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異界大戦記のようです

1名無しさん:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。

魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。

きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。

ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。

881名無しさん:2023/11/25(土) 13:53:51 ID:37zc6a1M0
ニータ王国 王城
1463年4月24日

(; ´W`)「まさか、こんなことになるとは......」

そうポツリと呟き、シラヒーゲは頭を抱えていた。
全ては順調に進んでいるはずであった。
人間達と手を組み、ルナイファに宣戦布告をし、領地を奪い取ることで圧力をかけ、無理矢理にでも交渉の席に座らせる。

そうなるはずであった。

だが、現実はどうか。
領地は確かに奪えたものの、ルナイファは怯むどころか制御不能なまでに暴走を始めたのだ。

(; ´W`)「......うーむ」

それにより当初想定していたよりも長く、ルナイファとの戦いが続くことになってしまっていた。

882名無しさん:2023/11/25(土) 13:55:11 ID:37zc6a1M0
敵に圧力をかけるためには、兵を退かせるわけにはいかない。
だがニータの力を考えればいくらルナイファが弱体化しているとはいえ、格上相手との戦いを続ければ相当な被害が出てしまう。
人間達のように圧倒的に勝てるのならば問題はないが、残念ながらこの国にそんな力はない。
勝利のためには少なくない犠牲を出さなければならないのが現実なのだ。

( ´W`)「......」

終わりの見えないこの戦い。
それこそ本当に行くところまで行かなければ最早、ルナイファは止まらないのではないかと感じてしまう。
そんな総力戦に付き合っていられるほど、ニータに余裕はない。

だが今更人間達との同盟を切ることもあり得ないだろう。
いくら相手が人間の国とはいえ、国同士の約束事をこんなにも早く簡単に反故にすれば、ニータの信頼は一気に失われるだろう。

883名無しさん:2023/11/25(土) 13:55:53 ID:37zc6a1M0
そもそも報復に何をされるか分かったものではない。
ルナイファ以上に人間の国と敵対などしたくはないし、もしそんなことになればルナイファのように粘ることも出来ずに滅びるのみだろう。

( ´W`)「選択は、間違えていないはずだ。となれば後は......進むしかあるまい」

つまり選択肢は既に選んだ後であり、もう引き返せる場所ではないのだ。
だからこそ、シラヒーゲは何度も不安を吐露しながらも自分達は正しい選択をしているのだと言い聞かせるように繰り返す。
世界中が混乱する今、誰一人正解など分かるはずがない。
それでもどうにか自分を安心させようと理由を作っては、自身に言い聞かせ、歩みを止めないように奮い立たせているのだ。

一度は見えたはずの明るい未来。
それを探し求め、ニータは動き続ける。

884名無しさん:2023/11/25(土) 13:56:52 ID:37zc6a1M0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日

『いたぞっ、追えっ!!』

(´<_` ;)「ぐっ、ここまで来て......陛下っ、こちらへっ!!」

テタレスから少し北へ向かった場所にに広がる、小さな森林。
普段であれば誰も寄り付かず、静かなそこに怒号が飛び交っていた。
そして、その怒号から逃げる二人の影。
帝都より逃げる、アラマキとオトジャの二人である。

どうにか自身達の味方になってくれる可能性のあるテタレスに逃げようと、回り道をしつつ、近くの森林までたどり着けたものの、遂に追っ手に見つかってしまったのだ。
森林の中ということもあり、具体的な位置までは特定されていないのか、未だに捕まることはないがそれでも周囲を包囲するように兵が走り回り、捕まるのは最早、時間の問題と言える状況である。

885名無しさん:2023/11/25(土) 13:58:34 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「オトジャよ......どうにかできるか?」

(´<_` ;)「......この命に変えても、どうにかしましょう」

アラマキのその問に、オトジャはそう答えることしかできなかった。
本音を言えば、もう詰んでいるのではないかという気持ちで一杯である。

何せずっと逃亡生活を続けてきたのだ。
体力も限界であるし、魔法を使おうにもこの状態ではろくなものは使えない。
また敵の数はどう見積もっても10は軽く超えるのに対し、こちらで戦えるのはオトジャ1人のみである。
いくら彼が優秀な兵であったとしても、ここから挽回できる道はないであろう。

(´<_` ;)(......ここまでか)

陛下の手前、弱音など吐くことが出来るはずもないが、大見得を切ったはいいもののそれでどうにかなるはずがない。
むしろもうどうにもならないのだと、諦めに近い感情がオトジャの心を支配していた。

どんな運命になるにせよ、自分はここで死ぬのだと。

886名無しさん:2023/11/25(土) 14:00:45 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)(それならばいっそのこと死の呪いで......)

誰か一人を道連れにし、その包囲の隙間を縫って陛下を逃がすのが最善なのではないかー
ただ死ぬのならば、どんなに可能性が低くても救える可能性に賭けるべきなのではと、覚悟を決めようとしていた。

/ ,' 3「......待て、オトジャよ」

(´<_` ;)「陛下?」

/ ,' 3「もう、よい。無駄に貴様の命を捨てるな」

(´<_` ;)「っ、で、ですが!」

/ ,' 3「奴らの狙いは我のみだろう。ならば、死ぬのは一人だけで良かろう」

(´<_` ;)「っ!!」

だがその様子にアラマキもまた、覚悟を決めていたのだ。
こちらが完全に捕捉されていない現状、確かにアラマキが捕まれば、ただの護衛であるオトジャをわざわざ捕らえる理由はないため、逃がすことは可能かもしれない。
敵の目的はあくまでもアラマキのみなのだ。
命が助かる確率だけで言えば、その選択は最善ともいえるだろう。

887名無しさん:2023/11/25(土) 14:01:55 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「そんなこと、出来るわけがありませんっ!私はこの国を、つまりあなたを守るのが任務であり、使命なのですっ!それなのに自分だけ逃げることなど、それも陛下を見捨てて......命令であっても、それだけは聞けませぬ!」

だが懸かっている命の重さに差があるのだ。
一人はただの一兵士に対して、もう一人はこの国をまとめることの出来る力を持つ王である。
命に差がないなどと、綺麗事をいくら並べようともその事実の前には明らかに差がある。
そうである以上、最優先されるべきはアラマキの命であり、そうでなくてはならないとオトジャは考えていた。

(´<_` ;)「ここで陛下を失えば、この国は本当に終わってしまうのですっ!!どうか、再考をっ!!」

/ ,' 3「......貴様のようなものが、この国にはいるのだ。真に国のために考えるもの達が」

(´<_` ;)「なにを......」

/ ,' 3「確かにルナイファという国は終わってしまうかもしれん。いや、もう終わっているのかもしれんな。どちらにせよ、貴様のように国を愛する者達がいるのだ。我がいなくても必ずや国を良い方向へと導いてくれると信じておる。そんな未来を託せる者を、こんな場所で死なせるわけにはいかん」

(´<_` ;)「......」

888名無しさん:2023/11/25(土) 14:03:14 ID:37zc6a1M0
無責任にも聞こえるその言葉。
それは未来を自分達に託し、自らの命を捨てるという宣言に他ならない。
そしてそこに感じる確かな意思に、最早自分の言葉は届かないのだという、陛下が目の前にいるにもかかわらず、守ることすらできないどころか死ぬところを見送らなくてはならないと言う絶望がオトジャの心を蝕む。

気づけば頬には涙が流れ落ちていた。
戦いに負け、アニジャから託された任務もプギャーの反乱により遂行できず、最後には陛下を守りきることが出来なかった。
あまりの自身の不甲斐なさに、そしてどうすることも出来なかった運命にただただオトジャは涙を流す。

(<_  ;)「......申し訳、ございません」

そうして口から出た言葉は、謝罪。
己の無力さを嘆き、どうしようもない自分への謝罪を、口にするのがやっとであった。

889名無しさん:2023/11/25(土) 14:03:50 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「貴様のせいではあるまい。むしろ、貴様はようやってくれた。オトジャよ、これからのルナイファを任せたぞ」

(<_  ;)「っ!!......御意のままにっ」

一体どうすれば良かったと言うのか。
もし運命を変えられるとしたらば、それは一体いつのことだったのか。
オトジャには全く分からない。
ただ目の前の現実が最悪であることだけは間違いない。
だがこんな運命を辿るほどに自分は何かを間違えたと言うのかー

あまりに理不尽で、絶望的な現実に再びオトジャは涙を流していた。

/ ,' 3「......」

そんなオトジャをしり目に、アラマキは踏み出す。
その一歩一歩が自身の死を近づけるものであると分かっていながらも、その足取りは力強い。

/ ,' 3「......我は帝王なり」

そう、彼はこの国の帝王なのだ。
それは死ぬときまで、否、死んでも変わることはない。
ならば今このときも帝王として生きることが自分の宿命なのだと、彼は進む。

890名無しさん:2023/11/25(土) 14:04:23 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3(最期に守れた民は、一人のみか。この戦争で多くの者を死なせた罪滅ぼしには、いささか足りなすぎるな)

走馬灯のように、さまざまな出来事が思い返される。
この国に王として産まれ、そして栄華を極めたと言われたこの国を、さらに絶対的なものにしようと決意したのは一体いつのことだっただろうか。
それがまさか、国を滅ぼし自身を殺すことになるなど一体誰が予測してるだろうか。

/ ,' 3(......地獄へ行くのは、我一人のみで良い)

だがこれは自分が、王に足る器ではなかっただけの話なのだ。
身を過ぎる栄光を求めたがゆえに、下った天罰なのだ。

ーそう考えなくては、この現実を受け入れるにはあまりにも辛すぎた。

891名無しさん:2023/11/25(土) 14:05:12 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「覚悟は、出来ておるっ!我は、ここにいる!!ルナイファ帝国の王、アラマキはここにいるぞっ!!」

そうしてアラマキは吠えた。
最期の王の役目として、堂々たるその声は森に響きわたり、周囲にいるものたちにその存在を知らしめる。
凛とし、威風堂々たるまさに王の風格。
暗い森の中であるにも関わらず、そこにいるものが皆、その存在に目を奪われる。

『っ!!......い、いたぞっ!捉えろっ!!』

ただ言葉を発し、存在を現したのみにも関わらず、追っ手達は一瞬怯んだかのように息をのむ。
それほどまでにその存在感は凄まじいものであり、アラマキ自身は王失格と考えているが、その姿は間違えなくこの国の、世界最強であった国の帝王であった。

/ ,' 3(......さらばだ)

そうして彼は、目を閉じる。
自分に出来ることはもうなにもない。
この世に、そして愛する民たちに別れを告げる。

892名無しさん:2023/11/25(土) 14:06:07 ID:37zc6a1M0
足音は、すぐそこまで迫っていた。
だが目は開かない。
もし開いて見てしまえば、恐怖に負けて王としての最期を迎えられないかもしれない。
せめて最期だけでも立派な王でありたいと言う、アラマキのプライドであった。

ーこれが、こんなものが最期なのか。

そんなことが、アラマキの頭によぎった瞬間であった。

ドオオォォンッ!

