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从 ゚∀从クレッセントハイムのようです

1 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 00:34:44 ID:mbBe8ZXo0
ながら投下 ゆっくり書く

2名無しさん:2021/11/30(火) 00:36:29 ID:85Rxn9aY0
超速支援

3 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 00:42:04 ID:mbBe8ZXo0

(*゚ー゚)

S区美符町は、都会と田舎を足して、緑で割ったような町だ。
最初は山ばかりだったのだけれど、都市開発によってビルや観光スポットが出来て、ここ数十年で人が沢山増えたらしい。
そこそこ綺麗で、そこそこ住宅街もおしゃれで、そこそこ遊べて、人通りもそれなりに多い。

私は椎名しぃ。この町で生まれ育った、女子小学生だ。
美符町の東側、大きな家がいっぱい並ぶ団地の、ちょっと坂道を上ったところに、赤い屋根の一軒家があったら、そこが私のおうち。
お父さんは小説家、お母さんは美容師さん。
お姉ちゃんのじぃと4人暮らし。

私は、今年のクリスマスで十歳になる。
クリスマスは大好き。プレゼントとクリスマスを一度に祝える。
友達は「しぃちゃん家でなら誕生日とクリスマスを一緒に祝えるから楽しい」と言ってくれる。
パパとママは、他の家の子たちの2倍はプレゼントをくれる。お姉ちゃんは1つしかくれないけど。

私は頭もいいし、なにより可愛い。
何不自由ない10年を、めいっぱい過ごしてきた。

4 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 00:50:42 ID:mbBe8ZXo0

从 ゚∀从

そんな私は、今、片思いをしている。
相手は高岡ハイン先生だ。

高岡先生は、「盛岡塾」に勤めている先生の一人だ。
皆は盛岡塾のことを知らないだろうから、説明しよう。私は気配りも一流なのだ。

盛岡塾は、美符町の繁華街にある、そこそこ大きな塾だ。
生徒1人〜数人ほどにつき、先生が一人受け持って、学校の宿題の面倒を見てくれたり、授業をしてくれる。
主に専用の教材を使って、生徒が自主的に問題を解き、先生は分からないところを教えてくれる。

取り扱う教科は、国語、算数、英語の中から選択式。
対象年齢は3歳から中学3年生まで。町内の子たちは、大体盛岡塾に通っている。
因みに、私はもうすぐ10歳だけど中学2年生レベルの勉強に手を付けている。
すごいでしょ。

从 ゚∀从

高岡先生について知っていることは、あまりない。
たぶん女性で、年齢は二十代くらいで、スレンダーだということ。
あまりに体がスレンダーで、顔は男とも女ともつかないのだ。
だから、高岡先生は実は男なんじゃないか、というクラスメイトもいる。

それから、チョコレート菓子が好きで、よく緑茶を飲んでいること。
ズボンばかり履いていること。採点中に、「サンタルチア」を口遊むこと。
よく、服の袖に、色んな猫の毛をくっつけていること。
私が知っているのは、その程度。

5 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 00:59:06 ID:mbBe8ZXo0

(*゚ー゚)「はあ……」

盛岡塾は、月曜日と水曜日にしか開いていない。
だから先生に会えるのは、いつも月曜日と水曜日の2日だけ。
しかも、塾が開いている15時から18時の、たった3時間だけなのだ!
もっと先生を間近で感じたい私からすると、あまりに短すぎる。
光の方が節度をもったスピードをしていると思う。

从 ゚∀从「ほらしぃちゃん、手が止まってるよ」
(*゚ー゚)「だってえ、どうせすぐ解けるもん」
从 ゚∀从「なんて言ってると、ほら。計算間違ってるよ」
(;*゚ー゚)「あ”っ」

こんな調子。
高岡先生は、私が問題を間違えた時しか声をかけてくれない。
でも、全部解けると「よくできました」って笑顔を向けてくれるし、分からないところを教えてくれる時は、とっても親身だ。
学校の先生なんかより教え上手だし、担任の自称イケメン斎藤先生なんかメじゃない。

(;*゚ー゚)「うう、また先生の前で間違えちゃった……」
( ^ω^)「しぃちゃん、真面目だおねえ」
(*゚ー゚)「高岡先生の前で頭悪いところ見せたくないもん」
ζ(゚ー゚*ζ「出た、高岡先生モード。しぃちゃんゾッコンすぎ〜」
(*゚ー゚)「うるさいなあ!」
(・∀ ・)「うるさいのはどっちだよ〜。ぺちゃくちゃすんなよな〜」
(#*゚ー゚)「あっちいって、またんき!邪魔しないでよ!」
(・∀ ・)「してませ〜ん、どっかのおしゃべりさんが勝手に手を止めてるだけで〜すwww」

.

6 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:06:29 ID:mbBe8ZXo0

(・∀ ・)

こいつは斎藤またんき。
学校のクラスメイトで、担任の斎藤先生の従兄弟。
私にしょっちゅう、ちょっかいをかけてくる意地悪なヤツ!大嫌い!
頭がいいから、私よりいい点とることも含めて、本当にイヤなやつ!

またんきはげらげら笑うと、いつも決まって、私の斜め後ろの席に座る。
40人程度しか入れない、この広いとはいえない教室内では、狭い通路同士すぐに声が届いてしまう。
私は先生の顔が見たいから、いつも採点席に近い前列に陣取る。
だからまたんきは、私に嫌がらせをするために、いつも斜め後ろに座るのだ。
なんていやらしい男子だろう!いつか、したらば川のばけものナマズに喰わせてやりたい。
そんなばけものナマズ、見た事ないけど。

(*゚ー゚)「……ああん、もう全部解き終わっちゃった……」
从 ゚∀从「お疲れ様。今日も殆ど満点だったね」
(*゚ー゚)「あんまり嬉しくない……」
从 ゚∀从「なんでさ。苦手だった英語も、今日は満点だったじゃない」
(*゚ー゚)「ぶぅ〜……」

違うのだ。満点で褒められるのは嬉しい。
けど、盛岡塾では、貰った教材が全部満点になったら、帰宅しなくてはいけないというルールがある。
自主勉強も一応許されてはいるけれど、原則、用事がないなら、塾に長居してはいけない。
3時間の間に沢山の生徒の面倒を見なくてはいけないので、子供に教室を占拠されると困るのだろう。

( ^Д^)「うんちっちwwwwwwwタマキンビローンwwwwww」
(・∀ ・)「だははははははwwwwwwww」
(*゚ー゚) イラッ……

こういうバカなお子様たちに居座られるなら、なおさらだ。

7 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:19:05 ID:mbBe8ZXo0

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん、帰ろー」
(*゚ー゚)「うん……」

ああ、今日も高岡先生とあんまり話せずに終わってしまった。
高岡先生はいつも、夜七時まで残って作業するらしい。
つまり必然的に、私は高岡先生と一緒に帰るだとか、デートのお誘いなどは絶対出来ないのである。
南無。せめて住んでいる場所とか知りたいのになあ。

そんなことを考えているとき。
普段は鳴らない軽快な電子音が、教室じゅうに鳴り響く。
思わず音の出元を見ると、高岡先生のポケットの中からだった。

从 ゚∀从「あっ……すみません、電話が」

高岡先生は携帯電話を手に、背中を向けて、裏口の方へと向かう。
携帯電話なんて持っていたんだ、と今更なことに驚いてしまった。
浮世離れした見た目だからか、ハイテクな道具などを使う印象がないせいだろう。

从 ゚∀从「……え?月の裏が?」

(*゚ー゚)「?(月の裏?)」

ぽつりと漏らした高岡先生の言葉に、私の耳がぴくりと反応してしまった。
今、月の裏と聞こえた。いったいどんな会話をしているんだろう。
帰り支度をすることも忘れて、私は高岡先生の背中を凝視する。

8 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:20:43 ID:mbBe8ZXo0

从; ゚∀从「……ミルク雪原……嘆きの砂丘……人魚の丘も?……」

(*゚ー゚)「(すごい、先生の顔から不思議ワードがいっぱい飛び出してる……レアかも……)」

从; ゚∀从「……王子たちが救援を?分かりました、すぐ向かいます」

高岡先生は携帯電話を切ると、塾長の盛岡先生の元に足早で向かう。
それにしたって。「王子」?「救援」?聞き流せない単語が次から次へと聞こえてしまった。
デレちゃんは一向に動こうとしない私に痺れを切らしたのか、「先に帰るね」と出て行ってしまった。

从 ゚∀从「……すみません、どうしても外せない急用で、すぐに向かわなくてはならなくて」
(´・_ゝ・`)「そんなオオゴトなのかい?まあ、今日は生徒も少ないし、上がっていいよ」
从; ゚∀从「ありがとうございます!埋め合わせは必ずしますので!」
(´・_ゝ・`)「気にしないで。何があったかしらないけど、気を付けてね」

盛岡先生が見送るなか、高岡先生はきびきびとした足取りで、バッグを掴むと慌てて立ち去る。
いつも冬場は着ている、おしゃれなグレーのコートすら着て出ていくことも忘れて。
皆は「なにがあったんだろう」という目で、高岡先生を見送っていた。

(*゚ー゚)

(*゚ー゚)(――これを逃す手はないわよ、しぃ!)

なんということでしょう、神様。これは私への一足早いプレゼントですか?
一生に一度の、またとない機会。
高岡先生はコートを忘れ、おそらくは自宅へ向かうのだろう。

つまり――忘れたコートを届ける名目で、高岡先生を追いかける、またとないチャンスだ。

(*゚ー゚)「盛岡先生!高岡先生にコート届けてきます!」
(´・_ゝ・`)「え?ちょっと!しぃさん!?」

私はハンガーから高岡先生のコートを剥ぎ取った。
薔薇に似たいい香りがする。持って帰っていいか?
いや、ネコババしてはいけないのである。
届けるという名目で尾行するのだから!私はコートを抱え、高岡先生の後を駆けていった。

9 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:28:50 ID:mbBe8ZXo0

从 ゚∀从 カツカツカツカツカツ

(;*゚ー゚)「(はっっっや!先生、どんな足してんの!?)」

高岡先生は、8㎝ヒールを履いているにも関わらず、まるで自転車のような速度で歩いていた。
……黒のヒールカッコイイなあ。ワンポイントの薔薇の飾りがよく似合っている。
じゃなくて。私は全力疾走で高岡先生を追いかける。でないと見失いそうだ。

(;*゚ー゚)「(にしても、美符町にこんな通り道があったなんて……)」

盛岡塾から南の方向へ歩いて5分。
普段、北側や南側の方にしか用のない私にとっては、未知のエリアを歩いていた。
何度も高岡先生は、右へ、左へ、あるいは蛇の胴体のような曲がりくねった道を行く。
人通りはどんどん寂しくなって、烏の声すら聞こえない。
並ぶ建物はどれも錆色がこびりついていたり、植物が這い回っているような廃屋や古い建物ばかり。

(;*゚ー゚)「(ここってもしかして、ママの言ってた「神隠し通り」?」

昔、美符町には「神隠し通り」という都市伝説があったらしい。
かつて都市開発のために土地を奪われ、潰されてしまった、「商店街の幽霊」が、夕方の美符町に現れるという噂だ。
神隠し通りに喰われた人間は、二度と家に戻れず、神隠し通りを彷徨うという。
いや、でもこんな時に限って、そんなものが現れたりするわけがない。
多分、町の南側にはこんな建物が多いだけだ。……きっと。
それにしたって、お店のひとつくらいはあってほしい。でなきゃ自動販売機とか。

