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ξ゚⊿゚)ξ ブーン系小説&イラスト練習総合案内

574名無しさん:2025/07/02(水) 23:50:45 ID:Fw7rHtEY0
おしまいです
ありがとうございました!

575名無しさん:2025/07/03(木) 23:37:24 ID:qvjsH5KQ0
最初よくわからなかったけど、2回目は無知ゆえの顛末の話だと思って面白く読めた
住民が自然体な感じで好き

576名無しさん:2025/07/04(金) 19:13:32 ID:7o2kDS6k0
なんかいいな


577名無しさん:2025/07/05(土) 22:02:00 ID:q36M5EnA0
おじいさんは自分も気付かず、誰にも知られず、ドラゴンを倒したんだね
絵本みたいなSFみたいな、すごく好き

578名無しさん:2025/07/22(火) 00:10:17 ID:jJTUkSdo0
投下します

579名無しさん:2025/07/22(火) 00:11:40 ID:jJTUkSdo0
「貴方色のようです」



ミセ* ー )リ <これイイっしょ?>

そう言われて従姉妹のミセリから送られた画像は、自身の手に塗られたネイルの画像だった。

ミセ* ー )リ <バースデーカラーを選べるお店で買ったんだ。リリも塗ろうよ!>

⌒*リ´・-・リ「えー。ネイルって臭いし、ヤダ。」

ミセ* ー )リ <水性ネイルは臭くないし、お風呂でふやかせば剥がれるよ。>

⌒*リ´・-・リ「真面目ぶった学生にぴったりって事かぁ。」

ミセ* ー )リv <そうで〜す♪>



⌒*リ´・-・リ(ふーん…。)

私は寝る前にスマホで、自分のバースデーカラーを調べてみる事にした。

⌒*リ;´・-・リ「げ。墨色じゃん…。」

黒っぽい色も嫌いじゃないけど、手持ちの服とは合わない。

⌒*リ´・-・リ(モードでも地雷でも、パンクでもないしなぁ…。)

⌒*リ´・-・リ「……」

580名無しさん:2025/07/22(火) 00:14:09 ID:jJTUkSdo0
⌒*リ´・-・リ「ごめんね。参考書選び手伝ってもらって。」

(#゚;;-゚)「ううん、私も本屋さん来たかったし。」

⌒*リ*´・-・リb「じゃっ!スイーツ食べに行こっか!」

(*#^;;-^)「うん。動物型のクレープだなんて、ワクワクしちゃうよね。」

でぃちゃんは優しくて、お姉さんみたいに大人びていて綺麗だ。



でぃちゃんと同じクラスになってから、見栄を張って私の成績が少し良くなった事。

先生に勝手に実行委員に入れられて泣き言を言っていたでぃちゃんが、最近は似た境遇の男子と力を合わせて頑張っていると、楽しそうに話してくれた事。

その男子が、でぃちゃんの好きなアイドルにちょっと似ている事。


考えたくなくて、私はでぃちゃんの腕に引っ付いた。

581名無しさん:2025/07/22(火) 00:15:27 ID:jJTUkSdo0
(#゚;;-゚)「今日会ったときから思ってたけど、ネイル綺麗だよね。」

⌒*リ´・-・リ∩「これ?従姉妹にもらったんだ。」


"教えて"もらった。

ミセリのバースデーカラーの飴色と、ちょっと似てる色。
だからもしでぃちゃんに、『同じ色が欲しくなった』と言われても、似た色を間違えてプレゼントされたのだと言い訳すれば良い。


⌒*リ´・-・リ「夕方まで遊んじゃう?」

(#^;;-^)「そうだね。」

582名無しさん:2025/07/22(火) 00:16:56 ID:jJTUkSdo0



うん、綺麗だね。

独り占めしたいくらい、とっても綺麗。






でぃちゃん。この色、ナスタチウムオレンジっていうの。






指先だけで、恋を唱えた。



.

583名無しさん:2025/07/22(火) 00:19:20 ID:jJTUkSdo0
終わりです

584名無しさん:2025/07/22(火) 00:27:51 ID:NdQ3x56M0


585名無しさん:2025/07/24(木) 23:28:17 ID:nI9KhgUU0
投下します

586名無しさん:2025/07/24(木) 23:29:26 ID:nI9KhgUU0
( ゚д゚ )「おうい。ビールをくれ。まずは一杯」

lw´‐ _‐ノv「なんだい。昼間っから大丈夫かい?」

( ゚д゚ )「心配ない。今日の仕事は終わった。なんなら、明日の分まで済ませた」

lw´‐ _‐ノv「そりゃ結構で。じゃ、今持ってくるからね」

( ゚д゚ )「ああ。どうも・・・」

ここは、城下町の小さな飯屋。うんざりするほど暑い午後。
何か嫌なことでもあったのか、それとも、嬉しいことでもあったのか。
とにかく、男はジョッキ一杯のビールを、ひと息に飲み干した。

( -д- )「ふぅーー・・・う」

lw´‐ _‐ノv「ちょっと。すきっ腹にビールだけ入れて、内臓に悪いよ。何か注文したらどうだい?」

( ゚д゚ )「それもそうだな。じゃ、簡単につまめるものを」

lw´‐ _‐ノv「そんなメニュー、ウチにはないよ。残りもんの炒めもんでいいのかい?」

( ゚д゚ )「ああ・・・では、残りもんの炒めもんをひとつ」

lw´‐ _‐ノv「ふん。変わった客だね。ちょっと待ってな」

587名無しさん:2025/07/24(木) 23:30:23 ID:nI9KhgUU0
おせっかいなおかみは、厨房へ。
少しすると、男の席までいい匂いが漂ってくる。

