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八月の海に解けるようです
1
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:22:11 ID:r4XkT5/w0
海に行こうと、奴が言った。
.
2
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:22:48 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「………何で」
ヰ゚∀゚)「え、もしかして海嫌いけ?」
(・ゞ・) 「嫌いとかじゃない、けど」
.
3
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:23:11 ID:r4XkT5/w0
朝一、七時過ぎの事だ。部屋の窓から家の前を彷徨いてる姿が見えたので、何の用だと伺うために外に出た。朝でも日が昇っていればだいぶ暑さが纏わりつく八月のある日、いつから待っていたのか、バケツの水を被ったみたいに汗だくの男がこちらの顔を見るなりそう宣った。
海は別に嫌いではない。嫌いではないが、そうではなくて。
さらりと向こうから出てくる言葉につい面を喰らう。何でそんな何も気にしないような顔ができるのか、皆目見当もつかない。
間違えてなければ喧嘩を
喧嘩をしていたはずだ、僕らは。
4
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:23:35 ID:r4XkT5/w0
ヰ`∀´)「じゃあええやんけ、行こや」
元々細い目をさらに細める、金城の笑顔は熱いコンクリートに揺らめく蜃気楼に似ていた。
.
5
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:24:03 ID:r4XkT5/w0
八月の海に解けるようです
.
6
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:24:29 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「海、近く無いけどどうすんの」
ヰ゚∀゚)「ちゃんと調べとんで。あんな、まず駅までチャリ飛ばして電車乗って、そんで乗り換えの乗り換えの乗り換えの乗り換えやて。な、簡単やんな?」
僕らの住む町に海はない。なので行くとするなら車か電車で、夏休みなだけで世間は平日だから親に頼むという事もできず、車という選択肢は初めから無いから、ただただ長い経路を電車でいくしか無い。この暑い中を。馬鹿だ、という言葉と溜息をぐっと飲み込んで自転車の鍵を取りに戻った。
7
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:24:51 ID:r4XkT5/w0
自転車のサドルが熱したフライパンみたいにジュウジュウ鳴いていた。
茹だる空気が息苦しくて、息継ぎをするみたいに目の前でチャリを立ち漕ぎしている金城に目をやる。風を切るというより、風を作り込むようにペダルを漕いでいた。
奴は、金城は、宇宙人である。
というのが僕の見立てで、それはこいつと初めて喋った頃から寸分変わらなかった。
金城とこうやって何処かに行くのは随分と久しぶりだ。小学校の頃は、と言っても金城は小学五年の時に転校してきて、話すようになったのは三学期の半ばだったから殆ど最終学年の一年ぐらいだけだったけど、よく自転車で色んなところに行っていた。
8
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:25:11 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「玉木ー!」
(・ゞ・) 「なに」
ヰ゚∀゚)「玉木さ、僕ら初めて話したん、いつやったか覚えとお?」
こちらの思考を読み取れるのかというタイミングで金城が無駄にでかい声を出して聞いてくる。僕は額から流れてくる汗を無視して口を開いた。
(・ゞ・) 「小五。小五の、席替えの時」
ヰ゚∀゚)「よお覚えとんよな玉木は、すごいよなあ」
大袈裟に感動してみせるのは金城の癖のひとつだ。
何も凄いことはない。忘れるわけがないんだ。目をつむらなくとも、鮮烈な光を見た時みたいにその記憶はいつだってそこにあるから。
9
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:25:34 ID:r4XkT5/w0
こいつと会った時の僕はチャイムの音が嫌いだった。移動教室も嫌いだった。中でも一番嫌いだったのは、担任の気まぐれで起こる席替えだった。
何かをリセットするのが嫌いなのかもしれない。ずっとそのままなら安心で、同じことを繰り返すのも嫌ではなくて、ベルトコンベアに乗ったままの乾いた寿司にでもなりたかった。
その年度になってから四回目の席替えで、僕は窓側の列の一番後ろという、みんなが狙っていた席になった。公平かつ当たり障りのないチープな手書きのくじだったから、ズルをしたわけでもない。
僕としては真ん中の列の前側だった、今まで座っていた席にようやく愛着がわいてきたところだったから、動くのやだなあが頭にたくさん浮かんでいたし、机とイスをもって遠い地に向かうのも面倒でやだなあを生み出す理由になっていた。
「いいな」と言われる事も嫌いだったのだ。
10
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:26:01 ID:r4XkT5/w0