10 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:35:55 ID:mbBe8ZXo0

初めて見る通りを歩くせいか、奇妙な妄想がどんどん広がっていく。
ママが怖い話なんかするせいだ。帰ったら文句言ってやろう。
そんなことを考えている間に、先生は一つの建物の前で立ち止まった。
私は茶色のポストの後ろに隠れ、様子を窺ってみる。

从 ゚∀从「……」

マンションだ。廃屋同然の建物が並ぶなか、そのマンションだけはあまりにも「普通」だった。
ココア色の壁に、入り口の上部に「クレッセントハイム」と洒落た銀色の文字が浮かんでいる。
高岡先生は扉を開くと、こつこつと上がっていく。

(*゚ー゚)「(ここが先生の家?なんか、もっとお洒落な大きい家だと思ってたなあ)」

ちょっと落胆を覚えつつも、追いかける。
入り口の左側の壁には、小さなポストが並んでいる。404号室の所に「高岡」の名前を見つけた。
そして悲しいお知らせがひとつ。このマンションには、エレベーターというものがない。
つまり、目の前にある急な階段を、せこせこと昇らなくてはならないのだ。

(;*゚ー゚)「せ、先生、待って……!」

私は急いで追いかける。
かんかん、こんこん。この階段、やけに暗くないか。
壁が分厚く、階層ごとに窓が1つしかないせいか、夕方にも関わらず光がないので、とても薄暗い。
階段の白色がぼう、っと光を吸い込んだように、あわく光って見える。
よく見れば、階段にはまるでダイヤが埋め込まれたみたいに、不思議な模様が浮かんでいた。

……ちょっと綺麗だ。
いやいや、見とれている場合じゃない。

11 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:41:02 ID:mbBe8ZXo0

顔を上げた時、高岡先生の姿を見失ってしまっていた。
焦りを覚えた私は、速度を速める。こんな所に置き去りにされるのは、さしもの私も不安だ。
「4」と書かれたプレートのある階層まで来て、私は一息つく。

(*゚ー゚)「……?」

変だ、と気づいたのは、その時だった。
私はずっと、ぐるぐると回るようにマンションの中を歩き、階段を上がってきた。
マンションの形状はおそらくロの状態のはず。階段がそれぞれ反対側にあるからだ。

なのに、四階から先は、廊下がまっすぐに伸びている。
部屋は四つあり、最奥の404号室の隣に、階段があるのだ。
まるで待ち構えるかのように、404号室の扉が静かに佇んでる。
高岡先生の姿はない。

……流石に妙だと気付き、私は少し怖くなった。

12 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:44:45 ID:mbBe8ZXo0

(;*゚ー゚)「……か、帰ろっかな。先生の家分かったし、コートは水曜日の時に渡そう……」

この時、なんとなく直感していたのだろう。
「この場所はなんだかおかしい」と。
第六感、直感というやつだろうか。それが私に警告していた。

……でも、もう少し早く機能してほしかったかな。
だって振り返った時に、私は言葉を失うことになるからだ。

(;*゚ー゚)「…………………………………………え?」

私が昇ったはずの階段が、消えている。
「4」のプレートがある壁が、行き止まりとなって、私の背後で立ちふさがっていた。
しん、と不気味に静まり返って、生き物の声も、車の音もしない。
窓が一つきりの、この静かすぎる廊下は――

異空間そのものであった。

(;*゚ー゚)

(;*゚ー゚)「……………………………………わたし、もしかして、ピンチ?」

13 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:50:30 ID:mbBe8ZXo0

ごくり、と生唾を飲み込み、再び廊下を見つめる。
天井に電球が3つ並ぶだけの、静かな場所。住民の気配は皆無だ。
ちらっとポストを見た時、他の部屋にも名前が書かれていた。
ということは、住民はいるだろう。
……でも、その人たちを頼る気持ちは、とうに萎んでいた。

(;*゚ー゚)「(高岡先生……いる、よね?)」

私がこっそり尾行してきたなんて知ったら、気持ち悪がられるかもしれない。
でも今この状況で、頼りに出来るのは、高岡先生だけだ。
しかもこっちには、コートを持ってきたという大義名分がある。
ええいままよ。

(;*゚ー゚)「たっ、高岡せんせーッ!!」

私は高岡先生のコートを抱きしめ、廊下を全力疾走。
なにか怖いものが見えたりしたら絶対嫌だ。
その気持ち一つで、硬い廊下を走る。かんかんかん、軽やかで綺麗な音が響いた。
心臓がどきどきして、体から重みが消え去っていくような衝動を覚える。

あっというまに高岡先生の部屋の前に着いた。
黒い扉に、銀の縁がぐるりと刻まれている。ネームプレートには「高岡」と綺麗な一筆。
私は勇気を出して、インターホンを押す。

14 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:51:12 ID:mbBe8ZXo0










                         ぴぃん、ぽん。からんころん。






.

15 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:54:18 ID:mbBe8ZXo0

……気のせいだろうか。インターホンの音の直後、ベルみたいな音が聞こえた。
深く息をして、誰かが出てくるのを待つ。
三十秒。一分。二分。三分。……誰も、出ない。
落胆の感情をおさえて、もう一度。ぴんぽぉん。からんころん。
やっぱり聞き間違いじゃない。小さい真鍮のベルを鳴らすような音だ。

(;*゚ー゚)「(おねがい先生、早く出て〜ッ!!)」

今にも、振り向いた瞬間に、恐ろしい化け物が襲ってばくりと喰われるんじゃないか。
そんな嫌な想像が脳裏にしみついて、気が気じゃない。
何度押しても、反応はない。先生はもしかして、この部屋にいないのか?
それとも別の階にいるんだろうか。

だとしたら私は――ここでずっと、ひとりぼっち?

16 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 01:55:04 ID:mbBe8ZXo0










            「おまえ、ねこかい」






.

17 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:02:04 ID:mbBe8ZXo0

(;*゚ー゚)「へ?」

「おまえ、ねこかい」

低く、唸るような声が、扉の奥から響いた。
まるで枯れた大きな木に声を与えるなら、こんな感じのしわがれ具合だろう。
けれど不思議と怖くはない。確かめるように、声はたずねてくる。

「おまえ、ねこかい」

(;*゚ー゚)「ねこ!ねこです!だから開けてください!」

「どこのねこだい」

(;*゚ー゚)「(どこの!?)」

美符町の椎名です、と答えればいいんだろうか。
うちは猫を飼ってないし、そもそも私は猫じゃない。
つい答えちゃったけど、嘘ってばれたらどうしよう。開けてもらえないかもしれない。
私の頭の中は洗濯機みたいにぐるぐる、高速回転。
高岡先生はなんて答えるんだろう?そもそもこの声は誰?高岡先生の家族?

从 ゚∀从『……ミルク雪原……嘆きの砂丘……人魚の丘も?……』

(;*゚ー゚)「みっミルク雪原のねこです!!」

高岡先生のことを考えていたら、咄嗟にそんな答えを出してしまっていた。
大体どこだ、ミルク雪原って。雪の世界に猫なんているわけないのに!
自分へのつっこみがとめどなく溢れるのをよそに、扉の奥の声は少し黙った。

「わかった。ミルク雪原だな。通れ」

(*゚ー゚)「えっ」

ありがとう、とか、「そこどこ?」とか、言葉を投げるよりも早く、扉が開く。
かと思うと、ごぅぅぅぅぅ!と凄まじい風の音が、扉の奥から響いた。

(;*゚ー゚)「きゃあああああああっ!?」

扉の奥は、真っ暗闇だ。
台風よりも凄まじい勢いで、何もかもを飲み込もうとしている!
私は身構える余裕すらなかった。

高岡先生のコートをぎゅっと抱きしめたまま、私の小さな体は、扉の奥の暗闇に吸い込まれていった。

18 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:02:48 ID:mbBe8ZXo0
















        




.

19 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:08:35 ID:mbBe8ZXo0


(;*゚ー゚)「あ、痛たたた……」

全身がずきずきと痛む。
私は俯せになる形で、地面に倒れていた。
怪我はないようだけれど、肌全体が痛い……というか、冷たい。
口の中に、べちゃっと冷たいものが流れ込んだ。

(;*゚ー゚)「え、ちべたっ…………!!」

(;*゚д゚)

掌や顔にくっついていた、冷たいもの。
雪だった。しかも、ただの雪じゃない。
口に入った雪は……甘いミルクの味がしたのだ。
そして、そのミルク味の雪は、私の足元に、そして見渡す限りの――白い、限りなく白い丘一帯に、広がっている。

空から、はらはら、と降り注ぐ粉雪。ぺろりと舐める。
やっぱり、ミルクの味がする。空は深い紺色だけれど、時折、光るカーテンのような帯が、星の間を駆けていく。

20 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:12:56 ID:mbBe8ZXo0

(;*゚д゚)

言葉を失っていた。
美符町はまだ、冬を迎えていない。ましてやこんな雪が降るなんてありえない。
そもそも美符町はこんなに広くないし、こんなに高い切り立った崖もない。
目の前にあるのは、ただ、雪、雪、真っ白い雪の世界。

(;*゚д゚)「こ……………………………………」

(;*゚д゚)「ここ、どこよ……………………………………!!」

なにより、驚いたのは、空を見上げて見つけたもの。
無数の輝く星たちよりも、空を走る光の帯よりも、気になるもの。
それは、青い、青い月。

違う。
あれは、月じゃない。月に緑色なんてないし、白い影が漂っていることもない。

私の頭の上に浮かんでいる、まあるい星。
それは、まごうことなき、「地球」であった。

21 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:14:15 ID:mbBe8ZXo0





(;*゚д゚)

(;*゚д;) じわ……

(;*;д;)「た……………………………………」

(;*;д;)「たすけて、高岡先生〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」





.

22 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:15:51 ID:mbBe8ZXo0







Episode.0     「404 Not Found World」

23 ◆oBpKnPjnq.:2021/11/30(火) 02:16:46 ID:mbBe8ZXo0

昔書いたTRPGシナリオの世界観が元ネタになっています
近いうちに次の話を投下します ほな

24名無しさん:2021/11/30(火) 03:48:53 ID:AVPl/RR.0
ほえ〜〜〜〜〜〜〜

25名無しさん:2021/11/30(火) 07:09:30 ID:pobSicaY0

雰囲気抜群で最高だ

26名無しさん:2021/11/30(火) 07:17:51 ID:QfKAtctc0
めちゃくちゃ面白い導入
期待

27名無しさん:2021/11/30(火) 08:45:11 ID:K8JWBoaY0
めっちゃ面白い…
期待

28名無しさん:2021/11/30(火) 18:44:01 ID:POcUSG320
読みやすくてすらすら読んでしまった
期待

29 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:29:31 ID:LDyVdyfk0

ながら投下

30 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:30:22 ID:LDyVdyfk0







Episode.1     「ミルク雪原」

31 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:36:21 ID:LDyVdyfk0


(*;д;) ヒグ、ヒグ ベソベソ……

寒い。とにかくここは寒くて、冷たくて、心細い場所。
私は高岡先生のコートを抱きしめて、ひたすらべそべそ泣いていた。
みっともないし情けないけど、パニックになった小学四年生の出来ることなんて、たかがしれてる。

泣き続けたって、誰かが助けにくるわけじゃない。
高岡先生が都合よく現れてくれるわけじゃない。
分かっているんだけども、独りぼっちはやっぱり寂しいし、怖い。

(*;д;)(どうしよう……私、このままだと遭難しちゃう……)

(*;д;)(おなかすいた……寒い……足びちょびちょ……)

(*;д;)(こんな寒い所、誰も来ないんじゃ……?)

