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それは砕けし無貌の太陽のようです

31 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:16:13 ID:jePDeZ3M0
「そっち」

『俺の木』の鉢の、片一方をつかみながら。

「そっち、持て」

「え、でも――」

「いいから」

顔を背けて、再び言う。

「いいから」

「……はい!」

生気に輝くその返事。その声に合わせ、手に力を込める。
さしたる重量もない『俺の木』を、二人で俺達は運び入れる。
部屋の中の定位置へとそっと下ろし、今一度確かめる。『俺の木』。問題は、どこにも見当たらなかった。

「休みじゃ、なかったのか」

服も髪もぐしゃぐしゃに濡らした照出にタオルを渡し、問い質す。
そうだ、休みのはずじゃなかったのか。外せない用事とやらで叔父の下へ向かったと、
そう聞いていたから、俺は――。

「えーと……はい、そのつもりだったんですけど」

ありがとうございますと言ってタオルを受け取った照出はしかし、
それを使うのもそこそこに、言葉を探り出す方に意識を割いている様子で。

「向こうに行く途中に、雲行きの怪しいのに気づいたんです。
 そしたら先生が大事にしてる木のこと思い出して」

口を挟まず、照出の言葉に耳を傾ける。

「先生のことだから大丈夫だとは思ったんですけど、
 でも、どうしても気にかかっちゃって……」

その言葉から、照出という女の本性を探る。

「えへへ、ユーターンして正解でした!」

言って、照出は笑った。濡れた全身はそのままに、そんな些事など気にもせずに。
とても、とても、喜ばしげに。


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