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それは砕けし無貌の太陽のようです

60 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:30:55 ID:jePDeZ3M0
               ※

「先生、しっかりして先生! 先生、先生!!」

呼吸が、苦しかった。
苦しくて、酸素を求めて、空気を送り込む経路を作ろうとして首を掻きむしっていた。
苦しみはまるで和らぎなどせず、少しでも酸素のある場所を求めて転がった。
ごつごつと付近のものにぶつかったが、不思議と痛みはなかった。
ただただ酸素が足りなかった。呼吸ができなかった。苦しかった。

身体を押さえられた。暴れた。酸素が欲しかった。酸素。奪うつもりかと思った。
独り占めするのかと。俺に渡さないつもりかと。認められなかった。奪うつもりなら、それは敵だといえた。
俺から酸素を奪う、敵だと言えた。暴れた。敵を引き剥がして、酸素を得るために暴れた。
暴れるほど起動は狭く、呼吸は苦しくなっていった。敵が、ひときわ強く俺を、拘束した。

「先生……」

声が聞こえた。遠い場所から。懐かしい、ずいぶんと懐かしい声が。
呼吸が聞こえた。鼓動を感じた。それに合わせて、肺を動かした。
少しずつ、少しずつ、酸素が胸の奥へと入っていった。

月が出ていた。差し込んだ月明かり。
『俺の木』が、その影を部屋の奥へと伸ばしていた。
俺に抱きついている者の影が、部屋の奥へと伸びていた。
すんすんと鼻を鳴らしてそいつは、俺の影に覆い被さっていた。

誰だ。知ってる。よく知っている。
俺はこいつを知っていて、それで、何かを言うつもりだった。
言いたかった。でも、なんだったっけ。俺はこいつに、何を言おうとしていたんだっけ。

……ああそうだ、そうだった。


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