(*;д;)(お腹空いて、動けなくなって……この寒さじゃ絶対氷漬けになっちゃう!)

(*;д;)「かっちこちのしぃちゃんアイスになっちゃうなんて、絶対イヤ〜!!」

そんな時だ。

32 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:39:14 ID:LDyVdyfk0

「おい!しょっぺえじゃねえか!べそ泣きで俺をぐちょぐちょにするんじゃねえ!」

(*;д;)

(;д;*) ?

「こっちだこっち!下!」

(*。。)

<_プー゚)フ「ハンカチにしてえなら他をあたってくれ!俺ぁ濡れるのが嫌いなんだ!」

(*゚д゚)

<_プー゚)フ

(;*゚д゚)「こ」

(;*゚д゚)「コートがしゃべったー-------!?!?!?!?」

33 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:46:49 ID:LDyVdyfk0

思わず、手に持っていたコートを投げだしそうになった。
喋った。聞き間違いかと思ったけど、幻聴でも思い込みでもない。
手に持っていた、高岡先生のコートの袖口が、確かに口をきいたのだ!
涙も思わずひっこむ。

コートはふわっと飛び上がると、半透明のオレンジ色めいた泡がぽこん!と出てきた。
泡はまあるいお化けみたいな形になって、私をじろじろ見下ろす。

(;*゚д゚)「おばけ!?」

<_プー゚)フ「失礼な!俺のどこがお化けに見える!?キュートな服の精霊さんだろ!」

(;*゚ー゚)「え!?……ご、ごめんなさい」


精霊にしては威厳がない。
なんて失礼なことを言えば機嫌を損ねるだろうから、私は素直に謝っておく。
フン!と服の精霊は体をのけぞらせると、すぽん!と服の中に戻った。
色的に炎とかではないのね、と胸中でごちた。

<_プー゚)フ「いいか、俺は選ばれし衣服の中でもベストオブ素晴らしい衣服に選ばれし精霊」

<_*プー゚)フ「その名も!エクスト羅・クローゼット様だ!」

(*゚ー゚)

(*゚ー゚)「エクスト羅」

<_プー゚)フ「ああ!世間様は「一張羅」とかいう服があるんだろ?」

<_プー゚)フ「俺はただの服じゃないんだぜ、どんなおべべにもエレガントに着こなされる側なのさ!」

(*゚ー゚)(あまり聞かない類の「られる」ね)

<_プー゚)フ「お、そのツラは、あんまり信じらんねえな……って思ってる面だろ?」

<_プー゚)フ「フン、俺の実力を見せてやるぜ!」

34 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:54:46 ID:LDyVdyfk0

エクスト羅・クローゼットは私に覆いかぶさると、不思議な光を放つ。
驚いて思わず身構える。
けれど、不思議な温かさが身を包んだことで、私はおそるおそる、目を開けた。

するとどうだろう!
学校の冬服だった私は、いつのまにか絵本に出てくるような、もこもこの冬服コート姿に早変わりしていた!

(*゚ー゚)「わ!」

<_プー゚)フ「ふふん、ドレスだろうとキモノだろうと、俺にかかれば何にだって変われるのさ!」

エクスト羅は得意げに、色んな衣服に姿を変える。
ぽん!ぽん!とワインのコルクが抜けるような音と共に、私の着ているものが七変化だ!
ワンピースドレス、スーツ、バーテンダーさん、お姫様みたいなドレス、教科書で見た軍服。
服だけじゃない、帽子やマフラー、手袋、靴だって一緒に変わる。

<_プヮ゚)フ「どうだ、すごいだろ?」 ドヤ

(*゚ヮ゚)「すごいすごーい!!」 パチパチ

<_プー゚)フ「よく見りゃあおチビさん、寒そうなカッコじゃねえの」

<_プー゚)フ「俺の持ち主はいないみたいだし、しばらくはお前に着られていようかな」

そう言うと、エクスト羅はタートルネックとロングズボン、コートと耳あてという姿に落ち着いた。
ちゃんと私の体のサイズに合わせてくれているらしい。
グレー色のコートとは分かってるじゃないか。

35 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 21:59:43 ID:LDyVdyfk0

(*゚ー゚)「ねえエクスト羅・クローゼットさん」

<_プー゚)フ「エクストでいいぜ。長いからな」

(*゚ー゚)「分かった。エクストは、ここがどこか知ってる?」

<_プー゚)フ「うん?知ってるぜ、ミルク雪原だろ」

エクストは事も無げに答えた。
……服の精霊の時点で気づくべきだったけど、この世界ってやっぱり、普通じゃない。
高岡先生のコートがこの場所について知っているなら、高岡先生が何者かも知っているはずだ。
何から聞こう?

(*゚ー゚)「ええと……高岡先生、どこにいるんだろう?私、あなたを届けに来たの」

<_プー゚)フ「うん?そういやハインの野郎、俺を置いていっちまったな」

<_プー゚)フ「正装を置き忘れるなんて、アイツらしくねえなあ。たいそう慌てていたみたいだし」

(*゚ー゚)「正装?エクストが?」

<_プー゚)フ「おう、俺は名誉ある王族付きの服だからな、正装としての御役目が本来は正しいのさ」

……うん?

36 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:04:18 ID:LDyVdyfk0

今、何と言った?王族付き?
私が言葉を噛み砕いて飲み込もうとしたとき、エクストが「おっ」と声を上げた。

<_プー゚)フ「誰かいるぞ」

(*゚ー゚)「え?」

思わず顔を上げる。
エクストが「お前の目じゃ見えないかもな」と小さなランタンを出してくれた。
あたたかい。ランタンを持って、掲げる。
確かに、ようく目を凝らすと、複数の影がゆっくり、こちらに近づいてくる。
よかった、人だ!

(*゚ヮ゚)「よかった、ヒトがいたんだ!助けてもらえるかな?」

<_プー゚)フ「……?」

(*゚ヮ゚)ノシ「おーい!迷子なんです、助けてくださーい!」

私は手を振りながら、ランタンを手に駆け寄る。
次第に雪はやんでいき、辺りの景色が見えるようになってきた。
遠くに山々が見える。私がいる場所は切り立った崖の側だ。
柵のようなものがぐるり、と雪原を、かなり広い範囲で囲っていることが分かる。

人影のさらに奥、うずたかく雪が積もった丘の上に、大きな建物が見えた。
なんで気づかなかったのだろう。
建物にはぼんやりと、灯りがついていた。
こんな寒くて何もなさそうな場所でも、人は住んでいるらしい。

ひとまず安心だ。
私は人々に駆け寄り、ランタンを掲げた。

37 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:12:41 ID:LDyVdyfk0

……ランタンで照らしたことを、後悔した。

( ∴)

2mは超える巨体。その体は真っ白で、青白い不気味な光を放っていた。
肌はぶよぶよに膨らんで、時折体全体呼吸するように縮む。
人の形をかろうじて保っているようなもので、顔のパーツはおろか、指や体のこまやかな作りなどない。
紙粘土でつくった人間もどきのような姿。

(i;!゚д゚)

( ∴) カララ コロロ オゴェッ ギィ

その顔にあたる部分には、ボウリングの球のような、深い穴が3つあるだけ。
常に穴はぐるぐると顔の表皮を動き回っている。
そして絶えず、穴からは無数の輝く、不気味な充血した赤い目玉が、ぎらぎらと私を覗き見ていた。

(!i;゚д゚)「きっ……きゃあああああああ!?」

今度こそお化けだ。
私が絶叫すると同時に、巨大なお化けはぶうん、と丸太のような白い腕を振り上げる。
刹那、私の体は見えない力にぐいんっ!と引き上げられ、宙を舞う。
振り下ろされたお化けの腕は、白い雪をばふん!と叩き潰した。

<_;プー゚)フ「ちいっ大丈夫かおチビさん!」


(!i;゚д゚)「だ、大丈夫。い、今のはエクストが助けてくれたの?」

<_;プー゚)フ「一流の衣服たるもの、着用者を守るためなら空を飛ぶくらい朝飯前!」

<_;プー゚)フ「とはいえおチビさん、お前は魔力が低すぎる!今のジャンプが精いっぱいだ!」

(;*゚ー゚)「と、とにかく逃げなきゃ!あのオバケたち、追ってきてる!」

38 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:20:32 ID:LDyVdyfk0

距離が少し開いたことで、私はつとめて冷静になろうとした。
お化けの数は3人。(ヒトでいいのか?)
だだっぴろい雪原には隠れる場所もなく、岩や障害物の類もない。
あるとしたら、ぼんやりと灯りが漏れる建物だけ。

(;*゚ー゚)(エクストが建物の方にジャンプしてくれたおかげで、距離は縮まってる!)

(;*゚ー゚)「あそこに隠れよう!ただ襲われるよりはマシ!」

<_プー゚)フ「よしきた!ジャンプできるとしたら、あと3回……!」

<_プー゚)フ「極力走れ、おチビさん!」

(;*゚ー゚)「おチビさんじゃない、しぃよ!」

ともかく、走らなくては。
幸い、私は足が速い方だ。運動会でもリレーのアンカーをつとめるほどの脚力と素早さがある。
お化けたちはさほど、足が速そうには見えない。

……この勝負、負けられない!

(;*゚д゚)「だあっ!」

<_;プд゚)フ「へぶ!?」

私は駆け出した。直後、盛大にずっこけた。
ここの雪はサラサラで、足がすぐにずぼっと沈んでしまうのだ。
つまり、走るには相当の踏ん張る足の力が必要になる。
なんという悪場。都会育ちの私が走ったことのない場所だ。

(;*゚д゚)「ふんぬぬぬぬ!」

( ∴) ズン ズン ズン

<_;プд゚)フ「急げしぃ!アイツら存外足が速いぞ!」

(;*゚д゚)「分かってるよ!でもこの雪、まとわりついてきてっ……!」

39 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:32:14 ID:LDyVdyfk0

深い雪を掻き分けながら、私はどうにか前へ進む。
さらさらのくせに重いとはどういうことだ。まるで流れるプールを逆行するが如く。
その間にも、お化けたちは着実に私を追い詰めてくる。
まるで、私を追い立てることを楽しむみたいに。

( ∴) ∴) ∴) クカカ アゴゴ ゴェェ ゴァラ ロマーチ

(;*゚д゚)

まずい。追いつかれる!
私はなおも雪を掻き分けて進む。目的の建物まで、まだ遠い。
お化けが再び、ぶうんと腕を振り上げた。
ばん!と雪を叩いた直後、衝撃波のようなものが襲ってくる。

(;*゚д゚)「きゃあああああっ!」

私は衝撃波で吹き飛ばされ、雪の上に叩きつけられた。
痛い!三年生の時に自転車で衝突事故を起こした時よりも、何倍も痛い。
激痛が全身を襲い、雪の上で悶える。動けない。

<_;プ -゚)フ「チッ!」

再び、私の体が宙に浮かび、お化けたちから10mほど離れた所に着地する。
エクストの力だ。けれど、服がだんだんと色褪せて、ぼろぼろになり始めている。
私も体がぐっ、と強い疲れを覚え始めていた。

