって、あのガキがフザけた座り方してやがるから。お嬢さんが乗ってきたってのに、どきもしねえし」

――まったくもう。
つまり行為は認めたわけだ。

「あのね、わたしは大丈夫ですから。放っといて欲しいんです。わたしも、お母さんも」
「はぁ……」
タツジさんは、肩を落としてしょぼんとしている。その姿だけは、叱られてうなだれた犬みたいでかわいい。



♪ ♪ ♪

300ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:43:46 ID:EnO3M.CE0

学校の音楽室で、コントラバスを弾く。

この高校に入ったとき、わたしは部活には入らないことを決めた。
音楽は好きだったし、できれば楽器は続けたかったのだけれど、目立たないことが最優先だ。

遠征などあれば、どこから嗅ぎつけたのか、誰かしら「若いもん」がつけていたりする。
黒い車を見るたび、げんなりした気分になる。


だから、部活に所属しないまま、楽器だけ弾いている。
オケ部が使わなくなった古いコントラバスが音楽準備室に放置されているのを知ったからだ。
駒が歪んで調整に出さなくてはならないのだけれど、持って行くのは大変だしお金もかかる。
代替の楽器があるので、こちらは使われていないということらしい。

音の低いコントラバスが主旋律を弾いてサマになる曲というのはあまりないと思っていたけれど、ジャズにはそういう曲がたくさんあるのを、中学の時に知った。
目下のわたしの課題曲は、『You’d Be So Nice To Come Home To(帰ってくれれば嬉しいわ)』という曲だ。
古くからある曲だそうで、それをコントラバスを主役に演奏しているCDを聴かせてもらった(それを持ってきたのもコツガイ先輩だった)。


その曲は中学の時に演奏する機会はなかったけれど、譜面はもらっていた。
譜面をもとにCDを聴きながら弾いていると、コントラバスの難しさ、音の深さを実感できる。
ちょっぴりもの悲しいメロディが気に入って、わたしはそれを練習するのを放課後の日課にしていた。


♪ ♪ ♪

301ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:48:02 ID:EnO3M.CE0

父の思い出は、あまりない。

あまり家に居なかったからだ。
ごくたまに帰ってくると、欲しいものないか、買い物行こうか、そんな話ばかりだったように思う。
父は母よりもずっと歳上で、いつもスーツを着た大人が取り巻いていた。
決まった顔ぶれなので、わたしも顔と名前くらいは知っている。

「お嬢さん、ジュース買ってきましょうか」
「お嬢さん、疲れてないですか」

大人がわたしの世話をするのを、どこかで変だと感じていた。
そんなわがまま言っちゃいけない。そんな無駄遣いしちゃいけない。
わたしは、もしかしたら恵まれた環境にあったのかもしれないけれど、それを享受するのに後ろめたい気があって、
拒んでいた。


父が亡くなった時は、もちろん悲しかった。
わたしのことを知っていてくれる人は、母だけになってしまった、そのことが深く心に残った。
一方で、やくざの(そういう)世界から脱出できる、とも思った。

わたしは「ふつうの女の子」になりたかった。

302ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:48:48 ID:EnO3M.CE0
↑以上で

303名無しさん@避難中:2013/09/16(月) 23:42:36 ID:5aoQp6.IO
わお

304わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:01:17 ID:MnzBFMWI0
>>298-302

こんな事が起きてました。

305わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:01:53 ID:MnzBFMWI0
   『月』


 『You’d Be So Nice To Come Home To』

 この曲の意味、きみは分かるかい。

 天月音菜は下駄箱に腰掛けて、小さな児を諭すように呟いた。岩場の影の人魚姫にも似た佇まい。

 目をぱちくりと瞬かせ、生まれたばかりのひよこにも似た顔をして、一人の少女が下駄箱の上の人魚姫を見上げていた。
 いや……彼女は人魚などではない。すらりと伸びた黒ストッキングの脚が少女の目の前でクロスする一人の少女だ。
 白いシュシュで結ばれた髪の毛が歳よりも落ち着いたように演出し、鬼太郎のように前髪で隠れた左顔は歳よりも子供っぽい。

