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愛しきくろがねの彼氏のようです

1 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:03:13 ID:M3HbLNuM0


( ^ν^)


彼は、とても頑固な人だ。


穏やかなその雰囲気とは裏腹に、滅多に笑わない。一度決めた事は決して曲げない。

二人並んで歩道を歩く時は必ず車道側を歩くし、買い物に行くと絶対に軽い物しか持たせてくれない。
私がどれだけ「そんなに気を遣わないで」と言っても「別に気なんか遣ってない」の一点張りだ。


それに、ちょっと残念な所もたくさんある。

面倒くさがりで、部屋の片づけが下手なところ。
仕事ではちゃんと人付き合いができる癖に、プライベートではてんで友達が居ないところ。
二度寝が好きで、休日は全然起きない。
愛想が悪くて嫌われそうなのに、背が高くて、細身で、顔だけはいいから妙にモテてしまうところ。

一度気に入ったものは、絶対に手放さないところ。

好きな商品は販売停止になるまで買い続けるタイプで、期間限定品に入れ込んでは、販売期間が終わる度に落ち込むところ。


ζ(゚ー゚*ζ


悔しい事に、私はそんな彼の事が大好きだった。

2 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:03:59 ID:M3HbLNuM0


◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


それはある日のデートでの出来事だ。


( ^ν^) 「ん……」


ζ(゚ー゚*ζ


今日は週末だ。
珍しくアラームの時間通りに起きた彼を連れ、私はショッピングに来ていた。
季節の変わり目というのは服装の変わり目だ。
秋の始まりを肌で感じる今日この頃、私は自分と、何より服に無頓着な彼の分の秋服を求めてさまよっていた。

奮発してお揃いのジャケットを購入し、買い物にもひと段落ついた頃合いである。
日の沈みかけたアーケード街を二人並んで歩いていると、ふと彼の足が止まった。


ζ(゚ー゚*ζ 「どうしたの?」


( ^ν^) 「ん、いや……」

3 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:04:20 ID:M3HbLNuM0


彼がこのように言い淀むのは実に珍しい。
しかしこうなる時というのは大抵何かに興味を抱いた瞬間であり、それは何らかの新商品であったり、ドラマや映画であったり、小説であったりする。
そしてそのどれもが突発的にして衝動的なものであった。

この場合も同様に、彼はあるものに視線を奪われているようだった。


ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッくん」


( ^ν^) 「ん……」


ζ(゚ー゚*ζ 「カラオケ。好きなの?」


彼が先程から凝視しているのは、とあるカラオケチェーン店の看板だった。
かれこれ三年程の付き合いになる私達であるが、彼が歌っている姿というものは一度も見た事が無かった。


( ^ν^) 「いや……行った事ない」


そう言う彼の瞳は、すっかり夕日の中に燦然と輝くネオン看板の引力に捕らえられている。
こうなってしまえば最後、彼は呆然とカラオケへの興味を引きずりながら生活を続ける事になる。
そして我慢の限界に達すると唐突に一人でカラオケ屋へ通い詰めるようになり、気づいた頃には一人カラオケの常連と化しているのだ。

4 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:04:41 ID:M3HbLNuM0


それはそれで構わないのだが、私としてはやや寂しくもある。
つまり私から誘導してあげなければいけない。二人の絆を繋ぐのはいつでも私なのである。


ζ(゚ー゚*ζ 「行ってみる?」


( ^ν^) 「ん」


ふと、乱雑に手を引かれる。
いつだってこういう、不意な男らしさのようなものが、ひどく私の心臓を痛めつけてくるのだ。




( ‘∀‘) 「いらっしゃいませー」


カラオケ屋の受付では背の低い女性スタッフがにこやかに佇んでいた。

人が苦手な彼は、すっかり黙り込んでしまう。まるで借りて来た猫だ。
受付を済ませている間、彼はドリンクバーやフードメニューに興味を引かれているようだった。
私の仕立てたモノクロのファッションに身を包む彼は、その雰囲気も相まってまるでクロヒョウのようでもあった。