ガガガッ!!

猛烈な轟音が、森に響き渡った。

(´<_` ;)「っ!?」

アラマキから離れた場所にいたオトジャはその音に驚愕する。
明らかにアラマキを捉えるのには過剰な攻撃音。
それは、明確な殺意を持った音であったのだ。

893名無しさん:2023/11/25(土) 14:07:59 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「馬鹿な......」

いくら追っ手が狂ったプギャーの手下とはいえ、まさか軍人でもない戦うことのできない者を相手に、そんな攻撃をしてくるというのか。
そもそも奴らからすれば陛下を生かして捉えるだけで得られるメリットは数多くあったはずである。

(´<_` ;)「奴ら、本当に狂ったのか!?」

ゆえに、あんな攻撃を繰り出す必要などあるはずがない。
だがその音が、可能性を否定する。
攻撃は確実に行われたのだと。

あの攻撃では、死体もまともに残ることはないのではないか。
そう思わせるほどの、轟音。

最期まで王であろうとするアラマキに対してそれは、あまりにも酷すぎるのではないかー

894名無しさん:2023/11/25(土) 14:08:47 ID:37zc6a1M0
(<_  ;)「あ、あぁ、あああぁああぁっ!!!」

受け入れ難い現実の連続に、遂にオトジャは耐えきれなかった。
勿論、叫び声など上げれば自分の居場所を追っ手に知らせるようなものであり、そんな行動をするべきでないと言うことはちゃんと理解している。
それでも、その叫びは抑えられなかった。

これまで抑えていたものを全て吐き出すかのように。

その嘆きが続く間も、爆音は続いた。
何度も、何度も。
途切れることなく、続く攻撃の音。

そしてそれによる悲鳴が続いていた。

895名無しさん:2023/11/25(土) 14:09:41 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「......ひ、めい?」

その声に、オトジャは現実に引き戻される。
悲鳴は一つだけではなく、複数の者から発せられたものであった。

だが、それはおかしい。
追っ手の狙いはアラマキのみのはずであり、その他に攻撃をする対象などいないはずである。
そもそも、現時点でこの森にいるのはオトジャ自身を含め、アラマキとその追っ手くらいのもの。

(´<_` ;)「これは、一体......まさかっ!?」

ハッと、最悪の想像が頭に浮かぶ。
まさかこの森まで人間達が進軍してきたのではないか、と。
一気に血の気が引き、青ざめる。
人間達からすれば自分は勿論のこと、アラマキも追っ手も等しく敵であるのだ。
全てを巻き込み、あの戦場で見た業火をこの森に放ち、全てを葬ってもおかしくない。

896名無しさん:2023/11/25(土) 14:10:21 ID:37zc6a1M0
一応、アラマキが非戦闘員ということを認識されれば攻撃されないかもしれないが、森の中という視界の通りにくい環境なのだ。
複数の非戦闘員がいるならまだしも、アラマキのみであれば気付かないままに、攻撃を受ける可能性の方が高いだろう。

(´<_` ;)「陛下ぁっ!!!」

もし想定が確かならば、オトジャがいたところでなにも変わることはない。
だが飛び出さずにはいられなかったのだ。

アラマキが向かった方面へ、爆音がなり響く方角へと走り出す。
薄暗く足場の悪い森の中、何度も転びそうになりながらも、歯を食い縛り必死に駆ける。

(´<_` ;)「っ!!」

そうして視界が捉えたのは、複数の影に囲まれる、アラマキの姿であった。
アラマキが生きているという喜びと共に、何者かに囲まれている陛下を助けなくてはという考えに頭が埋め尽くされ、オトジャはがむしゃらにその影の目の前へと躍り出る。

作戦などない。
そんなことを考える余裕など、ないのだ。

幸いにも、影達はオトジャに背を向けており、気づかれていないようであった。
そうならばと自身の力を全て込めた魔法を、眼前に写る影にぶつけようとしたとき、そこでオトジャは二つのことに気がつく。

一つはその影達が人間ではなく、エルフであったということ。

897名無しさん:2023/11/25(土) 14:10:47 ID:37zc6a1M0
そしてもう一つは。

(# ^ν^)「陛下を御守りしろぉおお!!」

(#`・ω・´)「全軍、真にルナイファを愛する者達の力を、あの馬鹿どもに見せつけてやれっ!!」

(# ,,^Д^)「敵を逃すなっ!!突撃ぃいいいいい!!!」

それが自分たちを守り、そして救ってくれる強力な味方であるということであった。

898名無しさん:2023/11/25(土) 14:11:18 ID:37zc6a1M0
続く

899名無しさん:2023/11/25(土) 17:07:14 ID:z6JpC8160

うおおおお!

900名無しさん:2023/11/25(土) 21:49:56 ID:CFJ6rMiE0
【速報】シャキン部隊好感度ストップ高!!

901名無しさん:2023/11/26(日) 02:40:13 ID:s/A3LjaU0
か、かっこいい

902名無しさん:2023/11/26(日) 05:56:13 ID:kdB2swzM0
otsu

903名無しさん:2023/11/26(日) 15:26:29 ID:RdPT/kd60
おつ!
あっついなぁ陛下助けられそうでよかった!
ただ弟者は一度諦めたことで自責の念に駆られそうだな…

904名無しさん:2023/12/02(土) 21:13:47 ID:7NYZFcVI0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日

森に複数の爆音が響き渡る。

(# ^ν^)「魔方陣構築!属性炎っ!!距離30!!」

『復唱、属性炎、距離30了解っ!!構築開始っ!!』

目の前に広がる光景は間違いなく、戦場であった。
それも複数の魔法使いが隊列を組み、魔法を構築し敵を葬るという、久しく見たことない光景である。

人間による凄まじい攻撃で忘れていたが、本来戦場とはこういうものであったな、などという何とも場違いな感想を頭に浮かべながらオトジャはポカンと呆気に取られたかのようにその光景を眺めていた。
それほどまでに目の前の光景は奇跡ともいえる光景なのだ。

たまたまプギャー達に反感を抱き、反抗に出た者達に救われるという可能性が、一体どれだけあったのだろうか。
オトジャ達が逃げてきたルートは勿論誰にも知られていないはずであるため、この場で合流出来たこともただの偶然である。

905名無しさん:2023/12/02(土) 21:15:27 ID:7NYZFcVI0
そもそもニュッ達はアラマキが生き延び、逃亡生活をしていたことも把握していなかった。
ただこの森に入るアラマキの追っ手達を見つけ、自分達の怒りをプギャーに付き従う者達に教えてやると攻撃を仕掛けようとしていただけなのだ。

あり得ないほどの偶然の積み重ね。
だがそれは目の前で確かに現実となり、そしてオトジャ達を救っていた。

(# ^ν^)「放てぇっ!!!」

そうして一際大きい号令と共に、猛烈な魔法が追っ手達に降り注ぐ。

ガガガガガガガッ!!!

再びの轟音。
だがその後に続く音はもう、ない。
先ほどから打って変わって辺りは静寂に包まれる。

攻撃の跡に残されたのは複数の死体と、森であった物。
確かなシャキン達の怒りが、そこに刻み込まれていた。

906名無しさん:2023/12/02(土) 21:16:26 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「......目標の殲滅を確認。周囲の見回りを開始せよ」

( ,,^Д^)「はっ!」

(´<_` ;)「......」

戦闘が終わり、数名の兵を安全の確保のためであろう、見回りに向かわせた後、ようやくシャキンがアラマキ達に向き直る。

(`・ω・´)「さて......ご無事で何よりです、陛下。オトジャ殿」

/ ,' 3「あ、あぁ......いや、座ったままでは失礼だな......」

(;`・ω・´)「へ、陛下!無理をせず今は休んでください!」

先ほどまで死を覚悟していたところで始まった急な戦闘に頭が追い付かず、アラマキは曖昧な返事しかすることができなかった。
王が戦場に立つ時代ならまだしも、戦場に立つどころかまともに見ることもなかったアラマキにとって、その光景はあまりに刺激的すぎたのだ。

そんな状態であるにも関わらず、立ち上がろうとするアラマキに慌てて腰を下ろさせ、落ち着かせる。

907名無しさん:2023/12/02(土) 21:17:39 ID:7NYZFcVI0
そうして何とか落ち着きを取り戻したところで、ようやくシャキンとオトジャの二人で向き合い、話を始めた。

(´<_` ;)「改めてシャキン殿。感謝する。貴殿のおかげで救われた......感謝してもしきれない」

(`・ω・´)「いえ、陛下に仕える兵士として、当然のことをしたまでです」

(´<_` ;)「そうだとしても、だ。本当に、感謝するっ......!」

(`・ω・´)「......自分には、勿体無いお言葉です」

二人は自然と敬礼を取っていた。
互いに兵士として敬意を払い、言葉は無くとも心は通じあう。
陛下を守り、そして国のために命を懸け、戦う覚悟をしている者として。

( ^ν^)「見回り部隊から連絡だ。この辺りにもう、敵はいないそうだ」

(`・ω・´)「そうか。ならばここは一度、テタレスへ退くことにしよう」

( ^ν^)「いいのか?北方への展開が今回の目的だったんだろ?ある程度の兵を残す手もあるだろ」

908名無しさん:2023/12/02(土) 21:19:03 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「最優先すべきは陛下の安全だ。テタレスもプギャーに目をつけられている以上、安全とは言い難いし、人間達の攻撃がくればそれこそ崩壊しかねんのだ。一人でも多く、陛下を守れる者が近くにいる方がいい」

( ^ν^)「なるほど、了解した。全員、撤収だ。陛下を待たせるわけにはいかん、手早くやるぞ」

ニュッからの言葉が効いたのか、部隊の行動は早い。
あれほどの攻撃を展開するためには、かなりの部隊の規模が必要なはずであるがそれでもあっという間という言葉が相応しいほどに、準備が進んでいく。

