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【壱】あなただけの恐い話を集めてみない?

11あなたの後ろに名無しさんが・・・:2023/12/12(火) 01:23:49
その後、幸運にも何とか無事に自転車を見つけ、二人は家に帰りつくことが出来た。
家についてからは二人ともこっぴどく怒られた。
そのあとで、タカオは昼間に、ヘッドフォンに入れっぱなしだった例のテープを自宅のラジカセで再生した。
中には子供の合唱が録音されていた。
あの時に聞いた呟きのような声は、どこにも入っていなかった。

なにぶん昔のことで、あの家で過去に何が起こったのか気にはなったものの、知りようが無い。
そもそもあの集落の正確な場所も覚えていない。
イヤフォンから聞こえてきた声の主の少女やその母親、その他の家族には何があったのか。
あの、実質的に隔離することが出来る二階に暮らしていた人たちはどうなったのか。
なぜあの家は建て増しらしきことをしてまで、あんな構造にしたのだろう。
パイプ・ベッドにいた女は誰なのだろう。
そして顔をあんなにもかきむしっていた少女は。

足首の傷は、数日で癒えてしまった。
タカオがあの家のことで今でも覚えているのは、『トモエ』という、女の子のものらしい名前くらいだ。
今いくつかは分からない。
もう亡くなっていてもおかしくないとも思う。
ただ、なんにせよまっとうで人並みな人生は送っていないような気がする。

だから、刃傷沙汰の傷害事件がテレビで流れるたび、タカオは今でも容疑者を含めた関係者の名前を、無意識につい確かめてしまう。

仮にトモエという名前の人間が犯人としてニュースに上がることがあったとしても、当然あの家とは無関係の確率のほうがはるかに高い。
「分かってるんだよ。だから癖というか、刷り込みの条件反射みたいなもんだね」
タカオはそう言って、すっかり冷えたほっけのかけらを箸でつまんだ。
どこかしら悟ったような口調で言うタカオに、僕は聞いた。
「なア、本当にその家で過去にあったこと、何も知らないのか?
気になって調べたり、しなかったのかい」
「さあね。なにしろ、夢みたいなもんだったからね」
口ぶりがなんとなく空々しい。
何かを知っているのだろうか。
言うべきでないことまでは言うまい、としているのかもしれない。

「例えばあの足の傷なんかもね、俺が自分でやったのかもしれないし。
分からないんだよ、分からないの。
薬のことなんて特によく分からん。
昔のことだからさ」

そう言ってタカオは、別の肴を注文した。


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