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(´・_ゝ・`)白天、氷華を希うようです('、`*川
200
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:34:53 ID:TcObiKy60
盛岡くんの声がピタリと止まる。
さっきまでは夏の曼珠沙華みたいに紅く染まっていた彼の頬が、一気にその熱を失っていくのが見て取れた。
(;´・_ゝ・`)「……は?」
静かな視線が降り注ぐ。
怒りではない。ただただ困惑の色だけが浮かんだ瞳。
無理しなくていいのに、と、私はどこか他人事のように心中で溜息を零した。
嬉しくない。そう言えば真っ赤な嘘になる。
多少なりとも、長年ずっと片思いしていた異性から特別に想われていたのだ。それが嬉しくない筈がない。
けれど、分かっている。私は既に見てしまっている。
それはあくまで、「他の人と比べれば」程度の特別に過ぎないということに。
201
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:37:10 ID:TcObiKy60
('、`*川「……他に、大事な人、いるんでしょ?」
一月と二週間余り前の映像が頭に浮かぶ。
記憶することだけに特化した無駄な脳が、視界の隅の街灯ですら鮮明に脳裏に映し出す。
(*;´・_ゝ・`)ζ(^―^*ζ
深夜。嫉妬すら浮かばないほどに可愛らしい女の子と、その近くで照れたようにしていた盛岡くんの姿。
碌に恋愛経験を積んでない私でも、あの場面を目にすれば流石に察せられる。
見たことのない顔だった。
彼の後ろを必死について来たこの10年の間で、一度も見たことのないような。
どんなに綺麗な女性の前でも、ましてや私の前でなど見せてくれたことのない表情。
記憶力だけが取り柄だった。そして、この10年間ずっと、たった一人のことだけを見ていた。
だから、分かってしまった。理解してしまった。ただの腐れ縁には決して見せない、見れない表情だったから。
そういう顔を見せられる女の子がいたんだ、と。
202
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:41:16 ID:TcObiKy60
(;´・_ゝ・`)「…ま、待ってくれ、何の話……」
('、`*川「見ちゃったんだ。前に、一回だけ」
重力に負けないよう、やや斜め下に顔を逸らす。
直接彼の顔を見れば、若しくは真下を向けば、すぐにでも涙が溢れてしまいそうだった。
('、`*川「……綺麗な人と、楽しそうにしてたの。先月の、真夜中」
出来るだけ無感情を装おうとした言葉を吐き出す。
暖かな空調が効いているのに、なぜだか急に寒く感じる。
それでも冬の夜に回るゴンドラの中はひどく静かで、自分でも震えが隠しきれていないのが分かった。
203
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:44:01 ID:TcObiKy60
(;´・_ゝ・`)「……先月…?」
('、`*川「流石にさ、あんな風にしてる君見たら、いくら私でも察するよ」
(;´・_ゝ・`)「…い、いや待て。それは…」
分かりやすいくらいに狼狽し始めた彼の言葉に、被せるように口を動かす。
こんな惨めなこと、口にしたくなんてない。それでも冷静さを失った私の口は止まるという選択肢を選んではくれなかった。
('、`*川「私のことを君なりに気遣ってくれたのは、嬉しい。でも さ」
(;´・_ゝ・`)「待て、待ってくれ、たぶん違う。おそらく勘違いだ」
('、`*川「やっぱり、そういうのはダメだよ。きちんとしないとさ」
204
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:49:21 ID:TcObiKy60
目の前に座る彼にじゃなく、自分に言い聞かせるように言葉を吐き出していく。
分かってる。これでいい。人にはやっぱり身分というものがある。
私みたいな地味な女が選ばれる訳も道理もない。こうして一緒に観覧車に乗るという約束を守ってくれた。それだけでもう充分だと笑って満足すればそれでいいのだと。
(;´・_ゝ・`)「聞いてくれ、まずは落ち着け。いいか、おそらくお前が言ってるのは」
( 、 #川「落ち着いてる!分かってるよ!私、勘違いとかしないから…!」
(;´・_ゝ・`)っ□「だからっ…違う!お前が言ってるのは、この子だろ!」
ヒステリックな私の声と、珍しく焦燥の色を浮かべた彼の声がゴンドラ内で反響する。
クラシックにはほど遠い余韻がゴンドラ内を巡ったのは、私も彼もピタリと声を止めたから。
言い争いが止まったのは、とある一枚の写真が私の目に留まったから。
盛岡くんが見せつけてきたスマホを見て数秒フリーズし、おずおずとそれを受け取る。
渡された液晶画面の中に映し出されていたのは、楽し気に笑っている二人の男女。