みんながみんな机とイスを持って移動する時間は、何かしらの虫や動物じみている気がする。ぞろぞろとぶつからないように一斉に動く。僕もその一員になってようやく新しい場所まで辿り着いてため息を吐く。
誰かが開けたままの窓から風が吹いて、少しだけ汗ばんでいた額と前髪を揺らした。
「いっちゃん後ろやん、やったあ!」
ギギギッと雑な音と共に隣に机が固定されて、明るい声が重なる。そちらに目をやると声の主である金城がガッツポーズをしていて、こちらの視線に気がついたのか目がバチッと合った。
ヰ゚∀゚)「あっ玉木くん隣?初めてやんな、よろしくー!」
(・ゞ・) 「うん、宜し……」
ヰ゚∀゚)「え、待って玉木くん。僕金城なんやけど」
(・ゞ・) 「知ってるよ」
金城の目は狐だとか爬虫類を思わせる。笑うと余計に細まって、口の両端は長く線を描いていた。遠くから見ることはあったけど、この距離でしかも真正面で向き合う事はなかったから、つい身じろぎしかける。
ヰ`∀´)「金城と玉木、二人並ぶとキンタマになるやんな!はははは!」
11
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:33:19 ID:r4XkT5/w0
ちょうど教室がしんとなったところで金城の馬鹿でかい声が響いた。一瞬何を言われてるかわからなかったけど、よくよく考えてみてもやはりわからなくて、だというのにクラスのみんなはどっと笑い出した。
「声が大きいぞ金城」
ヰ゚∀゚)「あはは!ごめん先生!テンション上がってもうたわ!今から大人しくするけん許して!」
金城はいわゆる愛嬌のある子供だった。担任はもちろん、他の教師も金城を見ると笑顔で挨拶をしている所を見たことがある。
ヰ゚∀゚)「なぁ声デカくなったわ、注目させてごめんな」
耳に慣れないイントネーションがほんの少しくすぐったく感じる。
家族の仕事の都合であちこちを引っ越してきたという金城は去年の冬に転校してきたというのに、多分僕よりも友達が多い。明るくて面白く、見た目も頭も良くて、それから足が速い。女子にも男子にも人気があったから、やっぱり僕のこの席は『当たり』らしく、あちこちから「いいなー」という声が上がっていた。
12
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:33:49 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・)
何だこいつ。
疑問というより確信に近いものが頭の中で形成されていく。
こいつ、もしかしてそうなんじゃないか?
楽しそうで、下ネタを大きな声で言っても女子にだって嫌われてなくて、教師からも好かれててなんでも持っている、完璧過ぎじゃないか──
(・ゞ・) 「──金城ってもしかして宇宙人?」
ついポロッと口から溢れていった言葉はもう戻す事が出来なかった。僕が喋った時には教室はざわついていて、この言葉を拾ったのはおそらく金城だけだった。
笑われるだろうと思った。幼稚だとか馬鹿にはされないにしても、「なに言っとん」って軽く笑っておしまいになる話題だと、そう思っていたのに。
13
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:35:24 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「なんで?」
まるで『なんでわかったのか』とでも言いたげな声だった。そんな筈はないだろうに、そんなに開けるんだってくらい目を見開いた金城に、僕は僕でそんなリアクションが返ってくると思わなかったので困って何も言葉を出せない。
ヰ゚∀゚)「玉木くんって頭ええ?」
(・ゞ・) 「普通くらい」
ヰ゚∀゚)「普通なん、ええな。ええね、玉木」
ヰ゚∀゚)「僕、そんなん初めて言われたわ」
『いいな』と言われることが嫌いだった。うまくは言えないけど、羨望の対象にされるプレッシャーに打ち勝てないのかもしれない。だけど、金城にそう言われるのは嫌な気持ちにならなかった。それが意外すぎて、否定も肯定もされなかったことをそこまで気に出来なかったんだ。
14
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:35:55 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「金城のそれって関西弁?」
ヰ゚∀゚)「んん、んん、ちゃうんよ。色んなとこの訛りうつってん、金城弁になっとお」
(・ゞ・) 「へえ」
訛りというよりかは宇宙人が侵略する為に色んな地球語を吸収しているようなイメージを思い浮かべてしまう。
「せんせー、キンタマコンビがずっと喋ってるー」
「金城もうそろそろお喋りやめろー」
ヰ゚∀゚)「あはは、バレてたわ!やめますやめます!」
誰かが教師に告げ口をして金城がくだけた言い方をすると、もう一度教室に笑いが起こった。何が面白いのかはわからないけど、金城が笑ってるだけで周りも釣られているのかもしれない。
ヰ゚∀゚)「なぁ玉木と僕、キンタマコンビやて。最悪の名称付けられたけど、仲良くしてくれる?」
流石に小声で話す律儀さに少し笑ってしまう。最悪の名称を最初に付けた張本人は、青白い手をこちらに伸ばしてきたので僕も侵略対象なのかもしれないなと思いながら、握手を交わした。
15
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:36:18 ID:r4XkT5/w0
