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从 ゚∀从クレッセントハイムのようです

1 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 00:34:44 ID:mbBe8ZXo0
ながら投下 ゆっくり書く

48 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:14:14 ID:LDyVdyfk0

(,,゚Д゚)「まず、お前は生きた人間だ。それは合ってるか?」

(*゚ー゚)「は、はい」

(,,゚Д゚)「どうやってこの【月の裏】に来た?」

(;*゚ー゚)「どうやって、って……」

そもそもここ、月の裏という場所なのか。
高岡先生の電話の内容を思い出す。
だとするなら、私は高岡先生の家から、月の裏……そしてミルク雪原に現れたことになる。
じ、っと男の人は私の目を見て、眉間の皺を寄せた。

(,,゚Д゚)「ハイン?」

(;*゚ー゚)「ピョッ」

(,,゚Д゚)「アイツ、こんな子供を連れてきちまったのか。大失態だぞ」

(;*゚ー゚)「え、あの……な、なんで高岡先生のことを知って……?」

(,,゚Д゚)「ああすまん。ちょっとお前の心を読んだ」

(;*゚д゚)そ「ええっ!?こ、心!?」

突然なにを言い出すんだ、この人。
もしかして今、私が高岡先生のことを考えた時、見えたとでもいうのだろうか。
喋るコートだの、命を食う亡霊だのがいるくらいだから、心が読める人間がいても不思議じゃない。
けど……

(;*゚д゚)「エッチ!女の子の心勝手に見ないで!」

(;,,゚Д゚)「えっ!?え、えっ……!?」

(#*゚ー゚)「嘘なんかつかないから、勝手に人の心読んだりしないでよ!プライバシーっての知らないの!?」

(,,゚Д゚)「……す、すまん」

49 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:18:09 ID:LDyVdyfk0

男の人は私に怒鳴られて、多少なりショックを受けたらしい。
表情は変わらないものの、しゅん、と俯きがちに私を見やる。
……エッチは流石に言い過ぎたかな。

(*゚ー゚)「ごめんなさい。正直に言うから、色々教えてほしいことがあるの。ええと……」

(,,゚Д゚)「……ギコだ」

(*゚ー゚)「ギコおじさん」

(,,゚Д゚)「俺はまだ24だ。おじさんじゃない」

(*゚ー゚)「(24!?)じゃあギコさん」

(,,゚Д゚)「よし。じゃあ、なぜ月の裏に来たか教えてくれ」

(*゚ー゚)「……はあい」

私は素直に、これまでの経緯を説明した。
盛岡塾のこと。高岡先生のこと。電話の内容を盗み聞きしたこと。
コートを届けようとしたこと。クレッセントハイムのこと。
ここで隠したところで、私の心を読まれるだけなら、素直に話したほうがよさそうだ。
……多少、怒られるのは覚悟しよう。高岡先生に嫌われないといいけど。

私の話を聞くと、ギコさんはすっかり黙り込んでしまった。

50 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:22:39 ID:LDyVdyfk0

(,,゚Д゚)「……なるほどな」

(,,゚Д゚)「概ね事情は理解した。悪意がない只の子供だということもな」

(*゚ー゚)「……怒ってる?」

(,,゚Д゚)「いいや。そもそもクローゼットを忘れたハインの責任だろう」

(,,゚Д゚)「お前をうっかり通した【猫】も猫だ。子供を招くかね、普通」

(*゚ー゚)「猫?」

(,,゚Д゚)「月の裏の出入り口は、【猫】たちが管理しているんだ。怠慢だな、まったく」

(*゚ー゚)「(あんなおっかない声の猫いるんだ……)」

ぶつぶつとギコさんは不満を漏らしている。
どうやら怒られることはなさそうだ。案外、話の分かる人かもしれない。
そんなとき、「ぐぎゅるるるっるるる」と凄い音が鳴った。
……空気を読めない、私のお腹の音である。恥。

(,,゚Д゚)「生きた人間は腹が減るんだったな。待ってろ、何か作る」

(;*゚ー゚)「そ、そんな、ご迷惑じゃ……」

(,,゚Д゚)「構わん、この世界じゃ基本は助け合いだからな」

51 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:25:36 ID:LDyVdyfk0

ギコさんは、ベッドの真向かいにある階段を下りていく。
待っている間、退屈だろうと、私に本を渡してくれた。
分厚い。けれど、綺麗な表紙だ。大きな月の絵と猫が描かれている。
背表紙の刺繍はぼろぼろにほつれかけているけど、かろうじてタイトルが読める。

(*゚ー゚)「【つきのうらの昔話】……」

不思議だ。見たことのない文字なのに、すらすら読める。
もしかしてギコさん、私が眠っている間にこれを読んでいたんだろうか。
だとしたら、ちょっと可愛い絵面かもしれない。
私は好奇心のままに、表紙を開いた。

52 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:32:55 ID:LDyVdyfk0

本を開くと、ぱあ、とページから泡が飛び出て来た。
泡はいろんな形、山や月、お星さま、猫や人の形、色んなものに変わる。
綺麗だ。飛び出す絵本と映画が、まるで一緒になったみたい。

(*゚ー゚)「わ、きれい……」

泡がぽこん、ぽこんと字を産む。
不思議な、見たこともない字だけれど、頭の中にすっと入って、日本語に置き換わるように理解できる。
魔法の世界に入り込んだみたい。
いや、そもそもここは魔法の世界なのかもしれないけど。魔力とか、生命力って言葉が出ていたし。

【むかぁしむかし、とっても昔のお話です】

【この世界の外側には、神様がたくさんいました】

【神様たちは、世界に秩序をつくり、それぞれ色んな世界を管理することを決めました】

【空の世界、海の世界、地上の世界、死者の世界、夢の世界……色んな世界が生まれ、色んな新しい神様がうまれました】

【中でも猫と夢、月の神様は、とても仲が良かったので、一緒にひとつの世界を管理しようと決めました】

【そこで彼等は、月の裏という世界を作りました】

(*゚ー゚)「神話、ってやつなのかな……」

53 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:38:55 ID:LDyVdyfk0

字を追いつつも、泡はその時の様子を再現するように、神様たちの姿を形作る。
月の頭、猫の頭、色んな頭を持つ不思議な人影が、空に向かって手を差し伸べる。
すると、彼等の手にまあるい月のような光が浮かび上がり、色んなものが生まれていく。
幻想的な光景だ。

