[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
101回目の朝のようです
1
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:19:41 ID:ZZM8c3lE0
オレンジデー祭参加作品
※同性同士の恋愛になります。閲覧にご注意下さい。
.
102
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:18:12 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「明日さあ、こっからのほうが近いから泊ってもいい?」
わりと話し込んだ後のこと。そういえば言うのを忘れていたなと思い出して尋ねた。
これは下心があるわけではなくて、本当の話だった。いや何かしら進展があれば良いとは思うけど、きっと何もできないだろうさ、最初なんて。
断られると思っていなかったので、モララーの丸い目が揺れたことに焦った。
爪;'ー`)「なんかまずかった?」
( ・∀・)「や、大丈夫、だけど。あ、待って布団一組しかねぇよ」
爪'ー`)「いーよ別に」
爪;'ー`)(布団のこと考えてなかった!いいよって言ったけど良いのか?本当に?)
爪;'ー`)(でもモララーも泊まって良いって言った、ってことは、何だ?何とも思ってないのか、それとも)
爪;'ー`)(わかんねー。とりあえず普通にしてよ。一緒の布団入るの意識してんのダサすぎる)
103
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:18:59 ID:ppuPCi7c0
普通を徹底しようと出前を提案して、スマホを覗く。視線を感じてそちらを向けばモララーがじっと見ていた。
爪'ー`)
( ・∀・)
何かを問うように膜の張った目がこっちを伺っている。
手を重ねるとそれに対して何か言いそうにしていた。
その前にでこをコツンと当てて、口と口をくっつける、寸前で顔を離した。
104
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:19:32 ID:ppuPCi7c0
(;*・∀・)「いま、の」
爪'ー`)「初めて、それらしいことしてみたけど」
(;*・∀・)「いちいち口に出すなよ…」
爪;*'ー`)「モララーがじっと見てくるからさぁ」
105
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:20:00 ID:ppuPCi7c0
普通にすると言っておきながら我慢が出来なかった。真っ直ぐ見つめられたら良いのかなって思うだろ、仕方ないじゃん。言い訳をしながら一気に熱くなった頬を冷まそうと手で仰ぐ。くっつけてしまえばよかったけど、モララーがどういうつもりだったかわからなかったので最後の理性で止めた。
モララーの顔が朱色に染まっているだけでも満足ではあった。
(;*・∀・)「フォ、フォックスは慣れてるだろーけど、俺はそんな、慣れてないんだよ」
爪;'ー`)(あ、やっぱそうなんだ)
モララーは友人同士であっても性的な話を苦手としていた。下ネタがダメなタイプ。キスだセックスだ、いくつになっても話が出るたびに顔を真っ赤にして逃げていたのを見るたび、今日日中学生だってそんなに照れないだろうと思っていた。
たまに彼女が出来ているのを知ってはいたが、それでどこまで行為が進んだだのいう事は教えてもらえずだった。
爪;'ー`)(そういうの苦手そうだとは思ってたけど、やっぱり今日はそういうお誘いじゃなかったわけね)
爪'ー`)(まぁ、焦る必要ないし、じっくり行きゃいいさ)
106
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:20:25 ID:ppuPCi7c0
初めてモララーの家に行ってから何ヶ月か経つ頃、その間も何度か家に行くようになった。
爪'ー`)「今日行っていい?」
( ・∀・)「いいよ」
毎回聞いていた。
いつか、もしいつか一緒に住むようになったら聞けなくなってしまう言葉だから。
107
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:20:56 ID:ppuPCi7c0
俺はどちらかというと臆病だった。
