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101回目の朝のようです
1
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:19:41 ID:ZZM8c3lE0
オレンジデー祭参加作品
※同性同士の恋愛になります。閲覧にご注意下さい。
.
2
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:20:24 ID:p1tQcb020
引っ越しをしようと思い立ったのは、晴れやかな心機一転だとか、そんなことはまったくもってなく、更新日をきっかけとしたただの思い付き。
前回の更新日はツアーだの仕事が重なりまくってめんどくささが勝ったが、今回はエアポケットのような休みがあったのでちょうどよかったのだ。
次の転居先はあっという間に決まった。
職場に近い、防音とセキュリティーに優れた場所は空きが少ない。引っ越しシーズンではないから尚更だと不動産屋が言っていた。じゃあここで良いかと、何とは無しに一軒目で決めた。
( ・∀・)(別に、投げやりなんかじゃないさ)
引っ越し予定日まで余裕があるが、いつ急な用事が入っても良いように午後の仕事まではと箱詰めに勤しむ。
( ・∀・)(次は服しまおうかね、そんなにないけど)
3
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:20:52 ID:kSwb8uUc0
そろそろ夏も終わりかけ、うだるような暑さもなくなり、バンドのメンバーなんかは袖の長い服を着始める時期になる。
秋は一瞬でいなくなってしまうわりに名残惜しさを残さないところが嫌いではないが、やはり夏が好きすぎる。
自分は洋服類をそんなに持ち合わせてはおらず、袖が長いか短いか、おおよそパーカーかTシャツが数点あるくらいなのでそこまで時間はかからない。
( ・∀・)「……この家ともお別れかぁ」
4年も住んだ家への愛着を思って感傷に浸りながら、いるものと要らないものを分別する。
基本はいる、大体いる。
けれどそれでは一生終わらないので泣く泣く分別している。BGMでも流せばよかったのかもしれないが、それだと集中力がどこかへ行ったきり帰ってこないのでやめておいた。
箱詰めも業者に頼むプランがあったが、私物をなるべく見られたくないので自分がどうにかするしか無いのだ。
ちょくちょく引っ越しをしているらしい友人に詰め込み作業のコツを聞いたが、どうにも詰め込むところまで行かない。物が多すぎるのが問題なのかしらと恐らく花丸満点大正解な回答を出すだけ出して、わざわざそこから目をそらす。
4
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:21:14 ID:lMScufl20
( ・∀・)「台所は引っ越し前日でもいいだろーけど、少しぐらい片付けとくかなぁ」
めったに開けないキャビネットに手を伸ばして、そういえばなんでこのキャビネット使ってなかったんだっけと思いながら、ああそういえばと。
( ・∀・)つⅡ
( ・∀・)(──ああ、そうだった)
.
5
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:21:43 ID:6zBiiWNg0
キャビネットの奥に隠すように置いてあるグラスを見つけてなんとも言えない苦い気持ちになる。埃はそこまで被っていないが、久々に開けたキャビネットの籠った匂いが鼻を擽った。
グラスを手に取って溜息のなり損ないのような息を吐く。
これは自分のものではない。
バンドのメンバーであり、学生時代からの友人、フォックスのものだった。
今はもう、この家に来ることはない。昔は彼用のグラスを置いておくぐらいよく来ていたのに。
( ・∀・)(毎日のように会ってるのに、あの時あんな苦しかったのに)
( ・∀・)「少し忘れてた、な」
俺と彼は、お付き合いをしていたことがあるのだ、昔。
.
6
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:22:09 ID:VqWyv0dM0
日本語とは便利なもので、本当にその言葉のとおり、こちらのわがままにつきあわせただけの、短い付き合い。
始めたのはこちらからで、終わらせたのも俺だった。
( ・∀・)(何が、どうだったか)
思い出そうとすると薄くて白い靄がぼんやり掛かって邪魔をする。
( -∀-)
.
7
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:22:34 ID:120cE6Y20
フォックスとは中学の時、席が前後になって話すようになり、それから好きなバンドがいくつか同じことから一緒にライブに行くようになった。同じ高校に進学して軽音やってた流れで、共に音楽を生業にしている。
運が良かったんだ、俺ら。それだけ長い間一緒に居て飽きもせずに楽器を鳴らして。楽しかった。『音楽』が好きと言うには一匙足らず、多分、『あいつらとやる音楽』が好きなんだと思う。
いや曲が出来ないとか売れないとかそりゃ色々あったし楽しいことばっかじゃなかったけどさ。俺や仲間が曲作って一緒に演奏すんのは、やっぱり楽しい。人生のほとんどをそれに使えるなんて贅沢で有難い。
長年、そこに彼がいるのが当たり前ではあった。仕事仲間だし。
でもなんで付き合うなんてことになったんだっけ。
8
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:22:57 ID:y72rZVrY0
あの日は、そう、確か、俺がまだコンタクトをつけるのを渋っていた頃。
曲を作るためにフォックスに機材を借りようとして、じゃあ近くのカフェで待ち合わせようよってなって、まぁせっかくだから曲の話もしようかって、奥の、あまり目立たない席に通されて2人でのそのそ座った。
平日昼間だったからか人はあんまりいなくて、俺がボソボソ話をしても何の不都合もないような、割と居心地の良い空間だったと思う。
音楽の話になると2人して熱中するもんだから、会話のラリーが続いて、それが楽しくて。
フォックスが顔をくしゃっとさせて笑った。俺のくだらない発言のせいだったと思う。
俺の言葉で簡単に笑ってくれる人は貴重だった。その頃は特にそう思う事が多かったんだ。
外の日差しが丁度うまい具合にフォックスを照らして、余計に眩しそうな顔をしていたのが、何だかどうしようもなく嬉しかった。
9
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:23:18 ID:s89uwQXI0
(-@∀@)「……好きだなぁ」
爪'ー`)「え」
(-@∀@)「え?」
ぽかんとした彼の顔が印象的だった。滅多にしない表情だったからどうしたのだろうと、彼を見、それから自分の発言が脳内で響いて、そして自分も同じように聞き返した。
(;*@∀@)「……!」
好きだと、言った。
言ったというか、滑り落ちた。
10
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:23:43 ID:u3O58BlQ0
告白のつもりなんて些かもなくて、腹減ったなとか眠いなとか、そういった類の単純かつ何の感情も含んでいない、口からついて出ただけの純粋な数文字だったと、思う。
気持ち自体は嘘ではないけれど。
俺がフォックスをいつから好きだったかなんて野暮も野暮な話、自分でもわからないぐらいいつのまにかだったんだ。
同性愛者という訳ではない。俺にも彼女が居た時はあるし、フォックスに彼女がいてもそりゃそうだよなって思う位には普通にモテていた。
ただ自分のフォックスに対する気持ちを言葉に出すなら、「好き」以外にしっくりくるものがないだけだ。
好きだけど、どうしたい訳じゃない。今一緒にいられるだけで十分。むしろ自分のそんな気持ちのせいで関係や全てが無くなるのは絶対に嫌だと、胸の奥に押し込めた。
筈だったのに。
隠し事が出来ない性格だと揶揄されることはあったが、こうも酷いとは。
11
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:24:09 ID:0cCQfvHg0
(;@∀@)「…………」
指先が震えて、向かいの席に座る彼の顔が急に見れなくなってしまった。
アイスコーヒーが入ったプラスチックのカップさえ汗をかくような暑い日のこと。
カランと軽やかな音を立てて気まずさを引きずりかけて、冗談だとか、嘘だとか上手く言葉を続けられずにいる僕に、彼はさらっと口を開いた。
爪'ー`)「じゃあ、付き合お」
真顔でそう、言うのだ。何がじゃあなのかちっともわからない。
頬杖をついていた手が思わず滑って顎が落ちる。軽いトーンで冗談を言うのがうまい相手だ、いつも自分はそれに気がつけず恥をかくので、きっと今回もそうだろうと相手の目を見た。
真っすぐな視線にぶつかって、なんだかひどく動揺してしまい目をそらしてしまったのは、致し方のないことだろう。
12
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:24:32 ID:viuceL3g0
(-@∀@)「……冗談」
爪'ー`)「何で。お前が告白したんじゃん。今付き合ってる人いないし あ、モララー今いたっけ?」
(;*@∀@)「告白って……いや、付き合ってる人、いない、けど、さ」
爪'ー`)「じゃあ、いいじゃん」
じゃあいいの?そうなの?何が良いの?
