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異界大戦記のようです

1名無しさん:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。

魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。

きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。

ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。

671名無しさん:2023/09/30(土) 12:36:52 ID:1NZKDZBI0
人間との戦闘はもう二度と御免ではあったが、ただ召喚するだけならばと作戦を実行しているわけだがその真意が分からないのだ。
ただワイバーンを遠くから召喚したくらいでどうにかなる相手ではないことは、もう誰しもが知っていることであろう。
そうであるにも関わらず、この局面で召喚艦を動かすことに何の意味があるのか。

(・∀ ・)「分からないことといえば......」

ちらり、と目の前に描かれた魔方陣を眺める。
そこに描かれ構築された魔方陣は、少なくともマタンキは初めてみるものであった。
これでも長く軍におり、艦に乗ってきたと自負している彼でも知らないものだったのである。
少なくともワイバーンをただ召喚するためのものではないことは確かだろう。

伝え聞く話では何でも新魔法とのことであるが、それにも彼は思わず首を捻ってしまう。
新魔法といえば、南方の戦線で使われた遠距離攻撃用の魔法という話であったはずである。
その他に作成された魔法など、聞いたことがない。

672名無しさん:2023/09/30(土) 12:37:38 ID:1NZKDZBI0
またそんな魔法を急に使用する事に不安が無いわけではない。
魔法というものは扱いを誤り、下手すれば暴走し、それこそこの船ごと爆発してしまうことだって可能性として0ではないのだ。
流石にプギャーもその事くらいは分かっており、ちゃんとした魔方陣とそれを扱える魔法使いを準備しているとは思うが、とはいえ危険がないかと言えばそうではない。
それにも関わらず強引に進められるこの任務は一体何なのか。

正体不明、理解不能。
それが、彼が今行っている任務である。

(・∀ ・)「ま、いいさ。これだけで昇進できるんだ。プギャー様々だな......敗戦の将の汚名を返上できるだろう」

だがそんなものは魅力的な報奨の前には無価値であり、無意味であった。
ただこなせばいい。
ただそれだけでいいのだ。

そう、何も問題などないのだから。

艦隊は、静かに海を進んでいた。

673名無しさん:2023/09/30(土) 12:38:32 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 南方要塞

テタレスと帝都の間に建造されたその要塞は、南方からの最後の守りとして難攻不落と呼ばれる、世界最大規模の要塞が存在していた。
地上部だけでなく、地下にも及ぶ巨大な要塞であるにも関わらず至るところに魔方陣が敷き詰められ、あらゆる攻撃を耐えつつ、圧倒的な火力にて敵を葬れるように設計されていた。

そして現在、ここには巨大な空間を埋め尽くすように多くの兵が集められていた。
理由は勿論、南方から襲いくる脅威に対して、必ずここで食い止め、そして押し返すためである。
これまでの戦いで多くの兵を失うだけでなく、上陸してきた敵に対し南方へ多くの兵を送っているルナイファであるが、そんな様子を微塵も感じさせないほどの兵数であり、その姿は一見、世界最強に偽りなしと言えるだろう。

674名無しさん:2023/09/30(土) 12:39:03 ID:1NZKDZBI0
(=゚ω゚)「......ハリボテだよう」

だが、その様子を遠視の魔法にて覗き見ていたイヨウはそう呟いた。
確かに数だけを見れば立派なものである。
しかしそれらをよくよく見てみれば兵として鍛えられたものは少なく、その多くを占めているのは急遽集められた志願兵ばかりである。
動きからしてド素人と分かるような有り様な者が視界に多く写り込むのだ。
これをハリボテと呼ばずして何と呼ぶのか。

そもそも、魔法というのは才能が不可欠なのだ。
このように多くのものを集めたところでそんな才能溢れるものが集まるはずもなく、その多くが平均以下であろう。
そんなものたちがろくな訓練も受けていないのだから出来ることなどたかが知れている。
一人で遠くまで飛ばせるような火球など作れないし、強力な魔壁も作れない。
だからといって複数人共同でそれらを行えるような訓練などしてないため、本当に何も出来ないのだ。

675名無しさん:2023/09/30(土) 12:39:35 ID:1NZKDZBI0
では何をするかといえば雑務か、敵に突撃し時間を稼ぐための捨て駒である。
現に、彼らが持つ武器は木で出来た長槍なのだ。
まともな魔法を使えないものたちに与えられる武器など急に用意出来るはずもなく、またまともな武器も魔法の才が必要とされるものが多いことから、誰でも使えそこらの素材を加工するだけで作れる木の槍が選ばれたのだろう。
だがそれにしても追い詰められた国はこんなものに頼るしかないのかとイヨウは愕然としてしまう。

勿論、それらの槍は簡易的な魔方陣が書き込まれており、鉄槍をも上回る力を持つし、それこそ一度振るえば小さな残撃のようなものが飛び出し、近くのものを切り裂くことが出来る。
だがそれらを必死に振り回し訓練をしているが、そんなことをしても敵は遥か遠くから彼らを鉄の礫で襲えるし、天高くから破滅へ導く爆発をプレゼント出来るのだ。
一体その手の武器で何と戦うつもりなのか―

676名無しさん:2023/09/30(土) 12:40:04 ID:1NZKDZBI0
(=゚ω゚)「馬鹿らしいよぅ」

それなのに彼等は本当に国を守るつもりで今もなおその木の棒を振るい続け、訓練をした気になっているのだ。
呆れを通り越して哀れにすら思えてしまう。

これが、本当にあの最強であった国の姿なのか。
それも、恐らくこれが最期と呼べるかもしれない時なのだ。
あのルナイファの最期の姿がこんなにも、惨めでみっともない姿になるなど、誰が予測できようか―

(=゚ω゚)「......まぁ」

哀れなるこの国を、せめて最期まで見届けてやろう。
イヨウは近く訪れるであろう終結を静かに待っていた。

677名無しさん:2023/09/30(土) 12:41:00 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 テタレス陣地

部隊の指示のため、シャキンは陣地にいた。
その表情は決して良いものではない。
その原因は勿論、戦況にある。

部隊の詳細を知るため、ワイバーンの視界を共有し送られてくる映像を見ていたが、そこには地獄が広がっていた。

そこには先ほどまで数万という、エルフがいたはずであった。
だが気がつけばそこにあるのはただの肉塊である。

一体いつ、どんな攻撃をされたのかこの陣地の誰にも分からなかった。
映像に映る彼らはただ訓練の通りに戦列を組み、魔壁を貼り敵へと前進していたはずであった。
戦法として間違ったことなどしておらず、むしろ定石とも言える行動である。
何も、彼らは間違った行動はしていなかったのだ。

678名無しさん:2023/09/30(土) 12:41:25 ID:1NZKDZBI0
さらにルナイファの最大の武器とも言える、数の暴力もそこには確かにあった。
数万からなる魔壁は強固であり、この世界でそれを貫くには大規模な魔方陣による魔法が必要なほどであり、言い換えれば陸上を進軍してくるような者たちがそのような魔方陣を運べるはずもないため、無敵とまでは言えないものの圧倒的な力を持つはずであった。

しかしそれはあくまでも、この世界の常識である。
敵が異界の者であり、こちらの常識を超える存在と言うことはシャキンも理解していたし、ゆえにこの規模の軍勢であっても足止めが出来るかどうかであろうと見ていた。

679名無しさん:2023/09/30(土) 12:42:21 ID:1NZKDZBI0
だが。

『あ、ああぁああぁあああっ!!!』

ガガガアァァン!!

凄まじい悲鳴と、そしてそれをかき消す程の爆音が魔信と共に届けられる。
轟音と爆炎が味方達を包み込み、殺戮されていく。
あまりに呆気なく散っていく命。

足止めが出来るかどうかどころではない、その異常な光景。
これまでいくつもの戦場を見てきたが、これほどまでに背筋を凍らせる状況をシャキンは見たことがなかった。

(;`・ω・´)「こんなもの......戦争なんかじゃあない......虐殺、いやただの殺処分ではないかっ!」

殺処分という言葉は、何ともこの状況を適切に表現していた。
効率的にこちらを処理していくその攻撃。
まるでこちらの存在価値などないかのように土に還していくそれは、処分という表現以外に表すものがなかった。

その光景を見るものは皆、震え、嘔吐し、そして泣いた。
なぜ彼らがこんな目に合わなければならないのだと。
そして、次はなぜ自分たちの番なのかと。

680名無しさん:2023/09/30(土) 12:42:58 ID:1NZKDZBI0
(;`・ω・´)「......っ!」

そんな絶望の中、爆炎を突き進む数体のゴーレムと生き残りの歩兵が映る。
強力であるはずのゴーレムを盾に進むその兵達。
これもまた、普通であれば強力であるはずである。
誰もが心強いと考えるであろう。

だがこの場では皆が同じ気持ちであった。
無茶だ、もう逃げてくれと。

だがその言葉は届くことなく、彼らはさらに敵に近づいていく。
気付けば敵の兵器らしきものが見える距離まで接近していた。

(;`・ω・´)「......なんだあれは」

それは、動く箱であった。
そういえば何とも弱そうな響きだが、実際は違う。
あれは化け物だと、本能でシャキンは察する。
生物としての第六感が、警告を鳴らし続けるほどである。

681名無しさん:2023/09/30(土) 12:43:32 ID:1NZKDZBI0
(;`・ω・´)「もういいっ、逃げろっ!逃げてくれっ!!」

必死に魔信に向かって叫ぶものの、その声は届かない。
彼らはもう、死地に向かってしまったのだ。

(;`・ω・´)「っ!」

そしてその時は訪れる。
箱についた筒が光る。
何かが爆発したー

そう感じた瞬間、味方のゴーレムが弾け散る。

(;`・ω・´)「......」

もう、言葉すら出なかった。
陸上にて最硬であるゴーレムが、呆気なく砕けたのだ。
それも圧倒的な射程をもってである。

数がどうとか作戦がどうだとかそんな次元の話ではない。
こちらにできるのはもう、どう死ぬかだけではないかー

682名無しさん:2023/09/30(土) 12:44:05 ID:1NZKDZBI0
(;`・ω・´)「......あ」

その時、数に任せてどうにか接近したのであろう兵が、反撃とばかりに箱に向かって魔法を放つ。

ーこれで、一矢報いれる。

言葉はないが、彼らからそんな思いが伝わってくる。
誇り高き戦士として、彼らは死ぬことを選んだのだ。

輝きを放ち向かっていくその魔法は、血と爆風に埋め尽くされたこの戦場には何とも似つかわしくないものであると同時に、ようやく自分の知る戦場の光景であった。
魔法に包まれる箱を見つつ、どこか少し心が軽くなり、シャキンは少しだけ表情が和らいでいた。