 そんな娘に迷わされて二の腕をぎゅうっと掴む、簀の子の上の少女が一人、家路に付く前に立ち止まった。黒髪長く大人びた
スタイルと思いきや、おでこの四つ葉のピンが子供じみた少女だ。そんな子を天月は手の平で挑発しているようにも見えた。

 「よく聴こえるんだよ」
 「何がですか?」
 「コントラバスの調べは教室の声にも似ている。ジャズは人を酔わせるんだ」

 秋の放課後の下足場はしんとして空気が大分柔らかい。

 天月音菜という娘はその名の通り天に浮かぶ『月』だった。
 色白く見るものを惑わせる白銀の星、気にかけることはさほどないが、いつの間にやら姿を現し、気を許したらならば身をくらます。

 「わたしには聴こえませんっ」
 「ほう……」

 下駄箱の上の天月がまた脚を組み替えると、天高くちらつく黒ストッキング越しの白いおぱんつが朧月夜に見えてきた。
 いくら月が美しく季節でも、まだまだ月夜の時間は遠いが、いにしえの人が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したではないか。

 「You’d Be So Nice To Come Home To」
 「はいっ?」
 「『帰ってくれれば嬉しいわ』。そんな曲」

 黒髪の少女が聞き慣れない英文を耳にしたかとその刹那、ぴょんと天月音菜が空を舞う。うさぎが星屑の間を擦り抜けるように。
 ふわりと音菜のスカートが空気を包んで脚に纏わり付き、ブラウス越しからでも分かる完璧なるスタイルが蛍光灯に照らさる。
結んだ後ろ髪は蝶のようにひらめいていた。ふわりと花びら散らされて、あたり一面が白銀の色に染まる。

306わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:02:14 ID:MnzBFMWI0

 「……」

 ばん!

 ヒーローよろしく簀の子に着地した音菜の髪が揺れる。
 長い髪の少女へと振り向きざまに一言胸踊る捨て台詞を残した。

 「また、あなたとはどこかで会いそうだね」

 下駄箱に残された少女が意味を噛み締めている間、天月音菜は朝方の月のようにすっと朧げに姿を消した。
 涼しかった朝焼けも、九月になると肌寒くなるSeptember。一人ぼっちの少女はぎゅうっと自分の二の腕を掴んだ。
 きょろきょろと周りを見渡し、気配が感じないことを確かめる。

 「……」

 ばん!

 肩に掛けていた通学かばんを投げ置いて、下駄箱に手を掛け、足掛けてよじ登る。長い髪を振り乱し、行き着く先は下駄箱の上。
天月のように腰掛けるとおぱんつが露になるからと、天井に頭ぶつけそうになり這いつくばって、髪掻き揚げてそっと耳を傾けた。
 まるで自分が岩山の頂を征したオオカミになったような気持ちだ。

 だが、オオカミは……孤独だった。

 聴こえてこない。
 コントラバスの搾るような重低音が。
 ただ、聴こえてくるのは『しん』とした放課後の声。
 真っ白いキャンバスに真っ白な絵の具で塗りたくったような真っ白な空気だった。

 やけに地上が霞む。
 たとえ、友人が近づこうとも気付くそぶりも出来ないなんて。

 「あかねちゃんっ。帰る前に部室寄ろ……って」」 
 
 下界からの声。もはや、天井の静けさを知った今、耳になど拒みたくなるような……いや、自分の名を呼ぶ声だ。
 この世に二つとない自分を表す文字羅列だから聞き逃せない。いわんや友の声をや。

 「……あかねちゃん?」
 「いや……あの」
 「何?新しい遊び?わたしも行くぞっ」
 「久遠っ。違うの、違うの!」

 尻尾を振りながら簀の子の上で久遠荵は手を突き上げた。

 あかねはふと、天月音菜の言葉を思い出して『帰ってくれれば嬉しいわ』と口にしようとしたけれども、
コントラバスの音が聴きたくて一先ず胸に引っ込めた。


   おしまい。

307わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:03:40 ID:MnzBFMWI0
昨日はでっかい月、見えたよ!