『(*;^ν^)ζ(^ワ^*ζ』
片方は見覚えのある、以前、盛岡くんの隣にいた可愛らしい女性。
そしてその彼女の隣には、女性とは比べ物にならない程に見覚えがありすぎる後輩が映っていた。
205
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:53:21 ID:TcObiKy60
('、`;川「……新塚くん?」
大学が同じだった、一学年下の後輩。
この世の全てが気に食わないみたいな仏頂面をいつもしていた彼が、見たことのない腑抜けた顔をしている。
昔、デルタくんの悪ふざけに嵌り酔った新塚くんからされた話が、頭の中で鮮明に再生されていく。
パティシエをしている幼馴染がいること、彼女に褒められたくて弁護士になったこと、時間はかかったがようやく恋人という関係になれたこと。
大量の日本酒に負けて珍しくふにゃふにゃになりながら、幸せそうに語る後輩の姿は私じゃなくてもしっかりと覚えている。それくらいあの姿は衝撃的だったし面白かった。なんならナベちゃんのスマホには映像証拠だって残っているはずだ。
('、`;川(……え、待って)
(;´・_ゝ・`)「流石に、これで分かったろ」
呆れたような盛岡くんの声が鼓膜を揺らすと同時に、バラバラに散らばっていたピースが高速で一人でに完成していく。
見せられた写真の中で、無愛想な後輩は見たことがないくらいに締まりのない顔をしている。そして、その横にいる女性はこれ以上ないくらいに幸せそうな笑顔を浮かべている。
まさか。というか、ほぼ間違いなく、これは。
私はずっと。一人で。勝手に。
206
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:54:50 ID:TcObiKy60
('、`;川「………この、人って、まさか…」
(´・_ゝ・`)「こいつの恋人だ。…いや、もうすぐ奧さんになるんだったか」
(;´-_ゝ・`)「先月のあの日は、挙式の予定日について聞いてて…そもそも、離れていただけで他に人もいたんだ。お前がどの瞬間を見かけたのかは知らないが」
最後のピースがかちりと頭の中で嵌った音がした。
頭の中が一瞬、雪原のように真っ白になる。
あぁそうか。あの人は、新塚くんの彼女さんだったのか。
そういえば確かに私は、新塚くんから偶に惚気話を聞くことはあれど、彼女さんの写真などは一度も拝見したことがなかった。いくら記憶力に自信があると言えど、一度も見たことのない人の顔は思い出しようがない。
盛岡くんは、後輩の彼女さんと話していただけなのか。なるほど、親しい後輩の恋人で既に面識もあるのなら、話の内容如何によっては遠目からだと親し気に見えても不思議じゃない。
つまり、ようするに、今の今までずっと。
ただ私が1人で、勝手に盛大な勘違いをしていた、だけで。
207
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 00:56:36 ID:TcObiKy60
(;´-_ゝ-`)「まったく…これでいいか?まさかこんな甘ったるい写真が役に立つとは思わなかった。とにかく、これで改めて話を…」
( 、 *川「……………さ」
(´・_ゝ・`)「ん?なんだ」
( 、 *川「……さっさと」
(´・_ゝ・`)「だからなんだ?もう少しはっきり――」
( Д #川「――さっさと!!言ってくれればよかったじゃないのよーー!!」
真っ白なゴンドラの中で、真っ赤な顔をした女の怒号が爆音で響き渡った。
208
:
名無しさん
:2025/01/01(水) 01:02:21 ID:TcObiKy60
('、`#川「なん…っっで何も言わないの!?誰にいつ、何の要件で会うか!スケジュールの報告は漏れなく伝えてってあれほど口酸っぱく言ってるのに!!」
(;´・_ゝ・`)「は、はぁ!?なんだ急に!なんで僕が逆ギレされなきゃいけない…」
('、`#川「昔っから何も変わってないじゃない!いつもずっとそう!君の気紛れとうっかりに苦労する人間の気持ち考えたことある!?」
(#´・_ゝ・`)「それを言うなら、いきなり長年の付き合いがある部下から退職届持ってこられた上司の気持ちを考えたことがあるのか!?僕がそれでどれだけの時間を無駄にしたと思ってる!時価総額3500億の会社が、一瞬とはいえお前一人のせいで止まったんだぞ!!」
('、`#川「死ぬほどあるベンチャー企業の一つや二つ止まったってこの国には何の影響もないわよ!本っっ当に人の言うことなんにも聞かない…そうよ、4600円とかいう強気すぎる価格で上場した時だって、無名の大学生が描いた絵を一億出して買おうとした時だって!」
(#;´・_ゝ・`)「あ、あれは、その…というか、お前に言われた通り最終的には買わなかっただろうが!」
('、`#川「京都のご令嬢に競り負けただけでしょ!ていうかもし競り勝っちゃってたらどうしてたのよ!ばか!!」