【月の裏は、想像、夢、そして死者の世界となりました】

【人間たちの想像力、眠る時に見る夢、そして想う力が、月の裏を保つ源になっているのです】

【誰かが死んだ人を偲ぶ時、思い出す時、そして彼等の想像力が働くとき――】

【月の裏に死者たちが招かれ、安らかなひと時を過ごします。次の命に生まれるために】

(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「ここ、死者の世界なんだ……?」

それなら、亡霊のことや、ギコさんの質問にも説明がつく。
死者の世界とはいうけれど、あまり怖いという気はしない。
ギコさんの腕は暖かかったし、エクストは衣服なのに、見ず知らずの私を守ろうとしてくれた。
なにより私は、生きている。温かいベッドの中にいるせいか、恐怖心よりも、好奇心が勝った。

絵本はまだ続く。

54 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:42:40 ID:LDyVdyfk0

【けれど、この世界には実に、沢山の命がやってきます。動物も、植物も、虫も、魚も、人間も】

【そのうえ、月の裏には亡霊という、死者や想像力を蝕む怖い存在も現れ始めました】

【そのうち神様たちは忙しくなりすぎたので、代わりの者を立てることにしました】

【それが王子様たちです】

(*゚ー゚)「王子様?」

【王子様たちは、月の裏のいろんな場所にお城を築きました】

【そして、昼も夜もなく、この月の裏を守っているのです】

続くページは、月の裏の地理や、歴史について書かれているらしい。
……これを全部読み切るには、あと十年くらいかかっちゃいそうだ。
だって何度でも見返したくなるほど、綺麗で、目がおっつかない。

55名無しさん:2021/12/01(水) 23:44:38 ID:zoELJKgk0
支援

56 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:48:03 ID:LDyVdyfk0

しばらく読み耽っていると、足音が聞こえてきた。
ギコさんだろう。
私は本を閉じて、階段を見やる。でも、足音が増えていることに気づいた。
階段からひょっこり、ギコさんが顔を出す。
そしてもう一人、見知らぬ男の人も。
ギコさんより背は低いし、痩せ細っている。飄々とした顔立ちの人だ。

(,,゚Д゚)「飯、持って来たぞ」

( ´_ゝ`)「そういう時はさあ、「ご飯だよ」って言ってやりなよ」

(,,゚Д゚)「む……」

誰だろう。ギコさんと親しそうではある。
群青色の軍服のような出で立ちをした、おおよそこんな寒い場所には似合わない出で立ち。
見ようによっては、それなりに顔立ちが整っている。

( ´_ゝ`)「あ、心配しないで。敵じゃないから」

(*゚ー゚)「は、はあ」

(,,゚Д゚)「とりあえず、食え。シチューだ」

ギコさんは私の膝の上に、お盆を置いた。
美味しそうなホワイトシチューだ。ますますお腹が鳴る。
いただきます、と両手を合わせて、ぱくりと一口。……美味しい。
コンソメの味というやつだろうか。お野菜がとっても甘くて、口の中でほろほろ溶ける。
私は夢中になって、シチューを頬張った。

( ´_ゝ`)「うまいだろ、ギコのシチューは」

(*゚ー゚)「はひ!ほいひいれふ!」

( ´_ゝ`)「王子ってのはなんでこうも、皆飯を作るのがうまいかねえ」

ぴたり、と私の手が止まった。
……王子?ギコさんが?
思わずギコさんの顔を見上げる。顎にシチューの汁が伝った。

(,,゚Д゚)「たれてるぞ」

(;*゚ー゚)「はっ」

恥。

57 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:50:05 ID:LDyVdyfk0

↑訂正版


しばらく読み耽っていると、足音が聞こえてきた。
ギコさんだろう。
私は本を閉じて、階段を見やる。でも、足音が増えていることに気づいた。
階段からひょっこり、ギコさんが顔を出す。
そしてもう一人、見知らぬ男の人も。
ギコさんより背は低いし、痩せ細っている。飄々とした顔立ちの人だ。

(,,゚Д゚)「飯、持って来たぞ」

( ´_ゝ`)「そういう時はさあ、「ご飯だよ」って言ってやりなよ」

(,,゚Д゚)「む……」

誰だろう。ギコさんと親しそうではある。
群青色の軍服のような服を着こなした、おおよそこんな寒い場所には似合わない出で立ち。
見ようによっては、それなりに顔立ちが整っている。
……無駄に足が長い。短足のまたんきが見たら嫉妬するだろう。

( ´_ゝ`)「あ、心配しないで。敵じゃないから」

(*゚ー゚)「は、はあ」

(,,゚Д゚)「とりあえず、食え。シチューだ」

ギコさんは私の膝の上に、お盆を置いた。
美味しそうなホワイトシチューだ。ますますお腹が鳴る。
いただきます、と両手を合わせて、ぱくりと一口。……美味しい。
コンソメの味というやつだろうか。お野菜がとっても甘くて、口の中でほろほろ溶ける。
私は夢中になって、シチューを頬張った。

( ´_ゝ`)「うまいだろ、ギコのシチューは」

(*゚ー゚)「はひ!ほいひいれふ!」

( ´_ゝ`)「王子ってのはなんでこうも、皆飯を作るのがうまいかねえ」

ぴたり、と私の手が止まった。
……王子?ギコさんが?
思わずギコさんの顔を見上げる。顎にシチューの汁が伝った。

(,,゚Д゚)「たれてるぞ」

(;*゚ー゚)「はっ」

恥。

58名無しさん:2021/12/01(水) 23:50:36 ID:xAOuj9Iw0
支援

59 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:56:07 ID:LDyVdyfk0

(,,゚Д゚)「食べながらでいい、話を聞いてくれるか」

(*゚ー゚)「はひ」

(,,゚Д゚)「隣のこいつはアニーシャ。【人魚の丘】の王子だ」

( ´_ゝ`)「アニーでいいよ。しぃだっけ?よろしく」

(*゚ー゚)「ごくん。よろしくおねがいします」

とっつきやすく、礼儀正しい人だ。
柔らかい笑みを浮かべて、私の手を取る。
死者の国というけれど、ギコさんもアニーさんも、死者とは思えないほど手があたたかい。

(,,゚Д゚)「この世界は今、大変な事になっている。正直なところ、迷い込んだ子供ひとりに構っている状況じゃないくらいだ」

(*゚ー゚)「と、いうと……」

(,,゚Д゚)「亡霊の軍が攻めてきているんだ。しぃが出会ったのは多分、斥候だろう」

(;*゚ー゚)「せっこー?」

( ´_ゝ`)「敵の様子を探ったり、その土地について詳しく調べる兵士のことだよ」

盛岡塾じゃ絶対教えてもらえない単語だ。
二人の話を聞くに、とても異常なことが起きているらしい。
彼等は命を貪るだけの邪悪な存在で、単体で行動することが殆どだそうだ。