おまけ。天月さんだよ!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/583/okurimono.jpg

投下おしまい。

308名無しさん@避難中:2013/09/20(金) 19:24:07 ID:fKe6eyew0
み、見えそう…

309名無しさん@避難中:2013/09/21(土) 13:32:59 ID:dXgaWjAIO
音菜「見せてんのだよ」

310わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:35:08 ID:Jvw8QISU0
連投、失礼致します!
アーチェリー部の誰かをお借りします。

311『夕陽音楽団』 ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:35:50 ID:Jvw8QISU0

 忘れ物をしたと学園の女子高生・武政千鶴が教室への廊下を駆ける。
 放課後の校舎にわたし一人だけ、だから遠慮なく足音立てる。短い三つ編みがテンポよく揺れて、千鶴にちみっとついて来る。

 人を待たせているから。人を待たせているのにも関わらず、教室に大事な忘れ物をした。おまけに部活をサボってる。
 アーチェリー部だ。本当は出ようとしたんだけど、同じ学年の幽霊部員から誘われた。相川拓司というヤツだ。おまけにもう一人
犠牲になっていた。ちょっとは罪悪感を感じるろよ、いや、誰もが認める幽霊部員がやることならば、そんな正義感は期待しちゃ
ダメだろう。それに待たせている相手も同じく部活をサボっている同士だから世話はない。

 「もーっ!なんで忘れものしたんだろう!」

 憤りをぶつける相手も無いか仕方なしに叫んでみる。
 声を出せ、と誰かから唆されたように。
 不生産的な悪あがきをしているうちに二年生の教室へ脚が差し掛かった。千鶴はふうっと息を吐く。
 見慣れた教室が自分をせせら笑っているように見えてくるから不思議だ。
 夕焼けに染まる教室は赤と黒のコントラストでくっきりとサイケデリックに目に刺さる。

 がらりと教室の扉を騒々しく開けると、見ず知らずの少女が千鶴の席で寝ていたのだ。
 緑の黒髪長くつや美しく、前髪に四つ葉の髪留め付けた名前も知らない子が千鶴の椅子に腰掛けて、すやすやと遊び疲れた仔犬に
負けないぐらいの勢いで机に伏して寝ていた。千鶴は彼女を起こさないように足音を立てずに近づく。
 千鶴の忘れ物は机の中のノートだ。見ず知らずの少女にどいてもらわなければならない。しかし、夏の風がそよぐように眠る彼女を
起こすのは触るのも憚れる傷も無い焼き物の人形を割るようなことに似ていた。

 ちぇっ……と、ため息を漏らす千鶴の気配に気付いたか、髪の長い少女はゆっくりと俯していた顔を上げ、千年の時を越えて
目覚めたような光を放った。とは、ウソだが、千鶴はそんな比喩を浮かべる事で自分を落ち着かせた。目覚めた少女は千鶴を見るや
否や目を丸くして頬を紅く染めた。

 「ごめんなさい!わたし、一番前の席って憧れで!」
 「え?意味わかんない。ってか、そこ、わたしの席なんだけど」
 「だって……いつも、席替えでは一番後ろの席なんですっ」

 大人びた雰囲気を持ちつつ、四つ葉の髪留めに素っ頓狂な返答が子供っぽく見える少女に千鶴は額に汗を垂らした。
とにかく早くここをどいて欲しい。よくよく胸元の赤いリボンを見ると彼女は一年生のようだった。一つ先輩である二年生の千鶴は
……考えた。

 「一年生なのに、どうしてここにいるの?」

 もっともだ。それに自分の席に勝手に座ってちゃ、誰でも気になるし。一年生の少女は千鶴から顔を背けて話した。

312『夕陽音楽団』 ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:36:15 ID:Jvw8QISU0
 「逃げてきました」
 「何?何かの組織から?」
 「そうですね」
 「マジ?追われてるんじゃない?」
 「追っ手ですか。来ますかね……?わざわざ、二年生の教室を逃げ場に選んだわたしを」

 黒髪の少女がすっと立ち上がると、背中まで伸ばした髪が木の葉のように揺れた。思わず千鶴は頭を上げた。それもそのはず……。
 背丈は男子とためを張るぐらいだ。千鶴の鼻は少女の首辺り、白い肌が襟元からちらり。
 背の低い千鶴は彼女を軽く見上げて、つばきを飲み込んだ。舞台の最前列で極上の演劇を見ているような気分だったからだ。
演劇は見たこと無い。でも、きっと最前列で鑑賞したのならば、こんな空気に吸い込まれてしまうんだろう。千鶴は瞬きを繰り返した。

 「先週もここに逃げてきました。その時頂いたクッキー……とても美味しかったですっ」

 ごく自然な立ち振る舞いで左向け左をした少女、髪が響くように靡く。
 大人のような目をして甘いクッキーを語る少女、まるで幼い娘。
 千鶴は「クッキー」というフレーズを非常に気にしていた。しかも、この教室で?