209
:
名無しさん
:2025/01/20(月) 23:33:46 ID:o.436vFo0
その酸っぱい口でレモン味のチッスをだな
210
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 00:34:15 ID:/V6cX1oM0
『侃侃諤諤』という、試験以外の日常では一度も使ったことのない四字熟語が脳裏をよぎる。
学生の頃、数えるのも馬鹿らしくなるほど日常的に彼から挑まれた勝負。その中でも特にポピュラーだったのが知識対決。
四字熟語や諺、果ては国旗など無為としか思えない勝負に幾度も付き合わされた。
お陰で随分と語彙は増えたが、大人になった今でも用途は変わらず口喧嘩という事実に我ながら情けなくなってくる。
(#;´・_ゝ・`)「そもそも僕は負けてない!アレは落札者が元々あの画家のことを知っていて……」
そこらの政治家の口より回る彼の舌が、どうしてかゆっくりと減速していった。
私が発した理屈に納得したのかと思いたくはあったが、今までの経験が違うと告げる。
では何故彼は急に口ごもったのだろう。疑問に思いながら伺うように彼を見た。
一瞬私のことを見ているのかと思ったが違う。彼の視線は私の僅か上を通り過ぎて、窓の外へと向けられている。
後ろを振り返り、背中側からの景色を見る。
するとそこには、満天の星空と見紛うような、美しい夜景の街並みが広がっていた。
211
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 00:37:14 ID:/V6cX1oM0
('ワ`*川「わぁ……!!」
口から勝手に、感嘆の息が漏れた。
普段自分たちが働いているオフィスからでも見られない高度からの景色。私たち二人がみっともない口論を交わしている間に、ゴンドラはほぼ頂点にまで動いていたらしい。
既に日付は変わっているはず。それでもこの港町に並ぶビルや建物は未だ力強い輝きを煌々と保っている。
まるで、星空をカーペットにしたみたいだった。
('、`*川「綺麗……観覧車って、こんな景色が見られるのね」
あれほど学んだ語彙もまるで役には立たず、言語化できたのは陳腐で平凡な感想のみ。それでも、ずっと憧れていた以上の光景が眼下にあった。
この感動を共有しようと誘ってくれた本人に声をかける。しかし、先ほどからずっと彼は石化したが如く何も言おうとしない。
どうしたのか。そう聞こうとしたその瞬間だった。
(;´・_ゝ・`)「………ミスった」
('、`*川「へ?」
(;´・_ゝ・`)「失敗だ!失敗してる!!」
('、`;川「きゃっ……ちょ、ちょっと揺らさないでよ!危ないでしょ!?」
手すりを掴んだまま激しく狼狽し始めた盛岡くんを慌てて制止する。
一体彼は何に慌てているのだろう。これほどの夜景を見て感動して静止するのなら分かる。網膜を焼く光の一つ一つに興奮して表情が明るくなるのも分かる。
だが、憤慨して暴れ出すというのは全くこれっぽっちも分からない。彼が感情的になるシーンを見るのは別に初めてではないが、その表情には怒りというよりも、後悔の色が強く出ていた。
212
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:19:53 ID:/V6cX1oM0
('、`;川「し、失敗って何?これだけ綺麗に見えてるのって寧ろ珍しいんじゃ……」
(;´・_ゝ・`)「過ぎてるんだよ!僕としたことが……乗ってからの時間も計るべきだったのに!」
('、`;川「過ぎてるって……ちょうど今てっぺんなんじゃないの?」
(;´・_ゝ・`)「違う! 本当に頂点なら、僕らの会社のビルが下に見えるはずなんだ!」
悔しそうな顔をしながら、彼は座らずにピンと立てた手のひらを外の景色に向ける。
自身の長くがっしりとした指を指標にしながらじっと景色を睨むこと数秒、黙ったまま続けていたらしい何かしらの計算が終了したのか、彼はがっくりと項垂れて倒れ込むように椅子へと凭れた。
('、`;川「ちょっと……だ、大丈夫?」
(;´ _ゝ `)「……大丈夫じゃない。こうなったら、また降りてもう一周……」
('、`;川「はぁ?無理でしょそんなの!いくら何でも我儘が過ぎるわよ!」
本来ならこの時間に観覧車が回っているなどあり得ない。十中八九、盛岡くんが色んな関係各所に手と金を回して無理やり動かしてもらったのだろう。
この街の景観や条例などを加味すれば、おそらく一度動かしてもらえただけで相当破格な待遇に違いない。それを更にもう一回など、無茶を言うにも程がある。
213
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:21:33 ID:/V6cX1oM0
('、`*川「ほら、外見なさいよ。まだこんなに綺麗な夜景が見えてるんだし別に失敗なんかじゃ……」
下を向いて落ち込む盛岡くんへの言葉を途中で切ったのは、彼の足元で何かがキラリと光ったのが見えたからだった。