60 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:01:16 ID:v2tBEie20

(,,゚Д゚)「月の裏の王子たちは今、どこも亡霊軍の襲撃を受けている」

(,,゚Д゚)「幸い、ミルク雪原は極寒の地で、亡霊にとっても住みやすい場所ではない。後回しにされているが……」

(,,゚Д゚)「攻め入られるのも、時間の問題かもしれん」

(*゚ー゚)「そもそも、なんで亡霊たちが軍隊になって、襲ってるんですか?」

( ´_ゝ`)「……魔王さ」

アニーさんが、厳しい表情に変わった。
魔王。ゲームやファンタジーの世界でしか聞かない単語に、思わず面食らった。
そもそも死者の世界の王様こそ、魔王なんて呼ばれる類じゃないのか。
でも二人の顔つきを見るに、魔王という存在は、この月の裏では招かれざる相手であることは、容易に察せられた。

(,,゚Д゚)「魔王は千年に一度、現れるか現れないか。それくらいの稀な、邪悪な魂の持ち主だ」

(,,゚Д゚)「普通はそんな邪悪な魂は、月の裏に来る前に「審判」にかけられ、魂を浄化されるか、地獄という場所に向かうんだが……」

( ´_ゝ`)「それでも、たまに迷い込んでくることもある。しぃのようにね」

(*゚ー゚)「はぁ……」

(,,゚Д゚)「魔王がなぜ軍隊を組み、月の裏を襲っているかは分からない。だが対処せねば」

( ´_ゝ`)「そういうわけでね、今どこもかしこもてんてこ舞いなのさ」

61 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:06:57 ID:v2tBEie20

話を聞きながら、なんとなく事情は察した。
つまりこの世界には魔王と呼ばれる、とんでもない存在が現れた。
そして亡霊たちを集め、軍隊をつくり、月の裏を襲っている。
王子たちは月の裏を守るため、亡霊の軍隊と戦っている。

( ´_ゝ`)「人魚の丘は結界を張って今は凌いでいるけど、時間の問題だしね」

(,,゚Д゚)「ミルク雪原も余裕がない。もともと住民は多い方じゃないが、動物たちの避難も完全に終わったわけじゃない」

(*゚ー゚)「……」 はっ

そういえば、高岡先生が呟いていた言葉を思い出す。
ミルク雪原、人魚の丘。どちらも高岡先生が電話の最中に呟いていた単語だ。
二人はその王子だという。でもこの場に、高岡先生はいない。
なら、高岡先生は今どこに?

(*゚ー゚)「あの、高岡先生は……」

( ´_ゝ`)「センセー?」

(,,゚Д゚)「ハインのことだ。アイツは今頃、「ゆうやけの森」に救援に向かっている頃だろう」

( ´_ゝ`)「俺達も姿は見てないな。この状況で、連絡も取り合えないし……」

(;*゚ー゚)

62 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:11:56 ID:v2tBEie20

スプーンを強く握りしめた。
私がこうしてのほほんとシチューを食べている間も、高岡先生は戦っているかもしれない。
そう思うと、気が気じゃなくなってしまった。

私に出来ることなんて、たかが知れている。
現に、三人の亡霊を相手に、なすすべもなくボロボロにされたばかりだ。
でも現状を知ってしまった今、何もしないでただベッドの中に包まっている訳にもいかない。
せめて、高岡先生の無事だけでも確認したい。
それにきっと、家でお父さんとお母さんも、多分お姉ちゃんだって心配している。

ぐずぐずしていられない。

(*゚ー゚)「あの、事情は分かりました。助けてくれてありがとうございます」

(*゚ー゚)「私のことは、自分でなんとかします!だから……負けないでくださいね!」

せめて一人で、高岡先生の元までたどり着かねば。
きっと帰り道はどこかにあるはずだ。エクストだけでも届けてあげたい。
それに高岡先生にちゃんと、「勝手についてきてごめんなさい」って言わないと。

63 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:18:42 ID:v2tBEie20

( ´_ゝ`)「なに言ってんの」

(*゚ー゚)「えっ」

(,,゚Д゚)「当分はお前、向こうの世界に戻れないぞ」

(*゚ー゚)「えっ……」

え?今のはそういう流れじゃないの?
「今は戦争中だからお前に構っている暇はないんだ」ってことではないの?
っていうかそもそも帰れないの?
呆ける私を前に、ギコさんとアニーさんは目配せした。

( ´_ゝ`)「月の裏に訪れた、生きた人間はね。月の裏に住む王子のうち、最低でも9人の許しがないと帰れないんだ」

(*゚ー゚)「ほえぁ」

(,,゚Д゚)「つまり、俺達を除いて、あと7人の王子に会わないといけない」

( ´_ゝ`)「しかも俺達はともかく、他の王子は警戒心が強くてね。中々会えないと思うよ」

なんてこったパンナコッタ。
そこまで無理ゲーレベルの超難題とは聞いていない。
と、いうか、9人も王子が居るのか。多すぎない?話を聞くに、もっと多そうだけど。

(;*゚ー゚)「前途多難すぎる……」

(,,゚Д゚)「まあどのみち、俺達も他の王子たちの助けを借りねばならん」

( ´_ゝ`)「旅は道連れ、っていうだろ。どうだいしぃ、俺達の国を救う旅に、同行してくれないかい」

64 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:24:48 ID:v2tBEie20

二人は言って、私に手を差し出した。
……壮大な話になってしまった。
ただ、片思いの先生にコートを届けにきただけなのに!