ほしくてたまらないものがあったとして、手に入れられたあと無くしてしまったり壊れてしまうのが怖くて、それならいっそ手に入れない方がいいと思うくらいには臆病なのだ。だからいつも本当に欲しいと思ったものはなるべく手を出さないようにしてきた。
唯一手に入れたのは音楽ぐらい。
だからモララーと付き合えるって、本当は心の底から嬉しくて仕方がなかったくせに、余裕のなさだとかを見られたくなくていつも通りの『普通』を徹底するようにした。特にモララーがキスやそれ以上のことを意識しているのがわかったから、大丈夫になってからする、とだけ伝えた。いつになるかわからないけど、別にいつまででも待てるさ。
無くなる方が怖い。
嫌われるのは怖い。
好きだと言ったのは確かにあいつで、受け取ったのは俺だけど、もしそれがモララーの勘違いだったり、俺の好きとは違ったらどうしよう。
モララーがそれに気づいてしまったらと考えて苦しくなった。ずっとそのことに気が付かないでほしくて、好きだと口に出して言えたことは無い。
ずっと卑怯だったのだ、俺は。
108
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:21:22 ID:ppuPCi7c0
モララーが謎のハンドシェイクを求めた時、あいつがじっと俺の目を見て何か言いたそうにした事も気付いていたけど、また空振りするのが怖くて、間違えないように避けた。
いつもはモララーが先に寝るけれど、その時は誤魔化すように先に眠った。
次の朝にカーテンを開けるモララーを見て、泣きたくなるような、なんとも言えない気持ちになった。眩しくて、愛おしくて、ずっとこのままなら良いのに。そんなわけにもいかないくせに。
109
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:21:44 ID:ppuPCi7c0
そのあとの事だ。
爪'ー`)「モララー、誕生日何欲しい?」
( ・∀・)「……」
( ・∀・)「おれ、……フォックスが大事だよ」
モララーは俺の顔を見て少しだけ笑って、おれら終わりにしようか、と言った。
静かな、朝になる時間帯。眩しい光が差し込んで来ていたのに、あれだけ眩しかったはずなのに。
110
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:22:07 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)(嫌だ)
爪'ー`)(無くしたくない)
爪'ー`)(でも)
俺はこいつに何かしてあげたか?
貰ってばかりで、何もしてこなかった。
爪'ー`)(俺は幸せだったけど、俺じゃモララーを幸せには出来ないんじゃ、ないか)
爪-ー-)
爪'ー`)「…………うん」
111
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:22:35 ID:ppuPCi7c0
情け無い事に俺は頷くことしか出来なかった。モララーが本心で言っているとわかったし、それに対して弁明できるほど俺は何もしてこなかったし、何も言ってこなかったから。あいつが俺を大事だと言ってくれるなら、俺はそれを大事にするしかない。
そう思って、返事をした。
これが俺とモララーの終わった話。
いつ思い出しても拙く幼い、恋のなり損ないのような関係だった。
.
112
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:23:01 ID:ppuPCi7c0
+ + +
爪;'ー`)「…」
今日の会議にモララーはいなかったはずだ。
不在を確かめてから参加を決めるなんてよっぽど最低だと、自分でも思う。
でも今のメンタルで会いたくない、絶対に。まじまじと過去の苦すぎる出来事を思い返してしまい、変に意識してしまう、絶対。
と言ってもいつまでも会わないという事はできない。同じバンドのメンバーだし。
早くこの感情を飲み込んでしまわないといけないのだ。
113
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:23:26 ID:ppuPCi7c0
( ゚∋゚)「顔やばいぞフォックス」
爪'ー`)「知ってる。イケメンでしょ」
クックルはいた。別にいる事は悪くないが、そもそもクックルの口から聞いたことが原因だしなと少し思い出して刺々しくなってしまう。
( ゚∋゚)「隈がなけりゃもっとイケメンだよ、どうしたの」
爪'ー`)「……何だろう、ねー」
114