なんだろうかと思い、ゆっくりと手を伸ばす。
ゴンドラの床に転がっていたのは、細やかかつ、瀟洒な意匠がなされた白い小箱だった。
□⊂('、`*川「……なに、これ」
手に取って見ると、見た目よりもずっしりとした重さが指先から伝わってきた。
中は空洞じゃない。間違いなく何かしらが入っている。
箱自体がそもそも随分と手が込んだ代物であろうから、もしかしたら中身も相応な物なのではないだろうか。
□⊂('、`*川「ねぇ、これ君のじゃない?」
今まで見たことがない程に落ち込んでいる盛岡くんの肩を叩き、そっと手に持っていた小箱を差し出した。
私の手に握られたままの小箱を見た瞬間、彼は慌てて服のポケットを探り始める。
そして、奪うように私の手から白い小箱を取り上げた。
214
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:22:03 ID:/V6cX1oM0
(;´・_ゝ・`)っ□「も、もう中見たのか!?」
('、`*川「は?まだ見てないけど」
私の正直な返答に、彼は再び俯いて長い溜息を吐いた。
安堵の表情を浮かべる彼と裏腹に、私の胸中では再び怒りの炎が揺らぐ。
この小箱が彼の物だということは分かった。だが、それを渡したというのにお礼の言葉の一つもないのかと。
('、`#川「……『ありがとう』くらい言ったらどうなの」
(;´・_ゝ・`)「あ、あぁ、すまん」
('、`#川「謝れなんて言ってないでしょ。いつになったら普通にお礼の言葉が言えるようになるのよ」
そっぽを向きながら、嫌味たっぷりにそう告げる。
窓の外は未だ輝かしい夜景が広がっているが、先ほどと比べるとどこか見劣りするように思えた。
記憶の中に残っている景色と比べれば、その理由はすぐにでも分かる。さっきよりも高度が下がっているのだ。現在私たちが搭乗中のゴンドラは既に頂点を通過し、今はゆっくりと下に降りているのだろう。
つまり、あともう少しで、この遊覧はおしまいだということだ。
('、`*川「……?」
なんとなく違和感を覚えて、ぼんやりと外を見ていた視線を眼前に戻す。
どうせ間を置かず放たれるだろうと思っていた口撃がいつまで経っても来ない。
不思議に思って前を見ると、盛岡くんは随分と悲痛な面持ちで小箱をじっと見つめていた。
215
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:22:49 ID:/V6cX1oM0
(;´-_ゝ-`)「……すまなかった」
('、`;川「……えっ?」
(;´∩_ゝ-`)「あぁいや、違う。『ありがとう』か……また間違えた、すまん」
('、`;川「い、いや別に……どうも……」
今までの彼からはとても想像がつかないような、か細くて小さい声。
その姿があまりに見覚えのないものだったから、私もどう声をかけていいのか分からず、曖昧な返事だけを発する。
ここまで落ち込んでいるところは見たことがない。
株主によって事業計画を変更せざるを得なかった時も、二年かけて獲得しかけた土地を結局、別の大手に取られた時も。今まで一度だって彼は、下を向いて落ち込むなんてことはしなかったのに。
('、`*川「……ねぇ」
('、`*川「君、なにを失敗したの?」
秘書として、友人として、声をかけなくてはならない。
何かしらの鼓舞や慈雨の言葉を発しなくてはならない。
それでも、こういう時に自慢の記憶力は何も役には立ってくれず、喉に力を込めてようやく出たのは単なる質問だった。
(´ _ゝ `)「……こんなハズじゃなかったんだ」
小箱を握っている大きな両の手が、細かく震えたのが見て取れた。
216
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:24:16 ID:/V6cX1oM0
(´ _ゝ `)「十年以上かけた。考えて、行動して……ここまで来るのに十年もかかった」
目はこっちを向いていない。それどころか、今彼が発している言葉すら私に向いているのかも分からない。
けれど、絞り出すようにポツポツと零れる言葉があまりにも真剣で、私は何も言葉を挟めないでいた。
(´ _ゝ `)「家を出て、事業を始めて、親友を巻き込んで……理由を作ってお前を傍に置いて」
(´ _ゝ `)「あの日の観覧車より大きなビルを建てた。一生どころか三生くらいは遊んで暮らせるくらい金も儲けた。これでやっと……やっと、堂々とお前の横に立てると思った」
(´ _ゝ `)「でも、駄目だなやっぱり。お前が絡むと、どうにも俺は駄目になる」
いつの間にか一人称まで戻っている。
大学に入ると同時期に、彼がなぜか突然変えた呼称。
(;´-_ゝ-`)っ□「……本当は、一番高い所で、渡す予定だったんだ」
盛岡くんの手のひらに、白い小箱が乗っている。さっき床を転がったそれが、ゆっくりと開かれる。
中から現れたのは、小さなダイヤモンドが付いた指輪だった。
.