( ´_ゝ`)「戦争に巻き込むのは、申し訳ないけどね。君が帰るには、それしか手はない」

(,,゚Д゚)「極力、お前を守るとは保証しよう。それが王子の務めだからな」

(*゚ー゚)「……その、迷惑じゃ……」

( ´_ゝ`)「子供が遠慮するもんじゃないよ」

(,,゚Д゚)「いずれはお前も、月の裏の民になる。なれば守るのは道理だからな」


死者の世界、王子、戦争、不思議の連続。
そして私に多分、さほど選択肢はない。
でも私は――ドキドキしていた。胸が躍っていた。

(*゚ー゚)(知りたい。この世界のこと、高岡先生のこと)

(*゚ー゚)(――どうして先生は、塾の先生なんかやってるの?)

(*゚ー゚)(この不思議な世界で、どんなことをして、どんな経験をしてきたんだろう)

(*゚ー゚)(知りたい!高岡先生に、会いに行かなきゃ!)

(*゚ー゚)(まだまだ聞いてないこと、沢山あるもん!)

(*゚ー゚)「……はい!お願いします!」

私は二人の、大きな手を取った。
小さな町の片隅で生まれた、ちっぽけな私の大冒険。
大好きな家に帰るまでの、途方もない旅が――

この小さなロッジから、まさに今、始まった。

65 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:25:38 ID:v2tBEie20
. 



Episode1 終

66 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:26:56 ID:v2tBEie20


おまけ

(*゚ー゚) 9歳 身長135㎝

(,,゚Д゚) 24歳 身長197cm

( ´_ゝ`)23歳 身長185cm

<_プー゚)フ 65歳 40㎝

次回はそのうち ほな

67名無しさん:2021/12/02(木) 00:41:44 ID:ssXy6jaI0
乙!!!!!!!!!!

68名無しさん:2021/12/02(木) 00:52:17 ID:QBRH5vkw0
乙!
大冒険の予感に胸が高鳴る!

69名無しさん:2021/12/02(木) 07:06:05 ID:9cKAc2QA0

投下が早くて助かる

70 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:14:46 ID:Lb2uy7CM0
おっす ながら投下や

71 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:15:40 ID:Lb2uy7CM0







Episode.0     「夢に音楽がない理由」

72 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:26:27 ID:Lb2uy7CM0

月の裏という世界に落っこちて、早一日くらいが経った。
「魔力」というものも回復したし、傷も癒えて絶好調。
骨も折れた感じがしたし、全身ずたぼろだったのに、たった半日で全快ってすごい。

(,,゚Д゚)「傷も治ったな。やはり子供は回復力が違う」

(*゚ー゚)「年齢と関係あるの?」

( ´_ゝ`)「ここは夢と想像の世界でもある。想像力が豊かな人、芸術肌の人ほど、
       月の裏の世界では強い力を持つ傾向にあるんだ。子供は特に回復力に長けてる」

(*゚ー゚)「へえ〜……」

その割に私、エクストからは「魔力がない」って言われたけど。
人に言われるほど、私は想像力が豊かとも思えない。
そういえばさらっと流していたけど、この世界ではどれだけ常識が通じるのだろうか。
私は「魔力」というものにも特にぴんときていない。

(;*゚ー゚)「私、この世界のこと何も分かってないのに、この先やっていけるかな……」

(,,゚Д゚)「一人で無鉄砲に旅をしようとした奴の台詞じゃあないぞ」

( ´_ゝ`)「ははは。まあこの先、俺達が旅の中で教えてあげるよ」

(*゚ー゚)「頼りにしてます……」

いや本当に。

73 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:34:25 ID:Lb2uy7CM0

ともあれ、私の回復を待って、冒険の準備をすることになった。
さしあたって必要なのは、長旅のための装備。
幸い、衣服ならエクストがいる。

<_プー゚)フ「元気になってくれてよかったぜ!死ぬんじゃないかってヒヤヒヤしたからな」

(*゚ー゚)「心配かけてごめんね、エクスト。あの時はごめんなさい」

<_プー゚)フ「構うなって!服は着る側を守ってナンボっつったろ!」

気のいい洋服だ。いや精霊だっけ。王族付きというブランドは伊達じゃないらしい。
彼は快く、高岡先生を見つけるまでの間、私の衣服になってくれるという契約を交わした。
本来なら高岡先生の服ではあるのだけど、緊急事態ということもあり、手を貸してくれるそうだ。

<_プー゚)フ「俺を忘れたハインが悪いんだからな!ふん!」

(;*゚ー゚)「月の裏の一大事に呼ばれたんだもん、よっぽど焦ってたんだと思う……」

(*゚ー゚)「それに高岡先生、エクストのこと大事にしてるじゃない」

<_プー゚)フ「む……」

私は高岡先生に会って二年程度だけれど、エクストのことを大事にしていたことは分かる。
高岡先生は毎年冬になると、灰色のコートになったエクストを着て、いつも塾にやってきた。
同じデザインだし、新しいの買わないの?と聞いたけど、高岡先生ははにかんで言った。

从* ゚∀从『このコートがいいんですよ。ねずみ色でかっこいいし、あったかいし。大事にしてやりたいんです』

(*゚ー゚)「絶対結婚相手の事も大事にしてくれるタイプだよねぇ……」

<_プー゚)フ「いやそっちは知らん。アイツが恋人とか連れてるところ見た事ないし」

(*゚ー゚)oそ「ッシャアッ!!」

<_プー゚)フそ ビクッ

つまり私にもチャンスはある。高岡先生は恋人歴なし。覚えた。
ありがとうエクスト。私にもワンチャンツーチャン(*゚∀゚)あるってわけ。
うん?今何か変なのよぎったな?まあいいか。

74 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:50:47 ID:Lb2uy7CM0

食べ物等は、ある程度日持ちするものを持っていくようだ。
奇妙なクッキーみたいなもの、チーズっぽい何か、パン、干し肉、塩漬けにした魚、エトセトラ。
包みは大きな深緑色の葉っぱや小さな収納ケース。
旅なんて勿論したことないし、ちょっとワイルドな食べ物に目移りしてしまう。

(*゚ー゚)「これ、どうやって食べるの?」

(,,゚Д゚)「だいたいは一度火に通して食べるとかだな。後は現地調達だ」

(*゚ー゚)「……というと……」

(,,゚Д゚)「狩りだ」

そう言って彼はナイフや弓矢を見せる。わあ。ゲームの世界みたいだ。
月の裏の住人でも、お腹は空くし疲れもするらしい。現実と違いがあるとするなら、病気と老いがないことなんだとか。
ミルク雪原のある月の裏の北側は、あまり文明的な生活を送る住民は多くないそうだ。
なので狩りや酪農などで生計を立てている住民が殆どらしい。

