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ミセ*゚ー゚)リ ROMAN QUEST のようです

1 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:29:55 ID:1k.qtK.20
初投下
立つかな?

2 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:31:02 ID:1k.qtK.20
北辰は波の彼方に。

港には帆船が並び、通りには商人がひしめき合っている。

さきほどまでの雨音が今は喧騒となって朝の町に熱を呼び戻す。

乾季には珍しい通り雨は水たまりを残して去った。

空の色をそのままに、花は真昼に輝く星のようで。

蕾を付けた茉莉花が、故郷での夏の訪れを知らせている。


ここはバタヴィア。

故郷は遥か遠く。

3 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:31:48 ID:1k.qtK.20




―――Roman Questのようです

4 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:32:57 ID:1k.qtK.20
ミセ*`皿́)リ「ふぎぎぎぎ…」

ここは、バタヴィア。

私はミセリ。

もっとうんと遠いところにお城があるオランダという国の港町で、私は暮らしています。
商船に荷物を積んだり、運んだりする仕事をしながら、お母さんとふたりで。

でも、私はオランダ人じゃありません。

故郷はずっとずっと北に行って、海を渡った先。

北辰斜めにさすところ。
筑紫の島は肥前国。

日本人です。

5 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:33:25 ID:1k.qtK.20
(#,,゚Д゚)「ゴルァ!いつまでちんたらやってんだ!!」

ミセ*;-Д-)リ「す、すみません…」

どうしてこんなことになってしまったのかって?

昔、私の故郷にポルトガルという国の人がいろいろな知識を伝えに来ました。
その時に、彼らが信じていた神様を信じたり、彼らと結婚した人たちがいたんです。

だけど、私が小さいころ。

将軍さまがそういった人たちを追放するお触れを出しました。
そうして今は、ここにいます。

故郷には、もう帰れません

6 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:34:13 ID:1k.qtK.20
私のお父さんは遠いイタリヤという国のお坊さんで、だから、追い出されてしまったんです。

お父さんは、今はいません。
追い出されるより前にお父さんの故郷に帰ってしまったのだと、お母さんは言っていました。
手紙を出しても帰ってはこないその人を。

お母さんは、今も待っています。

ミセ*;`Д́)リ「ギコさん!積み込み終わりました!」

(,,゚Д゚)「ふん、ギリギリ晩鐘が鳴るまでには間に合ったな」

(,,゚Д゚)「今日の駄賃だ、とっとけ」

ミセ*;-Д-)リ「ありがとうございます…」

朝から夕暮れまで働いて、一日の糧を得る。

7 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:34:38 ID:1k.qtK.20
毎日がその繰り返し。
いつの間にか受け入れて、なんにも思わなくなったそんな日常。

だけど、絶対に。

時は流れて、移ろっていくのです。



…良くも悪くも。

8 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:35:57 ID:1k.qtK.20


ROMAN QUESTのようです
    序「Morte tua,vita mia.」

9 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:36:36 ID:1k.qtK.20
島の名はジャワ。熱帯の島。
町の名はバタヴィア。植民の町、商人の町。

行き交う人々は様々なものをこの町から運び出し、そして持ち込んでくる。

香辛料、陶磁器、日本刀。
毛織物、鉄製品、そして――病。

父も無く、国を追われた貧しい少女にその苦難が降りかかるのは、必定だったといえるだろう。

10 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:37:25 ID:1k.qtK.20
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

11 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:37:55 ID:1k.qtK.20
ギコから賃金を受け取ったミセリは、くるくると目を回した。

ミセ*;゚ー゚)リ「…あの、ギコさん」

(,,゚Д゚)「なんだ」

ミセ*;゚ー゚)リ「少し、お金が多すぎる気がするんですが…」

恐る恐るうかがうミセリの手には多すぎる、というには少ないが、それでも同業の現地人や
日頃の額と比較すると何かあったのではないかと思わせる量の金があった。

(,,゚Д゚)「具合が悪いんだろう、お前のおっかさん」

(,,゚Д゚)「それでうまいもんでも買ってやりな」

12 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:38:21 ID:1k.qtK.20
さも当然といったふうに答えるが、このバタヴィアでこのようなことをする商人はこの男だけだろう。
厳つい風体に顎鬚を生やしたこの男はギコ、と呼ばれている。
オランダ人であることと、その名前、そしてやたらと顔が利く以外は殆ど彼のことは知られていないし、本人も何も語らない。
ファミリーネームすら語ろうとしないこの男が幅広い人脈と、この町の人間からの信頼を勝ち得ているのは彼のこの気質によるものだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「あの…ありがとう、ございます」

厳しいながらも時折こうして気遣ってくれるこの男を、ミセリも尊敬している。
頭を下げて礼を言うと、振り返り帰路につこうとした。

13 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:38:44 ID:1k.qtK.20


が、しかし。

14 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:39:08 ID:1k.qtK.20
(,,゚Д゚)「…なんだ、騒ぎか?」

現地人やミセリのような貧民が暮らす長屋、その建物が並んだ通りを人が埋めている。
乱闘騒ぎや捕り物といった押し合いへし合いするような集まり方ではなく、何やら一軒の長屋を遠巻きに集まっている。
気になるけれども近寄りたくない。そういった雰囲気を感じる。

そう、例えば熱病やマラリアといった病人が出た時のような。

(,,゚Д゚)「おい、これはどういう騒ぎだ?」

ミセリが何やら異様な空気に気圧されて動けずにいると、ギコは忙しく行き来している男を捕まえていた。

15 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:39:35 ID:1k.qtK.20
(男)「これは、ギコさん!」
    「いえね、長屋で病人が出たんです、なんでもひどいできものができてるとかで…」

(,,゚Д゚)「…できもの?」

一体何だ。天然痘だろうか、それならば大事だ。
それとも―――。

ふと、ギコはミセリを見た。

::ミセ*; - )リ::

顔面蒼白で、小刻みに震えている。

16 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:40:03 ID:1k.qtK.20
何か心当たりがあるのか、と。
そう口にする前にミセリがぼそりとこぼす。

ミセ*; - )リ「お母さんだ…」

(,,゚Д゚)

(,,゚Д゚)「…何か、知っているのか」

彼女の肩に手を置き、向かい合う。

ミセ*; - )リ「わたっ、私、しってて、おかあさん、ずっと」

(,,゚Д゚)「ずっと具合が悪かった、そうだな」

17 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:40:34 ID:1k.qtK.20
それはギコも知っていた。
彼女たちがこの町に来て暫く経ってからだった。
母親の様子がおかしいと、ミセリが言い出したのだ。

(,,゚Д゚)(…てっきり何か精神的なものかと思っていたが)

ひょっとしたら。

嫌な想像が、実を結び始めていた。

18 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:41:56 ID:1k.qtK.20
٭

19 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:42:22 ID:1k.qtK.20
(,,゚Д゚)「ミセリ、どうして、お母さんだと思ったんだ?」

向き合ったまま、ゆっくりと聞く。

ミセ*; - )リ「おかあさん、ずっと、さいきん、へんで」
      「へやにはいるなって、さわろうとしたら、おこって」

ミセ*; - )リ「でも、だれにも、いうなって、いってて、わたし」

しゃくりあげながら、詰まりながらもぽつりぽつりと、ミセリは語る。
曰く、ここにきて暫く経った頃から、生活に困窮すると母親が夜いなくなることが多々あったこと。
数年前から母に赤い腫物ができては治っていたこと。
母に触れようとすると、否、近寄るだけでも烈火の如くに怒っていたこと。

ここ数か月はミセリの前にも姿を見せなくなったこと。

20 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:43:05 ID:1k.qtK.20
(,,゚Д゚)(…ああ、やはり)

合点がいった。

すっくと立ちあがると先ほどの男に指示を出す。

(,,゚Д゚)「人払いをしてくれ、それと、すべての乗組員に検査を」


「おそらく、梅毒だろう」

21 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:43:37 ID:1k.qtK.20
(,,゚Д゚)(こんな子供が、梅毒なんて、ましてや…)

母の夜の外出の意味など、分かるわけがあるまい。

(,,-Д-)(…主よ、あまりにも)

酷な運命ではないか。

出生によって国を追われ、父は何処ともわからず、母は日々の糧を得るために身を落とした。
そして今、この異国の地で一人残されようとしている、この少女が。

一体何をしたというのだろうか。

22 ◆ubpKHJFedo:2022/05/17(火) 23:44:04 ID:1k.qtK.20
(,,゚Д゚)(話を聞く限り末期…もう長くもないだろう)