( ゚д゚ )「おうい。ビールをもう一杯」

lw´‐ _‐ノv「今、アンタの食事を作ってんだよ!」

( ゚д゚ )「じゃ、飯ができたら一緒に持ってきてくれ」

男はそう答えながら、厨房の方を確認する。
おかみは、まだフライパンと格闘中だ。
男は自分のバッグから、こっそりとブランデーの瓶を取り出し、口を付けた。

( ゚д゚ )「ふぅ・・・」

( ゚д゚ )「肉の匂いが立ち込める中、呑めないなんて、生殺しもいいとこだ・・・」

そして続けて、もう一口。
男は少し良い心地になり、瓶を元のバッグに戻す。
ちょうどその時、隣の客から、声がかかった。

588名無しさん:2025/07/24(木) 23:30:55 ID:nI9KhgUU0
( ・∀・)「あの、お客さん。持ち込みはいけませんよ」

( ゚д゚ )「・・・失敬。なんのことだ」

( ・∀・)「とぼけても無駄です。今あなた、おかみさんの目を盗んで、飲んでたでしょう」

( ゚д゚ )「中身は水だ。アルコールはこれから注文する」

( ・∀・)「調べれば分かることです。それに、私は常連客だ。信頼もある」

( ゚д゚ )「俺の楽しみを奪って、なんのつもりだ?」

( ・∀・)「本来は店が得ていたはずの利益が損なわれるのが、私には嫌なんですよ」

( ゚д゚ )「・・・偽善者め」

( ・∀・)「どうとでも言ってください」

二人が険悪な雰囲気になりつつあるところ、「おまちどうさん」の元気な声。
そして、男のテーブルに、何かの炒め物と豆、ベーコン、そしてビール。
隣の客には、リゾット風の軽食が置かれた。

589名無しさん:2025/07/24(木) 23:32:00 ID:nI9KhgUU0

lw´‐ _‐ノv「モラさんは、いつものこれで良かったね?」

( ・∀・)「ありがとう。ところで、隣の客なんだが・・・」

( ゚д゚ )「待て。俺に、ビールをもう一杯。すぐ飲んじまうからな」

lw´‐ _‐ノv「はいはい。ほどほどにね」

( ゚д゚ )「あと、隣の彼・・・モラさんと言ったか。彼にとびきりの酒を用意してくれ」

lw´‐ _‐ノv「おや。お客さん随分景気がいい。ちゃんと勘定持ってるんだろうね?」

( ゚д゚ )「心配ない。料理が冷める前に持ってきてくれ」

lw´‐ _‐ノv「怪しいね。なんで初対面の相手に、そんな事をするんだい。生き別れの弟だったりするのかい?」

( ゚д゚ )「ああ。実は彼は・・・生き別れの兄なんだ」

lw´‐ _‐ノv「ふん。うそだね。モラさん、こいつは嘘つきだね?」

( ゚д゚ )「待て。あとは仔牛のステーキとラム串を四本だ。金はこれで足りるだろ」

lw´‐ _‐ノv「・・・なんだ。金を持ってるんならいいんだよ」

590名無しさん:2025/07/24(木) 23:32:37 ID:nI9KhgUU0
おかみは支払い能力を確認すると、そそくさと厨房に戻り、棚に並んだ酒のラベルとにらめっこ。
男は「モラさん」と呼ばれた客をじっと見て、恨めしそうにつぶやいた。

( ゚д゚ )「酒を飲ませるのは、別にいい。問題は、その相手が退屈なやつって場合だ」

( ・∀・)「心外ですね」

( ゚д゚ )「あと、店とお前のために高い飯も注文してやったぞ。食えるだろ?」

( ・∀・)「奢られる筋合いはないんですがね。そう言うのであれば遠慮なく」

( ゚д゚ )「ケッ。退屈な返事だ」

( ・∀・)「すみませんね。職業柄で」

( ゚д゚ )「そのクソみたいな7:3分けも仕事のせいかい?」

( ・∀・)「・・・そうですね」

( ゚д゚ )「ハッハッハ。俺なら、そんな髪型するくらいなら、サムライみたいに自害を選ぶね」

(#・∀・)「・・・こんなの、僕だって、やりたくてやってる訳じゃないですよ!」

591名無しさん:2025/07/24(木) 23:33:21 ID:nI9KhgUU0
そう言うとモラさんは、ため息を一つつくと、唐突に頭をかきむしった。
まるで、発作のような動き。がしゃがしゃがしゃがしゃと、壊れた機械のように動きまくる。
そして、キッチリ分けられていた髪が、ぐしゃぐしゃのくせ毛になったころ、その動きが止まった。

