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それは砕けし無貌の太陽のようです
6
:
◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:03:22 ID:jePDeZ3M0
「それに触るな!」
突き飛ばす。女を。引き剥がして、取り返す。
『俺の木』。勢い余って、鉢が傾く。内側の土が転がる。
塵と埃の堆積したバルコニーの上に、少量散らばる。塵と埃と土が重なる。
心の中で舌打ちしつつ、『俺の木』を抱えて部屋へと入る。
「雨が」
女がつぶやいた。
「雨が降り始めたから、取り込もうと思って」
言われて、空を見る。女の言う通り空には重く黒い雲がぐろぐろと蠢き、
大きめの雨粒をばちばちと眼下の地上へと打ち付け始めていた。
予報では、もう一、二時間後のはずだったが。
確かめる。軽く湿気を帯びてはいるものの、『俺の木』に濡れた様子はない。
葉だけではなく幹も、根にも異常はなさそうだった。とはいえこいつは繊細だ。
明日はバルコニーに出さないほうがいいかもしれない。
バルコニーから、笑い声が聞こえた。
「あ、ごめんなさい」
言いながらしかし、その声には喜色が混じっており。
「『これはぼくの木。ぼくの木なんだ』」
強く雨に打たれながらも、露と介さずうれしそうに。
「『太陽を見上げた狼』の、風謡いのフラギみたいだなぁなんて思っちゃって……えへへ」
俺の書いたものを例と挙げて、如何にも楽しそうに。笑う。笑う、顔。
見えてはいない。見なくとも判る。しかし……しかし、僅かに視線を上げればそこに、
想像ではない確かな表情が実在している。認識できる。僅かに視線を上げれば。上げてさえしまえば。
俺は――。
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