683名無しさん:2023/09/30(土) 12:44:33 ID:1NZKDZBI0
が、その顔はすぐに曇ることとなる。

(;`・ω・´)「......馬鹿な」

確かに攻撃は命中したはずであった。
だがそこには、何事もなかったかのような化物がいたのだ。

その化物はお返しと言わんばかりに、何倍返しか分からない大火力にて勇敢なる戦士達を肉塊、いやもはやそれすら残さないほどの細切れに変えていく。
そこに名誉などなく、ただ無惨なまでに虐殺されたのだ。

そしていつしか味方で動くものはなにもなく。
化物達が、こちらへと向かってくる姿のみが写されていた。

(;`・ω・´)「......」

敵の位置を考えれば、次に戦うのはニュッ達であろうか。
嫌なところもあるが、自分の愛する部下である。
どうにか逃がしてやりたい気持ちでいっぱいであった。

684名無しさん:2023/09/30(土) 12:44:56 ID:1NZKDZBI0
だがそんなことを本国が許してくれるはずもなく、またもう時間もないため敵も許してはくれないだろう。

(;`・ω・´)「すまない......」

気付けば口からは謝罪の言葉がもれていた。
それは死地へ部下を向かわせなくてはならないことに。
そしてなにもしてやれない自分の無力さに。

だがそんな言葉で何も変わるはずもなく。
敵はまた、こちらに近づいてきていた。

685名無しさん:2023/09/30(土) 12:45:22 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 南方戦線 野戦病院

('、`*;川「......ひどい」

そう思わず口から漏れ出すほど、ペニサスの視界に写るものは凄惨なものであった。
辺り一面に赤黒いものや吐瀉物が散乱しているのは当たり前。
治療を受けているものたちは身体のどこか一部の部位が欠損しているのが普通であり、大きな傷を負っていたとしても五体満足であれば幸運であるといえるほどに皆が満身創痍であった。
聞けばそもそも身体が残っているだけでもいい方だという話まであるのだ。
敵の猛烈なる爆発攻撃を前に、身体が蒸発していくという噂がまことしやかに囁かれている

('、`*;川「ぅ、おぇ......」

鉄錆びた嫌な匂いと、悪夢のような現実を前に強烈な吐き気が襲ってくる。
なぜ、自分がこんな場所にと思わずにはいられなかった。

686名無しさん:2023/09/30(土) 12:46:46 ID:1NZKDZBI0
勿論、こんな場所に望んで来ているわけではない。
ただ国の雰囲気として、戦わないものは非国民であるかのような異様な空気を前にして自分は戦いとは無関係であると言い続けることが難しかった。
さらに自らが教える子供たちが戦場へ向かったのに、教師であり大人であるお前は戦場には向かわないのかという圧力の前に、屈してしまったのだ。
そうして気がつけば周りに流される形でここにたどり着いてしまった。

('、`*;川「ぅう......」

後悔を胃の中のものと一緒に何度も吐き出すことで、少しだけ落ち着いてきたのか、改めて辺りを見渡す余裕が出来てきていた。
そうして見た光景は先ほどと変わらず、そこには多くの負傷者で溢れ返り、ろくな治療も、そしてろくな清掃も出来ていないという酷い有り様である。

687名無しさん:2023/09/30(土) 12:47:24 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「......私も、仕事しないと」

そんな光景を眺め、ようやく頭の整理が追い付き始め、ただでさえ人手が足りていないこの状況でなにもしないわけにはいかないと我に返る。
一体どれくらいの時間立ち尽くしていたのか彼女には分からないが、この間にも多くのものが苦しみ治療を待っているのだと、慌てて負傷者のもとへ駆け寄っていく。

途中、ぐちゃりと嫌な音がするものを踏んだ気がしたが、足元の暗い洞窟であり、それが何なのか確認はできなかった。
―そもそも、確認する勇気も持ち合わせてなどいないのだが。

('、`*;川「......うっ」

そうして改めて負傷者の前に立つと、ぼんやりとしか見えていなかったその傷の具合がはっきりと見えてくる。
赤黒く変色した部分をよく見れば、まるで何かが突き刺さったかのような穴が空いているのだ。
その傷が一体どのようにして出来たのか、ペニサスにはわからなかったがとにかく治療をしなければならないということだけは彼女にもはっきりと分かった。

688名無しさん:2023/09/30(土) 12:47:58 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「えっと、まずは傷を塞いで」

「ダメッ、待って!!」

('、`*川「え!?」

そうしていざ治療をしようと、魔法の準備を始めようとしたところで、それを遮るように声がかかる。
その声にペニサスは驚愕し、思わず動きが止まってしまう。
いきなり声を掛けられたから、というのもそうであるが、その声があまりに幼い子供の声であったからである。

まさかこんな地獄のような場所に子供がいるなんてと信じられない気持ちで、その声の主へと振り返る。
そこには、更なる驚愕が待ち構えていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「え?ぺ、ペニサス先生?」

('、`*;川「ツンさん!?」

敵から身を隠しているということを忘れ、思わず大きな声が出てしまう。
それほどの衝撃であった。
まさか自分の生徒とこのような場所で会うことなど、考えもしなかった。

689名無しさん:2023/09/30(土) 12:48:24 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「どうしてツンさんがこんなところに......」

ξ゚⊿゚)ξ「......先生、色々とお話はあると思いますが、今は仕事をしましょう」

('、`*;川「っ......え、えぇ、そう、ね」

だがそんなペニサスに対し、彼女の生徒であるツンは至って冷静なものであった。
その姿にペニサスは更なる衝撃を受けてしまう。
ついこの間まで、目の前にいる生徒はまだまだ目が話せないような、確かに子供であったはずなのだ。

だがそれが、どうか。
今ペニサスの目の前にいる女性は、この地獄の中、努めて冷静であろうとし、仕事に取り組もうと言うのだ。
泣き言一つ言わず、それどころか大人であるはずの彼女を落ち着かせようと言葉を発する。
その精神はもう、子供のそれとは間違っても言えない。

690名無しさん:2023/09/30(土) 12:49:04 ID:1NZKDZBI0
しかし、目に映るその姿は確かに子供のそれなのだ。
その不自然なアンバランスさ。
子供は確かに成長するものではあり、喜ばしいものであるが、これはなにかが違う。
これには空恐ろしいなにかを感じてしまうのだ。

('、`*;川「......」

ξ゚⊿゚)ξ「先生、いいですか?このような傷なのですが身体の反対まで傷が達していない場合、体内に金属の塊が残っています」

そして、そんなペニサスの様子に気付かないのかツンは淡々と話を進めていく。
その姿にさらに嫌なものを感じながらも、それを飲み込む。

('、`*川「金属?」

ξ゚⊿゚)ξ「はい。どうやら話では金属を飛ばす事で攻撃してくるとかで......そのままにすると腐り落ちる可能性があるらしいです。だから......」

('、`*;川「ひっ!?」

ξ゚⊿゚)ξ「こんな風に、一度傷口を広げて取り出してからじゃないと、ダメなんです」

('、`*;川「そう、なのね」

あまりのことに、そう言葉を紡ぎ、ただ頷くことしかできなかった。
まるでただの作業のように肉を切り裂き、血で手を汚し、金属を取り出す。
そんなことを子供が、それも自分の教え子がやっているという現実に、思わず目眩がしてしまう。

691名無しさん:2023/09/30(土) 12:49:34 ID:1NZKDZBI0
そしてそんな自分を目の前にいる、自分と比べてしまい、なんとも情けない気持ちになるのだ。
彼女が出来ていることを、ただこんな風に喚き、狼狽えることしか出来ないことも勿論理由の一つではある。
だがそれ以上に大人であり先生でもある立場のものとして、子供にこんな重荷を背負わせ、かつ心を蝕んでいるという現実に耐えきれないのだ。

('、`*;川「......」

どうしてこんなことになってしまったのか。
ルナイファはまちがいなく豊かで、優れた国であったはずであった。
それが、一体何時から狂ってしまったのか。
どこで、間違えてしまったというのか。

そしてそれは、自分達の責任であり、こんな目に合わなければならないことを、自分達はしてしまったというのか―

692名無しさん:2023/09/30(土) 12:50:22 ID:1NZKDZBI0
('、`*;川「......ありがとう、ツンさん。理解できたわ。後は、自分で出来るわ。疲れているでしょう?私がやっておくから少し休んでなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、ですか。分かりました」

脳内がぐちゃぐちゃになりながらも、そう何とか言葉を絞り出す。
少しでも大人として、先生として目の前の子供を救いたかったのだ。
大人であるはずのペニサスですら、ここまで追い詰められてしまうほどの環境なのだ。

たったのこれだけでどうにかなるほど、簡単なことではないとペニサスも分かっているが、それでも何かをしてあげなくては、壊れてしまうのではないかという恐怖。
おかしな話ではあるが、恐ろしい現実を前に立ちすくんでいた彼女であったが、そのツンが壊れてしまうかもしれないという恐怖が彼女の支えとなり、現実に立ち向かう勇気を与えていたのだ。

('、`*;川「ぅ......ふっ、ふっ」

そうしてどうにか、教えてもらったように作業を進めていくが、進めるごとにまるで精神をすりつぶされているかのような錯覚に陥る。

693名無しさん:2023/09/30(土) 12:50:50 ID:1NZKDZBI0
それほどまでに今目の前で起きていることは非現実的であり、まともな精神で受け止められるものではなかった。
手から伝わる嫌な感触、鉄錆びた匂い、様々な叫び声と悲鳴、そして遠くから聞こえる爆発音―

('、`*;川(こんなことを子供に......なんて、なんてことを......)