 「え?クッキー?もしかして、前髪の厚い、ちっこい男子だったからだたとか?」
 「男子でしたけど、はっきりと覚えてません」

 千鶴には思い当たりがあった。部活の同志だった。きっとそいつは山尾修ではなかろうか。
 山尾修はお菓子を作るのが趣味だ。味もそこそこ以上と周りから評価を得ている。手作りお菓子をいつも持ち歩いている
山尾修が黒髪の少女にお菓子を分けてあげること、それは容易に千鶴には想像出来るのだ。

 「クッキー先輩、いませんね」
 「いないよ。今、カラオケ店に向かってるし」
 「知っているんですか」
 「知ってるどころか」
 「また、ここに来ますかね」

 少女は窓の奥を見つめ、山尾修の姿を映していた。
 赤い空、黒く染まった雲。そこに山尾修。
 イケメンというより、イジラれくん。しかし、ヤツには武器がある。
 それがクッキーじゃないか。
 少女のハート突き抜ける洋菓子焼くなんて、なんてジェントルマン。それは言い過ぎか。だが、洋菓子は揺ぎ無い事実。 

 「また、食べたいな。あのクッキー」
 「ってか。組織は?いいの?」
 「よくありません。自分から逃げてきましたから」
 「捕まるんじゃない?」
 「むしろ、捕まえて欲しいかもです。部活サボって二年生の教室で油売ってるわたしのような子を」

 千鶴の背中に一筋の冷や汗が流れた。が、自分が部活をサボってカラオケに行くことを相川拓司と山尾修以外は知らないはずだ。

 「わたし、帰ります。部室に帰ります。また、クッキー下さい」

 少女は何かを伝えようとした千鶴を振り切って教室を飛び出した。けたたましく廊下が鳴き声を上げる。
 否や千鶴は目を丸くして彼女を追いかけていた。しんと静まり返るかわたれ時の廊下には、いやでも濃い影が落ちる。

 くるくると階段を降り、くるくると追いかける。必死に誰かを追いけるってこと、今まで生きてきたまでにあっただろうか。
 階段を上から覗き込むとめまいのような立ちくらみに吸い込まれそうで、それでも夢中に千鶴は走り、叫んだ。

 「修に言ったら!?それ!?」

313『夕陽音楽団』 ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:36:43 ID:Jvw8QISU0
 真上からの声。さっきまで見上げていたはずの娘の声が階段の隙間を縫って真下から千鶴の元へ飛んでくる。
 一段飛ばし、二段飛ばしは当たり前。手すりにしがみつき、するするするっと彼女の元へ急ぐ。彼女のもとまであと5メートル。

 「すごく言いたいですっ」
 「じゃあ、カラオケ行く?一緒に?タクばっかりマイクの独り占めさせないよ!ね!わたし、あなたの歌声聴きいてみたいし!」

 少女は千鶴の何気ない言葉に心臓を鳴らせた。

 カラオケ……。

 少女の中ではカラオケは周りで拍手を送るだけのイベントだった。
 少女の中ではカラオケは友人たちの歌声を聴くだけの集まりだった。

 それは中学生まで。

 でも、今は女子高生。
 誰もが羨むJKですよ。
 カラオケぐらい行かせて下さい!

 わたし。黒咲あかねは……。
 
 「黒咲、早く部室に戻るんだ」

 踊り場に響く男子生徒の声。先輩だ。

 黒咲!?

