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君と朝焼けを迎えたいようですよ
1
:
名無しさん
:2021/10/21(木) 17:32:23 ID:qaLRMrlg0
『人間が想像できる事は、人間が必ず実現できる』
いつだったか、子供の頃に読んだ本に書いてあった言葉を思い出した。
閑散とした街並みに差す光はやたらに眩く、鳥達が忙しなく喚きながら朝を告げている。白む空へ吸い込まれていくように溜息を吐くと、鬱陶しげにパーカーのフードを降ろし、ふらりと家路につく。
从 ゚∀从「思う様なんでもかんでも叶うならオレはこんな暮らししてねぇわな、と…」
カップ麺の容器が描く放物線の軌跡は見事にゴミ箱を外し、狭くて汚いアパートの一室でオレはふてくされたように寝転び天井へ向け呟く。
ハインリッヒ高岡。27歳、独身、中卒、女装風俗店勤務。この若さで人生につける文句は尽き夢想に耽ることなく後は枯れたように生きていたはずだった。
52
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:24:08 ID:InF0ABBQ0
オレが作るといつも朝食の内容はどうも酒のツマミかご飯のオカズかどっちつかずで、分量も作る側の感覚もどちらかと言うと夜食寄りだ。
ポテトサラダと油揚げの味噌汁、ヒジキに納豆に枝豆と冷奴。どう考えても手つきが一人でまあまあ多めに食って寝るつもりの時の動きだ。
(-_-)「…いただきます」
从 ゚∀从「おう、食え食え」
ヒッキーは食事の時にあまり会話をしない。
もともと大人しい性格なのもあるが一貫してちゃんと口内の物を飲み込んでから言う礼儀正しいヤツだ。
外の景色が雨模様なのはほんの少しだけありがたい。二人とも自然と「今日は何処へ行く?」という言葉が出てこなくなるから。
ヒッキーは美味しいと言ってくれるが、オレにはどうにも口の中に泥を詰められたようで「あー」とか「んー」とか適当な返事しか出てこず、当然会話は弾まない。
(-_-)「…ママ、今朝泣いてたよね」
そう切り出したヒッキーの突然さにオレは思わず咳き込む。わなわなと震える唇をぎゅっと噛み締め、今にも逃げ出そうとする足を叱咤する。
从;゚∀从「き、聞いてたのな…お前」
(-_-)「うん、あれで1回起きた」
从;゚∀从「わりーわりーうるさかったなー!ゴメンなー!」
53
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:24:58 ID:InF0ABBQ0
間延びした声でカクカクと頷くオレをヒッキーは幼い瞳でただじっと見据える。
(-_-)「辛そうだった。聞いててこっちが悲しくなって、少し泣いたらまた眠れたんだ」
从;゚∀从「な、なんてことねェよ。思い出し泣きだ思い出し泣き!昨日楽しかったなーって嬉しくてホラ、な?」
(-_-)「…そういう顔、ぼく見たくないよママ」
从 ゚∀从「…大、丈夫。大丈夫なんだよオレは」
(-_-)「おしえてよ、ママ。辛い事、苦しい事。隠し事なんてしないで」
从;゚∀从「ヒッキー」
(-_-)「おしえて、お願い」
从;゚∀从「やめろ」
(#-_-)「ハインさん!!」
从#゚∀从「うるせぇッ!!!!!」
怒鳴り声を上げたオレの姿に目を見開いて戸惑うヒッキーにオレはより険を含んだ視線をぶつけた。
从# ∀从「ごめん、ヒッキー。オレ今日は一日中寝る」
ヒッキーからの返事はなく、オレは頭から布団を被って震えていた。
54
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:27:22 ID:InF0ABBQ0
薄々と肌で感じ取っていたものに説明がついたような気がした。
あいつは時々、少しだけ奴と似た一面を見せる。
俺よりずっと幼い頃から、それこそ捨てられる前から孤独を味わって来た小さなオオカミ。その嗅覚は自分の疑問を明確に悟り、じゃれつくように何気なく傷を優しく舐めようとして鋭い牙を突き刺す。
奴と違う所があるとしたら、それは子供らしさだろう。研ぎ澄まされた牙はまだ小さく、引っ込め方を知っていても出した時にどう使うかを知らない。
群れるための大人の狡猾な知恵とホイホイ危険に自分から飛び込んでみる勇猛さの使い分けが出来ないまま、好奇心の純粋さが彼を独りにする。
いや、多分、確実に。寄り添うべきオレがそうさせてしまった。
嗤えよ、阿部。嗤えよ、兄者。
おれはオオカミのマネをする事も、オオカミに寄り添う事もできない子羊だ。
ハインさん、か。
ちくしょう。
55
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:28:46 ID:InF0ABBQ0
※
ママが僕が寝てる間に泣いていたかどうかは、朝起きた時に目元を見ればなんとなくわかる。
どうして泣いていたのか、いつも気になったけど聞かないでいた。同じようにお父さんを気にかけた時もそうだったから。可哀想なお父さんを見るのは辛いけどどこか愛おしくて、一緒に力になってあげたかった。けどお父さんはそれを嫌がるので、ぼくはお父さんが泣いていても何も言わなくなった。
人が辛いとき本当に声をかけて欲しいのは、きっと泣き止んだ後なんだろう。それこそ、赤ん坊の頃から。
間近でママの泣き声を聞いたのは、一緒に水族館に行った次の日の朝だった。
呻くような、ぐずるような。どこか切なくて、少し甘いような。背中越しにだんだんとそれがエスカレートして苦しそうな声に変わって行くのが分かった。
56
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:30:30 ID:InF0ABBQ0
「ぁ、ひぁッ、いやだ、いやだっ…!」
うなされるにしたってその声の響きは何か異常だ。起きているなら、何を怖がっているのだろう。眠っているなら、そんなに泣き叫ぶ事ってあるのかな。
大人なのに。
ママが数回、「嫌だ」と繰り返し泣いているのを聞いてぼくは背筋がぞくりとした。
怖い。
立ち上がって灯りを点ける事も出来るけど、きっとママに気づかれたらママは余計に泣いてしまうかもしれない。放ってはおきたくない、けど、
どうすればいい。身体がどんどん動かなくなる。
「ヒッキー…!」
(-_-)…!?
