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みんなで世界を作るスレin避難所2つめ

1名無しさん@避難中:2010/06/11(金) 21:04:38 ID:Y1a78MZw0
ここは、みんなでせかいをつくるスレのひなんじょです▼

現スレ:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1275122105/
wiki:http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/286.html

ほんスレではなせせないようなこともこっちではなしてね!ふぇふぇ▼

230名無しさん@避難中:2010/07/13(火) 21:30:32 ID:LcoC8npo0
あ、たぶん、1スレ目だけこれで大丈夫だと思います
もし駄目だった時は明日まで書き込めないので、明日また

231名無しさん@避難中:2010/07/13(火) 21:57:43 ID:xuzpVW5.O
なにやら大規模規制の気配。しかしお構いなくこっちで感想をw


>『正義〜』
紫鏡…古式ゆかしい悪役タイプの異形だ…
無理しないペースで連載頑張って下さいね。

>『甘味処〜』
武蔵の本格参戦は!? そういえば金太郎なんかも再登場してほしいな…

232名無しさん@避難中:2010/07/13(火) 22:06:10 ID:IhYHr8X60
今度こそ行ってくる

233名無しさん@避難中:2010/07/13(火) 22:11:17 ID:IhYHr8X60
終了
家族っていうのが作品のテーマに関わる重要な要素になりそうだな

234名無しさん@避難中:2010/07/14(水) 08:06:12 ID:WB3l53oA0
代行、まことにありがとうございました!

235名無しさん@避難中:2010/07/14(水) 22:55:17 ID:WB3l53oA0
○質問コーナー○

英雄さん方は破壊活動が主ですが
インフラ整え直したり自然環境の復元なんかも担当してる部署等あるのでしょうか?

236名無しさん@避難中:2010/07/15(木) 03:32:58 ID:lPhzLgB20
良い質問ですねぇ!
ありじゃないですかねぇそういうの。
ただインフラ整備できるほど大きな組織じゃないですけどねぇ再生機関。
あくまでそう言うのは自治体主体でそれの補助程度じゃないですかねえやるとしたら。
自然環境の復元……そういう研究をしている学者も機関の中にいそうです。
再生機関では前時代の科学技術の保護進歩やそういった世の為の研究も
なされているようですがやはり対異形戦闘の部門が多くを占めているみたいですねぇ。
組織柄、異形がキライな人が多いんですねえ。
簡潔に纏めますと、インフラ整備は組織ではやっていない。要請があれば支援はする。
自然環境の復元を研究担当する部署はある!ただし小規模!といったところですかねぇ!
細かく考えてないんでまぁそこら辺はお好きに考えてください。

みたいな感じで。良い質問ですねぇって言えてもう満足した

237名無しさん@避難中:2010/07/15(木) 09:36:05 ID:kl2WZ9UcO
つことは再生機関の別部署をでっち上げるのはアリ?
それから昨日カキコしなかったのは、大雨でリアル避難所騒ぎだったからですw

238名無しさん@避難中:2010/07/15(木) 10:53:13 ID:lPhzLgB20
全然アリですよー

239名無しさん@避難中:2010/07/15(木) 14:00:47 ID:zgLNrE.MO
なんだ創発が過疎なのはみんな床下浸水していたからなのか

240名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 01:58:52 ID:zIEhusd6O
本スレに書き込めなくて流れがとまってるならこっちで盛り上がればいいじゃない。

241名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 19:33:04 ID:bvtzKR7YO
代行お願いします↓

>『大は小を〜』
七人ミサキとはまた異形新基軸…
シェア怪談イベントとかも面白いかもw

242名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 20:03:40 ID:xFpyg1Eo0
自分はまだ読めてないけど、代行はしてくるぜ!

243名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 21:48:36 ID:bvtzKR7YO
まだイラスト化されてないキャラの絵をリクエストしたり描いたりして遊ばないか

244名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 22:13:58 ID:S03yEG4U0
絵は描けないんだぜ
遊べないんだぜ
イラスト化されて無いキャラって色々居るねー

245名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 22:18:46 ID:vsapmQ.k0
絵は女性に偏ってる感じがするね。
結構絵のある地獄勢でも殿下や高瀬中尉はイラスト化されてないね。

246名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 22:30:07 ID:bvtzKR7YO
誰か殿下と侍女長描いてほしいな…

で、一枚
http://imepita.jp/20100716/808010

247名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 22:30:12 ID:uz6/4Z/Y0
自分絵描くの遅いですし

248名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 22:33:42 ID:xFpyg1Eo0
なんというぺったん娘w

249名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 23:00:48 ID:vsapmQ.k0
>>246
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 ちっぱい!ちっぱい!
 ⊂彡

250名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 23:18:40 ID:S03yEG4U0
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251名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 23:19:46 ID:d9te0vmo0


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   ヽ     ノ三   .|┃┃
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252名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 23:22:16 ID:S03yEG4U0
         ____/ ̄ ̄
          / │ ̄\__     ゴゴゴ・・・
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        ̄\_/ ̄ ̄\/ ̄     ゴゴゴゴゴゴ・・・
    ___/ ̄へ√⌒l⌒´ ̄ ̄\_
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           /三三ミミ::::`ヽ、
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253名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 00:06:14 ID:sj4ZmM/o0
なんか楽しそうなことやってる
絵描いてくりゅ

254名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 00:35:09 ID:sj4ZmM/o0
高瀬中尉
ttp://a-draw.com/contents/uploader2/src/a-draw1_22998.jpg
男キャラ描くのは苦手なんでホント雑だとおもいました

255名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 01:06:55 ID:sj4ZmM/o0
頼まれてもいないのに湯乃香ちゃん!!
ttp://a-draw.com/contents/uploader2/src/a-draw1_23000.jpg
というかもう今日ですけどね

256名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 01:12:58 ID:xoTBBLfs0
バスタオル……だと……?

257名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 07:35:45 ID:AoC8hMD20
これはGJ!!

258名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 09:05:49 ID:09.g1zAs0
YU・NO・KA! YU・NO・KA!

259名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 10:13:35 ID:mc46Y7swO
高瀬中尉かなりワイルドw
湯乃たんもそろそろ出番が欲しいところ

260名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 14:46:40 ID:sj4ZmM/o0
デザイン下手だから容姿とか設定少ないキャラだとなんか微妙になってしまう罠
他の人が描いてくれた方がいいと思ふ。他の人の絵も見たいです。

261名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 15:14:52 ID:mc46Y7swO
ちょっと問題ありかも知れないけれど、閉鎖都市の『ゴミ箱〜』なんかは、実在俳優なんか当てはめてみても面白いかも。

262名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:23:07 ID:4qxcF6nAO
代理投下お願いします。前回の続きみたいな感じで、また藤ノ大姐をお借りしました。

地獄百景『忘恩の坂』

263名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:24:48 ID:4qxcF6nAO


「…これこれ四畳半怜角、あの看板に書いてある『べるぎいわっふる』とは何じゃ?」

「…千丈髪怜角です。ワッフルというのは…まあ洋菓子の一種です。」

怜角は騒がしい子供が苦手だ。それにわがままな年寄りもあまり好きではない。しかし今、彼女が背負っている重い輿にはその二つの見事な複合体がどっかりと鎮座している。
『藤ノ大姐』こと花蔵院藤角。怜角は師である蒼灯鬼聡角のさらに師にあたるというこの子供のような女鬼を背中に担ぎ、かれこれもう半日、賑わう週末の地獄中心街を歩き回っていた。

「ふむ…試しに食してみようかの…」

怜角の災難が始まったのは早朝だった。外宮警護の交代でいそいそと獄卒詰め所に戻った彼女は、上司でもある蒼灯鬼聡角の呼び出しを受けた。夜勤明けの召集はたいてい碌な用件ではない。
久しぶりに早く退庁して休日を恋人と過ごす予定だった怜角の不吉な予感は的中し、ひょっこり自領から出てきたこの童女じみた鬼のお供という、迷惑極まりない延長勤務を言いつけられたのだった。

「…いやいや、やはり昼食は蕎麦がよいな。どこか旨い蕎麦屋はなかったかの…」

彼女…大師匠とでも呼べばいいのだろうか、とにかく藤角自体はそれほど重くはない。だいたい昔から大師匠などというものはチビと相場が決まっている。
しかし怜角がその両肩に担ぎ、藤角が居心地よく座っている大層な輿が途方もなく重い。ふんだんに頑丈な黒壇を使い、金箔で花蔵院の家紋などあしらったむやみに豪華な輿の裏には『寄進 閻魔庁獄卒隊有志一同』と書いてあった。
遥かな昔、藤角が獄卒隊を除隊したときに贈られたものらしいが、もし有志の連中に会う機会があれば嫌味のひとつでも言ってやろうと怜角は決心していた。

264名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:26:27 ID:4qxcF6nAO
(…だいたい最近聡角さまはひどいよ…私にばっかりこんな雑用言いつけて…)

