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( ^ν^)あくたのようです
1
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 15:37:23 ID:vmhFGvks0
「夢を抱いたきっかけはなんだったのか?」成功者のインタビューでは殊更強調される。
昔から好きで好きで仕方なかったから。
何もかも飽きてしまう中、これだけは続けられたから。
生活のために仕方なく始めた。今は純粋に楽しんでいる。
薄ぼんやりとした回答を聞くたび、俺は鼻白む。
俺でさえ、あの瞬間をはっきりと覚えているというのに。
37
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:09:01 ID:vmhFGvks0
当時は『作品ができたら部員同士で見せ合う』というルールにうんざりしていた。
そもそも強制するものではないし、見せ合ったところで意味がない。
他の部員同士は無理矢理ひねり出した褒め言葉を交換しているだけで、俺のように作品を読み込んで批評する人間なんていやしなかった。
あいつらは馴れ合いがしたかっただけだ。そんなもので筆力が上がるわけがないのに。
ただそう思っていたのは俺だけで、他の部員達は反吐が出そうな馴れ合いに夢中になっていた。
その真ん中にいつも内藤がいたことが、どうにも気に食わなかった。
38
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:10:07 ID:vmhFGvks0
( ^ν^)「そうだ。昔は書けていたんだ」
同世代の誰よりも、俺はうまく文章が書けた。
他の部員がファンタジーだの恋愛だの、なろう系崩れのつまらない作品を執筆する中、俺はもう一段階上にいた。
人生の苦悶や煩悶、重厚な地の文、重いテーマ。読んだ人間の心に刺さって抜けない棘のような。
あいつらには理解できなかった。俺も馴れ合いに混じる気はなかったから、むしろ良かったとすら思う。
39
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:10:29 ID:vmhFGvks0
( ^ν^)「書けたんだ」
薄暗い部屋でキーボードを叩く。
原稿用紙はもう使っていない。最近はWordに打ち込んでいる。
( ^ν^)「書けたんだよ。書いても書いても書き足りなくて、終わりなんか見えなくて」
日が傾く。青かった空が橙に染まり、黒く変色していく。
電灯のスイッチを押すために立ち上がるのも面倒臭い。
40
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:11:47 ID:vmhFGvks0
打ち込む。消す。打ち込む。駄目だ、ピンとこない。
消す。キーを打つために伸ばした指が止まる。
浮かばない。書けない。何も。
(# ^ν^)「クソッ!!」
ドアの向こうの気配が、露骨に緊張する。夕飯の支度をしていたらしき音が止まる。
少し間を置いて、水の流れる音や包丁の音が聞こえ始めた。
緊張感がまだ残っている空気。そろりと窺うような気配に苛立つ。「実の息子に怯えてんじゃねえよ」そう毒づきそうになる。
41
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:12:56 ID:vmhFGvks0
両親から腫れものとして扱われるようになったのは、二十五を過ぎたあたりだった。
派遣を打ち切られたと伝えたときの母親の焦りと絶望の表情を、今でもはっきりと覚えている。
俺が生まれてきたのは、俺が望んだからではない。両親が望んだからだ。
だから両親には俺を扶養する義務がある。
巷で揶揄される『子供部屋おじさん』も、物価高の昨今では合理的な判断だ。そもそも一人暮らしが自立の象徴だなんて、不動産業界の陰謀に過ぎない。
俺の理屈は両親には通じなかった。
最初こそああだこうだと説教を垂れていたが、時間が経つにつれそれもなくなった。
「家計が苦しいからお金を入れてほしい」と頭を下げられたときは、何か苦いものが胸に広がる感覚があった。
42
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:13:21 ID:vmhFGvks0
( ν )「書けない……」
この苦悩を、苦しみを、怒りを、やるせなさを、すべて文字に起こせたら。
文字の羅列として叩きつけることができたら、どれだけ楽になるだろう。
俺はずっとそうしてきた。学生の頃から、ずっと。
( ;ν;)「書けない……書けない……」
なのに今、喉から漏れるのは嗚咽だけだった。
.