ここまで落ちてしまえば、あとはもう。

母と同じ道を辿るだけだろう。

(,,゚Д゚)「…そうはさせねえ」

否、させてたまるか。

そう呟くと、男は震える少女を抱きしめた。

23名無しさん:2022/05/18(水) 00:26:27 ID:mXyLhb1k0
乙乙
舞台がとても良いな!これから凄いことが起こりそうでワクワク

24名無しさん:2022/05/18(水) 05:52:09 ID:ObHNXVJo0


25名無しさん:2022/05/18(水) 07:01:30 ID:sfzWcVtQ0


26名無しさん:2022/05/20(金) 01:58:45 ID:f1vyzsYs0

最初からクライマックスでよい

27名無しさん:2022/05/21(土) 08:07:08 ID:y85TlglI0
おもしろそう

28 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 01:59:56 ID:ZPJu7/j60
続きいきます

29 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:00:38 ID:ZPJu7/j60
葬儀は滞りなく終えられた。


キリスト者は火葬はされない。

彼等が復活を信ずるが故に。

もしも火によって送り出されていたならば、その魂だけでも故国へと帰ることができただろうか。

だが悲しいかな、熱帯の風は東へと向かってはくれない。



しかし、風は吹くのだ。


西へと向かうために。

生きているもののために。


風立ちぬ、いざ生きめやも。

30 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:01:55 ID:ZPJu7/j60



ミセ*゚ー゚)リ ROMAN QUEST のようです
         第一話「Sailing day」

31 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:02:24 ID:ZPJu7/j60
我が耳を疑った。

初めは何を言っているのかわからなかった。

目の前の少女はそれほどに無謀で、突飛なことを言い出したのだった。


ミセ* - )リ「ギコさん、私―――。」




「ローマへ、旅に出ます」

32 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:02:46 ID:ZPJu7/j60



※ ※ ※

33 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:03:10 ID:ZPJu7/j60
発覚してからは早かった。

まるで天が別れを惜しむ暇など与えまいとするように。

「栄養状態や居住環境が劣悪であったことが原因でしょうが…良かったのか悪かったのか…」

とは医師の弁であった。

もとより梅毒には治療法がない。
否、あるにはあるが、効き目はなく、苦痛のみを与える気休めだ。

地獄のような末期を思えば、その期間が短かったのは幸いといえるのだろうか。

ひとつだけはっきりしていることは。

どのような経過を辿ったとしても、ミセリは自分を責めただろうということだった。

34 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:03:30 ID:ZPJu7/j60
(,,゚Д゚)(どうしたもんかね…)

葬儀が終わって数日経つが、彼女は家に籠ったままだった。

部下を送って様子を見させてはいるが、持たせた食事にも手を付けずに日がな一日座り込んでいるという。

(,,゚Д゚)(…俺が、いってみるか)

港の検疫をはじめとした事後処理に追われてはいるが、このままではまずいだろう。

ちょうど通りがかった部下に留守を頼むと、執務室を後にした。

35 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:03:53 ID:ZPJu7/j60


〜〜〜〜〜〜

36 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:04:19 ID:ZPJu7/j60
がらんどうの家で、わたしはずっと座っていました。

人が一人いなくなっただけ、他には何も変わらない。

たったそれだけなのに。

ミセ* - )リ「どうして…」


どうしてこんなにも苦しいのだろう。

なにもかもをなくしてしまったように感じるのは。

どうして。

ミセ* - )リ

気づけなかったのだろう。

わたしが、みごろしにした。

37 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:04:39 ID:ZPJu7/j60
となりの部屋、お母さんがいつも床に臥せていた。

ふらりと立ち上がり、足を踏み入れる。
布団や着物はギコさんの部下の人たちが持って行って燃やしてしまった。
書き物机だけが残された部屋。

思えば私は何も知らなかった。

ここに来てからは殆ど会話もなく、いつの間にか取り返しのつかない別れまで。

ミセ*゚-゚)リ「…お母さんは、どんな気持ちだったんだろう」

幼いころ、記憶の底にある唯々幸福だった感覚。

家族という唯一の繋がり。
それだけで愛していた。

無償の愛とはよく言ったものだろう。

38 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:05:11 ID:ZPJu7/j60
部屋の隅で埃を被った机が目に留まる。
緩慢な足取りで近づくと、これまたゆっくりと埃を払った。
ふと、引き出しに違和感を覚えた。

ミセ*゚-゚)リ「綺麗だ…ここだけ」

取っ手には手脂や錆が浮いた様子がなく、摩耗によりすり減った金具が僅かな輝きを放っていた。
それは最近までその引き出しが使われていたことを示すものだった。

金具に指をかける。

手が震える。

今まで気に留めなかった母親の、その内情がそこには残されている確信があった。

ミセ*;゚-゚)リ …ゴクリ

ゆっくりと、その手を引いた。

39 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:05:31 ID:ZPJu7/j60
小さな書き物机の、それよりさらに小さな引き出し。
その中には布が収められていた。

襤褸を継ぎ接ぎにして作られた五寸四方ほどのそれには、黒い蚯蚓がのたくっていた。

ミセ*゚ー゚)リ「これ…手紙だ」

墨がいくらか布に滲んでおり、また草書体が使われていたため、初めは何かわからなかった。

母が残した手紙。

僅かな期待と罪悪感を胸に、目を走らせる。

ミセ*゚ー゚)リ(ろ…ま…、さん…)

40 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:05:55 ID:ZPJu7/j60
宛名にあるのは、知らない名前だった。

ミセ*゚ー゚)リ(これ…お父さんへの手紙なんだ…)

しかし、相手への態度や書かれている内容から、どうやら父にあてたものであることが分かった。

ミセ*゚ー゚)リ(ここにあるの全部…)

いつから書かれていたのだろう。
引き出しが埋まるほど貯められた手紙を見て、思ったことはひとつ。


ミセ*゚ー゚)リ(…届けたいな)

41 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:06:37 ID:ZPJu7/j60


※ ※ ※

42 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:07:01 ID:ZPJu7/j60
(,,;゚Д-)「…成程、それで親父を探しに行きたいと」

ミセリの家。

様子を見に来たギコは、予想外に立ち直った様子のミセリを見て、初めは安堵したものの、
その直後の更に予想外であった発言を受けて困り果てていた。

(,,゚Д゚)「確かに、お前の親父はイタリア人で、宣教師だったようだからローマにでも行ければ確実だろう」

ミセ*゚ヮ゚)リ「じゃあ(,,゚Д゚)「行ければ、の話だ」

身を乗り出したミセリに言を被せて制する。

確かにローマに行ければ宣教師を探すのは容易だろう。
たとえそこにいなかったとしても、何らかの会派に所属しているし、司祭として生きているのであれば赴任地を知っている者がいるだろう。

だが、ここはバタヴィア。

(,,゚Д゚)「お前の故郷からこの町へ来るようなのとは訳が違う、危険すぎる」

43 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:07:35 ID:ZPJu7/j60
インドネシアからローマへと至る道は、それほどまでに遠い。
陸路を行こうものならビルマ、インド、ペルシアを貫きアナトリア、バルカンと異教、異民族が治める地を進まなければならない。
海路も安全とは言えず、インド洋から喜望峰を回り、大西洋を横断するために命を懸けて挑まなければならない。
時は17世紀、国家の支援を受けた海賊が跋扈し、未だ信仰が力を持っていた。

(,,゚Д゚)「気持ちはわかるが、ヨーロッパまで船は出せない」

ミセ*゚σ゚)リ「私、歩いてでもいきます!」


ミセ*゚-゚)リ「…一人ででも、大丈夫です。迷惑はかけません」

そのようなことを言い聞かせたところで聞くミセリではなかった。

44 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:07:58 ID:ZPJu7/j60
(,,;-Д-)「…」

できれば、この地でこのまま生活して、結婚してほしかった。
ミセリと同じようにこの地に来た者の多くはそうしていたし、それしかなかった。
中には結婚したことで財を成し、今では奴隷を所有するまでに至ったものもいる。

この時代ではそれは幸福なことであったし、良いことだったろう。

(,,゚Д゚)(…だが)

目の前の少女にとっては、そのような幸福はどうでもよいことなのだ。

父に会いたい。
夭折した母の思いを伝えてやりたい。

人間の決意を本人以外に誰が止められるだろうか。

(,,゚Д゚)(ほっといたら勝手に行くだろうしなぁ)

ならばせめて。

(,,;-Д-)-3(できる限りのことをやって、送り出してやるか…)

45 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:08:22 ID:ZPJu7/j60
(,,゚Д゚)「ミセリ」

ミセ*;゚ロ゚)リ「は、はいっ」

改まって名前を呼ばれたためか、ミセリの肩が小さく跳ねる。
なにを言われるのかと不安げな色で、緊張しているのかいやに姿勢を正したままこちらを見つめている。

(,,゚Д゚)「ヨーロッパまでは送ってやれないが、近くベンガルに買い付けの船が出る」

(,,゚Д゚)「俺の船で行くから、それに同行してもらう」

ミセ*;゚д゚)リ「え…?」

なにを言っているのかという顔で、間抜けた返事をした。

本気で一人ででも歩いて行くつもりだったのだろう。
やはり子供だな、と思うが、余計なことは口に出さず続ける。

46 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:08:43 ID:ZPJu7/j60
(,,゚Д゚)「ベンガルまでの道中で俺が無理だと判断したらそのまま降ろさずに連れ帰る」