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:23:49 ID:ppuPCi7c0
自分でもどうしたのかわかっていない。たかだか昔付き合っていたやつが結婚するって聞いただけ。それだけ。元カノが3児の母になっているって聞いた時はこんな気持ちになったんだっけ?覚えていないけど、ここまでじゃなかった気がする。
お前そんなところまで特別である必要、ないんだぜ。溜息を吐きかけて、余計な心配を増やさないよう深呼吸に変えた。
誤魔化しながらポットに入ったコーヒーを紙コップに注ごうとして、止められる。
( ゚∋゚)「カフェイン摂るのやめとけって。ルイボスティーでも淹れてやろうか」
こいつが一時期ハマって水筒に入れて持ってきていた事を知っているから、あながち本気かもしれない。
熱し易く冷め易いんだと言っていたが、好きになれるものが多いのはすごい事だよなぁと思っている。言ってやったことはないが。
115
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:24:13 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「クックルお母さんみたいだな」
( ゚∋゚)「そんな顔色してるやつ目の前にいたらだれでもこうなるっての。モララーいなくて良かったな」
一瞬、見透かされたのかと思って顔をあげた。
クックルの眼には情けない顔のやつが映っている。俺か。
こいつとも長い付き合いだけれど、モララーとの関係は言わなかった。3人のバンドでそんな申し訳ない事言えるわけがない。若い頃の遅刻癖とか女癖とかで苦労はさせられてきた相手ではあるが、同じくらい苦労も共にしてきた相手だ。気を遣われるかネタにされるかのどちらかなら黙っているのが賢明だ。
爪'ー`)(吐き出せば少しは楽になんのかな……もうわからなすぎてどうでもいい気持ちが大きいかも)
116
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:26:11 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「……あのさぁ……知らない話していい?」
( ゚∋゚)「駄目って言えないでしょ、この状況で」
酷く嫌そうな表情で、聞いてやるからさっさと話せとハンドサインを向けられる。
なんだかんだ聞いてくれるから優しいのだ、この男は。
爪'ー`)「……昔付き合ってた人が結婚するらしいんだけど、俺それに傷ついてるっぽい」
( ゚∋゚)「うわあ不健全。未練がましい。フォックスわりと重いよね頭軽いのに」
爪;'ー`)「うっせ」
( ゚∋゚)「あっ、もしかしてここしばらく彼女作らなかったのってそいつに未練たらたらだったからか!」
爪;'ー`)「デリカシーないなあ!」
前言撤回する。
( ゚∋゚)「話してみたら?いやコンタクト取れんのか知らないけど、フォックスの中で区切りがついてないなら、話して潔く諦めりゃ良い」
爪'ー`)「何をいまさらって思われないかな」
( ゚∋゚)「しらねーよ、お前が良く分かってんじゃないの、相手のこと」
爪'ー`)「………」
117
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:26:54 ID:ppuPCi7c0
水を飲み干して床を見つめる。
わかっているんだろうか、俺は、あいつのこと。
わかってないから、何も言わなかったから──。
( ゚∋゚)「フォックス結構、馬鹿みたいに色々考えるくせに口に出さないとこあるでしょ」
爪'ー`)「馬鹿みたいは余計。確かに言ってなかった、けど」
( ゚∋゚)「相手は今お前が未練たらたらなのも、付き合ってた時どう思ってたかも知らないんじゃない」
爪;'ー`)「だってかっこ悪いじゃんよ…」
( ゚∋゚)「お前のかっこ悪いとこ見て幻滅するような相手だったの?趣味悪〜」
( ゚∋゚)「お前がそんだけ気にする相手なんだから結構なやつなんじゃないの、知らんけど。じゃあちょっとぐらいかっこ悪いとこ見せたって気にしないと思うけどね」
爪'ー`)「クックル…」
思わず胸がほんのり熱くなってしまう。口の悪いやつだがやはり仲間思いの優しい男だ。
( ゚∋゚)「まぁもう別れてるし結婚する相手だけどな」
爪;'ー`)「お前まじで優しくないな!?」
118
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:27:42 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)(まぁでも、話してないな)
