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それは砕けし無貌の太陽のようです

69 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:34:59 ID:jePDeZ3M0
「……先生」

微笑むそれが。

「あいつ、言ってたんだよ……」

『そうだね。お前の書くものは、ぼくのものとは異なる可能性に満ちているよ』

怒ったそれが。

「ぼくの本を読んであいつ、『私に宛てた本だと思った』って、そう言ったんだ」

『悲しむことじゃないさ。それはお前の宝なんだから。ぼくでは届かない人へと届けられる、お前だけが持つ個性なんだから。だからね――』

喜ぶそれが。

「そんなふうに考えたこと、ぼくにはなかった。ずっと目を逸してきたから。見ないように、してきたから。だから――」

『お前がお前の木を愛するように、お前はお前を愛してあげなくっちゃいけないよ』

泣いたそれが。

「あんなふうに泣いてくれるなんて、考えたことも、なかったんだよ……」

『お前にしか癒してあげられない人々が、お前の小説を待っているんだから――』

感動する、それが。

「ねえ先生……」

読者<愛してくれる人>の、存在が。

「ぼくはぼくの小説を書いて、いいのかな」

『おまえはわるくないよ――――』

顔を上げた。先生の姿は、もう、どこにもなかった。
空は晴れ、外にはすでに、太陽が昇っていた。


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