ぼくを呼ぶママの声に、思わず振り向いた。
夜目が利いてきて、うっすらと見えたママの姿は裸で、汗だくで、ぼくはますます何もわからなくなって、怖くて悲しくて目を瞑った。
雨音で気が落ち込んでいるのか、目覚めは最悪の気分だった。
何もしなかった。できなかった。
ぼくは今まで通り怒られないように黙っていただけなのに、どうしてこんなに苦しいのだろう。
ママは一足先に起きて、初めて朝ご飯を作ってくれた。
(-_-)「…いただきます」
从 ゚∀从「おう、食え食え」
ちょっと朝食には多いけれどママは夜型の生活なので多分夕食気分で作ったのかもしれない。普段ならママはちょっと抜けてる所もあるんだな、と新しく知った一面にくすりと笑う事も出来たんだろう。
57
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:31:34 ID:InF0ABBQ0
でも、ママはずっと悲しそうな目をしてる。
(-_-)「ママって意外と料理得意なんだね」
从 ゚∀从「…あ?あァ」
やめて。
(-_-)「レトルトとかインスタントばっかり食べてる印象だったから」
从 ゚∀从「そうだな」
きいて。
(-_-)「…お休みだし明日もママと朝ご飯食べれるね」
从 ゚∀从「…かもな」
おねがい。
ハインさん。
58
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:34:16 ID:InF0ABBQ0
(-_-)「ママ、昨日泣いていたよね」
从;゚∀从ゲホガハッ
不意を突かれたのかママが咳き込んだ。
聞いても聞いてもちゃんと答えてくれるけど、ママは痛々しく無理して笑ってる。
お父さんの顔が、ママの顔に被って見えてぼくは目を擦った。
これ以上ママを虐めたら、お父さんと同じになる。
止めなきゃ、でも、嫌だ。
ぼくを蹴って転ばせた後笑ってたママ。
ぼくの頭を優しく撫でるママ。
一緒に何処かへ行こう、と誘ってくれたママ。
水族館でぼくよりずっとはしゃいでたママ。
楽しかった、と伝えたらふんわりと笑って、とても嬉しそうにしてたママ。
へんな必殺技のカッコよさを力説するママ。
電車でぼくの隣で穏やかな寝息を立てていたママ。
ぼくの声に真面目に答えないハインさん。
空元気を出すハインさん。
冷や汗垂らして嘘をつくハインさん。
やめて。ぼくたちは家族なんでしょ。
おしえてよ、ママ。
お願い。
ねえ、ママ。
ママ。
(#-_-)「ハインさん!!」
从#゚∀从「うるせぇッ!!」
ああ、やっぱり、すごく似てる。
お父さんに。
59
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:36:16 ID:InF0ABBQ0
ハインさんは宣言通り一日中イモムシのように布団にくるまって寝ていた。
「起きて、ご飯食べようよ」と声をかけても返事はしなかった。寝たフリをしているなら多分トイレに行きたくなったりお腹が空いたりする事もあるだろうからそこがチャンスだ。そう思って夜通し見張ってもハインさんは布団から出てこなかった。
午前3時頃まで起きてたからかなんだか目がしょぼしょぼしてぼくは教室の中で大きく口を開けた。
(-_-)「ふぁぁ〜〜……っ」
('A`)「クソでけぇ欠伸だな」
前の席のドクオくんが声をかける。
子供のネットワークは思った以上に情報の流通が早く、きっとその裏にはこれまた噂好きの大人が居るのだろうなあと背景まで想像してしまうほどぼくの転校してからの生活はアウェーだった。
気づけば何故かハインさんが女装した男の人であることは学校中に知れ渡っていて、その息子という扱いになるぼくは一気に奇異の目で見られた。
60
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:37:58 ID:InF0ABBQ0
ハインリッヒ高岡の息子。
ママって呼ぶのには違和感を持たないけれど、そう言われると「あ、ぼくの事か」となってしまうのは何故だろう。
ともかくぼくの周りにはめちゃくちゃな悪意がひしめいている筈なのにどうしても今までのそれと比べて嫌な感情というか、ピンと来る感覚はなかった。知らない冷たさより、知ってる怒りの方がずっと痛いから。
「ハインさんが君たちに何をしたのか」「親が女装をしていて何か困る事でもあるのか」と不思議に思った事をクラスの子達に訊ねてみるとぼくはますます冷たい目で見られ、その中でぼくに興味を示してくれたのがドクオくんだった。
(-_-)「昨日は夜中の3時まで起きててさあ」
('A`)「マジ?俺は昨日からずっと徹夜でゲームしてたぜ。勝ち〜」
(-_-)「生活習慣の崩壊を誇っても何の自慢にもならないよ…」
変人には違いないけど、いい人なんだ。たぶん。わからない。
61
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:39:55 ID:InF0ABBQ0
( ><)「それに遅くまで起きてると身長伸びないんです!」
('A`)「おいおい揃ってマジレスか?なんかデータとかあるんですか?ん?」
( ><)「夜ふかししてると成長ホルモンが出ないんです!」
('A`)「それで?」
( ><)「えっと、わかんないんです…」
タコ、とドクオくんが彼の頭を小突くと彼は即座に「タコじゃなくてビロードなんです!」と怒る。二人にはお決まりのやりとりらしく、新参のぼくは微笑ましくも羨望の目で見てしまう。
ビロードくんも新しくできたぼくの友達の一人だ。
素直で、真面目で、ちょっととぼけた所もあるけど何も気にせずぼくに接してくれる。
62
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:41:32 ID:InF0ABBQ0
( ><)『ヒッキーくんはどこから来たんですか?好きな食べ物はなんですか?ぼくはおかあさんの作ったちゅうかりょうりが好きなんです!スポーツはなにが得意ですか?ぼくはどれもへたっぴだけどドッチで避けるのだけは得意なんです!』
初めてビロードくんと話した時、こんな風にまくし立てられたのを覚えている。どうしてそんなにぼくに興味があるのか、と聞くと「知らない事や知らない人に出会ったら観察するのが大事なんです!」とにこやかに答えてくれた。ぼくが大きくて不審で危険な大人でもこの子はそんな風に向かって行くのだろうか。
