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夜は眠って朝が来るようです
313
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 20:58:42 ID:QACZV9gQ0
7:50
.
314
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 20:59:27 ID:QACZV9gQ0
彼女もいつも沢山のコールを鳴らして、それから起きる人だった。
けれど今朝は一回、着信履歴があった。
時間通りに電話が来なくて怒っている──いや、自意識過剰かもしれないけれど怒るよりかは心配をしてくれている、と思う。彼女も優しい人だから。
o川;*゚ー゚)o『おはよう屋さん!大丈夫?』
川; ゚ -゚)「すみませんキュートさん!電話出来なくて…」
2コール目で出てくれたキュートさんの声はいつもよりハッキリしていて、少しだけ焦っているようだった。
二言目で『大丈夫』が出てくる所に彼女の暖かさを感じ、胸が痛む。
o川*゚ー゚)o『体調悪いのかと思ってね、一回電話したけど寝てるの邪魔しちゃだめかなって切っちゃったんだ、起こしちゃったならごめんね』
川; ゚ -゚)「いえ、…こちらが悪いのであってキュートさんが謝ることはないです。本当にすみませんでした」
315
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:00:06 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『あー、あのね大丈夫だよお、わたしもう早起きする必要ないんだあ』
川 ゚ -゚)「え」
あっけらかんと、彼女が答える。
その声に清々しささえ感じて一瞬戸惑ってしまった。
o川*゚ー゚)o『昨日、おはよう屋さんと話した後、色々考えてみたの。考えて、考えてたらね、いつのまにかお昼になってて、彼氏に電話し忘れちゃってて。そしたらさ、起こせよ!って電話が来てね』
o川*゚ー゚)o『彼氏から電話来たの、それが初めてだったんだ』
ぽつりぽつり、キュートさんが話す声は少し小さいけど、確かに聞こえる。
可愛らしくて鈴みたいで、いつも明るい私の好きな声。
昨日彼女に話したことを思い出して、スマホを持つ手に力が入ってしまう。
316
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:01:07 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『それってさ、もう1番にはなれないんだってわかるにはじゅーぶんだよね』
あははと彼女が小さく笑った。
o川*゚ー゚)o『わたし1番になれないよね?って彼に言ったら、バカがものを考えるなって言われたんだ
彼氏はバカって言う、だけど顔も知らないおはよう屋さんはバカじゃないって言ってくれる』
川; ゚ -゚)「……」
o川*゚ー゚)o『どっちが正しいんだろう?どっちかわからない時は、信じたい方を信じれば良いっておばあちゃんが言ってたから』
o川*゚ー゚)o『わたし、おはよう屋さんの言葉を信じたいって思ったんだ』
川 ゚ -゚)
.
317
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:02:01 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『だからさ、人にモーニングコールさせてまで早く起きて何してるのって聞いてやったの。そしたらね、本命の彼女にモーニングコールしてるんだって』
o川*゚ー゚)o『笑っちゃった。彼氏が言った言葉で笑ったの久しぶりだよ』
o川*゚ー゚)o『リレーみたいにさ、おはよう屋さんに起こしてもらったわたしが彼氏を起こして、彼氏は1番の彼女起こして、もしかしたら本命も誰かを起こしてるかもしれない、めちゃくちゃウケるよね』
はーあ、と一際大きなため息が聞こえた。
ため息だけどどこか吹っ切れたような、背負っていた荷物が軽くなったみたいな、そんな風に聞こえた。
o川*゚ー゚)o『わたしは彼の1番にはなれない……ううん、なりたくないなって思って、フッちゃった!!へへっ、だからね、もう別に早く起きる必要がないの。バカだよねぇ本当さ』
318
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:03:48 ID:QACZV9gQ0
良かったと思って良いのかわからない。
でもキュートさんは笑っている。
彼女の笑っている声が何より良いなと感じたのだ。
素敵な人だから、笑っていて欲しい。
川 ゚ -゚)「……キュートさんは、馬鹿なんかじゃないです。元彼さんがクズなだけだったんですよ」
o川*゚ー゚)o『………』
川; ゚ -゚)「あっ、す、すみません」
電話が切れたかと思うくらい、キュートさんが無言になってしまい、言い過ぎたことを詫びる。けれどキュートさんは馬鹿ではない。これだけは伝えたかった。
o川*゚3)o『ぷっ』
川; ゚ -゚)「ぷ?」
319
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:04:49 ID:QACZV9gQ0
o川*>ヮ<)o『あっははははははははははははは!!!』
o川*゚ー゚)o『い、言うじゃんおはよう屋さん…あーお腹いた…』
川 ゚ -゚)「…」
川*゚ -゚)「へ、へへ」
o川*゚ー゚)o『あっ、朝から沢山笑って健康になっちゃったよお』
川 ゚ -゚)「良いことです」
.
320
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:05:39 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『あ〜あ!絶対いい人見つけよ!その人が1番だとか、順位なんてどうでも良いくらい好きになるんだ絶対!』
川 ゚ー゚)「……応援、してます」
o川*゚ー゚)o『ありがと!…あ、大変!おはよう屋さん!』
川 ゚ -゚)「はい」
o川*゚ー゚)o『おはよー!!』
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「おはようございます、キュートさん」
o川*゚ー゚)o『早起きする必要なくなったけど明日もお願いしていーい?ずっと起きてた時間に起きなくなるのも、おはよう屋さんに挨拶できないのも寂しいからさ』
川 ゚ -゚)「もちろんです。また明日、電話しますね」
.
