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それは砕けし無貌の太陽のようです
26
:
◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:13:04 ID:jePDeZ3M0
まるで潜める様子のない、平然とした声。
キツネの、“向こう側”の人間の名を口にしているというのに。
人気のない厠とはいえ、不用心に過ぎる。
「俺もよ、紹介人として顔が立たない訳よ、あんま勝手されると。な、判る?」
「買うも買わないも自由って約束です」
「建前だよんなもん」
ごつごつとした筋肉質の腕は俺の肩から首を圧迫し、それはもはや苦痛の域に達していた。
しかし逃げ出そうにも、その拘束はきつく固い。適当な理由をつけてどうにかこの場から退散しなければ――
そう思った矢先、ジョルジュが懐から何かを取り出し、それを――それを、俺の眼前へと、晒した。
「ほらよ、後払いで構わねぇから」
耳元でジョルジュがささやく。それは、間違いなかった。
間違いなく、二週間前に俺が手に入れそびれた、物を書くための特効薬。のどの奥が、鳴った。
照出と出会ってから――いや、そのもうずっと以前から俺は、書けていない。
書くことだけが自己の存在を許容する、その唯一の方法であるというのに。
書かなければ、ならないというのに。
そうだ。実に単純明快な論理だ。使えば、書ける。これを、使えば。
「遠慮すんなよ。俺とお前の仲だろ?」
ジョルジュが目の前でそれを、左右に振った。
透明のビニールに閉じ込められた内容の粉末が、誘うように波を打つ。躊躇う理由などなかった。
ここには誰も居ない。法の犬である警察も、都合で掌を返す大衆も、それに……
自分勝手な理屈で商談をご破産にしてしまう女も。受け取らぬ道理はなかった。書くためならば。
そうだ、これが自然だ。当たり前であり、この二週間が異常だったのだ。
平常へと、もどるだけだ。だから、受け取れ。そうだ、そのまま、わずかにてのひらを開き、
指の先に触れたそれを、そう、つかめば、つかんでしまえば――。
『先生!』
「……へぇ」
気づけば、突き飛ばしていた。ジョルジュを。訳も、判らぬまま。
「さすがは売れっ子様だ。こんな落ち目と関わりたくはねぇってか」
突き飛ばされたジョルジュは壁を背にして座り込んだ姿勢のまま、俺を見上げていた。
下方から向けられる視線。目を背ける。
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