40 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:40:58 ID:LDyVdyfk0

<_;プ -゚)フ「大丈夫か、しぃ。今の一撃で生命力をだいぶもっていかれたみたいだな」

(;*゚ -゚)「あ、あいつら何なの……!?」

<_;プ -゚)フ「……【亡霊】だ。奴等は月の裏での嫌われ者さ。住民たちの魔力や生命力を貪るんだ」

(;*゚ -゚)「生命力!?」

<_;プ -゚)フ「早い話が、お前と俺をエサだと思って追ってきたのさ!狩られてんだ、俺達!」

また亡霊が、腕を振り上げた。
咄嗟に私は雪の上を思いきり転がった。
衝撃波がまっすぐ伸びて、私が居た場所を深くえぐる。おお怖ッ。

<_プー゚)フ「やるじゃねえかおチ……しぃ!」

(;*゚ー゚)「二度もくらうもんですか!今のは見切ったわよ!カッコイー私!」

避けられたのは偶然だけどね。
亡霊たちは感情の類がないのか、避けられても何の反応もない。
また腕を振り上げて、ずぅん、と衝撃波を出してくる。
私はそれを転がって避ける。

(;*゚ー゚)「つ、つかれる……!」

<_プー゚)フ「でも奴さんら、足を止めたな!力借りるぜ!」

また、凄まじい脱力感を覚える。
直後に私の体はぴょおん、っと高く跳び、一気に建物まで距離が縮まった。
あと10mほどだ!建物の外観がはっきりと分かる。
ロッジと呼べばいいのだろうか、木製の二階建ての、古い一軒家だ。
テラスがあるけれど、大きな深緑の布を雪避けにしているらしい。

41 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:46:01 ID:LDyVdyfk0

(;*゚ー゚)「あと少しッ……!」

私は必死に足を動かす。
フルマラソンをした後みたいに、重い疲労感が私にのしかかる。
でも、ここで立ち止まっている暇はない。
エクストの言葉が正しいなら、捕まったらまず間違いなく、食われてしまうのだ。
享年9歳だけは絶対ごめんだ!ウェディングドレスを着るまでは死にたくない!

( ∴) ブウンッ!

(;*゚д゚)「うぎゃあっ!」

直後、再び衝撃波。
今度はもろにあたって、私の体がまた宙に舞い、勢いよくロッジの壁に叩きつけられた。
骨が折れたかもしれないほどの衝撃で、今度こそ私は動けなくなった。

<_;プд゚)フ「おっおいしっかりしろ!しぃ!」

(;* д )

意識が朦朧とする。
エクストの叫ぶ声が聞こえるけど、生憎こっちは指一本動かせない。
駄目だこれ。死ぬかもしれない。
9歳で命の危機なんか知りたくなかった。よりにもよって、化け物に食われて死ぬなんて。

せめて最期に、高岡先生に会いたかった。

42 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 22:53:16 ID:LDyVdyfk0

<_;プд゚)フ「ちっ、くしょう!!」

ぽん!とコルクの抜けるような音がした。
重い瞼を開くと、高岡先生のコートが、両腕を大きく広げて仁王立ちしている。

<_;プд゚)フ「かかってこいやあ!一度は着られた身、着用者を守れずして何が王族付きの衣服だ!」

(;* д )「だめ、エクスト……にげ、て……!」

カッコイイんだろうけど、衣服の精霊に出来ることなんてきっと限られてる。
私のせいで、命の危機にさらされるなんて嫌だ。
何とかしなくちゃ。私は動かない手足に、全力で力をこめる。
せめて立ち上がって、エクストをどこかに逃がせたら……!

「おい」

( ∴)ゴエッ!?

唐突に、その声は頭上から降ってきた。
エクストに伸ばされた白い腕が、降ってきた何かに切断される。
……斧だ。ぎらぎらと銀色に輝く、複雑な意匠が彫られた巨大な斧。
亡霊は腕を斬られ、よろよろと後ずさる。切断面から、白い煙がじゅうじゅう立ち上っていた。

(;* д )「……?」

「俺の家の前で狼藉とは、命知らずとみえる。……ああいや、亡霊に命はなかったな」

「失せろ。目障りだ」

その声の直後、銀色の光がその場を包み込む。
亡霊たちの凄まじい悲鳴が光の向こうに轟いて、薪が燃えさかるような匂いが漂った。
光で視界を奪われ、目がくらむ。
やっと視力を取り戻した頃。私達の前に、もう亡霊の姿はなかった。

43 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:00:01 ID:LDyVdyfk0

代わりに。

(,,゚Д゚)

私とエクストを見下ろすように、一人の男の人が立っていた。
がっしりとした筋肉質な体つき。亡霊たちと大差ない大柄な背丈。
輝く瞳は、銀色と緑のオッドアイというやつだろうか。
綺麗だけど、目つきは怖い。あと威圧感が凄まじい。

(;* ー )「う……あ……」

(,,゚Д゚)「亡霊たちに攻撃されたか。……ん?」

男の人は私を抱え上げ、顔を覗き込む。
目の下の皺がより濃く刻まれる。顔は老けているけど、存外若い人かもしれない。
高岡先生より少し年上くらいだろうか。
大きな腕の中にいると、なんだか安心してしまう。

(,,゚Д゚)「お前……生きた人間か」

(;* - )「……」

(,,゚Д゚)「なんでミルク雪原なんかに……とにかく手当しないと」

その声を最後に、私の意識は途切れた。
こんな状況だけど、いくつか分かったことがある。

……どうやら、命拾いをしたということ。
エクストもなんとか無事だということ。
――この世界は、私の想像をはるかに超えるような、変な場所だということ。

(;* ー )(お腹が空いた)

そして、気絶する直前の私は、我ながら呆れかえるほど呑気であった。

44 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:00:33 ID:LDyVdyfk0
 
Episode1 終

45 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:01:59 ID:LDyVdyfk0
間違えた まだ続きます

46 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:07:53 ID:LDyVdyfk0




……


…………



……………………

47 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:08:31 ID:LDyVdyfk0

(*゚ー゚)ハッ

意識がゆっくり浮上する。
木目の天井が視界いっぱいに広がっている。柔らかなクリーム色の光に照らされている。
私はがばりと起き上がった。
疲れや痛みはない。大きなベッドに寝かされていたようだ。
服も、青い寝間着のようなものに変わっている。

(,,゚Д゚)「起きたか」

(*゚ー゚)「!」

ベッドの側に、先程の男の人がいた。
本を読んでいたらしい。傍にはコート掛けがあり、エクストがぶら下がっている。
ぼろぼろだったエクストも、綺麗なコート姿に戻って、ぷうぷう袖口から鼻提灯が出ていた。
……そこで呼吸するんだ?

(*゚ー゚)「えっと……助けて、くれたんですよね?ありがとうございます」

(,,゚Д゚)「礼には及ばん。亡霊は駆除する必要があったしな」

顔色ひとつ変えず、男の人はいう。
ぶっきらぼうだ。でも、心なしか表情がすこし緩んだように見える。
悪い人ではないのだろう、きっと。
でなければそもそも、見知らぬ私を助けるわけもない。

(,,゚Д゚)「助けた代わりといってはなんだが、いくつか質問がある」

(*゚ー゚)「は、はい」

(,,゚Д゚)「俺に嘘は通用しない。正直に答えるように」

(;*゚ー゚)「……はい」

前言撤回。やっぱり怖い。
校長先生だってこんなに怖い威圧感は出してこない。
いっちゃあなんだけど、怒った時のママくらい怖いな、この人。

(,,゚Д゚)「子供に危害は加えん。そう身構えるな」

(;*゚ー゚)(っていわれてもなあ……)

48 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:14:14 ID:LDyVdyfk0

(,,゚Д゚)「まず、お前は生きた人間だ。それは合ってるか?」

(*゚ー゚)「は、はい」

(,,゚Д゚)「どうやってこの【月の裏】に来た?」

(;*゚ー゚)「どうやって、って……」

そもそもここ、月の裏という場所なのか。
高岡先生の電話の内容を思い出す。
だとするなら、私は高岡先生の家から、月の裏……そしてミルク雪原に現れたことになる。
じ、っと男の人は私の目を見て、眉間の皺を寄せた。

(,,゚Д゚)「ハイン?」

(;*゚ー゚)「ピョッ」

(,,゚Д゚)「アイツ、こんな子供を連れてきちまったのか。大失態だぞ」

(;*゚ー゚)「え、あの……な、なんで高岡先生のことを知って……?」

(,,゚Д゚)「ああすまん。ちょっとお前の心を読んだ」

(;*゚д゚)そ「ええっ!?こ、心!?」

突然なにを言い出すんだ、この人。
もしかして今、私が高岡先生のことを考えた時、見えたとでもいうのだろうか。
喋るコートだの、命を食う亡霊だのがいるくらいだから、心が読める人間がいても不思議じゃない。
けど……

(;*゚д゚)「エッチ!女の子の心勝手に見ないで!」

(;,,゚Д゚)「えっ!?え、えっ……!?」

(#*゚ー゚)「嘘なんかつかないから、勝手に人の心読んだりしないでよ!プライバシーっての知らないの!?」

(,,゚Д゚)「……す、すまん」

49 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:18:09 ID:LDyVdyfk0

男の人は私に怒鳴られて、多少なりショックを受けたらしい。
表情は変わらないものの、しゅん、と俯きがちに私を見やる。
……エッチは流石に言い過ぎたかな。

(*゚ー゚)「ごめんなさい。正直に言うから、色々教えてほしいことがあるの。ええと……」

(,,゚Д゚)「……ギコだ」

(*゚ー゚)「ギコおじさん」

(,,゚Д゚)「俺はまだ24だ。おじさんじゃない」

(*゚ー゚)「(24!?)じゃあギコさん」

(,,゚Д゚)「よし。じゃあ、なぜ月の裏に来たか教えてくれ」

(*゚ー゚)「……はあい」

私は素直に、これまでの経緯を説明した。
盛岡塾のこと。高岡先生のこと。電話の内容を盗み聞きしたこと。
コートを届けようとしたこと。クレッセントハイムのこと。
ここで隠したところで、私の心を読まれるだけなら、素直に話したほうがよさそうだ。
……多少、怒られるのは覚悟しよう。高岡先生に嫌われないといいけど。

私の話を聞くと、ギコさんはすっかり黙り込んでしまった。

50 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:22:39 ID:LDyVdyfk0

(,,゚Д゚)「……なるほどな」

(,,゚Д゚)「概ね事情は理解した。悪意がない只の子供だということもな」

(*゚ー゚)「……怒ってる?」

(,,゚Д゚)「いいや。そもそもクローゼットを忘れたハインの責任だろう」

(,,゚Д゚)「お前をうっかり通した【猫】も猫だ。子供を招くかね、普通」

(*゚ー゚)「猫?」

(,,゚Д゚)「月の裏の出入り口は、【猫】たちが管理しているんだ。怠慢だな、まったく」

(*゚ー゚)「(あんなおっかない声の猫いるんだ……)」

ぶつぶつとギコさんは不満を漏らしている。
どうやら怒られることはなさそうだ。案外、話の分かる人かもしれない。
そんなとき、「ぐぎゅるるるっるるる」と凄い音が鳴った。
……空気を読めない、私のお腹の音である。恥。

(,,゚Д゚)「生きた人間は腹が減るんだったな。待ってろ、何か作る」

(;*゚ー゚)「そ、そんな、ご迷惑じゃ……」

(,,゚Д゚)「構わん、この世界じゃ基本は助け合いだからな」

51 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:25:36 ID:LDyVdyfk0

ギコさんは、ベッドの真向かいにある階段を下りていく。
待っている間、退屈だろうと、私に本を渡してくれた。
分厚い。けれど、綺麗な表紙だ。大きな月の絵と猫が描かれている。
背表紙の刺繍はぼろぼろにほつれかけているけど、かろうじてタイトルが読める。