別れてから結構経つが、気まずさも忘れるくらい忙しくていつの間にか元の、ただの友人で仕事仲間に戻っていた。その方がモララーにとっても良いのかもしれない、と言い聞かせるようにして、その実自分が考えることを放棄していただけだ。
爪'ー`)(…するかぁ?今……)
クックルの言う事は一理あるが、それにしたって急というか唐突過ぎやしないだろうか。
ああまた考えて何もしないでいる。でも脈略がなさすぎるのもどうよって思うじゃん。
( ゚∋゚)「あ」
爪;'ー`)「ん?」
( ゚∋゚)「いやぜんぜん関係ない話だけど、モララー引越し準備やっと終わり見えてきたんだってさっき連絡来たから、差し入れ持ってってやってよ。俺いけないから」
爪'ー`)「……」
( ゚∋゚)「何」
爪'ー`)「クックルさぁ…愛してる」
( ゚∋゚)「きしょ。言う相手間違えてんなよ」
ばっさりツッコミが入る。空になった紙コップをクックルが取り上げて捨ててくれた。行動は優しいのに言葉は冷たい。
これはこれで本音なんだけど、と言おうとして見たクックルの顔があまりに嫌すぎると物語っていたので、何十周年かのアニバーサリーイヤーまで言うの取っておこうと、笑うだけに留めた。
119
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:28:07 ID:ppuPCi7c0
+ + + +
(;@∀@)「ふぇー、つかれたな」
ようやく終わりの兆しが見えてきた。あらかた箱詰めは終わった。台所用品にガムテープをすれば完璧だ。
荷造りって頭も使うんだな。明日仕事終わったらきっともう体力無くなっているだろうから今日終わらせらて良かった。
(;@∀@)(夜飯……出前頼むかなぁ)
ピンポン。
簡単なチャイムが鳴る。
クックルかなとカメラを覗いて見れば丸い頭が映っていて、俺は「え」と夜にふさわしく無い声量を出してしまった。
120
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:28:39 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「おつかれ」
(;@∀@)「お、おつかれ……えー、来てくれたのは嬉しいんだけど、えっ、どうしたの?あの、うち引越しするから今なんにも無くてですね」
鍵を開けてドアも開けた先にいたのはまごう事なくフォックスだった。
幻覚でも妄想でも無いなら言っておかねばと白状する。ちょうど箱詰めの作業を終えたばかりのこの家には酒も何も無い。クックルに終わったから褒めてくれよとウザ絡みの連絡はいれたが、こんな差し入れされたのは初めてだ。
爪'ー`)「知ってるよ、クックルから聞いた。んでピザと酒持ってきた」
(-@∀@)「え、あ、ええ…ありがとうございます…?」
爪'ー`)「いや本当に感謝して、タクシーのおじさんに。めちゃくちゃ申し訳なかった」
(;@∀@)「うわ!わざわざ買ってこなくても出前すりゃよかったのに!や、玄関で話すことじゃないな。上がって、マジであの、スリッパしまっちゃって」
爪'ー`)「うん、お邪魔します」
(;*@∀@)「……」
久しぶりに聞いたその言葉が、ほんのちょこっと嬉しかったのは内緒だ。
121
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:29:04 ID:ppuPCi7c0
家具はギリギリあったので良かった。ソファーに腰掛けて、持ってきてくれた酒を開ける。じっとこちらを見つめているフォックスと目が合って、へにゃりと笑ってしまった。
(-@∀@)「そういえば体調大丈夫なの?」
爪'ー`)「うん、元気。今なら20キロ軽く走れる」
(-@∀@)「それは何より」
目の下に隈が見えたけど、きっと触れてほしくないんだろうなと軽く流した。あまり飲ませない方がいいかもしれない。どの立場でそんな事って、同じバンドのメンバーとしてならいいだろ。
カチンと缶をぶつける。かんぱい、と言った後豪快な嚥下音が聞こえた。
爪'ー`)「久しぶり」
(-@∀@)「会ってんじゃん、なんだよ酔ってんのかよ」
122
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:29:25 ID:ppuPCi7c0
フォックスはなんか、ふわふわしているように見えた。
久々にうちにいるフォックスを見るから、俺も少し浮かれてそう見えているだけかもしれないけど。