(#・∀・)「ああ、もう、今の仕事にはうんざりだ!!」

( ゚д゚ )「今のダンスは良かったぞ。最後のシャウトも。まずは飲め」

(#・∀・)「あんたみたいなオヤジには分からないでしょうね。上にペコペコ、下にもペコペコで溜め込む日々は!」

( ゚д゚ )「聞かせてくれ。面白そうな話じゃないか」

(#・∀・)「何も面白くないですよ!」

( ゚д゚ )「俺にとっては、興味深い。だが、飲まなきゃ話にならん。飲め」

(#・∀・)「飲めってそれ、あなたが口をつけたビールですよね!?」

( ゚д゚ )「些細なことだ。いいから飲め」

( ・∀・)「・・・退屈なやつとは、飲まないんじゃないですか?」

( ゚д゚ )「今のお前は、7:3じゃない」

(*・∀・)「・・・・・・」

592名無しさん:2025/07/24(木) 23:33:51 ID:nI9KhgUU0

モラさんは、差し出されたジョッキをじっと見る。
半分ほど減った、飲みかけのビール。
勢いに押されて飲みたくなる衝動をぐっとこらえ、深呼吸。

( ・∀・)「急に取り乱して、すみません。あなたが煽ったせいですが」

( ゚д゚ )「別にいい。まあ、飲め」

そして男は再度、自分の飲みかけビールを勧める。
モラさんは、今度はそれに口をつけ、少しずつ、今日あったことを語っていった。

593名無しさん:2025/07/24(木) 23:34:20 ID:nI9KhgUU0
―――――――――――――――――――――――――――

lw´‐ _‐ノv「アンタは知らないだろうけどね。この酔いどれオヤジも、昔はキチンとしてたんだよ」

(;^ω^)「ええ!? 本当ですかお?」

lw´‐ _‐ノv「信じられないって顔してるね。モラさん、何か言ってやってよ」

ここは、城下町の小さな飯屋。
おかみさんは、相変わらずやかましく、おせっかいだ。
モラさんと呼ばれたその男は、昼間にも関わらず、ジョッキを持ち上げる。

594名無しさん:2025/07/24(木) 23:35:01 ID:nI9KhgUU0
( ・∀・)「いいのか? 俺に昔話をさせて」

( ^ω^)「うわ。長くなるならいいですお」

( ・∀・)「そう言うな。まあ、お前も飲むといい・・・」

( ^ω^)「それ、モラさんの飲みかけですよね?」

( ・∀・)「ふん。俺が若い頃なら、気にせず飲んだものだ」

( ^ω^)「うへえ。マジですかおww」

( ・∀・)「まあいい。おうい、ビールだ。ビールをひとつ」

lw´‐ _‐ノv「はいよ! 少々お待ちを」

注文を受けたおかみは、甲高い声で返事をする。
飯屋の隅では、髭を蓄えた老人が、窓の方をぼんやり眺める。
よく見るとその目は、どこか笑っているようだった。

595名無しさん:2025/07/24(木) 23:37:49 ID:nI9KhgUU0
おしまいです!
ありがとうございました

596名無しさん:2025/07/25(金) 04:14:28 ID:T1UmL1VM0
素敵な雰囲気

597名無しさん:2025/07/25(金) 12:27:49 ID:4GwtO.DI0
いいね乙

598名無しさん:2025/07/25(金) 20:54:05 ID:q6xyuGKc0
こんな店通いたい

599名無しさん:2025/08/04(月) 22:32:09 ID:4m3XaB6w0
一年ぐらい前に総合で同じこと聞いたんだけど、一年探して見つからなかったからもう一回質問させて欲しい。
とあるブーン系作品を探しています。
・胸糞、カニバリズム系の作品。
・確か山崎とぼるじょあが主人公だった気がする。二人はレストラン(小料理屋?)をやっていて、人間を調理して食べるのが好き。
・常連のギコしぃ夫婦が来店。しぃが妊娠したことを幸せそうに報告され、「そういえば胎児って食べたことないな。どんな味なんだろう」と興味を持った主人公たちがしぃを誘拐。お腹の中の赤ちゃん諸共ビーフシチューにして食べる。
・しぃが行方不明になり、憔悴しきったギコが来店。慰めながらビーフシチューを差し出す。何も知らずに食べるギコ。それを見て内心ほくそ笑む描写で終わりだった気がする。超後味悪い。

インターネットアーカイブも使って、今じゃ見れなくなったまとめサイトも含めて色々巡回したけど
オムライス、ブーン芸VIP、mesimarja、ブンツンドー、7x、mitinko、青空ホライゾン、グレーゾーン、玉兎の夢、Gather、REST、ヴァニラアイス、クールライター、短編とかの保管庫、BBH、オムライス、文丸新聞
の所にはなかった。
もちろん百選にもない。凄く面白かったから選ばれててもおかしくないと思ったし、いつの百選にもないってことは2019年以降の話かなと思ってファイナル板も総合短編含めて探したけど見つからない。

あまりにも見つからないから、自分が夢の中で読んだだけで、実際には存在しない作品だったのかと最近思えてきた。
タイトルが分からなくてもいいから、「昔自分も似たような作品読んだことある!」レベルの情報でいいから、どなたか心当たりがある方は教えて欲しい…お願いします……。

600名無しさん:2025/08/05(火) 06:37:25 ID:kLIjQbP20
それ読んだ記憶あるわ
胸糞だったのは覚えてるけど、タイトルは分からない…
力になれずごめんよ

601名無しさん:2025/08/05(火) 07:55:16 ID:vS2IrfqQ0
何かのまとめで読んだ気がするけど近年の記憶ではないな
見付かると良いね

602名無しさん:2025/08/05(火) 10:20:25 ID:kLIjQbP20
確かに、読んだのは結構前だったかも
短編だった?よね?

603名無しさん:2025/08/05(火) 17:33:53 ID:lFA7IBtQ0
>>599
これブックマークしてたけどスマホ変えてから忘れちゃった

604名無しさん:2025/08/05(火) 20:23:21 ID:PKrYeL8k0
>>599

見つけたよ〜
食べる、ようです

https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/21864/1506161926/l50

605名無しさん:2025/08/05(火) 23:40:28 ID:QjeOjgU.0
ソムリエすげー

606名無しさん:2025/08/06(水) 01:31:43 ID:cS4/Ybnk0
>>604

うわわわわ!!!これ!!!これです!!!まさにこの作品!!!!!質問してすぐに見つけて貰えるなんて!!
ファイナルの過去ログにあったのか、数年間ずっと探してて、この一年は特に力入れて捜索してたんだけど盲点だった!
何とお礼を申し上げたらいいか……!!ありがとう、本っ当の本当にありがとう!!さっそく大事に読むね!!!

読んだことある報告してくれた方々も、ありがとうございました!
諦めないで今年もまた聞いてよかった!明日はビーフシチュー作る!

