[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
( ・∀・)救出の魔法使いたちのようです(´・_ゝ・`)
1
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/03/14(月) 20:00:43 ID:YCcuTBs.0
(´・_ゝ・`)こちら2スレ目です
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1636275535/l30
(´・_ゝ・`)前スレはこちらです
288
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:38:23 ID:aI/OghIA0
ラストシーンだ。
処刑される直前に、衛兵に名前を呼ばれた劇作家はそれを否定し名乗りを上げた。
それは彼が紡いだ物語の主役の名だった。
囚人達も同様に各々の役を名乗り、次々に己が人生の彩りを高らかに歌った。
屈しない人々の歌だった。
そして彼らの演劇は盛大に幕を下ろした。
私達は喝采で彼らを見送った。
舞台上で躍っていた人間は全て死んだ、三流の悲劇。自らの運命に納得がいかない狂人達が、世界に握りつぶされただけの話。
結果だけ見ればそういうつまらない評価になる。けれど不思議と後味の悪さはなかった。
彼らは最後まで表現者として輝き、生きていた。それだけのことだ。
一人の役者に向けて黄色い声が上がる。
後で知った事だが、彼も劇中の囚人と同じように魔抜けの境遇らしい。
彼は声援に反応を示さなかった。それどころか他の役者もどれだけ褒められても皆同じようにしていた。
そこには誇りと彼らの生への敬意があった。
私は劇作家役の俳優へ、劇中の名前で「ありがとう」と感謝の叫びを贈った。
遠く離れた場所に立つ私に、彼は手を振り返してくれた。
隣に立つ、私をここへ連れてきた男を見る。
とてもにこやかな笑顔だった。
その時私はきっと年相応の、いやもっと幼い少年のように、自由に笑えていたのだ。
そこで目を覚ました。
289
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:39:33 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)(…時間の流れもわからない)
(´・_ゝ・`)(……今更か。体感的には3ヶ月ほど寝ていたような気さえするな)
ゆっくりとデミタスは目を開き、軽く身体をほぐした。頬を伝わる風の冷たさだけは以前居た場所と変わらない。
振り返るとどことなく焦げた匂いがする。
(´・_ゝ・`)(星の光が届くということは地下都市の類ではなさそうだが)
(;´・_ゝ・`)……っ
ぎりりと走る痛みに額を押さえる。原因は自ずと理解できた。
今の自分の身体には数多の高等魔法が全て記憶されている。
言ってみれば宝の持ち腐れ、不必要な荷物を山程背負ったまま坂道を登るようなもの、負荷もかかって当然だ。
魔法術式。
今まで自分が過ごしてきた居場所を守り、残された者達で新しい道を切り拓くための力。
己のテリトリーが壊れる前に、誰かに壊させてしまう前に、一人でモララーとまともに戦うための策。
目の前に立ったそれをモーラ・モラール・マタリウスではなくただの化け物と認めた時、それは脆くも崩れ去り今や頭痛の種と化している。
(´ -_ゝ-`)……上手くいかないものだな
どうにもならないことへ、「どうにかできたのではないか」と呟くのは趣味ではない。
静かに横たわる闇を睨んだ。
290
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:40:38 ID:aI/OghIA0
こう放り出されてみると、己の身以外何もない。
軽やかに先を行く影も、ぼやきながら自分のすぐ後ろに続く影も、微笑みながら朗らかについてくる影も、先へ先へ手を引こうとする小さな影も、ここには居ない。
今、己を導く者の名があるとしたら、それは───
(´・_ゝ・`)……あの野郎
誰にともなく咳払いをする。
(´・_ゝ・`)はぁ……やめたらどうだ、デミタス・モリオカウル。未練がましい
だが、この状況に対して何かしらの鍵があるとするならそれはモララーにある。
それを頼りに、今は歩き出すほかない。当てずっぽうで此処に飛ばされただけだとしたら、それこそどうにもならない。
光る奇妙な文字の書かれた看板を見て、そもそも言語が自分の居た場所とは違う事を理解する。これでは情報をかき集めるのも難航するだろうな、とどこか他人事で思う。
(´・_ゝ・`)ドクオ、ペニサスさん、ブームくん……彼らは無事でいるだろうか……
291
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:42:29 ID:aI/OghIA0
('A`)残響の魔法使いたちのようです
その6
『モラえもん デミ太のフルストレス時空伝』
292
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:43:59 ID:aI/OghIA0
しばらく彷徨った後、街の通りらしき場所に出た。
誰も彼も、雪のように真っ白い服をしている。自分の服装は少し目立つかもしれないが、溶け込めないほど浮いているわけではなさそうだ。ただ、そこらの悪意に自分が鈍いだけかもしれない。
ギャオ~~。
(´・_ゝ・`)・・・・・・
間抜けな音の場所は自分の腹だ。身体は性根よりはいくらか正直に出来ているらしい。
魔物の遠吠えにも似ていて、自分にこんな音が出せるのかとデミタスはつい視線を落とした。
「縺薙l縲√≠縺偵k!」
視線の先で少女が自分を見上げ、パンを差し出している。
やはり自分の知っている言語とは違うが、「これをあげる」と言いたいのはわかった。
(´・_ゝ・`)ありがとうございます、とても助かりました…
軽く屈んで目線を合わせ、一度頭を下げてからありがたく頂戴する。
一口かじってみると、少女は未だこちらをぼんやりと見上げたままだ。
訝しむような、そんな目をしている。
(´・_ゝ・`)(タダで、とはいかないものな)
ごそごそと身を探ってみると、飴玉を一つ見つけた。
いつ貰った物かは覚えていないが、誰から貰ったかは覚えている。
4番隊のペニサ・スイートゥ。
ポケットに放り込んで結局気にもしないまま、見知らぬ世界まで連れてきてしまった。
293
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:45:30 ID:aI/OghIA0
飴玉を差し出すと少女はうっすらと笑い、何処かへと駆け出していく。
(´・_ゝ・`)・・・・・・
(´・_ゝ・`)まあ、別にお礼が欲しいわけじゃないんですけど……
ぽつねんと立っていると、老婆がデミタスの方に寄ってきて嬉しそうに何かを語りかけてきた。
手に持っている薬物らしきものを自分に渡そうとしているのだろう。その周りで、何人かの男女が自分へ注目の視線を送っている。
「次は私だ」と。
それほど自分は飢えたみすぼらしい者に見えるのだろうか?それとも施しを返してくれる存在として見ているのか。
期待をされても価値のあるものなどもう無い。
こう囲まれると少し厄介だ。
294
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:46:56 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)申し訳ありませんが、私は貴方達の言葉がわからないのです
無駄かもしれないが、一言彼らに告げておいた。一礼し自分を指差し、相手を指差し、首を振るジェスチャーをつけたまではよい。
デミタスは予想していなかった反応に少しぎょっとした。
老婆が嬉しそうに目を見開いたのだ。
懐から小さなペンダントを出し、少し弄ると自分の手に無理やり押し付ける。
「首にかけろ」というジェスチャー。
戸惑いながら身につけると、周囲の声が変わった。
先程まで意味のわからなかった彼らの言葉が、はっきりと理解できる。
「どうです?これで聞こえるでしょう」
(´・_ゝ・`)!はい、聞こえます
「いやあ、それはよかった…」
295
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:48:45 ID:aI/OghIA0
「良かったなあ、お兄さん!」
(´・_ゝ・`)ああ、ハイ……ありがとうございます……?