(*゚ー゚)「【つきのうらの昔話】……」

不思議だ。見たことのない文字なのに、すらすら読める。
もしかしてギコさん、私が眠っている間にこれを読んでいたんだろうか。
だとしたら、ちょっと可愛い絵面かもしれない。
私は好奇心のままに、表紙を開いた。

52 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:32:55 ID:LDyVdyfk0

本を開くと、ぱあ、とページから泡が飛び出て来た。
泡はいろんな形、山や月、お星さま、猫や人の形、色んなものに変わる。
綺麗だ。飛び出す絵本と映画が、まるで一緒になったみたい。

(*゚ー゚)「わ、きれい……」

泡がぽこん、ぽこんと字を産む。
不思議な、見たこともない字だけれど、頭の中にすっと入って、日本語に置き換わるように理解できる。
魔法の世界に入り込んだみたい。
いや、そもそもここは魔法の世界なのかもしれないけど。魔力とか、生命力って言葉が出ていたし。

【むかぁしむかし、とっても昔のお話です】

【この世界の外側には、神様がたくさんいました】

【神様たちは、世界に秩序をつくり、それぞれ色んな世界を管理することを決めました】

【空の世界、海の世界、地上の世界、死者の世界、夢の世界……色んな世界が生まれ、色んな新しい神様がうまれました】

【中でも猫と夢、月の神様は、とても仲が良かったので、一緒にひとつの世界を管理しようと決めました】

【そこで彼等は、月の裏という世界を作りました】

(*゚ー゚)「神話、ってやつなのかな……」

53 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:38:55 ID:LDyVdyfk0

字を追いつつも、泡はその時の様子を再現するように、神様たちの姿を形作る。
月の頭、猫の頭、色んな頭を持つ不思議な人影が、空に向かって手を差し伸べる。
すると、彼等の手にまあるい月のような光が浮かび上がり、色んなものが生まれていく。
幻想的な光景だ。

【月の裏は、想像、夢、そして死者の世界となりました】

【人間たちの想像力、眠る時に見る夢、そして想う力が、月の裏を保つ源になっているのです】

【誰かが死んだ人を偲ぶ時、思い出す時、そして彼等の想像力が働くとき――】

【月の裏に死者たちが招かれ、安らかなひと時を過ごします。次の命に生まれるために】

(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「ここ、死者の世界なんだ……?」

それなら、亡霊のことや、ギコさんの質問にも説明がつく。
死者の世界とはいうけれど、あまり怖いという気はしない。
ギコさんの腕は暖かかったし、エクストは衣服なのに、見ず知らずの私を守ろうとしてくれた。
なにより私は、生きている。温かいベッドの中にいるせいか、恐怖心よりも、好奇心が勝った。

絵本はまだ続く。

54 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:42:40 ID:LDyVdyfk0

【けれど、この世界には実に、沢山の命がやってきます。動物も、植物も、虫も、魚も、人間も】

【そのうえ、月の裏には亡霊という、死者や想像力を蝕む怖い存在も現れ始めました】

【そのうち神様たちは忙しくなりすぎたので、代わりの者を立てることにしました】

【それが王子様たちです】

(*゚ー゚)「王子様?」

【王子様たちは、月の裏のいろんな場所にお城を築きました】

【そして、昼も夜もなく、この月の裏を守っているのです】

続くページは、月の裏の地理や、歴史について書かれているらしい。
……これを全部読み切るには、あと十年くらいかかっちゃいそうだ。
だって何度でも見返したくなるほど、綺麗で、目がおっつかない。

55名無しさん:2021/12/01(水) 23:44:38 ID:zoELJKgk0
支援

56 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:48:03 ID:LDyVdyfk0

しばらく読み耽っていると、足音が聞こえてきた。
ギコさんだろう。
私は本を閉じて、階段を見やる。でも、足音が増えていることに気づいた。
階段からひょっこり、ギコさんが顔を出す。
そしてもう一人、見知らぬ男の人も。
ギコさんより背は低いし、痩せ細っている。飄々とした顔立ちの人だ。

(,,゚Д゚)「飯、持って来たぞ」

( ´_ゝ`)「そういう時はさあ、「ご飯だよ」って言ってやりなよ」

(,,゚Д゚)「む……」

誰だろう。ギコさんと親しそうではある。
群青色の軍服のような出で立ちをした、おおよそこんな寒い場所には似合わない出で立ち。
見ようによっては、それなりに顔立ちが整っている。

( ´_ゝ`)「あ、心配しないで。敵じゃないから」

(*゚ー゚)「は、はあ」

(,,゚Д゚)「とりあえず、食え。シチューだ」

ギコさんは私の膝の上に、お盆を置いた。
美味しそうなホワイトシチューだ。ますますお腹が鳴る。
いただきます、と両手を合わせて、ぱくりと一口。……美味しい。
コンソメの味というやつだろうか。お野菜がとっても甘くて、口の中でほろほろ溶ける。
私は夢中になって、シチューを頬張った。

( ´_ゝ`)「うまいだろ、ギコのシチューは」

(*゚ー゚)「はひ!ほいひいれふ!」

( ´_ゝ`)「王子ってのはなんでこうも、皆飯を作るのがうまいかねえ」

ぴたり、と私の手が止まった。
……王子?ギコさんが?
思わずギコさんの顔を見上げる。顎にシチューの汁が伝った。

(,,゚Д゚)「たれてるぞ」

(;*゚ー゚)「はっ」

恥。

57 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:50:05 ID:LDyVdyfk0

↑訂正版


しばらく読み耽っていると、足音が聞こえてきた。
ギコさんだろう。
私は本を閉じて、階段を見やる。でも、足音が増えていることに気づいた。
階段からひょっこり、ギコさんが顔を出す。
そしてもう一人、見知らぬ男の人も。
ギコさんより背は低いし、痩せ細っている。飄々とした顔立ちの人だ。

(,,゚Д゚)「飯、持って来たぞ」

( ´_ゝ`)「そういう時はさあ、「ご飯だよ」って言ってやりなよ」

(,,゚Д゚)「む……」

誰だろう。ギコさんと親しそうではある。
群青色の軍服のような服を着こなした、おおよそこんな寒い場所には似合わない出で立ち。
見ようによっては、それなりに顔立ちが整っている。
……無駄に足が長い。短足のまたんきが見たら嫉妬するだろう。

( ´_ゝ`)「あ、心配しないで。敵じゃないから」

(*゚ー゚)「は、はあ」

(,,゚Д゚)「とりあえず、食え。シチューだ」

ギコさんは私の膝の上に、お盆を置いた。
美味しそうなホワイトシチューだ。ますますお腹が鳴る。
いただきます、と両手を合わせて、ぱくりと一口。……美味しい。
コンソメの味というやつだろうか。お野菜がとっても甘くて、口の中でほろほろ溶ける。
私は夢中になって、シチューを頬張った。

( ´_ゝ`)「うまいだろ、ギコのシチューは」

(*゚ー゚)「はひ!ほいひいれふ!」

( ´_ゝ`)「王子ってのはなんでこうも、皆飯を作るのがうまいかねえ」

ぴたり、と私の手が止まった。
……王子?ギコさんが?
思わずギコさんの顔を見上げる。顎にシチューの汁が伝った。

(,,゚Д゚)「たれてるぞ」

(;*゚ー゚)「はっ」

恥。

58名無しさん:2021/12/01(水) 23:50:36 ID:xAOuj9Iw0
支援

59 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/01(水) 23:56:07 ID:LDyVdyfk0

(,,゚Д゚)「食べながらでいい、話を聞いてくれるか」

(*゚ー゚)「はひ」

(,,゚Д゚)「隣のこいつはアニーシャ。【人魚の丘】の王子だ」

( ´_ゝ`)「アニーでいいよ。しぃだっけ?よろしく」

(*゚ー゚)「ごくん。よろしくおねがいします」

とっつきやすく、礼儀正しい人だ。
柔らかい笑みを浮かべて、私の手を取る。
死者の国というけれど、ギコさんもアニーさんも、死者とは思えないほど手があたたかい。

(,,゚Д゚)「この世界は今、大変な事になっている。正直なところ、迷い込んだ子供ひとりに構っている状況じゃないくらいだ」

(*゚ー゚)「と、いうと……」

(,,゚Д゚)「亡霊の軍が攻めてきているんだ。しぃが出会ったのは多分、斥候だろう」

(;*゚ー゚)「せっこー?」

( ´_ゝ`)「敵の様子を探ったり、その土地について詳しく調べる兵士のことだよ」

盛岡塾じゃ絶対教えてもらえない単語だ。
二人の話を聞くに、とても異常なことが起きているらしい。
彼等は命を貪るだけの邪悪な存在で、単体で行動することが殆どだそうだ。

60 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:01:16 ID:v2tBEie20

(,,゚Д゚)「月の裏の王子たちは今、どこも亡霊軍の襲撃を受けている」

(,,゚Д゚)「幸い、ミルク雪原は極寒の地で、亡霊にとっても住みやすい場所ではない。後回しにされているが……」

(,,゚Д゚)「攻め入られるのも、時間の問題かもしれん」

(*゚ー゚)「そもそも、なんで亡霊たちが軍隊になって、襲ってるんですか?」

( ´_ゝ`)「……魔王さ」

アニーさんが、厳しい表情に変わった。
魔王。ゲームやファンタジーの世界でしか聞かない単語に、思わず面食らった。
そもそも死者の世界の王様こそ、魔王なんて呼ばれる類じゃないのか。
でも二人の顔つきを見るに、魔王という存在は、この月の裏では招かれざる相手であることは、容易に察せられた。

(,,゚Д゚)「魔王は千年に一度、現れるか現れないか。それくらいの稀な、邪悪な魂の持ち主だ」

(,,゚Д゚)「普通はそんな邪悪な魂は、月の裏に来る前に「審判」にかけられ、魂を浄化されるか、地獄という場所に向かうんだが……」

( ´_ゝ`)「それでも、たまに迷い込んでくることもある。しぃのようにね」

(*゚ー゚)「はぁ……」

(,,゚Д゚)「魔王がなぜ軍隊を組み、月の裏を襲っているかは分からない。だが対処せねば」

( ´_ゝ`)「そういうわけでね、今どこもかしこもてんてこ舞いなのさ」

61 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:06:57 ID:v2tBEie20

話を聞きながら、なんとなく事情は察した。
つまりこの世界には魔王と呼ばれる、とんでもない存在が現れた。
そして亡霊たちを集め、軍隊をつくり、月の裏を襲っている。
王子たちは月の裏を守るため、亡霊の軍隊と戦っている。

( ´_ゝ`)「人魚の丘は結界を張って今は凌いでいるけど、時間の問題だしね」

(,,゚Д゚)「ミルク雪原も余裕がない。もともと住民は多い方じゃないが、動物たちの避難も完全に終わったわけじゃない」

(*゚ー゚)「……」 はっ

そういえば、高岡先生が呟いていた言葉を思い出す。
ミルク雪原、人魚の丘。どちらも高岡先生が電話の最中に呟いていた単語だ。
二人はその王子だという。でもこの場に、高岡先生はいない。
なら、高岡先生は今どこに?