(,,゚Д゚)「お前にもそのうち覚えてもらうぞ」

(;*゚ー゚)「ひぃ〜っ……」

75 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:59:09 ID:Lb2uy7CM0

( ´_ゝ`)「あと必要なのは、「星の骸」か」

(*゚ー゚)「ほしのむくろ?」

( ´_ゝ`)「簡単に言えば、魔力の源さ。
       しぃがエクストを着続けるなら、この先、彼の力を度々借りることになるかもしれない」

( ´_ゝ`)「その度に魔力を吸われてダウン……となると、旅に支障も出るだろうし」

(;*゚ー゚)「それはまあ、確かに……」

アニーさんが見せてくれたのは、琥珀色の小さな石。
べっこう飴みたいで美味しそうだ。何も言わずに見せたら食べていたかも。
いわく、星の骸は、名前の通り「星の死骸」であるらしい。
魔力が膨大に詰まっていて、とても貴重なものなのだそうだ。

( ´_ゝ`)「王子である俺達は、元々強い魔力を持っているし、お守り程度みたいなもんだ」

( ´_ゝ`)「だから譲ってあげる。旅が終わるまではね」

(*゚ー゚)「あ、ありがとうございます……」

結構貴重なものを貰ってしまった。大事にせねば。
星の骸には金色のチェーンが繋がっていて、ネックレスのようにぶら下げることが出来る。
首につけると、ちりんと小さく音が鳴った。
可愛いかも。

(,,゚Д゚)「武具よし、食料よし、装備よし、地図よし」

( ´_ゝ`)「さてギコ、進路はどうする?」

(,,゚Д゚)「まずは領内を見回っておきたい。白糖山地へ向かおうと思う」

( ´_ゝ`)「ということは、東へ向かうんだね。了解」

地理は完全に分からないので、行先は二人に任せることにする。
私に必要なのはまず、この月の裏を理解することだ。
ギコさんは私に、あの本を譲ってくれた。
子供向けだから学習にはちょうどいいだろう、とのことだ。
有難く、借りることにした。

76 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:07:08 ID:Lb2uy7CM0

この日、ミルク雪原に雪は降っていなかった。
ずっと暗いから昼夜なんてあったものではないけれど、空を見れば時間帯は分かるらしい。

(,,゚Д゚)「今は向こうに火星が見えるから朝だ。オーロラの数が多いほど気温が高い」

(*゚ー゚)「あの光ってるカーテンみたいなの?初めて見た」

(,,゚Д゚)「あれは夜光生物の一種「オーロラ」だ。今は餌の星を求めて活動している」

(;*゚ー゚)そ「あれ生物なの!?」

(,,゚Д゚)「月の裏では、な。まあ人間を襲う事はまずないから安心しろ。それに食うと旨い」

(;*゚ー゚)そ「食べるのっ!?」

( ´_ゝ`)「王子たちの間でもご馳走扱いだよ。滅多に食べれないけどね」

ううん、カルチャーショック。
空に輝く無数のパステルカラーの色合いを眺め、ふと疑問を口にした。

(*゚ー゚)「そういえば、この世界で死んじゃうとどうなるの?
    死は存在しないっていうけど、星の死骸にしたって、狩りで食べられる生物たちだってそうだし」

(,,゚Д゚)「そこに気が付くか。まあ、早い話が、この世界で「死」を経験した者は「夢に生まれ変わる」んだ」

(*゚ー゚)「夢に?」

( ´_ゝ`)「君達が見ている夢の中で、まったく見知らぬ人間だったり、ちぐはぐなものが出て来たりするだろう?
       それは全部、月の裏で「死」を経験した者達が生まれ変わった存在なんだ。
       夢に生まれ変わった後は、その夢を見た人の「想像力」のエネルギーになるんだよ」

(*゚ー゚)「へえ〜……」

ひとつ賢くなった。

77 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:15:57 ID:Lb2uy7CM0

いざ、防寒具に身を包み、大きなリュックを背負って、私達は歩き出した。
ミルク雪原にはあまり、家屋の類はない。
ギコさん曰く、住民たちの大半は家を必要としない生き物達ばかりであるらしい。
大半は大きな木のうろだとか、洞窟だとか、枯れた池の底、土の下に居を構えているんだとか。

(*゚ー゚)「なんだか動物みたい」

(,,゚Д゚)「実際、住民たちの生前の殆どが動物だ。この土地は寒いから、あまり人間は来ない」

(*゚ー゚)「……それ、寂しくないですか?」

(,,゚Д゚)「ちっとも。俺は人間のことはそこまで好かん。嘘つきや見栄っ張り、お喋りはな」

(;*゚ー゚)(うっ、地味に耳に痛い)

まあ、なんとなく分かる気がした。
ギコさんは話している限り、会話が得意そうというわけでもない。
しん、と音を吸い込むこの土地は、なんとなくギコさんの性格を表してるようにも思える。

( ´_ゝ`)「あんまり気にしないでいいよ、しぃ。ギコは元々、人付き合いが得意じゃないんだ。
       照れ屋さんで口下手なだけだから」

(,,゚Д゚)「うるさいぞ、そこ」

( ´_ゝ`)「怖い顔しないでよ、本当の事言ったまでだろ」

(,,゚Д゚)「余計な入れ知恵を吹き込むなというんだ」

(*゚ー゚)(……耳がちょっと赤くなってる……)

ただの怖い人、というわけではない。
私達を本気で嫌っている……というわけでもなさそうだ。
そこは少しだけ安心した。
命を救ってくれた人に嫌われているなんて、やっぱりいやだし。
せっかくだから、仲良くなりたい。
この先、いつ終わるかも分からない旅を続けるなら、喧嘩はしたくはない。

……この先?
はた、と私は、大事なことに気が付いた。
そうだ、一番肝心なことを忘れていた!