この後は特にどこかに行く予定も無いし、散々歩いて疲れていたので、ゆったりと時間を潰せるようにフリータイムで入室する事にした。

案内された部屋は奥まった場所の角部屋だった。
室内は狭く見えたが、案外二人並んで座ってみると丁度良くもあった。

5 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:05:03 ID:M3HbLNuM0


ζ(゚ー゚*ζ 「カラオケとか久々だな。いつ振りだっけ……」


( ^ν^) 「……友達と?」


ζ(゚ー゚*ζ 「うん。社会人になる前だったかな」


( ^ν^) 「ふぅん」


興味なさげに呟きながら、さりげなく腰を浮かせてこちらへ距離を詰めて座り直してくる。
密着面積が増え、鼓動が早まってしまう。

彼の横顔に視線をやると、耳元に光るリングが目についた。
私が誕生日にプレゼントしたものだ。
余程気に入ったらしく、プライベートでは常に身に着けているようだった。


( ^ν^)- *ζ チュ


なんとなく、彼の頬に口づける。

6 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:05:36 ID:M3HbLNuM0


( ^ν^) 「なに急にこんなとこで」


ζ(゚ー゚*ζ 「いや?別に。ニュッくんの事好きだなーと思って」


( ^ν^) 「…………」


彼は、照れると黙り込む。
怒っていても、悲しんでいても黙り込むが、照れている時に限っては、耳だけが赤くなる。

彼は赤い耳を隠すようにしながら、ドリンクバー用のグラスを二つとも持って出て行ってしまった。


◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


彼が両手にドリンクを抱えて戻ってきたのは、私が一足先に流行りの曲を入れ、まるごと歌い終わった頃だった。


( ^ν^) 「カルピス取ってきた」


ζ(゚ー゚*ζ 「ありがと」


彼の耳からは赤みがすっかり引いていた。
出ていく前よりも髪型がやや整っていて、そのいじらしさに思わず笑みがこぼれてしまう。

7 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:06:08 ID:M3HbLNuM0


ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッくん、何歌う?」


( ^ν^) 「ん……操作分からん」


電子端末を手渡すが、初めてのカラオケだという彼にとってはまさしく未知の文明の機械なのだろう。
私が簡単に操作方法を説明すると、おそるおそるといった感じでタッチパネルに触れている。

一通りの操作を実演しつつ、試しに私が好きな曲を予約して見せた。


ζ(゚ー゚*ζ 「こんな感じ。人が歌ってる間でも予約できるから、好きな曲入れてみて」


( ^ν^) 「ん」


イントロが流れ出す。最近流行りのラブソングである。
歌声に自信がある方ではないが、歌う事は好きだ。

彼は一体何を歌うのだろうか。
思えば、特定のアーティストが好きだと言っている姿を見た事がないように思う。

興味を引かれつつも、Aメロに合わせて歌い始めた。

8 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:06:47 ID:M3HbLNuM0


◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


楽曲も終盤、最後のサビに差し掛かった頃だった。




本人映像に合わせて歌詞が流れている中で、楽曲予約のポップアップが画面上部に現れる。




 [予約:一曲目 マジンガーZ 水木一郎]
 https://open.spotify.com/track/3pHRdgmp5uDRJG9kiWebkY?si=774481d6cdaa48b1





ζ(゚ー゚*ζ


意外。

あまりに意外。


普段の彼の趣味嗜好とはあまりにかけ離れた選曲には、何よりも驚きが勝る。
おかげでラストの最も盛り上がる部分を歌いそびれてしまったが、そんな事は割とどうでもよかった。

伴奏が終わり、曲と曲の合間の無音の時間が訪れる。

9 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:07:32 ID:M3HbLNuM0


予約曲一覧が表示され、最も上の部分。

「次の曲」と書かれた部分には、やはり「マジンガーZ 水木一郎」と大きく表示されていた。


ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッくん……アニソンとか好きなの?知らなかった」


( ^ν^) 「ん……親父の影響で、子供の頃よく歌ってたなって」


ζ(゚ー゚*ζ 「なるほど……」


確かに、カラオケ端末のアニソンランキング部門では割と見かける楽曲だ。
それにテレビ番組でも時折取り上げられており、幅広い世代が認知している事は間違いない。

私自身はアニメが嫌いな訳ではない。かといって特に好きな訳でもなかった。それは恐らく彼も同じだろう。

それだけに、彼が昭和のロボットアニメの曲を歌うというのは本当に意外で、強く興味が湧いた。


画面が暗転し、いよいよ曲が始まる。

特徴的なイントロと共に、画面には、「伴奏 約10秒」と表示されている。


( ^ν^) 「ん、ん……あーあー」


彼は気だるげにマイクを握りつつ、喉の調子を確かめるように声を出した。
私はといえば、あらゆる意味で初めての光景に、期待半分、緊張半分といった感じの心境で、彼の歌声を待っていた。

