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( ^ω^)僕が神様を殺すまで のようです
1
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:28:43 ID:NCIPYs4o0
(0)
漫画家・津出ツンが殺害されたというニュースは瞬く間に広がった。
アニメ化まで果たした作品を持つ漫画家の死。
読者や関係者はもとより、さらに広く人々に知らしめたのは「アシスタントによる犯行」というショッキングな内容だった。
津出ツンは、苦楽を共にした戦友とも呼べる人間に殺された。
ましてやそれが異性ともなれば、やれ痴情の縺れだ爛れた関係だと囃し立てられることは想像に難くない。
元アシスタントもとい容疑者、内藤ホライゾンは身柄を拘束され、奏作警察署で取り調べを受けていた。
2
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:29:10 ID:NCIPYs4o0
依然として黙秘を貫く内藤ホライゾンを見て、埴谷ギコは露骨に溜息をついた。
節くれだった指が机に何度も押し付けられ、その度にこつこつと音を立てる。
(,,゚Д゚)「漫画なんざ最近とんと読んでなかったけどよ。昨日読んだぜ、津出ツンの『ブーン戦記』」
(,,゚Д゚)「少年漫画だってナメてたが、面白かった。毎週欠かさず描き上げてたんだろ? 大したもんだよ」
(,,゚Д゚)「それを生み出す漫画家とアシスタントっていやぁ、相当大変だったろ。ただの上司部下の関係じゃない、絆ってもんもあっただろ」
(,,゚Д゚)「それをあんなにしちまうなんて、ひでぇじゃねえか」
3
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:29:49 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)
内藤は黙秘を続けている。
にやけたような表情は彼の生来だが、この状況でもそれを崩さないのは些か異常だった。
(#,,゚Д゚)「おい! 聞いてんのか!」
扉が開いて、髭を蓄えた男が部屋に入ってきた。
埴谷を宥めるように、あるいは叱責するように諭す。内藤はそれを黙って見ている。
ややあって埴谷が男に頭を下げた。「すみません、冷静になります」押し殺すような声。
男は軽く頷いて退室した。
再び部屋はしんと静まり返る。
4
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:30:16 ID:NCIPYs4o0
(,,゚Д゚)「悪いな。昔からすぐ熱くなっちまうんだ。新人の頃から、何度も直せって言われてんだが」
埴谷が歯を見せて笑う。
内藤は彼なりの気遣いでほんの少しだけ口角を上げたが、あまりに些末な変化だったため埴谷は気付かなかった。
先程までとは打って変わって、埴谷は笑顔で内藤に話しかけた。
まるで旧友に語りかけるような親しみが込められた言葉にも、内藤は相槌すら打たない。
5
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:30:47 ID:NCIPYs4o0
(,,゚Д゚)「さっきのおっさん、俺の兄貴なんだ。見た目も態度もデケェけど、正義感があっていい奴だよ」
(,,゚Д゚)「今でこそ素直に尊敬してるけど、ガキの頃はよく喧嘩してたな」
(,,゚Д゚)「常に一緒にいるからこそ、いつも仲良くできるわけじゃねえ。それはわかる」
(,,゚Д゚)「だからってあれは違うだろ。してはならないことだろ?」
(,,゚Д゚)「答えろ。どうして津出ツンを殺した」
( ^ω^)
そして内藤ホライゾンは口を開いた。
.
6
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:31:16 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)僕が神様を殺すまで のようです
.
7
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:32:07 ID:NCIPYs4o0
(1)
( ・∀・)「うーん……」
(; ^ω^)「ど、どうですかお?」
( ・∀・)「悪くないよ。初めての持ち込みにしてはなかなかのレベルだ」
( ・∀・)「……だけどね、君もあれでしょ。ツン先生に憧れて漫画家目指したクチでしょ?」
(; ^ω^)「おっ!?」
( ・∀・)「やっぱり」
8
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:32:31 ID:NCIPYs4o0
(; ^ω^)「な、なんでわかったんですかお? 僕がツン先生のファンだって……」
( ・∀・)「そりゃあ似てるもの。ストーリーの構成とかコマ割りとか、何より絵柄が」
(; ^ω^)「……やっぱり、編集さんにはそういうのってわかっちゃうんですおね」
( ・∀・)「僕がツン先生の担当編集者ってこともあるだろうけどね」
( ・∀・)「でもまあ、君だけじゃないよ。あの人に影響されてるのは」
( ^ω^)「そうですかお……」
9
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:33:23 ID:NCIPYs4o0
( ・∀・)「でもそっかー、ツン先生のファンねえ……」
( ・∀・)「……」
( ^ω^)「……? どうしたんですかお?」
( ・∀・)「内藤くん。君、一人暮らしって言ってたよね?」
( ^ω^)「お? はい、そうですお」
( ・∀・)「漫画家になるために、バイトを掛け持ちして食い繋いでいるとも」
(; ^ω^)「お恥ずかしながら、はい」
10
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:34:17 ID:NCIPYs4o0
( ・∀・)「んー……男性か……でもまあ、それで作品の幅が広がる可能性も……」
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「ああ、ごめんね。あのさ、内藤くん」
( ・∀・)「ツン先生のアシスタントになる気はない?」
.