321
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:06:55 ID:QACZV9gQ0
彼女らしい理由に胸の辺りが温かくなった気がした。
キュートさんはもう吹っ切れたようだった。
なるほど、朝から笑うのは健康に良いというのは本当かもしれない。
川 ゚ -゚)(……彼女も、こうなれてた可能性、あるのかな…)
川 ゚ -゚)(……ううん、考えても仕方ないんだ、きっと)
頭を振って次の番号を押した。
.
322
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 03:28:09 ID:KLIEUUJg0
キューちゃんよかった……
みんなあったけぇ……
323
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 08:17:18 ID:awXbLsGM0
乙
324
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 19:58:21 ID:ExCJg5i60
8:00
.
325
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 19:58:58 ID:ExCJg5i60
深呼吸をする。
いようさんは、モナーさんと同じく着信履歴が無かった。
でも彼はいつも私の着信で起きているわけではなく、その前から起きていた筈。
今日もそうだとしたら連絡がない事を不思議に思ってもおかしくはないのに、何もない。
川; ゚ -゚)(………)
昨日の会話で、いようさんが限界まで来ている事はわかった。注文を無視しただけではなく余計なことまで言ってしまった。
川; ゚ -゚)「出てくれるかな…」
.
326
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 19:59:36 ID:ExCJg5i60
コール音が鳴る。何回も鳴っている。いつもなら3コール辺りで取ってくれる。
嫌な予感で胸がじくじくしてきた。
(── 昨日の夜になんかすごい人身事故があったらしくて──)
急にペニサスさんが言っていたことが頭をよぎった。
違う。
そんな事はない。
違う。
大丈夫。
何が大丈夫?
川; ゚ -゚)(お願い……出て)
.
327
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:00:25 ID:ExCJg5i60
10コール鳴った、時だった。
.
328
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:01:10 ID:ExCJg5i60
(=゚ω゚)ノ『うぅ…おはようだよぅ、おはよう屋さん』
川; ゚ -゚)「いようさん…!」
良かった。
出てくれた。
本当に良かった。無意識に噛んでいた下唇をゆっくり離して安堵する。
(=゚ω゚)ノ『ごめん、ごめんよう寝てたよぅ』
(=゚ω゚)ノ『あのね、昨日おはよう屋さんに言われて、頑張らないでみたんだよぅ。でもある意味、頑張ったのかなぁ?』
川; ゚ -゚)「頑張っ、た…?」
(=゚ω゚)ノ『うん、入社して初めて、会社サボったんだ』
川; ゚ -゚)「え」
329
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:02:15 ID:ExCJg5i60
(=゚ω゚)ノ『始業時間が近づくにつれ心臓がおかしくなりそうなくらいバクバクして、胃もぺちゃんこになるんじゃないかってくらいきゅーーってなったんだけど、会社に行ってもそうだったって気付いてからちょっと気楽になってさ』
(=゚ω゚)ノ『上司から鬼電すごかったよぅ、着信履歴上司で埋まってた。スクショ取れば良かったよぅ。でもね、ずーーっと鳴っててムカついたから出て、言ってやったんだ。……なんて言ったと思う?」
今までに無いいようさんの楽しそうな声に面を食らう。
あまりにも子どものような、悪戯っぽい声でいようさんが聞いてくるので一瞬固まる。
考えたがわからない。
川 ゚ -゚)「…なんて、言ったんですか?」
ふふっと彼が笑う。
(=゚ω゚)ノ『うるせー馬鹿野郎!!こんな会社辞めてやる!って言ってやったよぅ!』
(=゚ω゚)ノ『おはよう屋さんに教えてもらったヒポポタマスは言い損ねちゃったけど、スッキリしたよぅ!』
川 ゚ -゚)「は 」
川 ゚ー゚)「はははっ」
.
330
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:03:04 ID:ExCJg5i60
(=゚ω゚)ノ『それでそのまま寝てたよぅ』
(=゚ω゚)ノ『ずっと会社から電話来てたけど無視して、それで今、また電話かって思ったんだけど、僕おはよう屋さんは着信音設定してて』
(=゚ω゚)ノ『知ってる?この曲。これが流れてきたから、あっおはよう屋さんだ!って飛び起きたんだよぅ!』
いようさんが歌詞の一節を歌ってくれた。
父が好きだったバンドだ。昔よく歌っていたから知っている。
川 ゚ -゚)「知ってます、……そう…よか…よかった…」
色んな情報が怒涛に来て少しだけ混乱してしまった。とりあえず良かったのだと、いようさんが電話に出てくれて笑っているから、良かったのだと思う。
はたと一つ、気付く。
331
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:03:55 ID:ExCJg5i60
川 ゚ -゚)「あれ、その曲……最初の歌詞って確か…」
川 ゚ -゚)「『気が狂いそう』」(=゚ω゚)ノ
川 ゚ -゚)「……って歌い出しで電話に出てたんですか」
(=゚ω゚)ノ「うん、気が狂いそうだった」
川 ゚ -゚)「はは、ははは…」
332
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:04:34 ID:ExCJg5i60
涙が出るまで笑ってしまった。電話の向こうのいようさんも笑っている。
大丈夫だと、思った。何がかはわからない。
電話越しで顔も見えていないけど、いようさんが眩しいくらいに笑っているから、大丈夫だって思えたのだ。
(=゚ω゚)ノ『明日は流石に会社に行って決着つけなきゃだから起こしてもらえるかな?』
川 ゚ -゚)(決着……)
川 ゚ -゚)「はい」
(=゚ω゚)ノ『それじゃあまた明日』
川 ゚ -゚)「はい、また明日」
.
