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それは砕けし無貌の太陽のようです
35
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◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:18:29 ID:jePDeZ3M0
資料が足りないと言っていたのだ。
新作を書くのに必要な資料が足りないと。物語の中身は知っていた。
まだ不確定な構想段階の話を聞くのはお前の人生において比類なき歓びであり、
優越を伴う特権であったのだから。
お前は知っていた。だからお前は向かったのだ。
立ち入りを禁止された子どもたちの遊び場、稼働を停止して久しいその廃工場へ。
もらったばかりのカメラを携えて。
初めて足を踏み入れた廃工場は、お前の好奇心を刺激するに充分な場所だった。
お前ははしゃいだ。はしゃいで興奮して、どんどんと工場の奥へと入り込んでいった。
打ち捨てられたこの工場にはかつてここで使用されていた資材がそのままに残されており、
そのくすんだ鉄の塊のどれもこれもがお前には宝物のように見えていた。
次々とカメラに収め、時間を忘れてお前は、この非日常の異世界に没頭した。
そしてふと、お前は思ったんだ。写真に収めるだけでなく、持っていってしまえばいいのではないかと。
これらの資材の、どれか持ち運べるものを持って帰れば先生は、きっと喜んでくれるに違いない。
役に立てるに違いない。お前は、愚かにもそう考えたんだ。
お前には友達がいなかった。
そのためお前は、ここのどこなら安全で、何をすると危険なのかも知らなかった。
腐食した鉄が思った以上に容易く折れてしまうことなど、お前は知らなかった。
夜になっても帰らぬお前を心配した母が、先生にその捜索を手伝ってもらっていたことをお前は知らなかった。
お前は、何も、知らなかった。
今が容易く崩れ去ってしまうだなんて、そんなことがあるなんて、知らなかった。
『役に立ちたかったんだ』
ああ。
『ぼくは、役に立ちたかったんだよ』
ああ。
『本当に、それだけだったんだよ』
ああ――。
『わかっているよ』
違う――。
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