10 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:08:08 ID:M3HbLNuM0


( ^ν^) 「空にィ そびえるゥ くろがねのォ城」


( ^ν^) 「スーパー ロボット マジンガーZォ」


――上手い。伸びのある、良い歌声だ。

元々、彼の声は特徴的だがいい声でもあった。


( ^ν^) 「無敵の力は僕らのためーにィ」


( ^ν^) 「正義の心を パイルダーアーア」


(#^ν^) 「オォン!!!!」


Σ ζ(゚ー゚;ζ ビクッ


そして気持ちの入れ方が半端ではない。
「パイルダー・オン」の、オンの部分で唐突に立ち上がったかと思えば、拳を強く握り締めながら高らかに叫んだ。

11 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:08:47 ID:M3HbLNuM0


流石に驚いてしまい、手に持っていたドリンクを少しだけテーブル上にこぼしてしまった。
慌てておしぼりを開けていると、楽曲はクライマックスのサビへと突き進んでいく。


(#^ν^) 「飛ばせ!鉄拳!ロケットパンチ!」


(#^ν^) 「今だ!出すんだ!ブレストファイーヤァアー!」


ζ(゚ー゚;ζ


歌詞の必殺技に合わせてポーズを取りながら、全力で歌い上げていく。
私はといえば、ただただその迫力に呑まれないよう呆然と見つめる事しか出来なかった。

そんな私の心境など露ほども知らぬ様子で、彼は揚々と歌い上げた。


(#^ν^) 「マジンゴー!」


(#^ν^) 「マジンゴー!」


( ^ν^) 「マ・ジ・ン・ガー……」


(#^ν^) 「ゼェェェェェェェェェェェット!!!!」


ζ(゚ー゚;ζ


まさしく熱唱。
その後も、本家・水木一郎氏も真っ青なレベルで、彼は全力でマジンガーZのテーマを二番まで全力で歌い上げるのであった。

12 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:09:25 ID:M3HbLNuM0


◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


( ^ν^) 「フゥ……」


歌い終えた彼は満足気に息を吐くと、ドリンクを一息に飲み干す。
額にはうっすらと汗が浮かんでおり、間違いなく彼が全力で歌い上げていた証として輝いている。


ζ(゚ー゚;ζ 「す 凄かったね。意外だった……あと、上手かった」


正直な所、内心やや引きながらもねぎらいの言葉をかける。

しかしながら、実際、歌唱力はかなりのものであった。
高音のノビはすさまじく、ビブラートの安定感はプロ顔負けだといえる。

何より、気持ちの入れ方が半端では無かった。

マジンガーZの何が彼をそこまで全力にさせたのかだけは、微塵も分からなかったが。
彼の父上は普通にご存命であるので、断じて「亡き父との唯一の思い出」であるとかそういった類でない事だけは確かだ。

13 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:09:50 ID:M3HbLNuM0




分からない。






ここにきて彼の考えている事が何一つ分からない。
彼にとって、マジンガーZとは何なのだ。


( ^ν^) 「……ん?次、歌わねぇの」


ふと、彼が不思議そうに声を上げる。
気付けばモニターにはカラオケマシン特有の自主制作番組が流れ始めており、それは次なる楽曲予約が何もされていない事を意味していた。