(,,゚Д゚)「もちろんいいと判断しても一人、護衛を同行させる」

(,,゚Д゚)「今、行きたいというのならこの条件を飲んでほしい」

こんなものは俺の勝手だ。
止めても勝手に出ていくだろうし、俺にはそれを縛るすべもない。

(,,゚Д゚)「お前が親の死に負い目を感じているのはわかる、それをどうだというつもりはない」

むしろ、負い目を抱えたまま生きるよりはそれぞれに清算できた方がいい。

(,,゚Д゚)「だが俺にも責任がある」

(,,゚Д-)「あの港を統括する立場の人間として、お前の親を死なせちまった責任と、残されたお前を守ってやる責任だ」

(,,゚Д゚)「俺の顔を立ててこの条件、飲んじゃくれねぇか?」

そういって、頭を下げた。

47 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:09:11 ID:ZPJu7/j60
出来ることなら最後まで送ってやりたい。
そうでなくても父親を探し出してやりたい。

それができれば終わる話なのだ。
だがそれができない。

(,,゚Д゚)(本国は戦争中、隣接する原住民国家との軋轢もある)

(,,-Д-)(政治に挟まれて人ひとり探してやれないとは…なんとも情けない野郎だな)

頭を下げて数秒、ミセリの表情はわからなかった。
なんとなく、視線をあわせることが躊躇われたためだった。

48 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:09:40 ID:ZPJu7/j60
「…ごめんなさい」

沈黙を破ったのは、謝罪の言葉だった。

ミセ* - )リ「勝手を言ってるのは私の方なのに」

視線を上げると、俺よりも深々と頭を下げたミセリが言った。

ミセ* - )リ「どうか、よろしくお願いします」

49 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:10:00 ID:ZPJu7/j60


〜〜〜〜〜〜

50 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:10:21 ID:ZPJu7/j60
数日後――――港。

51 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:10:41 ID:ZPJu7/j60
数隻のフリュートが人々に見送られて北へと旅立った。

そのうちの一隻、先頭を走る旗艦には100人程の乗組員が乗っている。

そこに、ミセリの姿があった。



目指すはベンガル。

ジャワ海を進み、マラッカ海峡を抜け、アンダマンの海へ。

長い旅路の、その一歩目を踏み出した。

52 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 02:15:05 ID:ZPJu7/j60
本日はここまでです。
6年ぶりのブーン系は緊張しますね。
見てくださってありがとうございます。

53名無しさん:2022/05/23(月) 08:46:13 ID:bjaMGu820
>>1
(この作品連載の中では)初投下ってことか!

54 ◆ubpKHJFedo:2022/05/23(月) 09:43:39 ID:ZPJu7/j60
>>53
ブーン系に来たのが6年ぶりですね、書くの自体は初です。
紛らわしくてすみません。

55名無しさん:2022/05/23(月) 21:27:00 ID:38DQW9do0
乙!
ギコ気持ちのいい男だなぁ

56名無しさん:2022/05/23(月) 23:53:19 ID:Fmsiwg5s0
乙乙
うまく言えないけど、世界と人の描き方がとても素敵だと思う

57名無しさん:2022/05/25(水) 23:24:20 ID:S/yx2Z3.0

すげーワクワクする
更新楽しみ

58名無しさん:2022/05/26(木) 22:08:26 ID:qgZCAgQs0

楽しみにしてます

59 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:34:06 ID:zcg9Kb7Y0
設定やプロットを実際に形にするのはなかなかに難しいですね
続きです

60 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:34:32 ID:zcg9Kb7Y0
17世紀、ジャワ海上。

リンガ沖。

怪しく静まり返った海上を、船はゆっくりと北を目指す。

南十字星の輝きは斜めに移りながらも、子羊達を見守っている。

行く先はインド。

手前に迫るはマラッカの海峡。

密林の島には海賊が潜み、航路には私掠船が跋扈する。

東インドの「荒ぶる海」が、その本性を表そうとしていた。

61 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:35:02 ID:zcg9Kb7Y0


ミセ*゚ー゚)リ ROMAN QUEST のようです
     第二話「南海、出会い」

62 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:35:36 ID:zcg9Kb7Y0
赤道直下。
灼熱の太陽が照り付ける。
洋上特有の塩気を多分に含んだ空気によって肌がひりつく。

数日の航海のうちにすっかり赤銅色に焼けてしまった肌を見て、ミセリは嘆息をもらす。

ミセ*;-д-)リ「…これ、元に戻るかなぁ」

昼勤務の下っ端船員や、いくらかの奴隷たちに混じってミセリは甲板を磨いていた。
何もない洋上ではあるが、人が生活すれば汚れも出る。
もちろん、鳥の糞などの空からの落とし物も無いわけではなかった。

ミセ*゚ぺ)リ(夜の勤務に替えてもらえないかなぁ)

63 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:35:57 ID:zcg9Kb7Y0
〜〜〜〜〜〜

(,,゚Д゚)「船に乗せて、お前が一人前にやっていけるかみる」

(,,゚Д゚)「お客様待遇はしねぇし、下っ端の仕事をやってもらう」

(,,̂Д̂)「もちろん昼勤務だ!子供はしっかり寝るもんだからな!ギコハハハ」

〜〜〜〜〜〜

64 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:36:21 ID:zcg9Kb7Y0
ミセ*゚ー゚)リ(…なんていってたけど)

それにしても。

ミセ*゚〜゚)リ「ギコさんはどうしてここまでしてくれるんだろう」

普通に考えてみれば変だ。
彼が私の母や父と面識があったという話は聞かないし、父とは国籍も宗派も違うという。
いくら面倒見がいいとはいえ、ここまで親切にしてくれるものなのだろうか。

65 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:36:45 ID:zcg9Kb7Y0


「どうしたんだお?」

66 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:37:06 ID:zcg9Kb7Y0
ぼうっと思案していると、不意に後ろから声をかけられた。

ミセ*;゚ヮ゚)リ「うひゃあ!」

(;^ω^)「そんなにびっくりされるとちょっとショックだお…」

ミセ*;゚ー゚)リ「ご、ごめんなさい…ブーンさん」

声をかけてきたのはミセリと同じく下っ端の船員だった。
赤色の毛が目立つやや肉付きの良い少年で、船の中でミセリと最も歳が近いという。

67 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:37:26 ID:zcg9Kb7Y0
( ^ω^)「おっお、そんなにかしこまらなくていいお」

(* ^ω^)「友達みたいに接してほしいお」

彼はやたらと特徴的な、気の抜けたような喋り方をする。
常ににこにこしていることと相まって、彼の周りには柔和な雰囲気が漂っている。

ミセ*゚ー゚)リ「…わ、わかったよ」

(* ^ω^)「お!改めてよろしくだお!」

( ^ω^)「…それで何が不思議なんだお?」

小首をかしげるブーンにミセリは先ほどの疑問をぶつける。

68 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:37:53 ID:zcg9Kb7Y0
( ^ω^)「お、それはそうだお」

( ^ω^)「確かにあの人は厄介ごとにちょっと首を突っ込みすぎるきらいがあるお」

( ^ω^)「僕の時もそうだったお」

ミセ*゚ー゚)リ「…ブーンの時?」

そうだ、とうなずくと、立ちっぱもなんだからと甲板の端へと移動する。
いつの間にやら休憩の時間に移っているようで、他の船員達も釣りや会話を始めていた。
人の少ない隅の方に移動すると、ブーンは再び語り始めた。

69 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:38:22 ID:zcg9Kb7Y0
( ^ω^)「ブーン・ホライゾン・ナイト」

( ^ω^)「僕の名前だお」

ミセ*゚ー゚)リ「ホライゾン…」

( ^ω^)「おっお、ミドルネームってやつだお」

( ^ω^)「…わかったと思うけど、僕はオランダ人じゃないお」

70 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:38:51 ID:zcg9Kb7Y0
※ ※ ※ ※ ※ ※

71 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:39:19 ID:zcg9Kb7Y0
僕の故郷はイングランドっていうんだお。
オランダ…ネーデルラントの向こう側に浮かんでいる島国だお。

( ^ω^)「父上!」

( ^ω^)「どうした、ブーンよ」

(* ^ω^)「今度ロンドンの科学サークルにイタリアで発明された望遠鏡ってのが来るらしいんですお!」

(* ^ω^)「見に行ってもいいですかお?」

( ^ω^)「おっお、ブーンは勉強熱心だ…許可しよう」

72 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:39:49 ID:zcg9Kb7Y0
僕の家は地方の貴族だったんだお…裕福ではなかったけど、それでもブーンは幸せに暮らしていたお。
そのころの僕は科学サークルに行っては勉強や実験をしてたんだお。
僕のそのころの夢はカレッジに入って…いや、これはどうでもいいかお。