「旅行者かい?俺が案内をするよ!」
(´・_ゝ・`)あの、そもそも此処は
「今夜の寝床は決めた?」
(´・_ゝ・`)まだですが…
朗らかな声が四方八方から聞こえる。
自分の声と、相手の声を翻訳する力があるらしい。
しばらくその場に立って一人一人返事し終わると、急に辺りが静まり返った。
人々の笑顔が急激に温度を失っていき、代わりに視線がある一点を焼き尽くすかのように集まる。
薄い皮の下に透ける敵意。
光のない、ただ異物を見る瞳。あからさまに間違った行動をした者を見る目。
当惑していると、ずっと静かに黙り込んでいた老婆が憤怒の形相で叫んだ。
「お前の“優しさ”はどうしたあ!」
.
296
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:50:18 ID:aI/OghIA0
「お前の優しさはどうした」
「お前の優しさはどうした」
口々に責め立てる声、冷たく重いものもあれば、怒りに満ちて今にも襲いかからんとしているのも居る。
市民の一人が妙な端末を操作すると、けたたましい警報が鳴り響く。
身に纏った風で無理やりに人々の中を押し通りその場を逃げ出したデミタスの後ろで、騒ぎ立てる声と警報に混じって異音──機械の音が空を裂いた。
(;´・_ゝ・`)!
デミタスは振り返り空を行く金色の装甲に覆われた機械人形らしきものを見た。
彼らがまたがるその乗り物は、硬い鋼に覆われていていくつかの火砲を装備している。だが魔竜のように幅を取る翼はない。むしろ箒のように直線的でシンプルなフォルムだ。
あまり魔科学の知識がないデミタスも思わず言葉を失ってしまうほどに、その乗り物は奇妙で神秘的で、かつおぞましい存在だった。
彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)
『?ʕ???m?F』『?C???M?????[??』『?s??ID?m?F?ł???』
機械人形達の不自然な発音はデミタスが所持しているペンダントの翻訳にかからない。
通報を確認し駆けつけた彼らの瞳に宿るのはイレギュラーを徹底的に排除しようとする敵意だ。
デミタスもそれを理解していたが、一度振り返って見た彼らの容姿はデミタスの焦りを一瞬だけ和らげた。
(;´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)(………マーマン族?)
その機械人形達は実際とても半魚人に似ていた。
297
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:51:24 ID:aI/OghIA0
(;´・_ゝ・`)(風魔法を使えば、加速して振り切れる…!)
彡(゚)(゚)『謗帝勁縺吶k繝ウ繧エ繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ??シ?シ?シ』
次々に発砲音が背後で響く。相手が何を言っているかはわからないが、冷たい敵意の不愉快さは伝わってくる。
咄嵯に弾を避けそのまま跳躍したデミタスは魔法靴で夜の空を駆け、建物の屋上を跳び、空を滑るように飛ぶ。
(;´・_ゝ・`)(この調子で風を纏ったまま動いていれば……)
(;´ -_ゝ-`)(死ぬな……!)
肉体は一切悲鳴を上げずひたすらに動き続ける。弱音を吐くのは心と魔力だけだ。
絶え間ない連続射撃、反撃を許さず嵐のように襲う致命の弾丸。風の防壁がこれを弾くが魔力が切れた瞬間に自分の身体は蜂の巣だ。
執念深く追ってくる敵は三機、それもいずれ数が増えていくだろう。
建物の屋上を飛び移り、また一歩踏み出した瞬間、背後で爆発音が轟いた。
あの乗り物の火砲だ!
逃げなくてはならない。
空へ、また空へ、焼かれる前に一歩でも早く!
(;´・_ゝ・`)(──いや、策はある。奴らをまとめて葬る策は…!)
298
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:52:52 ID:aI/OghIA0
彡(゚)(゚)『謗帝p勁』
回り込んでデミタスの前に現れた機械人形に笑みを返してデミタスは垂直に降下した。反射的に機械人形達もそれを追って飛行する。
(#´・_ゝ・`)そうだ、追って来い……!こちら以上のスピードを出してくれても構わない!私は………!
(#´・_ゝ・`)影に飛び込むまでだ!
(#´・_ゝ・`)魔法術式でぇーーっ!
凄まじい加速をつけて眼前に広がる地面と衝突する直前に、デミタスの姿が一瞬にして闇に溶けた。闇魔法シャドーダイブ!方向を変えられずそのまま追手は全て地面に激突し、爆発と共に砕け散る!