別れて月日が過ぎているのに、一緒にいることが嬉しいと思ってしまうんだ、俺。
駄目だなあ。あのグラスを見つけて昔のことを思い出したから余計なのかも。
爪'ー`)「眼鏡かけてるモララー久々に見たなって」
(-@∀@)「あー。ずっとコンタクトだったもんね。や、しまっちゃったんだよね。でもってどこに入れたかわからないの」
爪'ー`)「ははは」
123
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:29:53 ID:ppuPCi7c0
はぁ、と息が漏れたのが聞こえた。多分溜息とかじゃなくて、深呼吸みたいな、気持ちを落ち着かせるための息みたいだった。フォックスの顔を見る。目が、優しい色をしている。ぎくり、でもなくどきり、でもない、心臓か身体が変な跳ね方をした。怖いわけではないのに、何か見てはいけない気がしてパッと視線を外した。
爪'ー`)「あのさ、えーっと。なんていうか、話していい?」
(;@∀@)「ええ、改まって何さ。なんか怖いからやだな」
爪'ー`)「なんだよ、 聞けよ俺の話」
(-@∀@)「早く話せよ酔っ払いめ」
爪'ー`)「あのさあ、最近ずっと夢見んの」
爪'ー`)「あの頃の夢で、起きたらモララーはいなくて、そんでがっくりしてる、朝から」
ごくんって音が響いた。
想像していたような話とは全く違う方面の内容だったから、情報が耳から入って頭が理解するまでに時間がかかって、耳鳴りすらした。
嚥下音よりも心臓がうるさくて、小さく笑う君の声が聞きたいのに聞こえない。胸の奥に靄が広がるようだった。
124
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:30:19 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「ずっと後悔してる。あの時何で泣いて嫌だって言わなかったのかって」
フォックスが言っている『あの頃』や『あの時』が、俺が思っているのと同じか確証はなかった。俺がこの間思い出していた時と一緒なんだろうか。
もしそうなら、そうだとしたら、フォックス、今何の話をしてるんだ。
(;@∀@)「……だっ、」
(;@∀@)「だって、そんな、フォックスは俺に付き合ってくれてただけでしょう」
思いの外裏返った声が出てしまったけど、誰も笑わない。フォックスは眉間に皺を作って、変な顔になった。
爪'ー`)「俺そんな残酷なこと、しないよ」
(;@∀@)「でも」
爪'ー`)「俺は、モララーが」
125
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:30:44 ID:ppuPCi7c0
(;@∀@)「待っ、 フォックス酒こぼしてる」
爪;'ー`)「え?あ、うわ」
何か冷たいものが手にかかった。見ればフォックスが持っている缶ビールだった。
傾いていた彼の手をグイと持ち上げて缶を取る。結構な量が何も敷かれていない床に広がって、アルコール特有の匂いが漂った。
爪;'ー`)「ごめん」
(-@∀@)「や、フォックスがかかってなくて良かった」
酔っているのだろうか、酒は強いはずだが缶ビール一本で酔ったのか?
体調が良くなさそうだったし、それでかもしれない。
台所に布巾を取りに行ったが、それは先ほど段ボールに仕舞ったのだった。
何か拭くものあったかと辺りを見渡して、視界にチラッと青いグラスが入った。あれは彼のものだと頭が認識するより先に、口から言葉が出ていった。
(;@∀@)「あ。そう、あのさ、一応聞いておくけどあのグラス、どうする?」
テーブルにティッシュが置いてあったみたいでフォックスが拭いてくれていた。俺の言葉に頭を上げて、驚いたような、でもどこか嬉しそうな不思議な顔をしている。
126
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:31:10 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「……青い、きれいなやつ?まだ持ってたんだ」
(-@∀@)「そりゃ、捨てるもんでもないし……ずっとしまってたんだけど、お前がいらないならこのまま新居に持って行こうかなって。嫌だったら申し訳ないから聞いておきたくて」
爪'ー`)「嫌じゃない、っていうかむしろそれそっちが嫌なんじゃないの?大丈夫なの」
拭いたティッシュのゴミをわざわざ持ってきてくれた。ついでに手を洗わせる。