その全てが精神を、そして命を削りとっていく。
ほんの少ししか働いていないはずだというのに身体中が水で濡れたかのように嫌な汗をかいている。
それほどまでに、耐え難いものであったのだ。

('、`*川「......あら?」

ξ -⊿)ξ「......すー、すー」

('、`*川「......よほど、疲れていたのね」

そうして仕事を進めていき、ふと目線を上げてみると、気づけばツンは静かに寝息を立てていた。
それも仕方ないであろう。
今、ペニサス自身も倒れてもおかしくないほどに疲労を感じているのだ。
むしろ、今の今まで倒れずに仕事が出来ていたことがおかしいのだから。

('、`*川「ゆっくり、休みなさい」

そう、優しく頭を撫でて小さく微笑む。

―せめて、夢の中だけでもこの地獄を忘れられますように、と。

694名無しさん:2023/09/30(土) 12:51:14 ID:1NZKDZBI0
続く

695名無しさん:2023/09/30(土) 13:01:47 ID:R6sWjzIE0

おおツン生きてたのか。
シャキン達の部隊はどうなってしまうのか…

696名無しさん:2023/10/01(日) 20:52:58 ID:wEy0QnmY0
乙です

697名無しさん:2023/10/03(火) 19:39:34 ID:H4wn7v7E0
おつ
高火力高耐久で訓練すれば誰でも使えるとかほんとチート以外の何者でもないな
ニュッたちは何か変化を与えられるのだろうか

698名無しさん:2023/10/05(木) 23:05:20 ID:kwOF5UXw0

ひたすらに悲壮感が漂ってるな…

699名無しさん:2023/10/07(土) 15:30:31 ID:O2mR.r2o0
ムー国 捕虜収容所
1463年4月2日

アニジャがこの収容所に連れてこられてしばらく経ったが、不思議なほど何事もなく生活していた。
本当に自身が捕虜なのか疑いたくなるような扱いである。

勿論食事などは最低限なものであり、決して良いものとはいえない。
だがそれでも彼の知る捕虜の扱いより数段良いものであり、あのときの決断は間違いでなかったのだと過去の自分に感謝していた。

そんな捕虜の生活を続けていく中、アニジャが何をしていたかと言えば。

( ´_ゝ`)「やはり、この『センシャ』という兵器は凄まじいな......なぜこんな質量のあるものを動かせるのか」

何故か置かれていた人間の持つ兵器についての本から情報収集をしていた。
恐らく自分達の持つ力を理解させようという狙いなのだろう。

700名無しさん:2023/10/07(土) 15:31:55 ID:O2mR.r2o0
しかしこんなことをしなくても、少なくともあの地獄を生き残り、今この場にいるものは皆わかっており、不要であった。
とはいえ、この世界で知るものが少ない貴重な情報を与えられているのだ。
いくら学んでも足りないくらいであろうと、何度も何度も繰り返し読み、情報を頭に叩き込んでいく。

( ´_ゝ`)「魔法ではなく音の速さすら超えるとはどういう原理なんだ?そもそも音に速さという概念が良く分からんのだが」

だが時々どうしても根本的な部分の違い故に、理解しきれない部分が出てくる。
そのときも繰り返し読むが、結局理解は出来なかった。
とはいえ、それもう仕方のないことなのだと割りきりつつ、アニジャは思考に耽る。

( ´_ゝ`)(改めて敵の戦力を知ったわけだが......まあやはりと言うべきか、とんでもない相手だな。もう二度と戦いたくないものだが、もし仮に現時点で戦うとするならば......)

手に入れた情報を元に、何度も脳内でシミュレーションを繰り返す。
負けた今もまだ、戦いの事を考えているなど、つくづく自分は軍人なのだなと苦笑していた。

701名無しさん:2023/10/07(土) 15:33:06 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)(しかし......無謀としか言い様がないな)

そうして繰り返したシミュレーションでは、当然敗戦を繰り返した。
良くて与えられるのは軽微な損害と金銭的なダメージ程度であろう。
コストに見合う戦果を挙げることなど、妄想の中ですら厳しいと言わざるを得ない。

( ´_ゝ`)(......いや、待てよ?)

だがその中でふと、ある可能性に気がつき、本を捲る手が止まる。
確かに敵は海も、空も、陸上も無敵と思える強さを持つ。
つまり海も、空も、陸上でも勝つことは不可能とも言えるだろう。

ーならば、それ以外ならどうなのだろうか?

702名無しさん:2023/10/07(土) 15:34:12 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)(アリベシに送られていたあれなら......いや)

頭に浮かんだ可能性に、ほんの少しだけ妄想はしやすくなった。
だがあくまでもほんの少しだけであるし、それが妄想であることには変わらない。
大局で見ればどんな奇跡を積み重ねても現時点では勝てないという結論に辿り着くのには変わらないのだ。

( ´_ゝ`)「......まぁ、まだ可能性があるだけましだな」

アニジャはそう呟き、疲れたように一度息をはく。
その無意識な行動に、ようやく自分が考え過ぎて疲れていることに気がつき、今日はもうここまでだと本を閉じる。
そうして改めて本の表紙を眺めていると、ふとした疑問が沸いてきた。

( ´_ゝ`)(そういえば......この本、わざわざ翻訳されていたがどうやったんだ?魔法が使えない以上、翻訳魔法ではないはずだがムーで出た捕虜の誰かが協力したのか?)

今更ながらの疑問だが、考えてみればこれもまたおかしなことだと、アニジャは首をひねる。
そうして考えるのをやめようとしていたのにも関わらず、再び思考の海に沈みそうになったその時、背後に近づく複数の足音に意識が呼び戻された。

703名無しさん:2023/10/07(土) 15:34:42 ID:O2mR.r2o0
一体なんだと振り返って見てみると、そこにいたのは自分の着る粗末な服ではなく、全員統一されたしっかりとした服装の者達。

―この施設の人間か。

そう頭に浮かび、何事かと人影をよく見て驚愕する。

川 ゚ -゚)「......貴様がアニジャだな、立て」

その影の正体が、自分と同じエルフだったからである。
周りのエルフと同じ格好をしているということは彼らの仲間であることは間違いないのであろう。

( ´_ゝ`)「その訛り......ソーサクの者か?」

川 ゚ -゚)「......もう一度言おう、立て」

( ´_ゝ`)「っと、分かった分かった。従うよ」

704名無しさん:2023/10/07(土) 15:35:24 ID:O2mR.r2o0
何とか探りを入れようとするが、ここでは無理かと命令に従う。
とはいえ、思考を止めることはない。

( ´_ゝ`)(今の反応は、当たりか?だがそうなると、国として繋がっているか、個人的なものかで大分話が変わってくるな)

もし個人的な繋がりならば、問題ない。
現時点で脅威となるのは、人間のみとなるためである。
だがもし、国同士の繋がりがあった場合。

( ´_ゝ`)(世界が敵と言っても過言じゃなくなる......自分達は生き延びれても、国はなくなるかもしれんな)

最悪の想定が頭によぎりつつも、それを顔には出さずにアニジャはクーの後をついていく。
そうしてある部屋に入るように促され、それに素直に従う。

( ´_ゝ`)「ここは、取調室か何かか?」

川 ゚ -゚)「そうだ。君に少し、話があるものでな」

705名無しさん:2023/10/07(土) 15:35:52 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)「話?軍に関わる情報か?もしそうであるならば、俺も軍人としての誇りがある。今なお国のために戦う仲間のためにも話すことは出来ない。拷問されようとも、だ」

川 ゚ -゚)「あぁ、いや、そういうことではないし......話というよりも、これは頼み事と言える」

( ´_ゝ`)「......頼み事?」

その言葉をうまく理解しきれないのか、アニジャは頭に疑問符を浮かべる。
捕虜の身になったものに、命令ではなく頼み事をするということは勿論のことだが、それ以上に一体自分に何を頼もうかが分からないのだ。

軍のことを聞きたいというのならば理解できるがそうではないと既に言われている。
では他にこのように呼び出してまでする頼みとは何なのか、全く思い当たらない。

706名無しさん:2023/10/07(土) 15:37:25 ID:O2mR.r2o0
( ´_ゝ`)「頼み......頼み、か。すまないがどういうことだろうか?一体何を頼もうと言うんだ?」

川 ゚ -゚)「ふむ、まぁ頼み事は簡単に言えば一つだ」

そう言いつつ、クーは一つの魔信をアニジャに差し出す。
いよいよもってそんなもので何をしろと言うのか分からないアニジャは黙ったまま話の続きを促した。

川 ゚ -゚)「君の国、まぁルナイファにだな、降伏するよう促してほしい」

(; ´_ゝ`)「なに?」

そうして飛び出た言葉に、アニジャは言葉を漏らす。
それもそうであろう。
ルナイファで考えられていることとして、敵への降伏は難しいと思われていたのだ。

敵の侵攻は全く防ぐことができず、一方的である以上、敵がここでルナイファの降伏を受け入れるメリットは少ない。
そもそもこちらは敵に対して恨みを買いすぎており、話をすることすら難しいのではないかと言われていたのだ。

707名無しさん:2023/10/07(土) 15:38:01 ID:O2mR.r2o0
(; ´_ゝ`)「降伏を、認めると?」

川 ゚ -゚)「認めるも何も、こちら側が望んでいることだ」

(; ´_ゝ`)「あぁ、うむ......そうなのだが」

そのような背景から、いきなり降伏を受け入れると言われても戸惑いしかない。
確かに部隊レベルの降伏であれば、敵将次第ではあるが、ある程度の温情はあるのだろうとは考えていた。
だが国レベルでそれは不可能ではないかと思い込んでいた。

川 ゚ -゚)「......いや、何を驚いている?」

(; ´_ゝ`)「驚きもするさ。何せ、こちらは色々やらかしていると言うのに、降伏を受け入れると言われたんだからな」

川 ゚ -゚)「?何を言っている。降伏勧告など、ずっと前から何度もしているではないか。それこそ貴様等が戦う前にも降伏勧告は行っている」

( ´_ゝ`)「......は?」

708名無しさん:2023/10/07(土) 15:38:41 ID:O2mR.r2o0
その言葉に再度驚愕する。
まとまらない頭の中を、どうにか整理し、話を続ける。

( ´_ゝ`)「その、すまない。俺達が戦う前とは?」

川 ゚ -゚)「言葉のままだが」

( ´_ゝ`)「あぁ、いやその、つまり、なんだ?戦いと言うのは......ルナイファ本土への攻撃のことを言っているのか?その前に降伏勧告を?」

川 ゚ -゚)「あぁ、そうだ。何度もな。詳しい回数は覚えていないがな」

(; ´_ゝ`)「っ!!」

その言葉に思わず、アニジャは拳を机に叩きつける。
ダンッ、という大きな音と共に、手には血が滲むが、そんなことを気にする様子もなく、アニジャは怒りに震えていた。

ー一体何のために自分達は戦ったというのか!!