607名無しさん:2025/08/06(水) 02:09:27 ID:wlVnkyvg0
ちゃんとビーフで頼むぜ

608名無しさん:2025/08/06(水) 02:56:42 ID:Jpz90ZxU0
>>605
こまけぇことはいいんだよと言われるかもしれないが

特定の作品を探し出してくれるのがアーカイブ
条件に合う作品をおススメしてくれるのがソムリエだよ

609名無しさん:2025/08/06(水) 23:27:33 ID:v4RCEDHc0
>>608
親切たすかるぜ

610名無しさん:2025/08/08(金) 22:54:33 ID:JEBcT/Dg0
投下します。

611名無しさん:2025/08/08(金) 22:55:01 ID:JEBcT/Dg0

あなたにとって、今日は一体何の日でしょうか。

只の平日でしょうか。
小さい頃、初めて逆上がりが出来た日でしょうか。
学生の頃、一生懸命描いた絵が認められなくて、悔しい思いをした日でしょうか。
大人になった今では、いつも通り仕事に行かなきゃいけない日でしょうか。

どんな日でも、誰かにとっては記念日だろうし、最悪な日だろうし、何でもない日に違いないでしょう。
あなたにとってはどうでしょうか。
良い日でしょうか。嫌な日でしょうか。思い出のある日でしょうか。

少なくとも、私にとっての今日は。



リハ*゚-゚リ「――良い天気だなぁ」



いつも通りの、とっても平凡な普通の日です。

612名無しさん:2025/08/08(金) 22:55:43 ID:JEBcT/Dg0

『デンファレを望むようです』

613名無しさん:2025/08/08(金) 22:56:15 ID:JEBcT/Dg0

顔を上げると、雲一つない晴天の青空を独り占めしている太陽の姿があった。
つい最近までのお日様はよく鈍色の雲に閉じ込められていたからか、あまり目立てなかった梅雨頃の分を取り返そうと、躍起になっているようにも感じる。

「八月の太陽は、冬頃と比べると大きく見える」。そう言ったのは確か、夏の日射しに煩わしさを感じた昔の私だ。
夏が暑いのは地球と太陽の距離が近くなるからだと考えた、幼き頃の無知な私のことを思い出す。
まだ小学生だったということを勘定に入れれば中々可愛らしい間違いだったかもしれないが、そんな私の微笑ましい勘違いを正したのもまた、私と同い年の幼馴染だった。

地球は太陽のまわりとグルグルと回っているが、その軌道に対する地球の自転軸は垂直ではなく、23.4度傾いている。よく大きな本屋さんなどで売られている地球儀が斜めになっているのは、その自転軸を表しているのだと知ったのもあの時だ。
太陽に対して傾いた姿勢のまま公転しているから、場所によって太陽から受ける熱に違いが出る。
確かに季節ごとに地球と太陽の間の距離は変わるが、太陽高度が地球に与える影響と比べれば些末もいいところで、大した問題ではないとのこと。そして、なんなら夏は地球と太陽の距離が遠くなるらしい。

「八月の太陽が大きく見えているのなら、今すぐ眼科か脳外科に行った方がいい」だなんて、眉を吊り上げたまま得意げに意地悪な物言いをした彼の顔を、今でもよく覚えている。
もう少し大きくなった後の私なら「私がどう感じたかが大事なの」とでも言い返したのだろうなと、今更な空想が浮かんだ。

614名無しさん:2025/08/08(金) 22:56:35 ID:JEBcT/Dg0

当時の今頃はどんな生活をしていたのだっけと、風に揺れる緑陰を遠目に眺めながら、他人事のように自分事を想起する。

大したことはしてなかった。
早朝の涼やかな夏風を浴びながらピアノを弾いたり、母に買ってもらったちょっと良いクレパスで絵を描いたり、図書館で友達と待ち合わせをして夏休みの宿題を片付けたり。
町の小さな神社で毎年開催される夏祭りに、幼馴染と出かけたり。

思い出を一つひとつゆっくりと、糸を手繰るみたいに引き寄せる。
どれもこれも、取り立てて騒ぐような出来事じゃない。ドラマにも映画にも小説にもならないような、何の面白味もない話ばかり。
それでも、私にとってはその全てが、宝石のような価値を持って輝いているように思えた。

615名無しさん:2025/08/08(金) 22:57:14 ID:JEBcT/Dg0

( ^ω^)「あれ、アイシスさん。お久しぶりだおね」

右隣から声をかけられて、意識が昔から今の時間へと戻る。
顔を横に向けるといつの間にか、顔見知りの青年がいた。

リハ*゚-゚リ「お久しぶりです、ブーンさん。こんな所まで朝のお散歩ですか?」

( ^ω^)「そんな感じだお。久々に蝉の声を聞いて、やっと夏になったことに気が付いて……色んな所を巡っていたら、またここに来ちゃったんだお」

リハ*゚-゚リ「今は昔よりずっと暑くなっちゃったらしいですからね。蝉たちもきっと耐えられなくて、数を減らしちゃったのかもしれません」

( ^ω^)「昔はあんまりにも五月蠅いもんだから、『蝉なんていなければいいのに』なんて意地悪なことを願ったりしたけれど……聞けないとなるとちょっと寂しく感じてしまうおね。我ながら勝手だとも思うけれど」

リハ*゚-゚リ「同感です。ホントに勝手ですね、私たち」

石に腰掛けながら、約半年ぶりに会った友人との会話を続ける。
私はずっとここに居るしかないし、ブーンさんは秋以外ずっと色んな所を飛び回っているから、顔を合わせる機会は少ない。今まで話した回数も、両手の指で十分足りる程度だ。
それでも、お互いに貴重な話し相手であることと、彼の温和な性格のおかげもあって、もう五年以上の友人関係が続いていた。