(*゚ー゚)「あの、高岡先生は……」

( ´_ゝ`)「センセー?」

(,,゚Д゚)「ハインのことだ。アイツは今頃、「ゆうやけの森」に救援に向かっている頃だろう」

( ´_ゝ`)「俺達も姿は見てないな。この状況で、連絡も取り合えないし……」

(;*゚ー゚)

62 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:11:56 ID:v2tBEie20

スプーンを強く握りしめた。
私がこうしてのほほんとシチューを食べている間も、高岡先生は戦っているかもしれない。
そう思うと、気が気じゃなくなってしまった。

私に出来ることなんて、たかが知れている。
現に、三人の亡霊を相手に、なすすべもなくボロボロにされたばかりだ。
でも現状を知ってしまった今、何もしないでただベッドの中に包まっている訳にもいかない。
せめて、高岡先生の無事だけでも確認したい。
それにきっと、家でお父さんとお母さんも、多分お姉ちゃんだって心配している。

ぐずぐずしていられない。

(*゚ー゚)「あの、事情は分かりました。助けてくれてありがとうございます」

(*゚ー゚)「私のことは、自分でなんとかします!だから……負けないでくださいね!」

せめて一人で、高岡先生の元までたどり着かねば。
きっと帰り道はどこかにあるはずだ。エクストだけでも届けてあげたい。
それに高岡先生にちゃんと、「勝手についてきてごめんなさい」って言わないと。

63 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:18:42 ID:v2tBEie20

( ´_ゝ`)「なに言ってんの」

(*゚ー゚)「えっ」

(,,゚Д゚)「当分はお前、向こうの世界に戻れないぞ」

(*゚ー゚)「えっ……」

え?今のはそういう流れじゃないの?
「今は戦争中だからお前に構っている暇はないんだ」ってことではないの?
っていうかそもそも帰れないの?
呆ける私を前に、ギコさんとアニーさんは目配せした。

( ´_ゝ`)「月の裏に訪れた、生きた人間はね。月の裏に住む王子のうち、最低でも9人の許しがないと帰れないんだ」

(*゚ー゚)「ほえぁ」

(,,゚Д゚)「つまり、俺達を除いて、あと7人の王子に会わないといけない」

( ´_ゝ`)「しかも俺達はともかく、他の王子は警戒心が強くてね。中々会えないと思うよ」

なんてこったパンナコッタ。
そこまで無理ゲーレベルの超難題とは聞いていない。
と、いうか、9人も王子が居るのか。多すぎない?話を聞くに、もっと多そうだけど。

(;*゚ー゚)「前途多難すぎる……」

(,,゚Д゚)「まあどのみち、俺達も他の王子たちの助けを借りねばならん」

( ´_ゝ`)「旅は道連れ、っていうだろ。どうだいしぃ、俺達の国を救う旅に、同行してくれないかい」

64 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:24:48 ID:v2tBEie20

二人は言って、私に手を差し出した。
……壮大な話になってしまった。
ただ、片思いの先生にコートを届けにきただけなのに!

( ´_ゝ`)「戦争に巻き込むのは、申し訳ないけどね。君が帰るには、それしか手はない」

(,,゚Д゚)「極力、お前を守るとは保証しよう。それが王子の務めだからな」

(*゚ー゚)「……その、迷惑じゃ……」

( ´_ゝ`)「子供が遠慮するもんじゃないよ」

(,,゚Д゚)「いずれはお前も、月の裏の民になる。なれば守るのは道理だからな」


死者の世界、王子、戦争、不思議の連続。
そして私に多分、さほど選択肢はない。
でも私は――ドキドキしていた。胸が躍っていた。

(*゚ー゚)(知りたい。この世界のこと、高岡先生のこと)

(*゚ー゚)(――どうして先生は、塾の先生なんかやってるの?)

(*゚ー゚)(この不思議な世界で、どんなことをして、どんな経験をしてきたんだろう)

(*゚ー゚)(知りたい!高岡先生に、会いに行かなきゃ!)

(*゚ー゚)(まだまだ聞いてないこと、沢山あるもん!)

(*゚ー゚)「……はい!お願いします!」

私は二人の、大きな手を取った。
小さな町の片隅で生まれた、ちっぽけな私の大冒険。
大好きな家に帰るまでの、途方もない旅が――

この小さなロッジから、まさに今、始まった。

65 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:25:38 ID:v2tBEie20
. 



Episode1 終

66 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/02(木) 00:26:56 ID:v2tBEie20


おまけ

(*゚ー゚) 9歳 身長135㎝

(,,゚Д゚) 24歳 身長197cm

( ´_ゝ`)23歳 身長185cm

<_プー゚)フ 65歳 40㎝

次回はそのうち ほな

67名無しさん:2021/12/02(木) 00:41:44 ID:ssXy6jaI0
乙!!!!!!!!!!

68名無しさん:2021/12/02(木) 00:52:17 ID:QBRH5vkw0
乙!
大冒険の予感に胸が高鳴る!

69名無しさん:2021/12/02(木) 07:06:05 ID:9cKAc2QA0

投下が早くて助かる

70 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:14:46 ID:Lb2uy7CM0
おっす ながら投下や

71 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:15:40 ID:Lb2uy7CM0







Episode.0     「夢に音楽がない理由」

72 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:26:27 ID:Lb2uy7CM0

月の裏という世界に落っこちて、早一日くらいが経った。
「魔力」というものも回復したし、傷も癒えて絶好調。
骨も折れた感じがしたし、全身ずたぼろだったのに、たった半日で全快ってすごい。

(,,゚Д゚)「傷も治ったな。やはり子供は回復力が違う」

(*゚ー゚)「年齢と関係あるの?」

( ´_ゝ`)「ここは夢と想像の世界でもある。想像力が豊かな人、芸術肌の人ほど、
       月の裏の世界では強い力を持つ傾向にあるんだ。子供は特に回復力に長けてる」

(*゚ー゚)「へえ〜……」

その割に私、エクストからは「魔力がない」って言われたけど。
人に言われるほど、私は想像力が豊かとも思えない。
そういえばさらっと流していたけど、この世界ではどれだけ常識が通じるのだろうか。
私は「魔力」というものにも特にぴんときていない。

(;*゚ー゚)「私、この世界のこと何も分かってないのに、この先やっていけるかな……」

(,,゚Д゚)「一人で無鉄砲に旅をしようとした奴の台詞じゃあないぞ」

( ´_ゝ`)「ははは。まあこの先、俺達が旅の中で教えてあげるよ」

(*゚ー゚)「頼りにしてます……」

いや本当に。

73 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:34:25 ID:Lb2uy7CM0

ともあれ、私の回復を待って、冒険の準備をすることになった。
さしあたって必要なのは、長旅のための装備。
幸い、衣服ならエクストがいる。

<_プー゚)フ「元気になってくれてよかったぜ!死ぬんじゃないかってヒヤヒヤしたからな」

(*゚ー゚)「心配かけてごめんね、エクスト。あの時はごめんなさい」

<_プー゚)フ「構うなって!服は着る側を守ってナンボっつったろ!」

気のいい洋服だ。いや精霊だっけ。王族付きというブランドは伊達じゃないらしい。
彼は快く、高岡先生を見つけるまでの間、私の衣服になってくれるという契約を交わした。
本来なら高岡先生の服ではあるのだけど、緊急事態ということもあり、手を貸してくれるそうだ。

<_プー゚)フ「俺を忘れたハインが悪いんだからな!ふん!」

(;*゚ー゚)「月の裏の一大事に呼ばれたんだもん、よっぽど焦ってたんだと思う……」

(*゚ー゚)「それに高岡先生、エクストのこと大事にしてるじゃない」

<_プー゚)フ「む……」

私は高岡先生に会って二年程度だけれど、エクストのことを大事にしていたことは分かる。
高岡先生は毎年冬になると、灰色のコートになったエクストを着て、いつも塾にやってきた。
同じデザインだし、新しいの買わないの?と聞いたけど、高岡先生ははにかんで言った。

从* ゚∀从『このコートがいいんですよ。ねずみ色でかっこいいし、あったかいし。大事にしてやりたいんです』

(*゚ー゚)「絶対結婚相手の事も大事にしてくれるタイプだよねぇ……」

<_プー゚)フ「いやそっちは知らん。アイツが恋人とか連れてるところ見た事ないし」

(*゚ー゚)oそ「ッシャアッ!!」

<_プー゚)フそ ビクッ

つまり私にもチャンスはある。高岡先生は恋人歴なし。覚えた。
ありがとうエクスト。私にもワンチャンツーチャン(*゚∀゚)あるってわけ。
うん?今何か変なのよぎったな?まあいいか。

74 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:50:47 ID:Lb2uy7CM0

食べ物等は、ある程度日持ちするものを持っていくようだ。
奇妙なクッキーみたいなもの、チーズっぽい何か、パン、干し肉、塩漬けにした魚、エトセトラ。
包みは大きな深緑色の葉っぱや小さな収納ケース。
旅なんて勿論したことないし、ちょっとワイルドな食べ物に目移りしてしまう。

(*゚ー゚)「これ、どうやって食べるの?」

(,,゚Д゚)「だいたいは一度火に通して食べるとかだな。後は現地調達だ」

(*゚ー゚)「……というと……」

(,,゚Д゚)「狩りだ」

そう言って彼はナイフや弓矢を見せる。わあ。ゲームの世界みたいだ。
月の裏の住人でも、お腹は空くし疲れもするらしい。現実と違いがあるとするなら、病気と老いがないことなんだとか。
ミルク雪原のある月の裏の北側は、あまり文明的な生活を送る住民は多くないそうだ。
なので狩りや酪農などで生計を立てている住民が殆どらしい。

(,,゚Д゚)「お前にもそのうち覚えてもらうぞ」

(;*゚ー゚)「ひぃ〜っ……」

75 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 09:59:09 ID:Lb2uy7CM0

( ´_ゝ`)「あと必要なのは、「星の骸」か」

(*゚ー゚)「ほしのむくろ?」

( ´_ゝ`)「簡単に言えば、魔力の源さ。
       しぃがエクストを着続けるなら、この先、彼の力を度々借りることになるかもしれない」

( ´_ゝ`)「その度に魔力を吸われてダウン……となると、旅に支障も出るだろうし」

(;*゚ー゚)「それはまあ、確かに……」

アニーさんが見せてくれたのは、琥珀色の小さな石。
べっこう飴みたいで美味しそうだ。何も言わずに見せたら食べていたかも。
いわく、星の骸は、名前の通り「星の死骸」であるらしい。
魔力が膨大に詰まっていて、とても貴重なものなのだそうだ。

( ´_ゝ`)「王子である俺達は、元々強い魔力を持っているし、お守り程度みたいなもんだ」

( ´_ゝ`)「だから譲ってあげる。旅が終わるまではね」

(*゚ー゚)「あ、ありがとうございます……」

結構貴重なものを貰ってしまった。大事にせねば。
星の骸には金色のチェーンが繋がっていて、ネックレスのようにぶら下げることが出来る。
首につけると、ちりんと小さく音が鳴った。
可愛いかも。

(,,゚Д゚)「武具よし、食料よし、装備よし、地図よし」

( ´_ゝ`)「さてギコ、進路はどうする?」

(,,゚Д゚)「まずは領内を見回っておきたい。白糖山地へ向かおうと思う」

( ´_ゝ`)「ということは、東へ向かうんだね。了解」

地理は完全に分からないので、行先は二人に任せることにする。
私に必要なのはまず、この月の裏を理解することだ。
ギコさんは私に、あの本を譲ってくれた。
子供向けだから学習にはちょうどいいだろう、とのことだ。
有難く、借りることにした。

