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それは砕けし無貌の太陽のようです

13 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:06:59 ID:jePDeZ3M0
長い、吐息。むわりと湿度の高い店内に、灰の煙が細く伸びる。
それは吹き出された場所から離れれば離れるほど急速に拡散し、
勢いを失って形状も失い、やがては色も失い店内の湿度の一部と消えていった。
それは、実際以上に、長い“溜め”に感じられた。そしてキツネが、言葉をつなぐ。

「あんたは公共の正義と企業人としての責務、どちらを選ぶおつもりで?」

「私は……」

張り詰めた、声。

「私はあなたたちを、許しません……!」

「……ああそうか、思い出しましたわ」

キツネが、笑う。
くっくっくっと独特な、押し潰したのどから空気だけを漏らすような笑い方で。
口の端を釣り上げキツネが、屹立する照出を見上げた。

「以前にお会いした時は、喪服姿でしたな」

照出の指が、携帯に触れた。「事件ですか、事故ですか、なにがありましたか」。
携帯から、応答者の声が響く。本当に、通報した。トラが飛びかかりかけた。
キツネがそれを留めた。電話の向こうから、呼びかけが続く。

「どうしました、もしもし、どうしました」。照出の胸が、上下していた。
呼吸が乱れているのだ。照出は立ち尽くして、固まっていた。
その様子を俺は、僅かに、僅かに視線を上げて、見る。
のどもとを、首を、顎を越えて、口元。 照出が、唇を震わせた。真一文字に結ばれていた口が、開いた。

「……すみません、間違えました」

静寂。キツネが煙草を吸う。じじじじと、先端で火の粉が爆ぜる。
その火が未だ消滅し切る前に、キツネは煙草を灰皿に押し付けた。

「ま、このまま商売という空気でもありませんし、今日の所は退散しますよ。
 信用第一が私らのモットーですからな」

さてトラよ、ずらかるかね。そう言ってキツネは、のそりと椅子から立ち上がる。
……待て、おい。お前、本当に帰るつもりか。俺はまだ、ブツを受け取っていないんだぞ。
アレがないと、俺は――おい、キツネ、おい。

「それでは先生、機会があればまた。小説、次は楽しみにしてますよ」

念ずる声は力にならず、夜闇の商売人であるキツネとトラは、
売品である薬を携え消えていった。彼らの領分である、乾いた夜へと。


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