ゆらめく炎を背に追跡者の死亡を確認しデミタスの身体が再び影へ沈んでいく。
最後に左手だけを地面から出し、無言で中指を立ててから、トプンと音を立てて。
299
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:54:17 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)(センス無い名前の魔法だが使い勝手が良い…ただ影に逃げ込んだり、飛び込み先の指定は出来ても影に溶けたまま移動は出来ないのは不便)
(´・_ゝ・`)(特殊属性を持たない魔法使いでも使えるように擬似的に再現されたもの……本物の闇の魔法使いのように自由自在とはいかないか)
(´・_ゝ・`)(小刻みに睡眠出来る安全地帯があるのはありがたいが……あまり長居もできないな)
「お兄さん、随分と薄汚れてるねえ…それによく見りゃ寒そうな格好をしてる。スープでもどうだ」
(´・_ゝ・`)平気です、温かい心の持ち主ですので。お気遣いなく
(´・_ゝ・`)……お返し出来るほどの優しさも持ち合わせていませんから
デミタスは名も知らぬ浮浪者にぽつりと呟いた。薄汚れているのは貴方達ではないのか。
そんな言葉が浮かんだが、口に出すのも億劫なので浮かべたままにしておこう。
白い服装の人々、いっそわざとらしいほどの欺瞞に満ちた不自然なデザインの建物に包まれた街。
不自然な気遣い、不自然な悪意、不自然な金色、不自然な光。
デミタスはなるべく暗い夜空を見ることにしていた。
今日は月が見えないらしい。穢れもとっ散らかったものもなく、広々としている。
しかし眺めれば眺めるほど、自分の身体から湧き出た絵の具がどろりと渦巻き景色を雑然としたものに変えていく。
そこに悪い感情はなかった。
300
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:55:17 ID:aI/OghIA0
('、`*川『雨やーばい。超土砂降りだよ、ドッシャドシャ』
(´・_ゝ・`)『雨の降り具合を「ドッシャドシャ」って言う人初めて見ました』
('A`)『俺の人生みたい』
(´・_ゝ・`)『雨ごときでそんな重く考えないでください』
('A`)『ヤなもんは嫌だ。やる気出ねえし俺もう横になっちゃうもんねー』
('、`*川『右におんなしー』
(´・_ゝ・`)『モララー様』
( ・∀・)『いいんじゃない』
(´・_ゝ・`)『……たかが空の機嫌がそんなに心に作用するものなんですか?』
( ・∀・)『まあね。僕は雨も好きだけれど、晴れの方を人は好むだろう。欠点も多いけど、その分得も多いから』
( ・∀・)『でも曇りはキライだなあ』
(´・_ゝ・`)『そんなもんですか』
( ・∀・)『そんなもんだよ。……空はいいヤツだよ、デミさん』
(´・_ゝ・`)『友達みたいな口ぶりですね』
( ・∀・)『ふふっ…みたいな、というかそのものさ。……僕の友達は大なり小なり、皆空に近い。君たちもね』
( ・∀・)『自分が空っぽの時に見上げると満たしてくれるし、心がごちゃつけば空っぽにしてくる…空は天邪鬼なやつだけど、そこが好きなんだ』
301
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:55:58 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)『……私には分からない感性です。ところでブームくんは?』
('A`)『何かスキップしながら外出てった』
( ・∀・)『ひとしきり遊んだらそのうち戻ってくるよ。みずもしたたるいいおとこです、って調子で』
('A`)『あっちもあっちで感性独特だよな……』
( ・∀・)『冷えて帰ってくるだろうし、シチューでも作って待ってようかな。さてと』
(´・_ゝ・`)『やめてください』
('、`*川『マジやめたげて』
('A`)『俺より料理の腕酷い癖にやる気出すんじゃねェ』
( ・∀・)『おおう 袋叩き』
302
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:57:19 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)空、か……
(´・_ゝ・`)(この場合私は空っぽな人間と責務やしがらみを抱えた人間……どちらになるのだろうか)
ぼんやりと見つめていた暗く色とりどりの空を、白が穢した。
少しばかりきらびやかな服を着て、わざとらしい神聖さを狙った滑稽な羽飾りをつけた巨大な男の姿が映し出されている。立体映像だ。
( ゚¥゚)『我が愛すべき民よ、心優しき民達よ。私は君たちの主ニール・セモナーである。侵入者が国境ゲートを破壊した。しかし怯えることはない。武装兵士Y-93型が至急対処する。正義は絶対に屈しない』
( ゚¥゚)『私はこの国のあらゆるものを守りたい……どんな小さな生命でも』
( ゚¥゚)『侵入者……もとい、来訪者へ。これを聞いているならば速やかに投降したまえ。その瞬間我が国は、我が民は君を家族として歓迎しよう』
( ゚¥゚)『それでも抵抗の道を選ぶならば、私は君達を暖かな眠りへと誘うだろう。せめてもの優しさだ』
(´・_ゝ・`)(何故だろう……気取ったクドい言い回しの人間は今まで多く見てきているのに……)
(´・_ゝ・`)(なんだか異様にカンに障る)
(´・_ゝ・`)国境ゲート……
そんなもの壊したかな、という感想がまず最初に来るのは蛮族への第一歩だ。派手に逃げ回っていたものだから、周りの被害などさっぱり考えていなかった。
多分心当たりはない。ならばもう一人、誰かこのろくでもない国の外の人間が反抗心を片手にこの世界を訪れたのだろう。きっとそうに違いない。
303
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 06:58:29 ID:aI/OghIA0
(´ -_ゝ-`)・・・・・・
デミタスは立ち上がる。
確かに空はほんの少し、心の疲れから自分を救ってくれたかもしれない。しかし、心から好きになれたというわけではなかった。
(´・_ゝ・`)……遠くで余裕そうにふんぞり返りやがって
ずっと見上げる者ではいられない。
救われたままでは終われない。
ぼんやりと浮かんだのは流れ星ではない。戦火の光と、空を行く鉄の塊。
あの場所へ追いつけば、道は拓ける。
デミタスは空へ手を伸ばし、雲を掴むような動作をした。
雲間に隠れた真実があるならば、どんなに遠くにあっても必ず見つけてやる。
その月光を曝け出させてやる。
天使の翼など持ち合わせていない。それでよいのだ。
前へ踏み出し、舞台へ飛び出すための足がある。空へ届けと己の背を押す風がある。
諦めの悪さがソウサク人の持ち味だと誰かが言った。血がそうさせているのか?
今なら違うと答えられる。
これは己の力だ。己のエゴだ。デミタス・モリオカウルという一人の役者のアドリブに過ぎない。
デミタスは奈落から舞台へ舞い上がった。
304
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:00:58 ID:aI/OghIA0
街の上空を藍色の飛行機が舞う。
前後に座席が備え付けられているが、乗員は一人だ。
(゚A゚* )また強い魔力の反応が出た…こっち近づいてるな?っし、ツキがこっちに向いてきたで……!