金城の変な奴という印象はどれだけ経っても変わらなかった。
元気はあるけど高学年特有の落ち着きのない男子というわけではなく、むしろそういう生徒がいたらさりげなく止めるようなところがある。なのにうっかりさんなのか、よく忘れ物をしていた。
ヰ゚∀゚)、「ごめんやけど、教科書見してくれん?」
最初は二日に一回くらいの割合だった頼み事は、ひと月もしない間にだんだんと回数が増えて、今では一日の授業の三つくらいがそう言われるようになった。 不真面目なのかと思ったけど授業はちゃんと聞いて、ノートもきれいにとっているようだった。
給食費は払っているぽいからお金のない家って訳じゃないみたいなのに、分度器やコンパス、彫刻刀セットは持っていないらしい。
ごめんなあ、と毎回謝ってくれるから僕は別にいいよとだけ言って机をくっつけて教科書をその真ん中に置く。
16
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:36:42 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「玉木の教科書オモロいな、落書き一個も無いんや」
(・ゞ・) 「絵が下手だから」
ヰ゚∀゚)「マジけ?じゃあ描いたるわ、僕教頭上手く描けんねん」
(・ゞ・) 「人の教科書に教頭先生を描くなよ」
金城は変で、変わっていて、個性が強くて、なんというか面白かった。
いつの間にか僕もせんのうされているのかもしれないけど、馬鹿なこと言って馬鹿みたいに笑う金城を見ると、そんな事はないだろとも、そうだとしても別に良いかとも思えたんだ。
(・ゞ・) 「今日暑くない?」
ヰ゚∀゚)「うん、あっついなあ」
下敷きをペラペラ煽いで暑いというくせに、金城は決して長袖以外の服を着ては来なかった。
.
17
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:37:53 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「こっから乗り換えの乗り換えの乗り換えの乗り換えの乗り換えやね。待って、乗り換え一個多かったかも」
(・ゞ・) 「チャージしてくる」
ヰ゚∀゚)「おん、待っとるわ」
いくらくらい掛かるのかわからなかったから、適当に二千円ほどチャージをして改札に向かう。
待っていると言ったくせに金城はそこにはおらず、辺りを見渡していると大声で名前を呼ばれた。
そちらを向けば先に改札に入っていた金城があほみたく手をぶんぶんと降っていた。
(;・ゞ・) 「先に勝手に行くなよ、迷子になるだろ」
金城はあっけにとられた顔でこちらを見て、それから取り繕うように目を細めて笑った。
ヰ゚∀゚)「僕迷子にならんよ」
何への自信かは分からないけど、随分と力強く言うからこちらもそれ以上突っ込むことはしなかった。
18
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:38:30 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「……チャージしなくて大丈夫なの?」
ヰ゚∀゚)「ああ、僕こないだ全部入れといたから」
(・ゞ・) 「なに?」
ヰ゚∀゚)「金!貯金ってか持ってた金全部チャージしといたから、足らんくなることはないんよ」
本当によくわからないやつだと思う。
今日も向日葵だって気が遠くなりそうな暑さだというのに、大汗もかいているのに、やはり長袖のTシャツをぶかぶかと着た金城が、こっち乗んねんてと指さしたホームに立った。
中学に上がってからは制服になったけど、やっぱり長袖のワイシャツを着ていない日を見たことはなかった。もしかしたら宇宙人は肌を出すと良くないのかもしれない。
金城のTシャツは空の色をそのまま写したようななんとも言えない灰色で、汗で黒に近い色になっている。
(・ゞ・) 「今日暑くない?」
ヰ゚∀゚)「うん、あっついなあ」
滝のような汗を袖で拭く金城は嘘は言っていないようだった。
19
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:38:59 ID:r4XkT5/w0
冷房があまり効いていない車内は、独特な匂いがする。ぼんやり汗を拭きながらそう思った。乗り換えを何本もしていると、ずいぶん太陽が真上まで移動していた。どちらともいえない腹が騒いで、それよりも幾分かうるさく金城が吹き出した。
ヰ゚∀゚)「怪物飼っとるんよ、言うとらんかったっけ」
(・ゞ・) 「知らん。コンビニ……や、海の家とかあるか」
ヰ゚∀゚)「なんそれ」
(・ゞ・) 「料理とか売ってて食べる場所もあるとこ」
ヰ゚∀゚)「便利やんな」
(・ゞ・) 「海行ったことないの」
ヰ゚∀゚)「んん一」
目を細めて唸り声をあげるのは、言いたくないけど嘘もつきたくないときの金城の逃げ方だ。こんな質問に嘘をつく必要もないだろうに。
20
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:39:25 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「空いてるんだから座れば」
ヰ゚∀゚)「そのうち座るわ、今汗やばいから」
意外にも車内は空いていて、どこも座りたい放題だった。こういう時にふざけて座席に寝転がったりするクラスメイトもいるけど、金城はそういう事は一切しなかった。
僕は全身の汗を無視して座席のど真ん中に座った。反対側の窓を、誰かの日常丸ごと詰めた景色が流れている。ぼんやり眺めながら欠伸をした。
.