616名無しさん:2025/08/08(金) 22:57:42 ID:JEBcT/Dg0

リハ*゚-゚リ「今回はどんな所に行ってきたんですか?」

( ^ω^)「この辺りをずっとウロウロしてたお。なんだか随分と大きなイベントがやってるみたいで……色んな国の人たちが楽しそうにしてたお」

リハ*゚-゚リ「へぇ、オリンピックか何かですかね?」

( ^ω^)「それ以上な感じがしたお。多分物凄く大々的な、世界規模のイベントなのかもしれないおね」

リハ*゚-゚リ「世界規模……素敵ですね、私も行ってみたかったなぁ」

(;^ω^)「あっ……ごめんだお。軽率だったお」

リハ*^-^リ「いえ、いいんです。お話沢山聞かせて貰えれば」

口を押さえながら申し訳なさそうに俯くブーンさんの様子が面白くて、自然と笑みが零れてしまう。
別に失言だとは思ってないし、咎めるつもりもない。羨ましく思っているのは本当だけれど。

617名無しさん:2025/08/08(金) 22:58:43 ID:JEBcT/Dg0

灼くる太陽の下、私はただじっと、ブーンさんの話を聞いていた。
数年前の春頃に閉店した故郷の駄菓子屋が、ついに解体までされてしまったこと。
南の端まで飛んで行った先の海は、本当に透明で綺麗だったこと。
色んな所に行ってみたものの、今年もまた、私以外に話せる誰かは見つからなかったこと。

どれも楽しくて新鮮なお話であったけれど、一際私の興味を惹いたのは、さっき話してくれたイベントのことだ。
見たことのない技術、この国から遠く離れた場所の文化、それらをたくさんの国の人々が目を輝かせながら楽しんでいたという。

どんな感じなのだろうと、私はここから離れた地に思いを馳せる。
今の私はこの場所しか分からないから、現在の世界の姿というものが分からない。
私の知っている世界は、十年前で止まっている。

私が待ち呆けをしている間にも、世界はとてつもないスピードで前に進んでいる。
月に向かう宇宙船の速度が時速4万キロメートル。地球が太陽を周囲を回る速度は、その倍以上の時速10万キロメートル。
だけど、世界が変わっていく速度は間違いなくそれ以上なのだということは、今になって気が付いたことだ。

( ^ω^)「そういえばもう一つ、ここに来る途中で興味深いものを見たお」

リハ*゚-゚リ「興味深いもの?」

( ^ω^)「あぁいや、正確にはものじゃなくて、人なんだけど……」


( ^ω^)「花束を持ってる人がね、こっちに歩いて来てたんだお。朝早くから」


リハ;゚-゚リ「………え」

ブーンさんの言葉に、私の表情は凍り付いた。

618名無しさん:2025/08/08(金) 22:59:27 ID:JEBcT/Dg0

( ^ω^)「この山の上まで結構距離あるし、お盆にもまだちょっと早いのに。ちょうどここが開く時間ぐらいに着く予定なのかなとも思ったけど」

目を見開いて、ブーンさんの体の更に向こう側を見る。
朝の日差しを受けた木々が風に吹かれ、片影が揺れているのが分かる。
その間、回廊のように開かれた光の道の奧から、ゆっくりと石の階段を踏みしめるような音が聞こえてきた。

リハ*゚-゚リ「………あ」

うだるような暑さも分からない。夏めいた風の匂いも感じない。
日焼けを気にしたり、納涼を楽しむ必要もない。
そんな存在になった今でも、どうしてか不思議と、感覚が鋭くなる時がある。

一年間、今日を指折り数えて待っていたからか。
それとも、今年もまたここに来てくれた彼への慕情故か。
とっくの昔になくなった筈の心臓が、ひどく痛んだような気がした。

619名無しさん:2025/08/08(金) 22:59:48 ID:JEBcT/Dg0

( ^ω^)「……なるほど。彼だったんだおね」

リハ* - リ コクリ

言葉にはせず、ただ小さく頷く。
するとブーンさんは仏みたいに優しい微笑を浮かべて、ふわりと宙に浮いてみせた。

( ^ω^)「そろそろ僕はおいとまするお。また冬頃になったら顔を見せにくるから」

リハ*゚-゚リ「はい、お元気で……って言うのも変ですけど」

( ^ω^)ノシ「アイシスさんもね。それじゃあ……たくさん、お話楽しんで」

ブーンさんと地面との距離がどんどん離れていく。
彼は私に手を振った後、青空に溶けるみたいにまた、どこか遠くへと去ってしまった。

620名無しさん:2025/08/08(金) 23:00:27 ID:JEBcT/Dg0

視線を正面に戻す。
日の光で作られた道の真ん中、こちらに向かって一直線に進んでくる影が一つ。
肩には少し大きめの鞄を下げ、両手はそれぞれの荷物で塞がっている。

とっくに無くなった胸が高鳴る。
彼が一体誰なのか、どこに向かっているのか、何のためにこんな山の上にまで来たのか。その全てを私は知っている。

彼が荷物を地面に置くと同時に、私も座っていた石から立ち上がる。
手を伸ばせば届く距離にまで近づいてくれた彼の顔を正面から見つめる。

また少し、大人びたように感じた。



(´・ω・`)「久しぶり。アイシス」

リハ*゚-゚リ「久しぶり。ショボン」



一年振りに耳にした幼馴染の声は、朝凪の波音みたいに心地が良くて。
一年振りに口にした幼馴染の名前は、とても口馴染みが良いように感じた。

621名無しさん:2025/08/08(金) 23:01:02 ID:JEBcT/Dg0

(´・ω・`)「ありゃ、結構汚れてんな。去年はそうでもなかったのに」

リハ*゚-゚リ「今年の梅雨は長かったからね。八月の今でもよく雨が降るし、仕方ないよ」

(´・ω・`)「ちょっと待ってな、サッと綺麗にするから」

リハ*゚-゚リ「いいよ、お盆になったら両親が来てくれるし」

(´・ω・`)「もうすっかり上手くなったんだぞ。見てろ、ピカピカにしてみせるから」

彼は鞄からペットボトルと布巾を取り出し、私がずっと背にしていた石を磨き始める。
雨風などで付着してしまった汚れが、水洗いでみるみるうちに綺麗になっていく。
昔はただ汚れを落とすだけで一時間以上かかっていたのに、今では本当にプロ並みの手際の良さだ。