(-_-)『君はぼくを怖がったり疎まないんだね』
(* ><)『えへへ、正直なんでみんながヒッキーくんをこわがってるのか実はぼくまだわかんないんです。どうしてみんなはヒッキーくんのママが女の子の格好してるだけでこわがってるんですか?』
怒りっぽい人ならこういう時即座にひっぱたくのかな。
(-_-)『どうしてだろうね。ぼくにもわかんないや』
(* ><)『じゃあこわくないんです!』
ヒッキーくんも!と手を握られて、ぼくは微笑み返すほかなかった。
ともあれ、彼の「分からない事は知りたいと思っても別に怖いとは思わない」という思想には大きく共感出来るものがあり、その時ぼくはほんのちょっぴり親友にすらなれるかもと思った。
63
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:43:15 ID:InF0ABBQ0
( ^ω^)「おいすー」
( ^Д^)「ようドクオ!例のブツ、持ってきたよな?」
ガラリと戸を開けて入って来たのはブーンくんとプギャーくんだ。
ブーンくんは隣のクラスの子で、ドクオくん曰く、俺様が親友と認める世紀のナイスガイ。だそうだ。実際ぼくもおおらかで優しい人物だと思う。
プギャーくんとは友達の友達、程度らしいけど通学区域が同じで毎朝ぼくたちと一緒に話をしにこのクラスへやって来る。
内藤ホライゾンという1ミリもかすっていない本名に対してブーンというあだ名なのは何故だろう、という疑問はホームルームが近くなると瞬時に駆け抜けて行くそのスピードと廊下から聞こえてくる叫び声とついでに先生の「内藤!!廊下を走るなぁ!」という怒声で納得した。
64
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:44:19 ID:InF0ABBQ0
子供のコミュニティで大多数と異なる要素を持つ事は許されない。たとえその子供自身に関係が無くても。
そんな奴と仲良く出来るのは世間から理解されないよりすぐりの天才達なのだ、お前も含めて。
そうドクオくんと力説したのがプギャーくんだった。
それって「悪ガキ」って言うんじゃ…と思うほどプギャーくんはぶっきらぼうな子で、実際にドクオくんと仲良くなり始めてから一番執拗にぼくとハインさんを小馬鹿にしていたのはプギャーくんだ。
( ^Д^)「いいか、こいつはオペレーション・ミルナの締めくくりに相応しい一戦だ。幸い俺たちにはドクオとヒッキーがいる。負けはねぇ、必ずミル公に一泡吹かせられる!」
そんなプギャーくんを見返したのが、この「オペレーション・ミルナ」であった。
ミルナとは理科の先生の名前で、生徒達からは「鉄仮面」と恐れられている。
( ゚д゚ )
無表情で無感動。ぼくが大人になったらあんな風になってしまうのかな、それはちょっとやだな。ぼくですらそんな感想を抱く男だ。
65
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:46:34 ID:InF0ABBQ0
( ^Д^)『あ?なんだその目はオカマ。悔しかったらミルナを驚かせてみろよ』
('A`)『おいプギャー、くだらないマネはやめろよ。俺たちの敵は教師だけだ』
( ^Д^)『新入りの癖にさも自分は頭良いから関わりませんよって生意気なツラしてんのが悪いんだよwww』
生意気なツラをしてるのはどっちだ、とムッとして僕はそれに応えた。
(-_-)『いいよドクオくん、ミルナ先生を驚かせばいいんでしょ?』
ミルナ先生を驚かせる、というのはこの学校における一種の度胸試しイベントらしい。いかにもいじめっ子らしいプギャーくんが一人前の象徴として出すくらいだから、相当なものだろう。
たかだか無表情なだけで何をそんなに恐れられるのか、とは思ったが実際ぼくもそこまで言われる鉄仮面が驚いた時どういう顔をするのか気になったので、夜ふかししてハインさんが帰って来るまで待っていることにした日、ぼくはある作戦を決行した。
66
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:48:12 ID:InF0ABBQ0
作戦は至ってシンプルな落とし穴だ。
ハインさんが寝て、学校に先生が集まるまでの時間という僅かな隙間に校庭に深い深い穴を掘り、生徒達が集まった後ミルナ先生を呼び出して落とす。
事故には細心の注意を払い、落とし穴周辺に誰かが近づくとドクオくんとブーンくん、ビロードくんとで警備隊を組み避けてもらった。
(-_-)『ミルナ先生、こっちこっち、こっちだってば』
( ゚д゚ )『いったい何なんドブォフォァ!?』
(-_-)『よし…!』
( ^Д^)『うおーーーーーっ!!すげぇーーーーーっ!!!!』
(* ><)『ヒッキーくん!ヒッキーくん!大成功なんです!すごい!すごい!!』
(* ^ω^)『おっおっお、写真も連写バッチリだお!』
('A`)『まあね、最初からやれると思ってましたよ?俺はね』
( ゚д゚ )『貴様ら……梯子を持ってきなさい……』
これがぼくがこのグループの一員になった経緯。
「男を見せた」「俺たちの頭脳ナンバー2になるべき男だ」と喝采を浴びたものの、ブーンくんが収めた写真は落ちる瞬間ですらどれもいつもの鉄仮面であり、試合には負けたが勝負には勝ったという評価がドクオくんによってなされた。
当然ぼくたちはめちゃくちゃに怒られたが、一緒に落とし穴を埋める作業をしている時のプギャーくんの笑顔はとても眩しく何度もバシバシと肩を叩いてくれた。
67
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:54:40 ID:InF0ABBQ0
友人達の紹介はこのくらいにして、第4次オペレーション・ミルナだ。ぼくがやったのは2回目。3回目はビロードくんのみんなでお化けに仮装するトリックオアミルナ作戦。無論、これは失敗。初回はおそらくブーンくんだが、内容はぼくが来る前の出来事なので知らない。
そういえば、こういう悪だくみはドクオくんとプギャーくんの方が長けてるのにどうしてブーンくんが一発目だったのだろう?