333
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:05:34 ID:ExCJg5i60
頑張れとも言わず、頑張れと言ってくれとも言われずに電話を切る。
笑って引き攣ったお腹がまだ痛い。
川 ゚ -゚)(決着、か…)
いようさんはずっと戦っている。
ペニサスさんが私に言ってくれたように、私も彼の戦友になりたい。
そのために出来ることを、しよう。
.
334
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:07:06 ID:ExCJg5i60
本日の投下は以上です。
いつもコメントや乙、ありがとうございます。とても嬉しいです。
もうすぐ終わります。お付き合い頂けたらとおもいます。よろしくお願いします。
335
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 23:13:38 ID:ePWDUHVQ0
やばい
336
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 23:32:51 ID:t5jcwdxQ0
乙乙
337
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 03:36:05 ID:ufg9ZMBw0
ぃょぅの背中をがんばれ以外の言葉で押せるのはクーだけだぜ
338
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 06:30:30 ID:ygyIGPD.0
乙です
339
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:17:51 ID:FKcm0JNw0
8:20
.
340
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:18:31 ID:FKcm0JNw0
皆電話に出てくれた。モナーさんを除いて。
モナーさんは昨日から連絡が取れていない。
川; ゚ -゚)「もう一度かけてみよう…」
スマホを握りしめてボタンを押そうとした瞬間、電話が鳴った。
川; ゚ -゚)「!」
ディスプレイに表示された名前を見て身体がぴょんと跳ねてしまう。
誤ってスマホを落とさないよう努めて、急いで出た。
川; ゚ -゚)「モナーさん!!!」
『しぃだよ!』
川; ゚ -゚)「……?!」
.
341
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:19:17 ID:FKcm0JNw0
電話はモナーさんからかかってきた筈だった。表示は間違いない。
けれど聞こえてきたのは元気な幼い女の子の声だった。思わず耳からスマホを離して凝視してしまう。
『あのねーおじいちゃんに、ごでんわしてくれたよね?さっきずっとごでんわなってて、しぃ、いーっぱい探してシュマホ見つけたの!それで、大事なおはなしだっておもったから、ごでんわしたんだあ!』
川; ゚ -゚)「…えっと、はい…しぃちゃん、ありがとうございます。あの……おじいちゃんに代わってくれますか?」
多分恐らく電話の相手はモナーさんの孫娘さんで間違いない。
電話を探したという事は、どこかに無くしてしまっていて出られなかったのかもしれない。
良かった。それなら、良かった。
.
342
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:20:12 ID:FKcm0JNw0
『おじーちゃんはー、まだねんねしてますっ』
川 ゚ -゚)「え?」
『全然起きないんだよ、しぃも早くあそびたいんだぁ…』
『コラ、電話で悪戯したらダメだろう…繋がってるのか?もしもし?……どなた、ですか?………っあ、えっと…もしかして『おはよう屋さん』?』
女の子がきゃーと軽い声を出して遠ざかっていくのが聞こえ、代わりに男性の声になった。モナーさんの息子さんだろうか。
お客様以外におはよう屋さんと呼ばれるのは少し照れ臭かったが、モナーさんから説明がいっていたなら怪しまれるより良かったかもしれない。
川; ゚ -゚)「あ、は、はい…あの…」
『……父は亡くなりました』
.
343
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:20:58 ID:FKcm0JNw0
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「え?」
344
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:21:40 ID:FKcm0JNw0
『今は式の手続きなどがあって、きっとしばらく連絡出来なくなると思うので先に伝えても良いですか。父が貴方宛の手紙を書いていたんです、彼女に伝えて欲しいって……関係ない私が読んでしまうのは申し訳ないのですが読んでお伝えしても?』
川; ゚ -゚)「いえ……、いえ、お願い、します」
口の中が一瞬で乾いて声が上手く出せなかった。
絞り出すように、返事をする。
モナーさん。
モナーさん。
亡くなった。
亡くなった?
.
345
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:22:20 ID:FKcm0JNw0
『ねー!しぃのお手紙もよんで!』
『うん、しぃのお手紙は後でゆっくり読むよ。先に、お姉さんへのお手紙読むね。これはきっとおじいちゃんにとって大事なお手紙なんだ』
『いいよ!しぃ、静かにしてるね!』
『ありがとう。……すみません、えっと、読みますね。おはよう屋さん、おはよう』
川; ゚ -゚)「……」
『パパ!ちがうよ!おじいちゃんみたいに言って!』
『ええ……わかった。すみません、…』
.
346
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:23:23 ID:FKcm0JNw0
( ´∀`)『……おはよう屋さん、おはようモナ。貴女と最後に電話で話した後、私はまた未来を見たんだモナ。二つ。一つはまるで夢の中みたいな場所で、顔を見たことが無いけれどおはよう屋さん、貴女が出て来たモナ』
川; ゚ -゚)「…っ」
( ´∀`)『まるで真っ暗な夜を怖がっているかのように、孫娘みたいに、沢山泣いていた。おはよう屋さんは朝が来るか知りたいと言っていたモナね。──大丈夫』
(──大丈夫、大丈夫モナ──)
川; ゚ -゚)(……あ)
( ´∀`)『あれは貴女に朝が来る未来だった。怖くても、いつだって夜は眠って、眩しい朝が必ず来るから 私に連れて来てくれていた朝のように、美しい朝が来るから、大丈夫、大丈夫モナ』
( ´∀`)『もう一つは私にお迎えが来る未来だった。だから、今こうやって手紙を書いているモナ。電話に出られなくて、不安な気持ちにさせてしまって申し訳ないモナ。短い間だったけれどとても大事な時間だった。良い朝をどうもありがとう』
( ´∀`)『おはよう屋さんに来る朝が どうぞ、良い朝になりますように』
347
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:24:06 ID:FKcm0JNw0
川; -゚)(声が)
川⊃-;)(──声が、聞こえたんだ。あの時)
暗くて寒くて怖くて何もかもが嫌で、どうしようもない場所にいた私を助けるように、声が聞こえて、そうして私は──。
あの時の、あの声はそうか、モナーさんだったのか。
:川∩-∩):「……っ」
.