やはりフォックスをスリッパなしに歩かせるのは罪悪感がある。掃き掃除もしてないし時間が時間だったから掃除機もかけられなかったのだ。
(-@∀@)「大丈夫って?壊れたとかじゃないのに捨てる方が嫌なんだよ」
爪'ー`)「いや、モララーっていうか……相手、…」
爪;'ー`)「えー、もうさぁ聞いていい?ってか聞くね?どんな人?いつから?モララーから言ったの?付き合ってた人間が使ってたグラス新居に持って行くの許してくれるくらい良い人なの?」
127
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:31:38 ID:ppuPCi7c0
ずいとフォックスが突然近づいて怒涛の質問を浴びせてくる。
けれど何の話をしているのか、全くわからない。勢いに押されて混乱して、考えが追いつかない。
(;@∀@)「え、え、……何え??何、何の話になってるこれ」
爪;'ー`)「本当は俺だって聞きたく無かったよ、なかったけどさぁ!あんまりにもモララー言わないし、気になるじゃん…言いたくないならいいけど、いや、聞きたいわ。言ってよ」
(;@∀@)「や、マジで何の話?俺の知らない話題になってない?」
爪'ー`)「……誤魔化してる、わけじゃなくて本当にわかんない?」
(-@∀@)「わっ…かんない…」
128
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:32:04 ID:ppuPCi7c0
必死だ。フォックスもだし、俺も。どちらも真面目にわからない話をしている。
腕を組んで首を傾げても何もわからない。フォックスも同じように首を傾げている。
少し悩むような顔をしてから視線を床にやって、それから俺を捕らえた。
爪'ー`)「モララー、結婚すんでしょ」
自分から口にしたくはなかった、とでも言いたそうな目だった。ライブの時に見るような真剣な表情だからそっちに意識がいってしまってよくない。フォックスが言ったことを頭の中でゆっくり噛み砕いてみる。
結婚。
最近沢山聞くワードだ。
結婚?誰が?
今、主語を俺にしてなかったか?
129
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:32:25 ID:ppuPCi7c0
(-@∀@)「………んんんん……?…若干、その、違うな」
爪'ー`)「なにが」
(-@∀@)「結婚するけど俺じゃなくて、兄の話だよ」
爪'ー`)「は?」
(-@∀@)「うん」
.
130
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:32:55 ID:ppuPCi7c0
誰から何を聞いたのだろう。というかそんな噂が知らない間に飛び交っているのか?怖すぎる。俺やマネージャーやクックルとの会話が変に伝わっているのかもしれない。
見れば唸りながらフォックスが片手で顔を抑えてしゃがみ込んでしまったので、俺もつられてしゃがみ込む。
爪;∩ー`)「…………えっ、うぅそ、嘘、嘘でしょ?」
(-@∀@)「ほんとう」
爪∩ー`)「なにそれ、何?」
爪;∩ー`)「だっっっっさすぎない俺?勘違いでずっとこんな……嘘でしょ?」
(-@∀@)「申し訳ないけど嘘ではないよ、俺、そんなハッピーな話、これっぽっちもないので」
爪;∩ー∩)「はぁああああ何…なんだよそれまじでー?うーわ…あー…」
(-@∀@)「…ふっ」
131
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:33:18 ID:ppuPCi7c0
爪∩ー∩)「……笑ってんなよ…」
(*@∀@)「ははは、ついてないねフォックス」
爪∩ー∩)
俺も大概だけど、感情がジェットコースターのようになっていたフォックスに思わず笑ってしまう。両手で押さえた隙間から不服そうな目が覗いていて、思いっきり視線が合ったからまた笑った。
132
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:33:55 ID:ppuPCi7c0
爪∩ー`)
爪'ー`)
(*@∀@)
爪'ー`)「ふ」
爪'ー`)「さっき言いかけたけど」
(*@∀@)「ん?」
133
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:34:24 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「俺、お前が、モララーが好きだよ」
.