全くもってわからない事が多すぎて脳内大パニックを起こしている俺の手に何かが乗った。見れば彼の手だった。
反対の手で頬杖をついてそっぽを向いているフォックスの涼しさは、おそらくきっと女の子だったらときめくだろうし黄色い悲鳴を上げているはずに違いない。
残念だけど俺は女の子ではないから黄色い悲鳴は上げなかった代わりに、胸が苦しくなるような掴まれた気持ちにはなってしまって、やっぱり上手く言葉を出せなかった。
あれよあれよと決まったの事が決して冗談ではないと教えてくれたのは彼の、握られた手のひらの熱さだった。
13
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:25:01 ID:ONoWfaYQ0
(;@∀@)「よ、よろしくお願いします…?」
爪'ー`)「うん」
(-@∀@)「……」
これは結構昔から知っていたことだけれど、彼は焦ると逆に静かになる癖がある。
だからこの時、涼しげな顔の裏で焦っているんだろうと気が付いていたが黙っておいた。こちらもいじる余裕がなかったから。
(;@∀@)「でも何をどう、すんの?」
爪'ー`)「わかんない」
前述の通り彼も俺もお付き合いをするのは初めてではなかった。
けれど同性で、がっつり友人で、仕事関係者とお付き合いをするのはさすがに初めての事だった。
そのまま伝えれば彼も同じようで、神妙に頷き、2人してはてなマークを浮かべる。
(-@∀@)「だよね」
爪'ー`)「うん、いい年してな」
(-@∀@)「年関係ないだろ、こんな、すごいことに」
爪'ー`)「ははは」
(-@∀@)「ふ、はは」
14
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:25:25 ID:noeFYOBI0
彼が、フォックスが顔をくしゃくしゃにさせて笑うから、俺もつられて笑った。
すんなりあっさり決まったことに、これからどうなって何が変わるのか、ひたすらにわからない。
完全に氷が溶けたアイスコーヒーはうまく喉を通らなかった。
爪'ー`)「じゃあ、また」
(-@∀@)「ん、またね」
それから何を話したか何も話さなかったか、謎の浮遊感を携えて俺らは解散した。
(-@∀@)( またね… )
(-@∀@)ノシ
そういう挨拶は今までだって散々してきたくせに、何故だか酷く胸が締め付けられるような、泣きたくなるような気持ちになって、誤魔化すように手を乱雑に振った。
15
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:25:50 ID:exUCsW3M0
(-@∀@)「……」
(;*@∀@)「……」
上手くいくのかも何もかもわからないのに、どうして彼は付き合うだなんて言ったのか。
どうして俺は了承してしまったのか。
元を正すと俺が好きだなんて言ったのが悪いのだけど、あとは若干の若さとか、茹だる暑さだとか、眩しい顔だとか、責任転嫁の為の悪しきものなんて100個は挙げられるぐらい、悪いことが沢山あった。
この時は俺も、きっと恐らく彼だってわかっちゃいなかったのだ。
浮かれていた。一言で言わせてもらえるのなら、浮かれてたんだ俺。
だって絶対手に入らないと思っていたものが偶然手に入ったらそりゃ、少しぐらい浮き上がってしまうのは仕方ないじゃないか。
その結果が今に繋がるのだから、笑えなくても笑ってやって欲しい。
16
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:26:10 ID:8lh6opYU0
+ + +
夏という字は俺らが忙しくしているところから生まれたんじゃないかって思うくらい、安定して忙しかった。いくつかのフェスの準備もあって、それからメンバー各々違う仕事も持っていて、フォックスなんかは隔週でラジオのパーソナリティもやっている。
失敗しかけた積みゲーのように沢山のやらなきゃいけない事が重なっていて、いかに効率良く仕事を片付けるのが宿題だ。
あのカフェでの出来事なんて蜃気楼だったのではないかと思うほどに、俺もフォックスも何もお変わりはない。そう、変わりなかった。
電話だのメールだのは変に体力気力を使うので出来ず、お互い顔を合わせる暇もなく時間だけが進んでいた。
次に会った時の相手のリアクションであれが現実だったのか夏の幻だったのか計ろうという企みは、終ぞ叶わなかったのだ。
17
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:26:38 ID:SYLp7SSo0
そうして、次に合わせる顔をどうするか悩むことさえも忘れていた俺は、
(-@∀@)「あ!」
爪'ー`)「……」
(;@∀@)「あ、え、う……」
爪'ー`)「ふ、」
見事に慌てふためいてしまった。
おはようやこんにちはや、元気かではなくただ一言 いや一文字発した俺を見て彼が笑った。
もう何年もやってきて、何千回も見てきた顔だというのに、全力疾走したあとのような心臓の動きに自分でも驚く。何をされたのかってただ微笑まれただけだ、意味が分からない。
ぶあっと、カフェでの彼の手の熱を思い出して顔が熱くなるのを感じ、誤魔化すように鼻を掻いた。
18
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:27:03 ID:nY8ZSOi.0
爪'ー`)「おはよモララー」
(;@∀@)「お、はよー」
フォックスは何も思っていないのだろうか。そんなふうに思うほどにはあまりに普通で、やはり蜃気楼だったのかもしれない。
爪'ー`)「あのさ、確認したいことがあるからお前の控え室行っていい」
打ち合わせの時間までまだ余裕があった。他のメンバーもマネージャーも来ていない。だから別に少し話をするくらい構わないけど、それならここでもいいだろう。誰かスタッフが来て邪魔なら端に避ければ良い。
爪'ー`)「ね」
(-@∀@)「うん…」
そう返そうとしたが、彼の言葉は疑問系の癖に有無を言わさぬ圧がある。
こちらが口を開く前ににっこり笑顔で腹を押され、渋々歩くしかなかった。
19
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:27:58 ID:v1VbLmeM0
(;@∀@)「ぶえ」
控え室に入った瞬間、フォックスの手がにょっと俺の顔をつかんだ。痛いわけではないがマジで何?の顔になってしまう。
ゴツゴツとした手は嫌ではないのだが、眼鏡が少し曇るのをついじっと見てしまった。
爪'ー`)「モララー、へったくそだなあ」
(;@3@)「え、演奏?どこの部分?」
爪'ー`)「ちがうよ 演技って言うか、全部?」
笑いながら言われた言葉にびくりと肩を揺らして聞き返せば、さらにそう返された。演奏に対するクレームかと思ったが、自分のリアクションについてのクレームらしい。
誰もいなかった控え室はエアコンもついておらず、生ぬるい空気に包まれている。目の前でフォックスが笑っていて、つぅっと首元に汗が伝った。
20
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:28:16 ID:VWLqcLaI0
爪'ー`)「顔に出まくり、感情」
(-@3@)「……すみません」
爪'ー`)「ははは」
フォックスの手が頬を弄び始めていて俺はされるがままだった。同い年の男の顔を触って何が楽しいのかわからない。だというのに彼は手を止めない。
爪'ー`)「モララーさぁ、周りに言いたい人?」
(-@3@)「え?」
爪'ー`)「付き合ってるって、周りに言う?」
21
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:28:40 ID:.cSQ5DRo0
思いもよらない質問だった。
彼が昔付き合っていた話はいつも周りから「今可愛い子と付き合ってるらしいね」という事を小耳に挟むだけだった。一度もフォックスの口からお付き合いをしている人の話を聞いたことはない。
近しい人の、そういう話って生々しいし、彼に関しては殊に聞きたくなかった。そう伝えた事もあるし自分の場合も言ったことはないから、なんとなく気を遣って話をしないでくれているのだろうと思っていたのだ。
この業界なのでどこからどこに漏れるかわからないし、それは本当に面倒な事なんだとマネージャーに口を酸っぱく言われた事もある。
そんな俺らなので『周りに言う』という選択肢があることにまず驚く。
そして俺らの関係は、すごくとても嫌な言い方をすればマイノリティーで、それを発表するのは何か途轍もなくいけない事のような気すらしてしまったのだ。
22
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:29:04 ID:081.g.Yk0
(;@∀@)「…いやいやいやいや!」
(;@∀@)「言わない、絶対言わない、なんならバレちゃダメじゃないのこういうのって。周りも気ぃ使うだろうし、メンバーもスタッフも気まずいだろうし、どこからファンに漏れるかもわかんないし何より、お前がそんな目で見られるのは、ダメだ。嫌だ。ダメすぎる」
爪'ー`)
咄嗟に出た言葉に、フォックスは一瞬目を丸くして、ゆっくり口角を上げた。パッと掴んでいた手を離して、そう、と一言だけ呟いた。ぬるい部屋に冷たく響く声が意外だった。
(;@∀@)「え、フォックス言いたかっ…た?」
爪'ー`)「や、モララーの言うとおり、周りが気まずいでしょ。単純に確認したかっただけ」
(;@∀@)「……だよね、うん」
23
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:29:29 ID:qsQGzqx20
自分の嚥下音がやたら大きい。リアクションが思っていたようなものじゃなかったのがどことなく居心地が悪くて、誤魔化すように髪を搔く。
フォックスは先程と少し違う、涼やかな笑顔になっていた。
爪'ー`)「じゃあ、人前ではちゃんとバレないようにするってことで」
(-@∀@)「あ、う、うん」
爪'ー`)「そろそろ行こっか」
(-@∀@)「うん、はい」
お付き合いってこういうものだったか。いかに経験が無いかって知られるのは決まりが悪い。ズレた眼鏡を押し上げてフォックスの横顔を盗み見ながら、ぬるい空気の部屋を出て涼しい廊下を歩く。
隣に居られるだけで満足だと思っていた筈なのに、関係のカテゴリー名が変わっただけでこうも気持ちがブレブレになるとは思っていなかった。
24
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:30:02 ID:PJ52MoOw0
そのあとのフォックスの普通さと言ったら「何事もなかった大会」が開催されれば優勝するんじゃないかってレベルだったんだ。
どこで会っても今までと同じ。何か喋って、笑って、曲の話して、音楽の話して、仕事の話をして、お疲れ〜で解散。
そもそもキリキリ舞で顔を合わせても2人になれる暇さえなくて、だから仕方ないと言えばそれまでだが、忙しさにかまけて自然消滅なんていうのはこの業界でなくてもある事で、実は俺ですら過去にあったトラウマなので、どうしたものかと頭を抱えていた。
それってじゃあ連絡し合えば良いんじゃねぇのって、移動中聞いていたラジオが似たようなお悩み相談にそう返していたのを「なるほどです」と享受したのだ。
(;@∀@)「んんん…」
.