そんな思いで心中は埋め尽くされる。
もし上が、この勧告をまともに受け取り交渉していれば本土に攻め込まれることもなく、またあんなにも多くの死者を出すこともなかったのだ。

709名無しさん:2023/10/07(土) 15:40:32 ID:O2mR.r2o0
明らかに上の者達の傲慢さと無能により、あのような惨劇は引き起こされたと言える。
そしてなにより、自分にこのような話が来たということは未だにそいつ等は自国の土地を失ってもその事を認めずにいるということ。
あまりの事実に砕けんばかりに歯を食いしばる。

川 ゚ -゚)「......平気か?」

(# ´_ゝ`)「平気なものか、くそったれめ」

川 ゚ -゚)「その様子を見るに、まさか知らなかったのか?」

(# ´_ゝ`)「......あぁ。その通りだ。それで魔信の相手の糞野郎は......まあ、答えんでも分かる。プギャーだろ?」

川; ゚ -゚)「あ、あぁそうだが......仮にも軍務省のトップだろう?他の連中ではないのか?国の将来に関わることを握り潰すなど」

(# ´_ゝ`)「糞野郎の考えることは知らんが、奴ならやりかねん」

川; ゚ -゚)「冗談、ではないんだよな。そこまでなのか......」

互いに頭を抱えてしまう出来事である。
これがもし、少しでも違えばもっとマシな未来があったかもしれないのだ。
それをたった一人によって潰された。
どうしてこんなことにと、考えずにはいられない。

710名無しさん:2023/10/07(土) 15:41:01 ID:O2mR.r2o0
川; ゚ -゚)「まぁ、なんだ?君と話せて良かった。これでようやく、少しはまともに交渉できる未来が見えるかもしれん」

( ´_ゝ`)「......その件なんだが」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

( ´_ゝ`)「連絡する宛はあるのか?」

川 ゚ -゚)「......君頼りだな」

( ´_ゝ`)「そうか、ならちょうどいい。こちらからも提案したいと考えていたところだ」

川 ゚ -゚)「ほう?して、相手は?信頼できる相手なのか?」

( ´_ゝ`)「安心してくれ、そいつ経由ならば、おそらく陛下まで伝えることも出来るだろう」

川 ゚ -゚)「そうか、それで?そいつは誰だ?」

そう言いつつ、机に置かれていた魔信を拾い上げ、アニジャに手渡す。
アニジャはそれを受け取りつつ、笑って答えた。

( ´_ゝ`)「俺が世界一、信頼できる男だよ」

711名無しさん:2023/10/07(土) 15:41:42 ID:O2mR.r2o0
ルナイファ帝国 東方基地

南方にて地獄が繰り広げられる一方で、この東方基地では比較的に平和であった。
敵からの標的にされていないのは勿論のことだが、その理由はここにいる兵達の士気が著しく低いことが影響していた。

比較的血気盛んなものたちは慌ただしく整備が進められていたマタンキ等の艦隊と共に出撃済みであり、ここに残されているのはあの南方沖での戦いに生き残りばかりである。
それゆえにここにいるものは皆、敵の強さは身に染みて理解している。
さらにあんな相手に未だに真正面から戦おうとする無策な国に対して強い不信感が生まれていた。

それゆえにもう二度と戦うことはごめんだと言う空気が基地中に蔓延しており、それは行動にも現れ始めていた。
もはや半ストライキ状態とも言える状態になりつつある。
そして敵から見ればあまりに驚異度が低いため、南方への戦線への影響はないであろうと無視されていたのだ。

守るべき者達の士気が低いことにより、守らなくてよくなると言うなんとも不思議な状況であった。

712名無しさん:2023/10/07(土) 15:42:12 ID:O2mR.r2o0
(´<_` )「......ふぅ」

そんな基地にてオトジャは一人、ため息をついていた。
国が窮地に立たされてはいるものの、現状ここで出来ることは何もなく、手持ちぶさたなのだ。
それゆえ考えるのは自分の兄が無事であるかと言うこと。

未だに安否が不明なままであり、どうにも気持ちが落ち着かないのだ。

(´<_` )「......うん?」

そんなときであった。
不意に自身が持つ魔信が反応し、誰かが連絡を取ろうとしてきたことに気がつく。
まさか出兵かと頭によぎり、今ここにいるもの達にどう説明したものかと頭を抱えそうになるがそれも一瞬だけであった。

713名無しさん:2023/10/07(土) 15:42:36 ID:O2mR.r2o0
(´<_` )「これは、発信元はムー?どういうことだ?」

既に奪われたはずの土地からの連絡。
それが、ある程度の地位があるものとはいえ一兵士である自身宛に一体誰がどんな用事でしようと考えるのか、オトジャには全く分からなかった。

(´<_` )「......誰だ?一体何のようだ?」

その疑問を直接ぶつけるように、オトジャは魔信の先にいるものにそう問いかけた。

『く、くくっ......』

問に対する答は、笑い声であった。
何かを堪えるようなその声に、今だ正体も目的も分からない相手に、オトジャは若干の苛立ちを感じつつ、さらに語気を強めた。

714名無しさん:2023/10/07(土) 15:43:02 ID:O2mR.r2o0
(´<_` )「もう一度聞くぞ。貴様は誰だ?」

『......あっはっはっはっ!』

(´<_` ;)「あ?」

再度、返ってきたものは再びの笑い声。
だがそれは先ほどと異なる、高笑いであった。
そしてそれは、どこか聞き覚えのある、懐かしさがあった。

『おい、貴様。自分の立場を忘れたわけではないよな?あまりに勝手な行動をするならば......』

『ああいや、すまない。あまりに警戒しているものだから、ついな』

『......まあいい。では本題を』

(´<_` ;)「ま、待て。おい!な、な」

魔信の先から聞こえるのは二つの声。
一人は男で、もう一人は女のものである。
女の方は聞き覚えはないが、男は違う。
何度も、何度も、それこそ嫌となるほど聞いた声。
そして今一番、聞きたかった声であったのだ。

715名無しさん:2023/10/07(土) 15:43:37 ID:O2mR.r2o0
(´<_` ;)「あ、アニジャ!アニジャなのか!?生きていたのか!?」

『なんだ、やはり今気付いたのか。もう少し、早くに気づいて欲しかったんだがな』

(´<_` ;)「そんなことはどうでもいい!今どういう状況なんだ!ちゃんと説明してくれ!」

『ふむ、まあそうだな。っと、これはどこまで説明していいのかな?』

『全て話して問題ないと聞いている。好きに話せ』

『強者の余裕、というよりも情報を全て渡してでもちゃんと力の差を分かって貰いたい、というところかな?理解した』

(´<_` ;)「......」

『というわけで説明するが......簡潔に言えば今、捕虜としてムーにいる』

(´<_` ;)「捕虜だと!?......それは、なんと......」

716名無しさん:2023/10/07(土) 15:44:18 ID:O2mR.r2o0
『驚く気持ちも分かる。ここはすごいぞ。これまでの戦いで降伏してきた奴らが皆集められている。ある程度の生活を保証されてな。無茶苦茶な拷問もない』

(´<_` )「......信じられんな」

『全くだ。つくづく世界が違うということを痛感させられる』

何とも言えない気持ちになりながら、オトジャは顔をしかめる。
アニジャが生きており、またその身が保証されていることは喜ばしいことである。
だが自分達から見て野蛮だといい続けてきた相手がそのような紳士的とも言える行為を行っているという事実。
そんな相手から見た自分達は一体どのように映るのだろうかという考えが頭をよぎり、高度文明人としての誇りにヒビが入る。

とはいえ、そんなことを気にしている暇などないと頭を強く振り、その考えを捨て、再度魔信に向き合う。

(´<_` )「それで?わざわざ俺に連絡とはどういうことだ?俺を安心させるため、というわけじゃないんだろう?」

『まぁ、そうだな。では、簡潔に伝えるぞ』

(´<_` )「あぁ」

『陛下に降伏するよう、進言してくれ』

(´<_` ;)「......は?」

717名無しさん:2023/10/07(土) 15:45:51 ID:O2mR.r2o0
その後も説明が続いたが、あまりに予想外すぎるその言葉に、オトジャの思考が止まる。
確かに捕虜であるはずの者からの連絡なのだから何かしら重要な話ではないかとは思っていた。
だが、それにしても限度がある。

(´<_` ;)「......すまない、整理させてくれ。つまり召喚地がこちらに降伏するよう動いており、それを陛下に伝えてほしいと?」

『あぁ、そういうことだ』

(´<_` ;)「......」

降伏が認められるのか、一体どんな条件がつけられるのか、それはすぐに可能なのか。
色々と聞きたいことが沸いてくる。

(´<_` ;)「なぜ、俺に?」

だが口から出てきた疑問は、そんな問いであった。
そもそもなぜ、自分になのか。
降伏勧告を行うにも、国に対して行うのならば、もっと位の高いものにするのではないのか。

718名無しさん:2023/10/07(土) 15:46:19 ID:O2mR.r2o0
そんな問に対し、魔信の向こうでは一つのため息の後に、返答があった。

『理由は幾つかある』

(´<_` )「......聞こう」

『まず一つ目はお前が陛下直轄の艦隊のトップだからだ。お前ならば陛下に話を通すことも不可能じゃない』

(´<_` )「それは、そうだな。それは納得できるが他には?」

『二つ目はお前が多くの部下を持つ艦隊のトップだからだ。この情報を下まで共有できる』

(´<_` )「......その言い方だとまるで上の奴らだと握り潰されるかのように聞こえるが」

『そう言っている、残念ながらな』

(´<_` ;)「っ!?」

その言葉に、オトジャもようやく現状を理解し始める。
つまりはもう既に、握り潰された後なのだと。
だから連絡相手が自分であったのだと。

719名無しさん:2023/10/07(土) 15:47:34 ID:O2mR.r2o0
(´<_` ;)「ようやく理解した......そういうことか。クソッ、既に握り潰された、というわけか。それで、俺に」

『あぁ、それも一つの理由だ』

(´<_` ;)「?まだ、理由があるのか?」

『ある。三つ目、それはお前が部下を持ち、兵に命令できる立場だからだ。それも敵の強さを理解した者達を、だ』

(´<_` ;)「......すまんがそれがなぜ理由になるか、さっぱりなんだが」

『......上は既に情報の握り潰しをしている勢力がいる。そして今回の情報も、下手すれば受け入れられないかもしれない』

(´<_` ;)「考えたくないが、ありうるな」

『そうなった場合、国を守るために行動する必要がある。その場合、降伏に賛同している兵、それも練度の高い者達がある程度いるであろうお前の部隊が役に立つ。正規兵を複数相手にしなければ、護衛程度ならば海兵のお前達でも十分制圧可能なはずだ。武器を突き付けてやれば嫌でも首を縦に振らせることが出来るだろう』

(´<_` ;)「......おい、ちょっと待ってくれ。その行動ってまさか」

720名無しさん:2023/10/07(土) 15:48:30 ID:O2mR.r2o0
魔信の先の兄が言わんとすることをようやく理解し、顔を青くする。
予想が正しければアニジャはとんでもないことを自分に押し付けようとしていることに気がついたのだ。
それこそ、下手をすれば反逆者として殺されかねない。

だが、それと同時にその行動が国を救うことも理解していたー

『陛下が降伏を受け入れない場合、または周囲の反対により降伏が出来ない状態となった場合は......そいつらを黙らせろ。クーデターを起こし、無理矢理にでも降伏をしてくれ』

国の命運をかけた、あまりにも重すぎるバトン。
受け取ったオトジャは勿論、困惑の表情を浮かべるものの、その目には決意の光が宿っていた。

721名無しさん:2023/10/07(土) 15:50:19 ID:O2mR.r2o0
続く
お祭り頑張りました

722名無しさん:2023/10/07(土) 19:27:50 ID:ljk/sa0A0

祭りお疲れ
さてバトンを受け取ったオトジャは大丈夫なのか

723名無しさん:2023/10/07(土) 20:19:02 ID:z5Uay1xc0
おつ
決断迫られて吐くドクオと即決意する弟者の違いよ
流石兄弟かっけえと思ってたけど重要な役割持つことになるのかな