なんとなく、子どもの頃を思い出す。
小学校の図工の時間、手先が不器用だった彼の手伝いをして、よく放課後まで残ったっけ。

622名無しさん:2025/08/08(金) 23:01:50 ID:JEBcT/Dg0

(´・ω・`)「それと…はいコレ、いつもの花。今回は白にしてみたんだ」

リハ*゚-゚リ「ありがとう。今年も綺麗だね」

差し出された花束を大事に眺める。
紫だった去年とは違う。純白と評せるほど凛とした花弁に日光が反射して、一種の神々しさすら見て取れた。

デンドロビウム・ファレノプシス。私が一番好きだった花。
暖かい気候を好む花だから夏から秋にかけてが見頃ではあるのだけれど、近年の日本の夏の暑さだと、花束として綺麗に見繕うのは意外と難しい。
それでも彼は毎年、瞬きを忘れるほど綺麗に作られたデンファレを持って来てくれる。
それがいつも申し訳なくて、心苦しくて、そして、それらの悪感情を上回るほどに嬉しい。

623名無しさん:2025/08/08(金) 23:02:27 ID:JEBcT/Dg0

リハ*゚-゚リ「最近はどう? お仕事大変そうだけど、ちゃんと休めてる?」

(´・ω・`)「最近はそうだな……仕事は寧ろ去年より忙しくなったかな。いよいよ、ある程度は責任を持たないといけなくなっちまった」

リハ*゚-゚リ「でもそれは、君が今日までずっと頑張れたんだって証でもあると思うよ」

(´・ω・`)「今ですら自分のことで手一杯だからなぁ。後輩とか新人の子にどう接するのが最善なのか分からんよ」

リハ*゚-゚リ「君がされて嬉しかったことをしてあげて、逆にされて嫌だったことはしないようにすればいいんじゃないかな。他にも、自分が新人の時にして欲しかったことを思い出すとか。今の君の立場から想起してこそ、見えるものもあるかもしれないよ」

(´・ω・`)「他には……そうだ、俺たちがよく行ったあのスーパー、今年の秋に閉店するらしい。中のテナントもほぼなくなったし、建物自体も古くなってきてたからそろそろだとは思ってたんだけどな」

リハ;゚-゚リ「えっ!? そ、そっかぁ……よくフードコートで勉強したり、屋上のゲームセンターで遊んだりしたのにね。寂しいなぁ」

(´・ω・`)「でも、地元自体は割と便利になってるぞ。近くには映画館付きのショッピングモールが出来たりした」

リハ;゚-゚リ「あんな田舎に? 世の中って本当に信じられないスピードで変わっていくんだね」

例年通りの、下らないことを話してくれていた。
彼自身の近況。地元の様子。私は知らない都会の様相。この一年で見た綺麗な景色や、印象に残った出来事など。
気心知れた仲だったからこそ悠然と聞ける内容であって、何一つドラマチックな要素はない。こんな話、きっと単語一つですら、ドラマや小説には成り得ない。
それでも、昔と変わらない口調で、変わってしまった世の中のことを教えてくれる彼の話が、私にとっては何より貴重に思えた。

624名無しさん:2025/08/08(金) 23:03:13 ID:JEBcT/Dg0

リハ*゚-゚リ「ところでさ、それ、何?」

(´・ω・`)「……あ、そうだ。忘れてた」

デンファレの花束を抱えていた左手ではなく、未だに塞がったままの右手を指差す。
彼は少し慌てて、ずっと持っていた細長い箱の中身を露にした。
中から現れたのは、さっき渡されたデンファレに負けないほどに白い、純白の傘であった。

(´・ω・`)「今年の誕プレ、日傘にしたんだ。めちゃくちゃ涼しくて人気らしい」

笑みを浮かべた彼は「手に入れるの結構苦労したんだぞ」と言いながら、私の眼の前で日傘を広げてみせる。
花火が散るみたいにパッと開いたその日傘は、梅雨前に咲く白のアザレアを彷彿とさせた。
裏地は深い黒に染まっていて、見た目のファッション性に気を遣いながらも日光を遮る機能性は全く損なわれていない。

浅学な私でも一目で分かる、良い日傘。
日焼け対策になんて全く関心のないであろう彼がこの一本を選ぶのに、どれだけの時間をかけたんだろう。
沢山ネットで調べたんだろうか。沢山お店を周ったんだろうか。それとも、よく話に出てくる同僚さんにまたアドバイスを貰ったんだろうか。
日傘を広げて笑う彼に「ありがとう」と呟く。
罪悪感と申し訳なさの影に、隠しきれない嬉しさが籠ってしまっているのが自分でも分かった。

625名無しさん:2025/08/08(金) 23:04:13 ID:JEBcT/Dg0

(´・ω・`)「まぁ、ここに置いていく訳にもいかないし、今日の夜にまたお前の部屋に置きに行くよ」

リハ* - リ「………うん」

日傘を丁寧に片付ける彼の姿を見ながら、私は今の自分の部屋がどうなっているのかと考える。
私の勉強机はあのままなのだろうか。授業や部活、趣味で描いた絵は手つかずなのだろうか。
両親は私の物をまだ捨てていないのだろうか。
彼が毎年くれる誕生日プレゼントは、埃を被ってしまっているのだろうか。