43
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:15:40 ID:vmhFGvks0
( ^ω^)『丹生速君は、どういうときにネタが浮かぶんだお?』
その日は珍しく、部室には俺と内藤しかいなかった。
文芸部はマイナーな部活だ。割り当てられた部室も狭く、椅子の数も限られている。
必然的に俺と内藤の距離は近く、何を思ったのか内藤はよりにもよって俺の正面に陣取っていた。
( ^ν^)『飯食ってるときとか、風呂入ってるときかな』
( ^ω^)『おー。机に向かってるときではないんだおね』
( ^ν^)『お前は?』
俺の会話は、基本的に相手の質問に答えることで完結する。
なぜか自然にラリーを続けられた。そのことに俺自身が一番驚いた。
44
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:16:01 ID:vmhFGvks0
( ^ω^)『僕はもっぱら寝る前だお! だから煮詰まったときはすぐ寝るようにしてるお!』
( ^ν^)『ちょっとは粘れよ』
( ^ω^)『何も浮かばないときに無理してもしょうがないお。さっさとお布団に入れば意外に思いつくものだお』
45
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:16:43 ID:vmhFGvks0
内藤の小説はいつもハッピーエンドだった。
ファンタジーだろうが青春物だろうが、最後には大団円。曰く「フィクションくらい明るいものがいい」だそうだ。
ご都合主義だと批評した俺に、内藤は困ったように苦笑いを浮かべた。
( ^ω^)『丹生速君と僕、足して二で割ればちょうどいいのかもしれないお』
名案だとでも言うように笑った顔を、今でも覚えている。
.
46
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:17:19 ID:vmhFGvks0
( -ν^)「んん……」
気が付けば窓から光が差し込んでいた。どうやら昨日作業をしたまま、気絶するように眠っていたらしい。
傍らにはたった一行書かれただけの白いWord画面と、持ち主を健気に待ち続ける布団があった。
カーペットで眠りこけていた体が痛い。引きずるように体を起こし、一晩の成果である一行を削除した。
47
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:18:55 ID:vmhFGvks0
『おととし結婚したわよ。去年子供も生まれたわ』
そんなもの今世ではとっくに諦めた。
一昔前に「リア充死ね」というネットスラングが流行ったが、この歳になるとそんなことを思う気力も失せてくる。自分には関係ないものとして一線を引くだけだ。
だというのに、この苛立ちはなんだ?
俺があの頃のように小説を書けていたなら、むしろ優越感さえ抱いていただろう。
ほら、やっぱりお前はその程度だ。結婚なんて世間一般の幸せに身をやつし、ありきたりなつまらない人間に成り下がる程度の存在だ。
俺は違う。俺は小説を捨てなかった。あれからもずっと手放さなかった。
お前なんか大したことはなかったんだ。あのことはまぐれだったんだ。
48
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:19:26 ID:vmhFGvks0
( ν )(そう言えたら、どれだけよかっただろうな)
現実の俺は短編一本書き上げることができず、二十代後半にもなってコンビニ勤めのフリーター。
小説で結果を出すこともできていない。
それにしても頭が痛い。寝不足だろうか。
起きたときからやけに気怠かった。風邪かもしれない。これから数時間立ち仕事なことを考えると気分まで落ち込む。
49
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:20:00 ID:vmhFGvks0
(||| ν )(やべ、吐きそう)
胃酸がせり上がってくる感覚がある。喉の奥から饐えた味もする。
電話をかけようとスマホに手を伸ばして、バイト先のすぐ近くまで来ていることに気付いた。
面倒臭いが、直接休みを申し出よう。ちょうど飲み物が欲しかった。コーラかサイダーで喉を潤したい。
50
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:20:23 ID:vmhFGvks0
店に入ると、レジには高校生のバイト一人のみだった。
客の応対をしているらしく俺には一瞥もくれない。なんとなくレジ前は避け、雑誌コーナーを横切る形で奥の休憩室へ進む。
「あの人本当に使いづらいっすよね。なまじ歳も上だし、注意できないっていうか」
ドアに指が掛かった瞬間、その声で思わず動きを止めた。
51
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:21:27 ID:vmhFGvks0
「あー、わかる。指摘したらブチギレて刃物振り回しそうな雰囲気あるよな」
「埴谷さん、言い過ぎ」
男二人が喉を絞められたような声で笑う。
指が震える。
52
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:22:17 ID:vmhFGvks0
「自分仕事できますみたいな顔してるのも痛くないすか? 実際は別にできてないのに」
「なまじ歴ある分プライド肥大しちゃってんだよな、ああいうタイプ。たかがバイトなのに考えすぎっつーか」
耐えられず駆けだした。体調不良のことも忘れ、出口に向かってひた走る。
レジのバイトが一瞬俺を見た気がした。
.