(* ^ω^)「ありがとうございますお!」

( ^ω^)「お、ついでにニュッの奴も一緒に行かせるからな」

( ^ω^)「ニュッ兄さんかお?でも兄さん科学はそんなに興味なかったお?」

( ^ω^)「あいつは騎士になりたがっているからな…ロンドンといえば王のお膝元だ、まぁ行かせて損はないだろう」

73 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:40:17 ID:zcg9Kb7Y0


…でも、そんな日常が崩れてしまうのは簡単だったお。

74 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:40:38 ID:zcg9Kb7Y0
(;Ö)「ニシカワ様!」

( ^ω^)「どうしたそんなに急いで」

(;Ö)「ニシカワ様に異端の嫌疑がかかっておるのです!もう屋敷の近辺まで逮捕のための軍が迫っているとのことで…!」

(; ^ω^)「なに!?それはどういうことだ!!」

(;Ö)「それが…奥様がサバトに参加していたようなのです…」

75 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:41:09 ID:zcg9Kb7Y0
サバト。
キリストに反して悪魔を崇拝する者や、魔女たちの集会のことだお。
魔女は拷問の後火刑、父さんも無実を証明できずに死んでいったお。

そうして、僕の家は没落したお。

僕は赤毛だったからどこも受け入れてはくれなくて、そのまま年季奉公人(インデンチュアード・サーヴァント)として売りに出されたお。
…年季奉公人っていうのは白人がなる期限付きの奴隷みたいなものだお。
新大陸で期限が来るまで働く、でも過酷な環境でそのまま死んじゃう人も多いからほとんど奴隷と変わらないものだったお。

ギコさんと出会ったのは、そんな時だったお。

76 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:41:39 ID:zcg9Kb7Y0
――ブリストル。

77 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:42:02 ID:zcg9Kb7Y0
( ´ω`)「…寒いお」

イングランドの奴隷たちはこの港町から新大陸へと向かったお。
寒い寒い日のことだったお。

「おい坊主、こんな所で何やってるんだ?」

( ´ω`)「……お?」

(,,゚Д゚)「まさかお前みたいながきんちょが商人だなんて言わねぇよな?」

78 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:42:24 ID:zcg9Kb7Y0
最初は物好きなおっちゃんだと思ったお。
わざわざ‶いかにも"な訳ありに話しかけてくるんだから。

( ´ω`)「移民ですお…僕はアメリカに行くんですお」

(,,゚Д゚)「アメリカ?あんなとこに行くのはよっぽどの貧乏人か馬鹿くらいなもんだ」

(,,゚Д゚)「お前、年季奉公人か」

…そのあとはあっという間だったお。
ギコさんは雇い主から僕を‶買う"と見習い船員としてちゃんと雇ってくれたんだお。
年季奉公なんて言えば聞こえはいいけど実際は現地で借金ダルマになって解放されないのがほとんどだったから…

79 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:42:48 ID:zcg9Kb7Y0
※ ※ ※ ※ ※ ※

80 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:43:11 ID:zcg9Kb7Y0
ミセ*;゚-゚)リ「…」

何も言えなかった。
あっけらかんと語る姿からは想像もつかない過去は、自分の悲運などまるで些事に思えてくるほどの話だった。

(; ^ω^)「お、変な話しちゃってごめんお」

( ^ω^)「…そのときにギコさんが言ったんだお」

81 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:43:44 ID:zcg9Kb7Y0
〜〜〜〜〜〜

(,,゚Д゚)「……親のせいで子供が難儀するなんざ、糞みてぇな話だよな」

〜〜〜〜〜〜

82 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:44:09 ID:zcg9Kb7Y0
( ^ω^)「…って」

だから、たぶん。と、言いたいことを上手くまとめられずにブーンは苦心した様子で、その特徴的な赤毛をくるくるといじっている。

( ^ω^)「あの人も多分何かあったんだお」

( ^ω^)「ファーストネームしか人に言わないのだってきっとそうだお」

(; ^ω^)「だから…えっと……不安になるのはわかるけど……」

彼の言わんとすることを察し、ミセリは苦笑する。

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫、別に疑ったりとかしてたわけじゃないんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとね、ブーン」

83 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:44:38 ID:zcg9Kb7Y0
そういうと、ブーンは一瞬ほっとしたような顔をして、またすぐにいつものにこにこ顔に戻った。
照り付ける太陽は先ほどと変わらず、随分と話し込んだような気がしていてもあまり時間が経っていないことを示していた。

南洋に暫しの沈黙が訪れる。

船をゆっくりと押し進めていた風は凪へと変わり、頭上を飛んでいた鳥たちも近くの島へ行ってしまったようだった。


( ^ω^)「お!そういえば」

( ^ω^)「この船には僕のほかにもう一人オランダ人じゃない船員がいるんだお」

( ^ω^)「僕の友達なんだけど…もう会ったかお?」

僅かな沈黙はブーンによって破られた。
乗船の際にある程度紹介はしてもらったが、何せフリュートでも100人はいる大所帯だ。
会ってないと伝えると、ブーンは会いに行こうとミセリの腕を引いた。

84 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:45:03 ID:zcg9Kb7Y0


〜〜〜〜〜〜

85 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:45:40 ID:zcg9Kb7Y0
(; ^ω^)「お〜…いつもはこの辺に……」

ブーンはきょろきょろと周りを見渡しながら船内を歩く。
後ろから追従しながら、ミセリもあたりを見回してみる。

ミセ*゚ー゚)リ(荷物がたくさん…)

船はいくつかの層に分かれているが、どうやらここは荷物を積み込む場所のようだった。
薄暗く、埃っぽくて、いまのところ人気は感じられない。

ミセ*゚ー゚)リ(こんなところにいるのかな?)

86 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:46:13 ID:zcg9Kb7Y0
そうやって暫くうろうろとしていると、ブーンがいたお!と叫んで船室の一角に駆けていった。
そのあとをついていくと、薄暗くてわかりにくかったが荷物の陰に隠れるようにして小さくいびきをかいている男がいた。

( ^ω^)「ドクオ!起きるお!」

('A`)「んがっ…なんだ、ブーンか…どうした?」

ドクオと呼ばれた男がブーンに揺すり起される。
眠そうにしながら立ち上がるが…

ミセ*;゚ー゚)リ(…大きい)

5尺7寸(1m73㎝)ほどだろうか、ギコ船長よりかは低いが、それでも周りの船員と比べると頭一つ抜けている。
が、それよりももっと目を引くのはそのほっそりとした体躯で、どことなく枯れ木のような印象を与える男だった。

87 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:46:36 ID:zcg9Kb7Y0
('A`)「…ん、なんだそのガキ」

ミセリに気が付いたドクオが、ブーンに問いかける。
ややぶっきらぼうな物言いは、不機嫌そうにも感じられた。

(; ^ω^)「ギコさんの話聞いてなかったのかお…?ベンガルまで乗っけてくミセリだお」

初めまして、と頭を下げるとドクオはん、とだけ返してきた。

('A`)「あー…思い出した、確かローマまで行くとか言ってる馬鹿だろ」

ミセ*;゚ー゚)リ「……う」

馬鹿げたことを言っている自覚はあったが、いざ初対面の人間に面と向かって言われると、少しくるものがあった。
一瞬の沈黙が流れた後、ブーンが話題を変えようと口を開いた。

88 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:47:14 ID:zcg9Kb7Y0
(; ^ω^)「ド、ドクオも僕と一緒でオランダ以外から来た船員なんだお!」

(; ^ω^)「口は悪いけどいいやつで…ねっ?」

('A`)「ん?あぁ…確かに俺はオランダ人じゃねぇが…」

ミセ*゚ー゚)リ「どこから来られたんですか?」

ミセリがそう聞くと、ドクオは頭を掻いて、少し間をおいてから答えた。

89 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:47:36 ID:zcg9Kb7Y0
('A`)「神聖ローマ…ドイツの、ポンメルンだ」

それだけ言うと、ドクオは薄暗い船内のその中でもはっきりとわかる金色の髪を再び掻いた。

ミセ*゚ー゚)リ「ポンメルン…」

('A`)「沼と森ばっかの田舎さ、あとやたらとかしこまった話し方はしなくていい」

鬱陶しくてかなわない、そういうとわざとらしくドクオは肩をすくめる。
すると、ドクオの腰のあたりで何やらちゃらちゃらと音が鳴った。

ミセ*゚ー゚)リ「それって…」

('A`)「ん?あぁ、これか、これはな」

('∀`)「カッツバルゲルだ」

90 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:48:12 ID:zcg9Kb7Y0
にやりと笑うと、ドクオが鞘からそれを抜く。
魚の尾鰭のような柄頭、八の字型の鍔。
そしてすらりとした、20寸(60㎝)ほどの刀身。