348
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:24:56 ID:FKcm0JNw0
『以上です……あの、貴方にこんなことを聞くのはおかしな事だと思う、んですがその…私はずっと父の、あの話が苦手で信じてこなかった……母が亡くなる時だってわからなかったくせに、と…』
『こんな手紙を残してたくらいだから、……未来が見えていたのは、本当だったんでしょうか』
ズッ川⊃-;)「…、」
川∩-∩)"
'川 ゚ -゚)'
川 ゚ -゚)「モ、モナーさんは……お父様は未来が見えていました」
川 ゚ -゚)「見えて、私の、私の未来も見てくれたんです、朝が来る未来を。…ありがとうございました」
349
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:25:37 ID:FKcm0JNw0
『そうです、か…』
『お話終わったあ?次しぃの番だよっ!』
『うん、うん……あの、落ち着いたらまた連絡させてください』
川; ゚ -゚)「あ、は、はい、お願いします」
.
350
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:26:24 ID:FKcm0JNw0
通話を切って、大きく深呼吸をする。
ずっと開けていなかったカーテンを力強く開けた。
窓ガラスに酷い顔をした自分の顔が映って小さく笑う。
川 ゚ -゚)「……おはよう、私」
外は良い天気だった。
晴れている日なんて珍しく無いのに、明るく綺麗な空に感じる。
見てくれたんだ、モナーさんは。朝が来る、未来を。
川 ゚ -゚)「私にも、朝は来るんだ」
.
351
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:26:56 ID:FKcm0JNw0
夜は眠った。
朝を迎える準備をしよう。
352
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 22:15:22 ID:sDhc5sB60
乙です
353
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 22:20:56 ID:A2XZns3s0
乙乙
ごでんわで萌えたのにぎゅってなった
354
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 01:07:02 ID:SQEzGk0g0
乙乙
355
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 03:46:18 ID:FMVhIYFE0
毎日うれしい
乙
356
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:24:52 ID:yazT6Rzk0
.
357
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:25:26 ID:yazT6Rzk0
深呼吸を5回して、震える手を隠すように握りしめる。
久々に見た会社の外観は何だか小さく古く見えた。
始業時間が過ぎてから会社のドアを開けるのは初めてで、血が末端に行き渡っていない冷たい手に変に力が入ってしまう。
部署のドアを開こうとして、誰かの笑い声が聞こえる。
足が竦む。怖い。
されて来たこと言われて来たことを思い出して、息がヒュッと詰まった。
川; ゚ -゚)(でも)
これを越えないといけない。
決着を、つけないと。
358
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:25:55 ID:yazT6Rzk0
ギッと嫌な音を立ててドアを開く。
中にいた、多くない人数の目が一斉にこちらを向いた。
痛い。
川; ゚ -゚)(怖い)
視線に重くて濃い毒でも塗られているかのように、突き刺さって離れない。
目を瞑って耳を塞いでしまいたい。
それじゃあ、終わらない。
なるべく周りを見ないように、一直線で一番行かなくてはいけない場所に足を動かした。
川; ゚ -゚)「おひ、…っ、お久しぶりです」
359
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:26:45 ID:yazT6Rzk0
急に酸素が薄くなった気がした。
息を頑張って吸う。頑張って吐く。過呼吸にならないように、そっと。
ばくばくと心臓の音が響くくらい、部署内は静まり返っていた。
先程まで談笑していただろうに、今は不自然な程誰も言葉を発していない。
( ^Д^)「うわぁ久しぶりに顔を見たけど相変わらず辛気臭い顔してるよね!」
川; ゚ -゚)「っ」
(’e’)「ぷ」
(゚A゚* )「ちょw」
リ´-´ル「www」
課長が、根野課長が口を開く。
それが合図とばかりに周りも口を開いて嘲る。
そう、そうだった。こういうところだったのだ。
360
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:27:24 ID:yazT6Rzk0
( `ー´)「ははっ、冗談冗談!それで?誰かさんが労基にチクッたせいでみんなが迷惑を被ってるわけだけど、その間たっくさん休んで少しは頭冷えた?」
川; ゚ -゚)「……ろ、労基に、連絡したのは私じゃ、ないです…休んでたのは…申し訳ありません」
( ^Д^)「はっはっは!!そのゴニョゴニョ喋るの全然変わってないね休んだ意味ないじゃん何してたの?何しに来たのねぇ、働く?机ないから立ってしろよ」
川; ゚ -゚)「わた、私は…」
言いに来た。
言う為に来たんだ。
爪の跡がついてしまうほど力強く拳を握る。
言わなきゃ。
川; ゚ -゚)「っ」
川; ゚ -゚)「や、……やめ、ます」
361
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:28:28 ID:yazT6Rzk0
顔を見れなかった。
ずっと見て来た部署の床がそこにはあって、目がチカチカした。
顔を見るのが、目を合わせるのが怖かった。
失望してる表情も理不尽に怒る表情もどれも見たくなくて、ずっと頭を下げている。
靴の先端が情けなく見えた。
( ^Д^)「はぁ?」
( ^Д^)「は!あ!?」
川; ゚ -゚)「、」
大きな声が怖い。
肩が揺れ、胃の辺りがきゅうっと痛くなる。
( ^Д^)「ねーえみんな聞いて〜?みんなが残業したり休日出勤しても残業代出なくなったのは誰かが労基にチクって残業させないようにしたからなんだけどお!その原因がなんかぁ、辞めたいって!!」
( ^Д^)「散々みんなに迷惑かけたくせにぃ!!まだ迷惑かけるってさぁ!!どう思う!??」
川; ゚ -゚)「……」
362
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:29:12 ID:yazT6Rzk0
人の視線が、痛い。
小さく笑う声が耳に入って、指を差されてるのが目に映って、自分の呼吸と早い鼓動がうるさく感じる。
(’e’)「仕事しないで休んでたくせに?」
リ´-´ル「退職って…やば」
(゚A゚* )「気狂ってんじゃね?」
(’e’)「w」
リ´-´ル「ははっ」
363
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:29:50 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)(──気が狂う?)