(´<_` )「よく訓練されている。素晴らしい部隊だな」

(`・ω・´)「いえ、この程度のことくらい出来なければ。それにニュッの言った通り、陛下をお待たせするわけにはいきませんから」

(´<_` )「成る程。それでテタレスへ戻った後なのだが......」

(`・ω・´)「その件であれば、我が部隊が使用している施設でお休みください。物資もまだ十分にあります。まずは帝都からここまでの移動の疲れを癒してください」

(´<_` ;)「何から何まで申し訳ない。助かー」

/ ,' 3「いや、休むのは後で良い。それよりも先にやることがある」

909名無しさん:2023/12/02(土) 21:20:24 ID:7NYZFcVI0
(´<_` ;)「陛下?」

不意に、オトジャの言葉を遮るようにアラマキが声を上げる。
声を遮られたこともそうであるが、オトジャにはアラマキが言う休むことよりも先にすべきことが何なのか、瞬時に理解できずに困惑していた。
そしてそれはシャキンも同様であった。

(;`・ω・´)「へ、陛下。やるべきこととは?あまり無茶をして身体を壊しては、それこそ元も子もありませぬ。まずは身体を休めること。それが何よりも先決かと......」

/ ,' 3「我一人の身体を壊すだけで済むならばそれで良い。だが、我が休めばそれだけ多くの民が傷付くであろう?」

(´<_` ;)「へ、陛下......」

/ ,' 3「シャキンよ。休む場所の用意は要らぬ。テタレスに戻り次第、代わりに魔信を用意せよ」

(`・ω・´)「魔信、ですか?」

/ ,' 3「世界各国に演説を流せる広域通信用のものと、講和に向けて話し合うための人間達に向けた魔信だ」

(;`・ω・´)「っ!!」

910名無しさん:2023/12/02(土) 21:23:29 ID:7NYZFcVI0
/ ,' 3「王としての務めが残っている以上、まだ休むわけにはいかんのだ。よいな?」

(;`・ω・´)「はっ!了解致しました!」

/ ,' 3「......さて、どうなることやら。演説の、いや演技の練習をもっとしておくべきだったかな」

この日、テタレスから世界にアラマキの言葉が届けられた。
その言葉は世界に衝撃を与える。

ルナイファが分裂したこと。
人間達に事実上の降伏をすること。

そしてなにより。
ルナイファの軍の独断と暴走により、使用されたと言う魔法。
世界を滅ぼしかねないその魔法の話に皆が恐怖し、そして怒りを覚えた。

その怒りはつい先日まで人間達に向いていたはずであった。
世界を脅かす敵として。

アラマキが涙ながらに語った『物語』は皆の心を動かす。
あのルナイファの王が自らの無能と無策を悔いて謝罪するその姿に、暴走を止められなかったことに対する怒りを感じるものも多くいたが、それと同時に同情を誘う。
そうして皆の心に作り上げられていくのは、悪魔による暴走の物語。

いつしか怒りの矛先は、一人のエルフに向いていた。

911名無しさん:2023/12/02(土) 21:23:54 ID:7NYZFcVI0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年4月25日

(# ´∀`)「急げっ!!奴らが放ったと言う病についての資料を徹底的に集めろ!!」

アラマキの演説はここ、ソーサクにも届いていた。
その内容に皆が顔を青くし、演説後から休む間もなく走り回っていた。

(; ´∀`)「くそ、ルナイファめ。とんでもない魔法を使いおって!いくら鎖国をしているとはいえ、鳥が運ぶ病までは防ぐことなぞ出来んぞ......」

そうして集められた情報にさらにモナーは頭を抱えてしまう。
大陸間を渡る鳥に病を運ばせる。
なるほど確かにこれならば絶対に防ぐことの出来ない攻撃であることは確かだろう。
だが制御が効かず、世界を揺るがすその攻撃は敵を減らすどころか関係ない国まで巻き込み、敵を増やしてしまう。
そんな簡単なことも分からないのかと嘆きたくなるが、もう事が起きた後にそんなことを言っても仕方ないのだ。

912名無しさん:2023/12/02(土) 21:24:27 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「治療魔法の構築が必要だな。しかし......間に合うのか?」

いくらソーサクが魔法に優れているとはいえ、相手は未知の病。
さらにはかつての大国をも滅ぼしたと言う曰く付きなのだ。
もしそれが本当ならば自国よりも遥かに優れた国ですら対処が出来なかったものを、自国が成し遂げられるとはお世辞にも考えにくい。

(; ´∀`)「こんな......こんなことでっ!!」

考えたくもないが、頭によぎってしまう。
自国が滅びゆく姿が。
何度も、何度もである。
それほどまでにその未来は現実感があるのだ。

それこそ、自国に限らず他の国も同じく、滅びゆく姿が簡単に想像できる。
それほどまでに恐ろしいものがこの世界に今、解き放たれているのだ。

913名無しさん:2023/12/02(土) 21:24:54 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」

だが不思議と一つの国のみ、滅ぶ姿が想像できなかった。
それは、召喚された人間の国。

モナーは認めたくなかったが、それでも彼が知る人間達は最強ともいえる力を誇り、無敵ともいえるほどの話をいくつも聞いて彼らの持つ力は理解してはいるのだ。
それゆえ、考えてしまう。
こんな絶望的な状況であるが、それでもまた何とかしてしまうのではないかー

そんな考えが、人間を敵対視している自分が思い浮かべてしまうことにモナーは嫌気が差す。
だがもし、この考えが本当になるならば。
感染を初期で封じ込める力が人間達にあるならば、もしかすれば自分達も助かるのではないか。

(; ´∀`)「......くそっ!」

そんな考えにまた嫌気が増し、舌打ちをしながらも彼はどこかでそうなることを望んでいた。
彼も理解しているのだ。
もしこの世界でこの混乱を押さえることができるものがいるならば、彼らなのだと。

914名無しさん:2023/12/02(土) 21:25:17 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」

高い技術がこの国の誇りであった。
そしてその国のなかでもトップクラスの魔法使いであるモナーは、自身に対して高いプライドと、それに見合うほどの力を持っていた。
だがそんな自分が諦めたことを他人に、それもいくら力を認めたとはいえこれまで見下してきた人間に対して期待しているということは何とも耐え難いものであった。

そんな怒りに震えつつも、集まる絶望的な情報になにも出来ない自分にさらに絶望する。
だがそんな中で唯一の希望が残っているという幸運、そしてその幸運を素直に受けとることの出来ない現状、彼はどうすることも出来ない。

ただひたすらに怒りに、恐怖に震え、そしてそれらを振り払うかのように動き続けていた。

915名無しさん:2023/12/02(土) 21:25:52 ID:7NYZFcVI0
ムー国 取調室

(; ´_ゝ`)「すまない......頭がまだ、混乱していて現実を受け止めきれない。少し時間を貰ってもいいか?」

川 ゚ -゚)「構わない。というよりも、私も同じ気持ちだよ」

どうしてこんなことになっているのか。
それが今、この場にいる二人の気持ちであった。
この施設の人間達の行動が慌ただしくなっていたことから何かしら不審なものを感じていたが、現実は予想を遥かに超える事が起きていたのだ。

思い返されるのは数日前の出来事。
白い服を来た人間達に別室へ連れていかれた時のこと。
あのときは急に身体を調べられ、さらには針を刺され、血を抜かれたことからついに拷問が始まったのかと青ざめていた。
最悪の事態が始まったのではないかと感じたものだ。

実際には治療行為、というよりも診察の一環とのことであったのだが。

916名無しさん:2023/12/02(土) 21:26:39 ID:7NYZFcVI0
だが今になってみればあれが拷問であった方が、数倍マシであったかもしれない。
より恐ろしいものが世界に撒き散らされ、さらにはその主犯が自国だというのだ。

最早どう言い訳をしようが、世界の敵は誰かと聞かれれば全員がルナイファであると言うだろう。
ただでさえ世界からの印象がお世辞にも良くなかった国が、最低辺をつき抜ける勢いである。

川 ゚ -゚)「まぁまだ、南方の方は理性が残っていて良かったというべきか」

(; ´_ゝ`)「最早、全てが最悪過ぎて焼け石に水な気もするがな」

川; ゚ -゚)「う、む......だがとりあえず南方は実質的に降伏し、停戦に向かうだろう。その間にこの混乱が収まれば......」

(; ´_ゝ`)「それまであの北方のいかれ野郎共がおとなしくしていると思うか?こんな事態を起こしておいてなにもしないとは思えんぞ」

川; ゚ -゚)「......その件なんだがな」

(; ´_ゝ`)「......何だ?」

川; ゚ -゚)「北方の方も......何とかするらしい」

(; ´_ゝ`)「何とかって、どういうことだ?」

917名無しさん:2023/12/02(土) 21:27:30 ID:7NYZFcVI0
クーのいきなりの言葉に、アニジャは思わず聞き返す。
伝え聞く話だけでも、北方の輩は情報統制などにより未だに継戦を求める声が強く、また国家総動員に近い体勢で兵を集めているというのだ。
兵は訓練を受けてない一般の市民であるため、一人一人は強力ではないものの陸戦において数は単純に驚異であるし、何より帝都の守りとして要塞が残っている。

人間達の持つ力は十分理解しているし、またこの施設で得た知識からより正確な予想が出来るようになってはいるが、どう考えても殲滅するにはかなりの戦力が必要となるはずである。
召喚地とルナイファ、そして帝都までの距離を考えればとてつもない戦力の大移動が必要であり、直ぐに対応することは難しいはずであるとアニジャは予測していた。

(; ´_ゝ`)「いや、何とか出来る力があることは知ってはいる。だが、まともに北方の相手をしている余裕があると?いくらなんでも、それは無茶だろう」

川 ゚ -゚)「......いや、次の攻撃で全てが終わるらしい」

(; ´_ゝ`)「......なに?」

918名無しさん:2023/12/02(土) 21:28:26 ID:7NYZFcVI0
川 ゚ -゚)「人間達が言っていたよ。次の作戦で、敵の主力を殲滅して実質的に戦争を終わらせるとのことだ」

(; ´_ゝ`)「馬鹿なっ!!」

あまりに信じられないその言葉に、アニジャは驚愕する。
自分がどれだけ考えても、大戦力かつ防御力の高い要塞を瞬時に崩壊させることは難しいはずである。
だがそれを人間達はするというのだ。
人間達の過信によるものか、はたまた自分が何か勘違いしているのか。

ーもしくは。

(; ´_ゝ`)「まだ......上があるというのか?あれだけでも恐ろしい力だというのにっ!!」

その可能性はあまりにも恐怖であった。
要塞を瞬時に殲滅できる力。
大戦力を瞬時に殲滅できる力。

もし、本当にそんなものがあるのだとしたら。

(; ´_ゝ`)「......」

ーそれは世界を支配し、それこそ世界を滅ぼしうる力ではないか?