 踊り場は小さなステージとなった。
 千鶴ははっと目を見開いて、最前列のシートで黒咲あかねの舞台を見ていた。

 「迫先輩!わたし……。『かっこう』をどう演じていいのかわかりません」
 「『セロ弾きのゴーシュ』。この舞台は黒咲が居ないとダメなんだろ?『黒咲あかね』の名前でみんなの前に出るんだろ?」

 千鶴が「黒咲あかね」の姿を再び見たとき、「黒咲あかね」の二の腕は一人の男子生徒によって掴まれていた。
 押さえつけられたウサギのように黒咲は大人しかった。千鶴の「待って!」の声も空しく、力なく。そして、黒咲あかねという子は
千鶴と一緒に降りてきた階段を……そして、逃げる為に走ってきた道を先輩と共に昇っていった。

 「あかねちゃん!!」

 階段の踊り場からあかねと迫と呼ばれた男子生徒が千鶴を見下ろす。
 ぴたと脚を止めて夕陽の逆光を浴びる。

 「部活……演劇部なんだよね。そうだよね?演劇……やるんだよね!わたしにはよく分からないんだけど……。ね! 
  それじゃさ!練習が終わってからでもいいから、カラオケおいでよ。間に合ったら、ラストの一曲歌わせてあげる」

 影だからあかねの表情は分からない。だが、千鶴には山尾修のクッキーを食べたときのような顔をしているんだと信じた。
 ゆらりと長い髪が縦に首振るあかねのシルエットとして赤く染まった窓ガラスに焼きついた。

 あかねが千鶴の前から消えたとき、千鶴の携帯電話がうなりを上げた。発信先はカラオケ店の相川拓司、今頃何曲目だろうか。
 夕陽が空を赤と紺色に分け隔て、その背景で山尾修がタンバリンを叩き、ステージでは相川拓司が一人でマイク握って
フィーバーしている姿が千鶴の目にぼんやりと浮かんでいた。待ってて。もうすぐ約二名加わりますから。新たな団員ですから。

 件名:「夕陽音楽団」。
 本文:「今行く。それからタク!最後の最後は取っておいて!」とメールを打ち、教室の忘れ物のことを忘れてカラオケ店へと急ぐ。



   おしまい。

314わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:38:25 ID:Jvw8QISU0
投下おしまいです。

315ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 15:59:23 ID:zRDtC/EA0

「ナギちゃん、おはよー」
「おはよー」

 ニシトちゃんが笑顔で挨拶してくる。彼女はいつも笑顔を忘れない。
取り立てて楽しいわけじゃなくても、楽しそうに振舞っている彼女の気遣いを、本当に尊敬する。嫌味でなく。


 4時限目の授業中、窓の外を見ると空が真っ暗になっていた。
粘土が乗っかっているような、暗く厚い雲が空を覆っていて、風が強く吹いている。

「あちゃー、これは予報より早く降りだすね」
昼休み、ニシトちゃんはお弁当を食べながら窓の外を見て言った。

「部活、休みになんないかなぁ」
気弱そうに言う。普段の彼女らしくない。
彼女はバレー部だ。体育館の部活だけれど、こんな日は早く帰りたいだろうと思う。


 台風が予報よりもずいぶん早く上陸してしまい、5時限目には強い風に混じって横殴りの雨が降り始めた。
校内放送が、部活動は中止して早く帰宅するようアナウンスしている。風が校庭の木々を嬲っている。

「台風はいいよな、進路が決まってて」
誰かがぼやいているのが聞こえて、吹き出しそうになった。
進路に悩んでいるのはみんな同じなんだ、と思ったし、なんとも笑えて上手いと思った。


♪ ♪ ♪

316ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:02:52 ID:zRDtC/EA0

――まいったなぁ。

 傘を持ってきたけれど、この風じゃ役に立ちそうにない。
バス停に立っていても、濡れるばっかりだ。けれど今日は自転車で来ていないので、バスで帰るしかない。

「ナギちゃんはどうするの? あたし、お母さんが迎えに来てくれるんだけど、良かったら一緒に乗って行く?」
ニシトちゃんは、わたしを心配して言ってくれていた。

 けれど、それに甘える気にはならなかった。
ホントはすぐにでも甘えたい気分だったけど、送ってもらえば家の近くまで来てもらうことになる。
その途中で“組の人たち”に出くわすのが嫌だった。
 これまでの経験上、そういう時に限って遭ってしまうのだ。ほぼ100%。