黙々と指示通り歩く怜角の憂鬱などどこ吹く風、この年経たおてんば少女は閻魔庁周辺の知人友人のもとを底知れぬタフさで廻り続けている。隠居した老鬼や弥生、縄文級の大亡者たち。その度繰り返す果てしない昔話に、怜角は地獄近代史にかなり詳しくなったほどだ。

「…昔は朱天楼の最上階に『針山』というそれは旨い蕎麦屋があったのじゃが…」

「…火事で焼けちゃったんですよね。今より百万倍立派だった『昔』の朱天楼。」

「その通りじゃ!! なんじゃ今のあの下品な建物は!? 昔の朱天楼はもっとこう、優雅で…」

輿の上で藤角がぴょんぴょん騒ぐたび肩に食い込む革紐が痛い。これだけ元気溌剌なら歩けば良いと思うのだが、都合のいいときだけ年寄りになるのも憎たらしい。

「…いかんいかん、年を取ると愚痴っぽくなる。環状線怜角よ、とりあえず次は酒呑の爺いにでも会いにいこうかの…昼飯くらい出るかもしれぬ。」

「…扉が、閉まりまぁーす…」

もはや名前を訂正する気力もなく、怜角はまたとぼとぼと雑踏のなかを歩きだした。



「…ふう…思うたより味は落ちておらなんだの…」

ちゃんと新築の朱天楼でも営業していた『針山』で大江山酒呑一族の総帥酒呑老と歓談し、蕎麦をご馳走になった二人の鬼は再び地獄の街を歩いていた。
機嫌よく喋りながら怜角の背に揺られていた藤角は、やがて満腹と『針山』で出された酒のせいか、うつらうつら居眠りを始めている。
そっと振り返って彼女を眺めた怜角に、その愛らしい寝顔は無邪気な少女にしか見えなかった。滑らかな頬に長い睫毛。健やかな香りまでがほんのりと甘い子供のものだ。

265名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:28:34 ID:4qxcF6nAO
どっさりと買い込んだ土産物に埋もれ、気持ち良さそうな寝息をたてる年齢不詳の大師匠。ようやくとりとめのないお喋りから解放された怜角は肩をすくめ、よいしょと輿を担ぎ直した。

(…寝てりゃあ可愛いんだけどね…)

我ながら少し僻みっぽいな、と反省しながらも、気がつくとこのところの激務に溜め息が出る。やはり同じ新人獄卒でも胡蝶角や半角のような名門の鬼には、いかに公正な聡角とはいえこんな雑用は命じにくいのだろうか…

(…子守りなら私より胡蝶角の方が向いてるのに…)

先日殿下直々に抜擢された外宮警護班でも怜角は事実上守りの要だ。いくつかの事例で立証された広範囲で正確な彼女の防御力は、外宮に住む閻魔殿下とその従者を完全に守り抜く。
新編成での警護訓練と通常の研修業務。それだけでも同期の倍近い労働量なのに、僅かな余暇にまでこんな子守まがいの雑用とは…
正直なところ外宮警護班には足手まといな古参隊員も多い。いっそデートがふいになるなら彼らにこのお気楽珍道中を任せ、最新情勢に基づいた実戦演習でも行うほうがどれほど有意義か知れない。

(…私の試案通りなら一分、いや四十秒で全ての侵入者を殲滅出来る…)

気が付くと地獄市街を一周した怜角は閻魔庁に続く大通りに佇んでいた。丁度よいタイミングでむにゃむにゃと目覚めた藤ノ大姐が呟く。

「…そろそろ閻魔庁に戻ろうかの…」

「は、はい。承知しました。」

眠たげな藤角の声に怜角はほっと微笑んだ。やっと任務は終了、今ならまだ高瀬中尉と浴衣選びに衣料街を廻り、『いすぱにあ』での夕食という予定に間に合う時間だ。

「…千丈髪怜角よ。こちらが近道じゃ。」

藤角の厳かな声に、颯爽と大通りを急ぐ怜角の脚がピタリと止まった。確かに藤角の指し示す先、寂しく薄暗い路地は閻魔庁へと至る坂道だった。

(…忘恩の…坂…)

266名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:30:28 ID:4qxcF6nAO
この雑多な建造物に挟まれた狭い登り坂が、まっすぐ閻魔庁東門に続いていることは怜角も知っている。しかし彼女は地獄に暮らし始めてからずっとこの有名なこの坂を避けてきた。
現世でその恩を返せなかった相手、もう詫びることも、感謝の言葉を伝えることも出来ない遠い者たちの面影が、行き交う人々の姿を借りて現れるという『忘恩の坂』。
人界で幾多の過ちを犯し、親しい者に別れも告げられぬまま地獄へ導かれた魂のひとりとして、出来れば避けて通りたい坂道だった。

「…はい、藤ノ大姐さま…」

また微睡んでいるのだろうか、それっきり輿の上から藤角の言葉はない。ゴクリと唾を呑んだ怜角はやがて、しかたなくその脚を路地の方角へと向けた。



黙ったままの藤角を乗せた輿が坂の石畳に長い影を落とす。怜角はなるべく行き交う人の顔を見ないよう眼を伏せて歩いたが、何故か路傍の小石すら後ろめたい感情、胸の疼く古い記憶を呼び覚ました。
それは長い贖罪の日々と鬼としての過酷な修練を経ても変わらぬ人間、真樹村怜の記憶。久しく忘れていた物悲しい感覚に彼女は思わず視線を上へと向ける。
だがこんなとき、魂の揺るぎない礎として怜角を力付けてくれる閻魔庁の姿は坂の頂きに隠れて見えず、ただ虚しく彷徨う彼女の視界には狭く長い坂道と、ひんやりと暗い路地に坐る一人の老婆だけが映った。

(あの時の…お婆ちゃん?)

にわかに蘇る瞼の痛みは生前、初めてデモに参加した時の記憶だ。握りしめた角材の硬い感触。世界を変えようと立ち上がった真樹村怜の初陣はあの夜、一発の催涙弾であっけなく終わったのだった。

『…大丈夫かい!? お嬢さん!?』

267名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:32:27 ID:4qxcF6nAO
機動隊の恐ろしい咆哮に追われ、狩られる獣のような恐怖のまま逃げ込んだ見知らぬ民家に老婆はいた。何ひとつ問わず、ただ灼けるように痛む眼を洗い、冷やしてくれた彼女。
曲がった腰と丸く結った白髪頭は間違いなくあの夜、見ず知らずの物騒な女学生を一晩匿ってくれた親切な老婆だった。背中の輿のことすら一瞬忘れ、怜角は老婆が腰掛ける縁台に走り寄った。

「お婆ちゃん!! 私…」

しかし顔を上げ、首を傾げる老婆は全くの別人だった。怜角が確かに見た恩人の面影は微塵もない。ようやく眼の痛みが収まった夜明け、感謝の言葉も告げずこっそり逃げ去った忘恩を償えることはもう無いのだ。

(…あのとき、愚かにも私は『人民の為に闘う者を暇な年寄りが助けるのは当然』なんて思った…)

険しい眉を上げた怜角の脳裏に、黙々と地道な職務に就く仲間の姿が映る。日夜慈仙洞で幼児の世話に励み、必要とされれば危険な任務にも臆さず身を投じる胡蝶角。
同期の彼女が茨木の家柄を鼻にかけ、勤めを選り好みしたことがあっただろうか。後輩である怜角に警護指揮を委ね、その補佐に尽力する外宮警護隊の鬼たちが、そのことに不平を漏らしたことがあっただろうか。

(…私は…また同じ道を歩こうとしていた…)

ここは忘恩の坂。慄然と立ち竦む怜角の傍らを次々と懐かしい顔が通り過ぎてゆく。過激な政治活動に傾倒してゆく彼女に最後まで忠告を続けてくれた恩師や友人、親類たち。
大義と信じた闘争が若さゆえの熱病めいた幻想だったと気付いても、真樹村怜は二度と彼らの元へ帰らなかった。革命の夢から程遠い場所で哀れな骸と成り果ててもなお、自らを滅ぼした傲慢を改めようとはしなかった。

(…常に最も弱き者の下僕として生きよ。)

澱んだ怨念の底から真樹村怜の正しき魂の欠片を懸命に掬い集め、千丈髪怜角として再び光射す道を歩ませてくれた師の言葉だ。

268名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:34:35 ID:4qxcF6nAO
華々しい戦功や名誉とは無縁の場所にあるその道は、全てから学び、惜しみなく施す者だけが歩める道。そのことを忘れた鬼は偏狭な正義を振り回す、愚かで危険な魔物に過ぎない。

(…先生…みんな…叔父さんたち…)

仄暗い坂道を、怜角の改悛を拒絶するように行き交う人々は、かつて同じ教えを真樹村怜に説いたのではなかったか。ずっと昔、もうどんな謝罪も届かない遠い遠い過去に…

(…もう遅すぎるけど…有難うございました。この身が無に還るまで、決してあなたたちの教えは忘れません…)