南ドイツのランツクネヒトが多く用いた片手剣である。

91 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:48:34 ID:zcg9Kb7Y0
(* ^ω^)「かっこいいお!」

(* ^ω^)「ドクオは傭兵なんだお!」

ブーンがはしゃぐと、やや照れ臭そうにしながらドクオは剣を鞘へと戻した。

('A`)、「別にそんなにたいしたもんでもねぇよ」

('A`)「それよりも甲板に出よう、ここは埃っぽくていけねぇ」

かっこいいといわれたのがよほど照れ臭かったのだろうか、ドクオは速足で甲板へと向かっていく。

(; ^ω^)「あ!待ってお!」

ミセ*;゚ー゚)リ「速いなぁ…」

二人もそのあとを追い、甲板へと駆けていった。

92 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:48:56 ID:zcg9Kb7Y0


〜〜〜〜〜〜

93 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:49:24 ID:zcg9Kb7Y0
甲板に戻ると、船員達が何人か集まっていた。
その中には船長のギコもいて、望遠鏡をのぞき込んでいた。
どうやら島の付近で何かが動いたという。

ミセ*゚ー゚)リ「何か…鳥とかかな?」

( ^ω^)「でもそれだととっても大きい鳥ってことになるお」

(,,゚Д゚)「いや…船だろう」

船。
その言葉に周囲の船員達がざわついた。

94 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:49:51 ID:zcg9Kb7Y0
(; ^ω^)「この辺は海賊がたくさん出るっていうお…」

東インドの海は世界でも有数の交易圏だ。
欧州の列強やアジア諸国が香辛料や絹などを取引する一大商圏。
当然、海賊も多い。
特にマラッカの海は島嶼が多く、幅の狭い海峡となっていることもあって古来より海賊の跋扈する海となっていた。
  _,
(,,゚Д゚)「今は潮の流れをつかんで進んでいるが、あれが海賊だとするとまずいな…」

ギコが近くまで迫った島を睨みながら顔を顰める。

95 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:50:16 ID:zcg9Kb7Y0
ミセ*;゚ー゚)リ「どうしてまずいんですか?」

(,,゚Д゚)「風さ、追いかけっこをするにはこっちの方が不利なんだ」

言い終わると同時に、見張り台にいる船員の怒声が響いた。

(#'e')「島から船が出てきました!フリュートのようです!!」

(#'e')「国旗は―――ありません!海賊です!!」

(#,,゚Д゚)「総員配置につけ!接舷されたらぶちのめしてやれ!!」

96 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:50:39 ID:zcg9Kb7Y0
号令一下、全員が混乱することなくそれぞれの持ち場へと駆けていった。
ミセリも当然その中にいた。
彼女が経験する、初の戦闘であった。

97 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 01:51:42 ID:zcg9Kb7Y0
第二話 了

98 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 02:05:16 ID:zcg9Kb7Y0
読んでいただいた皆様ありがとうございます。
ミセ*゚ー゚)リ
https://imgur.com/a/aLbHmgc

99名無しさん:2022/05/27(金) 06:52:28 ID:D6hNYkbs0
貴様文画両刀か!

100 ◆ubpKHJFedo:2022/05/27(金) 19:51:27 ID:zcg9Kb7Y0
>>99
両刀です!

初三桁を自分で踏んでしまうという…

101名無しさん:2022/05/28(土) 00:21:43 ID:kBbh2.AE0
乙!
ブーンとドクオもいいなー好きだ
早速海賊とは、やっぱりこの時代に多くて狙われやすかったということかな

102 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:05:44 ID:y9jEkigI0
続きです

103 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:06:22 ID:y9jEkigI0


フリュート船。

104 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:06:47 ID:y9jEkigI0
16世紀オランダで発明されたこの船は、海外での輸送をより効率的にするために開発された。
国際貿易での競争力を強化するために用いられ、オランダのみならず、多くの地域で人気を博した。
17世紀にはアジアでの貿易でも利用されており、ここ東インドでも同じであった。

この船は国際貿易に利用するために設計された船であり、
特にバルト海交易での海峡通行税への対策のため、
船底に対して甲板が狭い特異な形状を持っていた。

長さは約80ft(約24m)、重さは200〜300tと、
ガレオン船などと比べると小型の船であり、
武装も僅か15門ほどしかなかった。

105 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:07:08 ID:y9jEkigI0


つまりは、海賊にとって格好の獲物であったのだ。

106 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:07:32 ID:y9jEkigI0


ミセ*゚ー゚)リ ROMAN QUEST のようです
        第三話「戦い」

107 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:07:53 ID:y9jEkigI0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

108 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:08:20 ID:y9jEkigI0
ギコが「不利だ」といった意味がわかった。

回頭をして向かってくる船を躱そうにも、あっという間に船を寄せられてしまう。
せいぜい横っ腹を向けて砲を撃つのが関の山で、それもまともに当たりはしなかった。

(; ^ω^)「そもそもの砲門が少なすぎるんだお!」

ロープにとり付きながらブーンが叫ぶ。
もう既に逃避のためではなく、いかにこれから来るであろう
衝突を上手く往なすか、という思考に移っていた。

(,,#゚Д゚)「そういう船だ、諦めな!」

109 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:08:47 ID:y9jEkigI0
ミセ*;゚σ゚)リ「でも、どうするんですか!?このままだと―」

その先は言わずともわかりきっていた。
目と鼻の先まで迫った敵がとる行動は、ひとつ。

そのまま接舷して、乗り込み、略奪を行うだけ。

それに対して私達が取れる行動は、ふたつ。

戦うか、降伏するか。

海賊に接舷までされた時、ほとんどの場合は戦うことなく降伏してしまう。
抵抗しなければ命まで取られることはそうないからだ。

110 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:09:16 ID:y9jEkigI0
しかし。

(,,#゚Д゚)「当然、叩き潰せ!ハエなんざ叩き潰して――」

(,,#゚Д゚)「とっととインドへ向かうぞゴルァ!!」

この男の選択肢には、降伏というものがなかった。
ギコという人間の、祖国への忠誠や、己の使命感というものもあるだろう。
だが、それ以上にこの船に乗る100人の生活を、その糧となるすべてを
易々と渡してはならぬという責任感があった。

そのような男の下に集う者もまた、同じく。

111 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:09:40 ID:y9jEkigI0



鬨の声が大気を震わせる。



船と船が、ぶつかった。

112 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:10:01 ID:y9jEkigI0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

113 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:10:24 ID:y9jEkigI0
まるで地震のようであった。

衝突によって船は大きく揺れ、何かが落ちる水音が響く。
小柄であったミセリは衝撃に大きく転ばされたが、幸いにも落ちることはなく、
船べりにしがみついて何とか立ち上がった。

ミセ*;゚-゚)リ「〜〜〜っ」

転んだ際に打ち付けた痛みこそあるものの、それも少しすれば和らいだ。
だがそうしている間に、海賊達は甲板へと踊り込んできていた。

114 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:10:49 ID:y9jEkigI0
| ^o^ |「おや、おんなのこがいます」

|  ^o^ |「ほんとうですね」

ミセ*;゚-゚)リ(……まずい)

当然、手間取っていれば敵にとってはいい的でしかない。
二人の海賊が、ミセリに目を付けたようだった。

| ^o^ |「てむかいしなければ、いきていられたかもしれないものを」

|  ^o^ |「かわいそうなどれい」

侮っているのか、慎重なのか。
サーベルに手をかけたまま、ゆっくりと迫ってくる海賊。
対して、ミセリは丸腰であった。

115 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:11:17 ID:y9jEkigI0
ミセ*;゚-゚)リ(落とした…!どこに…)

周囲に目をやるが、ない。
海に落ちてしまったのか、誰かが拾っているのか。

近くにあるのは、先刻まで作業に使っていた――

116 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:11:42 ID:y9jEkigI0
| ^o^ |「めをよこに、あらあぶない」

|  ^o^ |「あたまをさげてもたすかりません」

周囲に目をまわした隙をつき、二人の海賊が左右から斬りかかる。
ミセリは『それ』を手に取ると、抱え込みながら前方へと飛び込むようにして転がった。
少女の小さな体は、男達の間を容易に潜り抜けることができた。

117 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:12:03 ID:y9jEkigI0
| ^o^ |「あれま」

|  ^o^ |「よけられてしまいましたか」

|; ^o^ |「…そんなものをもってどうしようというのです」

ミセリが掴んだものは、さっきまで甲板の清掃に使っていた、デッキブラシだった。
リーチこそ長いが、まともに剣を受けようものなら斬られてしまうだろう。

ミセ*;゚ー゚)リ「……どうするって、そりゃあ」

118 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:12:38 ID:y9jEkigI0
そう、まともに受けるならば。