78 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:28:21 ID:Lb2uy7CM0

(;*゚ー゚)「あの!私、この世界にきてそれなりの時間経ってるんですけど……」

(;*゚ー゚)「現実での私、どうなっちゃってるんだろ!?」

そう、私はお父さんやお母さん、お姉ちゃん、そして友達たちにも、何も言わず出て行ってしまった。
連絡を取っていないまま、一日以上が経過している。
今頃もしかすると、誘拐されたか迷子になったかと思って、皆が探し回っているんじゃないだろうか。

それに、帰ってきたときに何と言い訳すればいいんだろう。
「月の裏で旅をしていました」なんて言っても、絶対誰も信じてくれない。
というか、そもそもいつ帰れるかも分からないのだ。
学校はどうする?塾は?

( ´_ゝ`)「安心して。月の裏と現実世界は、時間の流れが違うんだ。
       君がここで一週間過ごすとしても、向こうでは1時間しか経たないよ」

(*゚ー゚)「そ、そうなの?」

( ´_ゝ`)「でも、あまり悠長にはしていられない。月の裏に来た生者は、現実世界に忘れられていくからね」

(;*゚ー゚)「忘れ……え?」

今、聞き捨てならないことをさらっと言われた気がする。

( ´_ゝ`)「月の裏に迷い込んだ人間は、時間がたつほど月の裏に馴染んでしまう。
       すると、現実では「いなかった人間」として扱われて、皆の記憶からどんどん消えていくんだ。
       存在感もぐっと薄れて、「いないことに疑問を持たれなく」なる」

(i!i゚ー゚)ゾッ……

想像して背筋が冷えた。
つまり、私は一刻も早く9人の王子たちと会い、現実世界に戻るための「許し」を得なくてはならないのだ。
私は夕方の三時過ぎにこの世界へやってきた。門限は七時。

この世界の時間に置き換えると、残された猶予は一ヶ月。
その間に九人の王子をみつけなくてはならない。

79 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:31:15 ID:Lb2uy7CM0

※訂正版
(;*゚ー゚)「あの!私、この世界にきてそれなりの時間経ってるんですけど……」

(;*゚ー゚)「現実での私、どうなっちゃってるんだろ!?」

そう、私はお父さんやお母さん、お姉ちゃん、そして友達たちにも、何も言わず出て行ってしまった。
連絡を取っていないまま、一日以上が経過している。
今頃もしかすると、誘拐されたか迷子になったかと思って、皆が探し回っているんじゃないだろうか。

それに、帰ってきたときに何と言い訳すればいいんだろう。
「月の裏で旅をしていました」なんて言っても、絶対誰も信じてくれない。
というか、そもそもいつ帰れるかも分からないのだ。
学校はどうする?塾は?

( ´_ゝ`)「安心して。月の裏と現実世界は、時間の流れが違うんだ。
       君がここで一週間過ごすとしても、向こうでは1時間しか経たないよ」

(*゚ー゚)「そ、そうなの?」

( ´_ゝ`)「でも、あまり悠長にはしていられない。月の裏に来た生者は、現実世界に忘れられていくからね」

(;*゚ー゚)「忘れ……え?」

今、聞き捨てならないことをさらっと言われた気がする。

( ´_ゝ`)「月の裏に迷い込んだ人間は、時間がたつほど月の裏に馴染んでしまう。
       すると、現実では「いなかった人間」として扱われて、皆の記憶からどんどん消えていくんだ。
       存在感もぐっと薄れて、「いないことに疑問を持たれなく」なる」

(i!i゚ー゚)ゾッ……

想像して背筋が冷えた。
つまり、私は一刻も早く7人の王子たちと会い、現実世界に戻るための「許し」を得なくてはならないのだ。
私は夕方の三時過ぎにこの世界へやってきた。門限は七時。

この世界の時間に置き換えると、残された猶予は一ヶ月。
王子たちがどこにいるかも分からない手探りの状態で、七人を探さなくてはならないのだ。

80 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:35:28 ID:Lb2uy7CM0

(;*゚ー゚)「因みに、そのー」

(;*゚ー゚)「王子たちの居場所って、分かります……?」

(,,゚Д゚)「そうさな。城を持つ王子は4人。連絡の取れない王子が4人。放浪癖が3人」


(,,゚Д゚)「連絡の取れない連中はいずれも交戦中か、深手を負っているか、消えたか」

(,,゚Д゚)「そう考えると、まず城を持つ4人の王子に会いに行くのが最善だろうな」


( ´_ゝ`)「放浪癖の三人は、王子の誰かしらが把握しているとは思うけどね……」


……難易度高くないか。
思った以上に私は、この旅のことを甘くみていたかもしれない。
不安がどっと押し寄せてくる。
そもそも、私が生きて帰れる保証が確実にあるわけでもないのだ。

<_プー゚)フ「ま、そんな不安な顔しなさんな」

<_プー゚)フ「いざとなれば、ハインがどうにかしてくれるって。
       アイツ頭いいし、色んなこと知ってるしな」

(*゚ー゚)「! ……大丈夫、かな」

<_プー゚)フ「俺が保証するぜ。アイツはヒト助けが趣味みたいなやつだしな」

エクストは自信満々に言い切った。
いいなあ、それを言えるだけの信頼関係が二人の間にはあるのだ。
ちょっと嫉妬してしまう。

81 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:43:22 ID:Lb2uy7CM0

(,,゚Д゚)「ぐずぐずしてもいられん。先へ進むぞ」

( ´_ゝ`)「白糖山地は広いからねえ」

(*゚ー゚)「は、はい!」

――そうして、二日が経った。
ミルク雪原の丘をいくつも越えて、辿り着いたのは白糖山地。
深緑の森を覆うような、まるで粉砂糖をまぶしたような白い景色を、高い崖から一望できる。
気温はミルク雪原より、やや高く感じられる。

(*゚ヮ゚)「きれ〜!!」

(,,゚Д゚)「白糖山地は、その名の通り砂糖が湧き出る土地だ。あの白いのは全部砂糖だからな」

(*゚ー゚)「全部!?すっごい、甘党の楽園じゃん!」

( ´_ゝ`)「まあ、食用ではないけどね。人間が食べても甘くはないそうだよ」

(*゚ー゚)「なあんだ、がっかり」

(,,゚Д゚)「しかし土の養分になるし、植物の住民たちにとっては数少ない食糧でもある」

(,,゚Д゚)「……亡霊たちが居座るには、十分な立地条件だ」

82 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:49:23 ID:Lb2uy7CM0

ぎろり、とギコさんの銀色の瞳が、山地の一角を睨みつけた。
つられてそちらを見れば、白糖とは違う、不気味な青白い輝きがいくつか見えた。
……亡霊だ。木々に群がって、じゅるじゅると啜るように、木々にまとわりついている。