134
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:34:52 ID:ppuPCi7c0
ひゅ、と息を飲む。
それはずっと、ずっとずっと欲しかった言葉で。
(-@∀@)「 は 」
爪'ー`)「本当は、モララーが最初に言った時より前から好きだった。付き合えたのも嬉しかった」
爪'ー`)「もう今だいぶダサいから、ダサいついでに全部言うね、別れるってなった時本当はすっっっげぇ嫌だったの、俺」
(;@∀@)「や!だってそれこそお前、何も」
爪'ー`)「幸せになってほしかった、好きだから。って言うと免罪符になるわけじゃないけどさ。俺と一緒になるのは幸せじゃないんだって、幸せになれることはないんだと思ったんだよ。じゃあ離れた方がいいのかなってさ、言い訳だけど」
フォックスはじっと床を見ていた。床を見ながら静かに、話を続ける。
135
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:35:47 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「他のちゃんとした人と幸せになればいいって思ってたんだ。それはほんとう でもさ
実際モララーが結婚するって聞いて駄目だった俺、他の奴と幸せになんかなるなよって、最低でしょ」
わけもわからずただひたすらに、紡がれる言葉を必死に追って胸に拾いこんだ。
胸が苦しくて、息が難しくて、変に溜息にならないよう、あえて大きく息を吸い込んでからゆっくり吐き出す。
目がちかちかして心臓はライブ時と同じくらい、動いていた。
爪'ー`)「俺よりモララーのことを好きなやつじゃなきゃ渡してやりたくないんだけど、俺ね、モララーのことが好きな人間が100万人いたとして、その誰よりもお前の事好きな自信があるんだよ」
悪戯っぽく笑いながら、視線を下に向けるフォックスの表情を、俺は知っている。
照れている時に、それがばれないように平気な顔をするんだ。
俺はその顔がひそかに好きだった。
人間臭くて、完璧でいようとしている姿がいとおしくて。
136
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:36:29 ID:ppuPCi7c0
ばかだなあ、と口から出て、そのまま笑う。
(-@∀@)
( ・∀・)-@∩
( ・∀・)
( ;∀・)
( つ∀・)「ばかだフォックス、おれを支持する人間なんて100万人もいないよ。そんな、モノ好きさあ、いたとして今目の前にいる、おれが好きな1人ぐらいなんじゃねえの」
.
137
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:37:01 ID:ppuPCi7c0
ぼろっと、フォックスの頬を汗が転げ落ちて行ったのでそんなに暑かったかとエアコンのリモコンを取りに行きかけて気付く。
爪;ー`)
汗ではなく涙だ。
それは今まで一緒にいて一度たりとも見たことはなかった。
きれいな人は泣くときもきれいなのかと、つい感心してしまって思わずいじりそうになったがやめておいた。酒の席で涙腺が緩むことぐらい、俺だって何度もあるから。
だというのにフォックスは真顔で俺を指さして、「モララー、目からも鼻からも出ててすごいよ」といじってきたので小さな裏切りに会った気分になったのだった。
爪;ー`)「気づいたんだよ、お前の幸せは俺が決めることではないし、そもそも俺と一緒だと幸せになれないんじゃなくて、幸せに、なれるようすりゃいいんだよな」
フォックスは汚いと言って、自分のほうは気にせず俺の顔を自分のシャツの袖で拭いてくれた。
138
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:38:21 ID:ppuPCi7c0
( つ∀;)「いい年して、何してんだろうねおれら」
爪'ー`)「年関係ないだろ、こんな、すごい事」
( ;∀∩)「ははは」
爪'ー`)「あとね、いくつになっても俺、何してんだって言われるようなことしてたいな、お前と、あとクックルと」
( ⊃∀∩)"
( ・∀・)
( ・∀・)「一蓮托生だ」
爪'ー`)「道連れとも言う」
(*・∀・)「ははは」
爪*'ー`)「ふっ、はは」
139
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:39:15 ID:ppuPCi7c0
ひとしきり泣いて、それから笑った。
台所でしゃがみ込んで何を馬鹿なことしてんだろうね。ピザは冷めるし酒はこぼすし、荷造りまだ少し残ってるし、散々だ。散々なのにどこかすっきりしていて、今までずっとあった黒い雲が消え去ったような気持ちだった。
瞼がかぴかぴに乾いて重たい。
カーテンの奥が仄明るくなってきている。明日が、もう今日だけど、仕事が午後からで良かった。
眠気が一気にやってきて、それはフォックスも同じみたいだった。
( ・∀・)「なんて顔してんの」
爪'ー`)「だって、モララー眩しい」
( ・∀・)「朝だからでしょ」
眩ゆいとばかりに目を細めて、フォックスが笑っている。