最近どこかで耳にしたフレーズに体が止まる。
川 ゚ -゚)(…気が 狂いそう …)
川 ゚ -゚)「……」
そうだ、いようさんの着信音──…
.
364
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:30:54 ID:yazT6Rzk0
周りの目や声に吐き気がして、口から何かが出そうだと思ってから気付く。
そうだ、今日は随分久しぶりに朝ごはんを食べたんだ。
ギコさんに教えてもらって作った、美味しい卵かけご飯。
震える指先を抑えるために手を見ると、色が塗られた爪が目に映った。
自分の好きな空色と、ペニサスさんが好きなオレンジ色。二色買ったんだ、綺麗だったから。
まるで今朝見た朝焼けのような、綺麗な色。
昨日も少し眠れた。今日はみんなを起こす事が出来た。
仕事が出来たんだ、私の、私が出来る仕事。
川 ゚ -゚)( 夜は眠った。後は── )
.
365
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:31:26 ID:yazT6Rzk0
(´<_` )『夜がなければ、朝もないです』
(=゚ω゚)ノ『言ってやったんだよぅ!』
('、`*川『好きな色とかを塗ってるとね、元気になれるの』
(,,゚Д゚)『美味しいものを作って食べて、1日を始めるんだ』
o川*゚ー゚)o『言葉の暴力が1番痛いの』
( ´∀`)『どうぞ、良い朝になりますように』
366
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:32:01 ID:yazT6Rzk0
私は、おはよう屋さん。
私は、私には、私にも。
川 ゚ -゚)( 朝は、来る )
.
367
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:32:29 ID:yazT6Rzk0
深呼吸をする。
キュートさんに聞いた。いようさんに教えた、必勝法。
ムカつく奴には──
川 ゚ -゚)「う、」
川# ゚ -゚)「うるせーヒポポタマス!!こんな会社辞めてやる!!」
368
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:33:16 ID:yazT6Rzk0
……
…
.
369
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:34:34 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「おはようございます、いようさん」
(=゚ω゚)ノ『おはよう、おはよう屋さん。今日面接だよぅ〜緊張するなぁ、決まると良いんだけど』
川 ゚ -゚)「もし良ければなんですけどおはよう屋さんとか、いかがですか?面接要りませんよ」
(=゚ω゚)ノ『んー、僕は起こしてもらう方が好きだなぁ』
川 ゚ -゚)「気が狂いそう、の一節で?」
(=゚ω゚)ノ『そうだよぅ』
川 ゚ -゚)「ふふふ、面接頑張ってください」
(=゚ω゚)ノ『うん、ふふ、お願いして言ってもらってた時より全然明るい声で応援してくれるね』
川 ゚ -゚)「自然に口から出てました」
.
370
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:35:09 ID:yazT6Rzk0
会社に退職宣言をしてからひと月が経った。
私に朝が来ていない時もそうだったように、世界は何事も無かったかのように緩やかに回って動いている。
.
371
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:35:49 ID:yazT6Rzk0
いようさんは無事に離職出来、今は新しい就職先を探すのに忙しいらしい。
(=゚ω゚)ノ「前のところで働くのに比べたら面接も怖くないんだよぅ」
そう言って今も規則正しく生活を送るためにモーニングコールは続けてくれている。
ただもう占いは見てないのだそう。
.
372
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:36:22 ID:yazT6Rzk0
ギコさんはモーニング専門の喫茶店を開きたいんだと教えてくれた。
(,,゚Д゚)「おはよう屋さんに食べてもらいたいなって前に思った事あったんだけど、おはよう屋さんだけじゃなくて色んな人に食べてもらえたら嬉しいよね」
(,,゚Д゚)「お店開くのにお金も勉強も必要だからすぐには難しくても、いつか絶対開くからさ。食べにきてよ」
私は以前より食欲が増した。多分ギコさんの朝ご飯の話や夢の話を聞いているからだと思う。
.
