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それは砕けし無貌の太陽のようです
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◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:34:34 ID:jePDeZ3M0
……眠りを妨げる異音。無機質に繰り返される、それ。
携帯の、着信音。まどろみかけていた頭をがんがんと、強く打ち付けてくる。
無性に、腹が立った。それは、俺の所有物から流れるメロディではなかった。
部屋の片隅に、女物のバッグが放置されていた。照出のものだ。音は、あの中から響き渡っていた。
立ち上がる。ふらつく。ふらつきながら、近寄る。
近寄る毎に音は大きく、やかましくなる。血が、沸騰しそうになる。つかむ。
逆さにして、振り回す。裡にしまわれていたものがばらばらと、乱雑に散らばる。
ハンカチ、化粧品、絆創膏、飴の包み、他にも様々な小物がばらばらと、ばさばさと散らばる。
そしてがつんと一際固い音を立てて、規則的な振動を繰り返す携帯がその姿を現す。
殴打するこの音を止めなければならない。その一心で俺は、犯人に向かって手を伸ばした――
が、その手が止まった。ばらまかれた照出の私物の、そのひとつに意識を奪われて。
それは、一冊の文庫本。見覚えのある、その表紙。事ある毎に、照出が事ある毎に名を挙げていた、一編の小説。
『太陽を見上げた狼』。
手が伸びていた。自然と。自然とそれを、つかんでいた。
つかんで、そのすこしひしゃげてしまっている表紙を見つめた。開いた。
ページをめくっていった。どのページにも、痕が残っていた。
皺として、指紋として、読んだ者の感情がそこに残っていた。
顔が、見えた。
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