いつの間にか怜角の震える肩には小さな掌がそっと置かれていた。もう届かない彼女の悔悟を聞き届け、全てに代わって赦しを告げる藤ノ大姐の優しい掌。
そして怜角には解っていた。この忘恩の坂で最後に自分が見なければならないもの、決して涙を流すことない鬼の眼にしっかりと焼き付けておかねばならないもの。
ここは忘恩の坂。ゆっくりと振り返った真樹村怜が遥かな坂の下に見たもの、それは丸めた体をしっかりと寄せ合い、遠ざかってゆく両親の寂しげな背中だった。

「…それでよい。我が孫弟子よ…」



「…怜角!? こんな所にいたのか!!」

不意に馴染み深い声が眩しい坂の頂きから響いた。やっと長く急な路地は終わり、すぐそこに見慣れた閻魔庁の巨大な東門が見える。

「聡角さま!?」

駆け寄ってきた声の主、蒼灯鬼聡角の姿は穴が開くほど眺めてもずっと聡角のままだった。ようやく坂の幻から我に返った怜角は深い安堵のため息を洩らす。

269名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:37:47 ID:4qxcF6nAO
「…休日に済まなかった、ことのほか評議が遅くなってな。代わろう。」

聡角は藤ノ大姐を乗せたままの輿を怜角から受け取り、馴れた手つきで軽々と背負った。いったい何人の鬼が、この輿に小さな師を乗せ様々な道を歩んできたのだろうか。その長く誇り高い系譜に連なった者として、怜角は改めて己の傲りを恥じた。

「…御一緒できて光栄でした。藤ノ大姐さま…」

「おお、大儀であったの。しばし待つがよい…」

ガチャガチャと輿の中を引っ掻き回して墨と筆を捜し出し、半紙に文字をしたためた藤ノ大姐は勿体ぶってそれを怜角の前に広げた。流麗な書体だったが…なにやら達筆過ぎて読みにくい。

「…『チオ髭蕪ノ冷魚』、でしょうか?」

「馬鹿者。『千丈髪藤ノ怜角』じゃ。藤角の名はまだまだ譲れぬ故、まあ今はこれで我慢するがよい。」

「…あ、有難うございます…」

輿が小さく揺れているのは、二人のやり取りを聞いた聡角が珍しく笑っているからだろうか。
悦に入る藤ノ大姐の顔と思いがけず与えられた『藤』の一字を代わる代わる見つめる怜角は、まるで祖母と妹が同時にできたようなむずがゆい嬉しさに戸惑い続けた。


おわり

270名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:38:51 ID:m1z3aZ/.0
>>263からでいいの?

271名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:40:10 ID:4qxcF6nAO
以上お願いします。またいつか狸の方々貸して頂ければ嬉しいです。

272名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 21:42:19 ID:4qxcF6nAO
>>270
そうです。迅速代理有難うございます!

273名無しさん@避難中:2010/07/18(日) 22:06:55 ID:m1z3aZ/.0
行ってきた
藤角フリーダムすぎw
近道が幻影を見せてくる坂とか、地獄には変わったスポットが普通にあるなw

274白狐と青年 ◆mGG62PYCNk:2010/07/19(月) 22:32:57 ID:lQNJV.RQ0
さる……だと?

275名無しさん@避難中:2010/07/19(月) 22:34:41 ID:eMiQGqeM0
こっちに続き投下してくれれば、代理投下するよ

276白狐と青年 ◆mGG62PYCNk:2010/07/19(月) 22:35:28 ID:lQNJV.RQ0


            ●


 道場の外、門柱に背を預けながらキッコはテイクアウトした吉備団子を口に運んでいた。
「異形がいるとか、随分と森好き勝手にされてんじゃね?」
 逆の門柱に背を預けた彰彦が空を見たまま言葉を発した。
「ただ通り過ぎる者にまで手は出さんのでな、まあアレは礼儀がなっとらんが……彰彦よ、あの異形をどう思った?」
 質問には考えるような間が挟まり、
「ああまでなっちまっちゃあな……でも、ああ、同じ感じがしたな……」
「そうか」
 では、と言って串を木に投擲し、
「確定かの。味もそのような感じであった」
「また……特殊な確認の仕方をしてんのな」
 苦笑で言って、
「キッコさん。あいつら、何が目的だと思う?」
「信太の森に居るという事は、我を仕留めそこなった事に気付いて来たか……いや、それにしては和泉に来るのはおかしいか」
 考え、「憶測以上の事は分からんのう」と息を吐き、
「いずれにせよ、ようやっと尻尾を掴んだのだ……本体まで食いちぎってくれるわ」
「尻尾切り離されなきゃいいけどな」
「ふむ?」
 キッコは彰彦を見て不審げに首をかしげてみせた。
「えらく食いつくではないか?」
「あー、ま、な」
 応じて彰彦は腕を掲げて示して見せた。参った、という眉尻を下げた表情が闇の中キッコの瞳に映り、
「匠の野郎変な所ばっか鋭くてな」
「クッカカ、いつまで隠しておくつもりなのかの」
「うるせえ、俺にもいろいろと考える事があんだよ」
 答える間に匠とクズハの呼ぶ声が聞こえた。寝床の準備が出来たようだ。
「行くかの」
「あいよ」
 二人は門を潜った。
 夜はひとまず問題を覆い隠し、穏やかに更けていった。

277白狐と青年 ◆mGG62PYCNk:2010/07/19(月) 22:37:10 ID:lQNJV.RQ0
投下終了です。

〝鬼が島〟及び桃太郎と真達羅をお借りしましたぁ

278名無しさん@避難中:2010/07/19(月) 22:44:12 ID:lQNJV.RQ0
代理ありがとうございました

279名無しさん@避難中:2010/07/19(月) 22:44:57 ID:eMiQGqeM0
行ってきたよ

彰彦は思ったより深く物語に絡みそうだな
あと、鬼ヶ島で吉備団子が注文されないのはもはや定番w
ロリコンキャラが定着してしまった真達羅さんェ……

280 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/20(火) 19:29:58 ID:2HhZYvjU0
で、最後の最後でさるですよHAHAHA
下のコメント、代理をお願いします……

281 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/20(火) 19:30:18 ID:2HhZYvjU0
以上です
いまさらですけど
「よくある話」
「甘味処」
と同じ書いてる人なのでトリップつけますね
且つ、出てくる奴らにつながりがあったりします
今回の「大は小を兼ねる」とかモロですし

真達羅「御伽シリーズだけじゃなくて私の昔の仲間も出たりしますね! もっとも半分以上考えてませんけどね! そして、この場を借りてmGG62PYCNkさん、店長をぶん殴る機会、ありがとうございました!」

282名無しさん@避難中:2010/07/20(火) 21:22:05 ID:LXdzKUXAO
感想いいかな?

>狸よ〜
『童子切』とはまた物騒なアイテムがw
そろそろ狸侍も地獄で派手な立ち回りを見せてくれるか!?

>白狐〜
ゲスト溶け込み過ぎw
やっぱりこれがシェアワの魅力か…


>大は〜
かくして収斂してゆく御伽の物語…
それぞれ簡潔なのに奥行きのある構成には驚く。

↑宜しければ代行を。しかし、最近温泉や監視界が静かなのは、書き手さんみんな本編進行で手一杯なんだろーな…

283名無しさん@避難中:2010/07/20(火) 21:24:46 ID:AiTNQs5c0
行ってきた

284 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/20(火) 21:37:01 ID:2HhZYvjU0
まことありがとうございます!

285名無しさん@避難中:2010/07/20(火) 21:51:18 ID:LXdzKUXAO
ありがとうございます!!

286 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/22(木) 20:30:13 ID:b.06bpIY0
またこれが規制中になってまして……
恐れながら代理をお願いしまします……

287大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:30:47 ID:b.06bpIY0


焚き火が爆ぜる音。
虫の鳴く音。
風の音。
半月は高く空に昇り、もうすっかり夜も更けた。

焚き火を囲むのは三者。
毘羯羅、天邪鬼、豆蔵。
安流は横になって眠っている。

いろいろな話をした。

まずは豆蔵が安流にミサキを話す。
御伽 草子郎を知っているだけに、安流の理解は早かった。
そして、治癒の方法。

安流にとって、これがとても簡単だがとても難しい。
かぐやの魔装を用いれば一発で治る。
しかし。
それを用いる事を忌避する現在。
どうしたものか。

そして安流が語りはじめる。
かぐやと出会った事。
かぐやが死んだ事。
金時と出会った事。
人を殺した事。

高熱という体調不良なのを押して、訥々と安流は語ったのだ。
毘羯羅が何度かブレイクを入れようとしたが結局しゃべりきる。
朦朧とする意識の中。
しゃべらずにはいられなかったように。

そのさなか、安流は何度も何度も感情を表に出した。
吐露した。
溢れたのだ。
せき止められないでいた。

それは寺をなくした時の悲しさであったり。
かぐやと出会った時の衝撃であったり。
かぐやと別れた嘆きであったり。
金時と出会った時のやるせなさであったり。
人を殺した時の恐れであったり。
それからずっとつきまとう魔装への怖れであったり。

