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それは砕けし無貌の太陽のようです

29 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:15:11 ID:jePDeZ3M0
苛立っていた。酷く苛立っていた。
『俺の木』をしまい忘れた理由を探して、そのひとつひとつに怒りをぶつけていた。
なぜ、今日に限って雨が降るのか。なぜ、授賞式の日取りを今日に決めたのか。
そもそもなぜ賞を与えようなどと考えたのか。選者はいったい誰なのか。
なぜあんなものが売れたのか。大衆はなぜ愚かなのか。それから、それから――。

あいつはなぜ、休みを取ったのか。そして――。
俺は、なぜ――。


『それが、お前の木なんだね――』

声が、聞こえた。すぐ側から。懐かしく、やさしいその声。

『そうかい、それなら――』

その人は、俺の隣に座っていた。隣に座って、語りかけていた。

『お前はその子を、愛してあげなくっちゃいけないよ――』

俺とその人との間に挟まって座る、その少年に。そいつは、幼き時代のそれは――。

『うん! ぼく、絶対に大事にする!』

太陽を、見上げ――――。


「ちょっとお客さん、勘弁してくださいよ!」

運転手の声で、正気にもどる。どうやら俺は、えずいていた、らしい。
隣を見る。そこには誰もいなかった。残ってなど、いはしなかった。何の、痕跡も。


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