(;^ω^)『お、驚く顔より怒りの大噴火を見る羽目になるお…?やめようお…』
('A`)『怒りの大噴火上等じゃねえか。やろうぜ、ブーン?』
( ^Д^)『そうだな。ブーン!一発派手なのを頼むぜ!』
( ´ω`)『なんで僕が先発なんだお…』
とかなんとか二人に挟まれて無茶振りされて、そういう経緯でもあったのだろうか。
68
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:56:17 ID:InF0ABBQ0
そんなわけでプギャーくんとドクオくんが大トリを務めるこの作戦はまだぼくたちにも秘密の大イベントなのだった。
(-_-)「例のブツって、何?」
('A`)「まあまあ落ち着けムッツリ諸君。驚くなよ?ションベン漏らすなよ?先走り汁垂らすなよ?こいつだ」
なぜだかぼくの机にドクオくんが雑誌を数冊並べる。裸の人と、同じく裸の漫画のキャラクターが半々といった所だ。
(* ^ω^)「おおおっ…!コレは!!」
( ><)「なんでみんなはだかなんですか?」
(-_-)「そういう本だからだよ」
( ^Д^)「オコチャマはこれだからな…そう、エロ本だ!あいつがけだるげに授業を始めようとしたら教卓に並べられたエロ本がワ〜オって効果音と共にこんにちは、そしたら流石のミルナも「おっ」とブーンみたいな声を出すに決まってる!それをオレがすかさずスマホでパシャリ!」
('A`)「第2段階は職員室に忍び込んでヤツの机にこれを置いて去る、それだけだ。ちょうど窓から丸見えだから撮るのも簡単、完璧だろ?」
完璧かなあ。いろいろ穴も多いと思うけど。
69
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:57:50 ID:InF0ABBQ0
(* ^ω^)「まあっミルナ先生!このふしだらな本は何ですか!?」
( ^Д^)「…ち、違うんです、これは…これは……wwwww」
即興でプギャーくんとブーンくんが小芝居を打つ。わざわざ声を高くしたり低くしたりその演技派ぶりは彼らの付き合いの長さを感じさせる。
それにしても、最後の大作戦にしては穴の多い計画に思えてならない。なんでここに来て日が浅いぼくが鉄仮面の鉄仮面ぶりを警戒してて彼らが過剰に軽視するのだろう?たかだかこんな本でミルナの表情筋が動くだろうか。
そうぼんやりと一冊妙な存在感を放つ薄い本を手に取ってみる。
('A`)「お目が高いねヒッキー、そいつは女装モノだぜ」
(-_-)「え、これ男の人なの?」
('A`)「そうさ。男の娘はもはや一般性癖よ、ヤツがこいつに反応すればもっと面白いと思わないか?ついでに超乳女子のスカものもあるぞ」
途中から何を言ってるか理解出来ない。
パラパラとめくってみると、20過ぎの女装趣味の男の人が初恋の人に再会して、という話らしい。
本を読むのは好きだがよくこんな薄い中に詰め込むなあ、と感心する。多分正しい楽しみ方ではない。
70
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 05:59:02 ID:InF0ABBQ0
( ^Д^)「オイオイちょっとヒッキーくん熱心に見入り過ぎじゃあないですかァ〜?」
( ^ω^)「仮にも教室でとんでもない度胸だお」
( ><)「ドクオくんはこういうヘンな本をどこから仕入れてくるんですか?」
('A`)「女子からの黄色い声援浴びまくりの5年3組の変態の王様を舐めるなよ?クソキモオタの親父から適当に見繕って持ってきたのさ。あいつの小難しそうな本棚の横の隠し扉の先はエロマンガ島だからな」
(-_-)「黄色い声援ってそういう使い方しないよ。あ…」
ふと、マンガの一コマに目が止まる。裸の男の人が、初恋の人を思い浮かべながら泣いている。
(-_-)「…泣いてる」
('A`)「ん?ああ、そりゃヤってて気持ち良けりゃ涙の一つも出るだろうよ」
(-_-)「そういうもんなの?」
('A`)「そういうもんさ」
71
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 06:01:01 ID:InF0ABBQ0
( ^Д^)「ま、オコチャマどもには刺激が強すぎるかな。ハイ没収〜」
(-_-)「あ、待って」
プギャーくんから例の薄い本を取り上げる。
(-_-)「この本…ぼくが貰ってもいいかな?」
(;^Д^)「マッッッッジかお前!?マジで言ってんのか!?はー!やっぱすげぇなお前はホントに!」
( ^ω^)「勇者だお…ヒッキーはムッツリスケベ王国から遣わされた精霊ムッツリスに選ばれし勇者だお…!」
('A`)「フッ…王位継承だな、アブノーマルプリンス。いいぜ?友情の証だ、大人になってもなくすなよ?」
( ><)「え、えーっと…ヒッキーくん、王様になるんですか?」
(-_-)「なんないよ…」
どうしてみんなのテンションが上がってるのか、どうしてこの本に惹かれたのかは分からない。
けど、分からないって事はきっと怖くない事だと思いたいんだ。あの時は目を背けて、今朝は怒らせちゃったけど。
きっと、ハインさんが泣いてた手がかりもここにある。
72
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 06:03:24 ID:InF0ABBQ0
(-_-)「えっと…」
放課後、ぼくは学校のトイレの中に居た。
第5次オペレーション・ミルナは当然残念な結果に終わってしまったが、朝に確保していたおかげであの本は取られなかった。
なぜこんな人目のつかない場所にこもっているのか。
誰にも見られず裸になれる所がここしかなかったのと、朝はなんとなくパラパラと4人の前で読み耽っていたけど今になってほんの少しの気恥ずかしさを感じてきたからだ。なんでだろう。
服を脱いで、しっかりと綺麗に畳む。流石に床に置くのは汚いので、便座とフタを下ろしてそこに置く。
例のページはすぐに開けた。
授業中妙に焼きついて離れなかったマンガの一コマ。
それを思い出す度に同時に頭の中に響くハインさんの泣き声。
裸のハインさん。
73
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 06:05:36 ID:InF0ABBQ0
(-_-)「こう、するのかな…」
漫画を片手に、擦ってみる。
数回で身体に伝わる、奇妙な電撃。
「な、に…これっ…」
わからない。わからないけど、違う。
怖い。
これは、あの時のハインさんに感じた恐怖と同じ。
怖い、けど気持ちいい。
何がわからないんだろう?何が違うんだろう?
だめだ、頭がこんがらがって、自分自身さえもわからなくなる。
何かがぼくの中で渦巻いて、身体中が熱くなって、救いを求めて縋り付く。
ハインさん、たすけて。
ハインさん。
たすけてよ。
ハインさん。
どうして?
ハインさん。
おしえてよ。
ハインさん。
ハインさん。
ハインさん。
ハインさん。
( _ )「ママ…」
どうしてあのときにぼくのなまえをよんだの?
74
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 06:08:29 ID:InF0ABBQ0
今日はここまでです
短編をこれ続けたら面白いんじゃない?で膨らませようとすると地獄を見ます
>>30
さしえ
http://img2.imepic.jp/image/20211024/074010.png?60635b04bb636dfb872cbeba5e82cf11
75
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 12:39:18 ID:wBevBIvs0
短編祭作品じゃない……ということはいくらでも書ける……!