「大丈夫、バスですぐ帰れるし」

「でも、」
言いかけるニシトちゃんから逃げるように、その場を後にした。


――仕方ない。帰ったらすぐお風呂に入ろう。

 わたしは役に立っていない傘を差しながら、バス停に向かった。

それでも数人はバス停に待っている人がいる。カッパを着込んでいる人も、ずぶ濡れだ。

――やっぱりポンチョを買っておくんだったな。

あらゆる方向から吹きつける風と雨で、制服は既に濡れて気持ちが悪い。



 黒塗りの高級車が、バス停前に停まった。
てっぺんに黄色いランプを載せているので、辛うじてタクシーだと分かる。

前の席のスモークが貼られた窓が開いて、
「ゴメンなさ〜い、お待たせしちゃった〜」

男の人がサングラスを外して、わたしの方を見ながら言った。

317ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:08:14 ID:zRDtC/EA0

――な、なんで来たの!?

タクシーは後ろのドアを開けて、待っている。
「早くぅ、雨が降り込んじゃうわよォ」
オネエ言葉で男の人が続ける。

――あちゃー、なんてこった。

 周りの人が、わたしとタクシーを見比べる。
その視線から逃げるように、タクシーに乗り込んだ。



「ごめんなさいねぇ。道が混んじゃってて」
左ハンドルの運転席で、サングラスの男が相変わらずオネエ言葉で話す。

「アキトさん……なんで、わたしの学校知ってるの」
「そりゃあ、ずっと前から……あっと、違うのよ、今日は奥様に頼まれたの。ホントよぉ」

――まさか、そんな。
うちの近くにいるならまだしも、学校にまで来るなんて。


――アキトさんの車にだけは乗りたくない。
そう思っていた。

 ひどく痩せていて、普段は物腰の柔らかいオネエなのだけど、車に乗ると人が変わる。
かなり飛ばすし、荒い運転でも信号無視でも何でもするのだ。



 小さいころ、遠足のバスに乗り遅れそうになったとき乗せてもらったことがある。
それはそれは怖い体験をした。映画のカーチェイスさながらで、アキトさんはそれをとっても楽しそうに
しているのが余計に怖かった。
 まあ、お陰で集合時間には間に合ったのだけど。


「アキトさん。ぜったい、安全運転してね」
前席のシート越しに言う。

「もちろんよぉ。アタシ今はちゃんとタクシー、やってるんだもの」

暴走するタクシーの映画があったような気がしてイヤな予感がしたけれど、
一番安全とされる運転席後ろに腰を落ち着ける。

318ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:11:51 ID:zRDtC/EA0

 雨は相変わらず激しく、フロントガラスを叩きつけている。
滝の中を走っているようで、前がまったく見えない。そんな中を、アキトさんは鼻歌を歌いながら
アクセルを踏む。速度を確認したくないけれど、きっと100キロくらい出ているに違いない。

――外を見るのはやめよう。速度をいやでも感じて怖くなる。

 車内に視線を巡らせた。
アキトさんの顔写真が、運転席の横にある。まるで犯人写真みたく、神経質そうな顔がこっちを
睨みつけるようにして写っている。

――こんな顔で、どうやって面接通ったんだろう。

聞いてみようかと思ったけれど、参考になる話は聞けないだろうと思い直して、やめた。



♪ ♪ ♪

319ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:16:24 ID:zRDtC/EA0

 バイトでもなんでも、働くときには試験や面接がある。

 クラスの子が、ある日髪を真っ黒にして来た時があった。

「バイトの面接あるからさー」

 普段はかなり明るめの茶髪だったので、代わり映えはひと目で分かった。
数日後、その子はもとの色合いに髪を“戻して”いた。

「先に入ってたヤツが最悪でさー、マジ使えねーの!」

 バイト先の話をしながら、茶色の髪を弄っている。


 なぜだろう?

面接の時は黒髪じゃないとダメで、採用されれば茶髪でもいい。

 髪の色なんて、正直言ってどうでもいいと思う。
好きな色にして、それでずっと過ごせばいいんじゃないの?
面接の時は黒髪に、ってなんのため? 黒髪じゃないとダメなら、どうして働き始めたらOKになるの?

