[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
lw´‐ _‐ノv逆上せ上がるなら君がいいようです(ФωФ )
100
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:51:55 ID:x/DZhNo20
lw´‐ _‐ノv「……結構、勇気出したんだけどね」
我ながら、かなり思い切ったことをしているつもりだった。
親しい間柄とはいえ、恋人でもない異性を泊まりの旅行に誘ったこと。二人で同じ部屋にしたこと。
挙句には、変な理由を付けて、温泉まで一緒に入ったこと。
逆さ花火を見せたいことは本音だった。米が実った壮大な田畑を眺めたいことも本当だった。
てっきり彼といられるのは来年の三月までだと思い込んでいたから、それまでに何か、彼が喜びそうな思い出を作ってあげたいと願っていた。
けれど確かに、そこに下心が混じっていなかったと言えば嘘になる。
恋愛経験なぞ皆無な身の上であるのに、姉や妹、数少ない友人たちに相談して、修士論文以上にあれこれと練った計画が今回の旅であった。
101
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:53:11 ID:x/DZhNo20
振り返ってみると、やはり失敗の方が多くなってしまった。
見たかった田んぼは見れずじまい。
食事の時、日本酒で酔わせてロマの本音を引き出そうと思っていたのに、彼はさっさと風呂に向かってしまう始末。
更には温泉でバスタオルまで取れてしまって、一瞬だが、体も見られてしまった。まぁ、別に彼にならいいのだが。
残っていた酒の中身を一気に飲み干す。
ボクは体質的にあまり酔わないようで、酒の力に頼ることもできない。だから発想逆転させてロマを酔わせようと思ったのだが、これも失敗。
おそらく温泉で気絶した原因は疲れだけでなく、体内に残っていた日本酒のアルコールも一因であったのだろう。
102
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:55:22 ID:x/DZhNo20
lw´‐ _‐ノv「結局あんまり上手くいかなかったな……まぁ、荒れてたとはいえ田んぼも見れたし、話に聞いていた虹にも出会えたし」
lw´*‐ _‐ノv「……まだ、君はこっちに居てくれるし、いいか」
今回の二人旅を振り返る。
姉が福引で当てた旅館のチケットを譲ってもらった日から計画を立て、色々と強引ながら理由を付けて始まった今回の、二人きりの旅行。
大学院の研究も、想い人が自分のことをどう想っているのかも、今回の旅ではイマイチ成果が上がらなかった。
まぁ前者は少ないながら直にこちらの土地に触れられたし、後者に関しても、自分のことを異性だと認識していそうな反応はあったから、全く成果ナシという訳ではないか。
103
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:56:34 ID:x/DZhNo20
脳内で一人反省会を開きながら、じっとロマの唇を見る。
やはりあの時、本当にしてしまった方が良かっただろうか。
そんな考えが浮かんでは、シャボン玉に触れるみたいにパッと思考を消滅させる。
もし先走って、今の友人という関係が壊れてしまったらと思うと、途端に息も出来なくなる。それだけは死んでも嫌だった。
lw´‐ _‐ノv「……家にお邪魔して何もしないのは無礼だと言われたけれど」
lw´‐ _‐ノv「見方を変えれば、何もしてこないのも無礼なんじゃないのかい?」
姉の言葉を想起しながら、六年間、指一本すら触れようとしてこない友人に悪態を吐く。
夕食時に呑んだ日本酒の量が多かったのだろうか、それとも今呑んだクラフトビールが最後のダメ押しになったのだろうか。
普段は頭に留めるだけで絶対に口にしないような文句が自然と漏れた。
104
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:57:39 ID:x/DZhNo20
小さな寝息を立て始めた友人に、そっと顔を近づける。
普段と比べると、酔っている自覚はある。
彼の顔に、小さな影が差す。
lw´*‐ _‐ノv「………」
だがそれでも自分の理性はまだ崩れてはくれないようで、本当にしてしまう勇気は出ず、近づけた唇を結局また離してしまった。
lw´*‐ _‐ノvっll「……じゃあ、これくらいは」
二本の指を立て、自分の唇をそっと撫でる。
昔、妹が持っていた何かの少女漫画で読んだ、口づけされたと相手に勘違いさせるテクニック。
105
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:58:11 ID:x/DZhNo20
心臓が破裂しそうなほどに鳴っている。
鼓動音が彼に聞こえて起こしてしまわないかと、大袈裟にも程がある心配が胸の中で膨らむ。
それでも、今の自分は酔っているから。
そして彼は寝ているから。
何より、これだけやっても碌な反応を見せてくれない彼もちょっと悪いのだから。
無数の言い訳を用意しながら、二本の指をゆっくり下ろす。
そして、自分の唇に触れた指先でそっと、想い人の唇に触れた。
106
:
名無しさん
:2025/08/11(月) 23:59:25 ID:x/DZhNo20
lw´*∩ _ ノv(……何をやってるんだ、ボクは)
羞恥心と自己嫌悪、そして少しの充足感。
ぐちゃぐちゃになった感情に悶えながら、ボクは自分の頬に手を当てる。
温泉から上がってかなりの時間が経っているのに、未だ逆上せたみたいに熱いまま。
立ち上がり、部屋に備え付けられた冷蔵庫を開ける。
手に取ったのは二人で呑もうと用意していたクラフトビールではなく、予め入っていたミネラルウォーターのペットボトル。
冷えた水が喉を通る。
ほんの少しだけ、火照った頬の熱が消えた気がした。
107