乙
76
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:02:03 ID:wiZ66bfM0
俺もつい最近知った事だが、『バーボンハウス』はもともと阿部高和の店ではないそうだ。
だいぶ昔のことで、ついヤンチャをしすぎて暫く気に入っていた街を離れる事になった阿部に付き合いの長い垂れ眉のゲイが「日本を離れるから留守番のつもりで」と寂れたバーを快く提供し、ちょうど暇を持て余していた奴は羽休めについ二つ返事で預かっちまったのだ。
阿部もその垂れ眉もなるべく身軽で居たい方のゲイだったもんで唐突に行き先もなくぶらりぶらりと様々な世界を飛び回るのはお互いいつものことだったが、5年ほど待たされたあたりで流石に奴も少々退屈さを感じるようになったそうだ。
そうなると自ずと思考は「せっかくだから好き放題に拡張するなり俺好みに仕込むなりしてみるか」という冒険心へと舵を取る。
もちろん全部が全部阿部高和の理想通りとまでは行かなかったが、同じような連中の住処としてはまあまあご立派なものにはなったと言えるだろう。
住み着いてる一人が言うんだから間違いない。
77
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:03:12 ID:wiZ66bfM0
( ´_ゝ`)(実際俺も、今の愛だの恋だの存在しない一瞬だけの強い繋がりとさっぱりとした余韻に満足感を得てるクチだし)
l从・∀・ノ!リ人「あにじゃ、ぼーっとしながら歩くと危ないのじゃ」
( ´_ゝ`)「ん、おう。ごめんよ妹者」
ぐいぐいと小さな手に袖を引かれて、俺は少女の手を繋いだ。すると少女は思わず顔をほころばせ、同じ母親の血が通っているとはにわかに信じがたい可愛さを放つ。はあ、このスマイル一つで全世界の核兵器撤廃決まるんじゃないかしらん。
78
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:04:09 ID:wiZ66bfM0
たまに実家の花屋の手伝いをして夜は陳列されたケバケバしい花の一輪へ変わる。そんな暮らしをしている俺は他の同僚と比べれば日中でもまあまあ精力的な方で、今日も昼下りに緑茶のじんわりとした温かみを堪能しながら気楽に過ごしていた。
l从・∀・ノ!リ人「あんまり面白いのやってないのじゃ…」
報道番組。顔ぶれが違うだけの似たようなニュース。カン高い声のTVショッピングに今日の料理。妹者が膝の上でチャンネルを次々切り替えながらむすっと頬を膨らませる。
( ´_ゝ`)「昼間のテレビなんてそんなもんだ」
撫でても撫でてもぶうとむくれるのでどうしたもんかと苦笑する。すると突然何かを閃いたのか妹者が立ち上がった。
( ´_ゝ`)「な〜んかアテでもあるのか?」
l从 >∀<ノ!リ「妹者はちっちゃい兄者が辞書のケースの中にDVDいっぱい入れてるの知ってるのじゃ!」
( ´_ゝ`)「俺に似て聡いんだなあ、でも多分妹者にはまだ早い」
l从・∀・ノ!リ人「むぎゅっ」
ひとますほっぺたをつまんで止める。
弟の性格を考えるとただの貧乏性の可能性もあるが、十中八九まだ8歳の少女が触れるべきではない物を隠していると把握するのは容易い。兄弟だから。
79
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:05:44 ID:wiZ66bfM0
( ´_ゝ`)「弟者が帰って来た時弄れるネタかどうかは後で確認するとして、今日は俺と散歩に行こう」
l从・∀・ノ!リ人「おさんぽ行くのじゃー!」
( ´_ゝ`)「ちょうど過ごしやすい気温だしな。いいアイデアだろ?」
l从・∀・ノ!リ人「さすがだな、兄者」
( ´_ゝ`)「ふはっ、ちょっと似てるぞ」
成人男性が昼下りに幼女とおてて繋いでいるのはそういう理由。仲の良い兄妹が歩いてるだけの何のことはない風景だ。通報、職務質問諸々はご遠慮いただきたい。
ほのかに色付き始めた葉を眺めながら、俺の足は見知った男のアパートへ向かっていた。
妹者がついてくるのは偶然かつ、まあまあに不本意な事態ではあったが元々今日は同僚の家に行くつもりだったのだ。
阿部から借りた鍵を指でくるくると回し、二人はゆるりと歩き続ける。
80
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:07:56 ID:wiZ66bfM0
( ´_ゝ`)「よう大将、やってる?」
がちゃりと鍵を開け家に一歩入るなり布団に縮こまった何かが俺たちを迎えた。
l从・∀・ノ!リ人「おっきなサナギさんなのじゃ」
妹者が不思議そうにキョロキョロ辺りを見回しながら小声で呟く。それが家主だとはまだ気づいていないのか。
( ´_ゝ`)「…いいや、人間だよ。こいつは…」
l从・∀・ノ!リ人「?これハインなのじゃ?」
l从・∀・ノ!リ人「おーいハイン、遊びに来たのじゃ、起きて欲しいのじゃー」
妹者が無邪気に揺さぶる。俺はその肩を抱くと少し下がらせ、布団を見下ろすと見当をつけて横っ腹をめがけ鋭く蹴り込んだ。
なかなかに良い音が8畳のワンルームへ響いたが、妹者に驚いた様子はない。俺が子供の頃から母者に叩き込まれ、兄弟共に染み付いた流石家流の寝起きの悪い奴の起こし方である。それを間近で見てきたのだ、嫌でも健康的な生活になる。
( ´_ゝ`)「おはよう、高岡」
从 ∀从「…うん」
まさしく布団が吹っ飛んだと言うべき光景だが、高岡は怒鳴り声をあげずこくりと頷いた。
l从・∀・ノ!リ人「帰れ!って言わないのじゃー?」
从 ∀从「…まあ」
81
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:08:59 ID:wiZ66bfM0
人形みたいなやつ。それが初めてハインリッヒ高岡に出会った時の率直な感想だった。
細く誰より美しく儚げで、そんな見た目とは対照的に周りに舐められず生きてけるだけの強気さを持っていて。けれど俺には悲しいほどに不自然に映る。粗暴な怒鳴り声も、にかりと歯を見せ笑う様も、どこか硬くてぎこちない。
バーボンハウスに居る連中は良くも悪くも上等な人間性をしている。特に居場所を失って流れ着いて来た奴らは。
憎々しげに地に唾を吐き捨て自由を謳歌する者、寂しさに耐えられず泣き腫らしてそのうち順応していく者。どちらにしたって奴らは自分が捨てられた理由、捨てるに至った理由を理解しているからこそ怒り、涙を流し、僅かに残ったアイデンティティをここで再構成していく。高岡は先程挙げた例では後者の人間だが、彼らとは違いその理由を知らないのだ。