(゚A゚* )それもまずこのカトンボだかマーマンだかを蹴散らしてからやけどな!
彼女の名はノー。頭には人の耳と獣の耳がついている。
操縦桿を強く握り、機銃から弾をでたらめにばらまいていく。
(゚A゚* )ひとォつ!ふたァーーつ!最後に……!
彡(゚)(゚)『縺サ縺ェ縲√∪縺溪?ヲ窶ヲ』
(゚A゚;* )チッ……避けるなァ!!ったく!!コラァ!!空気読まんかいこんボケが!!
兵士の一人が乗機を捨て跳躍した。
主翼へと着地した兵士を必死で振り落とそうと加速するが、抵抗むなしく腕から露出した火器がノーに向けられた。
前方から新たに4機の追手が迫る。
これまでか、と目を瞑った時、激しい突風が彼女らを揺さぶった。
藍色の飛行機はバランスを崩し、後方へ投げ出された兵士達を高速回転する無数の風の刃が待ち構えていた。
兵士達の全身を粉々に切り刻み雪のように夜空へと散らせていく。
ノーは宙に浮かぶ魔法使いの顔を見て、まず叫んだ。
(゚A゚;* )うっっっそやろ!!!!
(´・_ゝ・`)どうも
(゚A゚;* )思ったよりとっぽい顔してるんやな魔法使いって!!
(´・_ゝ・`)……何を期待していたか知りませんが、多分私の姿が貴方の現実です
305
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:02:32 ID:aI/OghIA0
(゚A゚* )だぁぁ、クソッタレ!ここまで来て片道なんか勘弁やっちゅうに【エーエー】めポンコツつかましおってから!
一度調子を落とした後、一気に機能不全に陥った飛行機はそのまま墜落してしまった。
デミタスは彼女の独特な言葉遣いに目を丸くしていた。
(^A^* )まーなにはともあれアンタが暴れてくれたおかげで助かった!いやホンマにおおきになありがとう!
(´・_ゝ・`)どういたしまして
(´・_ゝ・`)(感謝なんてこんなもので丁度良いんだ)
(゚A゚* )しっかしアレやな、ノッポさんやんな自分。身体つきも良えし匂いも文句無い。アテに出来そうや
(´・_ゝ・`)まあやたら大きい方と自覚はありますが。それと質問があります
(゚A゚* )奇遇やな。ウチもアンタに聞きたいことあってん、はいせーのっ
「ソウサク国って知っとるか?「知ってますか?」
306
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:03:48 ID:aI/OghIA0
デミタスは驚きに目を見開いた。
ノーは「っしゃ」とガッツポーズを取る。
(゚A゚* )おう、自分……この時代の人間やないな?
(´・_ゝ・`)ええ。ある程度事情を知ってそうで今とても安心していますよ。それで…ここはどこなんですか?ソウサク国はどうなってます?
(゚A゚* )ここはダット。でぇ、アンタの知りたがっとるソウサク国やけど
(゚A゚* )とっくに滅びとる……7000万年前にな
(´・_ゝ・`)……ありがとうございます。まあ、そんな年数出されたらイマイチショックを受けないというか、「そりゃそうだ」というか。…割り切れるだけ良かった
(゚A゚* )まァ、ウチがアンタの立場でもそう言うやろな。けどそれで終わりじゃあウチ正直めっちゃ困んねん
(´・_ゝ・`)困る?
(゚A゚* )【エーエー】が言うとったんや!『シベリアの太陽』『時の結晶』『神薙の大太刀』!奇跡をもたらす力、魔法文明の三大秘宝!
m9(゚A゚* )その鍵はソウサク国の魔法使いにあり!っちゅうてな!
(゚A゚* )ソウサク国はこの時代にはもうあらへん。そやけど、確かに今もソウサク魔法局は砂の嵐の中に存在してんねや……時の結晶もきっとそこにある!
(´・_ゝ・`)
307
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:04:19 ID:aI/OghIA0
(^A^* )いやー正直ホッとしたわ!魔力の反応ポツーン出たの見てあちこち飛び回っても出会うのは出来損ないばかりやったしな
(^A^* )な?ここまで教えたんや。流石になんか知っとるやろ?なあ?
(´・_ゝ・`)
(´^_ゝ^`)……ふ、ふふ、あははははははは!はあそうですか、三大秘宝!時の結晶!アハハハハ!ハはハハハはハハはハハ!そうですかそうですか!
(´・_ゝ・`)ごめんなさい全部初耳なんですけど
(゚A゚* )うおおびっくりした…えらい情緒不安定やな自分
(´・_ゝ・`)ストレスがものすごい勢いで蓄積されてきてますね。危険域です今
308
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:05:29 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)はぁ…そうだ、一つ思い出しましたよ。そのめちゃくちゃな口調……ワーウルフ族でしょう?
(^A^* )きゃははは!ご明察!そや、自己紹介もまだやったな!
(゚A゚* )お控えなすって、あ、お控えなすって!
(´・_ゝ・`)……オヒケエナスッテ?
(゚A゚* )早速のお控えありがとうさん、手前生国はオオカミの里にて産湯を使い、姓名の儀マノン・ノー・ロームスと発します!
(´・_ゝ・`)あー……それですよ、それ。魔物の世界からも人間の世界からも爪弾きで……人間の真似事出来てるつもりの色々混ざった妙な言語を使う種族の話。絵本のとぼけた敵役に引っ張りだこでしたね
(´・_ゝ・`)(……でも、彼らは遠い昔の存在だったはずだ。魔物だけでなくソウサク、シベリア、ヴィップ……3カ国からも迫害され、絶滅させられたと)
(^A^* )まァそこまで知ってくれてるなら話は早いな、気軽にノーちゃんで頼むわ。んでアンタの名前は?
(´・_ゝ・`)デミタス。ソウサク魔法局4番隊副官……デミタス・モリオカウルです
(^A^* )きゃはははは!なんや屠殺される前の豚みてぇな名前しおってから!
