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それは砕けし無貌の太陽のようです
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◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:35:25 ID:jePDeZ3M0
※
苦しい時はデパート、か。
履くのに手間を要するローマ人のサンダルを履いて俺は、街へ出る。
行き先は決まっている。かつて照出と行った、あのデパート。デパートの、その地下。
何故なら地下は、デパートの王様はだから。
大量の菓子を、洋の東西を問わずに大量の菓子を買い込んで、分け合って、食べる。
そうすれば、苦しいは半分に、うれしいは、二倍になるから。
会いたかった。
あんな真似をしでかして、いまさらどんな顔で会えばいいのか。会って何を話すつもりなのか。
何も決めてはいなかった。それでも会わなければならないと――いや、会いたいと思った。
照出に――デレに、会いたかった。
デレに会いたかった。
ローマ人のサンダルの微妙に重く歩きにくいそれを引きずって、地下の空間を練り歩く。
右を見ても左を見ても、デレの奴が喜んでほうばりそうなものばかり並んでいる。
片端から買っていく。ひとつひとつはそこまででも、重なると結構な重量となって
引きこもりの軟な腕をいじめ始める。しかし今は、その痛みすら不快でなかった。
「……あれは」
行列が、目についた。いつかも目にした行列。
店によって、職人によって味も出来もまるで異なるというシュークリームの。
『待ってる時間は、わくわくでいっぱいにする時間なんですから』。デレの言葉が思い起こされる。
女性ばかりが並ぶその行列の最後尾に、俺はそっと潜りこむ。
すぐさま後ろについた女性の視線に多少の肩身の狭さを覚えながら、それでも俺はそのまま待った。
ゆっくりと、ほんのわずかずつ消化されていく列に歩並みを合わせ、これからを思った。
「これからにわくわくしちゃう、か……」
これからのこと、先のこと。俺は、わくわくしているのだろうか。よく判らない。
そう言われればそのような気がするし、違うと言われれば違う気もする。不安は、あった。
未知の未来、いついかなる形で今が崩れてしまうか知れない未来への恐れは、耐え難く俺の裡に巣食っていた。
経験を伴う、恐れが。
デレはこのまま、叔父のために結婚するだろう。それはおそらく、変えようがない。
照出麗奈という性質が、叔父を見捨てるという選択肢を許すはずがないのだから。
それは、苦しいことだった。俺にとってこれ以上ないくらい苦しいことだと、俺はもう、自覚していた。
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