川 ゚ -゚)「作戦は数日後だということだ。どうなったかは、伝えるよ」

それだけを言い残し、クーは立ち去る。
一人残されたアニジャはこれからこの世界に訪れる未来に震えていた。

919名無しさん:2023/12/02(土) 21:28:54 ID:7NYZFcVI0
続く

920名無しさん:2023/12/03(日) 11:01:15 ID:p1D4BltU0
乙乙

921名無しさん:2023/12/03(日) 18:56:31 ID:PCEM1aMY0
おつ!
流れが一気に変わってきたな
このまま突っ走ってほしい

922名無しさん:2023/12/07(木) 00:07:40 ID:i4QZ33F.0
追いついた!
難しそうと思い込んでいたけど、わかりやすくて一気読みしてしまった。
特定の人物に肩入れしない描写で、対立にも暴走にも納得できたから、勉強になると感じる。面白い。

923名無しさん:2023/12/09(土) 19:21:20 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 北方街道
1463年4月26日

帝都から北に伸びる大きな街道。
本来帝都へ向かうものが数多くいるはずのその道を通るものは少ない。

帝都にいる者達はこれからの戦いに向けて、皆で結束という名の同調圧力により逃げられなくなっていた。
またその逆にわざわざ戦場となるかもしれない帝都に向かうものは皆無である。

すっかり寂しくなってしまったその街道に、久しぶりに移動する集団がいた。
極めて劣悪な戦況により、すっかり貴重となってしまった移動用のゴーレムを使うその集団は、まるで闇夜に紛れ、誰にも気付かれないように進む。

(# ^Д^)「くそっ、アラマキめっ!」

その集団の中にプギャーがいた。
場所が変われどいつもと同じように憤怒する彼だが、その原因はアラマキの演説にある。

924名無しさん:2023/12/09(土) 19:22:27 ID:O1UU.x/.0
アラマキを捕らえる、もしくは暗殺するため追っ手を出すことで南方の反乱はまとめ役のいないまま小規模で抑え、自身は北方に逃れることで比較的安全に事を進める計画であった。
しかし作戦は最初の時点で失敗してしまったのだ。
だがアラマキを逃したのみであればまだ許容できたのだが、問題はその後のアラマキの行動である。

あろうことかこの国の、そしてエルフの誇りを懸けて戦いを挑む自身をあたかも悪魔のように形容したのだ。
さらには演説中にアラマキは謝罪をしていたが、それはあくまでも軍の暴走を止められなかったことに対してであり、全ての諸悪の根元はプギャーにあると婉曲に伝えていた。

そしてそれらはアラマキへの同情と共に受け入れられつつあるというのだ。
ーというよりも、プギャーへの怒りが強すぎてアラマキやその他の事への感心は二の次になっているというのが正しいのだが。
なんにせよ結果としてプギャーが悪であると捉えられ、アラマキの謝罪と彼が語った『真実』が世界で受け入れられつつあるということには変わりない。

925名無しさん:2023/12/09(土) 19:25:24 ID:O1UU.x/.0
(# ^Д^)「くそ、くそっ、糞ぉっ!!おい、シィ!!情報の統制は出来ているんだろうなっ!?」

(;*゚ー゚)「は、はい。現時点で我々が統治できている領地において、例の放送に関する情報は全て遮断されています」

( ^Д^)「......ふん、まあそれならば最低限は問題ないか。だが......この放送を聞いた馬鹿共がうるさくなりそうだな」

怒りに顔を歪ませながらも、プギャーは思考を続ける。
少なくとも現時点で分かっている限りでは南方のほとんどの属領や関係国家がこちらに反発する姿勢をとりつつある。
また人間達への全面的な降伏も先の放送で宣言していたことから、南方の守りはもうないといえるかもしれない。

つまり敵は距離があるとはいえ帝都まで、南方の領土のほとんどを障害なく通過が可能になるということである。
少しでも敵を消耗させたい今、この状況は非常に不味いと言える。

926名無しさん:2023/12/09(土) 19:26:16 ID:O1UU.x/.0
( ^Д^)「......ふん、だがまだ兵も、要塞も残されている」

だがプギャーが独り言のように呟いたその言葉の通り、帝都に辿り着くためには要塞を突破しなくてはならない。
単純に多数の兵と強力な魔方陣をふんだんに使用された要塞は例えどんな敵であっても脅威となるであろう。
なにせ今持っているほぼ全ての力をそこにつぎ込んでいると言っても過言ではないのだ。

簡単に突破することなど、不可能。
そうして敵の動きが停滞すれば、敵本土へ放った病の牙がますます敵を苦しめ、さらには兵達による死の呪いを使用した突撃を行えばさらに効果的であろう。

( ^Д^)「まだ、これからだ」

そう、まだ戦いは続く。
否、戦いを続けさせる。
そうして戦況を泥沼化させ、敵を葬ることを彼は思い描いていた。

927名無しさん:2023/12/09(土) 19:26:40 ID:O1UU.x/.0
ニータ王国 王城
1463年4月28日

世界が混乱する中、ニータもまた大きな混乱が起こっていた。
特にシラヒーゲは取り戻しつつあった精気が再び奪われ、顔を青くし頭を抱えていた。

(; ´W`)「なんという......何ということだ」

ルナイファの隣国ということもあり、彼の国の狂気は理解しているつもりであった。
だがまさかここまで暴走することなど、予想できるはずもない。

この暴走により、短期間で済む筈であった軍事行動によるルナイファへの圧力は長期化する恐れがあり、それだけでも国家の財政を圧迫するため、頭が痛くなる問題である。

だが問題はそれだけに収まらないのだ。

928名無しさん:2023/12/09(土) 19:27:45 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「まさか......負ける、などいうことはないだろうな......」

そう最も恐れる事態、召喚地が戦闘不能となり敗北する未来も可能性として出てきてしまったのだ。
もし使用された病が噂通り、偉大かつ強大であった古の大国をも滅ぼしたというものであるならばいくら強力な国であっても滅ぶ可能性は十分にあると言えるだろう。
そしてその脅威は自国にもいずれ向かってくることになるであろうが、その時に問題なるのはすでにニータは人間達の味方であると国として立場を表明してしまっていることである。

国際的に病が蔓延することを防ぐために各国協力の体制を取ることになるはずであるが、その際に人間達に手を貸した国として支援を受けることが出来ない可能性があるのだ。
人間への偏見、差別意識を考えれば間違えなく起こりうる。
そんなことになれば、いくらこの世界で上から数えた方が早いほどの力を持つ国であるニータであっても、たかが一国で世界的な脅威に立ち向かい、勝てる見込みなどあるはずもない。

あるのはただ、破滅の未来のみ。

929名無しさん:2023/12/09(土) 19:28:13 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「......信じるしか、ないというのか」

しかし今更出来ることなど何もない。
世界を変えうる力など、シラヒーゲもこの国も持っていないのだ。
変えうる力を持っているとすれば、召喚された人間達である。
彼らがそれこそ、この現状を吹き飛ばすような何かを持っていることを、祈るしかないのだ。

(; ´W`)「この作戦が......成功することを祈ろう」

かつてルナイファが自国に攻めてこないようにとしたように、彼は再び祈る。
全ては召喚された人間達が行うという、最後の作戦に託されたのだった。

930名無しさん:2023/12/09(土) 19:28:47 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年5月1日

( ^ω^)「ふぅ......」

小さく息をつき、汗を拭う。
この南方要塞に来てからもう何度振るったか分からない槍を側に起き、腰かける。

多くの市民や兵が集められたこの要塞。
これから行われるであろう人間達との戦闘に向けて多くの者達が訓練をしている。
志願兵達はこれまで生きてきた中で武器など持ったことのないものが多いが、それでも皆士気は高い。

それも当然だろう。
誇り高き世界最強の、愛する国を守るためなのだから。
それもあろうことか、敵は人間なのだ。
劣等な蛮族にこのルナイファが侵略される、そんなことが許されていいはずがない。

ルナイファが正義であり、神の意思である。
それがこの世の理なのだ。

931名無しさん:2023/12/09(土) 19:31:49 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「......よし」

しばらく休んだ後、再び立ち上がり、訓練の輪に戻っていく。
かなり短い休憩であるが、休んでいる暇なのないのだと武器を振るう。
その考えはこの要塞にいるもののほとんどが同じ考えであった。

許しがたい世界の敵が、すぐそこまで迫っているというのだ。
世界の理を元に戻すため、それらを自らの手で葬り、人間達に分からせなければならない。
如何に愚かで浅慮なことをしでかしたのかと。

ただの市民であった者達が、眼前に迫る敵に対し逃げずに戦おうとするその姿は、一見勇気あるもののように見える。

ーだがそれは決して勇気からくる行動ではなく、恐怖の感情によるものである。
皆が気付かず、そして必死に隠してはいるものの、世界の理であるエルフ主義の考え方が壊され、そして世界最強という看板どころか、自国そのものが壊されてしまうのではないかという恐怖が根底にあるのだ。

932名無しさん:2023/12/09(土) 19:33:37 ID:O1UU.x/.0
世界が変わってしまうことに耐えられるものが果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
それも変わり果てた世界では、もしかすれば自分がこれまで虐げてきた者達と逆転してしまうかもしれないとするならば。
そんなものを望めるものなど、いるはずがない。

だからこそ、彼らは今日も武器を振るっている。
無駄な努力かもしれないということや勝てないかもしれないなどという無駄な可能性は考えない。
世界は変わるはずないのだという、根拠のない考えを自信に変え、自分達は絶対的な存在なのだと信じて、ただひたすらに目の前のことに打ち込むことが彼らに出来る最善であった。

『構えぇぇぇえええ!!突けぇぇぇえええ!!』

(# ^ω^)「やぁああああっ!!!」

ここにいる誰もが必死に、槍を振るう。
それが当たり前であり、同然のことなのだ。

933名無しさん:2023/12/09(土) 19:34:29 ID:O1UU.x/.0
『いいかっ!!誇り高きエルフとして、選ばれしルナイファの民として、身命を賭して祖国を守ることこそ、我らの幸福なのだっ!!!』

その訓練の間、聞こえる言葉はいつも同じである。
何度も、何度も聞いた言葉が繰り返される。

『敵に、人間に背を向けることを恥と知れ!!例え命を賭けてでも敵を道連れにすることが、ルナイファの民としての義務である!!』

洗脳のように繰り返されたその言葉は、本当にこの場の常識となっていた。
ブーンもまた、それが当然であると考えているし、何一つ疑問など持っていない。
正確には疑問を持つ余裕もなく、また考えることを放棄しているというのが正しいのかもしれない。
だがそれでもその言葉に奮い起たされ、死を恐れない戦士、死兵が産み出されているのは確かである。