(´・_ゝ・`)あーそういう目をしてるとよく言われま……えっ名前 えっ
309
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:06:46 ID:aI/OghIA0
(゚A゚* )ほんでな、最初アンタの魔力の反応は感知してたねんけどこれがまーパチパチ点いたり消えたりして面倒臭くてな。相棒乗ってダーと行ってバーと確保してドーッ次行こ思てんのに
(´・_ゝ・`)落ちましたね乗り物
(゚A゚* )そやねん。こんなけったいな所すぐトンズラこきたい所なんやけどな、いつの間にかこんのテッカテカした連中がぎょうさん囲んでらっしゃるやろ
彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)
(゚A゚* )まァ逃げ道ないわな。そこでウチは考えたわけですよ、魔法使いサンにさっきの腕前をお見せしてもらいたいナ〜〜って……
(´・_ゝ・`)イヤです
(゚A゚* )イヤか〜〜そっかイヤかあ
(゚A゚;* )イヤ!?
(´・_ゝ・`)ええ、これでも前置きで結構やりあって消耗してるんですよ。今もちょっと頭痛いですし。貴方こそ一応は魔物でしょう?頑張ってください
(゚A゚* )……アンタな、ここで戦ってケリをつけなきゃ永遠に追い回されるで?
(´・_ゝ・`)ケリ、つくんですか?
(゚A゚* )あ?
310
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:08:09 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)つくならやりますよ。けど別にここで暴れたってどうにかなる、ってわけでもないですからねえ。居るのは雑兵、元を絶たなきゃ何も変わりませんよ
(´^_ゝ^`)だったらいっそ捕まりましょうか
両手を上げたデミタスは、銃を構えて周りを囲む兵士達の前に出た。
懐からハンカチを取り出し、軽く振って見せる。
(゚A゚;* )ちょっ待っ、何さらしてけつかんどんねんこのノッポ!そんなんやらかしたらネズミ袋!ネズミ袋やぞ!
(´・_ゝ・`)なんですかそれ。……白旗が世界共通だとありがたいんですけどねえ。この国妙に白に拘ってるきらいがありますし
(´・_ゝ・`)見てるんでしょ?我々は投降します。礼節と優しさを持って迎えていただきたい
僅かな沈黙の後、兵士達の身体からはっきりとした男の声が聞こえてきた。
『では、ご案内させていただこうか』
311
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:09:06 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)(“家族”に手錠で歓迎する国か)
迎えに来た地上車はデミタスにとって初めて見る乗り物であったが、既に大した感動はなかった。
(゚A゚* )ったくイヤやなあ運転荒すぎるでどこが歓迎やねんクソァ!
(´・_ゝ・`)ならわざわざ揃って捕縛されなくとも抵抗するなり逃げるなりすれば良かったじゃないですか。付き合う義務も無いし
(゚A゚* )アホ。命の恩人ほなサイナラって見捨てるほど性根腐っとらん
(^A゚* )それにウチが居ないとノッポさん、多少困るやろ?
(´・_ゝ・`)……そうですね。お互い今後に多少関わってきますし
(^A^* )なー!こんなクソッタレな所に一人なんざごめんやて!
(゚A゚* )……どうせ後でドンパチやるんやからな?せやろ?
(´・_ゝ・`)わかってるなら静かにしててください
312
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:10:43 ID:aI/OghIA0
まず捕まってみてあの天使のなり損ないと表現したい羽飾りの男に会い、情報を集めてから自らの『優しさ』をぶつけ、二人が乗っても苦労しない空飛ぶ大きな乗り物を奪取する。
それがデミタスの思惑だった。
だが、こうして地上車に揺られている間にもデミタスはこんな連中に自分の運命の一部を委ねている事に筆舌に尽くし難い不快感を感じていた。
一度気に入らないという感情を持つとそれはどんどん肥大化していく。
ノーの抱く嫌悪感はもっともだと思う。
(´・_ゝ・`)(7000万年後の科学力だ。大きな空飛ぶ乗り物くらい期待したいものだが……無かった場合どうするべきか?木でもあれば箒を作れるが……)
落ち着いて眺望してみても、緑は一つもない。やかましく光るだけしか能がなく、温かい人の営みの色彩は乏しいと言わざるを得ない。
だんだん景色にすら腹が立ってきている自分がどこか可笑しい。今なら「不機嫌」というタイトルの絵のモデルとなれそうだ。
313
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:11:28 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)……ところで貴方は手に入れてどうするんです?三大秘宝。世界の主にでもなりますか?
(゚A゚* )お前も立体映像に出てきたヤツ見たやろ?こんな辺鄙な場所統べるだけでもあんなおもんない顔になるんや。いるかそんなもん
(´・_ゝ・`)それはそう
(゚A゚* )ウチは朝日が欲しい。それだけや
(´・_ゝ・`)……素敵な願いですね
(^A^* )きゃははは!コレ、洒落とちゃうかんな!
(´・_ゝ・`)【エーエー】なる存在については?
(゚A゚* )……ウチの故郷オオカミっちゅうんやけどな、そこに遺跡があってな。そいつよう知らんけどその中にあのボロ飛行機を置いてったんや
(゚A゚* )飛行機には三大秘宝についてのメッセージが残されてた。声以外はな〜んもわからへん、残念!
(´・_ゝ・`)なるほど……誰かのイニシャルですかね
(゚A゚* )心当たりあるか?