「かぐや殿が兄弟を欲しいと話していた時、漠然と僕もそうだと思いました……
それから、龍の首の珠を使った後……
かぐや殿が兄弟を欲しいと言った心がやっと分かりました。
恐い。
恐いんですね……この魔装。
止めてくれる人、見てくれる人……となりに誰か、いて欲しく、なるんですね……」

弱々しく、か細く、小さな声で安流は途切れ途切れに語った。
結局、しゃべれるだけしゃべって安流はダウンした。
天邪鬼が魔法で作った氷を額にのっけて眠ってから。
毘羯羅が次に語った。

288大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:31:31 ID:b.06bpIY0
別に人間に友好的でもなんでもなかった頃。
だからと言って異形として何者かと連れ合うでもなく。
そんな一人旅の途中、ある人間の薬師に出会ったり。
その薬師に惹かれてついてったり。
人の道を説かれたり。
名前をもらったり。
薬師を慕って強い異形が集ったり。
集った異形で薬師の村を護ったり。
真達羅のせいでピンチになったり。

「毘羯羅……とか真達羅とか、覚えにくいし言いにくいな」
「猪羅とか鳥羅とかでいいよ」
「ああ、そりゃ分かりやすい」

桃太郎と出会ったり。

「まだ御伽 草子郎が生きていた頃のはずだな」
「豆蔵さんたちも、各地に派遣されていたんでしょう?」
「ああ、あっちこっち行ってた。もっとも拘束されて戦場まで運ばれて放り込まれてただけだけど」

結局、薬師が殺されたり。
そのおかげで仲間の龍が暴れ狂ったり。
それを止めるまでに住人にも被害がいくらか出たり、村が壊滅したり。
新しく村を造っても龍が暴れた手前いずらくなって旅に出たり。

その旅すがらに天邪鬼に出会ったり。

「お前ら二人、まだ組んで日が浅いのか」
「もともと俺も、その薬師に命を救ってもらった事があってな。その縁だ」
「じゃっくん、割と顔広いんですよ」
「瓜坊は世間知らずだな」
「だからこうやって旅してるんじゃないですか!」

豆蔵が次に語った。
とは言え、生きている大半の時間。
施設に閉じこめられていた豆蔵である。
あまり話す事はなかった。
せいぜい、殺した、殺せなかった、殺された、殺されかけた。
こんな話ばかりだ。

ただ、仲間の話を。
御伽 草子郎の被害者、被験者の話をする時。
いくらか安らかな表情であった。

「桃太郎さんもその中の一人ですね」
「そうさ、まだ生きてる御伽 草子郎の被害者ん中じゃ一番古いんじゃないかな」
「他に、どんな方が?」
「牛若と鬼若ってのもいるな。牛若が小角の術に特化させられた奴で、鬼若は鉄を食う異形の遺伝子と人の遺伝子混ざって生まれた奴だ。牛若は今一緒にミサキを追ってる」
「え?」
「俺、牛若、すずめって三人で追いかけてるんだよ、ミサキを。だがお前らに会う前にすずめってのがちょっと痛手を負ってな。牛若が看病、俺が先行してんだよ」
「そうでしたか。仲間がいたんですね」
「御伽 草子郎が死んで……正直一人だったらしんどかっただろうがな、牛若、すずめがいてくれて助かってる」
「だから、安流さんのお話に出てきたかぐやさんも、兄弟を欲しがったのですね」
「ああ、かぐやの気持ちは分かる。よく分かる。しっかりと、つながりを俺も作りたいと今更気づいたよ」
「……すずめさんもまた、御伽の?」
「そうだ。こいつは体をいじられ、安部の魔法に特化させられた女の子だな。ただ、ちょっと障害が残っちまってな、しゃべれなくなっちまってんだ」

289大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:32:16 ID:b.06bpIY0
毘羯羅が苦い顔をする。
しかしながら、御伽の手にかかったほとんどが死人廃人。
言葉を失うだけですんでマシだと考えるべきか。

「ついた二つ名は舌切りすずめ」
「悪趣味なネーミングですね」
「御伽 草子郎の墓の場所分かったら一緒に叩き壊しに行こうぜ」
「桃太郎さんも呼びましょうね」

それから。
最後に、天邪鬼が語る雰囲気だったけど。

「もう夜遅い。寝ろ」

と、はぐらかされた。
もっとも、これが女の子集合の姦しパジャマパーティならまだしも、
割と血なまぐさいのも混じる昔話大会なので深く突っ込まずにみんな横になる。

横になってから。

「豆蔵」

天邪鬼が口を開く。

「どうした」
「お前はかぐやが兄弟を欲しいと言った心が分かると言ったな」

安流は寺を無くして兄弟を欲しく思った。
いや、兄弟でなくてもいい。
共に過ごす者をぼんやり夢見た。

そしてかぐやの形見。
魔装に対する恐れから、となりに誰を欲しく思った。

二度。
最初は寂しさから。
次は恐怖から。

では、かぐやは?

290大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:32:54 ID:b.06bpIY0
「言ったよ」
「詳しく教えろ」
「……俺たちは、中途半端な化け物もどきだ。人外奇形の見た目の奴だっていた。そいつらが、人の海にまぎれるのは難しい。だから、寄り添おうとしたんだろう」
「ではかぐやも異形の見目だったのか?」
「いや、美形だった。ぶっちゃけ、人の街でも暮らしていけたはずだ。ただ、かぐやは優しかったんだよ。だから、俺たちが固まろる土台を作ろうとしたんだと思う。俺だって背格好が一向に変わらねぇんだ。ガキの見た目のままずっと変わらねぇ。多分、村で暮らしても気味悪がられるだけだ」
「……なるほどな」
「だがあの坊主はそういうわけじゃねぇ。かぐやの形見は俺が引き取るから、高熱さえ引けば後は普通に生きていけばいい」
「聞くかな。かぐやに随分執着していた」
「だが魔装を恐がってもいるからな。俺は丁度いい引き取り手だろう。ここが手放す機会だ」
「……どうかな」
「なんだ、手放さないって言うのか?」
「多分だがな……もっとも、あの坊主がやりたい事をも少し詰めて聞く必要がある」
「だから別に、兄弟でも家族でも、村で作ればいいだろう」
「そこだ」
「どこだよ」
「……明日、本人俺が本人に尋ねるさ。そこでな、豆蔵、お前に頼みたい事がある」
「なんだよ」
「ちょっとした芝居をしてくれ」



日が昇り。
安流が重いまぶたを開ければ天邪鬼が火を見ていた。

「よう」
「おはよう御座います」

二人きりである。
毘羯羅と豆蔵、二人の少年の姿はない。

「あいつらは朝食調達だ。山に行ってるよ」
「そうですか」
「お前、腹は?」
「減ってはいますが……」
「食えんか」
「はい」

ほどなくして、ウサギを手に豆蔵が。
五本足で眼が八個あってぬめぬめして「ぎゃぎゅぎょー!」と鳴く小型の異形を手に毘羯羅が。
それぞれ戻ってくる。

「瓜坊はそれ山に返してこい」

朝食はウサギだけと相成った。

首を落とす、皮をはぐ、肉を削ぐといった生々しい調理。
しかし割りと生臭坊主だった安流の事、特に気にせず。
木の枝に刺して塩を振り、焚き火であぶるが三人分だ。
やはり安流は食べられそうにない。

「安流」

さて、肉を噛みながら。
豆蔵が切り出した。

291大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:34:37 ID:b.06bpIY0
「かぐやの形見を俺が預かろう」
「……」
「昨日話したように、ミサキのウィルスは魔装を使えば楽に治せるが……今のお前には酷だろう。なら、危険物は今俺が預かっておいた方がいい」

安流がまぶたを閉じる。
もどかしげに。
やるせなげに。

「安流、お前の目的は何だ?」
「……」
「安流」
「兄弟を、欲しいと思っています」
「ならば、異形を相手取るような武具もいらんだろう」

安流が、眼を開ける。
言うか、言うまいか。
そんな迷いがなかった。

「僕は……人も、異形も、あなたたちさえつなげたい」
「……つなげて、どうする」
「すれ違いを無くす」
「すれ違い?」
「かぐや殿と金時くんが出会い、結局殺し合いをしました。金時くんを受け入れた山を、……金時くんの家族を手にかけたからです」
「おい、坊主、武具を手放さないという事は、だ」

天邪鬼が口を出す。
毘羯羅は、空気に和気がないのを察しておろおろしはじめた。

「ナイフを喉元に突き付け合って話し合うわけか?」
「違います。僕は両手を挙げます。相手のナイフを全て……受け付けない自衛です」
「相手は疑いと恐怖しか持つまい」
「時間はかかります」
「……今の日本を、お前はどう捉えている?」
「どう……と言われても。まだ混乱してますよ。二次掃討作戦が終わっても落ち着いたというわけではない」
「戦国だ」
「え?」
「今はな、戦乱だよ。この国は割拠しているのさ」
「……分かる、気はします」
「気がするだけだな。もっと煮詰まればこの国はどう転ぶかまるで暗闇の中。無論、戦国だ割拠だとは言え、人同士は自治体の豊かさで競うだろう。
だがその根底は食い合いだ。遠い未来でも確実に、国は纏まらざるを得まい。一つに纏まらないとしても、いくらかの分裂で均衡だ」