217
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:24:52 ID:/V6cX1oM0
('、`;川「……え」
自分が発したとは思いたくない程に間抜けな声が漏れる。
指輪に付いたダイヤモンドにゴンドラ内の照明が反射して、目が眩む。
それでも私の視線は、煌めきを放つ指輪を捉えて動かなかった。
('、`;川「…………なに、コレ」
続けて出た声も、ひどく気の抜けたもの。
いや、指輪なのは分かっている。付いている宝石と、収められていた小箱の意匠からも、どういう用途に使われるものなのかも察しがついている。
私が絞り出した声に、盛岡くんはひどく戸惑った表情を浮かべた。
(;´・_ゝ・`)「……もしかして。結婚に指輪っていらないのか?」
('、`;*川「いやいるけど!!い、いるけど……ちょ、ちょっと待って!!」
慌てて両手を前に出して拒絶する。
いや別に嫌という訳ではないが、こちらにも心の準備というものが必要なのであって。いきなりそんな物を出されても困るというか。
差し出された指輪を見る。
アクセサリーや宝石などに関する格別な知識はないが、指輪に施された細やかな意匠や、付いている宝石の光の反射具合、なにより、用意したのが他の誰でもない盛岡くんということから、偽物の類でないことは分かる。
だからこそ困惑する。まさかそんな代物を、本当に用意してくるだなんて。
218
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:25:48 ID:/V6cX1oM0
( 、 ;*川「い、いきなりそんな凄いの出されても、信じられないというか、色々通り過ぎてちょっと怖いというか……」
('、`:*川「…………正気?」
何かを誤魔化すように髪をいじりながら、ちらりと眼前に座る彼の様子を伺う。
慌てる私の顔を真直ぐ見ながら、盛岡くんは至って真面目な顔をしていた。
(;´-_ゝ-`)「……正気かどうか問われるとあまり自信はないな。観覧車まで貸切るなんて、行き過ぎた行動だというのは流石に自覚してる。相談したデルタにも言われた」
視線が一瞬、手元の指輪に注がれる。
純白の光を放つプラチナの輪と、小さいながら立派な光沢を有したダイヤモンド。
(´ _ゝ `)「でも、本気なんだ。冗談でも、揶揄いでもない」
(´・_ゝ・`)「俺は……僕は本気で、お前のことが欲しいと思った」
(´・_ゝ・`)「……いや、違うな。『欲しい』っていうのは、ちょっと違う」
少し震えた真摯な声が、私の鼓膜を揺らしている。
今まで聞いたどんな声よりも、真直ぐな声。
(´・_ゝ・`)「僕が、お前の隣にいたいんだ」
(´・_ゝ・`)「金よりも、地位よりも名声よりも何よりも、お前の隣を堂々と歩ける、その権利が何よりも欲しいんだ」
「だから」という小さな呟きと共に、指輪が入った箱が少しだけ前に出る。
219
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:26:44 ID:/V6cX1oM0
(´・_ゝ・`)っ□「――僕と、結婚してくれないか」
私の薬指にピッタリと合うように調整された白銀の指輪が、満月のように光って見えた。
220
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:27:18 ID:/V6cX1oM0
*
('ワ`*川「……あ、見てみて!雪ちょっと積もってる!」
(´-_ゝ-`)「走るな。転んでも助けないぞ」
('、`*川「なによケチ。その長い腕は飾り?」
(´・_ゝ・`)「少なくとも酔っぱらいを支えるために長くなった訳じゃない」
桜の花びらみたいにゆっくりと宙を舞う雪の中、子どものようにはしゃぐ伊藤の後ろを歩く。
足元を見れば、ところどころに穢れのない真っ白な雪の塊が点在していた。
221
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:27:49 ID:/V6cX1oM0
('、`*川「マイナス5点。世間一般の彼氏はこういう時、嘘でも支えるって言うものよ」
伊藤の口から出た『彼氏』という言葉に、ほんの一瞬だけ足が止まりそうになった。
動揺したことを一々悟られるのも嫌で、「いいから前見て歩け」とだけ返した一方、頭の中で『恋人』という新たな関係の名前を復唱する。
長い時間をかけた上、あれこれと面倒な根回しと準備をした結果得られた地位と関係性は、当初予定していたものより少しグレードは下がるも、まぁ、どこか悪くない響きに思えた。
222
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:28:25 ID:/V6cX1oM0
一世一代の覚悟を持って挑んだプロポーズは、結論から言うと、ものの見事に失敗した。
シチュエーションが問題だったのではない。
場所も時刻も、理想とまでは言えないものの彼女が好みそうな状況には限りなく近づけられた。
用意した指輪が問題だったのでもない。
あまり高価すぎるのも文句を言われるだろうから、世間一般の基準らしい、自分の年齢の平均月収三か月分の物を用意した。個人的には随分質素になってしまったと物足りなさを感じていたが、彼女にとってはその方がいい筈だ。
にもかかわらず失敗した。
至極業腹ではあるが、プロポーズについては玉砕という形で見事に終結した。この僕が考えたプロポーズが、である。
理由は彼女曰く
('、`*川『……いや、交際すっ飛ばしていきなり結婚とかありえないでしょ』
とのことだ。
今更僕らにそんな期間が必要なのかは正直よく分からないが、彼女が言うなら世間的にはそういうものなんだろう。納得こそしていないが、とりあえずは飲み込むことにした。
金、容姿、社会的地位。世の人間が交際相手に求めるらしいトップスリーの要素を全て満たしているこの僕のプロポーズは、呆気ない言葉で儚く失敗した。