25
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:30:34 ID:s7rbfCeA0
まずメールか電話にするか小一時間悩み、それからどんなテンションにしたほうがいいか悩んで、ようやくかけた電話は守番電話。
心に形があったらバッキバキに折れてただろう。
溜息をついてじゃあ次はどうしようかと考えかけた時だった。
(;@∀@)〜〜♪
(;@∀@)「うわ!」
数分もしないで折り返しがかかってきたので、震える手で通話ボタンを押した。
手のひらサイズの携帯電話は、もしかしたら楽器や自分の体重よりも重いかもしれない。
爪'ー`)『もしもし、今電話くれた?」
(-@∀@)「すみません、お忙しい時に」
畏まった言葉を選べば、電話口で小さく笑う声が聞こえてきた。耳がこそばゆい。
爪'ー`)『なに、いいよ別に、なんかあった?』
(-@∀@)「あの……ベースをさ、きみのエレキベースをちょっとお借りしたくてですね、で、その、貴方のお家に伺っても、いい?」
26
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:31:00 ID:nvpMRm/E0
口実に思われるかもしれないが、実際曲作りのために借りたかったので何も悪いことない筈だと自分に言い聞かせながら、バクバクとうるさい鼓動を流す。ちょっとばかし間が空いて電波が悪いかなと携帯から耳を離せばようやく「え」と声がした。
爪'ー`)『あー……ちょっと』
(;@∀@)「あ、そうだよねごめん突然すぎた申し訳ない」
返答をちっとも考えていなかったわけでは無いが、申し訳無さそうな『明らかにノー』近い声に全てを察して電話に向かって平身低頭する。気まずくしたいわけでは無いのだ。
爪'ー`)『いや、そうじゃなくて、………俺が持ってくよベース、お前の家に』
(-@∀@)「え」
27
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:31:28 ID:DieqmwKA0
だからそんな言葉が続くなんて思うわけもなく、今度はこちらが一文字で返す羽目になる。聞き間違いかと思ってもう一度言ってくれの意味も込めたその一文字に、彼はまた笑った。
爪'ー`)『行ってもいい?』
イエス以外の回答があるはずがないわけだけど、律儀に聞いてくれるところが彼らしいなと、思った。
.
28
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:31:50 ID:86h3M/Yg0
電話を切ってしばらく深呼吸をした。
彼が家に来るなんてのは学生時代に何度かあったが、ここ数年はないことだし、何よりそのころとは全然違う関係になっている。
向こうに行くつもりだったので何の準備もしていない。何が必要だ何をすればいい。とりあえず両方の頬をバチンと勢い良く叩いて、それから掃除機を引っ張り出した。
(-@∀@)「……」
(;*@∀@)「……」
彼がうちにくる。
この場合の彼というのは恋人に対して使う言葉でもある。
29
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:32:20 ID:pMH7RqzI0
(;*@∀@)
(;*@∀@)「……恋人を家に呼ぶの久しぶり過ぎてどうすればいいかわかんない」
端的に言えば進展が欲しかった。
告白して付き合って、恋人という位置になった、筈だけれど何もなさすぎる事が些か不安だったんだ。だからと言って『何か』をしたいのかと問われれば返答に困る。『何か』が出来るのか、俺たち。元々そういう性的嗜好じゃあないのに、と具体的なことを想像して、いや、ただ恋人が家に来るだけだと強く頭を振る。
(;*@∀@)「そんな、流石に、そんな展開にはならないだろ」
生娘のような思考回路に嫌気がさして、少々浮かれ気味な気持ちを落ち着かせるためにもう一度深呼吸をした。
(-@∀@)「平常心でいこう!」
.
30
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:32:52 ID:2ma9opVs0
爪'ー`)「おじゃまします」
( ・∀・)「どうぞ〜」
玄関もリビングも片付けて掃除をしたし買い出しにも行った。急ぎすぎて脛をぶつけたのは御愛嬌で、押し入れは絶対に開けられない状態なのも御愛嬌だ。
タイムリミットが短い中でわりかし上出来なのではなかろうか。
爪'ー`)「え、結構きれいにしてんじゃん。意外、スリッパとかないと思ってた」
( ・∀・)「今近くで買ってきた」
爪'ー`)「いいのにそんな」
( ・∀・)「裸足で歩かせらんないじゃん」
気持ちだけではなく声もふわふわしてしまいそうになる。
誤魔化すように茶化して、顔を見ないようにしながら台所へ逃げた。
31
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:33:22 ID:2ma9opVs0
爪'ー`)「なんかさぁ、手土産とかあった方が良かった?よね?普通に来ちゃった」
( ・∀・)「お構いなくー、物お借りするのはこちらだしね。あ、今お茶だすよ」
爪'ー`)「そっちこそお構いなく。てかさぁモララー、なんで眼鏡外してんの?」
( ・∀・)「と、くに意味は、ないよ」
(;*・∀・)(速攻でツッコまれた……)
俺の視力は物凄く悪い、というわけではなかった。軽い近視で外すとぼやけるけど認識はできる。コンタクトは怖くてつけるのを渋っていて、ライブ中は眼鏡を外している。憧れのミュージシャンが「見えないくらいがちょうど良い」みたいに言っていた言葉に甚く感銘を受けたのが最初。裸眼の方が落ち着く気がするんだよ。
今日に限っては電話して遠回しも遠回しに会いたいと言っておいて、いまさら対面するのがひたすらに恥ずかしいことに気付いてしまったから外した。
誰か邪魔が入るような場所では無い狭い家に好きな人と2人っていうのは、そりゃ幾つになってもくるもんがあるだろうよ、少なくとも俺はそうなんだ。
青くて綺麗なグラスに茶を注ぐ。カウンター越しにフォックスがこちらを覗き込んでいて、見んなよぉと力ない声が漏れた。
32
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:34:40 ID:2ma9opVs0
爪'ー`)「綺麗なグラス、良いのに俺に気ぃ遣わなくても」
( ・∀・)「青いのが透けて綺麗だったから、フォックス用に良いかなって思ったんだよ」
爪'ー`)「え、わざわざ買ってくれたの?」
(;・∀・)「あ。や、うち普段人来ないから食器自分のしか無くて、紙コップよりは良いじゃん、何回も使えるし」
俺の言い訳を聞いているのかいないのか、グラスを受け取ったフォックスが電気の光りに透けさせている。ハラハラとしながらそれを見守る。
爪'ー`)「……」
(;・∀・)
俺の視線に気付いたのか、目が、合った。
爪*'ー`)「……キレーだな。サンキュー」
( ・∀・)
(*・∀・)「つ、」
爪'ー`)「ん?」
( ・∀・)「……あ、や。なんでもない」
33
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:35:16 ID:2ma9opVs0
思いもよらずフォックスが顔をくしゃくしゃにさせて笑うから、買って良かったと思った。その笑顔を見て次は一緒に選びにいこう、と言いかけて口を噤む。どこまで何を言って大丈夫なのかがわからない。緊張しているのだ、おれは、フォックスに。
爪'ー`)「乾杯しよーぜ」
( ・∀・)「……うん」
一杯二杯と、スルスル流れるように茶が腹に入っていく。何を喋れば良いんだって今更考える必要もない相手のくせに口を開くことが怖くて、飲み物を飲むことで誤魔化していた。でもフォックスは普通だ。普通に、音楽の話を振ってくる。
それを生業にしているということもあるが、純粋に俺もフォックスも音楽が好きだった。なので一度曲についての話を始めると緊張なんて何のその、前までの距離感で話が続いた。それが救いにも感じる。話せなくて地獄の沈黙が続くよりかは遥かに良いから。
ベースを借りてあーでもないこーでもないと長々話してる時に、あ、とフォックスが思い出したように口を開いた。
34
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:35:37 ID:2ma9opVs0
爪'ー`)「明日さあ、こっからのほうが近いから泊ってもいい?」
( ・∀・)「 え?」
( ・∀・)「え、っと……着替えなくない?」
爪'ー`)「持ってきた」
( ・∀・)「通りで珍しく荷物多いなって思ったんだよな」
思いがけない問いかけに一瞬身体がフリーズして、気付かれないように飲み込んでから着替えという点を指摘した。彼は案外ちゃっかりしている。そしてそれをなんて事もないように言う。
35
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:36:01 ID:2ma9opVs0
(;・∀・)(いや別に泊まることなんて今まで何回もあっただろ学生時代。ツアーで同じホテルに泊まったこともあるし)
(;-∀-)(俺だけが、 俺だけだ、そんな意識しているのは。 馬鹿野郎)
爪'ー`)「なんかまずかった?」
( ・∀・)「や、大丈夫、だけど。あ、待って布団一組しかねぇよ」
爪'ー`)「いーよ別に」
良いの?何が良いの?頭の中大混乱だ。どこまで何を考えているのか皆目見当がつかない。何も考えていないならそういうことで、それはそれで、どれが何だ?