53
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:23:33 ID:vmhFGvks0
玄関を開けた後、一目散に自室に駆け込んだ。
慌ただしい足音を聞いた母親が「どうしたの」と声をかけてくる。
J(; 'ー`)し「ニュッ君? どうしたの? 大丈夫?」
(# ν )「うるせえ!!」
54
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:25:07 ID:vmhFGvks0
ドアの向こうから息を飲む音が聞こえた。
母親は数秒押し黙り、恐々と声を投げかけてくる。
俺は耳を塞いでそれを拒んだ。
しばらく後、手のひらを耳から外すと、母親の気配はもうなかった。
先程の大声の数分の一でも、あのとき出せていたなら。やるせなさに涙が出てくる。
どいつもこいつも大嫌いだ。バイト先の奴らも、母親も、何もかもが全部全部全部!
55
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:27:09 ID:vmhFGvks0
(# ν )(クソったれ、死ね、くたばれ)
(# ν )(消えろ、消えろ、消えろ)
(# ν )(全部なくなれ!!)
56
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:27:33 ID:vmhFGvks0
目に映ったものを矢鱈目鱈にぶん投げた。蹴り上げた。
ティッシュ箱。目薬。脱ぎ捨てた上着。鞄。ゴミ箱。布団。
母親の怯えが伝わってくる。それが心地良くてたまらない。
もっと苦しめばいい。俺の苦しみの十分の一でも味わえばいい。
部屋で暴れ回るのは初めてではなかった。
新卒カードを捨てたときも、派遣を切られたときも、苛立ちが収まらない日は決まって暴れた。
一度父親に殴られて以来は、あいつがいない日中だけに留めている。
57
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:28:16 ID:vmhFGvks0
( ν )(あー……)
( ν )(……死にたい)
58
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:28:45 ID:vmhFGvks0
滅茶苦茶になった部屋に座り込んでいると、決まって反動が来る。
何もかもがどうでもよくなる。死んでしまいたいと、心からそう思う。
こんな人生、死んだほうがいいに決まっている。苦しみながら生き続けるよりも余程楽だ。
知っていながら、しぶとく生き続けるのは何故だ?
隅でへたっていた上着を羽織って外に出た。
部屋はそのままにしておいた。どうせ波風を立たせたくない母親が、俺が出ている間に片付けるだろう。
59
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:29:34 ID:vmhFGvks0
午後二時の空は、雲一つない晴天だった。
バイト先から何件も着信が来ていた。着信拒否設定にして、スマホをポケットにしまう。
これがバックレというやつか。何の感慨も達成感もない。強いて言うなら、あいつらにもう会わなくて済む安堵感くらいか。
( ^ν^)(……あっ)
ふと浮かんだ。浮かんでしまった。
思いついた。降りてきた。湧いてきた。天啓を得た。
類義語がいくつも脳裏をかすめた。
まったく、ひらめきってやつはいつも気まぐれだ。
60
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:30:21 ID:vmhFGvks0
( ^ν^)(書ける)
(* ^ν^)(書ける!)
そうだ、はじめからそうすればよかったんだ。
ネタはすぐそばにあったんだ。俺が気付かなかっただけで。
61
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:30:45 ID:vmhFGvks0
来た道を引き返して家へ飛び込んだ。
部屋を片付けていた母親が驚いた様子で俺を見た。構ってる暇などない。突き飛ばすように追い出し、すぐにパソコンに向かう。
そこからはぶっ通しでキーボードを打ち込んだ。
視界がぼやけたら目薬をさして誤魔化した。目を休める時間すら惜しかった。
指が動く。今までが嘘のように、淀みなく。
千、二千、文字数が増えていくのが気持ちいい。意識が陶酔していく。
眠気に負けるまで、俺は書き続けた。
.