11
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:36:06 ID:NCIPYs4o0
―――― ( ・∀・)「先生には話しておいたから、行ってくるといいよ。これ合鍵」
―――― ( ・∀・)「留守だったら? ああ、それは気にしなくていいよ。多分っていうか絶対家にいるから。うん」
( ^ω^)(……って、モララーさんは言ってたけど)
( ^ω^)(本当にいいのかお? 面識もない状態で合鍵までもらって……)
( ^ω^)(……それに、モララーさんが最後に言ってたこと)
―――― ( ・∀・)「ちょっと変わった人だけど、ま、頑張ってね」
(; ^ω^)(あんなことわざわざ言うなんて、相当変わった人ってことだおね……?)
12
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:36:54 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)(でも、了承した以上行くしかないお)
(* ^ω^)(それに、ツン先生に会えるなんて……夢みたいだお!!)
(* ^ω^)(挨拶も考えたし、手土産も用意したし、サイン色紙も持った!)
(; ^ω^)(……サイン色紙は、ミーハーって思われるかもだけど)
(* ^ω^)(はぁ……あのツン先生に、本当に会えるんだお……)
13
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:37:24 ID:NCIPYs4o0
世界には――特にこの日本という国には――漫画という素晴らしい文化がある。
そして当然、それを生み出す漫画家という素晴らしい人達もいる。
そんな人達の中で今、人気の頂点にいる人。
僕がもっとも尊敬している人。
それが津出ツン先生。
彗星の如く現れ、瞬く間に『週刊少年ヴィップ』の看板作家まで登り詰めた天才漫画家だ。
14
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:37:49 ID:NCIPYs4o0
僕がその存在を知ったのは二十歳の時。
「天才現る」と書かれたページを、大して期待もせずに捲った。
こういうコメントはだいたい大袈裟に書かれるものだと知っていた。
事実その漫画はとてもありふれたストーリーで、読むのをやめるか迷ったほどだった。
特殊能力を持つ少年少女が、学園内外の様々な敵と戦う話。
手垢まみれで目新しさなど欠片もない。そう思っていたはずなのに。
15
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:38:15 ID:NCIPYs4o0
いつの間にか夢中になって読んでいた。
キャラクターの鬼気迫る表情、熱い台詞、すべてに惹かれていた。呼吸すら忘れて、一心不乱にコマを追った。
主人公が叫ぶ。敵に向かって走る。剣戟が始まる。そんなありふれたワンシーンですら「負けるな」と叫びそうになってしまう。
幼い頃にヒーローショーでヒーローを応援したように。
読み終わった後、僕の目からは涙が流れていた。
長年親しんでいた漫画が完結していたわけでもない。お気に入りのキャラクターが死んだわけでもない。それなのに涙が止まらなかった。
16
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:38:50 ID:NCIPYs4o0
衝撃を受けたのは僕だけではなかった。
読み切りとして掲載されたその漫画――『ブーン戦記』は、あまりの人気ぶりに連載化が決まった。
読者からの反応で掲載順位が変わるヴィップという雑誌で、前から三番目を下回ったことはない。単行本は発売日に品切れ、アニメの円盤も好調だった。
そんな傑作を生み出した漫画家に、僕は今から会う。
.
17
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:39:31 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)「お、お邪魔しますお」
(; ^ω^)(……留守なのかおね?)