( ・∀・)(えーつまりそれってそういう?いやでも全然今日そんな雰囲気じゃなかったしそもそも)
( ・∀・)(…………や、いいやもう)
( ・∀・)「おん、いーよ、泊まりな」
36
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:36:27 ID:2ma9opVs0
どっちがとか準備がとか、色々色々色々考えて考えまくって、それから考えることをやめた。それは一番やりたくない事ではあるが、殊こういった事に関して得意ではない人間が考えたところで何にもなりゃしないのだ。彼はきっと何の下心も邪念もなく言葉の通り楽の為に泊まりたいだけだろう。
( ・∀・)(俺は大パニックなんですけど、この人はどんな気持ちで今隣にいるんだろう)
どんな気持ちって、そうでなくても人の気持ちなんてわかりゃしないのに、自分の気持ちを隠して人に気を遣うような、そんな優しい人間の考えなんてわかるわけが無かった。
爪'ー`)「なんか出前とろーよ、奢るからさ」
携帯を取り出してウキウキしている彼の『普通』さは、学生時代とかお付き合いをする前の『普通』とまるきり同じように思えた。
37
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:36:51 ID:2ma9opVs0
( ・∀・)(それはもしかしたら、もしかすると、さ)
良くない考えが頭をよぎって、ゾッとする。フォックスは、本当は、俺とは。
(;・∀・)「……」
爪'ー`)「ん?」
(;・∀・)
38
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:37:16 ID:2ma9opVs0
丸い目をのぞき込んでみる。それでわかる事なんてわかった気になっただけの身勝手な心緒でしかないのに。目を見るのが苦手だけれど、彼の目はうっかり合うと逸せなくなるような不思議な魔法でもかかっているのかもしれない。
歌詞になりそうな、夜の静かな空を思わせるような、何も言わせない目だった。
爪'ー`)
( ・∀・)「ん」
39
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:37:40 ID:2ma9opVs0
彼の手が俺の手の上に重なる。
何か言う前にごつんと長い前髪ごとでこがぶつかった。口が開いて、こちらの口に当たりそうな寸前で、顔が離れる。
真っ直ぐな目が俺を見て、優しい形になった。
.
40
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:38:27 ID:2ma9opVs0
(;*・∀・)「いま、の」
爪'ー`)「初めて、それらしいことしてみましたけど」
(;*・∀・)「いちいち口に出すなよ…」
爪'ー`)「モララーがじっと見てくるからさぁ」
そんなつもりで見ていたわけでは決して、いや、最早自分でもわからない。
こういったことは不慣れで不得意で、それから、それから、それから心臓にとって不健全だ。彼に聞こえてるんじゃないかってくらいうるさくて、落ち着かせるために目を閉じて息を吐いた。
(;*・∀・)「フォ、フォックスは慣れてるだろーけど、俺はそんな、慣れてないんだよ」
爪'ー`)「俺も別に慣れてないよ。100人くらい付き合ってきたと思ってんの?」
(;*・∀・)「そ、いうわけじゃないけどさあ」
自己弁護するのもあほな話だがただの照れ隠しで暴言を吐いた。そんな事は今までもあったけれど、流石にまずい事言ったなと、すぐに気付けるくらいのものだった。パッと顔を上げて見れば鼻の下を擦るフォックスと目があって、バツが悪い。
41
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:39:00 ID:2ma9opVs0
爪'ー`)「わかった。じゃあ次はモララーが慣れて、完全に良いムードだなって時にするから」
( ・∀・)「なん……なんだそれ」
責めるでもなく、彼はさらっとそう言って、何もなかったかのような自然体で話し続けている。
なんだよ、意識してる俺が馬鹿みたいじゃないか。
(;・∀・)(いや馬鹿だけどさぁ!)
自分が悪いとわかっている俺は謝ることも続きを促す事もできずに、粗悪な言動の大反省会を脳内で開いていた。
42
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:39:25 ID:2ma9opVs0
爪'ー`)「おやすみ」
( ・∀・)「おやすみ……」
( ・∀・)
( ・∀・)(いや眠れないわな)
当たり前だがその日はやっぱりただ泊まっただけで、俺が想像するようなことは何にも起こらなかった。狭い布団で雑魚寝。残念な事は、なにも無い。
部屋があまりにも静かだから、心臓の音が隣にいるフォックスにも聞こえているんじゃないか不安で全然寝付けなかった。
朝と呼ぶには遅い時間に目を覚ますともうフォックスはおらず、借りたままのエレキベースと『飯食えよ』と書いてあるメモだけが残っていた。
.
43
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:39:52 ID:2ma9opVs0
+ + +
初めてフォックスが家に来た時から季節は変わって、夏が終わって秋が来たかと思えばすぐさま冬になり、それもまた終わりが見えてきていた。
イベントに縁遠く、混み合ったスケジュールをこなす途中で今が何月か気がつくような生活だった。
バンド活動は順調。マネージャーからは体調管理をきつく言い渡される時期だ。
フォックスはあれから度々家に来るようになっていた。
今は跳ねる心臓も落ち着いて、緊張はしなくなっている。何故なら普通に普通の、健全なお付き合いとでもいうのか、フォックスはあれ以来、俺に触れることはなかった。
だから友達関係のような少し気楽な関係。
何か引っ掛かる事もあるけど、フォックスの方からうちに来たいという申し出がある度に嬉しくて深く考えないようにしている。
俺が家にいない時もあるもんだから、合鍵なんて洒落っ気の塊を作った。そして渡した。だというのに彼は毎回「行っていい?」と連絡を律儀に寄こすのだった。
44
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:40:19 ID:2ma9opVs0
(-@∀@)「わざわざ聞かなくてもいいのに」
爪'ー`)「聞くのもさあ、いつかできなくなるから、できるうちにしておきたいんだよ」
(-@∀@)
(-@∀@)(……それって)
.
45
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:40:40 ID:2ma9opVs0
どういう意味だろう。別れを見越しているということなのかな。
「永遠」なんて子供じみたものはないとしても、それでも、終わりのことを考えられているのは、悲しかった。俺は何も言わずに首を傾げた後、はあとかへえとか、気の抜ける声だけ出してフォックスに笑われた。
できなくなるいつかが来なきゃいいなって、思うけれど何をどうすりゃいいのかはわからない。人と付き合うってわからない事だらけだな。
自主的にしてこなかったのがいけないのか?