724名無しさん:2023/10/08(日) 08:55:06 ID:txU7qNLk0


725名無しさん:2023/10/14(土) 21:05:49 ID:BXGDdQXE0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
1463年4月3日

地中の奥深く。
奇襲のため潜む彼らのいる空間は、沈黙が支配していた。
誰もが口を閉ざし、うつむく。
その顔はどれも皆、一様に暗い。

それも当然であろう。
これからここにいるものが皆、死地に向かうことになるのだから。

南方より進軍してくる、敵軍の圧倒的な強さはもう嫌と言うほど報告が来ている。
それらは例えば、一瞬で隊列を組んでいた部隊が消滅しただの、圧倒的な堅さを誇るゴーレムが一撃で塵と化しただの、何とか一撃を与えても敵の動く箱には全くもって通じないだのという普通であれば信じられないような話ばかりであった。

だがそれらが全て本当であり、そしてそんな相手と戦わなくてはならないという絶望感に誰もが死を悟っていた。
誰もが狂って叫び出し、逃げ出したいのを必死に堪え、ただただ無言でいることしか出来ない。

ー死にたくない。

そんな叫び声が、音がないはずなのに聞こえてくるかのようである。

726名無しさん:2023/10/14(土) 21:06:35 ID:BXGDdQXE0
(; ,,^Д^)「......」

(; ^ν^)「......撤退は、無理か」

(; ,,^Д^)「はい。それにもう、敵は目前です。敵の速度を考えれば逃げきれません」

(; ^ν^)「......くそっ」

最後の望みとも言える、撤退も許されることはなかった。
生き残るには戦い、そして勝つ。
もしくは。

(; ^ν^)「......いっそのこと、降伏するか?」

一切戦わずに全面降伏。
本来軍人としてあるまじき選択肢が、頭をよぎる。

(; ,,^Д^)「ですが......敵はこちらの降伏を認めないと噂されているじゃないですか。良くて、拷問だと......」

(; ^ν^)「......」

だがそれも敵が認めてくれなければ成り立たない。
伝わってくる話では降伏しても攻撃されるか、もしくは遊びで拷問され殺されるという。
自国も部隊によってはそれに近しいことを行う者たちがいること、またこれまでルナイファがしてきたことを考えれば、噂とはいえそれを否定しきることが出来ず、降伏を決断するに至れなかった。

727名無しさん:2023/10/14(土) 21:07:36 ID:BXGDdQXE0
なおこの噂は勿論嘘であり、プギャーをはじめとした徹底抗戦を主張、もしくはそれにより利益を得る者たちが、前線での降伏を防ごうと流した噂であった。
そして今、その効力が存分に発揮されニュッ達の部隊は完全に退くことも進むことも出来ない状態となってしまっていたのだ。

出来ることはただ、敵を待つことのみ。
それも、その時が来ないことを祈りながら。

『......っ、て、偵察部隊より連絡!!敵、ここより10km地点を通過しました!!』

(; ,,^Д^)「遂に、来ましたか」

『敵の数、多数......噂の動く箱が、大小差はあれど20は超えると......』

(; ^ν^)「おいおい、一ついるだけでも敵わんのにそんなにいるのかよ......くそったれ」

だがその祈りも虚しく、戦いの時はすぐそこまで迫ってきていた。
周囲の部隊は既に崩壊しており、戦える者は自分達のみである。
つまりここまで敵は何も障害なく侵攻してくるというわけであり、万全な状態の敵部隊を迎え撃たなくてはならないのである。

728名無しさん:2023/10/14(土) 21:08:35 ID:BXGDdQXE0
『......無理だろ、こんなの』

誰かがポツリと溢したその言葉は皆の気持ちを代弁していた。
それでも今、この場にいるもの達は軍人としてここにいるのだ。
不可能でもやれと言われれば、やらねばならない。

それが、軍人であるのだ。

(; ^ν^)「......全部隊、潜伏体勢をとれ。敵が近づいてくるのを、待つんだ」

自分達の力がどれほど通じるかなど、誰にも分からない。
敵が常識の通じない攻撃を繰り出してくることも知っている。
戦い方も、使う兵器も、そもそも根本の技術から異界の物であり、理解不能の代物なのだ。
どう戦えば良いか、正解など分かるはずがない。

だが彼等には訓練でしたこと以上のことなど出来る筈もなく、最早定石とも言える様な作戦で敵を迎え撃とうとしていた。
その行動に誰も口に出さないが、今さらあの敵に教科書通りの攻撃など、通じないのではないかという不安が脳裏をよぎる。

729名無しさん:2023/10/14(土) 21:09:32 ID:BXGDdQXE0
(; ,,^Д^)「......」

それでも、彼等は行動を続ける。
それしか、方法を知らないのだから。

『敵、5km地点を通過しました......平原を一直線に進んでいます』

(; ^ν^)「余程、自信があるのか......」

ここ、テタレス南方の平野は平坦で大きな岩もなければ、木々もない。
低い草が生い茂るのみで、地上に隠れられる場所はおろか、攻撃を受けても逃げられる場所は何処にもない。
そんな場所を堂々と進むということは、こちらなど敵ではないということであろうとニュッは考え、震える。

そうこうしている間にも敵はさらに接近してくる。
その速度は彼等の常識からしたら考えられない速度であり、異常であった。

730名無しさん:2023/10/14(土) 21:10:16 ID:BXGDdQXE0
交戦距離まで、もう時間はない。
さらに敵の射程を考えれば、いつ攻撃がきてもおかしくないはずである。

(; ^ν^)「敵の様子は!?」

『敵、速度変わらず接近中!こちらに向かってきています!』

そうしてもうすぐそこまで、敵は迫ってきていた。
とてつもない速度で彼等は近付いてきていた。
一切速度を変えずに、まるでこちらを気にすることがないかのように。

(; ,,^Д^)「ぐぅ、速度変わらず、ですか......やはり、戦うしかない、というわけですね」

(; ^ν^)「......あ?」

その時、ニュッは猛烈な違和感に襲われていた。
敵の速度は、異常である。
恐らく徒歩での移動をすることなく、ゴーレムを超えるなにかしらの高速の移動手段を持っているのだろう。

731名無しさん:2023/10/14(土) 21:10:45 ID:BXGDdQXE0
だが問題なのはそこではない。

問題なのは、敵の速度が全く速度が変わらないということ。
それは、おかしいのではないか。

これまで敵はこちらに姿すら見せずに圧倒的な射程を持って撃滅してきたのだ。
それが敵の戦い方であり、事実接近することによるリスクはあるはずであり、遠方から敵を一方的に叩けるならばそれに越したことはないはずである。

それがなぜこうも堂々と姿を晒し、軍を進めてくるというのか。
敵が近くにいると気が付いたのならば、何かしらの行動があるべきなのではないか。
それらがないということ、それはまるで。

ーまるで、こちらの存在に気付いていないかのようではないか。

732名無しさん:2023/10/14(土) 21:12:12 ID:BXGDdQXE0
(; ^ν^)「っ!」

雷に打たれたかのような衝撃が身体中を駆け巡る。
ニュッにとってその閃きはそれほどまでに凄まじいものであった。
それは神からの天啓と言っても良いかもしれない。
その閃きに、救いの道を見出だしたのだ。

(; ,,^Д^)「やはりここはもう、突撃し先制攻撃を......」

(# ^ν^)「待てっ、全軍動くな!限界まで、敵が近づくまで待機だ!!」

(; ,,^Д^)「なっ!?ど、どういうことですか!?これ以上の接近は無茶ですっ!!」

(# ^ν^)「いいから言う通りにしろ!!」

(; ,,^Д^)「っ!」

敵はその間にも近づいてくる。
その距離は既に、こちらの攻撃範囲に入っている。
噂に聞く敵の射程を考えれば、もういつ攻撃されてもおかしくない。

733名無しさん:2023/10/14(土) 21:14:50 ID:BXGDdQXE0
(; ,,^Д^)「......え?」

そこでタカラも、いや部隊全体が気が付く。
射程を活かすことを考えれば最早攻撃されてもおかしくないどころか、攻撃されないとおかしい距離にまで敵は迫っていた。
こちらの攻撃可能な範囲にまで、わざわざ敵は近づいてきたのだ。
噂で伝え聞くような目視の範囲外からこちらに攻撃が可能ならば、わざわざそこまで近づいてくる理由がないはずである。

それでも近づいてくる理由があるとするならば。
それは敵がこちらに、気がついていないということなのではないか。

さらに、その状態であるにもかかわらずまるでこちらのことを気にすることがないかのように進軍を進めている。
まるで攻撃される可能性に気がついていない、いやそもそもそんな可能性があることすら知らないのではないのか。

734名無しさん:2023/10/14(土) 21:15:48 ID:BXGDdQXE0
ーそれは、つまり。

( ,,^Д^)「まさか奴らは......地中からの攻撃を......潜地艦を知らないのか?」

地中を進み、潜み、敵に奇襲をする。
この世界での戦いを、知らないのではないか、と。

ーそう、異世界の人間達の戦いを知らなかったエルフと同じく、人間達もまたエルフの戦いを知らないのではないか、と。

その気づきと、敵が頭上に到達するのはほぼ、同時であった。

(# ^ν^)「全部隊、一斉攻撃!!」

その叫びと共に、地上に向けて攻撃が吹き荒れる。
暗い地中からでは外は見えない。
だが、確かに伝わってくる大地の揺れに、攻撃の成功を確信させた。

735名無しさん:2023/10/14(土) 21:16:36 ID:BXGDdQXE0
( ,,^Д^)「お、おおおっ!!」

つい先刻までの雰囲気が嘘のように、皆が沸いていた。
これまで一方的にやられてきたことを、今度はこちらからやり返せているのだ。
そしてそれを、自分達が成し遂げたのだと、恐怖から打って変わって喜びに身体を震わせていた。

( ^ν^)「本当に、敵は知らんようだな」

敵からの反撃は、一切ない。
反撃どころか逃げ惑っていると、地上の様子の報告があったことからまさに予想外の攻撃であり、また対処法も知らないと見える。

そもそも、こちらの位置を掴んでいるとも言いがたいようである。
まさに、一方的。
これまでルナイファがやられてきたことをそのままやり返しているかのようであった。

736名無しさん:2023/10/14(土) 21:17:42 ID:BXGDdQXE0
( ,,^Д^)「そのようですな。しかし無敵とも思えた敵兵器の弱点がまさか、下からの攻撃とは......」

どんな攻撃も受け付けずに弾き返す、無敵の敵兵器。
誰一人撃破したものなどいなかったそれに、何台も撃破していく。
それも一方的にだ。
そんな状況に、沸かないわけがない。

そうして皆が歓喜の声を挙げる。
勝てる、勝てるのだ、と。

ズゥウウッン!!