戦場において死兵ほど厄介なものはない。
降伏という選択肢を捨てて、最初から死ぬことを前提に戦うのだから敵からすれば堪ったものではない。
制圧するには文字通り殲滅しなくてはならなくなるため、あらゆるコストをかけなければならなくなるのだから。

934名無しさん:2023/12/09(土) 19:35:07 ID:O1UU.x/.0
『例え死のうとも、死を恐れるなっ!!死の呪いで敵を葬るのだっ!!その先に我々の勝利が続いているのだっ!その道を司る英雄に、君達は選ばれた神の尖兵なのだっ!!』

そしてなにより、この世界における死兵の最も恐ろしいところがただの突撃でも確実に相手を死に至らしめる呪いを持っているところであろう。
勿論通常であれば自らの命をかけなければならないこの魔法は使われることはない。
だがこのような異常ともいえるこの空気のなかでは、その魔法を使うことこそ正しいことかのように皆がいい、そしてそれを皆が受け入れている。
狂気が、この場を支配しているとしか言いようがない。

(# ^ω^)「僕が、僕が守るんだおおぉぉおおおっ!!!」

敵は人間であり、如何に恐ろしく狡猾で野蛮であるかを聞いた今、それを疑う術のない者達は自らの心から生まれる狂気を抑えられない。
その狂気は正義という名の下に正当化され、疑いの余地など残っていないのだ。

935名無しさん:2023/12/09(土) 19:35:50 ID:O1UU.x/.0
彼らもまた、ある意味で被害者とも言えるかもしれない。
少し前まではなにも知らない一般市民であり、罪という罪もない者が多い。
だがもう、救うことは難しいだろう。
彼らの中にある真実を覆せる言葉は、この世には恐らく存在しない。
彼らの知る真実に対して現実は、受け入れるにはあまりにも悲惨過ぎるのだ。

(; ^ω^)「ぜぇ、ぜぇ......」

そうして何回槍を振るっただろうか。
皆が汗を流し、息を切らしたところで訓練は終わった。
周りに目をやれば同じく訓練を終えた者達が続々と休みをとろうとしていていた。
その姿、その顔は確かに疲れは見えるものの毎日の訓練を乗り越えたからか、軍人に近いものになっていた。
覚悟を決めた顔である。

皆、どこかで感づいているのだ。
戦いが近いということを。
死ぬかもしれないその時が近づいてくるという恐怖を殺し、代わりに敵への怒りの炎を燃えたぎらせる。
そうすることで一刻一刻と近づくその時をあたかも待ち遠しい、待ち望んだ時間かのように錯覚させていた。

936名無しさん:2023/12/09(土) 19:36:22 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「勝てる......勝てるお、絶対」

それゆえ沸き上がるその勇気は、根拠のない蛮勇に等しいといえる。
事実、彼らが戦いに出たところで出来ることなど、殆どないであろう。
だがそれでもブーンは勝利を確信し、呟くほどに信じていた。

これだけの訓練を積み、これだけの国を愛する者が集まり、そしてこれだけ強大な国であるルナイファが全てをかけるのだ。
負けるはずがない。
負ける理由など、ありはしないのだ。

そうしてふと、空を見上げた。
特に理由はなかった。
ただの疲れからか、ぼんやりと空を見上げたのだ。

そこには雲一つない青空が広がっていた。
戦時とは思えないほどの、綺麗で平和な空。

( ^ω^)「......あれ?」

だがふと。
その青空に光るなにかが流れる。

937名無しさん:2023/12/09(土) 19:38:10 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「流れ星?」

空を流れる光るものといえば、流れ星位しか思い当たるものはない。
だがそれは昼間の、青空を流れるものだったろうか。

( ^ω^)「......え?」

そして流れ星とは、こうも消えないものだったろうか。
消えずに、流れ。

こちらにめがけて、落ちてくるものだったろうか。

( ^ω^)「あ」

何を思ったのか。
何を言おうとしたのか。

それはもう分からない。
それを知るものは一人もいない。

それもそのはずだろう。
彼も、そしてその周りにいた者達も一瞬で蒸発し、消えてしまったのだから。

938名無しさん:2023/12/09(土) 19:39:47 ID:O1UU.x/.0
凄まじい爆音と共に、そこにいる全てが呑み込まれる。
そこにいたエルフも、そこにあった武器などの物資も、果てには要塞すら。
全ては蒸発し、消えた。
そこにはなにも残されていない。

否、残されたものはひとつだけあった。

残されたものそれは。

巨大な、キノコ雲であった。

939名無しさん:2023/12/09(土) 19:40:11 ID:O1UU.x/.0
続く

940名無しさん:2023/12/09(土) 21:19:32 ID:yG1UvMTg0
うわぁぁついに…
乙です…

941名無しさん:2023/12/09(土) 23:02:25 ID:XKtd06Bg0


942名無しさん:2023/12/11(月) 00:13:32 ID:0OVe5E/s0

しぃのように逃げ損ねただけのエルフも大勢いたんだろうな……
この判断を下した人間サイドの人物像もきになる

943名無しさん:2023/12/11(月) 21:03:20 ID:mRx2ibhc0
おつ
人間の切り札って言ったらこうなるよな…
物語は着実に進んでいるんだけどどう着陸するか全くわからない
凄く面白い

944名無しさん:2023/12/16(土) 13:14:26 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方要塞跡地付近
1463年5月1日

雨が、降っていた。
黒い、見たことのない不吉な雨。

だがそんなものが気にならないほどに目に映るその光景は異常であった。

これほど目の前の現実が夢であってほしいと感じたのは、イヨウにとって生まれて初めてのことであった。
いつもと同じように帝都付近に陣取り、遠くから要塞を眺めていた。
近く何かしらの人間達の作戦が実施されると聞き、一体どのような地獄がこの地にもたらされるのかと若干の興味を惹かれつつ待っていた。

あの要塞を攻め落とすというのだから、あの強力無比な『ひこうき』やら『せんしゃ』やらを多数用意し、圧倒的な火力と数にて行われるものとばかり考えていた。

945名無しさん:2023/12/16(土) 13:15:28 ID:n/YrJHUw0
だが、現実はどうか。

(;=゚ω゚)「......神よ」

そこに広がるのは地獄という表現すら生ぬるいのではないかという破壊の跡。
ただの一撃によるものとは、信じられないし、信じたくもない光景である。
あまりにも無慈悲な一撃。
万物全てを消滅させるその攻撃に、イヨウは天を仰ぐ。

遠く離れた自身ですら身体に火傷をおっており、中心近くにいたものは何も感じず、神に祈る暇すらないまま死に絶えたことだろう。
その事実だけですら恐ろしいが、何よりも恐ろしいのが人間達のこの攻撃が要塞に寸分の狂いもなく直撃したことである。
つまりあの神のごとき力を、人間達は完全にコントロールしており、好きな場所に叩き込むことが出来るということだろう。

(;=゚ω゚)「初めから......どうすることもできなかったということか」

もしそれが本当なのだとすれば、この世界に防げる国などあるはずがなく、どの国であっても一瞬で都市や重要施設を消滅させられる可能性があるということになる。
そんな相手に戦うことなど、無謀どころの話ではない。
それどころか下手に相手を刺激でもしてしまえば、報復としてあの攻撃を頭上に撃ち込んでくる可能性があるのだ。
交渉ですら、完全なイニシアチブを握られているに等しい。

946名無しさん:2023/12/16(土) 13:16:01 ID:n/YrJHUw0
この攻撃がこの世界で行われた時を境に、これまでの世界のバランスは全て破壊されたと言っても過言ではないだろう。

(;=゚ω゚)「知らなくては......」

だが、だからといってただ平伏する訳にはいかない。
少しでも情報を集めて、力の差を埋めなければ自国の未来はないに等しい。
それは人間達と友好的接するか、敵対的に接するか関わらずである。

パワーバランスが崩れた今、この世界を生き残るには新たな力は不可欠になるはずなのだ。

(;=゚ω゚)「ごほっ、ごほっ......糞、身体が重い......早く、知らせなくてはならないのに......」

身体に負った火傷のせいか、身体中が不調の警告を鳴らしている。
だがこの緊急時に休んでいられるはずもない。
身体が渇きを抑えるため、異様なこの雨の雫を舐めてでも行動をしなくてはと、一秒でも早くこの情報を伝えようと魔信を震える手で取りだす。

947名無しさん:2023/12/16(土) 13:17:02 ID:n/YrJHUw0
(;=゚ω゚)「ど、ドクオ......はぁはぁ......聞こえるか?」

そうしてどうにか魔力を込め、通信を開始する。

(;=゚ω゚)「頼む、出てくれよぅ!頼む......!」

『......イヨウさん?』

(;=゚ω゚)「っ!ど、ドクオっ!聞こえるかっ!?ごほっ、ごほっ!!」

『ど、どうしたんですか!?何かあった......』

(;=゚ω゚)「なにか、どころじゃ......ないんだよぅ!!攻撃、攻撃があったんだっ!!」

『っ!遂に人間達が再度行動を開始したんですかっ!?攻撃の規模はっ!?』

(;=゚ω゚)「......いや、もう、終わったんだよぅ」

『は?......え?』

魔信の向こうからでも驚愕が伝わってくる。
今話しているイヨウも、信じられない。
その反応は当然であり、冗談にしか聞こえないだろう。

948名無しさん:2023/12/16(土) 13:17:32 ID:n/YrJHUw0
だがイヨウの焦りと火傷による苦しげな声が、その言葉が紛れもなく本当なのだと訴えてくるのだ。

『一体......なにがあったんですか?』

(;=゚ω゚)「......簡潔に言えば、要塞が消滅した」

『......』

絶句。
これまでも多くの理解不能な現象を引き起こしてきた人間達であったが、これはそれらを遥かに上回るほどの異常。
何も言えるはずがない。

(;=゚ω゚)「俺も、よく分からないんだよぅ。本当に一瞬で全部、吹き飛んだんだ。今、少しずつ近づいていってるけど、本当に全てが壊れてるよぅ......」

重たい身体を引きずり、少しでも情報を得ようと攻撃の中心地へと近づいていく。
そして改めて、その被害は酷いものであった。
建物も植物もエルフも全てが焼き付くされている。

そして極めつけは生き残り達であった。
全身の皮膚がまるで熔けたかのように垂れ下がり、苦しみうめいているのだ。
これならば痛みを感じずに死ねた方がマシだったのではないかとすら思えるほどである。