安流が押し黙るが、天邪鬼は止まらない。
まるで、攻めるように続けた。

292大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:35:46 ID:b.06bpIY0
「異形が一個に集って人と拮抗するかもしれん。異形と人が手を取る可能性もある。今は閉鎖したこの国が、海の外から何が来るか予想できるか?」
「……あ、う……」
「その中で……お前が言う事は、不当に暴力を持つ集団を作ろうと言うものだ。人と、異形と、御伽の子らをつなげてどうしようと思っていた?
ひっそりと暮らしたいか? ささやかに寄り添いたかったか? 笑わせる。誰もが思うだろう、何を企んでいるのだ、と」
「……そんな、そんなつもりでは……ただ、僕は全国に散っていても仲間がいると思えれば……」
「そんなつもりではないと主張して聞き入れてもらえるか? 時間をかけるか? その時、時間はあるか? 信じられる事なかったとしたら?」
「……」
「国が穴だらけの現在の日本が永劫続けばお前の夢も叶うだろう。だが変わる。混乱と言うものはいずれ収束してしかるべきだ。
この国の混乱も収束するぞ。収束したその時、収束の途中、お前の夢に居場所はあるかな?」

安流は何も言えない。
見据えていなかった。
見通していなかった。
見越していなかった。

例えば再生機関。
正義の名の下に、異形の討伐を成す機械集団は国の再生をこそ大義名分に集い、戦う。
そこに口をはさめる者はいまい。
求められる暴力を高めているからだ。

例えば平賀研究区。
五つの名前の一つの下に異形と人が共存するそこを確かに疎ましく思う者も少なくない。
しかし手を出せるかどうかと言えば別だ。
求められる技術を高めているからだ。

己はどうだ。
安流は自問すれども、代償行為でしかないと思わざるを得ない。
かぐやを失った過ちを、もう起こさぬよう。
それだけだ。

「分かったら大人しく坊主をやっていろ。かぐやを忘れろとは言わん。だがまっとうに生きろ」
「……できません」
「ならばかぐやの魔装で一生涯殺し合いを続ける事になる。いや、お前は諸手を挙げるだけだったな。
一身にただただ周囲から殺意敵意害意を向けられる日々になる。耐えられるか?」
「それを耐えるための兄弟が欲しいと……」
「作った兄弟もあらゆる者から疎まれてもいいと?」
「違う、僕は……ただ……」
「かぐやの魔装を手放せ」

代わって。
豆蔵が口をはさむ。
ますますおろおろする毘羯羅を、天邪鬼が手で制す。

293大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:36:30 ID:b.06bpIY0
「それが一番幸せだ」
「……………………できません」
「かぐやは残念だったが、あいつ以外の兄弟を作れ」
「……僕は、かぐや殿の言葉が、忘れられないのです」
「忘れんでもいい。偲べ。お前の夢は偲ぶ事もできなくなるかもしれん……死ぬかもしれん夢だ」
「…………できません。かぐや殿と金時くんのすれ違いを見て、僕だけが平穏なんて……つらすぎる」
「どうしてもか」
「……………………はい、どうしてもです」

豆蔵が腰に下げた小槌を手に取った。
みるみる大きくなっていくそれは、すぐさま人を叩き潰せるサイズと化す。

「なら死ね」

呆然と、打出の小槌が大槌になるのを見届ければ。
豆蔵が振りかぶる。
腰を据えて。
安流に向けて。

「豆蔵さん!」
「よせ」

毘羯羅が疾風じみて止めようとするのを天邪鬼が止める。
安流は、唇を震わせて何も言えずにいる。

「お前は高望みが過ぎている。どの道のたれ死ぬ結果に終わるだろう……どうあっても地獄だ」
「う……ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、く……は、ただ……」

後ずさる安流を、退いただけ豆蔵が詰める。
本物の殺気に当てられて安流の腰は当に抜けていた。
かつて金時と対峙した迫力と酷似している。
本物の気迫。
小さな豆蔵の体から、猛獣以上の脅威を感じる、

気づけば安流は泣いていた。
豆蔵に恐怖したか。
かぐやの形見を手放す事が悲しいか。
ただ。
死ぬことを厭う心では、なかった。

「最後だ。かぐやの形見を手放せ」

手放そうか。
安流が、そう考えてしまう。

国のためではない。
自分のために、つながりを作ろうとしたのだ。
それは不要な混乱さえ招きかねない事。

本当につながりたかったのは、かぐやなのに。
ここで止まらなくても、辿り着くこともない。
心の底から望んだ人は、もういないのだから。

だからやろうとしている事は所詮、代償行為なのだろう。

かぐやを失った過ちを、もう起こさぬよう。
それだけだ。

294大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:36:58 ID:b.06bpIY0
それ。
だけ。
だ。

違う

それ。
だけ。
は。

それだけは。
それだけは、

「譲れない」
「あん?」

それだけは、譲れない。
かぐやを無駄死ににさせないためにも。
かぐやが生きた意味があるように。
かぐやの心が続いていくように。

「手放せない! 手放さない! 僕は、僕が! つなげる……! 戦乱でも、割拠でも! 必要とされてやる! 手を出させない!」

槌が、振り降ろされ。
安流は、まぶたを閉じず。
涙を流しながら、豆蔵を見上げ続け。

同時。
貝の形の薄幕が。
安流を護るように、現れる。
――燕の子安貝

「……離せよ」
「そうはいきません」

そして、大槌が止まった。
貝の防壁に触れる事もなく。
毘羯羅に止められ。

「いや、瓜坊、もう離していいぞ」

毘羯羅を抑えていた天邪鬼は吹っ飛ばされて転がっている。
身を起こして、それだけ言った。

貝の防壁が溶けるように消えていく中。
安流が、まだ泣きながら。
まだ緊張しながら。
まだ見上げながら。

「芝居だ」
「……は?」
「いや、殺す云々は芝居だから離せって」
「……は?」
「いや、だから殺す云々は芝居だって」

295大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:37:27 ID:b.06bpIY0
毘羯羅が半信半疑に槌を止める手を離せば、豆蔵も小槌を元に戻す。
本当に。
演技だったようだ。

「安流、平賀に会いに行け」

そして、天邪鬼がこう言った。
まだ訳も分からず緊張したままの安流を豆蔵が立たせ。

「まずは魔装を使いこなせ。俺が言った戦乱とか、兄弟が疎まれるとか、気にするな。まずは力をつけろ。話はそれからだ」
「…………はぁ」
「しゃんとしろ。必要とされてみせるんだろう?」
「あ、いえ、その、それは……」

毘羯羅もそろそろ、あーなるほどー、とか言ってる。
落ち着き始めた安流も、試された自覚が出てくる。
しかしまだ腰が抜けたままだ。

「俺が言った事は、間違っているかもしれんし間違っていないかもしれん。だがまだ時間はある。猶予のようなものが、まだあるだろう」
「……」
「まずはお前が柱になれるだけの強さを得ろ」
「僕が……柱?」
「柱になるならば人間だ」

涙は、流れ続けている。
しかし先程とは違う涙だ。
豆蔵が笑いかけてくれる。

「お前の夢は、きっと叶えるに値する」
「だから安流、まずは平賀だ。かぐやの魔装について、調べてもらえ。どう使えばいいか、把握しろ」
「あ、あのですね!」

ようやく話の流れに追いついた毘羯羅も手を上げる。

296大は小を兼ねる 後篇:2010/07/22(木) 20:37:57 ID:b.06bpIY0
「薬畑という村に行くといいですよ」
「くすりばたけ?」
「一次掃討作戦の後の荒地にできた村なんですけど、僕の仲間がいるんです。名前は迷企羅。虎です。虎羅です」
「虎……?」
「はい。唯一、旅に出ていない僕の仲間で、教える事が好きだから、きっといろいろ話をくれますよ。強くなるのがどうとか魔法がどうとか」
「くすりばたけ……」
「名前の通り、薬ばっかり作ってる所です。ただ、新旧あって、古い方の薬畑です。京の南の方にある田舎ですよ」
「ありがとう御座います、寄ってみます」

豆蔵が安流の肩を叩く。
励ますように。
背中を押すように。

「まだ魔装は恐いだろうが、小まめに使って魔素を消費し続けろ。じき、熱は引く」
「……はい」
「俺の仲間をつけようとも思ったが……もう一人で大丈夫だな?」
「……はい」
「さっきの言葉、嘘じゃないな?」
「……はい」
「よし、それじゃあよ、また生きて会うぞ」
「……はい、必ず!」

こうして。
安流は平賀と迷企羅へ進路を取る。
人をつなげられる強さも知識も得るために。
柱になっても折れぬため。

そして。
毘羯羅と天邪鬼、そして豆蔵は京の北の果て。
浦島へと進路を取る。
ミサキを止めるため。

再び会おうと約束をして。

297 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/22(木) 20:41:26 ID:b.06bpIY0
以上です
安流修行編
と見せかけて、和泉とかにこのハゲを出す苦肉の策

今気づいた
私、まだ女の子を自分で出してない
次は……!
次こそは……!!!