だがまぁ、そんなにショックかと問われると別にそうでもないというのが本音だ。
彼女が僕の想定通りに動かないことなど昔からだし、今こうして雪の中を楽しそうに跳ねる姿を見ていると、失敗ではあったが、無駄ではなかったと感じる。
223
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:29:39 ID:/V6cX1oM0
(´・_ゝ・`)「……ん」
視界の先、彼女の足元付近で何かが煌めいたのが見えた。
歩く速度を少しだけ早め、コートのポケットに突っ込んでいた手を出す。
('、`;川「きゃっ…!?」
案の定、地面で固まり始めていた雪に足を滑らせて転びかけた彼女をギリギリ腕で支える。
覗き込んだ彼女の顔は、月光しか光源がないこの暗闇でも分かるほどの紅で染まっていた。
酒か、それともこの寒さのせいか。どちらにせよ、あまり他の男に見せたいような顔ではない。
('、`;*川「あ、ありがと……」
(´・_ゝ・`)「だから言ったろう。間抜け」
しっかりと両方の脚で立たせ、腕を放して、手を繋ぐ。
ただでさえ足元が暗い上にこの雪だ。慎重に歩いていたって転ぶ可能性は十二分にある。
だからまぁ、五指を絡めて手を繋ぐということは、安全配慮という観点からしても妥当な筈だ。
('、`;*川「……へっ!? ちょ、ちょっと、手……!」
(´-_ゝ・`)「なんだ。彼氏が彼女と手を繋いで歩くのも、非常識なことなのか」
僕の言葉に、伊藤はしばらく水族館の魚のように口をパクパクと動かしたが、結局なんの言葉も発さないまま下を向く。
そして、手は繋がったまま何も言わずに、ただゆっくりと歩くのみであった。
224
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:30:14 ID:/V6cX1oM0
(´・_ゝ・`)「……どうした。何も言わないのか。気持ち悪いな」
('、`;*川「き、気持ち悪いってなに」
(´・_ゝ・`)「いつもなら僕の発言1つに、10や20で応戦してくるだろう。それが突然いやにしおらしくもなれば、この季節じゃなくても悪寒で体が震える」
(-、-#川「……ちょっとはマシになったと思った私が間抜けだったわよ!」
「怒っていても手は離さないのか」、なんて言葉は口にせず、腹中に戻す。
ここで何か追加で物申したところで穏便な流れには繋がらないし、何より、初めて得た口喧嘩での勝利だ。それも言い訳の余地なく、紛うことなき、こちらの勝ち。
下手に問答を続けて辛酸を舐めるより、余裕ある大人の対応をした方が遥かに良い。朱に染まった彼女の頬を横目に歩きながらなら、猶更だ。
黙ったまま遊園地内を歩いていると、ふと、ペニサスの視線が忙しなく動いているのに気が付く。
一体何をチラチラ見ているのかと様子を伺うと、その疑問をすぐに氷塊した。
繋がれていない方の彼女の左手。その薬指。
観覧車のゴンドラ内で渡した指輪が、彼女の左手薬指でキラリと光っているのが見えた。
225
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:30:58 ID:/V6cX1oM0
(´・_ゝ・`)「……一応言っておくが、無くすなよ」
指輪を気にしていることがバレたのが恥ずかしいのか、彼女は勢いよくこちらを向いて睨みつけてきた。
('、`#川「無くす訳ないでしょ。ちゃんと家で大事に仕舞うわよ」
(;´∩_ゝ-`)「……昔から、変なところで察しが悪いな。お前は」
握っている手にやや力を込め、彼女の両目をしっかりと見つめ返す。こちらがどういう意図で言ったのか本当に理解していなさそうなその様子に、少し頭が痛くなる。
テストで彼女に一度も勝ったことのない自分が述べられる所見ではないのだろうが、出来の悪い生徒を持った教師というのはこんな心持ちなのだろうか。
(´・_ゝ・`)「いいか。それは結婚指輪ではなく、婚約指輪になったんだ。どこぞの頭カチカチ女が僕のプロポーズを拒否したお陰でな」
('、`#川「嫌味ったらしい言い方しなくても分かってるわよ。めちゃくちゃ高価な指輪なのも分かってるし、だから、家でちゃんと……」
(´-_ゝ-`)「分かってない。自分があげた指輪を家に飾る女を見て、喜ぶ男がどこにいる」
('、`*川「……?」
('、`*川「なんでよ。大事にしてるんだから、少なくとも嫌ではないんじゃないの?」
ここまで言ってもまだ分からないかと視線で訴えるも、彼女は未だ首を傾げたまま。
現代文でも古文でも漢文でも満点続きだった女が、今更なにを無知ぶっているのか。
226
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:31:30 ID:/V6cX1oM0
(;´-_ゝ-`)「……お前、指輪をつけた女を会社で見て、どう思う」
('、`*川「えっ?そりゃあ……既婚者なんだな〜って」
(´-_ゝ・`)「他には」
('、`*川「他って言われても…お洒落だなぁとか……恋人からのプレゼントなのかな、とか?」
(´・_ゝ・`)「それだ」
端的に答えを示す。
数秒遅れて、伊藤の頬が更に赤くなる。
鈍い彼女でもようやく理解してくれたようで、僕は顔に感情を出さないまま、ホッと胸を撫で下ろした。
『虫除け』という効果など、一々口に出したくはない。
227
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:32:30 ID:/V6cX1oM0
(´・_ゝ・`)「……なぁ」
黙ったまま、園内の出口に向かって歩くこと数分。改めて沈黙を破ったのは僕の方からであった。
何かを期待したような顔がこちらに向く。関係性が新しくなったからか、もう十年以上見慣れた筈の彼女の表情が、いつもと何処か違って見えた。
