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みんなで世界を作るスレin避難所2つめ

434狸よ躍れ、地獄の只中で:2010/08/10(火) 00:15:23 ID:MqhQA7uY0
 ふわふわと浮遊するように飛ぶアカトラの背中の上で、迅九郎は背後にいる藤ノ大姐のほうに体ごと
向き直る。空の上なのだが、彼はその辺意識していないのか、臆することもなくひょいひょいと身軽な
身のこなし。おそらく何も考えていないだけなのだろう。

「まず、先に申し上げておくべきことがござる。実はこの刀……」
「う、うむ」

 わざわざ空の上で体の向きを変えて、真摯な表情で語る迅九郎に、藤ノ大姐も少し身構える。迅九郎
の尻のあたりから、ごくりと唾を呑むような音がする。アカトラだ。両者とも、迅九郎の次の言葉を聞
き逃すまいと構えている。

「この刀、刀身がないのですよ」
「は?」
「ニャ?」
「おや、聞き逃したんでござるか? この刀、刀身がないのですよ。刀身がないのです、この刀」

 藤ノ大姐、「は?」と言った表情からまるで動かない。それはきっとアカトラも同じだろう。おそら
く迅九郎の言葉は聞こえていない。
 空気の読めない侍、迅九郎。追い打ちをかけるように、
「証をお見せするでござる。じゃじゃん! どうでござる? 刀身ないでござろう?」

 となぜか愉快気に言って、鞘から柄を引き抜いて見せる。その言葉通り、ぎらりと鈍く揺らめく、数
多の妖物の血を吸ってきたいわくつきの刀身など、そこには存在しなかった。

 藤ノ大姐はいまだに「は?」の表情のまま凍りついていた。ぱちぱちと瞬きをしていることから、と
りあえず生きてはいるようだと、迅九郎は無用の納得をした。

 かちん、と小さな音を鳴らして、刀身のない刀を鞘へと戻す。ふっと一つ、小さな息をつく。

「言うまでもないことですが、『童子切安綱』という銘の刀は、この世……ではなく、現世に一振しか
ございませぬ。まあ厳密にいえば『童子切』などというのは銘ではなく……いやそれはいいとして。由
緒ある武家、源氏のさるお方が鬼退治に使われたとされるのが、童子切安綱でござる。大姐様であれば
勿論、御存知でいらっしゃいますね」

「む、無論じゃ。あの頃は酒呑の一族も……あ、なんでもないぞ。ほれ、続けよ」
「源氏の御名と輝かしい名声に泥をかけるつもりは毛ほどもありません。ただ、真の童子切安綱は、拙
者が持っているこの刀なのです」
「ほうほう。謎がみすてりいというやつかの。面白いのう、続けるのじゃ」


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