古来、戦場で主力となったのは剣ではなく槍である。
理由は単純、剣ではリーチが足りないからだ。

この頃であれば槍に対抗するため、大型の両手剣がランツクネヒトなどを中心に
用いられてはいるが、そういった武器は船上で使うには大きすぎる。
また、アジアにおいては刀剣に対抗する上で棒は十分な武器として認識されていた。

119 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:13:11 ID:y9jEkigI0

ミセ*;゚σ゚)リ「ブラシは掃除に使うものでしょッ―――!」

120 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:13:39 ID:y9jEkigI0
ミセリはブラシのヘッドを下に、ハンマーのように構えると、そのまま振りぬいた。
しかし素人の大振りが当たるはずもなく、ブラシはそのまま空を切る。

| ^o^ |「あまい」

振りぬいた後の脇腹に、小柄な方の男のつま先が食い込む。

ミセ*; д )リ「―――っっ」

|  ^o^ |「ないすぱす」

息ができない。
何とか体勢を立て直そうとするが、もう一人の大柄な男が
ミセリの髪をつかむと、甲板に叩きつけた。

121 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:14:05 ID:y9jEkigI0
ミセ*; Д )リてそ「ぅあ˝っ、ぐ」

| ^o^ |「いせいがいいのは、きらいじゃないぜ」

|  ^o^ |「どれいにしては、がんばりますね」

ミセ*; д )リ「わた…っしは、奴隷じゃ…っ、ないよ……」

男達は、やや遠巻きにしたまま攻めてこない。
遊ばれているのだと、そう感じた。

122 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:14:40 ID:y9jEkigI0
ミセ*; - )リ「……」

頭が大きく揺られたせいか、視界がぐるぐると回る。
叩きつけられた全身が、激しく痛む。
たったあれだけの攻撃で、それだけでこんなにも苦しいのか。

123 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:15:01 ID:y9jEkigI0
ミセ*; ー )リ(かっこ悪いなぁ…)

| ^o^ |「こやつわらっている」

|  ^o^ |「あたまがおかしくなりましたか」

私は無力だった。
そう思い知らされる。

これが、現実なのだろう。
そして、私が選んだ道なのだ。

124 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:15:25 ID:y9jEkigI0
| ^o^ |「とどめをさして、ほかにいきましょう」

|  ^o^ |「いけどりにして、うってしまおう」

ミセ* ー )リ

ミセリがすっかり動かなくなってしまったのを見て、男たちは近づいていく。

125 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:15:58 ID:y9jEkigI0





喧騒が、遠くに聞こえる。

戦いはまだ、終わっていない。

126 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:16:23 ID:y9jEkigI0
ミセ*#゚σ゚)リ「――やァッ!」

全身に力を込めて立ち上がる。
その勢いを利用して、デッキブラシを右切上に振る。
デッキブラシは二人の海賊のうち、油断していた一人をとらえた。

|; ^o^ |「ぐ」

小柄な男はとっさにサーベルで受けようとしたが、ブラシとはいえど
長い木槌のようなものであるそれを止められる筈もなく。
ブラシのヘッドがサーベルごと男の顔面へと叩き込まれる。

127 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:16:55 ID:y9jEkigI0
|.:メo^ |「あ˝ぁぁぁ˝あ」

| # ^o^ |「このこむすめ」

ミセ*;゚-゚)リ「―――ッ」

全身全霊の、会心の一撃。
それを繰り出した後のミセリにもう余力はなく、もう一人の男が
斬りつけようとしているのを見ていることしかできなかった。

128 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:17:16 ID:y9jEkigI0
―――が。

('A`)「何やってんだお前」

サーベルを振り上げた男の腹部からは、ドクオが突き出した剣が生えていた。
振り上げた腕は大きく震えた後、力なく垂れ下がり、サーベルは甲板を滑って波間へと消えていった。

('A`)「デッキブラシなんじゃ敵は殺せねぇが…よくやったよ」

もう一振りの剣を取り出すと、ドクオは蹲って顔を抑えている小柄な男に止めを刺す。

129 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:17:39 ID:y9jEkigI0


喧騒は、もう聞こえなかった。

戦いは終わった。

130 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:18:02 ID:y9jEkigI0
ミセ*;゚-゚)リ「……」

そう認識すると同時に、体から力が抜けていくのを感じた。
へなへなと座り込むと、妙に生暖かい感触がして、甲板が誰のものとも
わからぬ血で濡れていることにようやく気付いた。

船上を見回すと、大勢は決したようで、逃げ帰ろうとする海賊たちの船に乗り込んでいく者、
海へ落ちた船員を救助する者など、別れて後始末にかかっているようだった。

(,,メ゚Д゚)「ミセリ、無事だったか?」

呆けたようにしていると、ある程度始末が付いたのであろう。ギコがこちらに向かってきていた。
傷だらけになった顔や体は、彼の戦闘が苛烈であったことを物語っていた。

131 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:18:31 ID:y9jEkigI0
ミセ*゚-゚)リ「…ギコさん」

(,,メ゚Д゚)「目立った怪我はなさそうだな」

ギコはミセリの傍まで来ると、血だまりも気にせずに座り込んだ。
いつの間にか船の上空には鳥が旋回していた。
死体を食べに来たのだろうか、それとも死体を食べに来た魚が目的なのだろうか。
ふと見れば、先ほどの男達の死体をドクオが海へと投げ込んでいた。

(,,メ゚Д゚)「…これが、世界ってやつだ」

(,,メ゚Д゚)「盗賊や海賊だけじゃねぇ、動物や、時には土地の住民すら敵になる」

(,,メ゚Д゚)「今日のようなことは何度もある、別に珍しいことでもねぇ」

(,,メ゚Д゚)「お前が選んだのはそういう道だ……それでも、いくのか?」

ミセ*゚-゚)リ「私、私は――」

132 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:19:02 ID:y9jEkigI0

無力だった。
実際、今日も幸運で生き延びたようなものだ。
ドクオがいなかったら。ブラシが置いてなかったら。
いや、そもそも相手が油断してくれたことや、最初に船から落ちなかったことすら幸運だった。

無謀という言葉の、その意味することの大きさが、理解できた。

133 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:19:26 ID:y9jEkigI0
だけど、そうだとしても。

ミセ*゚-゚)リ「私は、お父さんに会いたい」

ミセ*゚-゚)リ「お母さんの手紙も、渡してあげたいんです」

ミセ* - )リ「たとえ、死んだとしても、行きたいんです」

134 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:19:52 ID:y9jEkigI0


なにもしないで後悔するのは、嫌だから。

135 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:20:12 ID:y9jEkigI0
(,,メ゚Д゚)

(,,メ-Д-)「……ま、わかってたけどよ」

ギコはそういうと立ち上がり、ミセリに手を差し出した。

(,,メ゚Д゚)「長い旅の前に、幸いここはマラッカが近くにある、そこで休憩といこうや」

(,,メ̂Д̂)「風呂にも入りてぇしな!ギコハハハ!」

136 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:20:36 ID:y9jEkigI0
海賊は無事打ち倒した。
しかし、こちらにも被害がなかったわけではない。
甲板で戦闘に参加した船員の数人が負傷したのち、死亡した。

(メ ^ω^)「お!ミセリ!大丈夫だったかお?」

ブーンはドクオと共にいたという。
私が衝撃で飛ばされてしまったため、ほとんど逆のところで戦っていたらしい。

('A`)「…こいつが落ちてたからよ、届けてやろうと思っただけさ」

そういうとドクオは男に止めを刺した剣を取り出した。

ミセ*゚ー゚)リ「これ、わたしの…」

剣があったとしてもニ対一。しかも素人とくれば勝負は怪しいどころではなかっただろう。

137 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:21:15 ID:y9jEkigI0
ミセ*゚ー゚)リ「…結果オーライってやつかな」

そう零した私に、ドクオはこんなことを言った。

('A`)「…まぁ、海賊とはいえ殺さずに済んだのなら、それでいい」

('A`)「そう簡単に、手は汚しちゃいけねぇよ」


この言葉の、その重さがわかるのは。
その背後にあるものに触れることになるのは。

138 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:21:39 ID:y9jEkigI0




ずっとずっと、後になってからだった。

139 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:21:59 ID:y9jEkigI0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

140 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:22:25 ID:y9jEkigI0


戦いは終わった。

少女は無力さを知ったが、その旅を諦めることは無かった。

無謀な旅でも構わないだろう。

誰も危険なしには勝つ事はできないのだから。

141 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:22:52 ID:y9jEkigI0




.