76 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:07:08 ID:Lb2uy7CM0

この日、ミルク雪原に雪は降っていなかった。
ずっと暗いから昼夜なんてあったものではないけれど、空を見れば時間帯は分かるらしい。

(,,゚Д゚)「今は向こうに火星が見えるから朝だ。オーロラの数が多いほど気温が高い」

(*゚ー゚)「あの光ってるカーテンみたいなの?初めて見た」

(,,゚Д゚)「あれは夜光生物の一種「オーロラ」だ。今は餌の星を求めて活動している」

(;*゚ー゚)そ「あれ生物なの!?」

(,,゚Д゚)「月の裏では、な。まあ人間を襲う事はまずないから安心しろ。それに食うと旨い」

(;*゚ー゚)そ「食べるのっ!?」

( ´_ゝ`)「王子たちの間でもご馳走扱いだよ。滅多に食べれないけどね」

ううん、カルチャーショック。
空に輝く無数のパステルカラーの色合いを眺め、ふと疑問を口にした。

(*゚ー゚)「そういえば、この世界で死んじゃうとどうなるの?
    死は存在しないっていうけど、星の死骸にしたって、狩りで食べられる生物たちだってそうだし」

(,,゚Д゚)「そこに気が付くか。まあ、早い話が、この世界で「死」を経験した者は「夢に生まれ変わる」んだ」

(*゚ー゚)「夢に?」

( ´_ゝ`)「君達が見ている夢の中で、まったく見知らぬ人間だったり、ちぐはぐなものが出て来たりするだろう?
       それは全部、月の裏で「死」を経験した者達が生まれ変わった存在なんだ。
       夢に生まれ変わった後は、その夢を見た人の「想像力」のエネルギーになるんだよ」

(*゚ー゚)「へえ〜……」

ひとつ賢くなった。

77 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:15:57 ID:Lb2uy7CM0

いざ、防寒具に身を包み、大きなリュックを背負って、私達は歩き出した。
ミルク雪原にはあまり、家屋の類はない。
ギコさん曰く、住民たちの大半は家を必要としない生き物達ばかりであるらしい。
大半は大きな木のうろだとか、洞窟だとか、枯れた池の底、土の下に居を構えているんだとか。

(*゚ー゚)「なんだか動物みたい」

(,,゚Д゚)「実際、住民たちの生前の殆どが動物だ。この土地は寒いから、あまり人間は来ない」

(*゚ー゚)「……それ、寂しくないですか?」

(,,゚Д゚)「ちっとも。俺は人間のことはそこまで好かん。嘘つきや見栄っ張り、お喋りはな」

(;*゚ー゚)(うっ、地味に耳に痛い)

まあ、なんとなく分かる気がした。
ギコさんは話している限り、会話が得意そうというわけでもない。
しん、と音を吸い込むこの土地は、なんとなくギコさんの性格を表してるようにも思える。

( ´_ゝ`)「あんまり気にしないでいいよ、しぃ。ギコは元々、人付き合いが得意じゃないんだ。
       照れ屋さんで口下手なだけだから」

(,,゚Д゚)「うるさいぞ、そこ」

( ´_ゝ`)「怖い顔しないでよ、本当の事言ったまでだろ」

(,,゚Д゚)「余計な入れ知恵を吹き込むなというんだ」

(*゚ー゚)(……耳がちょっと赤くなってる……)

ただの怖い人、というわけではない。
私達を本気で嫌っている……というわけでもなさそうだ。
そこは少しだけ安心した。
命を救ってくれた人に嫌われているなんて、やっぱりいやだし。
せっかくだから、仲良くなりたい。
この先、いつ終わるかも分からない旅を続けるなら、喧嘩はしたくはない。

……この先?
はた、と私は、大事なことに気が付いた。
そうだ、一番肝心なことを忘れていた!

78 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:28:21 ID:Lb2uy7CM0

(;*゚ー゚)「あの!私、この世界にきてそれなりの時間経ってるんですけど……」

(;*゚ー゚)「現実での私、どうなっちゃってるんだろ!?」

そう、私はお父さんやお母さん、お姉ちゃん、そして友達たちにも、何も言わず出て行ってしまった。
連絡を取っていないまま、一日以上が経過している。
今頃もしかすると、誘拐されたか迷子になったかと思って、皆が探し回っているんじゃないだろうか。

それに、帰ってきたときに何と言い訳すればいいんだろう。
「月の裏で旅をしていました」なんて言っても、絶対誰も信じてくれない。
というか、そもそもいつ帰れるかも分からないのだ。
学校はどうする?塾は?

( ´_ゝ`)「安心して。月の裏と現実世界は、時間の流れが違うんだ。
       君がここで一週間過ごすとしても、向こうでは1時間しか経たないよ」

(*゚ー゚)「そ、そうなの?」

( ´_ゝ`)「でも、あまり悠長にはしていられない。月の裏に来た生者は、現実世界に忘れられていくからね」

(;*゚ー゚)「忘れ……え?」

今、聞き捨てならないことをさらっと言われた気がする。

( ´_ゝ`)「月の裏に迷い込んだ人間は、時間がたつほど月の裏に馴染んでしまう。
       すると、現実では「いなかった人間」として扱われて、皆の記憶からどんどん消えていくんだ。
       存在感もぐっと薄れて、「いないことに疑問を持たれなく」なる」

(i!i゚ー゚)ゾッ……

想像して背筋が冷えた。
つまり、私は一刻も早く9人の王子たちと会い、現実世界に戻るための「許し」を得なくてはならないのだ。
私は夕方の三時過ぎにこの世界へやってきた。門限は七時。

この世界の時間に置き換えると、残された猶予は一ヶ月。
その間に九人の王子をみつけなくてはならない。

79 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:31:15 ID:Lb2uy7CM0

※訂正版
(;*゚ー゚)「あの!私、この世界にきてそれなりの時間経ってるんですけど……」

(;*゚ー゚)「現実での私、どうなっちゃってるんだろ!?」

そう、私はお父さんやお母さん、お姉ちゃん、そして友達たちにも、何も言わず出て行ってしまった。
連絡を取っていないまま、一日以上が経過している。
今頃もしかすると、誘拐されたか迷子になったかと思って、皆が探し回っているんじゃないだろうか。

それに、帰ってきたときに何と言い訳すればいいんだろう。
「月の裏で旅をしていました」なんて言っても、絶対誰も信じてくれない。
というか、そもそもいつ帰れるかも分からないのだ。
学校はどうする?塾は?

( ´_ゝ`)「安心して。月の裏と現実世界は、時間の流れが違うんだ。
       君がここで一週間過ごすとしても、向こうでは1時間しか経たないよ」

(*゚ー゚)「そ、そうなの?」

( ´_ゝ`)「でも、あまり悠長にはしていられない。月の裏に来た生者は、現実世界に忘れられていくからね」

(;*゚ー゚)「忘れ……え?」

今、聞き捨てならないことをさらっと言われた気がする。

( ´_ゝ`)「月の裏に迷い込んだ人間は、時間がたつほど月の裏に馴染んでしまう。
       すると、現実では「いなかった人間」として扱われて、皆の記憶からどんどん消えていくんだ。
       存在感もぐっと薄れて、「いないことに疑問を持たれなく」なる」

(i!i゚ー゚)ゾッ……

想像して背筋が冷えた。
つまり、私は一刻も早く7人の王子たちと会い、現実世界に戻るための「許し」を得なくてはならないのだ。
私は夕方の三時過ぎにこの世界へやってきた。門限は七時。

この世界の時間に置き換えると、残された猶予は一ヶ月。
王子たちがどこにいるかも分からない手探りの状態で、七人を探さなくてはならないのだ。

80 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:35:28 ID:Lb2uy7CM0

(;*゚ー゚)「因みに、そのー」

(;*゚ー゚)「王子たちの居場所って、分かります……?」

(,,゚Д゚)「そうさな。城を持つ王子は4人。連絡の取れない王子が4人。放浪癖が3人」


(,,゚Д゚)「連絡の取れない連中はいずれも交戦中か、深手を負っているか、消えたか」

(,,゚Д゚)「そう考えると、まず城を持つ4人の王子に会いに行くのが最善だろうな」


( ´_ゝ`)「放浪癖の三人は、王子の誰かしらが把握しているとは思うけどね……」


……難易度高くないか。
思った以上に私は、この旅のことを甘くみていたかもしれない。
不安がどっと押し寄せてくる。
そもそも、私が生きて帰れる保証が確実にあるわけでもないのだ。

<_プー゚)フ「ま、そんな不安な顔しなさんな」

<_プー゚)フ「いざとなれば、ハインがどうにかしてくれるって。
       アイツ頭いいし、色んなこと知ってるしな」

(*゚ー゚)「! ……大丈夫、かな」

<_プー゚)フ「俺が保証するぜ。アイツはヒト助けが趣味みたいなやつだしな」

エクストは自信満々に言い切った。
いいなあ、それを言えるだけの信頼関係が二人の間にはあるのだ。
ちょっと嫉妬してしまう。

81 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:43:22 ID:Lb2uy7CM0

(,,゚Д゚)「ぐずぐずしてもいられん。先へ進むぞ」

( ´_ゝ`)「白糖山地は広いからねえ」

(*゚ー゚)「は、はい!」

――そうして、二日が経った。
ミルク雪原の丘をいくつも越えて、辿り着いたのは白糖山地。
深緑の森を覆うような、まるで粉砂糖をまぶしたような白い景色を、高い崖から一望できる。
気温はミルク雪原より、やや高く感じられる。

(*゚ヮ゚)「きれ〜!!」

(,,゚Д゚)「白糖山地は、その名の通り砂糖が湧き出る土地だ。あの白いのは全部砂糖だからな」

(*゚ー゚)「全部!?すっごい、甘党の楽園じゃん!」

( ´_ゝ`)「まあ、食用ではないけどね。人間が食べても甘くはないそうだよ」

(*゚ー゚)「なあんだ、がっかり」

(,,゚Д゚)「しかし土の養分になるし、植物の住民たちにとっては数少ない食糧でもある」

(,,゚Д゚)「……亡霊たちが居座るには、十分な立地条件だ」

82 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:49:23 ID:Lb2uy7CM0

ぎろり、とギコさんの銀色の瞳が、山地の一角を睨みつけた。
つられてそちらを見れば、白糖とは違う、不気味な青白い輝きがいくつか見えた。
……亡霊だ。木々に群がって、じゅるじゅると啜るように、木々にまとわりついている。

( ∴)ゴェェ 
( ∴)ゴエェェェ
( ∴)ジュゾゾゾゾッチュルルル

亡霊が樹木から離れる。
あれほど綺麗な青緑色だった葉はすっかり茶色にくすんで、枝や幹は萎れてしまっている。
亡霊がとどめとばかりに、体当たりを一撃。
樹木が倒れ、ずずん、と樹木が倒れてしまった。
ヒュウウウ、と風に乗って、すすり泣くような声が聞こえてくる。

(,,゚Д゚)「木々が泣いている。……あの樫の木は、この森の中で根づいてまだ若いのに」

(,,゚Д゚)「……俺の住民に手を出したな。後悔させてくれる……!」

(;*゚ー゚)「ギコさんっ!?」

ギコさんは斧を手に、崖から飛び降りる。
何十メートルもの断崖絶壁。普通なら気絶しそうだ。
にも関わらず、マントをはためかせ、彼は見えない段差を踏むように、ジャンプと宙回転を繰り返す。