626名無しさん:2025/08/08(金) 23:05:18 ID:JEBcT/Dg0

リハ* - リ「ショボン」

幼馴染の名前を呼ぶ。

リハ* - リ「もういいよ」

(´・ω・`)「贅沢を言うなら、ここにケーキとか持って来たいんだけどな。山の下にパティスリーとか出来ねぇかな」

リハ* Д リ「もういいんだよ」

彼は私の呼びかけには応えず、さっきまでとは全く違う内容の話を始めた。

627名無しさん:2025/08/08(金) 23:05:59 ID:JEBcT/Dg0

(´・ω・`)「来年は何を持ってこようか。ネットで調べてみても中々良いのがヒットしないんだよな」

リハ* - リ「何も要らないよ。変に高いの買ったりしないでさ、君自身のためにお金を使いなよ。ほら、旅行とかさ」

(´・ω・`)「それと、山の下の駅、いつICカード使えるようになるんだろうな? 切符買うの結構めんどいんだよな」

リハ* - リ「便利になんてならなくていいよ。そもそも、君がまだここに来る必要なんてないんだよ」

(´・ω・`)「また年が離れたな。お前から見たら、もう俺はオッサンだったりすんのかな」

リハ* - リ「変わらないよ。私が知ってる君のままだよ。でも、変わらないのがダメなんだよ」

必死に声をかける。それでも会話はかみ合わない。
真っ直ぐに彼を見る。なのに視線は交わらない。
触れようと手を伸ばす。けれど君の体温は分からない。

(´・ω・`)「いつ来ても、ここは静かでいいな。他に誰もいないから、気兼ねなくお前とゆっくり話せる」

(´・ω・`)「……まぁ、それもそうか。ほとんどの人は来週なんだろうし」

何も聞こえない。何も伝わらない。
この十年、私が口にした言葉は何一つ、一言だって彼に渡せたことはない。

だって、だって私は。

628名無しさん:2025/08/08(金) 23:06:32 ID:JEBcT/Dg0

(´・ω・`)「墓参りって普通、盆とか命日に来るもんだしなぁ」

リハ* - リ


――だって、私は幽霊だから。

629名無しさん:2025/08/08(金) 23:07:00 ID:JEBcT/Dg0

あなたにとって、今日は一体何の日でしょうか。

只の平日でしょうか。
小さい頃、初めて逆上がりが出来た日でしょうか。
学生の頃、一生懸命描いた絵が認められなくて、悔しい思いをした日でしょうか。
大人になった今では、いつも通り仕事に行かなきゃいけない日でしょうか。

どんな日でも、誰かにとっては記念日だろうし、最悪な日だろうし、何でもない日に違いないでしょう。
あなたにとってはどうでしょうか。
良い日でしょうか。嫌な日でしょうか。思い出のある日でしょうか。

少なくとも、私にとっての今日は。
いつも通り、とっても平凡な普通の日で。
そして。



そして、私の誕生日でした。



.

630名無しさん:2025/08/08(金) 23:07:49 ID:JEBcT/Dg0

そうです。誕生日です。
私の誕生日です。
私の誕生日、だったのです。

(´・ω・`)「あ、そうそう。また言うのが遅れたな」

「言わないで」
喉が張り裂けそうになるほどに力を入れて叫ぶ。
裂帛なんて例えでは足りないぐらいに吠える。
それでも。何を言っても。君はまた、今年も。

(´・ω・`)「……誕生日おめでとう、アイシス」

泣きそうな顔でまた、私を祝ってしまうのだ。

631名無しさん:2025/08/08(金) 23:08:14 ID:JEBcT/Dg0

リハ* - リ「……違うよ、ショボン」

リハ* - リ「もう、違うんだよ」

震える声をなんとか言葉にする。
なくなった心臓が生きていた頃より痛む。眼球が割れそうなほどに潤む。
それでも涙は出ない。声も届かない。私の影は、足元の白いデンファレを遮らない。

私の誕生日『だった』んだよ。
過去形だよ。昔の話だよ。今はもう違うんだよ。
十年前のあの日から、今日はもう、私の誕生日ではないんだよ。

もう君以外誰も覚えてないかもしれないけど、それでいいんだよ。
他の全人類にとってだけじゃなくて、君自身にとっても、今日は何でもない日なんだよ。
今日なんて、祝う意味も、価値も、とっくの昔にないんだよ。

だから、そんな泣きそうな顔で、「おめでとう」なんて言わないでよ。

632名無しさん:2025/08/08(金) 23:08:55 ID:JEBcT/Dg0

君に触れることも出来ない両手で顔を覆う。涙なんて一滴も出やしないのに。
日傘が納められた箱を見る。
私が亡くなってから、君がここに見せに来てくれた誕生日プレゼントの思い出が、泡みたいに瞼の裏に溢れてくる。

十九の時は、私の手じゃ抱えきれないくらい大きな花束だった。
ここまで持って来て、後処理はどうしようって困った君の顔に呆れたけど、それ以上に嬉しかった。

二十歳の時は振袖だった。
こんな山の上のお墓まで大きなスーツケースを持って来て、自慢げに広げられた綺麗な振袖を、今でも鮮明に覚えている。

その次の年は、お酒だった。
君の方が誕生日が数ヶ月遅いから、その前じゃ飲めなかったんだよね。
誰も見ていないのに律儀に法律を守る君の姿が、いつの間にか随分と真面目になっていた君が面白くて、笑っちゃったことを覚えている。

それだけじゃない。全部だ。
一昨年くれたお洒落な万年筆も、去年くれた綺麗な水色の鞄も、全部、全部覚えてるんだ。

633名無しさん:2025/08/08(金) 23:09:30 ID:JEBcT/Dg0

前に君は「今まで何もしてやれなかった」なんて言ってたけど、それは君の勘違いだ。

きっと君は知らないだろう。
小学生の頃、帰り道にぼそっと「おめでとう」と言われただけで、私がどれだけ舞い上がっていたのか。
中学生の頃、君から貰った花の栞をどれだけ大事に使っていたのか。
高校生の頃、君に誘われていった遊園地で渡されたぬいぐるみを、どれだけ丁寧に扱っていたのか。