142 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:23:18 ID:y9jEkigI0
ジャワの海を渡り、赤道を越えて、船は海峡へ至る。

荒ぶる海の洗礼を受けた一行はマラッカへ。


緑青の海を割き、諸侯旗は進む。

143 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:23:52 ID:y9jEkigI0

            第三話 了

144 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:35:51 ID:y9jEkigI0
>>101
ありがとうございます。
海賊はこのころに限らず、交易があるところには必ずいるものではあります。
東南アジア、特にマラッカのあたりは現代でも海賊はいるようです。
ただ、この当時のオランダの商船、フリュートという船が海賊に狙われやすかったというのはあるようです。

145 ◆ubpKHJFedo:2022/05/29(日) 05:37:09 ID:y9jEkigI0
以上になります。
いつも読んでいただきありがとうございます。

146名無しさん:2022/05/29(日) 22:48:02 ID:cMfj3NL.0
乙乙
一人で立ち向かったミセリがほんと凄いわ
ギコさんらの背景も気になるな
>>144
ご解説ありがとう!助かります

147名無しさん:2022/05/29(日) 22:50:11 ID:9Y0Iy8wE0
おつ

148名無しさん:2022/05/30(月) 21:44:28 ID:ZkrUjSR60
めっちゃ面白い!

149名無しさん:2023/01/23(月) 00:47:05 ID:PMSuE1rI0
読み返したけどやっぱり超面白い
続き待ってる

150名無しさん:2023/12/12(火) 16:17:02 ID:SxXHshAU0
トリを忘れてしまったけれど作者です
放置していて申し訳ない……
私事が落ち着いてきたのでそろそろ再開します
ただPCのデータが飛んでしまったので最初から書き直してます、申し訳ない
その分序盤の掘り下げをちゃんとしようと思います
ではまた
ttps://postimg.cc/0K9F51Y4

151名無しさん:2023/12/13(水) 07:03:47 ID:KO0.gpEo0
やったあ!

152 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:36:32 ID:aDFllpmQ0
おひさしぶりです、いろいろ消えてしまったので酉も大筋も変わってます。
それに伴って最初からにはなりますが、よろしくお願いします。

153 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:39:17 ID:aDFllpmQ0
       *

      主よ

  わたしが呼んでいるのに

いつまで沈黙しているのですか

    わたしはあなたへ

 非道な暴虐を訴えているのに

       *

154 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:40:34 ID:aDFllpmQ0

1639年6月、第五次鎖国令発布。
三代将軍徳川家光、ポルトガル船の入港を禁じ、同年10月、紅毛人とその家族をバタヴィアへと追放した。

それから15年。

155 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:41:29 ID:aDFllpmQ0

ミセ*゚ー゚)リRoman Questのようです

序章 前夜

156 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:42:15 ID:aDFllpmQ0

1654


けさはスコールが吹いたらしい。

熱帯のぼんやりとした風が、起き抜けの鼻に潮の香りを運んできます。
通りでは荷役に向かう華人たちのおしゃべりが、まだ薄暗い町の眠りを覚ましていきます。

その声に押されてのそのそと、わたしは寝床から這い出して。
まだ眠りから覚めやらぬ眼をこすりながら、一層暗い部屋の奥へと言葉を投げました。

ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます」

返事はありません。
いつものこと。

ミセ*゚-゚)リ(さいごに話をしたのは、いつだったかな)

奥の部屋に眠っているのは、母さん。

157 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:42:49 ID:aDFllpmQ0

ミセ*゚ー゚)リ(ちいさな頃は、ほんとうに仲が良かったんだけれどなあ)

年の頃が12を数えたころからでしょうか、近づけば、ひどく取り乱すようになりました。
昔みたいに笑ってほしくて、その腰にとりついたときにはそれはもう大変な目にあったのでした。
それからは昼と夜とですれ違いの生活を続け、
ちかごろはわたしに顔すら見せなくなって自室に籠ったままなのです。

ミセ*゚ー゚)リ(お金がたまって、お医者様に診てもらえれば、元気になってくれるかな)

わたしに何か原因があるのかな。
考えつくしてどうにもならずに干からびてしまった問題を、頭の隅に追いやって仕事に出かける準備をします。

戸棚からすっかり固くなってしまったパンを取り出すと、二切れほどをナイフでざくと切り分けて
そのうち一片を鞄に入れ、もう一片はあっという間に平らげてしまいます。

"食事"を終えると、シャツとズボンにブーツを履いて。
革手袋にベストを羽織れば、わたしだっていっぱしの荷役人。
白み始めた天末が曙色に燃える頃、通りの行進に加わっていきます。

ミセ*゚ー゚)リ「いってきます」

太陽はまだ波の向こう。



158 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:43:22 ID:aDFllpmQ0

傷つくことを恐れて

向き合うことから逃げ出した。

遠ざかるほどに伸びていく影は

わたしの罪を教えている。

159名無しさん:2023/12/18(月) 15:43:41 ID:fUaDEwLM0
支援

160 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:43:43 ID:aDFllpmQ0


足元には夜が残って、少しもつれるくらいの時間。
港はそれでも人の波、寄せて返すは荷役の人夫。

わたしは水面の少し下で、積み荷をもっては行ったり来たり、
さかなみたいに働きます。

ミセ;゚-゚)リ(あつい……おもい……)

バタヴィアの港は商業の街、植民の街。
大人の男の人に混じって働くわたしが珍しいのか、積み荷と一緒にやってきた
ムスリムや西洋の商人さんが、足を止めては眺めていきます。

ミセ;´-`)リ(本当にさかなになった気分……)

ぴちぴちはねる市場のさかな。



161 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:44:13 ID:aDFllpmQ0

あくせくと働いていると、時間はあっという間に過ぎているもので。
あたりに響く鐘の音にお昼の時間を知りました。

誰も彼もが手を止めて、木陰や建物の中へと入っていきます。
わたしも人気のない木陰を探すと、鞄の中からお昼のご飯を取り出します。

十字をきって、お祈りをして。

ミセ*゚ヮ゚)リ「いただきます」

僅かのパンでもお昼のご飯はなんだかうれしい気がします。
一度忘れた時なんか、午後の気分はどん底でした。

食べ終わって少しだけ、真昼の静かな時間。
風が揺らす木々の葉音と、打ち付ける波の砕ける音。
張り詰めた袋の縫い目から空気がゆっくり漏れていくような、そんな時間の隙間が好きで、
いつもは体を幹に預けて、眠ったりなんかしているのですが。

「よう、調子はどうだ?」

(,,゚Д゚)「ミセリ」

今日はちょっと違うようです。

162 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:45:04 ID:aDFllpmQ0

ミセ*゚ー゚)リ「あ、ギコさん」

ミセ*-ο-)リ「お久しぶりです」

弛緩していた体を起立させ、ぺこりと頭を下げると彼は苦笑いで片方の手をあげました。

(,,゚Д゚)「いい、いい、楽にしてろ」

座りなおしたわたしの隣に邪魔するぞ、といって座ったこの人の名前はギコ。
母さんをこの島に連れてきた船の船長さんをしていたとかで、小さなころにはよく相手をしてくれていた、
父さんがいないわたしにとっては父親代わりの人。
すごく背の大きなオランダ人で、わたしの上にもう半分わたしが乗っかりそうなくらい。
ここバタヴィアを治める"オランダ東インド会社"の船長さんのうちの一人です。

ミセ*゚ー゚)リ「もうお仕事は落ち着いたんですか?」

(,,゚Д゚)「ああ」

オランダというのはずっとずっと西の方にある国で、ギコさんの故郷があるところなんだそうです。
わたしが働けているのもこの人のおかげで、時々こうして気にかけては様子を見に来てくれるのです。
この間までイングランドという国と戦をしていたとかで毎日どこかに出払っていて、
ここ暫くは挨拶をするだけだったから、お話しするのはほんとうに久しぶりのことです。

163 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:45:42 ID:aDFllpmQ0

(,,-Д-)「負けはしたが……勝ちみてえなもんらしい」

(,,゚Д゚)「ま、これでもう面倒な海上封鎖やらがなくなると思や万々歳だ」

そう言ってはわざとらしく伸びをして、少しの沈黙。
鳥の声と波の音。
何か言いたいけれど、言えないような、そんなむずがゆい空気が、
熱帯の湿気をより不快に感じさせます。