(´・_ゝ・`)「今日の僕は、何点だった」
伊藤と過ごした日の終わりに、いつも尋ねている決まり事。何もかもに点数を付ける彼女の癖を基にした、自分への評価。
いつからか、彼女から告げられる点数が人生の指標になっていた。
('ー`*川「うーん……80点?今日なら、それくらいはあげてもいいかもね」
上機嫌そうな彼女の横顔を見ながら、告げられた点数を心中で復唱する。
80点。今まで聞いた点数を更新する、最高得点。
普段なら飛び上がるほどに喜んでいただろう。家に帰って、祝いと称して秘蔵のワインを開けていたことだろう。
だが今の自分は、そんな点数では満足できなかった。
(´ _ゝ `)「……いい加減、減点方式はやめてくれないか」
僕の声に、伊藤は困惑したようにこちらを向いた。
握ったままの手に少し力が入る。以前にも歎願した、採点方式の変更願い。
228
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:33:18 ID:/V6cX1oM0
(´・_ゝ・`)「加点方式なら、何点つけてくれるんだ」
歩みを進めていた足が、二人同時にピタリと止まる。
伊藤は空いていた左手を口元に当て、何かを考える素振りを見せた。
左手に輝く指輪を見る。さっき自分があげた、婚約指輪の代わりとなった円輪。
道に積もった雪に反射した光がダイヤに当たって、その存在が一際目立っている。
('、`*川「……加点で………?」
('、`*川「……」
(-、-*川「………」ウーン
(;´・_ゝ・`)「………」ハラハラ
裁判官からの判決を待つ被告人の気分とは、こんな気持ちになるのだろうか。
空いている方の手が顎に当てられ、目を閉じ、真剣に何かを考えている伊藤の顔をじっと見る。
自分も彼女も無言のまま。雪が降る深夜、他に何の音も聞こえてこない閑静とした空間。
229
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:33:46 ID:/V6cX1oM0
数分か、それとも数十分は待っただろうか。
('、`*川「………99点、かな」
口元に寄せられていた左手が下げられ、判然とした声で、点数を告げられた。
思わず耳を疑ってしまった程の高得点。
そして、それを告げた張本人は慈愛のような優しさを含んだ目で、微笑を湛えたまま僕を見つめていた。
('ー`*川「……うん。加点方式なら、それくらいあげてもいいかも」
楽し気な歩幅でこちらとの距離が詰められた。
改めて、彼女の小柄さを意識する。自分とは比べ物にならない程に細くて、華奢な身体。
こんな、少し自分が力を込めて抱きしめてしまえば忽ち折れてしまいそうな体躯で、ずっと自分を支えてくれていたのかと今更思った。
230
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:34:43 ID:/V6cX1oM0
(;´・_ゝ・`)「……なら、あと1点は何が足りないんだ」
ふと鼻腔を甘い香りが擽って、ハッと意識を引き戻される。
(;´・_ゝ・`)「自分で言うのもなんだが、今日の僕は結構頑張っただろう」
(;´・_ゝ・`)「これだけやって一体、何がまだ足りないって言うんだ?」
百点満点を目指して今まで頑張ってきた人生なのだし、この際だ。採点基準を聞いたって別に試験官の、彼女からの心象は悪くなったりしないだろう。
クラスメイト、友人、仕事仲間ときて、恋人になった彼女を見下ろす。
すると伊藤は、少し俯き気味のままゆっくりと口を開いた。
('、`*川「そうね。助けてくれたし、観覧車の約束も守ってくれたし……ちょっと非常識だったけど、ムードの良いプロポーズだってしてくれたし」
('ー`*川ドキドキして、凄く嬉しかった。心臓がプラスチックみたいに、溶けそうになったくらい」
(´・_ゝ・`)「なら、別に百点くれたって……」
( 、 *川「でも、さ」
また一歩、伊藤がこちらに詰め寄る。二人の間にあった距離がほとんどゼロになる。
そして、彼女はひどく紅くなった顔をこちらに上げてみせた。
( 、 *川「……恋人らしいことが、まだ、足りません」
未だに空からは雪が降っていて、少しでも言葉を発すると、空気が白く濁るほどに寒い。
それほどまでに冷えているからか、伊藤の囁くような言葉はスッと耳に響き、彼女の頬は林檎のように紅く染まっていた。
231
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:35:36 ID:/V6cX1oM0
数秒、互いに見つめ合う。すると、伊藤の目がゆっくりと閉じられる。
いくら人の感情の機微に疎い僕でも、彼女が何を望んでいるのかは流石に理解出来ていた。
(;´・_ゝ・`)「い、いや……ここでか?」
(-、-*川シーン
僕の戸惑いにも伊藤は反応することなく、地蔵のように目を瞑ったまま動こうとはしなかった。
いくら人がいない深夜で、貸切り状態だといっても、ここは遊園地。公共の場だ。
そんな所でするなどと、それこそ伊藤が昔から嫌う非常識な行動ではないだろうか。
(;´-_ゝ・ `)「………あとで、文句言うなよ」
数十秒ほど固まってから、僕はようやく、彼女の後頭部に手を沿えた。
絹のような髪が手に触れてくすぐったい。改めてまじまじと彼女の顔を見ると、記憶の中よりずっと長い睫毛や、薄く小さい唇に驚く。
少しだけ腰を屈める。彼女の髪に少し積もった雪を手で払う。
一度の深呼吸をした後、ゆっくりと、彼女の唇に顔を寄せた。
232
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:36:42 ID:/V6cX1oM0
⊂( 、 *川「――あぁもう、じれったい」
ぎゅっと、抱きしめられるように顔を引き寄せられる。
突然、重力が強くなったみたいに首を引っ張られる。
唇に触れたのは、唇であった。
.