よく分からない。



「ナギちゃんはいいよねー。地毛なんでしょ?」
ニシトちゃんが言った。

わたしの髪は、茶髪とまでは行かないけれど微かに栗色っぽい。
あまり気にしたことはなくて、これまで髪を染めようとか脱色しようとか思ったことはなかった。

 中学の頃から、髪の色を気にする友達が多くなった。それで注意される子も少なからずいた。

 ニシトちゃんは少しだけ脱色しているらしく、よく見ると茶色がかっている程度だけれど、
定期的に美容院に行って染めた話を聞く。

「自分でやると、うまくいかないんだよー。でも、その分ケアしてもらってるからいいけどさ!」

光が当たると紅茶色になる彼女の髪は、ショートカットと彼女の性格によく似合っていると思った。

320名無しさん@避難中:2013/10/03(木) 16:19:16 ID:zRDtC/EA0
↑以上で

>>304
『How High The Moon』か『Fly Me To The Moon』のほうが似合いそうなお話ですね。
ありがとうございました

321名無しさん@避難中:2013/10/05(土) 07:33:43 ID:7V2KNIREO
乙乙ー

「台風はいいよな。進路が決まっていて」ってセリフ、何気に気に入った

322名無しさん@避難中:2013/10/13(日) 21:49:36 ID:vhMo2aVQ0
>>321
もとはtwitterか何かでのネタのようです
2chのどこかのスレでコピペされてるのを見つけてメモって、使わせてもらいました
オリジナルでなくてすみません


では投下します↓

323ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 21:53:04 ID:vhMo2aVQ0

 体育祭の練習日。
 競技部分は入りと終わりだけ確認して省略し、全体を通してひと通り終わって、終了となった。

 後ろにまとめた髪を一旦解いて、頭を左右に強く振る。

――あーあ、きっと砂だらけだろうな。

 砂埃の舞う校庭で体育祭の練習をして、汗もいっぱいかいた。
身体をシートで拭くだけじゃぜんぜん物足りない。早く帰ってシャワーを浴びたい。

 手櫛をざっと通して、髪を再び後ろにまとめる。
面倒なのでダッカールで挟むだけにする。


 今日はポニーテールにしてきた。
髪をいろいろ弄るのが好きなので伸ばしているけど、長いと正直、面倒に思う時もある。

 服だって、この学校は制服指定じゃない。
いちおう制服はあるけれど、それでなくてもいいし、私服でも内申点に影響しない。

 お洒落なコたちは“なんちゃって制服”(制服風の私服)で通学しているし、実際それは、とってもかわいい。
 でも、ちゃんとした制服ではないし、いつも同じものを着ていると思われるのはやっぱり嫌だ。
 「制服」なら、そういう“批判の目”からはいくらか免れる。

 そういうズボラな理由で、わたしは“この学校の制服”を着ている。
 でも、制服はけっこう気に入っている。
 中学の時の野暮ったいブレザーとは違う。中等部からして洒落ていて、普通のコでも生意気に思えるくらいだ。


 その、気に入っている制服のブラウスのボタンを留めているときだった。
 ニシトちゃんがポツリと

「サキザキくんって、カッコいいよね」

と言ったのだ。

――それって、誰だっけ。

きょとんとしているわたしを見て、

「あっ、別に深い意味は無いよ! ちょっと言ってみただけだし」

慌てて弁解する。一足先に着替えたのに、まだ髪を弄っている。そんな彼女の姿をなんとなく眺めながら、

――さきざき、サキザキ……

と顔を思い出そうとした。


 聞き覚えはある名前だけれど、わたしは友達が多い方じゃないので、同じクラスでない人の名前は
思い出すのに時間が掛かる。

324ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 21:58:15 ID:vhMo2aVQ0

――ああ、あの彼か。

 1年の時、同じクラスだった。
「将来は公務員!」みたいな男子だ。わたしの勝手な印象だけれど。

 2年になった今では別のクラスだし、とくに気にも留めなかった存在だ。
ニシトちゃんは、その頃から“目をつけて”いたのかな?