( ∴)ゴェェ 
( ∴)ゴエェェェ
( ∴)ジュゾゾゾゾッチュルルル

亡霊が樹木から離れる。
あれほど綺麗な青緑色だった葉はすっかり茶色にくすんで、枝や幹は萎れてしまっている。
亡霊がとどめとばかりに、体当たりを一撃。
樹木が倒れ、ずずん、と樹木が倒れてしまった。
ヒュウウウ、と風に乗って、すすり泣くような声が聞こえてくる。

(,,゚Д゚)「木々が泣いている。……あの樫の木は、この森の中で根づいてまだ若いのに」

(,,゚Д゚)「……俺の住民に手を出したな。後悔させてくれる……!」

(;*゚ー゚)「ギコさんっ!?」

ギコさんは斧を手に、崖から飛び降りる。
何十メートルもの断崖絶壁。普通なら気絶しそうだ。
にも関わらず、マントをはためかせ、彼は見えない段差を踏むように、ジャンプと宙回転を繰り返す。

(,,゚Д゚)「っ、らあ!!」

巨大な白銀の斧を力任せに振り下ろす。
真下に居た亡霊の一体は、身構える暇もなく真っ二つに裂け、爆ぜて消えた。
鮮やかな手並みとはこのことだ。

( ∴)そ ゴェ!?
( ∴)ゴエ、ゴェェエ


(,,゚Д゚)「まず一体」 ギヌロ

83 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:56:13 ID:Lb2uy7CM0

(;*゚ー゚)「ああっ、ギコさんたら!」

亡霊の数は二十くらい。
対してギコさんは一人。どう見ても劣勢。
なのに彼は武器を構え、全員と相手するつもりらしい。どう考えても無茶だ。

(;*゚ー゚)(冷静な人だと思ってたけど……)

ギコさんは本当は、炎のような激しい感情を抱えている人なのかもしれない。
そんなことを思ったのは、彼の斧を見たからだろうか。
今の彼の斧は、銀色の炎に似た輝きをまとい、彼の周りだけ明るく照らされている。

( ´_ゝ`)「あーもー、昔っから考えなしに突撃するんだから……」

(;*゚ー゚)「ど、どうしよう、あんなに沢山の亡霊相手に……」

( ´_ゝ`)「ぶっちゃけ敵じゃないとは思うけども、このまま増援を呼ばれると面倒だし……」

( ´_ゝ`)「しゃーない、力を貸しますか。あのままだと住民たちもまとめて斬りかねないし」

アニーさんは溜息をつき、大きな鞄に手をつっこんだ。
けれど出てきた道具を見て、私は目を丸くする。
……出てきた道具は、どう見ても青い横笛……フルートだ。

84 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:03:33 ID:Lb2uy7CM0

( ´_ゝ`)「しぃ、夢に足りないものってなんだと思う?」

(;*゚ー゚)「え?」

何を突然尋ねるのだろう、この人は。
アニーさんはフルートを構え、ギコさんたちを見下ろす。
密生する木々の間をぬうように、ギコさんは的確に亡霊を一体ずつ倒していく。
けれど亡霊たちはどんどん集まってくる。キリがない。

( ´_ゝ`)「気づいたことはないかい?夢の中には、音楽がないだろう」

(*゚ー゚)「え……」

言われてみれば。
私は夢を何度も見たことがある。
けれど、夢の中で誰かの声や音は再生されても、音楽はかかったことがないかもしれない。
もしかかったことがあっても、きっと忘れているかも。

( ´_ゝ`)「その理由はね」

( ´_ゝ`)「俺達、王子たちにとって、音楽こそが力だからさ」

彼はニッと笑うと、フルートの吹き口を指でなぞった。
ざわ、っと空気が揺らぐ。まるでアニーさんの周囲に音が集まるかのようだ。

85 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:11:36 ID:Lb2uy7CM0

( ´_ゝ`)「景気よく、この一曲でいこうか」

( ´_ゝ`)「J・F・ワーグナー、「双頭の鷲の旗の下に」!」

https://www.youtube.com/watch?v=MUwWRogQPqY&t=20s

アニーさんが力強くフルートに息を吹き込む。
すると、深い音が鳴り響き、空気が凄まじい音を立てる。
勇ましい曲が流れ、どこからともなく打楽器や弦楽器の調べも聞こえてきた。
空中に現れる、無数の水の槍。兵隊のように整列して、一斉に眼下の亡霊たちに向けられた。

(;*゚д゚)「あ!」

( ´_ゝ`)「上手く避けろよ、ギコ!」

(,,゚Д゚)「!」

刹那、雨霰と水の槍が降り注ぐ。
咄嗟にギコさんは巨大な斧を振り回した。
すると斧は瞬く間に変形して、巨大な盾に――否、あれはシンバル?
巨大なシンバルにかわって、その身を護る。

86 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:17:45 ID:Lb2uy7CM0

( ∴)ギョエブッ!?

( ∴)ゴゲゲッ!?

身を護る術のない亡霊たちは、次々と串刺しになり、青い泡となって消えていく。
アニーさんが曲を奏でる間、槍はとめどなく降り注ぐ。
どたばたと逃げ出す亡霊たちの姿も見えるが、逃がしはしないとばかりに突き刺していく。

( ´_ゝ`)「っ……ふう!ご静聴ありがとうございました」

アニーさんがフルートから指を離すころには、亡霊たちの姿はひとつとしてなかった。
戦いを通り越して、もはや蹂躙といっても差し支えない、一方的な戦い。
飄々としたアニーさんからは考えられないような力だった。

<_プー゚)フ「流石は人魚の丘の守護者ってところか。戦嫌いとは思えない強さだな」

( ´_ゝ`)「ハインやギコに比べればまだまだ、俺はひよっこさ。さ、しぃちゃん。下に降りようか」

(;*゚ー゚)「あ、はい」

アニーさんは私を抱いて、崖から飛び降りた。
マントがはためき、ギコさんの時よりかは幾分かゆっくりと、柔らかく降下。
ギコさんの隣に降り立つと、周囲を見回した。
……ひどい。降り立った場所から見渡す限り、大半の木が被害に遭っていた。