リハ* Д リ「もう、要らないよ。本当になにも……なんにも、要らないんだよ!」

どんなに叫んでも伝わらない。
私が本当に知らせたかったことは何も届かない。

君に教えたかったのは、花束の値段なんかじゃなかったのに。
君の隣を歩ければそれだけで。本当に、それだけでよかったのに。

634名無しさん:2025/08/08(金) 23:10:10 ID:JEBcT/Dg0

リハ* - リ「ごめんね……ごめん、ね」

リハ* - リ「何も出来なくて、言えなくて」

リハ*;-;リ「死んじゃって、ごめん」

彼の話を遮りながら、届きもしない無意味な謝辞を並べる。
涙の代わりの無価値な謝罪が、夏風に吹かれて消える。
重力なんかよりずっと重い罪悪感が、ズシリと胸の奧を圧迫する。

あぁ、ブーンさんが羨ましい。
あの人のように、足のない幽霊になれたなら、私もどこかへ飛んで行けるのに。
こんな所で未練がましく待つような、そんな悪霊にならずに済んだかもしれないのに。

ないものねだりをする自分にまた嫌気が差す。
そんな高尚な思い、私の中にある訳がない。
もし私が自由に飛んで行けるなら、ずっと彼に四六時中纏わりつく悪霊になっていたに違いないのに。

635名無しさん:2025/08/08(金) 23:11:07 ID:JEBcT/Dg0

私のお墓の前に供えられた花束を見る。
花になんてまるで興味のなかった彼が、今では毎年持って来てくれる花。
私が一番好きだった花。君に一番似合うと思っていた、デンファレ。

色を変えてきたのは、花が綺麗だって分かってくれたからかな。
それとも、もしかして、花言葉までちゃんと調べてきてくれたのかな。

自分に都合が良すぎる妄想が溢れてくる。
罪悪感が、喜びに上塗りされていく。

全部本心だ。
申し訳なく思っている。もうここに来ないでくれと願っている。君が私を忘れて、幸せになってくれることを心から祈っている。

だけど、それでも、それ以上に、こんなに年月が経ってもまだ。
まだ、君が私のことを覚えてくれていることが。毎年会いに来てくれることが。
デンファレの花束を持ってきてくれることが、何よりも嬉しくって仕方がないのだ。

636名無しさん:2025/08/08(金) 23:11:44 ID:JEBcT/Dg0

じっと彼の話を聞き続ける。
日は茜色に代わり、黄昏時に夜のとばりが落ち、霊園が閉まる時間がやってくる。
例年通り、時が来たことを察した彼は、ゆっくりと名残惜しそうに立ち上がる。

彼の手が墓石をゆっくりと撫でる。
私もまた、その上にそっと自分の掌を重ねる。
彼の手の温度も、自分の墓石の冷たさも、何一つ分からない。

去っていく彼の背中を見る。
小学五年生で抜かされて、そのまま差をつけられてしまった大きな背中が、だんだんと小さくなっていく。

明日からまた、365日を数える日が始まる。
今年は確か閏年ではなかったはずだから、一日分マシだけれど。

供えられたままの花束を抱え込む。
デンファレの白い花弁が、夜空に浮かぶ満月の光に照らされて、宝石のように輝いて見える。
来年はどんな色のデンファレを見せてくれるのだろうかと、もう心を躍らせている自分がいる。

637名無しさん:2025/08/08(金) 23:12:24 ID:JEBcT/Dg0

今日は、私の誕生日だった日。
今では何でもない、普通の日。

分かっている。理解している。
そうでなければならないと思っている。


……それでも。

638名無しさん:2025/08/08(金) 23:12:48 ID:JEBcT/Dg0

このお墓に供えられるデンファレが100本になっても。
君から貰うプレゼントが100個目になっても。
君と話せなくなってから100年経っても。

いつまでもずっと。
きっと、私は。

639名無しさん:2025/08/08(金) 23:13:14 ID:JEBcT/Dg0



――君のことが大好きです。



.

640名無しさん:2025/08/08(金) 23:14:08 ID:JEBcT/Dg0


『デンファレを望むようです』


〜おしまい〜

641名無しさん:2025/08/08(金) 23:14:22 ID:cDud4xbw0
流石に怖い

642名無しさん:2025/08/08(金) 23:16:23 ID:JEBcT/Dg0
本編 >>611-640

投下終わりました。
読んでいただき、ありがとうございました。

643名無しさん:2025/08/09(土) 21:26:02 ID:/dVJ0mf.0
乙!

644名無しさん:2025/08/11(月) 16:27:16 ID:6j6i4lsQ0
情景と心理描写がうまいので幽霊なのは早めに察せたからそこからもうひとつ何か欲しかった

645名無しさん:2025/08/15(金) 22:25:22 ID:FViFLrNA0
夏といえばな作品教えてくれ

646名無しさん:2025/08/15(金) 22:30:38 ID:l7BZRmoY0
学校で化け物?に追い回されるんだけど、すがる思いで親にかけた電話がオチになるやつ

647名無しさん:2025/08/15(金) 22:47:53 ID:FViFLrNA0
>>646
気になりすぎるだろ
教えてくれさい

648名無しさん:2025/08/15(金) 22:48:58 ID:1Ie..OtY0
>>646

夜の校舎のようです
http://mzkzboon.blog.fc2.com/blog-entry-909.html

これかな?

649名無しさん:2025/08/15(金) 23:11:41 ID:FViFLrNA0
>>648
ブーン系のプロの方?
ありがとうございます

650名無しさん:2025/08/15(金) 23:29:48 ID:l7BZRmoY0
>>648
ありがとう
2013年で白目剥いた


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