949名無しさん:2023/12/16(土) 13:18:19 ID:n/YrJHUw0
(;=゚ω゚)「......うぐ」

あまりの酷さに頭痛と吐き気がしてくる。
いくら戦場に慣れているとはいえ、ここまで凄惨で異常な光景は初めてであった。
いやそもそも、この目の前に広がるこの光景は果たして戦場といえるのだろうかー

(;=゚ω゚)「ごほっ......ごぷっ!?......あ?」

止まらない吐き気に咳き込み続けていると、不意に口を押さえた手に生暖かいものを感じた。
何かと手を見てみると、黒い雨とはまた別の赤黒い液体がそこにはべったりとついていた。

(;= ω)「な......ゴボッ!?」

そしての液体は、口から止まることなく溢れ出る。
一体自身に何が起こったのか。
また一体ここでなにがあったのか。

理解出来ないまま、彼は地に伏し。
もう、二度と動くことはなかった。

まだ、黒い雨は降り続いていた。

950名無しさん:2023/12/16(土) 13:19:33 ID:n/YrJHUw0
ソーサク連邦 情報戦略室

沈黙が、部屋を支配していた。
突如来たイヨウからの連絡はドクオの思考を停止させた。

確かにクーから人間達の行動が始まることは聞いていた。
勝敗で言えば間違いなく人間達が勝つだろうと予測はしていた。
特に今回はルナイファの悪魔的とも言える魔法により、流石の人間達も余裕はないだろうと考え、これまで以上に苛烈な攻勢が予測できていたはずであった。

だがしかし、それでも世界最強の国であったルナイファの、最強の護りとも言える要塞が一撃で消滅したなどというのはあまりに現実離れしている。
もし本当にそんな攻撃が実在し、そして自由に扱うことが出来るのならば、少なくともこの世界のどんな国でも滅ぼすことが可能だろう。

護りを固めた要塞に攻撃できるのだから都市を狙うことなど容易いはずである。
そして要塞よりも脆い都市が、同等の攻撃を受ければどうなるかなど、考えるまでもない。
狙われた都市の数だけ、地図から消滅することとなりそれだけで国家の機能は停止することになるだろう。

951名無しさん:2023/12/16(土) 13:20:10 ID:n/YrJHUw0
『ひこうき』や『せんしゃ』といった兵器の数々もこの世界の戦争を変えうる力を持っていた。
だがこれはそれ以上の物であると間違いなく断言できる。
そして初めから使えば簡単にルナイファを滅ぼしうるものを持っていたのにも関わらず、ここまで使わなかった理由。
それはつまりー

('A`)(人間達の、奥の手......なのか?)

探し求めていたものかとしれないという考えが、脳裏によぎる。
本音を言えば、これ以上の物などあって欲しくないという彼の願望もあったもののその威力と使用された状況から考えても可能性は高いだろう。
自身の望む力による均衡、すなわち抑止力としては申し分ないどころかこれ以上ないものである。

ゆえにその力を欲すると共に、一抹の不安も沸き上がる。
あまりに、その力が強すぎるのだ。
確かに抑止力にはなるだろうが、万が一にその力を使うことになってしまったとすれば。
さらにそれが、互いに持ち合っているような状況だとすれば。

952名無しさん:2023/12/16(土) 13:20:53 ID:n/YrJHUw0
(;'A`)「......」

考えたくもない。
だが考えるまでもなく、その先に待つものは破滅以外にない。

とはいえ現状、話を少し聞いた程度。
より詳しく知らなくてはと、ようやく脳内の混乱が落ち着いたところで違和感を覚える。

('A`)「......イヨウさん?」

先ほど、咳のような音がした後からイヨウの声が聞こえなくなっているのだ。
魔信の故障かと思えば、あちらで降っているのだろう雨の音が聞こえ、道具に異常が無いことを知らせていた。

(;'A`)「イヨウさん?イヨウさんっ!?」

そしてその音はつまり、道具ではなくイヨウの異常を知らせているのに等しいものである。
そのことに気が付き、必死に魔信の向こうに呼び掛ける。
だがその声に答えるものはなく、ただの沈黙のみが返ってくる。

953名無しさん:2023/12/16(土) 13:21:23 ID:n/YrJHUw0
(;'A`)「......なにが」

一体、何があったというのか。
イヨウに、そしてルナイファの要塞に。
何も分からない。
ただ何かがあったことだけは、確かであろう。

ーつまりまだ、自分が理解していない恐ろしい何かが、秘められているということである。

(;'A`)「......」

底知れない人間達の力に、身を震わせながらも彼は決意する。
自身に出来ることはなんなのか。
それは一つしかないだろう。

(;'A`)「知らなくては......」

彼はここ、ソーサク連邦の情報戦略室の職員なのだ。
情報が武器であり、知ることが彼の使命である。
ならば、知らなくてはならない。

そうして彼は動き出す。
世界を変える、力を知るために。

954名無しさん:2023/12/16(土) 13:22:05 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス

/ ,' 3「作戦は、上手くいったようだな」

(;`・ω・´)「はい、全て人間達から事前に告知があった通りです。時間通りに、要塞が消滅しました」

/ ,' 3「......改めて、とんでもない者達を相手にしていたのだな。我々は」

アラマキはその報告を受け、大きくため息をつく。
知らなかったこととはいえ、この一年近くの自身の失態を改めて痛感する。
そしてその失態のツケは自国の多数の民の命により支払うこととなったという事実は、悔やんでも悔やみきれない。

/ ,' 3「それで、これからどうなると考える?」

(`・ω・´)「はっ。少なくとも北方の......北ルナイファと仮称しますが、奴らの戦力の大半が失われました。最早防衛すらままならない戦力しか残されていません。これ以上の継戦は不可能なため、実質的な終戦となるかと」

/ ,' 3「そうか......ではこれからは戦後の事を考えなくてはならないわけか」

955名無しさん:2023/12/16(土) 13:23:24 ID:n/YrJHUw0
(`・ω・´)「そうなります。ですが......」

/ ,' 3「現在の我々では、独力での復興は難しいか」

(`・ω・´)「......はい。我々は多くを失いすぎました」

アラマキの言葉に、シャキンは力なく頷く。
これまでのルナイファの国の基盤は戦力とそれによる属国、植民地からの搾取で成り立っていた。
それが今回の戦争で全て失ったのだ。
今後の物資の不足は目に見えている。
また戦闘による港や街道への被害も激しいため、もし物資が手に入ったとしても国全体に行き渡らせることも難しいだろう。

/ ,' 3「そうなると......賠償の他に、やはり地下資源とやらの採掘権を渡して、復興の支援を頼むしかないか。人間達にとって重要なものと聞いた以上、出来れば価値を理解してから手札として使いたいところであったが......」

(´<_` ;)「仕方ないでしょう。現状を考えると余裕がありませんから。相手から提示された条件で頷くしかありません」

(`・ω・´)「そもそも手持ちの手札がない現状、我々にとって価値のないもので交渉が出来る、と前向きに捉えるべきでしょう」

956名無しさん:2023/12/16(土) 13:24:59 ID:n/YrJHUw0
/ ,' 3「......なるほど、それもそうだな。しかし話し合いで国としての体裁は保たれることとなっているが......最早国と呼べるか怪しいところだな」

それゆえに、国を保つためには他国の力が必要であった。
だが他国との関係がお世辞にも良いとは言えないこの国を支援しようというものなど、ほとんどいない。
そんな中、戦勝国である人間達の国が支援に名乗りを挙げたのだ。

(`・ω・´)「表向きは確かに国として保てますが......本質的には傀儡、ですな。まあ我々が下手に滅びでもすればこの大陸は混乱を極めますから下手な扱いはないと、思いたいですが」

/ ,' 3「うむ。しかしアリベシという見本があって助かった......あの国の暴走ぶりと大陸の混乱がなければこの考えには至らなかったからな。交渉にならなかったかもしれん」

(;`・ω・´)「もしそうなっていたらとは......考えたくもありませんな」

/ ,' 3「あぁ。まあとにかく、北方の奴らに占領でもされれば人間達にとってまた厄介なことになる。我々にある程度の力を持たせて奴らを抑えたいだろう。それに期待するしかあるまい」

(´<_` )「えぇ。他に選択肢がない以上、そうするしかありませんな」

(`・ω・´)「ただ問題は......人間達にこちらを援助する余裕があるか、ということですね」

/ ,' 3「......はぁ」

957名無しさん:2023/12/16(土) 13:25:41 ID:n/YrJHUw0
そう、通常であればここで話は終わっていたのだ。
だが現実はプギャーの放った魔法により世界中に混乱が訪れようとしているのだ。
もし人間達も多大な被害が出てしまえばいくらこちらが望んだところで復興の手助けなどする余裕はないだろう。

/ ,' 3「神頼み......いや、人間頼み、か。本当に我々は国として終わってしまったのだな」

(´<_` )「......ですがまだ、再起のチャンスは残されております」

(`・ω・´)「えぇ、我々も全力を尽くしますゆえ。必ずや我が国を建て直し、次こそは最高の国家としましょう」

/ ,' 3「......あぁ。そうだな。では今出来ることをやるとしようか」

(´<_` )「はっ!」

そうしてアラマキ達は改めて、世界中に向けて放送を行った。
その内容は人間達の行った攻撃の詳細について。
その凄まじいまでの被害を聞いたもの達は世界に訪れた危機で青くしていた顔をさらに青くし、大きく混乱することとなる。
だがそれと同時にルナイファの終焉を皆が悟るのだった。

958名無しさん:2023/12/16(土) 13:26:37 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 北方都市

(; ^Д^)「......馬鹿な」

部下からの報告、そして今も流れる忌々しいアラマキの演説を聞き、プギャーは思わずそう漏らした。
全ては上手く行くはずであった。
それがエルフの宿命であり、運命であるはずだったのだ。

だが複数挙がってくるその報告を前に、自身の描いた未来は完全に否定されてしまった。
全ては崩壊した、と言ってもよい状態であった。

(; ^Д^)「何故だ、どこで間違えたと言うのだ?何故、こんな......」

(;*゚ー゚)「......」

(; ^Д^)「くそっ、くそっ、クソがぁっ!!」

959名無しさん:2023/12/16(土) 13:28:09 ID:n/YrJHUw0
正気を失ったかのように暴れまわり、辺りのものを壊し回る。
そうしてやり場のない怒りと今更ながら痛感した強大な敵への恐怖をぶつけていたのだ。
そんな様子をシィは静かに眺め、本当に全て終わったのだと悟っていた。

(;*゚ー゚)「プギャー様......最早軍は壊滅、自国の領土すらまともに守れる状態ではありません。それも、周囲の国家が相手であってもです。やはり、もうここは停戦を申し入れてー」