俺じゃなくて明るいのは外だろう。
140
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:39:51 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「どうだろ、好きだからじゃん」
( ・∀・)「朝が?」
爪'ー`)「モララーが。好きな人って眩しく見えるじゃん」
( ・∀・)「……フォックス、付き合ってるときでさえ言わなかったじゃんよ。好きって、俺は100回くらい言ったのに」
100回は盛ったかもしれない。でもそれくらいの気持ちだから良いだろ。
何かが、そっと手の上に乗った。視線を向けるとフォックスの手が、俺の手の上に重なっている。
141
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:40:23 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「じゃあこれから101回言う」
( ・∀・)「プロポーズじゃん、それ」
爪'ー`)「そうだよ、プロポーズ。一生好きだから、それくらいの言葉」
手のひらの熱が、どちらのものかなんてもうわからない。やっぱりわからない事だらけだ、この人。
でも昔よりわかる事はずっとある。
優しい目が少しだけ恥ずかしそうな色を乗せていること。きっと今、照れているであろうこと。
( ・∀・)
じっと目を見つめていると、ごつんと長い前髪ごとでこにぶつかって、口が唇にくっついた。ぽかんとしている間に顔が離れて、してやったり顔をされる。
爪'ー`)「俺と、幸せになってくれる?」
( ・∀・)「……いま、もう、だいぶ幸せだけど」
爪'ー`)「そりゃ良かった」
142
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:40:48 ID:ppuPCi7c0
手をぎゅっと握られて、目の前がちかちかしている。夢じゃないんだ、これ。
夢じゃないんだこれ。
(;*・∀・)「夢じゃないよね?」
爪'ー`)「今から見るんだよ、もう寝よ」
(;*・∀・)「うん……あ、布団一組しかないけど」
爪'ー`)「十分」
143
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:41:59 ID:ppuPCi7c0
時明かりが部屋に入って、完全に朝になっていた。
そんな時間に布団に入り込むことの、なんと不健康なことか。こちらを向いて横になっているフォックスが口を開く。
爪'ー`)「やっぱ言わなきゃ駄目だったなぁ」
( ・∀・)「何?」
爪'ー`)「クックルサンキューって話」
( ・∀・)「よくわかんないけど、声でかいよ」
爪'ー`)「気持ちの分でかくなった」
信じられるか?何事もなかったみたいに、またフォックスがいる。隣にいるんだ。
これからまた付き合うかはわからないけど、それは起きてから話せばいい。
話す時間はいくらでもあるから。
( -∀・)「あ」
目を閉じかけて、そういえばと思い出したことがある。
( ・∀・)「……次のとこはさあ、防音すっごいちゃんとしてる、とこ、だよ」
爪'ー`)「へー」
144
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:42:28 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「行ってもいい?」
( ・∀・)
( ・∀・)「俺、お前にそう聞かれるの実は好きなのよ」
口の端を上げて笑えば、朝の眩しい光を受けながらフォックスも笑った。
145
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:42:57 ID:ppuPCi7c0
以上です。
ありがとうございました。
146
:
名無しさん
:2024/04/24(水) 05:46:55 ID:iARiRX9g0
乙乙
147
:
名無しさん
:2024/04/24(水) 08:11:05 ID:EHUZi5h.0
乙
148
:
名無しさん
:2024/04/24(水) 20:56:49 ID:qgYl1tj60
良かった。乙
149
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 10:51:15 ID:sSwboVec0
眩しいの良いな
150
:
名無しさん
:2024/04/26(金) 17:38:31 ID:sX7KusaU0
乙乙!
内心の描写がとても良いから前半は自分をモララーだと思いこんでいる一般人になり、中盤は自分をフォックスだと思いこんでいる一般人になって、後半はもう二人に激しく切り替わる一般人になったけど、二人が幸せならOKです!ハッピー!
151
:
名無しさん
:2024/04/28(日) 21:08:46 ID:wCXQloUY0
乙
素敵な話だった
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板