周りに聞く事も出来なければ、特殊な事情だからネットで回答を検索する事も出来ず、伸びてきた髪を掻きむしる。
俺はいつも大事な事をあいつに聞かなかった。
46
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:41:33 ID:2ma9opVs0
(-@∀@)つ《 》
(-@∀@)「よいしょっと」
大きめのカバンが無造作に床に置かれていたので然るべき場所に置いておく。
自分のものはあちらこちらに放置してはいるが、これは自分のではないので丁重に扱うのだ。
フォックスの私物なら置いておいても構わないのにそうする事はなく、泊まりの時はいちいち大荷物でやってくる。家にあるフォックスのものは、あの青いグラスだけだ。
ソファーに腰掛けて寛いでる姿を見て、馴染んでるよなぁなんて思う。どかっと隣に座る。
(-@∀@)「あのさー、次のセトリなんだけどさ」
爪'ー`)「うん」
47
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:41:57 ID:WoFRiOIU0
淹れたコーヒーを飲もうとしてカップに手をやる。
フォックスがひょいと取り上げて、そのまま口に運んだ。
(-@∀@)「ちょっとお」
爪'ー`)「ちょうど飲みたかった、サンキュー」
(-@∀@)「俺まだ飲んでなかったけど、危ないでしょ、口付けてたらどうすんだよ」
爪'ー`)「ええ?ありがたく頂戴する」
(;*@∀@)「ば、馬鹿野郎」
48
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:42:23 ID:WoFRiOIU0
悪態付いたのは驚いたからだ。
決して嫌なわけでは、いや弁明させてもらえるならインフルエンザだの風邪だのが流行っているからあまり許されることじゃないが、そんな今日日小学生でも意識しないような間接キッスに慌てふためくアラサーがいていいわけがないって話だ。
爪'ー`)「ははは。ごめんごめん、もうしないから」
(;@∀@)「え、あ」
爪'ー`)「んで、セトリが何?」
(;@∀@)「あ、そうだった。順番をさ…」
もうしない、は何を指すんだ。飲み物を取らないのか、それとも。
謝る前に会話が終わってしまって、俺はまた自らの首を絞めた。
49
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:42:56 ID:WoFRiOIU0
だって、後日どこぞのバンドマンと酒の席でフォックスがキスをした話を耳にするなんて、思わなかったのだから。
前日に対バンしたメンツとの打ち上げに、俺は別の用事が重なって行けなかった。行かなくてよかったなんて思ってしまった。良いライブをしたのに、楽しかったのに、それを直で見ていたらどうなっていたかわからないから。
(-@∀@)(いや、元々そういうノリが出来る人じゃん、その場に居合わせて笑った事だってあるし)
.
50
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:43:18 ID:WoFRiOIU0
でも、けど、何で今。仮にも付き合っている人間がいて、そいつとはしてないくせに。
そりゃそうだろ、付き合ってるって言ってないし、拒否したのは俺だ。悪いのも俺。
だというのに沸々と体内に溜まっていくものがあった。黒くて重くて、しんどい気持ちだ。
(-@∀@)(女々しすぎる)
(-@∀@)(俺が拒絶したのが悪いくせに……いやでも俺、本当にフォックスとその、そういう事出来るのか?)
(-@∀@)「………」
(;*@∀@)(想像が出来ない……)
.
51
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:43:38 ID:WoFRiOIU0
ともすれば検証だ!と意気込むことにした。ずっとモヤモヤしているとパフォーマンスの質に響くのだ。
必要なことだ。いや付き合うという話をして数ヶ月も経って今更かもしれない。いや何なら付き合って数ヶ月だからこそ考える時期かもしれない、と永遠ぐるぐる考えてしまうのは身体にだって悪いだろう。恋愛中だからなのか元々のものなのか、頭の悪い思考しか出来なくなる。
(-@∀@)「あのさ、手…握手……ハンドシェイクしない」
爪'ー`)「何それ、いいけど」
キスをした話を聞いてから何日か後に、彼は当たり前のように家に来た。後ろめたさなんてこれっぽっちもないのだろう。そりゃそうだ、ただのスキンシップなんだキスなんて、彼にとっては。気にしているのはいつだって俺だけだ。でもって案外そういう事は実際には何でもなかったりするんだ。
だから、検証をする。
52
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:43:58 ID:WoFRiOIU0
(;@∀@)ノ
手を差し出す。
俺と彼にスキンシップは果たして必要なのだろうか。
もしかしたら必要はないかもしれない。そういう関係の人間だって世界にはごまんといるだろう。
テレビや何やを一緒にぼうっと見て、酒を飲んで話したり、仕事してる時は話をしなくてもそこにいて、それが不快ではなかった。彼が近くにいるのは嬉しい。楽しい。愛おしい。
たとえあれ以来、『それらしいこと』をしていなくても。楽しい、そう思う。
ただ、俺と彼は本当に付き合っているのだろうかと、しょうもないくだらない馬鹿みたいな事も思う。
そのマイナス思考を一掃するための案が、口ではなく手を引っ付ける事なのは、俺のビビり具合を推測って察してくれ。
53
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:44:58 ID:WoFRiOIU0
(;*@∀@)入('ー`爪
爪'ー`)「ふ」
爪'ー`)「なぁにこれ」
(-@∀@)「……なんだろ」
存外冷たい手が自分の手と合わさる。
にぎにぎと無遠慮に握られて、何も嫌なことは無かった。
つまるところ、触られるのも触るのも嫌悪感が無い。何をいまさらな話。学生時代、意識をしていなかった時でさえ彼との距離は人よりも近かった。
54
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:45:33 ID:WoFRiOIU0
(-@∀@)(俺……)
(-@∀@)(俺この人とそういう事が出来るかもしれないし、したいのかもしれない)
(;*@∀@)「……」
このよくわからないハンドシェイクだけで結論を出すのは早計だとしても、自分のプラスな感情を発見出来たのは悪いことではない筈だ。
彼の手の平だか僕の手の平だか、はたまた両方が温まって、その熱をまるで遭難者が見つけた小屋の灯りよろしく、救いだと思ったんだ。
55
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:45:57 ID:WoFRiOIU0
爪'ー`)「モララー手ぇあったかい」
(;*@∀@)「フォックスもでしょ」
目をじっと見てみる。相変わらず暮色蒼然とした空のように静かだった。
(;*@∀@)「あ、のさフォックス」
爪'ー`)「……、ごめん、明日早いんだった」
(;@∀@)「え!」
(;@∀@)「あ、ごめん。こんなことして時間潰しちゃって」
爪'ー`)「いや」
56
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:46:27 ID:WoFRiOIU0
一瞬、彼の目が揺れた。
そしてパッと視界が外され、歯磨きして寝るねと言われた。わかったと返事をする前にフォックスは洗面所に消えていく。
自意識過剰気味に言うなら、避けられた、気がした。そういう空気を。
.
57
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:46:54 ID:WoFRiOIU0
(;@∀@)(嫌、だったのかな)
(;@∀@)(や、それなら言うんじゃない?言うだろ?)
(;@∀@)(わからん、わからないんだって彼の考えてることは。一緒にいる時間は増えたけど、彼に関してわからないことも増えたよ)
(;@∀@)(やめろやめろ、不健全だこんな考えは。一緒にいられるだけで、それだけで幸せだろ、そうだろ)
(;@∀@)(そうだろ……)
でも、けど、もしかしたら。 実はそうなんじゃないかと、考えだしたらキリが無かった。 俺の悪癖だ。治りかけのかさぶたを剥がしたり、伸びたささくれを引きむしるような、小さな自傷行為に似ている。
.
58
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:47:24 ID:WoFRiOIU0
(-@∀@)(俺……)
(-@∀@)(好きって、言われてないんだよなあ)
.