(,,゚Д゚)「っ、らあ!!」

巨大な白銀の斧を力任せに振り下ろす。
真下に居た亡霊の一体は、身構える暇もなく真っ二つに裂け、爆ぜて消えた。
鮮やかな手並みとはこのことだ。

( ∴)そ ゴェ!?
( ∴)ゴエ、ゴェェエ


(,,゚Д゚)「まず一体」 ギヌロ

83 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 10:56:13 ID:Lb2uy7CM0

(;*゚ー゚)「ああっ、ギコさんたら!」

亡霊の数は二十くらい。
対してギコさんは一人。どう見ても劣勢。
なのに彼は武器を構え、全員と相手するつもりらしい。どう考えても無茶だ。

(;*゚ー゚)(冷静な人だと思ってたけど……)

ギコさんは本当は、炎のような激しい感情を抱えている人なのかもしれない。
そんなことを思ったのは、彼の斧を見たからだろうか。
今の彼の斧は、銀色の炎に似た輝きをまとい、彼の周りだけ明るく照らされている。

( ´_ゝ`)「あーもー、昔っから考えなしに突撃するんだから……」

(;*゚ー゚)「ど、どうしよう、あんなに沢山の亡霊相手に……」

( ´_ゝ`)「ぶっちゃけ敵じゃないとは思うけども、このまま増援を呼ばれると面倒だし……」

( ´_ゝ`)「しゃーない、力を貸しますか。あのままだと住民たちもまとめて斬りかねないし」

アニーさんは溜息をつき、大きな鞄に手をつっこんだ。
けれど出てきた道具を見て、私は目を丸くする。
……出てきた道具は、どう見ても青い横笛……フルートだ。

84 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:03:33 ID:Lb2uy7CM0

( ´_ゝ`)「しぃ、夢に足りないものってなんだと思う?」

(;*゚ー゚)「え?」

何を突然尋ねるのだろう、この人は。
アニーさんはフルートを構え、ギコさんたちを見下ろす。
密生する木々の間をぬうように、ギコさんは的確に亡霊を一体ずつ倒していく。
けれど亡霊たちはどんどん集まってくる。キリがない。

( ´_ゝ`)「気づいたことはないかい?夢の中には、音楽がないだろう」

(*゚ー゚)「え……」

言われてみれば。
私は夢を何度も見たことがある。
けれど、夢の中で誰かの声や音は再生されても、音楽はかかったことがないかもしれない。
もしかかったことがあっても、きっと忘れているかも。

( ´_ゝ`)「その理由はね」

( ´_ゝ`)「俺達、王子たちにとって、音楽こそが力だからさ」

彼はニッと笑うと、フルートの吹き口を指でなぞった。
ざわ、っと空気が揺らぐ。まるでアニーさんの周囲に音が集まるかのようだ。

85 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:11:36 ID:Lb2uy7CM0

( ´_ゝ`)「景気よく、この一曲でいこうか」

( ´_ゝ`)「J・F・ワーグナー、「双頭の鷲の旗の下に」!」

https://www.youtube.com/watch?v=MUwWRogQPqY&t=20s

アニーさんが力強くフルートに息を吹き込む。
すると、深い音が鳴り響き、空気が凄まじい音を立てる。
勇ましい曲が流れ、どこからともなく打楽器や弦楽器の調べも聞こえてきた。
空中に現れる、無数の水の槍。兵隊のように整列して、一斉に眼下の亡霊たちに向けられた。

(;*゚д゚)「あ!」

( ´_ゝ`)「上手く避けろよ、ギコ!」

(,,゚Д゚)「!」

刹那、雨霰と水の槍が降り注ぐ。
咄嗟にギコさんは巨大な斧を振り回した。
すると斧は瞬く間に変形して、巨大な盾に――否、あれはシンバル?
巨大なシンバルにかわって、その身を護る。

86 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:17:45 ID:Lb2uy7CM0

( ∴)ギョエブッ!?

( ∴)ゴゲゲッ!?

身を護る術のない亡霊たちは、次々と串刺しになり、青い泡となって消えていく。
アニーさんが曲を奏でる間、槍はとめどなく降り注ぐ。
どたばたと逃げ出す亡霊たちの姿も見えるが、逃がしはしないとばかりに突き刺していく。

( ´_ゝ`)「っ……ふう!ご静聴ありがとうございました」

アニーさんがフルートから指を離すころには、亡霊たちの姿はひとつとしてなかった。
戦いを通り越して、もはや蹂躙といっても差し支えない、一方的な戦い。
飄々としたアニーさんからは考えられないような力だった。

<_プー゚)フ「流石は人魚の丘の守護者ってところか。戦嫌いとは思えない強さだな」

( ´_ゝ`)「ハインやギコに比べればまだまだ、俺はひよっこさ。さ、しぃちゃん。下に降りようか」

(;*゚ー゚)「あ、はい」

アニーさんは私を抱いて、崖から飛び降りた。
マントがはためき、ギコさんの時よりかは幾分かゆっくりと、柔らかく降下。
ギコさんの隣に降り立つと、周囲を見回した。
……ひどい。降り立った場所から見渡す限り、大半の木が被害に遭っていた。

87 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:32:42 ID:Lb2uy7CM0

(*゚ー゚)「そんな……ほとんどの木が枯れてる……」

(,,゚Д゚)「……辛うじて皆、息はある。根に生命力の一部を逃がしていたようだな」

(,,゚Д゚)「駆けつけるのが遅くなってすまない。今回復してやるからな」

ギコさんは木々のひとつひとつを撫でる。
まるで幼い子供や家族を労わるような優しさだ。
物言わぬ木が相手だろうと、彼にとっては大切な領土の民なのだ。
そしてきっと――生前は、なにかの命だった。

(,,゚Д゚)「幸い、白糖山地は豊かな土地だ。俺が力を貸せば、回復も早かろう」

ギコさんは巨大なシンバルをひとなでする。
すると、銀のシンバルはみるみる縮んでいく。
今度は大きめのサイズの、無数のハンドベルにかわり、ふわふわと宙に浮かぶ。
彼はその一つを手にし、大きく揺らした。

https://www.youtube.com/watch?v=kvhsY19NGlI

厳かで、けれど胸に染みる曲が鳴り響く。
銀色の光が静かに、ハンドベルから放たれて、ふわふわとタンポポの綿毛のように散る。
光が枯れた木々にぴたりとくっつくと、吸い込まれていく。
すると……逆再生のように少しずつ、萎れた枝や幹がみずみずしさを取り戻す。
茶色く枯れた葉は、元の青さを取り戻し、喜ぶようにざわざわと梢が揺れる。

(,,゚Д゚)「……」

(,,゚Д゚)「ルイード。アンチェッタ、レイ、ミォーロ……よしよし、元気になったな。
     愚痴は後で聞いてやる。俺達は旅を急ぐ身でな。いそぎ、この森にも衛兵をつけよう」

(*゚ー゚)「?」

(,,゚Д゚)「彼等の名前だ。生前は皆、孤独のまま山で死んだ者や、山に帰れず朽ちた獣たちばかり」

(,,゚Д゚)「ここで木として寄り添い合いながら、次の生を待っている」

( ´_ゝ`)「ギコは木々の声が聞こえるんだ。この土地の王子だからね」

(*゚ー゚)「……」

私は木々を見上げる。只の木だと思っていたけど、彼等には名前があり、人生がある。
言葉は持たないけれど、ギコさんは彼等の声が聞こえるらしい。
……もし私の耳に聞こえたら、どんな会話が聞こえたのだろう。

88 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:40:27 ID:Lb2uy7CM0

ギコさんはハンドベルを再びシンバルに変えた。
今度は人間でも持てるサイズだ。それを盛大に、ジャァァアアン、と鳴らす。
ただの煩い音ではなく、その音一つが複数の音を持つような、不思議な音色だ。

すると、森の奥からザッザッと音が聞こえてくる。
は、っと私は息を飲み、周囲を見回した。
いつのまにか、白や黒の毛並みを持つ、ゾウのような牙を持った狼たちが、私達を取り囲んでいた。

(;*゚ー゚)「わ、わ……(囲まれた!)」

(,,゚Д゚)「安心しろ、俺の兵士達だ。気まぐれな奴等だが、頼りになる」

(,,゚Д゚)「来てくれて助かる。知っているとは思うが、亡霊の軍がここまで足を踏み入れて来た。
    俺はしばらくこの土地を留守にする。戻るまでの間、白糖山地の警備の強化を頼めるか」

狼たちは目を見合わせると、いっせいに遠吠えを上げ始めた。
犬のそれとは違う。吹きすさぶ吹雪のような声に、私は身震いした。
途端、彼等はまたさっと身を翻し、森の奥へと消えていく。

89 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:48:56 ID:Lb2uy7CM0

(,,゚Д゚)「請け負ってくれたようだ。彼等は上下関係に厳しくてな、警戒心も強い」

(,,゚Д゚)「悔しいが、前まではハインの言う事しか聞かなかったような連中だ。
     ……戦争になって、危機感も高まっているんだろう」

ギコさんは難しい顔をしながら、地図をもう一度眺めている。
身なりは狩人や山賊みたいだけれど、立ち振る舞いや言動は、本物の王子のそれだ。
ぶっきらぼうだけど、信頼できる人だ。私は心強い人を味方にしたんだな、と嬉しくなった。

(*゚ー゚)「ギコさん」

(,,゚Д゚)「なんだ」

(*゚ー゚)「さっきのギコさん、かっこよかったです」

(,,゚Д゚)

(#*゚ー゚)「でも、いきなり突撃するのはやめてください!肝が冷えましたよこっちは!!」

(,,゚Д゚)「む……」

(#*゚ー゚)「心配するからやめてくださいっ!」

(,,゚Д゚)「……、すまん」

へちょ、とギコさんが少し項垂れた。反省はしてくれたらしい。
なんとなく、私が危ないことをする度に、お母さんやお姉ちゃんが怒る理由が、分かった気がする。
アニーさんは「お、ギコが凹んだ」とけらけら面白がっていた。

 |:::) ……

 |彡 サッ


王子という存在についてまた一つ学びを得て、白糖山地の冒険は、まだまだ続く。
この一幕は、その序章に過ぎないのであった。

90 ◆oBpKnPjnq.:2021/12/07(火) 11:49:21 ID:Lb2uy7CM0

今日はここまで ほな

91名無しさん:2021/12/07(火) 13:14:31 ID:GE5HwjdI0
世界の広がり方が最高
とても面白いです 次も楽しみにしています
大好きです

92名無しさん:2021/12/07(火) 13:26:03 ID:zPywg3HU0

世界観が本当に最高で大好きすぎる

93名無しさん:2021/12/07(火) 15:24:38 ID:R7.n.H360


94名無しさん:2021/12/08(水) 01:31:58 ID:hiS/er3.0
乙です
戦闘描写凄い。ギコさんもアニーさんも格好良いわ、戦い方それ自体も面白いわ、ほんと最高だ

95名無しさん:2021/12/08(水) 11:55:31 ID:uXgZBPj.0
世界観最高すぎる
キャラも良い…楽しみ

96名無しさん:2021/12/26(日) 20:19:01 ID:L635Ahc.0
続き待ってるよ
すごく好き

97名無しさん:2023/04/19(水) 22:14:22 ID:OFS9yrHQ0
待ってる


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