14 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:10:17 ID:M3HbLNuM0


ζ(゚ー゚;ζ 「え、あ、あー……ごめん。曲入れ忘れてた」


( ^ν^) 「ん……グラス寄越して。同じのでいい?」


ζ(゚ー゚*ζ 「あ、うん。ありがと」


彼が、私のグラスを持って部屋を出て行く。

ふと我に返る。
彼のあまりにも意外過ぎる一面に思わず呆然としてしまったが、かといってこの時間を無下にしていい訳でもない。

今、この瞬間というのは楽しいデートを締めくくる、楽しい遊戯のひと時なのだ。
彼のあまりに意外すぎる一面にドン引いている場合では無いのだ。

この際、彼のマジンガー愛の秘密というのはどうでもいい事なのだと気持ちを強制的に切り替える。


気を取り直し、私は無難なポップソングを予約して歌い始めた。

15 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:10:58 ID:M3HbLNuM0


◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


( ^ν^) ガチャ


ζ(゚ー゚*ζ 「ありがと」


一人で気持ち良く歌っていると、ちょうど伴奏のタイミングを見計らったように彼が部屋へと戻ってきた。

不愛想だが、こういうさり気ない気遣いや優しさのようなものを持ち合わせているのが彼だ。


そのまま気持ちよく歌う。
なんとなく、彼が全力で歌っていたのに倣い、私も歌詞に合わせて身振り手振りで感情を表現する。

曲の内容は恋人へ明るく愛を伝えるもので、今の私の心境にも適していた。


( ^ν^) 「…………」


彼の耳が赤くなる。

なんとなく嬉しくなるのと同時に、私も気恥ずかしくなってしまった。

16 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:11:40 ID:M3HbLNuM0


ζ(^ー^*;ζ 「な、なんか、歌に合わせて伝えるのって恥ずかしいね」


照れ隠しで笑いつつ、熱くなってしまった顔を手で仰ぐ。
冷房は効いているというのに、まるで

 [予約:一曲目 マジンガーZ 水木一郎]
 https://open.spotify.com/track/7FAGiXXkRtLJepkotsiO2x?si=d3b6bd7c8a7c4214


待て。


何でこのタイミングでマジンガーZをもう一度予約した。


( ^ν^)


なんだその顔は。何を考えている。いや耳めっちゃ赤いな。彼という人間がマジで分からなくなってきた。


なんなのだ。


まさかマジンガーZで照れ隠しか。


分からん。マジで分からない。

17 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:12:08 ID:M3HbLNuM0

そんな事を考えていると、いつの間にか曲は終わっていた。
予約曲一覧に切り替わり、束の間の無音地獄が訪れる。

何も言う事が出来ない。
恐怖のような、不安のような、得体のしれない感情が私の胸の中を支配している。


( ^ν^)


彼がマイクを握りしめる。

今度は最初から立ち上がっている。準備万端といったところだろうか。

彼の心は既にパイルダー・オンに向かっている。
その証拠に、耳の赤みは完全に失われている。

何なんだ。

私とのときめきはマジンガーZで上書き保存できてしまうのか。
勘弁してくれ。

18 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:12:30 ID:M3HbLNuM0


そんな事を思っていると、再度、あの特徴的なイントロが流れ始めた。


(#^ν^) 「マジイイイイイイン ゴォ!!」


それを切り裂くように、先ほどとは違い唐突に彼が叫んだ。
歌詞は表示されていない。台詞部分というやつなのだろうか。

私は自分がどんな顔をしているのか分からなくなった。
どんな目で彼を見つめているのだろうか。

残念な物を見つめる目だろうか。
慈しみに満ちた慈悲深い瞳だろうか。

そのどちらもあり得るのだろうが、本当に、自分では分からなかった。

19 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:13:02 ID:M3HbLNuM0

◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


何を言うべきか分からないが、何かを言わない事には何も始まらない。

熱唱を終え、呼吸を整える彼に向け、私は意を決して口を開いた。


ζ(゚ー゚*ζ 「……マジンガーZ、そんなに好きなの?」


私は、自分の声にしっかりと優しさがこもっている事に深く安堵しつつ、彼に問いかけた。
彼は一口だけドリンクを飲むと、こちらを一瞥してから口を開く。


( ^ν^) 「え、別に」





なわけねぇだろ。お前マジンガーZ大好きだろ。

20 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:13:43 ID:M3HbLNuM0

なんでここにきて気取ってんだ。マジンガーZに思い入れの無い人間がマジンガーZのテーマをあれだけ全力で歌い上げられる訳ないだろ。

あんだけ情緒豊かに「マジンゴー!マジンゴー!」だの言ってんの水木一郎ぐらいだぞ。

お前傍から見れば完全にアニソン界の帝王とタメ張ってんだぞ。

なんでここにきて気取ってんだマジで。なんか変なベクトルで腹立ってきた。


少し、問い詰めるようになりつつも、彼を追及する。



ζ(゚ー゚*ζ 「いやいやいやどう見ても大好きじゃん!そんなに上手に歌えるのに別にってことないでしょ?」


( ^ν^) 「え、いや。ホント。別に好きじゃない」



殺すぞお前。なんで耳赤くなってんだ。

21 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:14:13 ID:M3HbLNuM0


「お前マジンガーの事好きなんだろ〜?」「べ、別に好きじゃねぇよ!」のノリなのか?ふざけてんのか?