59
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:47:46 ID:bBB0Dhw20
彼から決定的な言葉は一度も言われていない。気付いていた。わかってもいた。引っ掛かる所はそこだ。フォックスの本当の気持ちはわからない。
家に来てくれる。話してくれる。俺が拒否をしたけど、キスをしようとしてくれたこともある。だから大丈夫だって言い聞かせて数ヶ月経っていた。
(-@∀@)「気を、遣っていたんだとしたら嫌だな……」
ぽろりと、ずっと奥深くに隠していた言葉を溢した。洗面所からは水の音が聞こえるので、きっと聞こえていないだろう。
フォックスは優しい。学生時代から知っている。
俺の、あの拙い告白のなりそこないのようなものを、優しさで受け止めただけで本当は向こうは何も思っていなかったんだとしたら、どうすりゃいいんだろう。
60
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:48:09 ID:7wUWTCJs0
(-@∀@)「……」
( ・∀・)-@∩
(つ∀・)
(つ∀∩)
核心に触れて酷く落ち込んで阿保みたいだ。
馬鹿で阿呆で忙しいな俺は。
彼はやさしいから、ごっこ遊びに付き合ってくれているだけなのかもしれない。
そんなことに気が付かないまま、よくもまぁ時間を無駄にしたものだ。
61
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:48:43 ID:aqfpprRE0
フォックスは早めに布団に入り、俺もしばらくして眠った。そんなに寝ていない筈なのに早い時間に目が覚めて、ぼんやりしたままフォックスの寝顔を見ると胸が痛くなった。
スマホで時間を確認するとまぁまぁな時間。このまま起きてしまおうと布団から出てカーテンを勢いよく開ける。
62
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:49:07 ID:nmZqSFB.0
シャッ
爪'ー`)「ん……」
(-@∀@)「あ、おはよ。朝早いって言ってたからもう起こした方がいいかと思って」
爪'ー`)「……眩しい」
(-@∀@)「うん、今日天気良いもんな」
爪'ー`)「んー…」
寝ぼけているフォックスを見るのは好きだった。言ったことはない。
じっと見ると何か言われるだろうから盗み見るだけ。
63
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:49:29 ID:nO3.XWdQ0
爪'ー`)「あ、そうだ」
(-@∀@)「ん?」
爪'ー`)「モララーもうすぐ誕生日だよね。なんか欲しいものある?」
聞かれた言葉にそういやそうだったなとぼんやり思った。
欲しいもの。
64
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:49:51 ID:hDmIqQco0
(-@∀@)(欲しいもの、)
(-@∀@)(……フォックス)
爪'ー`)「ん?」
(;@∀@)
自分の考えに愕然とした。
ぱっと思い浮かんだのが 「フォックス」だった。
彼はそこにいるのに。
恋人の、筈なのに。
65
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:50:11 ID:wxcwivX.0
頭を振る。長い前髪が視界を遮る。フォックスが不思議そうにこちらを見ている。
欲しいのか、俺。付き合ってるのに。ああ、駄目だ。駄目なんだ、俺。
(-@∀@)
おれ、君が大事だな。
.
66
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:50:32 ID:1f.WmreE0
爪'ー`)「……なに、ありがとう?」
声に出ていたらしく、フォックスが少し照れたような顔をしていて、何故だか無性に泣きたくなった。誤魔化すようにそのまま言葉を口から出した。
(-@∀@)「俺、やっぱりフォックスが大事、なんだよ」
爪'ー`)「……うん?」
(-@∀@)「ごめん、フォックス、俺、君が」
爪'ー`)「うん」
67
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:51:06 ID:AAFTHtHI0
きっと隣に座ったら言えなくなってしまう言葉を、少し離れた距離で紡ぐ。今まで口にする前に考えようとしていたのに、スルスルと溢れていく。涙の代わりに溢れているような、そんな感覚だった。泣く資格も何もないのに。
(-@∀@)
俺は君が好きだった。好きな気持ちを消したくないんだ。
この気持ちを、駄目なものにしてしまうのは嫌なんだ。
だから、ちゃんとしよう。ちゃんとするためにおわりにしよう。
暗い空も明るんで静寂が欠けた時間に、俺らは別れ話をした。以前の彼の目を彷彿させる空が、少しだけ開いたカーテンから覗いていた事だけ印象的で覚えている。
フォックスはほんとうに静かに俺の話を聞いて、一通り終わった時に、うん と頷いた。
それからすごく久々に感じる顔で笑って、わかったとだけ言った。
眩しそうな顔だった。
ずっと見ていたかったけど、それは何だか自傷行為に近い気がして、見るのをやめた。
68
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:51:30 ID:/G1dOfyk0
これが、俺とフォックスがおつきあいをやめた日の、朝の話だ。
(-@∀@)
爪'ー`)
お付き合いを辞めても、音楽は辞めなかった。大好きなことだし、周りに何も言っていなかったから気まずさは少ない。
忙しない活動は俺らの事情お構いなしで、むしろそれに救われたところも、ある。
それから季節が何度も変わったけれど、ライブをしていろんなところを回って曲を作って演奏して、付き合う以前と何ら変わりなかった。
それが結局のところ、すべてなのだと、そう自分に言い聞かせるように飲み込んだ。
69
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:52:05 ID:/G1dOfyk0
( ・∀・)つⅡ
( ・∀・)「………行く準備するかあ」
長い息を吐いて持っていたグラスを置く。
彼とのことを久々に思い出して、目の前がちかちか光る。
眩しいものではないくせに、暗く静かな場所に置きっぱなしにしていたくせに、俺はいまだにあの思い出が夢のようにまばゆいものだと、思っているのかもしれない。
.
70
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:52:36 ID:/G1dOfyk0
+ + + +
早めに仕事場へ行くとメンバーのクックルがいた。
ジムから直で来たらしい。柔らかそうな髪が湿っぽいのは一汗かいた後だからか。
( ゚∋゚)「はやいなモララー、珍しい」
( ・∀・)「箱詰め作業から逃げてきた〜」
( ゚∋゚)「大丈夫なのかそれ、終わんの?」
( ・∀・)「終わらせる」
( ゚∋゚)「まあなんだかんだ言って終わらせるよな、人に荷物見られたくないもんね」
( ・∀・)「そうなのよ」
71
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:53:11 ID:/G1dOfyk0
俺の面倒な部分を知ってくれている人間なので、話をわかってもらえるのが助かる。
引越し祝いに奢るよと自販機まで連れて来られ、労いの言葉と缶コーヒーをありがたく頂戴した。
プルタブを開ける音が廊下に響いて、沈黙になるのが嫌だったから話題を探しながら目を合わせると、クックルが話し始めた。
( ゚∋゚)「そういえばさ聞いたよ、結婚するんだって?おめでと」
( ・∀・)「?」
( ・∀・)「ああ」
72
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:53:40 ID:/G1dOfyk0
一瞬何の話か全くわからずに簡単な声で返そうかと思ったが瞬時にシナプスがつながり、思い出してやはり簡単な言葉を吐き出したのだった。
先日、とはいえども結構前なのだが、久しぶりに実家に帰った際自分も聞いたばかりだった。
兄が結婚するらしい。
それはまたおめでたいことでと思ったのもつかの間、兄弟間で結婚祝いなんて何を送るのがベターなのかと頭を悩ませた。だってそんな経験がないもんさ。
そうしてわからないことは周りに聞いていけと、マネージャーに体当たりして聞いてみたのだが、奴は一人っ子だったために調べておくと言われたまま日が過ぎていた。口止めはしていなかったのでそこから漏れたのだろう。
クックルは昔、本当に昔兄と会ったことがあるし別に困ることは無いのだが、何だか自分が言われたみたいなむず痒さがあって鼻をこすった。
73
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:54:04 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「俺ほら、ねーちゃんいるから、どうだった?って聞かれたのよ」
( ・∀・)「ああ、そっか、そうだったね。クックルに聞きゃ早かったな」
( ゚∋゚)「ねーちゃん結婚した時、もう何が欲しいか直で聞いちゃったよ。金だってさ」
(;・∀・)「だよねえー!そうだとは思ってたけどもなんかさあ、なんかねえ?」
( ゚∋゚)「モララーの気持ちはわかるけどね、まあ、そんなもんだよ」
(;・∀・)「はあー、 ですよねえ」
一気に脱力してしまう。 サンプル数が1しかなくてもそれが正解だとわかるくらいには歳を重ねている。
コーヒーを飲みながら、自分がロマンチック過ぎるのか?と場違いな事を考えた。
74
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:54:29 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「結婚ねぇ…。プロポーズしたいなあ」
( ・∀・)「え、………」
クックルが髭を触りながら真顔でそんな事を宣う。
あれいま恋人いたっけ。情報が無さすぎて脳内を探る。こんなに神妙な顔をするくらい、ホの字の相手なら少しくらい耳にしていそうなものだがいかんせんわからず、何を返せば良いか口籠もってしまう。
そんな俺を見かねてか、ペシンと軽いチョップをお見舞いされた。
( ・∀・)「あだ」
( ゚∋゚)「いや相手いないけどね、憧れんじゃんって話。いいよ気ぃ遣って頑張ってスルーしないで聞けよ虚しいから」