忙しない雑踏の中で、ぽつんと煤けた人形が虚空へ「自分は何故ここに居るのか」と誰にも聞こえない問いを諦めずに投げかけている。
それが一部の人間に聞こえた所で、俺にはどうにも出来ないし奴もそれを望んではいない。
お互いに知らないままにした方が人生楽に進むこともある。
俺と高岡の付き合いは、そういう寄りかからない関係だった。
82
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:12:10 ID:wiZ66bfM0
( ´_ゝ`)「勝手に菓子漁るぞー」
从 ゚∀从「好きにしろよ」
そんな高岡の眼差しが他の連中と同じになったのはつい最近のことだった。
ああ、とうとうか。
ひび割れた器から次々とこぼれて行く奴のプライベートを隣で聞く度俺はその初めてを喜んだ方がいいのか悲しんだ方がいいのか複雑な気持ちにさせられた。
高岡の母親がとんでもないアバズレだったこと。
そのアバズレから一欠片も血が繋がっていない子供を預けられたこと。
理解したからこそ鋭く感じる痛みと、今まで知り得なかった痛み。それがあいつを些細な衝撃でも砕け散ってしまうほど脆くしてしまっている。
たとえそこが孤独の海でもあいつは何だかんだと強く立ち続けていたのに、俺はそれを眺めて話しかけてるだけでよかったのに。
ハインリッヒ高岡が人間になってしまった時、俺は改めて今までの自分の愚かさに苛まれ、それを受け止めきれず逃げ出したのだ。
( ´_ゝ`)「シケてんな。妹者!近くにコンビニあったろ?あそこで何か買ってきな。300円あげるから」
l从・∀・ノ!リ人「500円なら行くのじゃ」
( ´_ゝ`)「嗚呼悲しきは自分は仔猫だと惑わせるヒグマの血…!父者もこれにコロリとやられちまった…!」
笑顔で手を出す妹者にワンコインを渡し、こちらへ手を振る小さな背中に俺は気をつけてなと見送った。
話はここからだ。
83
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:13:24 ID:wiZ66bfM0
( ´_ゝ`)「…だいたいワンパターンなのよね、毎回毎回落ち込んで立ち直ってすぐオレはダメダメだ〜って弱音吐くの。最近ずっとそうじゃん。今すぐオメダ高岡に改名しろよ」
从 ゚∀从「…テメーより先にくたばったら戒名にそうつけりゃ良いよ」
いつもの調子で放ったジャブに、強い返しは来ない。
響かないならもっと強く心に叩き込んでやるまで。
( ´_ゝ`)「これだもん、これなんだもんな。心と金に余裕無い奴はペット飼うなっつーのは本当だね」
すると俯いていたハインが初めてこちらへ顔を上げギロリと鋭い目つきを向けた。
从#゚∀从「あいつはペットじゃねェ。その長っ鼻へし折ってぶち殺すぞ」
( ´_ゝ`)「おっけおっけ。流石にそこまで腑抜けて無いようで」
从 ゚∀从「…悪ィ、わざわざカマかけるような真似させて」
( r´_ゝ`)r「そりゃまあカマですもの。とっくいわざ〜」
わしわしと腕を動かしておどけて見せる。別に心にもない事を言うのは慣れっこだし気にしてはいない。
从 ゚∀从「…「恨めしや」のポーズ?」
( ´_ゝ`)「カマキリだよバカ。マジの絶不調か?」
84
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:15:02 ID:wiZ66bfM0
( ´_ゝ`)「バカじゃねえの」
事情を把握しての第一声は、自分でも驚くほどとても簡潔だった。
( ´_ゝ`)「俺は阿部みたいに気が回る方じゃないからとことんデリカシーの無さで今のお前と付き合うが改めて言わしてもらうよ、バカじゃねえの?」
从 ゚∀从「…バカみてえな話だよ。あんな事で怒鳴っちまって」
( ´_ゝ`)「そうじゃなくて。お前が性欲チンパンジーのカスだって話。やっちまったもんはしょうがねえとして、沈みすぎなんだよ」
从#゚∀从「お前はそう思うだろうよ、知ってるんだからな!けどあいつはおれがどんな人間か知らねえんだ!」
(#´_ゝ`)「怖がって無理に隠そうとしたって相手は薄々気付くんだよ。家族なら尚更な、お前みてえに分かりやすいグズグズした野郎は居ねえ」
一気に頭に血を上らせ力任せに叫ぶハインに俺も我を張って返す。胸ぐらを掴んだまま、ハインの瞳に涙が滲む。
85
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:18:30 ID:wiZ66bfM0
(#´_ゝ`)「今更やっぱり俺みたいなクズには無理ですとか甘えてんじゃねえよ、でもってそんな自意識過剰になっても周りはてめえのクズさをそこまで気にしねえ」
顔を埋めるな、俺を見ろ。
お前の前に立ってるのは狼でも子羊でも人形でもないんだ。
从# ∀从「おれは」
( ´_ゝ`)「『オレは恵まれてるお前とは違うんだよ』はナシだぜ。そういう悩みは早い内にまず言っちまえ。怒鳴られても蔑まれても向き合うとこからだ」
从# ∀从「おまえ、みたいな」
( ´_ゝ`)「俺みたいなってなんだよ」
( ´_ゝ`)「なあ、俺とお前何が違うんだ。何で間違えちまったんだ」
昔聞いた台詞回しを、弱々しい身体にそっくりそのままぶつけていく。
比べられてもヘラヘラと都合ばかり良いフリして、自分を誰かに見つけて欲しいとか、こんな自分でも何か認めて欲しいとか。そういう叫び声ばっか胸の中に押し込んで。
(´<_` )「オレみたいなってなんだよ」
(´<_` )「知ってるんだよ。アンタが独りぼっちだって被害者面して、迷惑かけんの怖がって最初から誰の事も見ようともしねえどうしようもねえクズって事くらい」
(´<_` )「誰かに強請るのが恥ずかしいってか。兄者、オレ達はなんだ?」
溜め込んで溜め込んで手遅れになったとき、隠されてた側だって辛いんだぞ。
86
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:20:47 ID:wiZ66bfM0
※
身体中をいっぱいにした熱が収まると、ぼくは着替えて一目散に駆け出した。
もやもやと何かがぼくの中で膨れ上がって、一気に弾け飛んで行った思考の欠片達。その中に紛れた熱くて、血のように赤黒くて、きっと触れたら戻れなくなるような恐ろしさと甘美な香りを放っている異質なそれを、ぼくは手に取ってしまった。
あの時、ハインさんはどうしてぼくの名前を呼んだのだろうか。
息を切らす度に何度もよぎるそれはぼくの頭の中を支配して消える様子がない。
それが怖くて、ハインさんが浮かぶ度に何度も首を振って。藁をも掴むような気持ちでドクオくんの家に駆け込んだのである。