(; ^ν^)「ぐおっ!?」

だがその歓喜を遮るように激しい揺れが、艦内を襲う。
しかもそれは一度だけではない。
何度も、何度も続く。
その揺れ、また嫌な音に歓喜の声は一瞬で止み、変わりに皆が汗を流す。

737名無しさん:2023/10/14(土) 21:19:07 ID:BXGDdQXE0
(; ^ν^)「この揺れは何だっ!?被害はっ!!」

『敵の攻撃です!!地表に向かって攻撃を行った模様!!地表に凄まじい痕跡が見られますっ!!また被害については地表近くで攻撃していた艦が小破、またそれ以外の艦も衝撃により、一部計器の異常が見られますっ!ですが全艦撃沈の恐れは無いと思われますっ!!』

(; ,,^Д^)「......ふぅ。焦りましたが、本当に敵に打つ手は無いようですな。地表付近は危険ですが、地中に退避すればもう攻撃は届かないでしょう」

(; ^ν^)「......」

安心するタカラの一方、ニュッは汗が止まらなかった。
確かに現在対峙している敵はこちらに対する有効的な兵器は持ち合わせていないのであろう。
地表に攻撃した敵の兵器は、明らかに地中のものを意識したものではないことからもその事実に間違いはない。

738名無しさん:2023/10/14(土) 21:20:32 ID:BXGDdQXE0
だがそうであるにも関わらず、ここまで影響を及ぼしうる威力の攻撃を敵は持っているのだ。
異常ともいえる威力により、ここまで一方的な状況になりつつもこちらに被害を与えられる力を持つ。
その事実に改めて、自分達がどんな敵と対峙し、そして現在がどれほど恵まれているのかを自覚する。

(; ^ν^)(そりゃあんな攻撃を持つ相手に、地上で勝てるわけがねぇわな。だが地中からで勝てるかと言えば、もうこちらの手の内を知ったんだ、警戒されるし対策も取られる......こりゃ次はないな)

『っ、敵が撤退を開始しました!』

( ,,^Д^)「なに?では、追撃を......」

( ^ν^)「......待て、あくまで俺たちの任務はここの死守だ。追撃のためとはいえここを離れて守りを無くすわけにはいかん。俺達がここにいれば少なくとも今は、そう、今は守れるんだ。そもそも潜地艦の速度がとてつもなく遅いのに加えて、あの敵の速度だ。追い付けんだろ」

『......はい、敵、既に攻撃範囲外に逃亡。潜地艦では、追い付けません』

( ,,^Д^)「......そうですか」

739名無しさん:2023/10/14(土) 21:21:02 ID:BXGDdQXE0
( ^ν^)「そう残念そうな顔をするな。今回の成果だけでも出来すぎな位なんだ。生き残れただけでも、喜ぶべきだろ」

( ,,^Д^)「それは......そうですね」

( ^ν^)「ましてや、俺たちは勝ったんだぞ」

( ,,^Д^)「勝った......そう、勝った、んですよね?私たちは」

( ^ν^)「......あぁ、信じられんがな」

この日、ここテタレスにおいて一つの歴史が生まれた。
それはルナイファが初めて、局地戦とはいえ召喚地との戦争で勝利したと言うこと。
誰一人、それこそ戦いに参加した本人達ですら信じられないその現実が、実現したのだった。

740名無しさん:2023/10/14(土) 21:21:26 ID:BXGDdQXE0
ルナイファ帝国 軍務省

(; ^Д^)「くそっ、なんでこうも、うまくいかない!!」

この日もプギャーは何時ものように荒れていた。
この国のためにと行動を始めて暫く経つが、思うようにことが進んでいないためである。
国が降伏などしないよう国民を煽動し、自分の行動が漏れでないようデミタスを始末したところまでは良かったはずである。

だが、肝心の召喚地を潰す作戦が全く上手くいっていないのだ。
流石のプギャーも敵の強さを理解していたが、まさか全力を尽くしても勝てないどころかまともな足止めにすらならないとは思ってもいなかった。
彼が考える作戦には、時間がかかる。
そのための時間をどうにか作り出そうと考えていたと言うのに、現状は悲惨なものであった。

741名無しさん:2023/10/14(土) 21:23:05 ID:BXGDdQXE0
さらにそこにニータの宣戦布告。
これまで安全であった北方が一気に危険となり、またそれを守る余力もあまりなく、こちらも戦況は悪い。
とはいえ召喚地との戦いほど一方的なことにはなっておらず、体勢さえ整えば負けはしないだろう。
しかし逆に言えばそれは、勝つことも難しいということであり、通常では一方的に勝てるはずの相手に苦戦をしていることは事実なのだ。
そしてそんな戦いを長く続けられるほどの余裕などあるはずがない。
このままでは本当に全てが終わってしまうのではないかと言う恐怖が彼の心を埋め尽くしていた。

また国民を煽動したことについても、未だにプギャーが主導したことの証拠こそ握られてはいないものの、少なからず疑いの目を向けられており、これもまたリスクとなりつつある。
とはいえ現時点ではプギャーを捕らえれる心配は少ないであろう。
人間達に屈することを望まない彼のシンパや国が戦争することにより利潤を得るものが数多くいるため、プギャーを証拠もなく無理に捕らえれば国が安定するどころかシンパ達の暴走を誘発しかねないのだ。

742名無しさん:2023/10/14(土) 21:24:25 ID:BXGDdQXE0
だがもしその疑いが事実と知られれば捕縛で済めばまだ良いが、下手をすればデミタスにそうしたように暗殺される可能性もあり得ない話ではない。

道半ばで死ぬかもしれないという恐怖に、彼は自身の持つ権力をフルに使い、本来戦場へ持っていくべきである強力な魔壁を仕込んだ兵士用の最高級鎧を奪い取り、着込んでいた。
目の前で強力な魔法を使用され直撃したとしても耐えうるほどの一品である。

国を救うためと言いながら、我が身可愛さから本当に国のために戦地で戦っている者から物資を奪い取り、安全であるはずの戦地から離れた帝都で怯えて震える彼の姿は何とも情けなく、そしてそれを自身でも感じ、怒りと屈辱に震えていた。

743名無しさん:2023/10/14(土) 21:25:00 ID:BXGDdQXE0
そうして様々な考えや感情にぐちゃぐちゃにかき乱されているところにまた嫌な音が彼の耳に入る。
ドタドタという足音が近づくのを感じ、彼は一層顔を歪ませた。
戦争が始まって以来、この足音のあとに伝えられる報告にいいものなど一つたりともなかったのだ。
もう何一つ聞きたくないと耳を塞ぎたい気持ちに駆られるが、そんなことはしったことないというように足音はどんどんと大きくなり、それは部屋の前で止まる。
ああまたかとため息をつくと共に、部屋の扉が慌ただしく開かれ、足音の主が飛び込んでくる。

(;*゚ー゚)「ぷ、プギャー様!!」

(# ^Д^)「ああもぅ、今度は何だ!?どこが負けた!!」

もう何度聞いたか分からない質問。
いつもと同じように怒りと共に訪問者であるシイに投げかける。

(;*゚ー゚)「プギャー様、ち、違うのです!!」

(; ^Д^)「......あ?違うとはなんだ?」

744名無しさん:2023/10/14(土) 21:26:03 ID:BXGDdQXE0
いつもと同じ敗戦の報告に対して身構えていたプギャーであったが、この日はいつもとは違っていた。
シイの態度はいつもと同じように、慌てたものであったが、その表情がよくよく見てみれば違う。
いつも青白い顔であったのが、今日は生気に満ちているのだ。

重苦しい空気はなく、それどころかどこか喜ばしい事があるのではないかという空気を感じるほどである。
ここ最近、感じたことのない雰囲気にプギャーは若干困惑してしまう。

(;*゚ー゚)「勝った......勝ったのです!」

( ^Д^)「勝った......とは?」

(;*゚ー゚)「は、はい!ですから、勝ったのです!!テタレス南方の前線にて、陸上部隊に多大な被害が出たものの、潜地艦による奇襲部隊が敵を撃滅、後退させることに成功しました!!」

( ^Д^)「......」

ぽかんと口を開けて、その報告を聞いていた。
待ちに待った報告であったはずであるが、これまでの戦歴からいつの間にかプギャーですら無意識のうちに勝つことは出来ないのではないかと思ってしまっていたのであろう。

745名無しさん:2023/10/14(土) 21:26:48 ID:BXGDdQXE0
その報告を聞き、脳が理解するまでに時間を要した。
だが、その報告を理解すると同時にプギャーは身体を震わせる。
それはいつもの怒りによるものではなく、歓喜によるものである。

( ^Д^)「勝った、我々の、勝利というわけだな!!その報告、間違いないか!!」

(*゚ー゚)「はい!現地から複数報告が上がっており、間違いないかと。また報告によれば敵は潜地艦というものを知らない可能性があるとの事」

( ^Д^)「なに?それは......」

(*゚ー゚)「おそらく世界の違いによるものだと思われます。これから敵も対策をとってくるとは思われますが、有効な手段を得るまでは時間が必要であり、敵の大規模な侵攻はしばらくなくなるのではないかと」

( ^Д^)「......そうか、そうかっ!!」

プギャーはその報告に何度も頷く。
敵が潜地艦を知らない。
これはとてつもなく大きなアドバンテージといえる。
存在を知らなければその対処法も知らないし、またそのための道具なども発達していないであろう。

つまり潜地艦は少なくともしばらくは無敵と言っても過言ではない。
そしてそんな敵がいる状況で進軍など出来るはずがない。
これにより欲しかった時間的余裕が産まれたのだ。

746名無しさん:2023/10/14(土) 21:27:37 ID:BXGDdQXE0
ようやく自分の望んだ形で物事が進み始めたことに、神は自分を見捨てておらず、またこの道を進めと後押ししてくれているのだと彼は確信する。

(*゚ー゚)「また一つ報告なのですが」

( ^Д^)「ん?なんだ?」

(*゚ー゚)「こちら......東方の海域より、魔信が届いております。用件は『後数日で目的地へ到着する。任務に支障なし』とのことですが......」

( ^Д^)「っ!!」

そして更に吉報が重なる。
もはやこれは天啓ではないのか。
ここに来て、プギャーの思い描く通りに物事が一気に進み始めたのだ。

( ^Д^)「く、くはははっ!!」

遂に奴らを滅ぼす時が来たのだと、彼は高笑いをする。
長きを耐え、遂にこの時が来たのだと。

(;*゚ー゚)「ぷ、プギャー様?」

( ^Д^)「シィよ、これでようやく準備が整った!奴らを、人間どもを滅ぼす準備がなっ!」

終焉が、すぐそこまで来たのだ。

747名無しさん:2023/10/14(土) 21:28:02 ID:BXGDdQXE0
続く

748名無しさん:2023/10/14(土) 22:11:48 ID:VotaCmLg0
乙です

749名無しさん:2023/10/14(土) 22:50:12 ID:mxM0drWM0
おつおつ
一矢報いれたのは凄いな!
バンカーバスターとかで終わりそうだけど…