(; ^ω^)(でも、モララーさんは「絶対家にいる」って言ってたし……)
( ^ω^)「あの、すみません! モララーさんの紹介で来た、内藤ですけど!」
返事はない。それどころか物音さえない。
漫画家という職業がいくら家仕事とはいえ、コンビニかどこかに出掛けている可能性もある。
とはいえ玄関までお邪魔した手前、もう一度出るわけにもいかない。
(; ^ω^)「……失礼しますおー……」
散々迷った末、僕は靴を脱いだ。
18
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:40:09 ID:NCIPYs4o0
廊下を抜けた先にはダイニングがあった。傾き始めた陽が部屋を照らしている。
カウンタータイプのキッチンも、ダイニングテーブルも、使い込まれた風ではなかった。
テーブルに添えられたチェアが一つしかないのを見て、ここにはツン先生一人しか住んでいないことを知った。
(; ^ω^)(一人暮らしで3LDKって、すごいお……)
駅から徒歩圏内という立地でこの間取り。相当な家賃が掛かりそうだが、これも人気漫画家の成せる業か。
自分には到底、真似できそうもない。
19
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:40:41 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)(あ、そうだ。別の部屋で作業中なのかもしれないお)
作業に集中しているのだろうか。そうであれば僕の声が聞こえないのも当然だ。
ダイニングを抜けると部屋があった。ドアはしっかり閉じられていて、僕の侵入を拒んでいるようにも見えた。
(; ^ω^)(……ここに、ツン先生が……)
ドアの前に立って耳をそばだてた。
――――物音はない。ただ、人の気配はある。
恐る恐るノックをすると、中にいる『誰か』が反応したのか、僅かに雰囲気が変わった。
20
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:41:05 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)「あの……お邪魔してますお。モララーさんから紹介されて来ましたお」
無言。
ひょっとして不在なのか。気配があるように感じたのも、雰囲気が変わったように思ったのも、僕の勘違いだったのか。
じわじわと羞恥心が芽生え始めた頃、ドアの向こうから「ええ」と声がした。
「話は聞いてるわ。入っていいわよ」
(; ^ω^)「っ!!」
(; ^ω^)「……失礼しますお」
21
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:41:29 ID:NCIPYs4o0
ドアの向こうには、違う世界が広がっていた。
まず目を引かれたのは、部屋の左右に置かれた本棚。
天井に届くほどの高さだ。その上、隙間がないほどぎっしり中身が詰め込まれている。
そこから溢れ出したかのように、床のあちこちにも本が積まれてた。
22
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:41:57 ID:NCIPYs4o0
ξ ゚⊿゚)ξ
部屋の奥に、僕とそう変わらない年頃の女性が座っていた。
夕日に照らされていて顔はよく見えなかった。
それでもわかった。言葉を交わさなくても理解できた。
この人が僕の尊敬してやまない、ツン先生その人だということを。
23
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:42:23 ID:NCIPYs4o0
ξ ゚⊿゚)ξ「モララーから聞いてるわ。アシスタントを一人寄越すって」
ツン先生はにこりとも笑わずにそう言った。
淡々とした物言いを、冷たいとか怖いとか、そういう風に思うことはなかった。
僕はただ馬鹿みたいに口を開けて突っ立っていた。
あのツン先生が目の前にいる。喋っている。しかも、自分に向かって。
24
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:42:48 ID:NCIPYs4o0
ξ ゚⊿゚)ξ「居座るのは構わないけど、邪魔だけはしないで頂戴」
(; ^ω^)「あ、あの……」
ξ ゚⊿゚)ξ「ああ、それと。この家にいる間はスマホの電源を切って、私に渡して」
(; ^ω^)「スマホ……?」
ξ ゚⊿゚)ξ「前に原稿を盗撮した奴がいたの。即刻追い出してやったわ」
ツン先生はパソコンに向き直った。話は終わったということだろうか。
僕はしばらく呆然とした後、ツン先生の言葉を思い出し慌ててスマホの電源を落とした。
25
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:43:18 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)「あの、僕は何をすれば」
ξ ゚⊿゚)ξ「何もしなくていい。いえ、むしろ何もしないことがあなたの仕事と言ってもいいわね」
( ^ω^)「僕、漫画を描いてるので、少しなら原稿のお手伝いも……」
ξ ゚⊿゚)ξ「邪魔だけはしないでって、さっき言ったはずよ」
(; ^ω^)「す、すみませんお!……失礼しますお」
取り付く島もないとは、まさにこんな状況を指すのだと思う。
スマホをツン先生に渡して部屋を出た。
26
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:43:54 ID:NCIPYs4o0
