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それは砕けし無貌の太陽のようです

56 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:28:49 ID:jePDeZ3M0


『そうかい、ぼくの本を読んでくれたんだね』


先生と出会ったのは、そうして死ぬ方法ばかりを考えていた時のことだった。
剥げた看板を掲げた古書店。その古書店の中に積まれた、簡素な造りの安っぽい本。
それは明らかに手作りで、市販されているものではないと一目で判った。

ぼくはそれを、何の気無しに持ち帰った。何かを期待していたわけじゃない。
ただ無料だったから、持っていっていいと言われたから、
そのまま持って帰っただけ……ただそれだけのことに過ぎなかった。

だから本腰を入れて読むつもりもなかったし、ただぱらぱらとめくってそれでおしまい、
死ぬことと死ぬことを考える間のちょっとした休憩程度に消費する、
それだけのつもりでぼくは、その安っぽい本をめくった。

泣いていた。訳も判らず、泣いていた。物語をきちんと読み解けた訳ではない。
難解な語句、まだ習っていない漢字も多用された文章は決して読みやすいものではなく、
おそらくは全体の五割も理解できていなかったのではないかと思う。

それでもぼくは、魅了された。
そこに内在する“なにか”を感じ取り、狭く閉じた世界が大きく広げられたのを感じた。
そして、ただただそして――赦せる気が、したのだ。

ぼくは直感した。これはぼくの為に書かれた本だと。真剣にそう感じ、そう信じた。
だから、会いたいと思った。これを書いた人に、その人に会わなければならないと思った。
何が何でもそうしなければならないと思った。こんなに強い衝動、生まれて初めてのことだった。

当時すでにもうろくしていた古書店の店主から何とか詳細を聞き出してぼくは、
一目散にその人に会いに行った。多大な期待と、一抹の不安を抱えながら。どんな人だろう。
受け入れてくれるだろうか。他にも書いているのだろうか。嫌われたりしないか。
きっと素敵な人に違いない。きっと素敵な人に違いない。そうに、違いない。


そしてぼくは出会った。その人に。先生に。ぼくの――太陽に。


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