87 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:32:42 ID:Lb2uy7CM0

(*゚ー゚)「そんな……ほとんどの木が枯れてる……」

(,,゚Д゚)「……辛うじて皆、息はある。根に生命力の一部を逃がしていたようだな」

(,,゚Д゚)「駆けつけるのが遅くなってすまない。今回復してやるからな」

ギコさんは木々のひとつひとつを撫でる。
まるで幼い子供や家族を労わるような優しさだ。
物言わぬ木が相手だろうと、彼にとっては大切な領土の民なのだ。
そしてきっと――生前は、なにかの命だった。

(,,゚Д゚)「幸い、白糖山地は豊かな土地だ。俺が力を貸せば、回復も早かろう」

ギコさんは巨大なシンバルをひとなでする。
すると、銀のシンバルはみるみる縮んでいく。
今度は大きめのサイズの、無数のハンドベルにかわり、ふわふわと宙に浮かぶ。
彼はその一つを手にし、大きく揺らした。

https://www.youtube.com/watch?v=kvhsY19NGlI

厳かで、けれど胸に染みる曲が鳴り響く。
銀色の光が静かに、ハンドベルから放たれて、ふわふわとタンポポの綿毛のように散る。
光が枯れた木々にぴたりとくっつくと、吸い込まれていく。
すると……逆再生のように少しずつ、萎れた枝や幹がみずみずしさを取り戻す。
茶色く枯れた葉は、元の青さを取り戻し、喜ぶようにざわざわと梢が揺れる。

(,,゚Д゚)「……」

(,,゚Д゚)「ルイード。アンチェッタ、レイ、ミォーロ……よしよし、元気になったな。
     愚痴は後で聞いてやる。俺達は旅を急ぐ身でな。いそぎ、この森にも衛兵をつけよう」

(*゚ー゚)「?」

(,,゚Д゚)「彼等の名前だ。生前は皆、孤独のまま山で死んだ者や、山に帰れず朽ちた獣たちばかり」

(,,゚Д゚)「ここで木として寄り添い合いながら、次の生を待っている」

( ´_ゝ`)「ギコは木々の声が聞こえるんだ。この土地の王子だからね」

(*゚ー゚)「……」

私は木々を見上げる。只の木だと思っていたけど、彼等には名前があり、人生がある。
言葉は持たないけれど、ギコさんは彼等の声が聞こえるらしい。
……もし私の耳に聞こえたら、どんな会話が聞こえたのだろう。

88 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:40:27 ID:Lb2uy7CM0

ギコさんはハンドベルを再びシンバルに変えた。
今度は人間でも持てるサイズだ。それを盛大に、ジャァァアアン、と鳴らす。
ただの煩い音ではなく、その音一つが複数の音を持つような、不思議な音色だ。

すると、森の奥からザッザッと音が聞こえてくる。
は、っと私は息を飲み、周囲を見回した。
いつのまにか、白や黒の毛並みを持つ、ゾウのような牙を持った狼たちが、私達を取り囲んでいた。

(;*゚ー゚)「わ、わ……(囲まれた!)」

(,,゚Д゚)「安心しろ、俺の兵士達だ。気まぐれな奴等だが、頼りになる」

(,,゚Д゚)「来てくれて助かる。知っているとは思うが、亡霊の軍がここまで足を踏み入れて来た。
    俺はしばらくこの土地を留守にする。戻るまでの間、白糖山地の警備の強化を頼めるか」

狼たちは目を見合わせると、いっせいに遠吠えを上げ始めた。
犬のそれとは違う。吹きすさぶ吹雪のような声に、私は身震いした。
途端、彼等はまたさっと身を翻し、森の奥へと消えていく。

89 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:48:56 ID:Lb2uy7CM0

(,,゚Д゚)「請け負ってくれたようだ。彼等は上下関係に厳しくてな、警戒心も強い」

(,,゚Д゚)「悔しいが、前まではハインの言う事しか聞かなかったような連中だ。
     ……戦争になって、危機感も高まっているんだろう」

ギコさんは難しい顔をしながら、地図をもう一度眺めている。
身なりは狩人や山賊みたいだけれど、立ち振る舞いや言動は、本物の王子のそれだ。
ぶっきらぼうだけど、信頼できる人だ。私は心強い人を味方にしたんだな、と嬉しくなった。

(*゚ー゚)「ギコさん」

(,,゚Д゚)「なんだ」

(*゚ー゚)「さっきのギコさん、かっこよかったです」

(,,゚Д゚)

(#*゚ー゚)「でも、いきなり突撃するのはやめてください!肝が冷えましたよこっちは!!」

(,,゚Д゚)「む……」

(#*゚ー゚)「心配するからやめてくださいっ!」

(,,゚Д゚)「……、すまん」

へちょ、とギコさんが少し項垂れた。反省はしてくれたらしい。
なんとなく、私が危ないことをする度に、お母さんやお姉ちゃんが怒る理由が、分かった気がする。
アニーさんは「お、ギコが凹んだ」とけらけら面白がっていた。

 |:::) ……

 |彡 サッ


王子という存在についてまた一つ学びを得て、白糖山地の冒険は、まだまだ続く。
この一幕は、その序章に過ぎないのであった。

90 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:49:21 ID:Lb2uy7CM0

今日はここまで ほな

91名無しさん:2021/12/07(火) 13:14:31 ID:GE5HwjdI0
世界の広がり方が最高
とても面白いです 次も楽しみにしています
大好きです

92名無しさん:2021/12/07(火) 13:26:03 ID:zPywg3HU0

世界観が本当に最高で大好きすぎる

93名無しさん:2021/12/07(火) 15:24:38 ID:R7.n.H360


94名無しさん:2021/12/08(水) 01:31:58 ID:hiS/er3.0
乙です
戦闘描写凄い。ギコさんもアニーさんも格好良いわ、戦い方それ自体も面白いわ、ほんと最高だ

95名無しさん:2021/12/08(水) 11:55:31 ID:uXgZBPj.0
世界観最高すぎる
キャラも良い…楽しみ

96名無しさん:2021/12/26(日) 20:19:01 ID:L635Ahc.0
続き待ってるよ
すごく好き

97名無しさん:2023/04/19(水) 22:14:22 ID:OFS9yrHQ0
待ってる


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