(;・∀・)「ああ、なんだ、びっくりしたー!」
自分とはまた違う地雷原のある男なので、恋愛関係を踏んでいいのかわからないのだ。
けれどロマンチックな部分が隠さずともあるから、たまにこういった罠を仕掛けられる。無駄にびくびくしてしまった悔しさから、声が大きくなってしまった。
75
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:54:58 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「モララーはそういうの無いの」
( ・∀・)「え?」
( ゚∋゚)「プロポーズぐらいの熱い気持ちをもてあそんでるとか、誰かそれを言いたい相手とか」
( ・∀・)「てーんでないんですよねえ」
先程思い出していた過去は昔の話で、しかも話せる相手ではない。
最近何かあったかと聞かれれば悲しいかな何もない。無くはなかったかもしれないぐらい小さな事はあったけど、何だか恋愛モードにはなれず発展しなかった。
乾いてるねーバンドマンのくせになんて言われて大きな声で笑ってしまう。
76
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:55:20 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「そういう人できたら言えよ、寂しいから」
( ・∀・)「あ!あれやってよクックル、フラッシュモブ。失敗したらクックルのせいだってなじるから」
( ゚∋゚)「フラッシュモブとか絶対嫌なタイプでしょモララー」
阿保みたいなことを言って、それで笑ってくれる人がいることのなんと贅沢なことか。
俺はいい人が周りにいて、それに気付けてハッピーだ。しみじみそう思うのは良い歳の重ね方をしてきた証拠だと自分を褒めてやりたい。昔の痛いところに触れてしまったので、出来る限り自分に優しくしてあげたいのだ。
77
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:55:40 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「……最近、元気?」
髭を摩りながら目を細めて聞いてくるクックルに首を傾げる。
( ・∀・)「んん?わかんない。兄とは会えてないのよ」
( ゚∋゚)「じゃあなくてさ、お兄さんじゃなくて、弟くんの方、モララーくんの方の話」
( ・∀・)「……おれ?」
78
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:56:12 ID:/G1dOfyk0
クックルとはフォックスよりも長い付き合いで、小学生からになる。と言っても途中で中学校に来るのをやめてしまい、暇してるというのでバンド活動に誘ったら楽しかったらしく今もこうして一緒にやっている。
飽き性で長くものを続けるのが苦手だと言っていたクックルが、演奏だけはずっと飽きないと言っているのが俺も嬉しかった。
クックルにフォックスとのことを言ってはいない。
けれど何かしら察するものがあったのか、お付き合いをやめた後、何回かご飯に誘われたりしていた。スケジュールが合わなくて結局行けなかったが、もし行っていたら相手は言わないにしても何があったかは話してしまっていたかもしれない。メンバー恐るべしだ。
79
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:56:38 ID:/G1dOfyk0
( ・∀・)「元気だよ俺は。元気すぎてダンボール10個ぐらい持てそう」
( ゚∋゚)「なら、良いんだけど。ってか元気なら早く詰め込み終わらせろよ」
含み気味にそう言って、甘ったるい匂いがこちらまで来るキャラメルなんたらなんたーらを飲んでいるクックルに、どこまで何をわかっているんだろうとドキドキしてしまう。
言えないんだよ、いくらお前でも。フォックスに悪いことはしたくないんだ。
心配おかけしてすまんねの気持ちと一緒に、缶をゴミ箱に捨てた。
( ゚∋゚)「ま、お兄さんに結婚おめでとうって伝えといてよ」
( ・∀・)「うん、言っておく」
( ゚∋゚)「打ち合わせもう始まる?」
( ・∀・)「そだね」
80
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:57:24 ID:S8xYEwMM0
( ・∀・)(結婚かぁ)
( ・∀・)(そういえば、昔フォックスと結婚式行ったな)
周りは割と早いほうで、仲の良かった友人たちの式に何度か出席をした。
どの季節のどの式の誰のであってもハッピーな人たちが厳かに一生涯を誓い合うさまはどことなくジンとくるものがあったな。
高校の共通の友達に2人して呼ばれたのだ。
桜が散る季節だったか、早々にネクタイを緩める俺に笑っていた。
.
81
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:57:51 ID:s9JOVC020
爪'ー`)『プロポーズできるってさー、すごいよね』
しみじみ言う彼の横顔が印象的だった。
(-@∀@)『えー?』
爪'ー`)『すきっていうの、結構勇気いるのにその上でしょ。すごいよね』
(-@∀@)『うーん、そうだね』
.
82
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:58:26 ID:4oF0q/Y20
( ・∀・)「……」
"(( -∀-))"ブンブン
あれはお付き合いをする前のことだったが、確かに彼から終ぞその言葉を言われることはなかったなと、余計なことまで思い出して頭をおもいっきり振った。
( ゚∋゚)「あら」
( ・∀・)「ん?」
( ゚∋゚)「フォックス、体調悪いから今日来ないって」
( ・∀・)「え」
申し訳ない事に少し気まずいなと思っていたところだった。今更すぎる話だから極力変な態度は取らないよう努めるつもりではいたが、まさか会えないとは思わなかった。あんまり体調崩すことないのに、どうしたんだろう。
大丈夫かというメールを送るか悩みに悩んで、結局やめた。
.
83
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:59:08 ID:4oF0q/Y20
長くなるので今日はここまで
続きます
84
:
名無しさん
:2024/04/22(月) 19:42:49 ID:LBVdY.0s0
乙津
85
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:09:33 ID:ppuPCi7c0
朝が来ない。目を開けば明るいし、一応眠っている筈なのに。
爪'ー`)「んー……」
夢見が悪いと目覚めた時の気分も悪い。ベッドの上で目をこする。
珈琲でも淹れて優雅な演出でもしようかと立ち上がってから、買い置きがなくなっていることに気付く。
行きつけの珈琲屋に出向いたものの、ちょうど好きな銘柄が売り切れていて、じゃあ今度また、と言って日が過ぎていた。
そういうことはよくあった。欲しいものを手に入れられることが少ないのだ。 自分の運が悪い気がするのは気のせいなのだろうか。
ついていないと思うのは負けな気もするし、何よりそれでも楽しくやっている自分をみじめなものにしたくなさすぎるから、そういう風に考えたくはないが、人から言われる回数も多かった。
86
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:10:03 ID:ppuPCi7c0
『フォックス、ついてないね』
爪'ー`)(大きすぎるお世話だ)
生欠伸をかみ殺して、仕方がないから水をコップに注ぐ。
いらぬ心配を人にかけてしまった罰かもしれない。睡眠の質が下がっている理由なんてもう分り切っていた。
先日、偶然聞いてしまったモララーとクックルの会話が原因だ。
( ゚∋゚)『結婚するんだって?おめでと』
ぐらりと足元が急に重くなって、とにかくこの場にいないほうがいいと思って足が動くうちに離れた。打ち合わせは体調不良を理由に出なかった。モララーの顔を見る余裕がなかったから。
周りにスタッフも誰もいなかったのは不幸中の幸い、いや話していた内容は不幸なんかでは、ないのだけれど。
87
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:10:29 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)(恋人ができたって話はここ数年聞いていなかったのになぁ)
もしかしたら気を遣って耳に入れないようにしていたのかもしれない。
でも、俺には言わないのにクックルには話すんだ。いやクックルも聞いたって言っていたから誰かほかの人間から聞いたんでしょ、社長とかマネージャーかな、俺には話してくれるのかな。
爪'ー`)(そもそも、そもそもが)
爪'ー`)(モララー、結婚するの、まじで、なんで)
ぐるぐる思考が回り回って、息が苦しくなった。体調不良は嘘ではなかった。
いやなんでって 馬鹿か。するでしょ、そんなん。それで、言わないでしょ、俺には。
俺とモララーは昔、付き合っていたのだから。
88
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:11:02 ID:ppuPCi7c0
爪;'ー`)「……はぁ、眠…」
いつも夢には同じあの家のカーテンが出てくる。
乳白色のベルベット調のカーテンが、窓も開いてないのに揺れて何か言いたげにしていた。
俺もう、現実世界でお前に会うこと無いんだぜ。
布にわざわざそんなことを教えてやる必要は一切無いのに、傷口をなぞるように言ってやった。そうしてこれが夢だと悟り、目が覚めて大きなため息をつくのがここ最近の不服なマイブームなのだ。
悪夢はよく見るほうなので、きっと本番前に音が出ない夢や気がついたら本番の時間過ぎている夢なんかよりは数百倍マシかもしれない。
爪;'ー`)(いや嘘嘘。くるものがあるよ、この夢は)
だって自分の過去の象徴で、自分の未来にない光景だからだ。
89
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:11:36 ID:ppuPCi7c0
学生からの付き合いだった。数えると長い年月共にいる。学友で、仕事仲間で、それから。
俺がモララーを気になりだしたのはいつからかなんてわからないほど、いつの間にかだった。