21
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:40:49 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「あんな僕なぁ玉木んちの話聞くの好きなんよ」
(・ゞ・) 「ええ?僕んち何も凄いことないじゃん」
学校から帰る時やどこかに行く時、よく金城は僕の家や家族のことを聞いてきた。宇宙人の調査かもと思いながら、僕は少しわくわくした気持ちになっていた。取り留めて特別な家ではないから、話したところで利用される事はないだろうと思ったし。
母さんは料理が苦手だけど父さんは上手いから、うちは父さんがご飯を作る。
父さんはネトフリで怪しげな番組を見るのが好きで僕も一緒に見ている。最近は宇宙人の話をよく見ている。
七つ離れた妹は少し生意気になってきたけど、寝る前に絵本読んであげると喜ぶのはかわいい。
そんな他愛もない話を、ぽつりぽつり金城に話した。そうすると金城は冒険漫画でも読んでるみたいなテンションで『すごい』『ええなぁ』と繰り返す。
僕はなんでもない話をしているのに、ものすごく素晴らしい話をしてるみたいな、そんな気持ちになった。
22
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:42:01 ID:r4XkT5/w0
(・ゞ・) 「普通だよ。至ってごく普通の家」
ヰ゚∀゚)「ええなぁ玉木。それってさ、やっぱええって僕思う」
心底そう思っている、そんな声をしている。嘘なんて言ってないと思った。言うはずがないし、言う必要も無いって。だからこそ、だからこそあの僕は──
.
23
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:42:39 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「お、こん次やて。降りるん」
金城の声が聞こえてハッとする。景色が一転して物寂しい車内にいた。なんだっけ、ああそう海だ。海に誘われたんだ僕。ほんの少し眠っていたらしく、ヨダレはギリギリ垂らしていなかった。
ヰ゚∀゚)「玉木いびきかいとった」
(・ゞ・) 「うそ」
ヰ゚∀゚)「ほんまよ」
はははと馬鹿でかく笑う。他に乗客がいなくてよかった。
ようやく到着した駅は初めて降りるところで名前も聞いたこと無かった。
灰色のどでかい入道雲が煙のように空を支配していて、空気の重たさを見た目でわかりやすくしてくれているようだった。ここ最近、台風が発生している場所もあるくらい、空が著しく不安定だった。今日の予報では雨は降らない筈だったが、ゲリラ豪雨もあり得なくは無い。
生温い空気というのは存外柔らかくて重い。だから向き合うと酷く息苦しい。
24
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:43:22 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「海じゃーーーー!」
大声を出しても、それをかき消すくらい打ちあがる音のでかい荒い波が立っている。
僕が想像していたのはもっと客でごった返しになっている海水浴場的なものだったが、ここは岩と砂と荒々しい海が一面にある、他には何もない場所だった。穴場というよりか誰もここを選んでは来ないだろうという感じ。サンダルで歩くと足の裏を痛めそうな激しさがそこにはあった。
ヰ゚∀゚)「海の家あるけ?」
(・ゞ・) 「無い。こんな場所に建ててたら逆に怪しくて入りたくない」
ヰ゚∀゚)「ははは」
からからと何がおかしいのか絞り出すように金城は笑う。僕も釣られて小さく笑った。
25
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:43:52 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「あんさあ、僕初めて来たんよ海」
(・ゞ・) 「ええ?」
ヰ゚∀゚)「びっくりするやんな?僕もやて」
波の音が一際近くで聞こえるのも放っておいて、金城を見た。
僕が驚いたのは金城が海に来たことがない、ということではない。金城が自分のことを自ら話したことに驚いたんだ。だって、初めてのことだから。
