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それは砕けし無貌の太陽のようです

12 ◆HQdQA3Ajro:2021/10/16(土) 00:06:32 ID:jePDeZ3M0
がたりりと、吹き飛ぶように椅子が倒れた。キツネの隣で、影に徹する巨躯が立つ。

「とぉーら、やめぇ」

「しかしキツネの兄貴」

兄貴分に諌められてなお、トラは敵意を剥き出しにしていた。
先程までの紳士な様子は影もなく、はちきれそうな背広の裡から
その生業に相応しい暴力の気配が放射されている。
トラという異名の通り、その姿からは肉食獣の攻撃性が余さず発揮されていた。
しかしキツネはまるで変わらず、自分のペースを崩さない。

「言ったろう、何でも力で解決するもんじゃねえって。それにほら、よく見てみ。
 気丈に振る舞おうとしてその実、おっかなくてしょうがないってこの姿。震えがな、止まってくれねえのさ。
 目尻には涙なんか溜めちまって、いじらしいと思わねえか?」

「はあ……」

トラはそれでも納得いかなかったのか、威圧した空気を抑えることなく女にぶつけている。
女は女で逃げることなく、握りしめた携帯へ銃口を突きつけるかのように伸ばした人差し指を構えている。
その手、その指先は確かにキツネの言う通り緊張に微震していたものの、
その屹立とした佇まいからはか弱さなど微塵も感じられはしない。

そこには、確たる意志が存在していた。
俺はといえば……俺はといえば未だこの状況に追いつけず、
ただ傍観者の如く成り行きを漠と見続けることしかできずにいた。

「なあお嬢さん、ひとつ構わんかね」

照出は答えない。

「くっくっ、嫌われちまったもんだ。まあいいさ、それじゃこいつは小汚いおっさんの寂しい独り言だがね」

あくまでも平生通りに、キツネは煙草を吹かす。

「どうもあんたは、私のことを稼業も含めてご存知のようだ。
 とくれば、下手な誤魔化しは無意味でしょうな」

安閑と、急くことなく、己のリズムで話を続ける。

「ま、お察しの通りですわ。
 私らはイケナイ薬の売人で、今日は先生に呼ばれてお品物を届けに来たってわけです。
 ですんで、通報されたらそりゃ、ちっとばかし具合が悪い。だがね――」

キツネが俺と照出へ、ゆるりと交互に首を振った。

「見たとこあんた、先生の新しい担当でしょう。判りますともそれくらい。
 あんたのことは知らずとも、先生とは“長い”ですからな。
 可能性をひとつひとつ潰していけば、それくらいは容易に察せるもんです。
 で、それでですがねお嬢さん――」


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