ダイニングに戻った後、お土産の包みを解いた。
デパートで買った最中だ。自分で開封するのもどうかと思ったが、取り出せる状態にして机に置いた。
( ^ω^)(モララーさんが言ってた通り、少し変わった人だお)
幻滅したという気持ちはなかった。
ツン先生が風変わりな人だということは、週刊少年ヴィップの読者なら誰もが知っていることだ。
ヴィップの巻末には作家達のコメントが載せられている。誰もが親しみやすい文章を綴る中、ツン先生は素っ気ない一文だけ、というのも珍しくなかった。
27
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:44:22 ID:NCIPYs4o0
(* ^ω^)(あの部屋から『ブン戦』が生まれてるのかお……)
部屋に入った時、ツン先生のデスクが少しだけ見えた。
高価そうなパソコンと液晶タブレット。それを見た瞬間「自分の憧れがここから生み出されている」と急に現実味が帯びてきて、体が震えた。
撮影を試みた人がいたというのも、わからないこともないと思った。
( ^ω^)(……邪魔だけはしないでってことは、邪魔をしなければいいんだおね)
僕は食器が積まれた戸棚に手を伸ばした。
28
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:44:44 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)「ツン先生、入ってもいいですかお?」
「手短になら」
ツン先生は先程と同じ姿勢のままタブレットにペンを走らせていた。
肩越しに見える画面には、薄いグレーの線でキャラクターが描かれている。
夢にまで見た生原稿に、今日一番胸が高鳴った。
ξ ゚⊿゚)ξ「要件は何?」
(*; ^ω^)「え? あっ、すみませんお!」
29
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:45:04 ID:NCIPYs4o0
持ってきたものをお盆ごと差し出した。
コーヒーがなみなみ注がれたマグカップと、並んだ最中が二つ。
ツン先生はそれをちらりと見遣って、少し不審そうな顔をした。
(; ^ω^)「し、食器、勝手にお借りしましたお。すみませんお」
ξ ゚⊿゚)ξ「……それは構わないけど、この最中は?」
( ^ω^)「あ! それは僕が持ってきたお土産ですお!」
(; ^ω^)「もしかして、最中お嫌いでしたかお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「いいえ、甘いものは好き。いただくわ」
30
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:45:53 ID:NCIPYs4o0
ツン先生はお盆を受け取って、また作業に戻った。
このまま部屋を出ようか迷ったけれど、結局興味が勝って本棚に視線を送る。
改めて見ると、本棚にあるのはほとんどが漫画だった。
並んだタイトルは有名なものばかりで、僕が好きなものもいくつか混じっていた。
( ^ω^)(……というか、有名なものしかない、のかお?)
どれもアニメ化や舞台化したような有名作品ばかりで、いわゆるマイナー作品は並んでない。
思考を巡らせる僕に、ツン先生が「ねえ」と声を掛けた。体が飛び上がった。
31
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:46:23 ID:NCIPYs4o0
ξ ゚⊿゚)ξ「いつまでいるつもり?」
(; ^ω^)「あっ、す、すみませんお! お仕事の邪魔を!」
ξ ゚⊿゚)ξ「邪魔にはなってないけど」
(; ^ω^)「僕、ツン先生のファンなんですお。だからその、興味があって……すみませんですお」
ξ ゚⊿゚)ξ「……」
32
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:46:50 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)「あ、まだちゃんと名乗ってませんでしたおね。僕、内藤ホライゾンと申しますお」
(* ^ω^)「憧れのツン先生のアシスタントができるなんて光栄ですお! ご指導ご鞭撻、お願いしますですお!」
(* ^ω^)「絶対にツン先生の邪魔はしないし、何か用があったらいつでも呼びつけてくださいですお」
ξ ゚⊿゚)ξ「ええ。用があったらね」
(* ^ω^)「よろしくお願いしますお!」
33
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:47:27 ID:NCIPYs4o0
再びダイニングに戻ったあと、うるさく鳴る心臓を落ち着かせた。
せっかく用意した挨拶も半分以上飛んでしまった。だけどそのわりには、うまくできたと思う。
さてどうしようと考えて、この部屋にテレビがないことに気付いた。
となると暇を潰せるのはスマホくらいだが、それもツン先生の部屋で物言わぬ機械と化している。
掃除をしたり、コーヒーを淹れ直したり、仕事とも呼べない雑務を終えて帰宅した。
最後に挨拶に行った時、ツン先生から返ってきたのは生返事だった。
34
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:48:01 ID:NCIPYs4o0
( ・∀・)「どう? 憧れのツン先生に会えた感想は」
(* ^ω^)「最高ですお! 芸術家気質というかカリスマ性のある方で、やっぱりツン先生は天才だと思いましたお!」