('A`)「ヒッキーか。ちょうど次の作戦を考えようとしてたとこなんだ、反省文なんかで怯んじゃいられない。お前もそうだろ?」
('A`)「ってか臭いぞ、汗もそうだが色々臭い。ナニをしてたかは分かるがどうしてそんな急いで来たんだ」
(;-_-)「っ、はぁっ…ごめん、これ、やっぱり返すよ…」
そう言って鞄の中から取り出した本を差し出す。
87
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:21:47 ID:wiZ66bfM0
('A`)「なんだ好みじゃなかったか?そういうこともあるさ。気にするなよ。友情の形なんていくらでもある」
(;-_-)「違うんだよ、そうじゃない…」
何が、とめんどくさそうにドクオくんがこめかみを掻き、ぼくは八つ当たりをするように胸ぐらを掴んで叫んだ。
(;-_-)「教えてくれよ、あれはいったいなんなの!?」
88
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:23:11 ID:wiZ66bfM0
ドクオくんはぼくが落ち着くのを確認すると、自分の部屋にぼくを招き入れ椅子をくるりと回して説明を始めた。
('A`)「お前がしたのはオナニー。自慰とも呼ぶ。読んで字の如くちょっと将来のお前の子供達を支払う代わりに多幸感を得て自分を慰める、俺に言わせりゃニルヴァーナ」
(-_-)「…みんな、やってるの?」
('A`)「やってるやってる。何なら気づかない内にな」
もっともお前みたいなタイプはタイミングによるけどな、と続けてドクオくんはカカカと小さく笑った。
('∀`)「要するに人生を豊かにすることさ。最初は戸惑うだろうがその内幸福になれる。良かったよ、お前の目覚めに貢献できて」
幸福か。確かに、何もかも分からないまま全てが興奮の中に溶けて自分すら忘れていた時間はほんのちょっぴり幸せだったかもしれない。
(-_-)「でも、今は息が苦しいんだ。リセットは出来るけど、新しい疑問だって出てくる」
(-_-)「…それにハインさんだって嫌だ、嫌だって泣いてた」
ふと思い出してぼくは片手で顔を覆った。ドクオくんはただ黙って、ぼくの話に頷く。
軽く息を吸って、吐き出す。下腹部が妙に痛い。
89
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:24:22 ID:wiZ66bfM0
(-_-)「ドクオくんは、初めてした時怖くなかったの?」
('A`)「俺に怖い物なんてないさ。あるとすればマミーが泣く事くらい」
(-_-)「…つらいよね」
('A`)「あんなの選ぶマミーだからそういう心配するような経験欠片も無いんだけどな、むしろ毎晩燃え上がってるし」
('A`)「お前のマミーがなんで泣いてたかは知らん、知らんけど…興味があるなら開けるべきだと思うぜ。今朝も、その本手に取った後も。お前はそうする術を知ってる」
(-_-)「…開けるって、何を?」
('∀`)「扉さ。ビロードじゃないが、理解出来ない事にモヤモヤ抱えて悩み続けるくらいならいっそ飛び込んで、観察して、知ればいい。おっと、無理に同じ世界に立ち続けろってわけじゃあないぞ。ちっちゃい頃から勉強漬けでインテリさんぶってた俺の親父今あんなんだ」
まるで喉の奥に魚の小骨が引っかかったように、上手く言葉が紡げない。気まずいわけでも無いんだ、ただ気持ちを伝える事が難しい。そんなぼくの姿をドクオくんは気持ち悪いくらいにニコニコしながらぼくの答えを待っている。それから暫くして、僕は漸く重たい唇を開けた。
(-_-)「ドクオくんってさ、案外まともだよね」
90
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:25:04 ID:wiZ66bfM0
エキセントリックで、ぼくの知らない事をなんでも知ってて、ぼくの知らない変な言葉で喋って。周りからは変態だ変態だって言われるけど人の気持ちをよく理解しようとして、独りの人間にも迷わず寄り添おうとする優しい子だ。変わってるのには違いないけど、同じ側に立たなくても今はこの子の本質を理解できる。
('∀`)「ふふ、俺とビロードはいい例だろ?相手を観察するって事が自分の人生をより良くするってさ。俺はずっとお前も同じタイプだと買ってるんだが」
ありがとう。ぼくも観察するだけじゃなく君みたいに全身で主張して飛び込んでみる事にするよ。誰かに知ってもらえるように。誰かに教えあえるように。それがきっと素敵な事だと思う。
そう言ってぼくはドクオくんの家を後にした。
話してる間にずっと彼が着ていた鎖骨から上だけの珍妙な服を逆バニースーツと呼ぶことを教えてもらってから。
91
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:27:07 ID:wiZ66bfM0
日が落ちるのは早く、ぼくが帰り着いたのは6時。
真っ暗闇の中で窓から光が漏れてるのに気付き、ぼくはハインさんが起きて待ってくれているのを悟り知らずの内に唇に力がこもった。
まだ息は少し苦しく、ぼくは緊張をほぐそうとしてとっさに面白いもの、安心するものを思い浮かべた。落とし穴に落っこちるミルナ先生。ドクオくんの変な格好。プギャーくん達。水族館の時のハインさんの笑顔。
ハインさん。
そうだ、怖がってちゃだめなんだ。
ちゃんとママっていつもみたいに楽に言えなくちゃ。
ハインさん。
ハインさん。
心臓が跳ね、鍵をひねる手が強張る。ドアを開けた時ぼくは何て言えば良いんだろう。いや、知っているはずだ。その勇気をほんの少し頑張って出せばいいだけ。
(-_-)「ただいま、ママ」
从 ゚∀从「…おう。ヒッキー、おかえり」
目の下の隈は最後に見た日よりずっと酷くなってるし腫れてるけれど、ママはすごく綺麗だった。
92
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:28:39 ID:wiZ66bfM0
从 ゚∀从「なあヒッキー。どうして帰りが遅かったんだ?」
机の上で頬杖をつきながら、ママは赤い瞳を愛おしそうに細めて言った。
そういえばママが起き出す時間にはどんなに遅くなってもぼくは家に帰り着いているし、寝起きのママに学校の話もあまりしなかったからママはぼくの新しい学校での生活を知らないんだ。
語気を強める様子がないので、ぼくもはっきりと言う。
(-_-)「反省文を書いてたんだ。それから友達の家で遊んでた」
从;゚∀从「は、反省文!?何やらかしたお前…」