62
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:31:25 ID:vmhFGvks0
( ^ν^)「よお」
声をかけたとき、そいつは大きく肩を震わせた。
きつい吊り目が俺を見る。昔から気に食わなかったその視線も、今は気にならない。
63
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:33:10 ID:vmhFGvks0
俺がバックレた後も、店は変わらず運営していた。
古株とはいえバイトが一人いなくなった程度で立ちいかなくなるわけもない。皆俺のことなんてすぐに忘れるだろう。
それでも一応、店員に見られないように隠れていた。
自動ドアから出てきた背中を追った。駐車場の隣の歩道まで来て、店員の目が届かなくなったタイミングを狙った。
用紙の束を渡すと、津出は眉を顰めた。
文芸部時代もこうして紙に印刷していた。あの頃はまだネットプリントも普及していなかったし、家庭用プリンターがない家も多かった。
当時は面倒臭いと思っていたが、改めてやってみると悪くない。俺は案外、紙の質感というやつが好きだったらしい。
64
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:33:43 ID:vmhFGvks0
ξ ゚⊿゚)ξ「何よ、これ」
( ^ν^)「小説だよ。書きたてホヤホヤの新作ってやつ」
このやるせない人生を書けばいいのだ。
気付いたあの日から、一心不乱に書き上げた。
箔押しされた賞状を受け取ったあの日から、今日に至るまでのすべて。
この鬱屈とした日々を描き、昇華できるなら。
誰かの心に少しでも爪痕を残せるのなら。
それこそが、俺が小説を書き続けてきた意味じゃないか?
( ^ν^)「読んでくれよ、あの時みたいに」
65
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:34:16 ID:vmhFGvks0
二十歳をしばらく過ぎた頃、内藤が新人賞を獲った。
俺も名前は耳にしたことのある賞だ。書籍化を確約していると聞いたから、頭の片隅に残っていた。
俺は内藤の受賞を、本人からのLINEで知った。
嬉し泣きしているスタンプと共に送られた文面を見た瞬間、俺はスマホを壁に投げつけていた。
あいつは何も知らない。
俺がまだあの頃のように小説を書き続けていると思っている。
66
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:34:58 ID:vmhFGvks0
あの日から俺は、内藤のLINEに返事をしなくなった。
あいつも察したのだろう。最初こそくだらない雑談だとか同窓会の誘いを送ってきていたが、数年前を境にぱたりと止んだ。
来る日も来る日も本屋に行った。棚でひっそりと息づくあいつの本を見た。
嫉妬に狂いながら、どうか二冊目が出ないようにと祈った。
67
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:35:41 ID:vmhFGvks0
俺の祈りは通じた。
新人賞を獲って以来、内藤の名前を聞くことはなかった。
当たり前だ。そんなに甘い世界じゃない。
大体、内藤の小説なんて別に上手くもなかった。
俺から見れば文章も稚拙だし、表現も陳腐だ。ストーリーも浅い。世界観だって。
俺のほうがずっとレベルが高かった。
68
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:36:11 ID:vmhFGvks0
( ^ν^)「津出?」
津出は「ふーっ」と長く息を吐き、顔を上げた。
もう眉根を寄せてはいなかった。ただ冷めきった目をしていた。
高校の頃、内藤に原稿を渡す俺を見ていたときの目と同じだった。
津出に原稿を突き返されたとき、何枚か紙を落としてしまった。
想定していなかったのだ。拒まれることなんて、考えもしていなかった。
(; ^ν^)「何してるんだよ」
ξ ゚⊿゚)ξ「悪いけど、私もう帰るから」
69
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:37:00 ID:vmhFGvks0
いかにもビジネス然とした黒い鞄を掛け直し、津出は俺に背中を向ける。
その肩を掴んだ。振り払われる。また掴んだ。
津出が迷惑極まりないという顔で俺を見た。
この顔も知っている。津出が部室で俺と目すら合わせないものだから、教室で原稿を渡そうとしたときの顔だ。
ξ ゚⊿゚)ξ「気持ち悪いわよ。触らないで」
(; ^ν^)「なあ、頼むよ。自信作なんだ」
(; ^ν^)「これなら……これなら賞を取れるんだ、絶対に」
70
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:38:06 ID:vmhFGvks0
新人賞を獲ったとき、内藤はどれほど祝福されたのだろう。
文芸部の奴らにも報告しただろう。俺が退会したグループLINEは大騒ぎだったに違いない。
祝いにかこつけた飲み会も開いたかもしれない。部員が拍手する中、あいつは酒に酔った赤ら顔でへらへらと笑っていたのだろうか。
どうしてそれが俺じゃないんだ。
内藤は全部持っているのに。
新人賞も、部長という地位も、慕ってくる部員も、友達も、嫁も子供も、隣の席だったあいつに似た幼馴染も。
どうして祝福されるのが俺じゃないんだ。
どうして?