(# ^Д^)「......んぞ」

(;*゚ー゚)「え?」

(# ^Д^)「負けることなど、断じて認めんぞっ!!例え、どんな犠牲を払おうとも奴らを滅ぼさなければ!!」

(;*゚ー゚)「......」

(# ^Д^)「確かに今、軍は壊滅状態だ。ならば、軍を再建すればよい!まだ、民は残っているだろう!?他国からの傭兵も引き入れろ。自分で歩ける奴ならばどんなやつでもだっ!!そうすればまだ、戦えるのだっ!」

(;*゚ー゚)「そんな......」

(# ^Д^)「どれだけ時間が掛かろうとも、いつの日か、必ず、必ずや奴らを地獄へ送ってやる......いいなッ!?」

960名無しさん:2023/12/16(土) 13:28:42 ID:n/YrJHUw0
この男はまだ、終わったことに気づけないのかー
そんな思いにシィはただ呆然と立ち尽くす。

確かに引き返せないところまで来ていると言える状況ではある。
もしこれで敵へ降伏することになれば、少なくともプギャーの首は差し出さなくてはならない。
だが、この男が国のために自身を差し出すことはないだろう。
相手が人間であるならば尚更である。

分かりきったことではあったのだがこの国は、別の意味でも終わってしまっていた。

(*゚ー゚)(......いっそのこと)

報告に聞く、人間達の攻撃がここに降り注げば良かったのにと、シィは心の底から思ってしまう。
例え自分が死ぬことになるとしても。
それで、この世界の敵は滅ぼされるのだから。

そんな自己犠牲も厭わない願いは叶うことはなく。
悪魔はまだ、この世界で生きていた。

961名無しさん:2023/12/16(土) 13:29:39 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方戦線 野戦病院

遠くに、大きな雲が見えた。
その雲は見たことないものであったが、その前に感じた遠く離れたこの場所まで伝わってきた衝撃に何が起こったのかを察していた。

('、`*川「......あぁ」

そしてそれを裏付けするかのように流れた陛下の演説に、ペニサスは祖国が敗北したのだと理解した。
だが、不思議と悲しさはなかった。
それどころかようやくこの悪夢のような時間を終えることが出来るのかと言う安堵の方が大きかった。

ξ゚⊿゚)ξ「......先生?泣いているの?」

('、`*川「え?」

そう隣にいるツンにそう声をかけられ、ようやく自分の頬が濡れていることに気が付く。
これまで抑えていたものが、戦いが終わったと言う安堵から溢れそうになっていたのだ。

962名無しさん:2023/12/16(土) 13:30:09 ID:n/YrJHUw0
('、`*川「......えぇ、そうね。泣いて、いるわ。もう、我慢しなくて良くなったのよ」

そしてそれはもう、抑える必要がなくなったものであった。
これまでは戦う国の一員として、どれだけ苦しくても弱音を言うことなど、許されることはなかった。

だがそれはもう、終ったのだ。

だからこそ、ペニサスは涙を流し、ツンにそう語りかける。
優しく、ツンを抱き締めながら。

ξ゚⊿゚)ξ「せん、せい?」

('、`*川「終わったの。全部、もう終わったのよ......だから、もういいのよ。頑張らなくて」

ξ゚⊿゚)ξ「っ!」

そう、もう終わったのだ。
あの辛く苦しい、悪夢のような時間は。
だからもう、ただの子供に戻っても良いのだと。

963名無しさん:2023/12/16(土) 13:31:14 ID:n/YrJHUw0
ξ゚⊿゚)ξ「せん、せい......」

('、`*川「いいの、いいのよ」

ξ ⊿)ξ「せ、んせ......ぅ、あ」

これまでどれほど辛い思いをこの子にさせてしまったのだろうか。
感情豊かであるはずの、普通の子供が感情を殺し、命に関わる責務を負わされるなど正気の沙汰ではない。
だが彼女はそれを、こなしていた。
こなせてしまっていたのだ。
それがどれだけ凄いことであり、そしてどれだけ彼女を苦しめたのだろうか。

その痛みと苦しみを全て理解し、癒すことはペニサスには出来ない。
ただの一教師にそんなことが出来るはずがない。
だがその痛みと苦しみを吐き出させ、ただの子供にしてあげることは出来るだろう。
それがペニサスの使命であり、教師であり、大人である自分だからこそ出来ることなのだと。

ξ ⊿)ξ「あああぁぁああああっ!!!」

そうしてその優しさに触れ、ツンは堰を切ったように涙を流した。
止めどなく溢れるその涙の量が、彼女のこれまでの辛さを物語っているかのようである。
その涙にペニサスはより一層、彼女を抱きしめ、決意する。

('、`*川「大丈夫、もう、大丈夫だから。我慢しなくていいからね。なにがあっても先生が、必ず、必ず守るからっ!!」

もう二度と、子供が苦しまないように必ず守ると。
この目で見て、感じてきたこと、戦争の凄惨さを皆に教え、如何に恐ろしいことかを広め、そして。

もう二度と戦いが無い、子供の苦しまない世界を、目指すのだ。

964名無しさん:2023/12/16(土) 13:31:54 ID:n/YrJHUw0
(、*川「ぅ、うぅ......」

あぁ、なんて自分は愚かであったのだろうか。
ペニサスはそんな思いで胸中が一杯であった。

何故こんな簡単ことが戦争の前から分からなかったのか。
その結果が、このような結末を作ってしまったのだ。
とんでもない、過ちを自分達はおこしてしまったのだ。
そうでなければ、こんな目に合うはずがない。

ならば、どうするか。
次は、間違えない。
絶対に、間違えてはいけない。

だからこそ、伝えよう。
この今、見ていもの、聞いているもの、そして感じているもの全てを。

二人の泣き声が響く、この今を決して忘れない。

ー戦いが終わったこの日を、決して忘れてはいけないのだ。

965名無しさん:2023/12/16(土) 13:32:17 ID:n/YrJHUw0
続く
次回かその次でひとまず完結予定です

966名無しさん:2023/12/17(日) 18:38:15 ID:MXEU8bDw0
つらいな…乙

967名無しさん:2023/12/18(月) 23:09:53 ID:t8qYvbak0
乙乙

968名無しさん:2023/12/19(火) 09:15:44 ID:S8x3EBik0
otsu

969名無しさん:2023/12/23(土) 20:38:49 ID:RitR9poI0
ムー国 大使館
1463年10月3日

実質的な終戦を迎えてから、数ヶ月。
あの日が歴史の転換点であったと言えるほど、世界は変化を見せていた。

まず語るべきは、旧ルナイファ帝国だろう。
この世界において最強であったはずのその国は今では見る影もない。
属国や併合されていた国々は全て独立を宣言し、大きく領土を失うことになっていた。
その独立した国々も長い間の占領により、国境が曖昧になっていたことや王族の断絶などの様々な問題が浮き彫りになっており、安定には程遠い。
加えて敗戦国となればその国民が奴隷になると見てそれを手に入れようとする商人や孤児などを狙った誘拐犯、そして盗人も集まってきており治安も最悪の一言である。

さらには旧ルナイファは北ルナイファ帝国と南ルナイファ共和国の二つに分かれた。
そのうちの北ルナイファ帝国はあれだけの被害を負ったため流石に軍事行動こそないものの、未だに戦意を失ってはいない。
それゆえ周囲の緊張感を高めており大陸は混迷を極めていた。

970名無しさん:2023/12/23(土) 20:39:54 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「人道的支援、か。確かに大陸の安定は国のためになるとはいえ......奴隷制がないことといい、学ぶことが多いな」

だがそこで待ったをかけたのが他でもない戦勝国である召喚された人間達であった。
敵対していた国を、それも敗戦国に対して支援を行う旨を発表した際は世界が驚き、偽の情報ではないかと皆が疑った。
だが実際に南ルナイファ共和国にて人間達の支援部隊や治安維持目的の軍が派遣されてくる姿を見て、それが本当なのだと分かったものの、その行動を理解できるものは少なかった。

なぜこれだけの力を持ちながら滅ぼすこともせず、さらには奴隷にするどころか支援をするのか。
そんな疑問符を頭に浮かべてはやはりまともに物を考えることも出来ない劣等種なのだと結論を出すものが多かった。
だがそんな彼らも人間達の持つ力の前に恐怖し、ここで暴れるのは無理だろうと人間の手が届く範囲に限られるが治安は日を追う毎に回復してきていた。
また中には人間達の行動を理解し、偏見を改めようとするものたちも数は少ないが現れ、国交樹立に向けた動きも見られていた。

971名無しさん:2023/12/23(土) 20:40:35 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「世界は......本当に変わったな」

そう、世界は変化をしている。
ほんの一年前まで、人間達の独立国がこの世界に生まれ、そしてその国と国交を結ぶものたちが現れるなど欠片も考えたことはなかった。

川 ゚ -゚)「それが、最近では慌てたように国交を結ぼうとしているんだからな」

その言葉の通り、国交を結ぼうとしている国もまた少なくない。
理由は勿論色々とあるが一番大きいものはやはり、旧ルナイファ帝国が放った疫病を撒き散らす魔法だろう。

その恐ろしい病は噂通りの力を発揮していた。
凄まじい速度で感染し、かつ治療が困難なその病は、国力がなくまともな魔法使いのいない国にとってはまさに最悪の一言であった。
伝え聞くだけでも小国のいくつもが破綻しかけているという。

だからこそそんな病を、一番に差し向けられた人間達もまた、滅びゆく運命であろうと多くの者が予測していた。
それゆえ旧ルナイファ領へ介入しようとしていた者たちが多かった。
いくら力があろうが、自国のことで手一杯となり、ルナイファの内部にまで手出しは大きくは出来ないだろうと高を括っていたのだ。

川 ゚ -゚)「......国交を結びたい理由は、やはり薬だろうな」

だが現実はといえば、人間達はルナイファまで手を回す余裕があるように見える。
これは一体どういうことだと調べてみれば、皆が恐れる病を薬で簡単に治せるというのだ。

972名無しさん:2023/12/23(土) 20:43:07 ID:RitR9poI0
多大な混乱を与えたものの、クー達エルフからすれば被害ともいえないような数百か数千程度の少数の死者のみであるという。
未だ押さえ込める未来の見えない他国からすればそれは神の所業である。
それゆえ皆がその力に救いを求めた。
そこにプライドなど挟める余裕などなく、病に脅かされている国々が一斉に国交を、そして救いを求め出したのだ。

