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それは砕けし無貌の太陽のようです
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:
◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:17:45 ID:jePDeZ3M0
古い、ロシアの映画だった。ジャンルはサイエンス・フィクション。
当時としては画期的な映像表現を駆使した注目作であるらしかったが、
まだ幼い俺にとって哲学的な内容を含むその映画は先生の危惧した通りに難解で、同時に退屈でもあった。
眠気にも、何度も襲われかけた。それでも俺が眠らずに最後まで見通せたのは、隣に先生がいたから。
判らないこと、むつかしいこと。秘められた意味、感情、科学に哲学に、そして信仰。
暗がりの館内で先生は、逐次耳打って解説してくれた。
平易な言葉でつむがれるその唄うような言葉たちは魔法のように不明を明へと解き明かし、
閉じたまぶたを開き、塞がれた耳からやさしく栓を抜き取ってくれた。
見えなかったものが見えていく快感。先生はそれを、俺にもたらしてくれた。
先生はいつだって、それを俺にもたらしてくれた。
危惧していた通り、スクリーン上の役者たちの顔が、俺には認識できなかった。
砕けた頭蓋に開いた黒穴。見続けていれば気分を害し、引いては昏倒するかもしれない。
目を逸らさざるを得なかった。幸いなことに、こいつは俺の小説が原作。話の筋は理解している。
音だけでいい。音だけでも、理解はむつかしくない。
この話の筋は、実に単純かつありきたりな構成で組まれているのだから。
青空と痛みが伴う未成年の青春群像劇を書いて欲しい。
そのような依頼を受けて執筆したのが、この作品だ。
当たり前に男女が出会い、当たり前に苦しみ、当たり前に別れの痛みを経て、当たり前に成長する。
そんな余りにありふれた、かつて何千何億と産み捨てられてきたくだらない物語の類型が、この作品の主軸だ。
「なんで」、「どうして」。無理解と攻撃性に満ちた若者たちが私は傷ついたと訴え叫ぶ。
ああだが傷ついたのは俺だけじゃない。お前だって俺を傷つけたじゃないか。刃物となった言葉の応酬。
そこに理性はない。理性なき所に解決はなく、自己に依って越えられぬ壁にぶつかった若者は
遍く真理を悟った賢者を頼り、その手解きを受けるものと決まっている。……そう、そうだ。
過ちに消沈した未熟な主人公に、その死を定められし導き手である青年が、言うのだ――。
『おまえはわるくないよ』
『役に立ちたかったんだ』
知っている。
『ぼくは、役に立ちたかったんだよ』
知っている。
『本当に、それだけだったんだよ』
知っている。言わなくても、知っている。
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