71
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:38:49 ID:vmhFGvks0
ξ ゚⊿゚)ξ「いやよ」
ξ ゚⊿゚)ξ「あんたの書く話、面白いと思ったことないもん」
ζ(^ー^*ζ『ニュッくんは大人になったら、作家さんになれるね!』
たった一つ、大切に抱えていた思い出が、音を立てて壊れた気がした。
.
72
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:39:35 ID:vmhFGvks0
去っていく津出の背中を見送った。
津出は振り返らなかった。俺に一瞥もくれず、しっかりとした足取りで歩いて行った。
.
73
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:39:58 ID:vmhFGvks0
自宅に戻ったあと、俺はパソコンを壊した。
ノートパソコンを壊すのは簡単だった。何度か机に打ち付けるとあっけなく画面が割れ、動かなくなった。
津出が読まなかった原稿は破いて捨てた。
パソコンはもう使えない。バックアップなんてものもない。何もなくなった。何も。
だというのに、俺はちっとも悲しくなかった。
悲しさだとか、虚しさだとか、そんな感情はまるでない。本当に、何も感じていなかった。
ただ漠然と、数日ぶりに「死にたい」と思った。
74
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:40:30 ID:vmhFGvks0
悲しくない自分に驚いた。
これほど続けてきた小説を、費やしてきた時間を捨てたというのに。どうして俺は何も思わないんだ。
( ^ν^)(悲しいはずだ。苦しいはずだ)
( ^ν^)(だって小説は俺のすべてなんだから。俺には小説しかないんだから。俺は──)
────あ、そうか。
やっとわかった。わかってしまった。気付いてしまった。
75
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:41:25 ID:vmhFGvks0
( ^ν^)「俺、最初から小説なんて好きじゃなかったんだ」
( ;ν;)「小説しかなかったから、しがみついてただけだったんだぁ……」
.
76
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:41:56 ID:vmhFGvks0
部活中の内藤や、他の部員達の顔を思い出す。
「ネタ浮かばない」「進捗やばい」口では嘆きながら、皆楽しげに笑っていた。
俺は小説を楽しいと思ったことなんてない。
他人が書いたものを読むことも、自分が執筆することも、楽しめたことなんてない。
ただ、勉強も運動もできなかったから、残ったものに縋っていただけで。
77
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:42:38 ID:vmhFGvks0
( ;ν;)「 」
声を出して泣いた。
隣の部屋にいるはずの母親は無視に努めている。
.
78
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:43:05 ID:vmhFGvks0
せめて死ぬ気勇気があったなら。
悔やみながら、泣いた。
.
79
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 16:44:33 ID:vmhFGvks0
投下は以上です!ありがとうございました!
80
:
名無しさん
:2025/07/07(月) 22:56:51 ID:MLHexC9Q0
うーん乙
81
:
名無しさん
:2025/07/09(水) 07:16:45 ID:40.R57MM0
乙
めちゃリアルで苦しいけど超好き
内藤やデレが直接登場しないところ好き
学生時代や今のツンの心情を考えるとギュッてなる
82
:
名無しさん
:2025/07/09(水) 23:54:07 ID:0BGNRp1s0
乙
ニュッくん一々かわいくてニコニコしながら読みました
ハマり役
83
:
名無しさん
:2025/07/11(金) 00:05:07 ID:GJ2Mv.JU0
乙乙
>ξ ゚⊿゚)ξ「内藤、ずっとあんたのこと気にしてた」
これ内藤が裏表のない人ならニュッくんが救われてた未来もありそうだけどニュッくんは嫉妬捨てられなかったからこそこの結末だったんだろうな…
タイトルに色んな意味が混ざってそうで笑顔になりました
84
:
名無しさん
:2025/07/14(月) 23:42:07 ID:uOKiuQs.0
「少しでいいから救いがあってくれ…」って祈りながら読んでたけど見事になかった。必死に崖を掴んでる指を一本いっぽん、丁寧に外されていくような感じがした。デレが回想でしか登場しないから、思い出に縋ってるというニュッ君の惨めさ&哀れさがひしひしと伝わってきた。
めちゃくちゃ面白かった!乙!
85
:
名無しさん
:2025/07/17(木) 13:45:47 ID:jF40RSOs0
お手本のような惨めさ
乙
86
:
名無しさん
:2025/08/08(金) 23:22:13 ID:AgQMsQQU0
>>85
すげえ良い感想だわ
共感しかない
乙、エグイ
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