川 ゚ -゚)「うーむ、とはいえ......」

しかしそれら全てを救えるかというと流石の人間達の国でも厳しいらしい。
救いの力、すなわち彼らの作る薬は確かに大量生産できると言う話だがそれでも限度があり、自国やここムー、トウキュといった戦争で実質的な支配下となっている近隣の国々に回す分を考える必要があるためである。
また物理的に距離が遠ければそれだけ輸送のコストがかかるため、優先度はそれに比例して下がってしまうのだ。

とはいえ多数の国と国交を結べるチャンスであり、かつ薬を大量に売ることが出来ることを考えれば経済の回復に多大な貢献をするだろう。
だが他にも彼らはやることが山積みなのだ。

973名無しさん:2023/12/23(土) 20:44:04 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「中々に、難しいところだな......」

圧倒的な力で忘れかけていたが、人間達の国はこの世界に無理やり召喚され、経済面で考えればとてつもない被害を受けている。
そんな状態で約一年も戦争を続けて無事なはずがない。
今すぐにも経済の復興が必要となっているという。
特に軍需も戦争が終わった時点で無くなるため、これまで戦争のための働いていたもの達の新たな就職先を見つけなければ召喚の影響で多数生まれた失業者がさらに増えてしまい、国としての基盤が崩壊する可能性すらあると言う。

一応ルナイファとの交渉で得られた地下資源の採掘に向けて、多くの者達が送られる予定となっているため、失業率は若干の緩和が見込まれており、またそこから得られる資源を扱う仕事により、新たな雇用を生み出すとのことだが未だに予断が許されない状況である。
何とか戦争を乗り越えたものの、まだまだ彼らの国を賄うには必要なものが足りないのだ。

川 ゚ -゚)「......そう考えると、案外ルナイファは惜しかったのかもしれんな」

強大という言葉が相応しい人間達の国を、ここまで追い込んだのだ。
召喚による影響などもあるとはいえ、圧倒的な軍事力の差を埋めたルナイファの馬鹿げた国力は確かに世界最強と呼ぶに相応しい国であった。

ただし、元と付くわけだが。

974名無しさん:2023/12/23(土) 20:45:58 ID:RitR9poI0
現在の世界最強はどこかと聞かれれば、その答えは間違いなく一つしかないだろう。

川* ゚ -゚)「ふふっ。私もその国の一員というのは何とも誇らしいな」

かつての母国を捨て、新たに属することを決めたその国。
その圧倒的な力に魅了され、この国に亡命したことは間違いではなかった。
自身がエルフということもあり、人間達からすればかなり印象は良くないが、それでもこちらの仕事を認め、そして一員と扱ってくれている。
そんなところからもこの世界の国家にはない、国としての余裕が感じられるのだ。

これから先、世界がいかに混乱したとしてもこの国を脅かすことなどあり得ないだろう。
それだけの力を、この国は持っているのだから。

つまり、未来の安泰は保証されているに等しいのだと彼女は確信している。
それゆえ、頭に思い描くものは輝かしい未来ばかり。
もう何も心配事などないのだ。
ただ考えるのは今後の幸せのことのみで、何も問題などないのだ、と。

川 ゚ -゚)「さて、と。そろそろちゃんと仕事をしないとな。えっと、まずは......あぁ、行方不明になった支援団体職員についてか」

そうして彼女は最近ようやく使いなれてきた『ぱそこん』に向き合う。
仕事には四苦八苦するものの、彼女の顔は明るい。
なぜなら彼女の眼前に広がるのは、明るく輝く未来の世界。
不安など、あるはずがない。

愛する新たな自国のために、よりよい国を目指すために、彼女は目の前の仕事と戦い始めたのだった。

975名無しさん:2023/12/23(土) 20:46:54 ID:RitR9poI0
南ルナイファ共和国 南方港(旧軍港跡)
1463年10月4日

激しい攻撃を受け、壊滅していたここ、南方港。
復興に向けた資材等の受け入れに必須ということもあり、この世界では類を見ないほどのスピードで復興が進められていた。
今では軍港としての機能こそ戻ってはいないが、それ以外の通常の港としての能力はかつてのそれを上回るのではないかと言うほどである。

事実、『くれーん』なるものが作られ、これまで魔法で持ち運んでいた荷物の運搬性が格段に上昇していた。
こうして大量に物資を持ち込めるようになったことで、どうにか餓死者を減らせるようになりつつあるがそれでもまだ、国として再起できるラインとは言いがたい。
問題は物資のみだけではないからである。

今回の戦争により、ルナイファは多くの者を、それも魔法の才があり働き盛りな若者を多く戦場に送り、そして亡くした。
さらには国が二分した際、戦争に徴兵された一般市民も多くが北ルナイファ帝国の民になるか、あのキノコ雲の下で蒸発したかのどちらかである。
これによりまともに働ける人材が少なくなり、この国の人口ピラミッドは見るも無惨な姿となっている。
この事は将来に非常に暗い陰を残すと共に、今現在においても多大な枷となり、南ルナイファを苦しめていた。

976名無しさん:2023/12/23(土) 20:47:29 ID:RitR9poI0
そんな一人でも多くの人材を欲する南ルナイファであるが今日、大きな朗報があった。
それはたった今、港に入港してきた大きな人間達の軍艦も関わっている。

(´<_` ;)「......改めて、こんな艦相手に戦っていたのだな」

爪;'ー`)「......」

(´・ω・`)「......凄い」

そんな艦を眺める者が数多くいるが、その反応は様々であった。
オトジャのようにかつて戦ったものはその恐ろしい記憶に身を震わせ。
フォックスのように戦いこそしなくてもその力を噂で聞いていた者はこんな化け物が本当に実在したのかと口を大きく開き唖然としていた。
その艦は自分達の友人や家族を殺した者達の兵器であり、恨みの籠った視線を送るものが多くいたが、それと同時に皆にあの戦争の悪夢を思い出させる、人間達の力を示す恐怖の象徴となりつつあったのだ。

ーだが中にはショボンのように、戦争と切り離してその艦を眺め、その雄大な姿に子供らしく目を輝かせるようなものも、少数ではあるものの存在していた。

そんな様々な感情を向けられる中、その艦が接岸する。
そして艦からルナイファの地へと降り立つ複数の影が、そこにはあった。

977名無しさん:2023/12/23(土) 20:48:02 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......まさか本当に生きてこの地に立てるとはな。それも、こんなに早くとは」

その影の正体は戦争の生き残り。
捕虜となっていたルナイファの兵達であった。
彼らの表情は皆、明るいものであった。
それも当然であろう。
これまで何度も自分達がいつ殺されてもおかしくない立場に居続けたのだ。
いくら口頭で殺すことはないと聞かされても、それを全て信じきることは難しい。

また捕虜の返還に関しても、国との交渉次第ではどんな扱いになるか分かったものではない。
もし仮に母国に見捨てられでもすれば、敵がわざわざ捕虜を確保しておく必要などないのだ。
ゆえに解放される今日この日まで、どんなに低い確率であったとしても処刑されるかもしれないという恐怖を消すことが出来なかった。

だがそれが今日、解放されたのだ。
それを喜ばないものなど、いない。
皆が歓喜し、そして涙を流し、自身が母国の地に再び自身の足で立つことが出来ていることを感謝していた。

978名無しさん:2023/12/23(土) 20:49:58 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「ほ、本当に、生きて、帰って......」

爪'ー`)「トソンっ!!」

(゚、゚トソン「っ!ふぉ、くす?」

そんなあまりの歓喜に頭が追い付かず、混乱していたトソンに懐かしい声が届く。
ハッと声がする方に向けば、そこには見知った顔があった。
笑いながら近づいてくるその彼を、彼女は知っている。
その笑顔を、知っているのだ。

懐かしい、その笑顔を。
見慣れたはずの、笑顔である。
特別な表情などではない。
だが、いや、だからこそか。

その笑顔は彼女を日常に連れ戻す。
どこかまだ落ち着かなかった心が、平穏を取り戻していくのを感じていた。

そして、その安堵からなのか。

(、 トソン「フォックスっ!!」

爪;'ー`)「うおっ、ちょ、と、トソン!?どうし......」

(、 トソン「う、うぅ......」

爪'ー`)「......おかえり、トソン」

気付けばフォックスに駆け寄り、泣きついていた。
これまで抑えていたものがすべて溢れだし、止めることが出来なかった。
そして、ようやく心の底から理解した。

ーようやく、終わったのだと。

979名無しさん:2023/12/23(土) 20:50:38 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......ふむ」

(´<_` ;)「アニジャっ!良かった......よく、無事に......って、なんだ?なぜ両手を広げている?」

( ´_ゝ`)「なんだ、折角の感動の再会なんだ。俺も抱き締めて帰りを祝福してくれてもいいじゃないか」

(´<_` ;)「......」

( ´_ゝ`)「冗談だからそんな顔をするな。流石に傷付くぞ......っと?」

(´<_` )「......これでいいか?」

( ´_ゝ`)「......悪くないな」

(´<_` )「おかえり、アニジャ」

( ´_ゝ`)「あぁ。色々と、すまなかったな」

(´<_` )「気にするな」

互いに笑い合い、再会を喜び合う。
それは敗戦し、窮地に追い込まれ、どこもかしこも暗い雰囲気が漂っていたこの国に久しぶりに現れた明るい一幕であった。

980名無しさん:2023/12/23(土) 20:51:27 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「それで?国は、どんな状況なんだ?」

(´<_` )「帰ってきてまずそれか。相変わらずだな」

( ´_ゝ`)「むしろ見知った兄が帰ってきたと感じられていいだろう?」

(´<_` )「......はぁ。そういうことにしておこう。それで、そうだな。国か......何から説明すべきか」

そうポツリとこぼし、顎に手を当て少しオトジャは考える。
軽く説明するにしても今回の出来事は何から何まで大きすぎるのだ。
自分自身もまだ、混乱している部分もあるためどう言葉にすべきか分からないという部分もあった。

そんな理由でほんの少しだけ思考に耽っていたのだが、さていざ話そうかと顔を挙げると多くの者がこちらに視線を向けていることに気がつく。
そう、周りの者達も今この国に帰還したものやただの一般市民であり詳しく現状を知れていないものなどがこの場に集まっていたのだ。
それゆえ皆が気になることをこれから話すというのだからその興味が集まるのも仕方のないことだろう。

(´<_` ;)「......マジか」

爪;'ー`)「す、すみません。自分らも気になるもんで.....いい、ですか?.」

( ´_ゝ`)「ふむ......まぁ、いいじゃないか」

(´<_` ;)「そりゃ聞く方は気楽だからいいだろうが......はぁ、まあいいか。言っておくが俺も、全て把握している訳ではないし、伝聞がほとんどだから正確かは知らんぞ」

( ´_ゝ`)「構わんよ。何も知らんよりは、マシだろう」


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