298名無しさん@避難中:2010/07/22(木) 20:45:21 ID:uqqUtKoQ0
行ってくる

299名無しさん@避難中:2010/07/22(木) 20:51:15 ID:uqqUtKoQ0
なんか>>290に長すぎる行があるって出て書き込めなかった
ちょっと改行いじってみて

300 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/22(木) 21:13:09 ID:b.06bpIY0
またこういう事するでしょ!
ごめんなさい!
下みたいな感じでお願いします

301 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/22(木) 21:14:31 ID:b.06bpIY0
「言ったよ」
「詳しく教えろ」
「……俺たちは、中途半端な化け物もどきだ。人外奇形の見た目の奴だっていた。
そいつらが、人の海にまぎれるのは難しい。だから、寄り添おうとしたんだろう」
「ではかぐやも異形の見目だったのか?」
「いや、美形だった。ぶっちゃけ、人の街でも暮らしていけたはずだ。ただ、かぐやは優しかったんだよ。
だから、俺たちが固まろる土台を作ろうとしたんだと思う。俺だって背格好が一向に変わらねぇんだ。ガキの見た目のままずっと変わらねぇ。多分、村で暮らしても気味悪がられるだけだ」
「……なるほどな」
「だがあの坊主はそういうわけじゃねぇ。かぐやの形見は俺が引き取るから、高熱さえ引けば後は普通に生きていけばいい」
「聞くかな。かぐやに随分執着していた」
「だが魔装を恐がってもいるからな。俺は丁度いい引き取り手だろう。ここが手放す機会だ」
「……どうかな」
「なんだ、手放さないって言うのか?」
「多分だがな……もっとも、あの坊主がやりたい事をも少し詰めて聞く必要がある」
「だから別に、兄弟でも家族でも、村で作ればいいだろう」
「そこだ」
「どこだよ」
「……明日、本人俺が本人に尋ねるさ。そこでな、豆蔵、お前に頼みたい事がある」
「なんだよ」
「ちょっとした芝居をしてくれ」



日が昇り。
安流が重いまぶたを開ければ天邪鬼が火を見ていた。

「よう」
「おはよう御座います」

二人きりである。
毘羯羅と豆蔵、二人の少年の姿はない。

「あいつらは朝食調達だ。山に行ってるよ」
「そうですか」
「お前、腹は?」
「減ってはいますが……」
「食えんか」
「はい」

ほどなくして、ウサギを手に豆蔵が。
五本足で眼が八個あってぬめぬめして「ぎゃぎゅぎょー!」と鳴く小型の異形を手に毘羯羅が。
それぞれ戻ってくる。

「瓜坊はそれ山に返してこい」

朝食はウサギだけと相成った。

首を落とす、皮をはぐ、肉を削ぐといった生々しい調理。
しかし割りと生臭坊主だった安流の事、特に気にせず。
木の枝に刺して塩を振り、焚き火であぶるが三人分だ。
やはり安流は食べられそうにない。

「安流」

さて、肉を噛みながら。
豆蔵が切り出した。

302 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/22(木) 21:19:37 ID:b.06bpIY0
代行……ありがとうございました!

303名無しさん@避難中:2010/07/22(木) 21:20:27 ID:uqqUtKoQ0
終了

安流に主人公の風格が
あと、おろおろする毘羯羅に萌えた

304 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/23(金) 19:27:12 ID:nkYbE5/20
ようこそ、◆X2eF6cXcIA へ。
この話はサービスだから、まず読んでで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このトリップを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「またかよ……」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、
そう思ってこのトリップを作ったんだ。

じゃあ、代理をお願いしようか。

下の話の代理をどうかお願いします!

305鉄の女:2010/07/23(金) 19:28:40 ID:nkYbE5/20


秋田。
東北地方に座す日本における魔境である。
来訪者には須らく雪と寒風の洗礼を浴びせる北の果てが一角。
生命という生命を拒むがごとき寒冷は圧倒的であり、
乗り越えるために秋田の賢者たちは英知の結晶として米と酒を生み出した。

そんな日本海に面せし米と酒の楽園には、
1980年代後半頃〜2000年代前半頃、
ハタハタを絶滅寸前まで狩に狩った豪傑どもさえ存在していた。

まさに文武のそろい踏み。
あきたこまちなる品種を創造せし聖人を育み。
ハタハタを蹂躙せしめる魔人たちを生み出す。
さらにはなまはげという鬼人さえ抱える鉄壁の布陣。

かような人材がひしめく秋田とて第二次掃討作戦を乗り越えて、
復興の只中、あるいはやっと落ち着いたというのが現状だ。

さて、そんな秋田の片隅に。
むしゃむしゃ村と言う村が存在した。

地震、異形の出現と荒れに荒れた日本において、
中世の文化レベルで村を新たに造る事も少なくない。

そんな村の一つ。
むしゃむしゃ村。

かつての勇猛な武者らを先祖に持つ者たちが起こした村。
その武者が重なってむしゃむしゃ、という呼称であるという説が一割。

そして九割の説は村のみんなが食欲旺盛。
むしゃむしゃ食べるぜ、むしゃむしゃ村。
という感じだ。
むしろこっちが定説だ。

そんなむしゃむしゃ村の住人に彼女はいた。

まるで泥酔してしまっているかのような赤い肌。
きりりと凛々しい双の眼。
男顔負けの逞しい体躯と豊満な肉付き。
長く艶やかな髪を一つにくくり。

鉄がごとき、その女。

鬼若は、そこにいた。



ざく。
鍬を大地に突き刺して。
掘り返す。

なんとも基本的な農作業である。
延々と、もらった畑を耕して。
鬼若は、そこにいた。

306鉄の女:2010/07/23(金) 19:29:19 ID:nkYbE5/20
各所に刀傷をこしらえて、ずたずたの満身創痍で死に掛けていたのが半年ほど前。
むしゃむしゃ村の村人に助けられ、養生したのは三ケ月。
すっかり完治した鬼若だが、行く当てもなく。
結局、村に置いてもらえる事になった。

御伽 草子郎が死に。
鬼若は生きる指針を失った。
指針が欲しくて不安で不安で仕方なく。
生きる方向を教えて欲しい一心で。
武蔵を追いかけ追いついて。
自分で探せと突き放されて。
切り刻まれた半年前。

今、鬼若の心は穏やかだった。
むしゃむしゃ村の片隅に畑をもらい。
土を耕し種をまき。

それは、命と向き合う事だと良く分かる。
土を耕すという一事だけでそうだ。
土も生きている。
呼吸をする。
だから耕してやらねばならない。

いや、それどころか鍬に使う鉄さえ生きている。
鬼若が命を向き合おうと思ったきっかけはむしろこっちだ。

そもそも鬼若は。
鉄を食うのだ。

もともと異形と人の子を作ろうというコンセプトで作られた一人だった。
人の卵と異形の精。
異形の卵と人の精。
いろいろな実験があったらしい。
鬼若は、異形の卵に人の精から生まれたはずだ。
人の姿に準じて生まれたのは、幸いだったと思う。
もっとも、母も父も人の形をしていたらしいから当然と言えば当然か。

ただ、母の特性。
鉄を食う性も受け継いだ。
体は鉄がごとく。
肌の色はもはや鉄火。

無論、鉄以外も食えるが鉄を食うほどに鬼若は力が増すのだ。
鋼鉄を食えば食うほど剛く。
武具を食えば食うほど強く。

だから、最初に農具の声を聞いた気がした。
鉄を食う事無く。
向き合った。
それでどうしたかと言えば、手入れをしてやった。
農具もむしゃむしゃ村で余っていた物だったのだ、随分手入れがされていなかった。

丁寧に、手入れをしてやった。
農具が喜んでいる気がした。

307鉄の女:2010/07/23(金) 19:29:52 ID:nkYbE5/20
次に、土の声が聞こえた気がした。
耕している時。
もっと空気を吸いたいと。
幸い、異形を相手に大立ち回れる豪腕である。
もらった畑が小さかったのもあり、よく耕してやれた。
そして水をやり。
肥料をやり。
畑も美味いと言っているような気がする。

次はまいた種の声が聞こえるのだろうかと鬼若は思う。
畑を任され三ケ月だが、きゅうりがそろそろ食べられそうになってきた。
ただ元気はないように見えた。
そもそも気候に適さないのだ。
魔法で温度を調整して育てている者がいて、種をもらってまいたのだが普通にやったのではいけないようである。

しかしいけないのも実際に育てて見ろ、と言われた。
次はどうしようか。
他の野菜はどうすればいいだろう。
鬼若は考える。

そして気づかない。

田畑と対峙し。
野菜と対峙し。
農具と対峙し。
御伽 草子郎が死ぬまで。
殺す事ばかりに傾倒していた頃を、すっかり忘れてしまっている事に。

そんなある日々の中で。
とある災厄がむしゃむしゃ村に舞い降りる。



「異形だー! 異形が出たぞー!」

大豆の畑に水をまいていた時であった。
村に響く大声に鬼若が顔を上げる。
そして声の方へと駆けるのだ。

他の村人も声の方へ走る中。
鬼若が風のように駆け抜ける。

すぐにどんな異形が出たかは視界に入る。
大きい。
いや、高い。
足が異常に長い男が野菜を貪っているのである。
その足元には異常に手が長い男。
これまた畑を荒らして野菜を食っている。