近くにいるなあって思っていたのが近くにいないなに変わって、気づけば姿を目で追うように。いや、追うでしょあんなの。
おとなしいタイプかと思えば俺と好きなバンドが被ってて、一緒にライブに行けばひたすら楽しそうにしてて終わったらべらべら感想話して。
熱量が面白いやつだった。人前に立つのが苦手だと言って、客席を見えないようにするために眼鏡を外してライブをするとこだとか、現代文が苦手なくせに作詞させりゃ良い曲書いてくるとこだとか、面白いとこしか無い。
そりゃ今に至るまでに色々な衝突もあったけど、それを含めて。
90
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:12:08 ID:ppuPCi7c0
人間として好きなんだと思ってた。だって俺、女が好きだし。モララーが横にいれば楽しいけど付き合うとか考えた事もなかったよ。
でもいつかの付き合っていた彼女に、モララーの話をした瞬間「私も別に好きな人できたから」と振られた時、
もってなんだよというより先に「え、そうなの」と口に出してしまった。
俺の失敗だ。
そんなわけないじゃんという自分より、なるほどそうかという自分のほうが強かった。
すとんと思いのほか自分の奥深くに落ちるような、納得のいく二文字に、だからなんだよと若い俺は頭を振った。
例え俺がそうでも、そうであっても、それを自覚しても、自覚したからこそ、手に入らない存在だと気が付いてしまったわけだ。
91
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:12:42 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)
(-@∀@)『フォックス、ついてないね』
誰かに言われた声が頭の中で響いた。
ついてないね。
そう言って笑ったのは眼鏡をかけた学生時代のモララーだった。
食べたかったアイスがコンビニに無かった。隣で早々に自分のアイスを確保していたモララーが、楽しそうに笑いながら言う。うっせ、唇を尖らせて返せばまた、清々しく笑った顔がしばらく脳裏に焼きついて離れなかったんだ。
92
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:13:10 ID:ppuPCi7c0
だから、本当にたまたま、偶然、棚から落ちてきた牡丹餅を俺は必至でキャッチしたんだよ、あの時。
打ち合わせを兼ねて入ったカフェでいくつか他愛ない話をして、モララーは楽しそうな顔で笑っていた。
(-@∀@)「好きだなぁ」
一瞬自分の心の声が漏れたのかと思ったが、違った。モララーが言ったんだ。
主語も何もなかったけれど、表情や脈絡を考えても多分恐らくきっと俺に向けての発言だろう。そうであって欲しい俺の妄想でなければ。
心臓が爆音で跳ねて、何で返せば良いのか脳がフルで回転しているのがわかった。
爪'ー`)(あ、逃がしちゃだめだこれ)
そう、思ったんだ。これは最初で最後のチャンスなんだって。
反対にモララーはどうやって今の失言を取り消そうかあぐねている様子だった。
笑ってなんだよそれって放流すればきっともう会えない言葉だと、そう思って考えるより先に口が動いていた。
爪;'ー`)「───じゃあ付き合お」
先にも後にもこれほどダサい告白はないだろうって、ほんの少し噛みかけながらの言葉が口から溢れたのだ。
93
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:13:39 ID:ppuPCi7c0
勢いというのは怖いもので、俺は柄にも無く結構必死だったから無理矢理モララーとの付き合いを丸め込んだ。何をどうするかなんて考えちゃいなかった。今だからわかる、それもきっと良くなかった要因なんだろう。
それでもその時は手が震えるくらい、嬉しかったんだよ。
誤魔化すようにモララーの手を握って、これが夢じゃないって思う事が精一杯で何を話したかあんまり覚えてない。
だからそのあとしばらくはお互い多忙で会えなかった時、本当に付き合う事になったのか心配になったけど向こうからも連絡がなかったのでこちらからもしなかった。
仕事で会えるし。キャラじゃないし。
94
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:14:10 ID:ppuPCi7c0
(;@∀@)「あ! え、あ、う」
爪'ー`)
爪*'ー`)
ようやく会えた時にモララーが顔にありありと「どうしよう」が浮かべているのを見て思わず笑ってしまった。
可愛いなんて、同い年の、それも男に思うなんてどうかしてるのかもしれない。それでも良かった。
周りに言うか聞いてみれば血の気が引いたような真っ青な顔でしないと言われ、ほんの少し残念だと思った。そしてすぐ、自分は誰かに自慢したいのかと気付いてあまりの浮かれっぷりに恥ずかしくなったのだ。
95
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:14:33 ID:ppuPCi7c0
爪;'ー`)(そりゃそうだわ、モララーのリアクションは当然だよ。危ねー)
爪'ー`)(大事にしたい、は変か?でもなぁ、今までみたいにすぐ別れても良いって思えないんだよな)
爪'ー`)(仕事仲間でもあるし、距離感間違えないように慎重にいくか)
96
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:14:56 ID:ppuPCi7c0
昔から一緒に過ごして来て大体のことを知ってる相手に慎重ってどういう事だと自分でも謎に思ったが、付き合えているだけで嬉しくて、不思議な満足感があった。
どこで会っても誰かにバレないよう、『普通』を頑張って努めて努めて努めて、努力賞を貰っても良いぐらいだ。
爪'ー`)「……全然付き合ってる感がねえ」
それはそう。今までと同じく『普通』にしているのだから。
じゃあ何をすれば『普通』じゃなくて『恋人』なのか。
そもそもモララーは『普通』に対して何も言ってこないし、もしかしてそれで案外満足していたり、するのか?
爪;'ー`)「それは…流石にきついんだけど…」
97
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:15:19 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)〜〜♪
爪'ー`)(誰だ?)
爪;'ー`)(モララーから着信だ!)
考えていた人物からの突然の連絡に焦りスマホを落とし掛けた。
留守番登録していたことを忘れていて出る前に切れてしまった。いつもはメッセージのやり取りだけで電話なんてもしかしたら初めてだったので驚いたのだ。
すぐに掛け直すと「家に行っていいか」と聞かれ一瞬返答に詰まる。
そりゃもちろん良いけれど、モララーの真意がわからない。本当に言葉通り楽器を借りたいだけだとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい。
98
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:15:48 ID:ppuPCi7c0
爪;'ー`)(家に来るのは良いけど、来たら何かしない自信ないしな)
爪;'ー`)「あーーー……ちょっと…」
(;@∀@)『あ、そうだよねごめん突然すぎた申し訳ない』
難色を示す声に対してモララーはするりとその話をおしまいにしようとするから、違うとわりかし強めに声を出してしまった。
爪;'ー`)「いや、そうじゃなくて、………俺が持ってくよベース、お前の家に」
(-@∀@)『え』
爪;'ー`)(モララーの家なら変な気分にもならないでしょ、あいつんち四方八方音楽に関係するもんばっか置いてあるし)
爪'ー`)「……行ってもいい?」
ええいままよ、の気持ちはあった。どうにかなれと。
電話で良かった。今きっと俺情け無い顔してる。
(-@∀@)『うん』
優しい声だった。機械越しではあるけれど。
その返事に、思いの外ホッとしてしまったのは内緒だ。
99
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:16:18 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「おじゃまします」
( ・∀・)「どうぞ〜」
学生時代に何度もモララーの家に行ったことはある。あるが今回は全然違うわけだ。何か買って行ったりすれば良かったかもしれない、でもそれはそれで意識しすぎと思われるかなんて悩んでそのままで来てしまい、少々後悔する。
部屋は片付いていて、若干居た堪れなさを感じた。
爪;'ー`)(モララー何で眼鏡外してんだ?どういう意味だ?)
爪'ー`)「てかさぁモララー、なんで眼鏡外してんの?」
( ・∀・)「と、くに意味は、ないよ」
ライブの時に眼鏡を外しているのは緊張するからだと、昔々に教えてもらった。
爪'ー`)(もしかして、モララーも緊張…してんのかな)
100
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:16:46 ID:ppuPCi7c0
目が合ってすぐ逸らされ、そのままキッチンへ消えていくモララーにそうだったら嬉しいのにと思った。
カウンター越しに覗いてみると、青くて綺麗なグラスを取り出して茶を注いでいた。
気を遣わなくて良いのに。
( ・∀・)「青いのが透けて綺麗だったから、フォックス用に良いかなって思ったんだよ」
爪'ー`)「わざわざ買ってくれたの?」
『わざわざ』なんて強調する必要なかったかと、言ってから気がついたが遅く、消すことの出来ない言葉がモララーに落ちていった。
(;・∀・)「あ。や、うち普段人来ないから食器自分のしか無くて、紙コップよりは良いじゃん、何回も使えるし」
焦るような口振り。言い訳じみた言い方をするのは照れ隠しだと、長い付き合いで知っている。本当に俺のために買ってくれたんだ。
101
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:17:40 ID:ppuPCi7c0
渡された綺麗なグラスはどっかの誰かみたいな、からっとした晴天のような色をしている。
まるで宝物を手にした気分だったんだ。
爪*'ー`)「キレーだな。サンキュー」
モララーが今日どんな気持ちで声をかけてくれたのかはわからないが、それでもこいつなりに色々考えてくれているのが嬉しかった。
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