浮気か?浮気なのか?マジンガーと浮気してんのか?

さっきから執拗に歌ってんのは匂わせの類なのか?

私が気付かないと思ってスリルでも楽しんでんのか?

なんなんだ?マジで。


( ^ν^) 「でッ……デレ。さっきから、近い」


は?

こちとら彼女やぞ。近くて何が悪い。

おいこっち見ろや。

目逸らすな。

22 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:14:42 ID:M3HbLNuM0


おいこら。マジンガーとの関係について洗いざらい吐くまでこのままやぞ。

分かっとんのかこら。


ζ(゚ー゚*ζ 「ね。正直に好きって言って」


顔を掴み、強制的に目を合わせる。


(;* ν )


見れば、耳どころではない。頬まで赤く染まっている。

そうか。そんなにマジンガーが好きなのか。


ζ(゚ー゚*ζ 「……ふぅーん」


手を離し、距離を置く。

23 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:15:04 ID:M3HbLNuM0

(;* ν ) 「……っ」


すると、彼は慌てて顔を逸らす。

その仕草は妙な色気を伴っており、はだけたシャツから除く鎖骨は汗で湿っていた。

普段であれば、いたずらに口づけの一つでもしたくなっていたところだが、今の私にとってはそれどころではない。


何故ならば、これはマジンガーによってもたらされた色気なのだ。

私ではない。マジンガーZによる色気なのだ。背徳の証なのだ。


なんとなく、心に穴が開いたような、奇妙な気分になってしまう。
私は、彼の

 [次の曲 マジンガーZ(English Ver.) 水木一郎]
 https://open.spotify.com/track/0Ova2LgWyTMdJdrGDnCFKS?si=fb50c1e94cbc461a


だから待て。


不意打ちをやめろ。

24 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:15:34 ID:M3HbLNuM0


このタイミングでまた同じ曲を予約……同じ曲……あれ……?

違う。


このマジンガーZ英語Verじゃねぇか!!


(;*^ν^)


待て。照れ顔で立ち上がるな。

待ってくれ。頼む。一旦イントロ止まってくれ。


(;*^ν^) 「Maziiiiiiiiiin Go!!!!!」


英語風の発音でイントロを切り裂くな。


( ^ν^) 「Castle of black iron to the stars heavens avove」

( ^ν^) 「Super robot go Mazinger Z go」


完璧じゃねぇか!!

25 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:16:06 ID:M3HbLNuM0

お前……発音もリズムも完璧じゃねぇか。お前。

やっぱマジンガーZ大好きだろ。なんで英語版までそんな完璧に歌えるんだよ。


( ^ν^) 「Super robo warrior fight for you and me」

( ^ν^) 「Valorous hero pilder」

(#^ν^) 「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNN!!!!!!!!!!!!!」


シンプルにうるせぇよ。


(#^ν^) 「POWERFUL!!!! ROCKET-PUNCH!!!! DESTROY OUR ENEMY!!!!」

(#^ν^) 「FIRE IT!!!! FINISH IT!!!!! BREAST OF FIREEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!」


英語で歌ってんのにそんだけ感情込められるの意味わかんねぇよ。母国語じゃねぇだろ。

26 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:16:32 ID:M3HbLNuM0


(#^ν^) 「Mazin GO!!!!」

(#^ν^) 「Mazin GO!!!!」


( ^ν^) 「MA ZI N GAAAAAAAAA」


(#゚ν゚) 「ZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEDDDD!!!!!!!!!!!!!!!!!」