373
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:37:09 ID:yazT6Rzk0
ペニサスさんは私がポロッとお化粧の仕方教えて欲しいと言ったのを聞いて、メイク動画の配信を始めてみようかと言っていた。
('、`*川「3時間もかけてるし誰かの役に立てたら本望っていうのかしらね」
('ー`*川「スッピン晒すの勇気いるけど、ま、それくらいビフォーアフターあった方が映えて楽しいでしょ」
今でもあの時買った空色とオレンジ色のマニュキュアは宝物だ。
.
374
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:37:49 ID:yazT6Rzk0
キュートさんはあれから恋人募集で、俄然燃えている。
o川*゚ー゚)o「ぜーったい良い人見つけるよ!」
o川*゚ー゚)o「そのために自分磨きをがんばるの!中身も頑張るし、お化粧とかもキラビヤカー!に出来るようにするんだ!」
ペニサスさんが配信を始めたら紹介しようと思っている。
.
375
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:39:11 ID:yazT6Rzk0
それから、モナーさんの息子さんがお客様になってくれた。
落ち着いてから改めて連絡をくれて、おはよう屋さんとは何か、どういうシステムなのか聞かれたので冷静になって怪しまれたのかと冷や汗をかいたけれど違った。
奥様が2人目ご懐妊で里帰りをしている間、起きるのが難しいのだそう。
たまにしぃちゃんが出てお話してくれる。
時計の音も聞こえる。
.
376
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:39:45 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「さて、と」
今日はもう1人大事な人に連絡を入れる。お客様ではない。
軽く深呼吸をして、通話ボタンを押した。
.
377
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:40:41 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「こんにちは弟者先生」
ドアを開くとパチクリとした先生が驚きながらも出迎えてくれた。
(´<_` )「…あ、れ?予約…」
川 ゚ -゚)「受付の方に直接したんです」
いつもは弟者先生のご兄弟である兄者先生に予約のお願いをしていた。
今日は兄者さんを通さず、正規の方法で予約をしたのだ。
何となくそちらの方がいいと思ったから。
(´<_` )「そっか…こんにちは…よりおはようのが良いかな?顔色が良くなってきましたねクーさん」
川 ゚ -゚)「はい。今日丁度、退職の手続きが済みました。しばらく貯金とかもあるからおはよう屋さんを続けようと思っています、お客様もいらっしゃいますし、新規の方も依頼があって」
(´<_` )「それはそれは……わからない事があったら言ってくださいね」
378
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:41:19 ID:yazT6Rzk0
どうぞ掛けて、とソファーに通されたので腰掛ける。
弟者先生はどれにしようかなとお茶の缶を選んでいる。
やはり最初に会った頃より先生は痩せていた。
初めて来た時のことを思い出そうとして少しぼんやりしてから気がつく。
今日は用があって来たのだった。
川 ゚ -゚)「……わからない事というか、言いたい事言っても良いですか?」
(´<_` )「言いたいこと、ですか?」
先生がわざわざこちらを向いてくれた。
律儀な人だと思う。
そこまで会話をしていないはずなのに、その確信が私には、ある。
川 ゚ -゚)「私、絶対にずっと夜のままで、朝なんて来ないって思ってました。ずっとずっと、1人だって……でも朝が来たんです。1人じゃなかった、おはよう屋さんだったから」
言いたかった。
順番をつける必要は無いので付けないけれど、恐らくきっと言った方がいい人の1人だから。
379
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:42:02 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「私をおはよう屋さんにしてくれて……朝を連れてきてくれてありがとう兄者さん」
(´<_` )「いやっ!そんなんクーさんが頑張ったんだよ!俺は何もしてないって!」
(´<_` )
川 ゚ -゚)
(´<_` )「……………って兄者なら言うと思いますよきっと伝えておきますねはははははは」
(´<_` )「は、は」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「いいえ、先生に言いたかったので」
380
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:43:02 ID:yazT6Rzk0
弟者先生は持っていた缶を落としかけ、すんでのところで掴んだ。けれどその手が震えてカタカタ音がしている。
(´<_`;)「……ごめんなさいすみません申し訳ないです騙すつもりはなかった…って言っても意味ないかもしれないですけど本当にすみません、申し訳ありませんでした訴えるなら私個人でお願いします」
川; ゚ -゚)「いいえ、いえ、違います、責めたいわけではなくて、本当にお礼が言いたかったんです。私の、おはよう屋さんの最初のお客様に」
おはよう屋さんを勧めてくれたのは弟者先生だった。
おはよう屋さんの初めてのお客様は兄者さんだった。
彼が、彼らが居なかったら私に朝が来ていなかったと思うから、その礼を言いたかった。
カマをかけたのは……ほんの少しの悪戯心からだったかもしれない。
381
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:43:43 ID:yazT6Rzk0
(´<_` )「俺にはね、兄者…7つ歳が離れた兄がいたんです。クーさんは兄に似ていたんですよ」
川 ゚ -゚)「お兄さんに、ですか?」
お互いコメツキバッタのように頭を下げ合ってしばらくして、先生が先に落ち着きを取り戻した。
改めて先生が淹れてくれたお茶の香りが鼻を擽る。
湯気が揺らめく。
(´<_` )「日記を読みました、兄の。そこに書いてあったことと貴方が言っていたことが似ていて、どうしても……朝が来るようにしたかった」
(´<_` )「最後に会話をしたのは俺でした。なぜ俺に電話をかけたのかはわかりません。ただ思い出して話したかったのかもしれない」
382
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:44:24 ID:yazT6Rzk0
………
……
…
( ´_ゝ`)『弟者、おはよう屋さんって覚えてる?』
急に電話してきてそんな内容を話すもんだから、何だよと思いました。