(´・_ゝ・`)いえ……
314
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:13:08 ID:aI/OghIA0
地上車が停まった所には塔が不遜にそびえていた。不遜に、というのはあくまでデミタスの主観である。
デミタスが通された部屋は案の定の色彩で、ここまでくると彼の黒い目に興味の光は灯らなかった。もっとも、同じような目をした人間はこの室内に多く居た。
彼らは病衣のような服を着て、膝を抱えてこちらを見ている。
囚人だ。
(゚A゚* )いやーまったく殺風景でステキなインテリアやな!心が泥水で洗われるわ
(´・_ゝ・`)ルールがあれば当然反する者もいる…か。ここで待っていろと。ふざけてますね
(゚A゚* )チッ。どいつもこいつも辛気臭いツラしてけったいなやっちゃ……待合室にしちゃ狭すぎるで
(´・_ゝ・`)少しの辛抱でしょう。どうせまたすぐに迎えは来ますし……
デミタスはそう口にすると、周りの囚人の顔を見比べた。無垢な幼児のような顔をして涎を垂らし何も喋らない者。怯え、警戒心、諦念を抱く者。
彼らの差異の背後に「洗脳」という言葉が強く自己主張する。
ここにいる囚人の多くは、人であった事を忘れて何かの歯車にされているのだ。辛うじて人の姿を保てている者も、魂が擦り切れかけている。
315
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:14:03 ID:aI/OghIA0
この醜悪な現実を隠さないということは、半ば向こうもこちらの思惑を分かっているのだろう。
ただ、それは敵が自分達を侮っている証拠でもある。
「どうだ、我々に逆らう者の未来はこうなるのだぞ。無論君達もだ」そう高らかに見せつける。
それが通用するのは、力の差に敗北感を植え付けられた者だけだ。
相手は所詮「この数を相手に戦い続けても無駄だ」と早々に諦めた人間だと、戦意があったとしてもたかが二人だと、そう舐め腐っている。
ノーがこちらを見る。それにこくりと頷く。
そうだ、せいぜい余裕をこいているがいい。
ニール・セモナー。
奴は戦いを知らない。
316
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:14:56 ID:aI/OghIA0
デミタスとノーが呼び付けられたのはそれから数分後であった。
兵士はもう一人囚人を伴って現れた。機械の腕が、壊れた玩具を放り投げるように囚人の身体を捨てて行く。
誰もが無抵抗で無関心だった。
ノーとデミタス以外は。
ノーは自らの膂力で、デミタスは風で手錠を破壊して立ち上がった。
一発の銃声が兵士の頭を弾き飛ばす。烈風が敵を切り裂く。
ゴトン、と落ちた頭部を踏み砕いてノーは太い舌打ちの音をたてた。
(゚A゚* )ほないこか
(´・_ゝ・`)あーあーもー、すぐ手が出るんですから。行き先どうするんですか
(゚A゚* )ハッ、簡単簡単!諺くらいは知っとるやろ?
(´・_ゝ・`)「「馬鹿と卑しい豚は高い所に登る」」(゚A゚* )
(´・_ゝ・`)我々は馬鹿の位置ですね
(^A^* )きゃーはははは!ホンマやな!
(´・_ゝ・`)ていうか武器使うんですね。ワーウルフ族だから徒手空拳かと思ってましたよ
(゚A゚* )ちょっとした事情っつーヤツや
(´・_ゝ・`)それ、貴方の願いに関係あります?
(゚A゚* )ある。全部終わった後で話すわ
317
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:15:49 ID:aI/OghIA0
デミタスは振り返り囚人達を一瞥した。
これは優しさなどではない。
自己満足であり、当然の権利だ。
(´・_ゝ・`)ここで朽ちたいですか?
返答は無い。
(´・_ゝ・`)生きたいなら……時に食い殺される前に、自分という役を全うしたいなら……ここを出ませんか?
少年が一人、立ち上がってデミタスの瞳を見つめた。
(´・_ゝ・`)追手は任せてください、一人残らず壊していきますから
(゚A゚* )そういうこった。待ってても明日は来いへんぞ
少年の瞳に僅かに火がゆらめき、表情に生気が宿っていく。
自分が薪を焚べる必要もないだろう。デミタスは微笑みながら小さく頷いた。
(´・_ゝ・`)いきましょう
少年の背に続き、一人、また一人と囚人達が駆け出していく。
少年は振り返り、デミタスに笑いかけて言った。
「ありがとう、魔法使いさん」
(´・_ゝ・`)……どういたしまして
318
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:16:52 ID:aI/OghIA0
湧き出る追手を撃つ、裂く、壊す。放つ魔力に僅かに水の力を加えて溶かし殺す。
数多の選択肢の中から一つだけの結果に向かって、雑兵どもが押し寄せてくる。
壁がある。壊す。名伏し難く度し難いオブジェが視界に入る。壊す。隔壁が下りる。壊す。雑兵に囲まれる。ノーが柱を振り回す。
頭部の重みに耐える日々を終えたいくつかの機械人形が、自らの顔写真と番号を空に映していく。
遺影の真似事だろうか。
無感動に、無造作にデミタスは辺りに高等爆裂魔法を放ちながら進んだ。製作し、記憶した術式の一つだ。
豪華に飾り付けられ城めいた室内を掃除し終えたノーとデミタスは最上階へ続く階段を登り、扉の前で立ち止まる。
扉の先に感じる気配。───ニール・セモナー。
二人は堂々と鉄の扉を蹴破った。
319
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:18:01 ID:aI/OghIA0
ダットの街は静かだ。
とても静かに、清潔に、秩序の下に動いている。その中心で破壊と暴力が吹き荒れている事を無視したなら。
街を眺めていた男は振り返り、野蛮な侵入者に向けて「ようこそ」と手を広げた。
(´・_ゝ・`)どうも。まだ歓迎を受けてないんですけど
(゚A゚* )おう、まるで喰い足らん。隠してるならはよ出せや
( ゚¥゚)……強欲だね。流石は大いなる過ちの時代から来た男だ
(´・_ゝ・`)それほどでも。ついでにちょっと知識欲を満たしたいのでいくつかインタビューを行いますね
( ゚¥゚)手短にしてくれたまえ。長々と蛆虫をのさばらせておくほど時間に余裕がないのでね
320
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:18:46 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)先程の大いなる過ちとは?
( ゚¥゚)簡単なことさ。三種の神器を使い、彼らは神々の加護を拒んだ
( ゚¥゚)超エネルギー物質・シベリアの太陽……同じく、時の結晶……そして聖剣・神薙の大太刀……
( ゚¥゚)その力を束ねた結果が7000万年経った今も地球に広がる闇だ。実に愚かだと言わざるを得ないなキミの仲間は
(´・_ゝ・`)……あ、薄々気がついてましたが勝ってるんですね一応。そこだけはちょっと安心です
(゚A゚;* )安心しとる場合かーーッ!!
(´・_ゝ・`)失礼。質問を続けましょう
321
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:20:12 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)何故この国の民は「優しさ」に拘り異端者を排斥するんですか?