26
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:44:37 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「僕さあ、僕ほら海って名前やん。金城海。かなしろかい!ってツッコんどるみたいなのに海一回も行ったことないの、地味いにコンプやったんなあ」
真っ直ぐ前を向いてこちらを一切見はしなかった。初めて見る海に感動しているとかでは無いような表情で、真っ直ぐ、真っ直ぐ視線を向けている。
ヰ゚∀゚)「今日玉木と来られて良かった!あんがとおな」
大きな波が打ち上がる。金城の声を邪魔するように音を立てた。
ヰ゚∀゚)「んでな、そう、昼飯とかも奢れんかったからこれやるから、帰りになんか買うてや」
ポッケから直に、パスケースにも入れられていない剥き出しのICカードを押し付けられ困惑する。帰りに何か買うのであれば、その時金城が持っていれば良い話だ。
(・ゞ・) 「……」
(・ゞ・) 「いや、お前どうやって帰る気だよ」
ヰ゚∀゚)「んんー」
頭を掻きながら、金城は目を瞑って笑っている。僕は何だかよくわからない汗が首筋を伝う感覚に身震いした。
27
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:45:49 ID:r4XkT5/w0
ヰ゚∀゚)「あんさぁ、」
ヰ゚∀゚)「駅でさ、迷子になったりせえへんって言うたやん?僕な、人生で一度も迷子になったことない」
バシャンと波が岩に覆い被さる。ぐらりと揺れるような感覚に意識を持っていかれそうになる。
ヰ゚∀゚)「道の途中でわからんくなるやつちゃうくてな、他の人と出かけたときにはぐれるやつ。あれって、あれってさあ。一緒におるその他の奴が探してくれるって絶対の信頼があるからはぐれられるんやて思うんよ」
ヰ゚∀゚)「僕は置いてかれんように、捨てられんように、じっと着いてくしか出来んかったから」
生温い風もマーブル模様を潰したような色の空も濁った海も、全部が金城の感情から形成されてるんじゃって思ってしまうくらい、酷い顔を目の前の奴はしていた。
塩臭い、汗と潮風のせいでベタついた髪が顔に張り付く。
ヰ゚∀゚)「あんさあ、あんさ、玉木。僕の人生って結構ほんましょうもなかったやんけど、玉木の友達になれて、玉木と海に来れて、僕の人生ようやくピークやわ!」
どうしようもない、どうにもならない、金城の声が騒がしい波にさらわれもせず俺の耳に届いた。
こいつの声が、初めて届いた気がしたんだ。
.
28
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 22:46:33 ID:r4XkT5/w0
中学一年でも金城と同じクラスになった。
相変わらず変だけど周りを明るくさせるから金城は人気で、僕以外の友達ともよく楽しそうにしていた。だけどどこか行く時だったり何かをする時に金城は僕の名前を呼んでは誘ってくれるのだ。他の人とじゃなくて良いのかと訊ねれば、いつもあの蜃気楼みたいな笑顔で「だって僕らキンタマコンビやからなあ」と言うのだった。
ある日のことだった。なんの変哲もない、ただの普通の日。
委員の仕事が終わったから教室に戻って、金城がまだ居るなら一緒に帰ろうかと思いドアに手を掛けた時だ。
ヰ゚∀゚)「家族どないなん?」
「うち?うちは全然カスみたいな家だって、父親も母親もうるさくてまじでうざいもん」
ヰ゚∀゚)「へえ、そうなんけ」
金城と、他の友達数人の声がした。
例によって金城宇宙人の地球人調査中のようらしい。
他愛もない話をしているのが聞こえて、なんとなくだけど教室に入るのをやめてドアの前に立った。
「金城んちはどんな感じなの?」
ヰ゚∀゚)「んんー、ウチはええんよ別に。他の話聞きたいわ」
金城は大体そう返す。僕が聞き返した時も、誰かが好奇心で尋ねた時も、基本笑って流して、他の人の家の話に持っていっていた。気まぐれや相手によって答えを変えるわけではないから、なんとなくみんなそのまま話をスライドさせる。
この時の話し相手も、変な空気にしたくなくてただ話題を変えたかっただけなのだろうとは、後から思った。
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