(,,゚Д゚)「――もう、今年で14になったんだっけか」

ミセ*゚ー゚)リ「はい」

(,,゚Д゚)「おまえのおっかさんがここに来たときは腹も大きくなかったのになあ」


(,,-Д-)「母さん、元気か?」

なにを聞きたいのか、なんとなく予想はついていた。
母さんが表にも出なくなってから数か月。
いくら忙しいとはいえ、きっとギコさんの耳にも入ったのだろう。

ミセ*。_。)リ「……」

ミセ*゚-゚)リ「じつは――」

164 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:46:20 ID:aDFllpmQ0


戦争が始まってから、お母さんがおかしくなったこと。
わたしの顔を見るたびに、金切り声をあげては暴れるようになったこと。
そうして、夜に起きだすようになったこと。

最近は、顔すら見せなくなったこと。

ミセ*。_。)リ「わたし、誰にも言えなくて」

扉を開けてしまえば、お母さんはもう、お母さんじゃなくなる気がして。

ミセ*゚-゚)リ「でも、お医者さんなら、なんとかできるかもっておもって、それで」

そこまでを言うと、ギコさんはわたしの頭に手をのせて。

(,,゚Д゚)「わかった、よく頑張ったな」

わしゃわしゃと、ちょっと荒っぽく撫でました。

(,,゚Д゚)「俺がなんとかしてやるから、今日は家に帰らずに、商館で待っていてくれ」

(,,-Д-)「午後の作業は、無理しなくていい、邪魔したな」

申し訳なさそうにそういうと、ギコさんは立ち上がって、通りの方へ消えていきました。
去り際に「すまなかった」とだけ言い残して。

165 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:46:54 ID:aDFllpmQ0


太陽は傾きはじめていた。

166 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:52:09 ID:aDFllpmQ0
今日はこれだけ、短めです。
久しぶりだからどれだけ書けばいいのかわからん……
支援ありがとうございます。
時代背景とか解説あった方が楽しめると思うので話の最後にでもそのうち補足していきます。
では、また。

167 ◆dznhurV8Xo:2023/12/18(月) 15:53:16 ID:aDFllpmQ0
https://postimg.cc/47HTGStS

168名無しさん:2023/12/18(月) 23:23:41 ID:zfyzb06Q0
乙乙
再開めっちゃ嬉しい!

169名無しさん:2023/12/19(火) 06:12:12 ID:EWnGhiJE0


170 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:10:55 ID:q6jnDI6c0


あの人は去ってしまった。

私が罪を背負わせたから。



171 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:11:30 ID:q6jnDI6c0

ああ、どうか、どうかお赦し下さい。

あの日、あなたの苦しみを知りながら、身勝手な愛でつけ入ったこと。

それがあなたを更に苦しめると知っていたのに。

私の手を取るしかないあなたに。
この手を差し伸べたこと。

あなたを愛してしまったこと。

お腹の子は、主より与えられた、私の罪の証なのでしょう。
これからの白屋襤褸の暮らしも、あなたと分かたれてしまったことも。
逃げられぬように、あなたと共に行けないように。
すべて、すべて与えられた私への罰なのでしょう。
しかしそれでも。

ロマネスク様。

あなたのことを愛していることを。
どうか、お赦し下さい。

172 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:12:48 ID:q6jnDI6c0


( ^Д^)「――死因は、衰弱によるものだそうです、"それ"は唯一部屋にあったものだと」

執務室。
小綺麗に片づけられた部屋、その中央に少し不釣り合いに大きなデスク。
部屋の扉と向かい合うかたちで置かれたそこで、扉の前に立つ部下から報告を受けながら
彼が持ってきた継ぎ接ぎの布切れに目をやる。

安価な麻布の切れ端を縫い合わせて一枚の大振りな布に仕立ててあるそれには、墨で誰かにあてた言葉が記してあった。

つまりこれは。

173 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:13:25 ID:q6jnDI6c0

(,,゚Д゚)「……手紙、か?」

( ^Д^)「はい?」

(,,゚Д゚)「ああ、いや、なんでもない」

(,,゚Д゚)「これは、ミセリにはまだ?」

( ^Д^)「知らせていません」

σ(;^Д^)「なんというか、そのォ」

酷かとおもいまして。
そういうと、その部下――プギャーは気恥ずかしそうに頭を掻いた。

174 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:13:59 ID:q6jnDI6c0
(,,-Д-)「そうだろうな」

ミセリの母親――ペニサスは、手遅れだった。
精神を病んでいただけならまだ助かりようがあっただろうが、栄養失調に、梅毒を患っていた。
直接的な死因ではないが、体力を奪うには十分だったようだ。
進行具合から見れば、発症時期は2年ほど前らしい。

(,,゚Д゚)(2年前……戦争か)

確か、彼女が国を追われたきっかけも戦争だったか。

(,,-Д-)(何か一言でも相談してくれていれば……)

いや、自分が少しでも気にかけてやれていれば。

175 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:14:47 ID:q6jnDI6c0

母子二人で生きていくことなど、最初から無理があったのだ。
分かっていたが、同じく追放された子女たちは次第にバタヴィアの商人たちと籍を入れては、ここでの生活に腰を落ち着けていた。
ここは植民都市。
女性の需要はいくらでもあったから、ペニサスもいずれは落ち着いてくれると楽観視していた。

( ^Д^)「ですが、奇妙ですね」

(,,゚Д゚)「何がだ?」

いつの間にか手元の"手紙"を覗き込んでいたプギャーが、顎に手を当て何やら考えるそぶりをしていう。

( ^Д^)「この手紙の内容です」

そうして指で手紙を示しながら、俺は改革派教会ですからカトリックについては詳しくありませんが、と前置きして続ける。

( ^Д^)「ペニサスさんは洗礼を受けていましたから、子供をもうけるだとか、ましてや愛だの結婚だのは何ら問題はないはずです」

( ^Д^)「もしこの男とのあいだに個人的な何かがあったしても、主より与えられた罰というのは、なにか大げさすぎませんか?」

176 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:15:44 ID:q6jnDI6c0

確かにそうだ。
乱心していたとはいえ、ミセリに対するペニサスの態度も何か奇妙に思える。

(,,゚Д゚)「原因があるはずだ……おそらくは、手紙の宛先」

(,,゚Д゚)「この男の身分か、はたまた出自か……」

なにも珍しい話ではない。
本国から遠く離れたこんなところに来るのは、よほどの馬鹿か訳ありだ。
しかし。

( ^Д^)「ロマネスク……そんな奴いましたかね?」

(,,゚Д゚)「聞いたことがないな」

宛てられた名前は全く耳覚えのないものだった。
いくら数が多いとはいえ、同じ会社の人間で、たったひとつの都市で、全く名前を聞かないということはあり得ない。

(,,゚Д゚)(時期を考えてもラテン商人か)

我らがVOC(オランダ東インド会社)が日本の交流を独占するになったのは追放の後から。
それも幕府による厳しい統制のもとに置かれているため、可能性としてはまずないだろう。
もちろんそれ以前のオランダ商館員の妻子もいるにはいるのだが、情報は把握している上に、
ペニサスの出身地よりもっと北方の島に拠点を置いていた筈だ。
となればポルトガルやスペインといった国の商人になる訳だが。

(,,;-Д-)(それでも問題はないんだよな……)

なにか、こちらの常識の裏側にあるような可能性の一つを見落としているのだろう。

177 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:16:35 ID:q6jnDI6c0

(,,゚Д゚)(どうやら一度調べた方が良さそうだな)

(,,゚Д゚)「プギャー」

( ^Д^)「はい?」

(,,゚Д゚)「俺は当時の記録から男の情報を辿ってみるから、お前はミセリの様子を見てきてくれ」

(,,゚Д゚)「あと、手紙だが……あの子に読まれないうちに、焼いて捨ててくれ」

(;^Д^)「え、いいんですか?」

プギャーが驚きを隠さずに聞き返してきた。
遺品でもあるこの手紙を勝手に処分してしまうのは、気が引けるとか、そういう次元の問題ですらないだろう。

(,,-Д-)「……あぁ、いい」

だが、母親が一人の女として書いたこの手紙は、少女にとって呪いにしかならないはずだ。

俺の返答を聞いても尚、少し困ったような表情を顔に張り付けたままのプギャーは
「了解」とだけ口にすると、手紙を持って執務室を出ていった。



178 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:21:17 ID:q6jnDI6c0
少し口淋しい気がするので次回は多めに投下してみようと思います
小分けにしてる現状とどっちが見やすいかわからんorz

179 ◆dznhurV8Xo:2023/12/28(木) 00:32:54 ID:q6jnDI6c0
気になるところがあれば話のネタばれにならない範囲で答えます

180名無しさん:2023/12/28(木) 01:48:17 ID:.OoqYtk20
乙!
手紙の内容は初かな。意味深でドキドキする。

1話分の内容を小出しにされているような印象は受けるけど、エピソードの切りのいいところまで投下されているから、読みにくいとは感じなかった。

181名無しさん:2023/12/28(木) 17:40:49 ID:FQM9MVRc0
乙です

182 ◆dznhurV8Xo:2023/12/30(土) 02:37:41 ID:LhrIVKU60
>>180㌧クス
人物の視点がころころ変わると読みづらいかと思って切っていたんですが、まとめて読むと変わらないことに気が付いたので次はまとめて投下します……

183 ◆dznhurV8Xo:2023/12/30(土) 02:40:08 ID:LhrIVKU60
オマケ
https://i.postimg.cc/FsKtkkcY/image.png

184名無しさん:2023/12/31(日) 21:33:49 ID:jLIQ21mE0
カコイイ!
よく見るとツナギみたいな服?
ギコさんはやっぱりムキムキっぽいなー


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