750名無しさん:2023/10/21(土) 20:44:35 ID:wVsEMc.M0
ルナイファ帝国 帝城
1463年4月10日

/ ,' 3「......根回しの状況はどうなっている?」

( ФωФ)「はっ。有力な貴族を味方につけることが出来ております。一部は未だに反発をしておりますが......」

/ ,' 3「まだ足りぬか?」

( ФωФ)「いえ、少なくとも南方の敵を知る者達は皆、講和を求めておりますため、議会では混乱はあると思われますが、数で押しきれます。ただあの放送により、民が継戦派に傾いてしまったのが痛いところですな。領民からの反発を恐れて降伏をしたくても出来ないという者もおります」

/ ,' 3「そうか......」

( ФωФ)「また継戦派は数は減っているものの......血気盛んな兵はまだ多く、声高々に継戦を叫んでおります」

/ ,' 3「うむぅ」

この日もアラマキ達は帝城にて頭を抱えていた。
降伏に向けて動き始めて既にかなりの日数が経っており、着実に進んではいるものの良い状況とはお世辞にもいえないであろう。

751名無しさん:2023/10/21(土) 20:46:10 ID:wVsEMc.M0
理由は先ほどの会話の通り、国内で意見が割れてしまっていることが影響している。
また敵との交渉を行おうとロマネスクが奮闘していたが、まともな外交ルートを持たない現時点では難しい。
何とか敵に降伏した旧属国を通じて話をしようと働きかけてはいるものの、そちらについても芳しくないため、これもロマネスクの頭を痛める要因となっていた。

/ ,' 3「......やはり、勅令として無理にでも押し通すべきか?」

(; ФωФ)「最悪の場合はそうするしかないかもしれません。ここまで話が通じない者が多いとは予想外でした」

/ ,' 3「そう、だな。全く、煽動した輩もそうだが一体何を考えているのか......」

(; ФωФ)「自分の利益か......もしくはなにも考えていないのかもしれません。それこそ、負けることすら」

/ ,' 3「......あり得ん話ではないのが、恐ろしいな」

752名無しさん:2023/10/21(土) 20:47:43 ID:wVsEMc.M0
そもそも国民の煽動も、彼らからすれば予想外であったのだ。
降伏に向けて動こうとした瞬間にあのようなことを起こす輩がいるほど、国は暴走しているのかと頭を抱えてしまった。

その後、何とか魔信を流していた者達は潰すことは出来たものの、民衆を沈めようにも一度出た話を消せるはずもなく、帝都周辺では未だに好戦的な雰囲気であり、何とも悩ましい問題となっていた。

/ ,' 3「......して、煽動をした輩の大元は?」

( ФωФ)「残念ながら、決定的な証拠はなく、尻尾を掴ませません。かなり計画的な行動です。それも、大掛かりな」

/ ,' 3「そうか。おそらく、継戦派の中でもかなりの力を持つものであるであろうから、潰しておきたかったが......難しいか?」

(; ФωФ)「......確かに、候補は限られていますが、仮に奴に対して下手に手を出せば、かなりの者から反発を生むでしょう」

753名無しさん:2023/10/21(土) 20:48:46 ID:wVsEMc.M0
/ ,' 3「混乱を生むだけ、か。それならば議会の場で数の力で合意を取る方が良いというわけか」

( ФωФ)「その通りかと。それにこちらから仕掛ければ反撃をする口実を与えてしまいます。確固たる証拠もない現状では下手な行動は逆効果になるため、何も出来ないと考えた方が良いかと。デミタスの手が空いていれば、まだなんとかなったかもしれませんが......」

/ ,' 3「奴は海軍の事で手一杯であろう?」

(; ФωФ)「えぇ、そのようで最近は家にこもりっぱなしで顔もろくに見れていません」

/ ,' 3「そうなるとやはり、我々だけでどうにかするしかないわけか」

あまりよくない現状に互いにため息をつく。
力のあるもので動けるものが味方に少ないのが大きい。
さらに有力な仲間であるデミタスも今は動かすことが出来ないためにこれ以上の好転も望むことが難しいだろう。

ーそして彼らはまだ知らないが、デミタスがもう力になりたくてもなれなくなっており、最悪ともいえる状態である。
もしそれを知っていれば彼らはあまりの現実の悪さにため息どころではなかったであろう。

754名無しさん:2023/10/21(土) 20:49:30 ID:wVsEMc.M0
( ФωФ)「はい、その通りかと。降伏に向けてについても予想通り、召喚地との交渉については目処が......」

/ ,' 3「あぁ、その件に関しては問題ない」

(; ФωФ)「......え?も、問題ないとは?」

/ ,' 3「その言葉の通りだ」

そう軽く笑うアラマキを見て、ロマネスクは頭の上に疑問符を浮かべる。
先ほどまでとは打って変わって明るい雰囲気に一体どういう事なのかと、思考が追い付かなかったのだ。
だが数瞬の後、言葉の意味を理解し、ハッと顔を上げる。

(; ФωФ)「まさか......話がついたのですか!?」

はやる気持ちを抑えきれないまま、質問を投げ掛ける。
その問に満足するかのようにアラマキは笑うと、部屋の一室に声をかけた。

755名無しさん:2023/10/21(土) 20:50:04 ID:wVsEMc.M0
おそらくこの時のために待機していたのであろう、一人の男がその声に呼応し部屋に入ってくる。

(´<_` )「失礼いたします」

( ФωФ)「......貴殿は確か軍人の、オトジャ殿、であったか?」

その男にロマネスクは見覚えがあった。
前に行った本土防衛の際の会議でも顔を合わせたことがある、軍人の一人であったかと、記憶を呼び覚ます。
だが、確かに優秀な人物であることには変わりないが何故この場に呼び出されたのかと疑問を抱かずにはいられなかった。

/ ,' 3「はっはっは、ロマネスク。お前の気持ちはよく分かる。なぜこの場にこの男を呼ぶのか、分からぬという顔をしておるな」

(; ФωФ)「......えぇ、まあ」

/ ,' 3「その事については......オトジャよ、貴様から話せ」

756名無しさん:2023/10/21(土) 20:50:44 ID:wVsEMc.M0
(´<_` )「御意。ではロマネスク殿、僭越ながら私から説明させていただきます」

( ФωФ)「......」

(´<_` )「ただ説明と言っても単純な事なので、あまり説明することもないのですが......簡潔に言ってしまえば、私宛に召喚地より講和交渉の打診がありました」

(; ФωФ)「なっ!?」

その言葉はロマネスクを驚愕させるのに十分すぎる威力を有していた。
まさか、敵側から話が来ることなど予測もしていなかったのだから当然の事である。
驚愕に、そして国が滅ぼされる前に救われる道があるかもしれないという希望に身体を震わせながら、ロマネスクは次の言葉をまった。

(´<_` )「この交渉についてはかなり厳しい条件がつけられる可能性がありますが、少なくとも会話が出来ると思われます」

(; ФωФ)「その程度であれば、些細なことであるな」

(´<_` )「......ええ、私もそう思います」

757名無しさん:2023/10/21(土) 20:51:30 ID:wVsEMc.M0
ロマネスクの呟きに、オトジャもそう呟き安堵する。

(´<_` ;)(いざというときは覚悟していたが......何事もなくて本当に良かった。アニジャ、これでこの国はまだ、建て直せるぞ)

つい先日、兄からの連絡により国の運命を背負わされたと言っても間違いではない状況になっていたのだ。
いくら覚悟を決めたところでその重責には変わりなく、とてつもない心労が溜まっていた。
さらに下手をすればこれまで自分が従ってきた、絶対の忠誠を誓った相手に刃を向けなくてはならないところまで来ていたという事実。
またそれにも関わらず、戦力が十分に集まらなかったことも彼にダメージを与えていた。

オトジャ達は元々、少数精鋭の秘匿部隊であり数は多くなく、さらにその中から反乱の情報を漏らすことがないと信頼でき、かつ国のためにと反逆者になるというリスクを省みず動ける者達ともなれば数が少なくなるのも仕方ないであろう。
だが国と自身の運命を懸けた戦いに向けて、決して十分とは言えない戦力を割りきることなどできるはずもなく、不安は尽きることが無かった。
この数日だけで何年も歳をとったのではないかと錯覚するほどである。

758名無しさん:2023/10/21(土) 20:52:27 ID:wVsEMc.M0
そうしていざ陛下に伝えてみればどういう事か、あっさりと降伏に向けて動くことを受け入れられるどころか、よくその話を持ってきてくれたと、涙ながらに感謝されたのだ。
既に戦う覚悟をしていたのが、予想と違う展開に思わず困惑してしまったものだ。

だがなんにせよ、目的は達せられたのだ。
その事実を理解すると同時に、オトジャの困惑もどこかへ消え、気付けばアラマキと二人、涙を流していた。

(´<_` )(......陛下も、ロマネスク様も、そして話を聞く限り多くの貴族も降伏に向けて動いている。降伏すれば捕虜、アニジャも......)