( ゚¥゚)「優しさ」によりこの国が成り立っているからさ。ある時造られた人のプラスの感情を収集しエネルギーへと変換するマシン……これがダットを動かしている
( ゚¥゚)ダットは奇跡の国と呼ばれるに相応しい世界だ。いまだかつて人類が到達したことのなかった愛と平和……それが此処にある
(゚A゚* )ほざけボケ
( ゚¥゚)我が国以外の世界では、相変わらず闇への恐怖が広がり続けている……まさに我々は楽園に住む天使なのだ……
(゚A゚* )ノッポさん
(´・_ゝ・`)どうせ結果は同じですから抑えてください
( ゚¥゚)互いを労り、助け合い、笑顔を交わす……それは世界で最もクリーンなエネルギーとなり、人の健やかな暮らしを育み続ける……理想的な心優しき国だ。争いを生み出す種となる利己的な人間など、存在しない
(´・_ゝ・`)なるほど。自分の為にならない優しさなんてものを積み上げてきたから、この国はこんな汚物の山になったんですね
( ゚¥゚)フ……
(´・_ゝ・`)それであの囚人達は何です?
322
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:22:52 ID:aI/OghIA0
中央に置かれた玉座に座り、セモナーは不敵な笑みを浮かべてタブレット型端末を操作した。
巨大な映像が白い壁に投影された。
首から下をカプセルに入れられた男が映っている。
嫌だ、嫌だ、死にたくない。彼の叫びは認められず、無慈悲に蓋が閉じられた。
( ゚¥゚)我が国ではいかなる犯罪も起こってはならない。あらゆる犯罪者、反抗的素質を持つ者には…私が脳にチップを埋め込み新しい命を与える
映像が切り替わり、生気を無くした男や積み木遊びに興じる女性、並んで教育を受ける大人達が映る。
セモナーはその映像に歩み寄り、頬擦りをした。
( ゚¥゚)はぁ……アハハハ、美しいだろう?私の子供達だ。明日のダットのためにこの無垢なる存在を私は守らねばならない。どのような脅威からも……
323
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:23:57 ID:aI/OghIA0
( ゚¥゚)彼らは利口な子供であり、良い役者達だ。ちゃんとこのダットのために学ぶべき事を学び、再び世界に応えてくれる……
( ゚¥゚)そして君達も、この国という舞台に上がってもらう。三大秘宝を手に入れてこの世界の闇を晴らしたいと言うならば私は喜んで協力しよう……悪くない話だろ?
(´ _ゝ `)・・・・・・
(゚A゚;* )……ノッポ?
知っているぞ、この苛立ちは。
いつかの私の影がいる。
モララー様が死んだ直後の、彼らの居場所を身勝手な理屈で奪おうとした私に似ている。
いや、それよりも、もっと苛立つのは────
( ^¥^)ハハハ!そうさ、そうとも!キミ達の力は我がダットの救いとなり、世界の救いとなるのだ!共に未来を造ろう、救世主デミタス・モリオカウル!
(´・_ゝ・`)救世主?はあ、そうですか。お断りします
(#´・_ゝ・`)……貴方の目の前に居るのは厄災みたいなもんですよ
324
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:25:31 ID:aI/OghIA0
( ゚¥゚)残念だよ。この清廉なる場所をキミ達の血で汚すことになるとは……やれ
彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)彡(゚)(゚)
(゚A゚* )チッ……来るで、デミタス!
(´・_ゝ・`)……デミタス・モリオカウルの役割は、舞台に立つ私が決めること
(´・_ゝ・`)なんとなくわかりましたよ。己の命に、役割に誇りを持てない人間、終わりを前に立ち上がらない人間……まして他人の生を奪いながら身勝手な救いとやらを押し付ける人間なんて、私は嫌いです
(#´ _ゝ `)……そういうことなんで
(#´°_ゝ°`)モララー!!!!!!!!!!!厄災倒すために取って戻って来いってんだろォ!!!!?三大秘宝!!!!!!!!!やってやろうじゃねえか!!!!!!!!!
(゚A゚;* )!?
(#´°_ゝ°`)アンタに託されたからじゃねえ!!!!アンタに託された俺の!!アンタが作った俺という存在の誇りのためにやるんだ!!!!!!!
(#´°_ゝ°`)先に結末を見せたからには今だけじゃなく未来も変えてやるって覚悟が!!こんなバカげた世界にはさせないって覚悟が!!!!!アンタにはあるんだろうなァ!!!!!!!!?あァ!!!!?
(#´ _ゝ `)……だったら、信じるよ。信じて足掻いてやろうじゃないですか
325
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:28:19 ID:aI/OghIA0
(; ゚¥゚)ヒッ……ヒィぃ………!?
ただ信じて道無き道を行く。
果たしてこの道が正しい道なのか、間違った道なのか、それは誰にもわからない。
人生という道を、家族、友人、知人、見知らぬ人達と手を取り合い、そしてすれ違い、私は戦い、そして進んでいく。
時には道端に座り込んでいる人を励ますのも、逆に道端に座り込んだ私が励まされるのも、それもまた道中の一つの光景なのだろう。
生と死は表裏一体。己の生の答えがわかるとすれば、それは戦いを終えて本当に最期の時を迎えた時だけなのだろう。
それ故に私は、目の前の鉄屑に囲まれて震える男の生を肯定したくないのだ。
自ら戦わぬ男に、人の立ち上がる意思を奪って得意気にしている男に救いなど与えてやるものか。
それは神にも等しい傲慢だろう。
だが。
私は救世主などではない。
時を操り、人々が歩む道のためにその身と周囲の人間を勝手に捧げるような魔法使いではない。
虚無の力を携えて、人から継いだ光を世界に解き放つ小さな魔法使いなどではない。
清廉潔白など糞喰らえ。
私は4番隊の副官、デミタス・モリオカウル。それだけでいい。それをやり通す。
この状況に文句は尽きないが、道で躓く彼らを支えるための仕事に私は誇りを持っている。
326
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:30:13 ID:aI/OghIA0
一発の銃声が響いた。
痛みはデミタスの肩から走っていた。
血が流れ出しているが、それでも歩みを止める理由にはならない。
(´・_ゝ・`)・・・・・・
(゚A゚;* )デミタスーッ!!
(; ゚¥゚)は……ハハハ……ハハハハハハ……!魔法使いといえど、銃弾は弾き返せてもレーザーは弾けまい……!
(´・_ゝ・`)……なんだ、やればできるじゃないですか
自己陶酔を捨てた、優しさや綺麗事など存在しない浅ましい抵抗。
それでいい。生きようとしているなら、私も生きるために貴方と戦う。
ソウサク国に居た頃から変わらない理屈だ。
(; ゚¥゚)そうさ、悪は罰せられる!悪は滅びる!惨たらしくな!せめて美しく死なせてやるのは私の優しさ、私からの救いなのだ!貴様は私には勝てない、正義に勝てない!所詮古代人、科学の力の前には……!