(-_-)「初めてじゃないよ?えっとね、ミルナって先生が居るんだ。無表情で、無感動で、鉄仮面って言われてるヤツ…」
それから、それから…伝える事、知ってほしい事はいっぱいある。
ママは怒る事なく、むしろミルナ先生を嵌めた話に「それでそれで?」と膝を叩いて爆笑していた。
93
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:30:37 ID:wiZ66bfM0
从*゚∀从「へー、落とし穴ね!はは、お前結構やるなあ!」
(-_-)「うん。やってる途中はそんな事感じなかったけど、よくあんな事する気力があったなって思うんだ」
从*゚∀从「いやいや、やっぱお前は強い!ちゃんと楽しくやれてるみたいでなんか安心したわ」
うらうら、とぼくの頭をママが撫でてくる。
あの時と同じように胸に熱いものが込み上げてくるのに、肩の力が抜けて呼吸はずっと楽になっている。
この流れなら言える、かもしれない。
(-_-)「ママは、今朝どうして泣いてたの?どうしてぼくの名前を呼んだの?」
暫し、その整った顔を見上げる。ママはゆっくりと目を閉じると小さく息を吸い込んだ。
从 -∀从「…お前、ダチからエロ本見せてもらったんだろ?ママはそれに載ってるようなエロい事して稼ぐ仕事してんだよ」
94
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:31:12 ID:wiZ66bfM0
从 ゚∀从「で、前に言ってた男の人が好きなのか。好きだぜ、性的に。タチネコで言ったらややタチ寄りのリバってくらいで…あ、えっと…突っ込む側と突っ込まれる側があってな?」
ママはとても難しそうな顔をして何度か頭を掻いた。声もなんとか絞り出すようで、ぼくも言ってる単語のほとんどはわからないけど、しっかりと一つ一つ相槌を打ちリラックス出来るようにつとめた。
从 ゚∀从「んで、10年くらいほぼ毎日そういうことしてるから…まあまあ、あの、尻もアレだし…性欲のネジ全部ぶっ飛んでバカになってるから…」
从 ∀从「赤の他人でもお前でもやろうと思えば簡単に性の対象に出来るオレが嫌で嫌でしょうがなかったから…その、お前に怒鳴ってふて寝のフリして…すまなかった」
どんどんか細い声になって、ママは俯いて言い終えた。
ぼくが席を立つと、ママはぎょっとして怯える。
ぴたりと背中をくっつけると体温も吐息も、鼓動すら感じられるようだ。
95
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:32:30 ID:wiZ66bfM0
(-_-)「あのさ、ぼくもやったよ?ママで」
そう囁くとママが思い切り咳き込んだ。
从;゚∀从「げほっ、げほ…お前な、同じ「オ」だったらもっと覚えるべき言葉があるだろ、オブラートとか…そういうとこだぞ…」
(-_-)「だからさ、不思議な事はまだまだあるしママの説明はわかりにくいけど…ママの事、こわくないよ。ちょっとだけわかるから」
从 ゚∀从「うん、その…なんだ。ちょっとだけにしておけ」
(-_-)「…幸せが足りなかったんだよね?」
从 ゚∀从「あ、あー…そっち?まあでも心配はいらねェと思うぜ。起こさないように我慢できるから、多分…」
それに、と口許を綻ばせてママは続けた。
从*゚∀从「家族なら…足りなかったら、二人で増やせる」
96
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:34:17 ID:wiZ66bfM0
※
( ´_ゝ`)「なあ弟者、俺は今日昔の俺みたいなのに会ってきたよ。すげーダメなヤツだった」
(´<_` )「まるで今はダメなヤツじゃないような言い草だな兄者」
歯に衣着せぬ調子で弟者が酒を呷る。いつもの事ながら遠慮のないやつだ、とアジフライを頬張りながら微笑む。
(*´_ゝ`)「だろ?だからさ、俺…知らん奴とっかえひっかえすんのも楽しいけどさ。やっぱ近くに弟者や妹者や母者達が居てよかったなーって話」
(´<_` )「…良いことあったらしいな兄者」
( ´_ゝ`)「俺にはな。あの様子じゃ心配は無いと思うけど…良いことになったかどうかは明日の夜わかるさ」
97
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:35:34 ID:wiZ66bfM0
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー、どうしてちっちゃい兄者は映画を辞書のカバーに隠してるのじゃ?」
妹者が訊ねる。散歩から帰ってきて確認したところ、俺が危惧したような物は無くスプラッタ色の強い映画のパッケージが並ぶばかりだったのだ。それならまぁいいか、と妹者に伝えたのだが弟者は妙に焦った様子だった。
(´<_`;)「あ、アレはな?妹者」
( ´_ゝ`)「妹者が見るには刺激が強すぎるから遠ざけてたんだよ。ホントは優しいんだ〜とか思われたくないから言わなかったみたいだけどさ」
(´<_`;)「兄者!!」
l从・∀・ノ!リ人「?ちっちゃい兄者が優しいのは妹者ずっと前から知ってるのじゃ」
(´<_` )「そうだな。オレは優しいからな」
( ´_ゝ`)b「この切り替えの速さとシスコンぶり。流石だな弟者よ」
(´<_` )「うっせ」
(;´_ゝ`)「あっお前嫌いな大根ばっかよこすな!どうせならウインナーよこせ!ってか貰う!」
お前も今はこんな風に飯を食えてるのかな。
休み明けに聞かされる話が暗い夜空に不釣り合いなほど暖かである事を祈るばかりである。
また明日な、高岡。おやすみ。
98
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 02:37:50 ID:wiZ66bfM0
今日はここまでです
99
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 07:22:38 ID:B/uX9D/o0
乙
100
:
名無しさん
:2021/10/27(水) 23:48:16 ID:u6PpxAqY0
乙です
誰か一人でも欠けてたら、こういう着地の仕方はできなかったろうな
よかった
101
:
名無しさん
:2021/12/02(木) 18:47:39 ID:ZQryrHbA0
ドクオが逆バニー着てるところで噴いた
複雑ながらもうまく着地できそうでよかったのかな?
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