今はもう流石に涙は流さないものの、それでも彼は歓喜していた。
このままであれば、全て上手く行く。
そうなればこの国も、そしてアニジャも救われるはずなのだ。

/ ,' 3「そういうわけだ。この話を、皆にも伝える。次の議会で、全てを終わらせよう。二人とも、力を貸してくれ」

( ФωФ)「......了解、いたしました」

(´<_` )「御意のとおりに」

挑むのは数日後の議会。
そこで全てを終わらせるために、彼らは動き続ける。

759名無しさん:2023/10/21(土) 20:53:19 ID:wVsEMc.M0
召喚地北西沖 海上

(・∀ ・)「......ようやく、作戦地点か」

ルナイファの東から遥々海を渡り、辿り着いたのは召喚地から北西に位置する海である。
過去の先遣隊からの情報から察するに敵本土まではまだかなり離れていると思われるが、それでも敵の射程は未知数。
この世界の常識から考えれば安全であると思われるこの距離も、恐怖は拭えない。
とはいえ、召喚艦を多数用意しているが部隊の規模で言えば小規模であり敵に見つかることは稀であるはずと何とか自らを納得させ、安心を得ようとする。

(・∀ ・)「ただ、魔法を発動するだけでいいんだ。それだけで、いいんだ」

自分に言い聞かせるようにそう何度も呟く。
そう、今回の任務では魔法を発動するだけで彼は昇進することが約束されている。
国の状況は良くないとしか言いようがなく、エルフの、そしてルナイファの者としてのプライドはそれを許すことは出来ない。
だがそれと同時にあんな敵とまた合間見えることなどもう二度とごめんである。
彼は国を守ることよりも、自分のことの方が大切なのだ。

760名無しさん:2023/10/21(土) 20:54:03 ID:wVsEMc.M0
(・∀ ・)「......魔方陣の準備は?」

『万端です。いつでも発動可能です......しかし』

(・∀ ・)「なんだ?」

『この魔方陣、召喚魔法のようですが......一体何を召喚するつもりなのでしょうか?』

(・∀ ・)「さぁ、な」

魔方陣の整備士から準備完了の報告と共に、疑問が届けられる。
だがマタンキ自身もその疑問についての答えは持ち合わせておらず、また同じ疑問を持っていた。

新魔法と聞いていたが一体この魔法で何をするというのか。
召喚地が比較的に近い位置から発動させようとするのだから、なにかしらの攻撃か妨害かなのだとは察することは出来る。
だがワイバーンすら通用しない相手に何を呼び出せば勝つことが出来るというのだろうか。

761名無しさん:2023/10/21(土) 20:54:55 ID:wVsEMc.M0
(・∀ ・)「分からんが、命令は命令だ。ただ、こなせばいい」

『......そうですね、了解いたしました』

とはいえ、そんなことで命令の主であるプギャーに意見をしようとは思わない。
こんなにも割の良い仕事なのだ。
下手に意見し、この話が無かったことになれば大惨事である。
プギャーが優秀ではないことは知ってはいるが、それが自身のためになるのだから何も言う必要などありはしないのだ。

『それでは、魔法を発動させます』

(・∀ ・)「あぁ」

その報告と同時に、魔法陣が激しく輝き出す。
複数の魔術師により、魔力が流し込まれ、またそれぞれの熟練の技でそれを制御する。
それにより複雑な魔法は形となり、この世に奇跡をもたらすのだ。

762名無しさん:2023/10/21(土) 20:55:36 ID:wVsEMc.M0
そしてまたここに、一つの奇跡が産み出される。

激しい光はいつしか収縮し、さらに凝縮される。
小さな、それでいて凄まじい光の玉が魔方陣の上に作られたかと思えば、それはたちまち弾け飛び、辺りを光で包み込む。

(;・∀ ・)「ぐっ!?」

そしてその光の中に、影を見た。
その影は翼を持ち、宙を舞う。
何事かと光の中で目を凝らせば、それは複数の影であった。

数十、いや数百か。

少なくとも一瞬では数えきれない影が目の前に現れたかと思えば、翼を動かし天へと登っていく。

(・∀ ・)「......あれは」

その影が天に近づくにつれて、光は収まっていき、いつしか穏やかな海の光景が辺りに戻っていた。
そうしてその中を飛ぶ、それは。

(・∀ ・)「......鳥?」

763名無しさん:2023/10/21(土) 20:57:46 ID:wVsEMc.M0
白い翼を持つ、複数の鳥であった。
特に特別な力があるような種類ではなく、この世界ではどこにでもいるような普通の鳥。
大陸間を飛ぶことの出来る能力と繁殖能力が高いが、ただそれだけの鳥なのだ。

敵に被害を与えるための任務と思い、発動したところにこれである。
強いて言うならば、あれらが召喚地にたどり着けば何でも食べる雑食性による農作物への被害と辺りに糞を撒き散らすことくらいの被害は与えるかもしれない。
特に糞に関しては自身が乗る艦にも既にされているほどであり、不快感を与えてくる。

たが本当に嫌がらせ程度のしか被害を見込めないのだ。
誰もがぽかんとした顔で、その様子を眺めていた。

『これは、一体どういうことなんでしょうか?』

(・∀ ・)「......さぁ、な」

自身のためになるからと任務をこなしていたマタンキもまさかこんなことのために動かされたのかと考えると、何とも言えない気持ちになり、顔をしかめる。
あんなバカに従う自分までバカなのではないかと感じてしまうのだ。

764名無しさん:2023/10/21(土) 20:58:14 ID:wVsEMc.M0
とはいえ、任務は終了したのだ。
もうここですべきことはない。

(・∀ ・)「とにかく今は、帰還準備をしろ。あとは、プギャー様に報告を......」

『マタンキ様。その件ですが、ちょうどプギャー様より魔信が来ております』

(・∀ ・)「そうか、ちょうどいい。こちらに回してくれ」

『了解しました』

まるで見計らったかのようなタイミングの魔信。
先ほどの謎の召喚魔法の件もあり、若干の引っ掛かりを覚えつつも、彼はその魔信に応答する。

『マタンキ、聞こえているな?』

(・∀ ・)「はっ、プギャー様。聞こえております」

『うむ、それで?任務はどうなった?』

(・∀ ・)「任務の件ですが、つい先ほど無事に完了いたしました」

『ほぅ!そうかそうか!!それは朗報だ!!』

765名無しさん:2023/10/21(土) 20:58:36 ID:wVsEMc.M0
まるで戦いに勝利したかのように歓喜する声を聞いて、マタンキはますます混乱する。
一体、これはどういうことなのか。
何がそこまで喜ばしいのかが理解できないのだ。

(・∀ ・)「......プギャー様、その、魔法の件なのですが」

『ん?何かあったのか?......まさか、今さら魔法の発動は失敗だったとは言わんだろうな?』

(;・∀ ・)「い、いえ!!確かに魔法は発動しました!問題なくです!!ただ、その......召喚されたものが、鳥、なのですが......」

『......あぁ、そういうことか。まあ、貴様らには分からんか』

(;・∀ ・)「は、はぁ......」

様子から察するに、やはり魔法自体は成功しており、あの鳥を呼び出すことが目的であったのだろう。
そうなるとますます訳が分からない。
それこそ敵に勝てないと分かり、気が狂ったのではないかとすら考えてしまう。

766名無しさん:2023/10/21(土) 20:59:10 ID:wVsEMc.M0
そんな何とも言えない雰囲気に艦が包まれる一方で、魔信の向こうのプギャーはそれに気づかないのか、愉快そうな雰囲気で話を続けた。

『なぜ鳥なんかを呼び出したのか、それが分からず混乱しているようだが、これが奴らを、召喚地の奴らを滅ぼす一手となるのだ』

(;・∀ ・)「はぁ......」

『あれらは......そう、届け物を持っているのだよ』

(・∀ ・)「届け物、ですか?」

その言葉にマタンキはさらに首を捻る。
どう見ても先ほどの鳥たちは何も持ってなどいなかった。
もしかしたら目に見えないほど小さな何かを持っていたのかもしれないが、そんなものでどうにかなるほど敵は甘くない。
一体プギャーがどこを目指していると言うのか検討もつかない。

767名無しさん:2023/10/21(土) 20:59:43 ID:wVsEMc.M0
『ところでマタンキよ。貴様はなぜ、多くの遺物を産み出した太古の国......我らよりも遥かに優れた偉大な国家が滅びたか、知っているか?』

(;・∀ ・)「はっ?あ、いえ......」

そして突然、訳の分からないことまで問始めたとなれば、もう気が狂ってしまったのだと考えるしかなくなってしまった。
これでは約束の報奨もまともに貰えるか怪しく、とんでもない貧乏くじを引いてしまったのだとプギャーに聞こえないように舌打ちする。

とはいえ、相手は軍のトップである。
雑に対応することも出来ず、何とか受け答えを続けようと言葉を絞り出す。

(・∀ ・)「......そう、ですね。詳しくは、知りませんな」

『ほう、そうか。まあどうやらいくつも説があるようだからな』

(・∀ ・)「そうなのですか。それは、知りませんでしたな」

768名無しさん:2023/10/21(土) 21:00:13 ID:wVsEMc.M0
『そう、それでだ。その中の一つに、病によるものと言う話がある。ある病について研究し、軍事利用できないかとしていたときに、それが漏れだしたという話だ』

(・∀ ・)「......病、ですか?」

『そうだ。知ってのとおり、彼の国は我が国と同じく、異界より奴隷たる人間を土地ごと呼び出し、支配することで豊かな国を作り出していた。現在の我々よりも数段、豊かで優れた技術を持っていたという』

(・∀ ・)「えぇ、そのように私も聞いています」

『ではそんな国がなぜ滅びたのか』

(・∀ ・)「......それが病だと?」

『そうだ。その病は一度かかれば、治療魔法を使わなくてはほぼまちがいなく死ぬ病であり、とてつもない速度で感染するものであったという』

(・∀ ・)「それは......恐ろしいですな」

『黒い斑点が身体に現れたら最期、もう助からない......呪いのような病であり、黒呪病と呼ばれたそうだ』

(・∀ ・)「はぁ」

769名無しさん:2023/10/21(土) 21:01:15 ID:wVsEMc.M0
一体この話は何処に向かっているのか。
ただ歴史に関する話をして何をしたいのか分からず、どうにも曖昧な相槌しかうてない。
だがプギャーはそれを気にすることなく、話は続く。

『勿論、偉大な彼の国はこの病を直す術を持っていた。治癒魔法も、我々よりも優れていたという』

(・∀ ・)「......?それならなぜ、滅んだのですか?」

『単純な話だ。使える術者が足りなかったのだよ。高度な魔術があったとしてもそれを扱える者が限られるというのは、今も昔も変わらんらしい』

それは魔法の弱点ともいうべきもの。
魔法を使うには個人の力量、つまり才能が関わるということ。
理論上、様々な奇跡ともいえることを行える魔法を作り出せたとしても、結局使えるかどうかは術者次第なのだ。

『あまりの感染速度に治療は間に合わず、いつしか術者も患い、死んでいった。そうして、滅んだのだ......あくまで一つの説だがな』

(・∀ ・)「......」

770名無しさん:2023/10/21(土) 21:02:00 ID:wVsEMc.M0
それで結局、この話は何だったというのか。
何とか口に出さず堪えるものの、他の言葉も同じく飲み込んでしまい、沈黙が走る。

『なんだ、ここまで話してもまだ分からんのか?』

そしてその沈黙にようやくマタンキが何も理解していないことに気が付いたのか、プギャーは笑いながらそう尋ねてくる。
その笑い声に思わず舌打ちをしてしまいたくなる気持ちをどうにか落ち着ける。

(・∀ ・)「えぇ、申し訳ございません」

『まぁいい。なに、簡単なことなんだがな』

(・∀ ・)「......」

『先ほどの病の話に戻るがね。あの病は研究により、軍事利用出来るように本来の感染ルートの他にある生き物からも感染するように改造されていてね。いやはや愚かな失敗をしたとはいえ、本当に恐ろしい技術力だ』

(;・∀ ・)「......生き物?」

その言葉を聞いた瞬間に、ゾワリと背筋に嫌な感覚が走る。
ここまでどういうつもりでこの話をしてきたか分からなかったマタンキであったが、この瞬間にある可能性が脳裏をよぎったのだ。
病を運ぶ、生き物。
それが、なんなのかが。


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