(´・_ゝ・`)……どうしようもないヤツだ
──────風が吹いた。
327
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:31:12 ID:aI/OghIA0
( ¥)
舌の根を見る。乾いていない。
白いダットの建物の床に、欺瞞の上に今も傲慢が流れ続けている。
それは自分の傲慢なのか、彼の傲慢なのか。デミタスにはわからない。
ただ一つ言える事は、彼は自らの役に殉じて自由になった。それだけだ。
(´・_ゝ・`)……神々を相手に戦ってたんですよ、私の時代の人間は
その生を肯定も否定もせず、デミタスは流れる血を見下ろしていた。
(゚A゚* )……満足したか?
(´・_ゝ・`)へえ。結構まともな感性してるんですね
(´・_ゝ・`)「これでこの国は救われるな!」なんてほざこうものなら私は一人で出発するつもりでした
(゚A゚* )ぶっ飛んどるなー。正直アンタが目ぇカッ開いたあたりからビビりまくってたで
(´・_ゝ・`)……ストレスがね、溜まってたんですよ、すごく。でももう大丈夫です、行くべき道は見えましたから
328
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:33:15 ID:aI/OghIA0
(゚A゚* )……さっき、「秘宝を取って戻って来る」つったな?
(´・_ゝ・`)ええ。それ……多分私の時代に必要なものだと思うので
(゚A゚* )やったらウチと終着点は同じやな!アンタの時代に行けば、ウチも朝日が見られるっちゅうことやろ!?
(´・_ゝ・`)はあ、そうなるんですかね…?
(^A^* )っしゃあ!ええな、ええなあ!利害の一致!これからウチらは共に旅するパートナーや!!きゃは!
(´・_ゝ・`)(戻る手段は一切考えてないんですけど、まあ良いかな……楽しそうだから……)
(´・_ゝ・`)まずは格納庫を探しましょう
(゚A゚* )ほえ?格納庫ォ?
(´・_ゝ・`)次の舞台に飛ぶ翼を探すんですよ。貴方のヒコーキ?アレ落ちちゃったじゃないですか
(^A^* )せやなー!よっしゃ、そうと決まれば早速探索や!なんてったってこの時代の機械使えるのウチだけやからな!バリバリ頼ってくれな!
(´・_ゝ・`)……そこらへんはアテにしていますよ。ほんとに
329
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:37:07 ID:aI/OghIA0
(´・_ゝ・`)あの時助けたダットの囚人達、無事に過ごせるといいのだが……
(゚A゚* )人類はそこまでヤワやない。なんだかんだしぶとくこの国も残る、文化もいつか自然な形に変わるやろな
(´・_ゝ・`)……あの、ところでノーさん。コレ本当に動かせるんですか?
(゚A゚* )ん?なんか心配か?
(´・_ゝ・`)いやだってこれ……さっき乗ってたヒコーキよりも数倍大きいじゃないですか
機械を操作し終えたノーは、くるりと操縦席の椅子を回転させて応えた。
(゚A゚* )まァ飛空艇は操縦すんの初めてやな!!あッ飛空艇って知らんよな、空飛ぶフネや!!
(´・_ゝ・`)あー……なんか私の行く道が凄い勢いでぼやけてきた気がします……
(゚A゚* )モーマンタイモーマンタイ!要するに強いエネルギーを辿る!幸い精度いい探知機積んでるみたいやしな
(^A^* )それにソウサク国への道筋はアンタが知ってるやろ?ホレデジタル地図〜
(´・_ゝ・`)……あの、7000万年ですよ?地形も変化してるに決まってるじゃないですか。パッと見でもじっくり見ても一切分かりませんよ
(゚A゚* )じゃあ何をすんねんお前
(´・_ゝ・`)ちょっと暴れすぎて頭痛が酷いので今日はもう寝ます
(゚A゚* )ええけど塔のハッチ開いたしもう発進するで?
(´・_ゝ・`)……食料庫もあるしご飯作ります
(゚A゚* )いやだから今から発進するんやて、おもくそ揺れるで?安定して飛べるまで結構かかるわ
(´・_ゝ・`)あーじゃあなんだ、これから歴史に思いを馳せますよ。どういう道筋辿って今に流れついたのか……興味もありますしね
(゚A゚* )おー馳せとき馳せとき
330
:
◆vkc4xj2v7k
:2022/09/13(火) 07:40:16 ID:aI/OghIA0
(´ -_ゝ-`)(長い休暇だと思えばいい、デミタス・モリオカウル……)
(´ -_ゝ-`)(私のやるべき事を貫き通した先に、きっと……)
( ・∀・)『それでもついて行きたいなら、僕の賭けに乗りなよ』
('、`*川『また戻って来ないと承知しないから』
('A`)『まだヴィップ観光も行ってないしな!』
| ^o^ |『わたしは ここがすきですから』
(´・_ゝ・`)(──私の立つべき、戻るべき舞台がある)
続く
331
:
名無しさん
:2022/09/13(火) 15:16:32 ID:5t47MvdM0
乙です
332
:
名無しさん
:2022/09/13(火) 21:48:03 ID:05LT1ypc0
おつおつ。いまみんながどのような状況にあるか、一覧が欲しくなるな
333
:
名無しさん
:2022/09/13(火) 22:50:21 ID:AaTHLoRM0
>>317
の少年に微笑むデミタス、めっちゃ良い
やっぱりデミタスも救出の魔法使いたちの一人なんだなぁ。
乙、次回も期待
https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/251/666D5742-3C33-4147-B8BB-48D3243388CB.jpeg
334
:
名無しさん
:2022/09/13(火) 22:54:17 ID:I5us7BHA0
おつ
デミデミの有給消化
335
:
名無しさん
:2022/09/15(木) 00:54:16 ID:F3C/7lT.0
乙乙
336
:
名無しさん
:2022/09/15(木) 22:37:55 ID:Fdk.VglU0
おつ
こうやって徐々に間隔が空いていって失踪に至るんよな
337
:
名無しさん
:2024/03/24(日) 11:51:16 ID:oAt7WapU0
もう来ないのかなぁ
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板