233
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:37:27 ID:/V6cX1oM0
( ー *川「……これで、一点追加ね」
ゆっくりと唇が離される。冬の夜とは思えないほどに、顔全体が火照っている。
すぐ目の前には、蕩けたように笑う恋人の顔があった。
(*´・_ゝ・`)「……………は」
( 、 *川「………えへへ」
('ー`*川「また、私の勝ちだ」
悪戯っぽく、それでいてどこか妖艶な笑みが浮かんでいる。
舌の先を少しだけ出して笑う彼女を、呆けたまま見る。
間抜け面をしたままの僕を見て満足したのか、彼女は子どもみたいにくるっと回り、また、僕の先を歩きだした。
234
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:38:46 ID:/V6cX1oM0
――あぁ。きっと、最後まで僕はこれだ。
どれだけ努力しようと、頭を捻ろうと、計画を企てようと、ちょっとした触れ合い一つで盤面を一気にひっくり返される。
何度も彼女に挑んだ。一度でも勝てることが出来たのなら、きっとその時、彼女に認めてもらえると。褒めてもらえるのではないかと思ったから。
試験でも、小テストでも、口喧嘩でも、ちょっとした知恵比べでも、その全てを僕から挑んで、今の今まで負け続けてきた。
きっと、この関係はこのまま変わらないのだろう。
クラスメイトから友人になった。
友人から同僚になった。
同僚からようやく、恋人になった。
季節が巡る度に道端で咲いている花の色が変わるように、コロコロと変わっていく関係性。もしかしたら今の関係だって、遥か未来にはまた変わっているのかもしれない。
当然だ。ずっと変わらないものなんてない。生きている限り、この世界に存在している限り、不変なんてものはありえない。ずっとそのままなんて、映画や小説の中にしか存在しない。
それでも、例外というものはある。その最たるものが、きっとこれだ。
僕はずっと彼女に勝てない。どれだけ高いビルを建てようが、どれだけ恵まれようが、何年経とうがきっと、僕は彼女に負け続ける。
そして、そんな日々に悪態をつきながら、僕はずっとこれからも、君の隣で笑うのだろう。
月に住むウサギみたいに、跳ねるように先を歩き出した彼女の後を追う。
フラフラと揺れていた彼女の左手に月光が差し込み、街を覆う純白の雪みたいな光が一瞬だけキラリと光る。
僕は駆け足気味に彼女に近寄り、その右手をぎゅっと握った。
235
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:39:46 ID:/V6cX1oM0
(*´・_ゝ・`)「――帰るぞ。ペニサス」
('、`*川「………」
('ー`*川「――うん。デミタスくん」
愛しい人の名前を呼び、愛しい人から名前を呼ばれる。
再び手を繋ぎ直し、指を絡ませる。
雪が積もった道の上を、二人でゆっくり歩き出す。
左手から伝わってくる体温が、火傷しそうに熱く感じた。
236
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 01:40:09 ID:/V6cX1oM0
終わりです。
読んでいただき、ありがとうございました。
237
:
名無しさん
:2025/05/08(木) 03:33:04 ID:5cpWK4ZQ0
おつ!
238
:
名無しさん
:2025/05/14(水) 13:48:46 ID:HhbaojF.0
おつです!
待ってました!
やっぱりデミペニは最高!!
239
:
名無しさん
:2025/05/15(木) 14:48:58 ID:b1euYwaM0
完結してたのね、おつ
こんなに砂糖入ったデミペニは1週まわって新鮮でよき
240
:
名無しさん
:2025/06/11(水) 09:33:54 ID:FNQNs.CI0
乙!
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