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それは砕けし無貌の太陽のようです

44 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:22:52 ID:jePDeZ3M0
「先生、これ、受け取ってもらえますか?」

そう言って彼女は、ずっと持ち歩いていた袋を渡してくる。

「こんなものしか思い浮かばなくって、恥ずかしいんですけど……」

開けてと雰囲気で催促する彼女の声に応え、袋の裡に包装されたそれを開く。

「でも、それも私なんです。足りない所まで含めて、私だから」

そこに秘されていたのは、いつかのデパートで見かけたサンダル――
あの、ローマ人のサンダルだった。かわいいと聞かれ適当に相槌を打った、あの時の。

「先生、私はここにいますよ」

ローマ人のサンダルを抱えた俺に、彼女が笑う。

「先生に救われて私、ここに生きてます」

笑う彼女を、俺は見つめる。
俺の世界で唯一、同胞という意識を思い出させてくれるその顔を。
親愛を抱かせる微笑みが気恥ずかしそうに、いたずらっ子のそれへと変わった。

「……プレゼント、びっくりしました?」

……正直に言えば、予測はしていた。もうずっと前から欲しいものについて聞かれていたし、
これだけ不自然に大きな袋を持ち歩るかれては、意識しないほうが不自然というものだった。
中身こそ想定外ではあったが、そういうつもりなのだろうとは、予測していた。だが――。

「……ああ、びっくりした」

「ふふ、やった」

期待に溢れた目が、喜びに変わる。構わないだろう、小さなうそくらい。この顔を見るためならば。
林の中に、風が吹き込んだ。草葉が揺れ、自然の音色が一帯に奏でられる。清新な空気に抱えた重みが運ばれる。
照出が、一本の木を見ていた。じっと、不思議そうな顔をして。
その様子を見つめていた俺の視線に気づいて照出は、少し困ったように口を開いた。

「なんだかあの木、私達にささやきかけてたみたいで。……えへへ、気のせいですね、きっと」

俺は何も言わなかった。そうかもしれないし、そうでないかもしれないと思ったから。
どちらであってもよいと、そう思えた。そしてそれから、こんなことを思っていた。
いつか……いつか一緒に、並んでやってもいいかもしれない。
あの行列のシュークリームを、いつかこいつと、並んでやってもいいかもしれない。
待ってる時間とやらを、共有してやっても。

そんなことを俺は、風吹く緑の演奏に包まれながら思っていた――。


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