「やあきょうだい、これはうまいやさいだな」
「そうだなきょうだい、こっちのやさいもうまいぞ」
「おう、あれもうまそうだ」
「おう、それもうまそうだ」

308鉄の女:2010/07/23(金) 19:32:09 ID:nkYbE5/20
テナガとアシナガである。
風を巻いてたどり着いた鬼若はアシナガを見上げて声を荒げる。

「お前ら! 何者だ! 何してる!」
「オレたちテナガアシナガ。お前こそなんだ?」
「鉄のにおいがぷんぷんするぞ」
「半分異形の半分人間だ」
「はんぶん人間か」
「はんぶんようかいか」
「ならば納得だ」
「それは納得だ」
「おい、それより勝手に野菜を食うな。腹が減っているなら頼め。この村の人たちなら快くご馳走してくれる」

半年前。
死に掛けていた鬼若に、村人総出で我先にと体に優しい料理を提供してくれたのを思い出す。
収集がつかなくなってしまったので本当に村人総出で、
「最強の病人食決定戦」なる村人全員参加の料理大会まで開かれた。
そして優勝料理が鬼若に提供される事になったのはまだ記憶に鮮明である。

加えて、鬼若が鉄を食うと知っても、

「むしゃむしゃ村と謳っておきながら鉄をむしゃむしゃ食う発想はなかった」
「まいった! お前はこの村に相応しい!」
「へへ……いい食いっぷりじゃねぇか。ほら、うちの鍋も食いな!」

とむしろ鉄をご馳走してくれた豪傑たちの村である。

「あー! 俺の野菜が!」
「俺の畑が……!」

そして。
テナガアシナガが食い散らかした畑の持ち主たちがようやっと現れる。
すでにいくつもの畑が長い手足に荒らされて。
持ち主たちは愕然としている。

「おい! てめぇら!」

そして、そんな中で畑を荒らされた一人が怒鳴り声を上げる。

「どの野菜が一番美味かった!」

テナガアシナガがきょとんと顔を見合わせる。

「これもうまかったし、あれもうまかった」
「それもうまかったし、どれもうまかった」
「そんな返答、納得いくか!」
「きちんと判定して言え、異形! 俺の野菜のが美味いに決まってんだろ!」
「ざけんな! 俺の野菜だ!」
「君たち、下位争いは止めたまえ、俺の野菜が最強だろう」
「アホンダラ、ボケカスー! 最強は俺の野菜じゃコラダボー!」

鬼若と、テナガアシナガがきょとんとなる。

さて、そんな我が野菜こそが最高であると主張する中。
人の海が割れる。
そして杖をついて現れるのは長老である。
村長且つ、むしゃむしゃ村の生き字引。

309鉄の女:2010/07/23(金) 19:32:37 ID:nkYbE5/20
「長老!」
「村長!」
「……そやつらが畑を荒らした異形か」

老いてなお鋭さを失わぬ双眸の光。
射抜くようにテナガアシナガを交互に認めて。
長老が杖で一つ、地面を叩く。
曲がった腰を伸ばし。

「聞け! 村の者たちよ!」

高らかに。
澄んだ声音を響かせる。

「これより誰の野菜が最強か、この異形らの判定を交えて競いあわん! 全員参加じゃ! 覇を唱えよ! 己が野菜の優秀を証明してみせい!」

ここに、野菜料理大会を宣言せん。
怒号が村に響き渡る。
それは歓喜の歌。
戦う者たちの雄叫びである。

新参の鬼若はノリについていけていなかった。



「さー始まりました、むしゃむしゃ村全員参加、最強野菜料理決定戦。
司会は私、長老の息子、武者小路 清十郎(むしゃのこうじ せいじゅうろう)がお送りします。
さて、ルールは簡単。自分の畑で取れた野菜で料理を作る。これだけです。
ただし、野菜は自分の畑ですが料理人については別に用意していただくのも結構。
ですのでお隣さんどうしで組む、野菜担当と料理担当で家を分けるなんてチームもあるようです。
また、料理人だけ別の村から召喚するという荒業をやってのける家の人もいる様子。
いやぁ、どうですか、本審査員のテナガさん、アシナガさん。
異形という事ですが、お嫌いな野菜なんかありますか?」
「なんでも食うぞ」
「なんでも食うぞ」
「しかしきょうだい、どうしてこうなった?」
「さあなきょうだい、どうしてこうなった?」
「そういう村です。あきらめて審査員やってください。
さて、ここでテナガアシナガ兄弟以外の審査員の紹介です。
この料理大会のためにお越しいただいた高級料理店を主宰されています山原 雄海さん。
新聞社に勤務されている岡山 士郎さん。
お二人はどうも険悪な仲なご様子ですが見て見ぬ振りを貫き通したいと思います。
そして最後はこの方、日本料理界に30年以上君臨してるとかしてないとかなんかそんな感じで、
味王の異名を持つような感じがしないでもない田村 源二郎さんにお越しいただきました。
以上、一切の紅一点の存在を許さぬ審査員陣でお送りします。
さー、そろそろ第一次審査が終わった様子。中継の方に視点を移して見ましょう。
中継の多々良さーん」



310鉄の女:2010/07/23(金) 19:33:15 ID:nkYbE5/20
「はーい、中継の多々良です。全5ブロックで行われた第一次審査も大詰めです。
みなさん精魂込めて作った野菜はそれだけでも美味しそうですが、
とっても素敵なお料理ばかりですよー。
不自然な説明口調になりますがそれぞれ5つあるブロックで十数人が第一次審査を競い、
勝ち抜いた一人が本審査に出場、テナガさん、アシナガさんの兄弟を筆頭に、
どこかで見たことあるような審査員に採点していただく事になりまーす」
「あ、多々良さん、第1ブロックの第一審査が終わったようですが?」
「本当ですね、第1ブロックを勝ち抜いたのは……大畑さんです、大畑夫妻が勝ち抜きました!」
「むしゃむしゃ村でも最も大きな畑を持ち、その畑を耕すためだけに生まれたかのような名前の、
大畑 耕介さんとその奥さんである大畑 妻子さんですね?」
「無理なくとても自然な大畑夫妻の紹介、ありがとう御座います。
あ、第2ブロックも終わったようです」
「おや……彼は、何者でしょうか? 仮面で顔が隠れていますが?」
「あー、飛び入り参加の方です。今回の大会を聞きつけてむしゃむしゃ挑戦状を叩きつけてきた謎の仮面料理人、マスクド・ベジタブルです」
「えー、自分の畑で取れた野菜で料理するルールのはずですが?」
「面白いから村長が参加させました。野菜は村長提供です。文句は父親にお願いします」
「はい、大会終わった後にクソ親父にはきつく言っておきまーす」
「さて、そんなクソ親父さんの姿が第3ブロックから出てきました。長老です。第3ブロックを見事勝ち抜いたのは長老です!」
「親父ーーーー!!!」
「まだまだ若い者には負けん」
「と言うわけでお決まりの台詞をいただいたところで第4ブロックに移ってみたいと思いまーす」
「第4ブロックは強豪がひしめくいているらしいですがどうですか、多々良さん」
「ええ、第4ブロックでは中華の料理人である『鉄鍋のジュン』や、
『特級厨師の資格を持つ中華の番 一(つがい はじめ)』、
フレンチの『味沢 拓海(あじざわ たくみ)』、
何でも作れる『ミスター味っ娘』、
顎が凄い荒石さん、
『OH MY』でおなじみの昆布くん、
寿司職人『ぎらら』、『正太』、『音やむ』、
というどこかで見たことのあるような顔が山盛りのモンスターブロックです」
「ミスターなのに味っ娘ってどういう事ですか、多々良さーん」
「あ、第4ブロック、どうも様子がおかしいです。ちょっと覗いてみましょう……! こ、これは!」
「多々良さん、どうしたんですか、多々良さん!」
「だ、第一次審査員の方々が全員トリップしています! まるで麻薬中毒! あ、今連絡が入りました。『鉄鍋のジュン』事、春海 純(はるみ じゅん)さんのマジックマッシュルームに中てられ、
審査員全滅だそうです。第4ブロック、勝者なしという事でお願いします」
「面倒くさいのでそんな感じでお願いします」
「さぁ、最後の第5ブロックですが……これは!」
「あ、第5ブロック勝ち抜きは……」
「鬼若さん! むしゃむしゃ村に最近引っ越してきました鬼若さんです!」
「いやぁ、これは意外な人が出てきましたね」
「はい、こんなアホみたいな大会しょっちゅう開いてる村の人間よりも経験が浅いのに大したものです」
「これはダークホースですね。では、本審査に出場するのは……」
「大畑夫妻、マスクド・ベジタブル、長老、鬼若、以上の五名になります。
それでは中継の多々良でした」
「はい、多々良さんお疲れ様でーす」

311鉄の女:2010/07/23(金) 19:34:00 ID:nkYbE5/20
かくして最強の称号を求める戦いの渦中へと鬼若は身を投じる。
むしゃむしゃ村において、もっとも経験の浅い鉄の女は。
しかし前を向くしかない。
難敵だらけの本審査。

<最大面積>
大畑夫妻

<謎の仮面料理人>
マスクド・ベジタブル

<長老>
長老

<鉄の女>
鬼若

今、戦いの火蓋が切って落とされる。


                                  続きません

312 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/23(金) 19:34:34 ID:nkYbE5/20
以上です

313名無しさん@避難中:2010/07/23(金) 19:42:14 ID:eTxTf.Yo0
行ってくる

314名無しさん@避難中:2010/07/23(金) 19:51:19 ID:eTxTf.Yo0
終了

秋田どんな魔境だよw
村人異形よりよほど狂ってやがるwww

315 ◆X2eF6cXcIA:2010/07/23(金) 20:23:27 ID:nkYbE5/20
早っ!
ありがとうございました!

