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それは砕けし無貌の太陽のようです
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:
◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:21:59 ID:jePDeZ3M0
場違いな電子音が、清閑にそよぐ枝葉を揺らした。
照出が、バッグからそれを取り出した。携帯。
密室から掬い出され、それが放つけたたましさは更に巨大なものとなる。
人と人とを無為にも有為にも結ぶつけるその文明の利器を、照出は見つめていた。
俺は何も言わなかった。何も言わず、照出の“顔”を見つめた。見つめて、照出の行動を、待った。
照出が、振動するそれに触れた。無機質なメロディが、止まった。
「あのね、先生。私の家、父子家庭だったんです」
照出麗奈は、語りだす。とつとつと、己が過去を振り返りながら。
「兄弟もいないからお父さんと二人切りで。
でも、さみしいと思ったことはなかったんですよ。お父さん、やさしかったから」
それは、照出麗奈という女の起源。彼女が辿った生の足跡。
「もちろん、大変な思いをする時もたくさんありましたよ。
でもね、くるしい時はデパートなんです。お父さんが、教えてくれたんです。
二人で甘いお菓子をいっぱいに分け合えば、つらいことは半分で、うれしい気持ちは二倍になるって。
そうして分け合える人がいれば、どんな“くるしい”も乗り越えられるって」
何を愛し、何に頼ってきたか。
「私、お父さん、大好きだったんです。うそじゃないんです。本当に、そう思ってたんですよ」
何と出会い、何と交わり、何と生きてきたか。
「そのころ私は大学生で、ちょうど浮かれてる真っ只中で、
お父さんとも離れて一人暮らしを満喫していたんです。
勉強もしてはいたけど、それ以上に遊んで、食べて、お仕事の真似っ子して」
何を抱えているか。
「その日ね、お父さんから電話があったんです。数カ月ぶりだったと思います。
でも私、友達との約束を優先したんです。明日掛け直せばいいやって、電話、取らなかったんです」
何を、痛みとしているか。
「お父さん、死んじゃいました。その日の夜に。中毒死だったそうです。違法ドラッグの、薬物中毒」
何を、嫌悪しているか。
「周りは、私のことを慰めてくれました。お父さんを悪く言って、私は悪くないって。でも――」
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