毎年祝ってくれていた誕生日にお祝いの連絡もくれなかったくせにと、少し恨んでいたんです。……そう、子供だったんですよ俺は。
(´<_` )「…なんだっけ」
兄の質問の答えを、本当は覚えていました。
けれど深夜0時を越えて呑気に連絡してきた兄に苛立ち、すっとぼけたんです。
( ´_ゝ`)『忘れちゃったか。俺がさ、高校の時に朝起きれなくてさ、妹者と弟者が「おはよう屋さんだー!」って起こしてくれたんだよ』
( ´_ゝ`)『あれをさ、思い出したんだ。あの、2人におはよー!って起こしてもらえたの、すごく嬉しくて。本当は少し前に起きてたのに、寝てるふりしてたこと、何回かあったんだ』
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)『いい朝来たなぁって、すっごい嬉しかったんだよ』
( ´_ゝ`)『……ありがとな。それで、それで…ごめん。ごめんな』
383
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:45:15 ID:yazT6Rzk0
完全に酔っ払ってるんだと思いました。
声が何となく震えていたから、ああ酒飲んで酔っ払って電話をしてきたんだろうと。
(´<_` )「…別にいいよそんな昔のこと。用件、それだけ?」
( ´_ゝ`)『うん、そうだな…それが言いたかったんだ』
( ´_ゝ`)『俺、しばらく朝が来てないんだけどさ、今ならいい朝が来そうだ』
(´<_` )「……そう、良かったな」
眠くて。その日の俺は本当に疲れていて、身体もベッドに溶ける勢いで、眠たかったんです。
だからそんな、返ししか出来なかった。
( ´_ゝ`)『おやすみ、弟者。良い朝を』
それをいうなら良い夢をじゃないのかよ、という言葉すら出ずに電話を切って、俺は深い深い眠りについたんです。
──兄者ほどでは、ないけど。
384
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:46:10 ID:yazT6Rzk0
何日かが経った朝、リビングが酷く騒がしくて目が覚めました。
父が泣いて母がすごい顔をしてて、妹は今にも泣き出しそうな顔でオロオロしていました。
(´<_` )「どうしたんだ一体」
l从;・∀・ノ!リ人「兄者…が……」
そこからはあまり覚えていないんですけどね。
気がついたら葬式の最中で、俺は制服を着崩さず着て、何だか窮屈そうな箱に入った兄者の顔を見ていました。
(´<_` )「おはよう」
(´<_` )「おはよう兄者、朝だぞ」
(´<_` )「…おはよう、ってば…」
何回も何回もバカみたいにおはようと言いましたが、兄者は返事をすることもなかったし起き上がることもなかった。
385
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:46:52 ID:yazT6Rzk0
兄者が一人暮らししていた家を片付けてる時に日記を見つけました。
俺が高校でバカやっているとき、兄は会社でいじめられていた。
自分の小さな世界しか知らなかったから、大人の世界でもいじめがあるなんて知らなかったんです。
兄がされてきたことの断片を聞いてそれだけで吐き気がしましたね。
いい大人なのに、いい大人が、なんで。
あれだけ優しくて明るかった兄の顔が、やつれて、ボロボロで、目を開けていなくても酷く変わっているのがわかったんです。
『──朝4時半頃が1番辛い。みんなが段々と活動を始めていく。朝が始まっていく。俺には朝は来ない。でも働かなきゃ。どうして眠れないのか、どうして朝が来ないんだ。
わかった、迎えに行けばいいんだ、朝を』
救えなかったことの贖罪だとか、そんな立派なものでは、ないんです。
この職をやっていても救えないことだってままある。
それでも。
386
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:47:31 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「眠れるようになりたいんです、朝が…来ないのが辛くて」
『─俺、しばらく朝が来てないんだけどさ、』
(´<_` )「……」
(´<_` )「…おはよう屋さん、やってみない?」
387
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:48:11 ID:yazT6Rzk0
…
……
………
(´<_` )「どうにかしたかったんです」
(´<_` )「俺に直接っていうよりは顔も知らない相手の方が良いかと思って兄のフリを」
(´<_` )「……いや、違うか。兄にも朝が来て欲しかったのかも」
弟者先生の声をこんなに落ち着いて聞いたのは初めてかもしれない。
兄者さんの声に似ているなとは思っていたけれど、テンションが違くて気付かなかった。
あの時、私の名前を呼ばなかったら気付かないままだったかもしれない。
でも気付いた時、兄者さんも弟者先生も悪い感情でこんな事をする人たちには思えなかった。何かしら理由があるのだと。
(´<_` )「個人のエゴに付き合わせてしまった。職権濫用もいいところです。本当に申し訳ありませんでした」
弟者先生はすっかり顔色が悪くなってしまったので申し訳なくなる。土下座でもしかねそうな勢いだ。
失敗は流されるより受け止めてもらう方が失敗した側は軽くなる事もある、それを私は知っている。
388
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:48:48 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「……申し訳ないと、思ってるんですよね」
(´<_` )「勿論」
川 ゚ -゚)「……そう、ですね。わかりました。そしたら、私が喜びそうな事言ってください。そしたらチャ、チャラにしますよ」
(´<_`;)「ええ。ええー……」
弟者先生はしばらく黙った。
そうして、一言
389
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:49:31 ID:yazT6Rzk0
(´<_` )「……爪、綺麗ですね」
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)「そうでしょう」
390
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:50:09 ID:yazT6Rzk0
先生と話をした。
出してくれたお茶は何ていうのかとか、そういった他愛もない話。
今までで一番長く話をしてみて気付いたのは、大人しめのイメージがあった弟者先生が実は明るい人だったこと。
川 ゚ -゚)(電話で話していた兄者さんの性格は弟者先生の素だったのかもしれないな)
徹底してくれていたんだなとじんわり思う。
話して、話せて良かった。
お茶のおかわりを注ごうとしている先生に、そろそろお暇しますと伝えて浮かんできた疑問をそのまま投げてみる。
川 ゚ -゚)「もうひとついいですか?」
川 ゚ -゚)「先生は、4時に起きて眠くなかったんですか?」