316名無しさん@避難中:2010/07/23(金) 20:50:54 ID:s7ptfL3EO
代行お願い↓


>>大小&鉄の女

連投乙!
マスクドベジタブルの正体まで予想した俺の立場はw
だがこの人のはいつシリアスなドンデン返しがあるか判らんからな…

↑以上です

317名無しさん@避難中:2010/07/23(金) 20:56:49 ID:eTxTf.Yo0
行ってきたよー

318名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 16:02:45 ID:8OcxOZCQ0
地裂から出てきた異形って「マジ帰りたいんスけど。マジ討伐とかないスわ。マジ帰りたいんスけど」
というのもいるんだろうか
あと、海の中の地裂って封印できてるのかな

319名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 17:27:06 ID:4qi/6zpo0
地裂について深い言及してる作品がなかったり
最初の世界観設定でもそこら辺よく分からなかったりするんだよな
つまり自由でいいんじゃね?

320名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 19:09:14 ID:Jic5KR8IO
恥裂の下に地獄が広がってたりしても今のところOKなんすね

321名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 19:27:31 ID:vK.mDavw0
これは誤字なのか素なのか判断に迷う

322名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 19:33:08 ID:dAwJ6bGcO
恥裂だなんて…ちょっといやらしいわよ男子ー

323名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 20:23:03 ID:rMtBnEOE0
だんしー、じょ、じょしー

324名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 20:43:19 ID:RrNhcGGIO
誤字して赤面な女の子に脳内変換余裕っす!

ズシの誤爆霊の流れ的に地獄世界はまったくべつの世界っぽいよ

325名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 21:54:22 ID:.RIkgwxw0
投下しようと思うけど他スレのキャラ引っ張ってきてるんで
事前に確認とかとりたかったけど規制されてて確認取れないYO!
この場合事後承諾でいいのかしら……?
ダメって言われたら対応するんで許してください…。
ちょろっとしか出てこないし、いいよね……?れ、レプリカ設定だし!
投下します。代行おねげぇしますだ……

326正義の定義:2010/07/24(土) 21:55:24 ID:.RIkgwxw0
せいぎのていぎをみているよいこのみんなへ
このはなしには、たさくひんのキャラがちょこっとだけとうじょうするよ
じごしょうだくでごめんね?ほんとすいません。いやマジで。
これもきせいのせいなんですよ。とりあえず、「俺のキャラはこんなんじゃねえ!」
みたいなことがありましたら、wikiに載せる際差し替え等の対応をさせていただきますので
ごりょうしょうください。ほんとうにすみませんでした。ごきぶりとののしってもらってもかまいません。
じぶん、ゴミムシなんで。いやホンと。もうしわけない。えっと……

はじまるよ!!


ttp://loda.jp/mitemite/?id=1265.jpg

327正義の定義:2010/07/24(土) 21:58:09 ID:.RIkgwxw0
―2010夏…

ついに、みんなで世界を創るスレが劇場化決定…?

???「忘れられた世界は、消えてしまうのだ…」

???「ならば世界に焼き付けよう……我らが生き様を!!」

_某日、現代日本。

(忘れもしない、あの日の出来事。
誰にも信じてもらえないけど……俺は確かに、一度死んだ……)

(地獄のバスツアーや閻魔との二者面談。そんな事があった後なのに回帰した日常は驚くほど平凡で…)

桐嶋「信じられないよな……信じられないけど……」

(夜々重……)

桐嶋「……?なんだあれ…?」

『黒い……ドーム!?』

日本の中心部に突如として現れたドーム。通称"閉鎖都市"

???「兄さん、これは一体……?」
???「……”閉鎖都市がどこかへ移動してしまった”みたいだね…」

次々と現れる謎の生命体・異形……

桐嶋「なんだよこいつら…、ば、化物!誰か助けて!」

異形「ギャアアアアス!!」

???「ほう、何やらおかしな事になっておるようじゃな」
???「?…ここは和泉じゃないのか……?」
???「あの…あのお方を助けなくてもいいのでしょうか……?」

全ての世界が一つになったとき、次元をかけた戦いが始まる……

???「忘れられた世界は消滅あるのみ……ならば世界を一つにし、その世界の頂点に
君臨してやろう!!我らは"イレギュラー"忘れられた世界の住人ぞ!!」

果たして世界の運命は?

???「最後に残ったのが温泉界だなんて……ど、どうしよ!?」
???「閻魔ともあろうものが……服を全部剥ぎ取られてしまうとはな……にしてもいい湯かげんだ」

世界を乗っ取ろうと企む、"イレギュラー"の目的は!?

 ―また、会えたね…

桐嶋「まさかお前……!や…」

物語の結末は…!?

???「ここか?まつりのばしょは………?ふぇ?」

続報を待て…っ!?

328正義の定義:2010/07/24(土) 22:00:17 ID:.RIkgwxw0
 「……おい!なんだコレ!」
 「?……どうしたの?火燐たん」
 「どうした、じゃないだろう……なんだよ最初のは…」
 「悪乗りです」
 「……呆れた」
 「悪い!?」
 「二回死ね!」
 「んでんでんで?」
 「にゃーんて?」
 「かまってかまってほしいのー♪」

 第九話〜火燐編〜
 「超弩級変態麻法少女ひととせたん!春夏秋登ー場ッ!!」
 
―――…

 …冒頭で騒がせてしまったことを諸君らにはお詫びしたい。あれは事実無根の捏造だ。
と、私…騎龍 火燐の口から言わせていただく。冒頭の話はこれにておしまい。おしまいったらおしまい!

 「ううん……」
 春夏秋冬志希に拾われて数日がたった。私の心は未だに晴れない。
 焔……たった一人の肉親だった。もう焔は戻ってこないし、仇を打つ相手は殺した。後に残ったのは
言い知れぬ虚しさと虚脱感。今は、何をするにもやる気が起きない。そんな中、タケゾー達を殺した
奴に対する憎悪は失われる事なく、胸の中で燃え盛っているのがわかった。結局私は何かに怒りを
ぶつけたいだけだ。
…それじゃいけないのに。わかっていても、怒りが収まることはない。復讐は自己満足……あいつ、
春夏秋冬志希は言っていたが、多分間違っていない。だけど…今の私にはそれしか存在理由が見当たらない。
 「ん……あ…?」
 太陽の陽の光が私の頬を焦がす。小鳥のせせらぎと、光合成する草の匂い。耳から目から鼻から、
朝を構成する要素を感じとる。自分の寝床以外で一夜を過ごすのは久々だったが、それ程寝起きも悪くない。

 ぴちゃ…ぴちゃ…

 「……?」
 寝起きの私の耳に、子猫がミルクを飲んでいるような音が入ってくる。何だ?そういえばやけに下半身がスースーするな……って
 「何やってんだおのれは!!」
 「ひゃい!?」
 私のパンツを脱がし尻尾をしゃぶっていた変態が一人。こいつが春夏秋冬志希だ。
 「あー、ごめんごめん。私昔っから寝相が悪くって」
 悪びれる様子もなく言う春夏秋冬。そんな滅茶苦茶な言い分がまかり通ると思っているのだろうか?
 「寝相が悪い事がパンツを脱がす事の何に関係してるって言うんだ」
 「ほら、寝てる間につい無意識にパンツを……ね?」
 「寝ながらあんな綺麗に下着をたためるのか」
 「……そこに気がつくとは…やはり天才か……」
 「……どうせ起きてて普通に下着を脱がしたんだろ?ホントなんなんだお前は」
 「いやん、おこらないで火燐たん」
 「即腹パン」 
 「ウグッ!」
 もうこんなやりとりも定着しつつあるのが受け入れがたい事実ではある。腹を抑え恍惚の笑みを浮かべる
春夏秋冬を横目に私は朝食の準備をすることにした……

329名無しさん@避難中:2010/07/24(土) 22:01:29 ID:r6k3fzvgO
そういや淫裂から出てきた異形で名前ある奴いないな


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