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:01:04 ID:3ANb/bJI0
壁にかかっている時計を見る。もうそろそろ日付が変わる頃。
流石に今日は色々とありすぎて疲れた。
いくら明日の朝はのんびりできるといえども、早く起きた方がいいことに変わりはないし、ボクもそろそろ寝てしまいたい。
少し離れた場所に敷かれた布団を見る。
口元に手を当てて、考えを巡らせること数十秒。
布団の端を両手で持ったボクは、ズリズリとロマが寝ている方に移動させた。
lw´*‐ _‐ノv「………これくらいは、いいよね」
ロマが眠っている布団にピタリとくっ付ける形にする。
我ながら、なんて浅ましい行動なのだと呆れるが、せっかくの機会なのだ。
想い人の隣でぐっすり眠ることくらい、一度だけなら許されるだろう。
108
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:02:16 ID:3ANb/bJI0
布団に入り、ロマの寝顔を盗み見る。全く起きる気配のない、ぐっすりとした横顔。
そっと自分の頬に手を当てる。
部屋の冷房はしっかり働いている筈なのに、まだ熱い。
山でロマに言われたことを思い出す。
彼はきっと、特に意識せずに放ったのであろう、たった二文字のとある言葉。
( ФωФ)『吾輩は、驟雨が好きである』
どう考えても、そういう意味でボクに言われた訳じゃない。
言葉の響きが自分の名前と似ていただけ。そんなことは分かっている。
それでも、その紛らわしい単語の後に続いた『二文字』が、茹った頭から一向に離れない。
109
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:04:23 ID:3ANb/bJI0
何か違うことを考えて思考を紛らわせようと、思考の方向性を変える。
そうだ、確か家に使ってないタコ焼き器があったはず。それでロシアンルーレットとかやったら中々に面白いかもしれない。
なんなら、夏の太陽で鉄板を熱せば、電気無しのエコなタコ焼きだって出来そうだ。
それで、まずは家族とやって楽しかったら、次は『彼』の家で、二人で一緒に――。
lw´∩ _∩ノv(………あー)
思考が止まる。呼吸も止まる。音も世界も全てが止まる。
今の今まで浮かんでいた構想が、花火みたいに弾けて消えた。
110
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:05:48 ID:3ANb/bJI0
lw´*∩ _∩ノv(……逆上せちゃったなぁ。ボク)
頬を両手で触り、その熱さを確認する。
冷房も季節も温泉も関係ない。この熱は、たった一日如きじゃ絶対に冷めない。なにせ、六年物なのだから。
暦は八月。季節は紛うことなき夏。そして、彼に出会って、もう六年が経つ。
それほどの長い間ずっと隣にいてしまったから。
あの暖かさにずっと触れてしまっていたから。
すっかり自分は彼に、逆上せ上がってしまっていた。
.
111
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:06:28 ID:3ANb/bJI0
変人と言われる類の人間に、会ったことはあるだろうか。
意思が通じていると思ったら通じていない。会話が成り立っているようで成り立っていない。相手の行動をいくら予想しようとも、簡単にこちらの思惑に反した動きをする。
関わっているうちに、おかしいのはこちらの方ではないのかと勘違いしてしまいそうになる。それなのに、どれだけ相手の言動に辟易しようとも、何故か強烈に目を惹かれてしまう。
理解しようとすればするほど、分からないことが増えていく。それはまるで、海の深さを知ろうと足を入れたら、いつの間にか、体全体が海底へと沈んでいたみたいに。
しかし、だからといって海を責めることはできない。沈んだ人間の危機管理こそが最たる問題なのであって、海に文句を言う人間はいない。
それと同じだ。海の深さを知りたいからといって、足を踏み入れたのが悪いように。夜を照らす灯りに惹かれた虫が、炎で焼け死んでしまうように。
相手が数寄者であることを理解しておきながら、それでも手を伸ばした者が悪く、間抜けで、愚かで、負けなのだ。
これは、そんな変人に溺れてしまった、とある阿呆の話である。
112
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:07:14 ID:3ANb/bJI0
lw´‐ _‐ノv逆上せ上がるなら君がいいようです(ФωФ )
〜おしまい〜
113
:
名無しさん
:2025/08/12(火) 00:11:23 ID:3ANb/bJI0
夏を題材にした作品でした。
関係ないようで実はちょっとある、他の季節の話たちはこちら↓
春…『( ゚д゚ )絵描きとヴィオラのようですミセ*゚ー゚)リ』
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1714317818/
秋…『( ^ν^)ショソン・オ・ポムにアンコールを、のようです』
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1696417933/
冬…『(´・_ゝ・`)白天、氷華を希うようです('、`*川』
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1704034805/
四季をテーマにした恋愛小説シリーズは今回で終了です。
お読みいただき、本当にありがとうございました。
114
:
名無しさん
:2025/08/13(水) 18:47:48 ID:GYxHUHTk0
乙乙、激甘だった ロマシューは近年収穫量へってるしありがたい
115
:
名無しさん
:2025/08/19(火) 06:04:48 ID:veczVPmk0
おつ!
いいものをみた
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板