(´<_` )「せっかくだからジョギングしてたよ。おかげさまでだいぶ痩せました。ありがとうございます」
初めて先生の笑顔を見た。
優しい顔だった。
391
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:51:40 ID:yazT6Rzk0
受付の人にもお礼を言って、それから目を見て挨拶をし、病院を後にした。
川 ゚ -゚)(もう夜になってる)
辺りがあっという間に暗くなっている。
夜から抜け出せなくなったあの日から、随分と月日が流れて季節も変わった。
私以外には当たり前に朝が来て、また夜が来てそれの繰り返しだったのだから当然だ。
392
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:54:15 ID:yazT6Rzk0
私はあれから少しずつ眠れる時間が増えている。
たまにひどい夢を見て飛び起きてしまう時もあるけれど、それでも、朝を迎えることができていた。
川 ゚ -゚)(……また突然眠れなくなるかもしれない)
朝が来なくて、夜に取り残されてしまうかもしれない。
川 ゚ -゚)(…でも)
私はもう、1人ではないことを知っている。
それはとても強い支えになる。
だから、大丈夫。
きっと大丈夫。
393
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:54:49 ID:yazT6Rzk0
帰宅して買ったものを冷蔵庫に詰め込む。
昨日ギコさんから教えてもらったメニューを作ってみたくて、久しぶりにスーパーに長居してしまった。
川 ゚ -゚)「明日の朝ご飯の材料、買い過ぎちゃったかな…」
川 ゚ -゚)「…いやお昼も夜も食べるからいいか」
パソコンの電源を入れるとメールが届いていた。
おはよう屋さんの、依頼のメール。
394
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:55:35 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「……依頼理由、『夜が好きでずっと遊んでしまう。でもどうしても起きたいからお願いします』…か…」
川 ゚ -゚)「……」
カタカタとキーボードをゆっくり打つ。
川 ゚ -゚)「どんな夜であってもきっと誰にでも朝は来ます」
川 ゚ -゚)「あなたにとって良い朝が来るお手伝いが出来たら、幸いです」
川 ゚ -゚)「おはよう屋さんとお呼びください。よろしくお願いします」
川 ゚ -゚)「……よし、っと」
395
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:56:26 ID:yazT6Rzk0
眠る準備をしなくては。
なぜなら明日も早い。
私の仕事がある。私が出来る、大事な仕事だ。
川 ゚ -゚)「……」
川 ゚ー゚)「…おやすみなさい」
396
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:57:15 ID:yazT6Rzk0
朝は来る
誰しもが夜を迎えて、そして朝が来る
眠れなかった 眠らなかった わたしにも来た
朝が
貴方にとっての 新しい一日を始める朝が来ないのなら
わたしが朝を連れて行くから
どうぞ、皆様どうか良い朝を。
了
397
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:59:32 ID:yazT6Rzk0
以上で投下終了になります。
1年以上お付き合いくださり、本当にありがとうございました。
感想や乙、あたたかいコメントのおかげで書ききる事が出来ました。
どうぞ皆さまも良い夜、良い朝をお過ごしください。
本当にありがとうございました。
398
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 00:05:02 ID:T.jyd0Mg0
乙!クーの天職が見つかってよかった
399
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 00:08:50 ID:7/MJwXuY0
何回でも読み返したい 乙
400
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 00:20:38 ID:ps1vXwJI0
素晴らしい
401
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 01:51:54 ID:YGGPB.5s0
乙!すごい良い読後感で暖かい気持ちになりました。未来に希望を感じさせるね!
402
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 03:00:51 ID:xhlZoVn.0
乙
すごく良かった
403
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 04:58:15 ID:PT9sIT2A0
乙乙
クーは本当にヒポポタマスって言ったのw
ギコの朝ご飯専門店はとても需要があると思う。
お疲れさまでした。
404
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 06:19:19 ID:frgac/PE0
乙。優しい作品だった。
405
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 06:55:24 ID:Sw3bzzOk0
優しい雰囲気になりました、ありがとうございます
406
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 09:00:08 ID:zpsI.g6s0
おつです
407
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 21:46:06 ID:Dk/xHLxo0
素晴らしかった。乙です!
408
:
名無しさん
:2023/04/26(水) 00:10:09 ID:RC3rDUWY0
泣いた 感動した
乙
409
:
名無しさん
:2023/04/27(木) 22:35:17 ID:bESSbhUc0
乙
最初から一気に読んだ
めちゃくちゃ良かった
410
:
名無しさん
:2023/05/04(木) 21:49:21 ID:HSvcUnm.0
乙
411
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 22:12:35 ID:YrtcQDG60
素敵な物語をありがとうございました。
412
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:46:44 ID:.EQ7bngs0
ぼろぼろに泣いてしまいました
この作品を生み出してくれて、本当にありがとう
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