目怖ッ


なんかもう、私何してんだろう。

もはや自分の五感が分からない。私が分からない。
私、立ってるんだっけ。座ってるんだっけ。パイルダー・オンしてるんだっけ。


何も分からなくなってきた。


段々、意識が遠のいて――


(; ^ν^) 「……デレ? デレ!?」


あ――ニュッくんがなんか――言ってるような――。

27 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:16:54 ID:M3HbLNuM0

◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇ 〇 ◇


ζ(゚ー゚*ζ 「……あれ」


ふと、気がついた時、私は横になっていた。


(; ^ν^) 「あ……良かった」


彼が泣きそうな顔で私の顔を覗き込んでいる。
ここでようやく、私は彼に膝枕をされているのだと気付く事ができた。


ζ(゚ー゚*ζ 「どうしたの、ニュッくん……なんで私、膝枕なんか」


(; ^ν^) 「いや……」


……あぁ、そうか。思い出した。


ζ(゚ー゚*ζ 「そっか。私、ニュッくんのマジンガーZ聞いてたらアイデンティティを喪失して……」


(; ^ν^) 「どういう意味」

28 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:17:15 ID:M3HbLNuM0


私は、彼のマジンガー愛への嫉妬のあまり意識を手放したのだ。
何言ってるんだ私。だが事実だ。最悪だ。


( ^ν^) 「……あのさ。本当はマジンガーZ好きなんだ」


ζ(゚ー゚*ζ 「だろうね」


重々しく切り出す彼の言葉に、何の意外性も無かった事が逆に意外だった。


( ^ν^) 「親父がカーステレオで良く流してて、それがきっかけで――」


彼が言うには、父親の影響で子供の頃から繰り返し聴いていたのがマジンガーZであり、唯一まともに歌える曲であったらしい。


( ^ν^) 「ちょっと歌うだけならバレないと思ったんだけど……やりすぎた」


それはそうだ。
そもそもデートで一曲目にマジンガーZを熱唱する時点でただ事ではないし、その後も平然としているのは明らかにやりすぎだった。

29 ◆wa3Sl.9/7A:2021/10/17(日) 22:17:49 ID:M3HbLNuM0


ζ(゚ー゚*ζ 「別に、隠さなくてよかったのに」


偽らざる本音である。
包み隠さず最初の時点で明かしてくれたのならば、ここまで得体のしれない恐怖を味わう事も無かったのだ。
それだけに、自ずと私の声にも非難の色が強くなってしまう。


ζ(゚ー゚*ζ 「どんなニュッくんでも好きだよ」


( ^ν^) 「………………」


彼の耳が赤くなる。

悔しい事に、私はどんな彼でも大好きなんだなと、改めて思った。






( ^ν^) 「……フリータイム終わるまでずっとマジンガーZ歌ってていい?」


やっぱちょっと嫌いかもしれない。




終わり

30名無しさん:2021/10/17(日) 22:21:12 ID:Q0NZe1To0
終わりかたが好き


31名無しさん:2021/10/17(日) 22:48:09 ID:Fqy6H0GQ0

不思議なノリだ

32名無しさん:2021/10/17(日) 23:32:41 ID:6UP0Dgrc0

好きです

33名無しさん:2021/10/18(月) 00:34:44 ID:4B2S2fZ.0
おつです

34名無しさん:2021/10/18(月) 02:07:02 ID:2yGcsmdI0
>>7まで丁重にニュッデレが描かれてたのにマジンガーZで一気にかっさらったな乙
英語バージョンがあると初めて知ったわ

35名無しさん:2021/10/18(月) 13:47:42 ID:C0RjIC2A0

くっっっそ笑ったわwwww

36名無しさん:2021/10/18(月) 18:13:16 ID:u5JLMNKI0

めちゃくちゃ好き

37名無しさん:2021/10/19(火) 17:43:21 ID:gY05NrQY0
想像してたのと違って笑った
おつおつ

38名無しさん:2021/10/20(水) 23:16:46 ID:zrBkn50k0
駄目だ後半笑いっぱなしだったわ
そして英語バージョンというのを初めて知ったわ。妙に発音も良いし

39名無しさん:2021/10/21(木) 22:50:15 ID:iOe4T2Z60
前半でニュッくんにムカついてたのに何だこれ
何を見せられたんだ

40名無しさん:2021/10/27(水) 09:16:51 ID:5id2WlAI0
オチww
これこそニュッくんだ

41名無しさん:2021/10/27(水) 11:20:51 ID:1SFFAmU60
勢いに笑った乙


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