( ・∀・)「ははっ。これ以上ないくらいの誉め言葉だね」
( ^ω^)「アシスタントの方って、僕の前にもいたんですおね。撮影されそうになったとか……」
( ・∀・)「ああ、あったね。その人以外にもアシスタントはいたよ。みんなすぐ辞めちゃったけど」
35
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:49:51 ID:NCIPYs4o0
その人達はツン先生に幻滅してしまったのだろうか。せっかくツン先生のアシスタントになれたのに、もったいないことだ。
モララーさんはコーヒーを飲みながら、愉快そうに僕の話を聞いている。
( ^ω^)「でも本当にいいんですかお? こんなにたくさんアシスタント代いただいて」
( ・∀・)「ツン先生が払うって言うんだから貰っておきなよ。お金はあったほうがいいでしょ?」
( ^ω^)「でも……」
( ・∀・)「ちょっと不謹慎だけどさ、ツン先生が倒れた時の保険ってやつだよ」
「まぁツン先生は若いから大丈夫だろうけど」と付け足された。
早世してしまう漫画家の話はよく聞く。不規則な生活だとか運動不足が祟ってしまうのだろう。
健康グッズを差し入れるべきか、少し悩んだ。
36
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:50:23 ID:NCIPYs4o0
(2)
( ^ω^)「お邪魔しますお」
相変わらず返事はない。
いつもと違うことといえば、机の上におにぎりが並んでいることくらいか。
家事代行の都村さんだろう。僕の分まで用意されているのがありがたかった。
( ^ω^)(ちょうど小腹も減る時間だし、ツン先生におにぎり届けるお)
おにぎりとお茶を持ってツン先生の作業部屋に向かった。
もしも許されるなら、今週分の『ブン戦』の感想を述べてもいいだろうか。作業の邪魔になってしまうだろうか。
そんなことを考えながらノックをしたけれど――返事がない。
37
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:51:02 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)(……?)
( ^ω^)「先生、内藤ですお。よかったらおにぎりとお茶を……」
そこまで言った時、中で物音がした。
本を落としたとかキーボードを叩いたような音ではなかった。もっと大きな、重いものを投げ捨てたような。
モララーさんの言葉が、ふいに脳裏を過ぎった。
(; ^ω^)「……失礼しますお!」
38
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:51:28 ID:NCIPYs4o0
ξ; ⊿ )ξ
(; ゚ω゚)「先生!!」
ツン先生が、床に倒れてた。
立ち上がろうとしてバランスを崩したのだろうか。椅子も無造作に転がっている。
すぐに駆け寄ってツン先生を抱き起こした。柔らかい体にときめく余裕なんてない。
抱き上げた体は驚くほど熱かった。
肩で息をしているのに呼吸音は小さい。どう見ても異常だった。
39
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:52:13 ID:NCIPYs4o0
ξ; ⊿ )ξ「なんでも、ないわ」
(; ゚ω゚)「そんなわけありませんお! き、救急車……」
ξ; ⊿ )ξ「やめて。邪魔をしないで」
ツン先生は顔を顰めて、僕の腕から逃れた。
まるで力の入っていない手足を支えに、なんとか立ち上がる。
ξ; ⊿ )ξ「ただの風邪よ……まだ原稿が終わってないの」
ツン先生の足がデスクに向かう。
40
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:52:41 ID:NCIPYs4o0
(; ^ω^)「駄目ですお……休んでくださいお」
ξ; ⊿ )ξ「締め切りは明後日よ。そんな暇ないわ」
(; ^ω^)「ツン先生なら大丈夫ですお! 一日あればペン入れできるって、インタビューで仰ってましたお!」
ツン先生が振り返って僕を見た。
高熱で弱っているはずなのに、その視線は射抜くように強い。僕はまた身動きが取れなくなる。
41
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:53:36 ID:NCIPYs4o0
ξ ゚⊿゚)ξ「カラーの色塗りも残ってる。それも入れたら、一日じゃ終わらない」
(; ^ω^)「せめて夜まで休んでくださいお! 昨日見た時カラーは8割くらい終わってましたお! ツン先生のスピードなら間に合いますお!」
ξ ゚⊿゚)ξ「……随分、私に詳しいのね」
皮肉ではなくて、純粋に出た言葉のようだった。
ツン先生の棘がない声を聞いたのは、それが初めてだったと思う。
42
:
名無しさん
:2022/11/16(水) 19:54:03 ID:NCIPYs4o0
( ^ω^)「……当たり前ですお。僕はツン先生のファンですから」
ξ ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「ファンが作者に口出しする権利なんてないって知ってますお。だけど……ツン先生が、心配なんですお」
( ^ω^)「もしも休んでいただけるなら、精一杯看病しますお。だけどもしも、休まないって仰るなら……」
( ^ω^)「……僕のことをクビにしてくださいお。ツン先生のお役に立てないなら、僕は必要ありませんお」
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