 サキザキ君のことは、2回ほど後輩らしい女の子と一緒にいるのを見かけた。
彼氏・彼女というより、“飼い主とまとわりつく子犬”みたいに見えた。

 彼が何の部活に所属しているか、知らない。わたしには、彼がどう魅力的なのか分からない。
たぶんニシトちゃんにとっては魅力的なのだろう。


 ただ、彼が体育委員でもないのに黙々と用具の片付けをしたり掃除をしたりする姿に
好感が持てたのは事実だ。


♪ ♪ ♪

325ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 22:03:04 ID:vhMo2aVQ0

 第5ポジションの1弦。小指でFをどうにか押さえ、2弦の開放と一緒に弾く。

ダブルストップ――重音奏法とも言う。2つの音を同時に鳴らす奏法だ。

 特別なテクニックじゃない。ただ、わたしはこの奏法を気に入っている。
 開放のD、1弦のF。
 それぞれ、単音では素知らぬ顔をしていた音が、重なることでまったく気づかなかった表情を見せる。

「コード(和音)とは違うんだよ。でもさ、たった2音でも、すごく深いと思わない?」



 ダブルストップを教えてくれたのも、コツガイ先輩だった。

「これが1ヶ所、スパーンと入るだけで、ぜんぜん違うんだよ!」

そう力説して、わたしはワケも分からないまま、譜面にないその音をペンで書き加えた。



 コントラバスは、低音担当だ。弓で弾いたり、指で弾いたりするけれど、基本的には裏方だ。

 ダブルストップをやると、音が一気に華やかになる。
音が羽と色を持ったような、ふわりと浮かぶ感覚。けれど、派手に自己主張するわけじゃない。

よく聴けば分かる程度の、でもそれがないと面白みに欠けるというような、なんともよく分からない立ち位置。



 それは一世一代の見せ場のような気がして、それをカッコ良く決めるためにたくさん練習した。

 全体練習の時、なかなか上手く出なかったその音が、綺麗に出てアンサンブルに溶け込んだ。

326ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 22:06:09 ID:vhMo2aVQ0

――やった! 出来た!!

 嬉しくって、わたしは誰かに褒められることを期待したのだけれど、

「ナギサワさん。2ページ目の3段目、Fのとこだけど」

タクトを振っていた顧問の先生が、言った。



「ミュートできてないのかな? いっつもDが鳴ってる」

――えっ?

 イタズラがバレた時みたいに、わたしは頭のなかが真っ白になってしまった。

すかさずコツガイ先輩が、
「いや先生、オレがそう弾けって言ったんです」

「何でそういうことするの」

「単音じゃ音が細いと思ったし。これくらいのアレンジは、大目に見てくれて良くね?」



 沈黙。


わたしには、先輩と先生の間に火花が散っているように見えた。

「譜面にないことをやらせないでくれる? まして1年生に」
「……」
「勝手なことを演りたかったら、ジャズでもやってれば。でも、ビッグバンドだってちゃんと譜面通りに合わせているんだからね」
「……」

――ど、どうしよう!?

戸惑っているうちに、パート錬に戻ることになって、座が崩れた。
みんな何事もなかったようにバラけて楽器ごとに固まる。

327ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 22:17:22 ID:vhMo2aVQ0

「悪いね、ヤな思いさせちまった」

全体練のあと、コツガイ先輩がさっと寄ってきて、手で拝む仕草をする。

「あの、わたしはどうすれば……」

戸惑っているわたしにコツガイ先輩は、此方をじっと見て言った。

「オレの言ったことはとりあえず忘れて、譜面通り弾いてくれていい」



――え?


「練習では、ね。けど、本番だけは誰にも手出しはできねぇ。演ったもん勝ちだ」

ニヤリと笑って、続ける。

「ナギサワさん、バッチリ決まってたぜ。気持ち良かったろ? 絶対、あそこはダブルストップで弾くべきだ」

わたしの前にこぶしを差し出した。
それを見つめていると、

「何してんの、グー出しな」

言われるままに、じゃんけんのグーを出す。

そのこぶしに先輩のこぶしがぶつかる。


「やってやろうぜ。何言われようと、カッコいいこと演った奴が強いんだ」

――たぶん、“ミュージシャン”というのはこういう人のことなんだろうな。

混乱と得体の知れない高揚感とで、ろくに考えられないアタマで辛うじて思ったのは、その一言だけだった。



♪ ♪ ♪


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