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それは砕けし無貌の太陽のようです

33 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:17:10 ID:jePDeZ3M0
               ※

「楽しみですね、先生!」

受付でスタンプを押印された半券を上下に振り回して照出は、興奮気味に繰り返した。
楽しみですね、先生。新作映画のポスターが所狭しと広告されている長く薄暗い廊下を、並んで歩く。
その暗闇の片隅で俺は、人影を見つけた。まだまだあどけなさが表に残った、笑顔の少年。
その少年が、隣に立つ青年を見上げ、両手を上下に振り回す。

『楽しみだね、先生!』

『お前にはむつかしいかもしれないよ』

『へいちゃらさ!』

充満する生命力を抑えられないといった様子で少年は、暗がりの廊下を走り出す。
歳にも身にも中身に置いて不相応に生意気で、自分を大人と勘違いした未熟なクソガキ。
しかし青年は無責任な自由に酔いしれる少年を前にしても、微笑んでその動向を見守る。
そう、青年は判っていたのだ。少年の気取った応えが、自身の小説に書かれた一節を真似たものであると。
故に青年は微笑んでいた。その無軌道をまるで、愛らしさとでも捉えているかのように。


「先生、この列ですよ!」

平日の館内に、観客は殆どいなかった。
広く空席が目立つその場所で、俺と照出は隣り合って座る。
スクリーンには洋の東西を問わぬ映画の宣伝が次々と流れ行き、そのひとつひとつに照出は反応を示していた。
このシリーズ新しいの出すんですね。あ、私これ知ってます。これ気になります、私観に来たいな。
ね、先生はどう思いますか。先生、先生、先生――。


『先生! もう始まるよ!』


天井の照明が落ちる。
暗闇の中でその一点に集中できるよう、ワイドサイズのスクリーンが強く光を放つ。
壁内に埋め込まれるように設置された幾多のスピーカーから、
日常ではまず耳にしない大ボリュームの音楽が流し出される。
これは非日常である、特別な時間であると、この場自体が主張する。

幕が開ける。


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